説明

ピコプラチンの改良された合成

抗がん薬であるピコプラチンの改良された合成方法が提供される。テトラクロロ白金酸カリウムなどのテトラクロロ白金酸塩(TCP)と2−ピコリンとの、溶媒中での縮合が、空気中などの酸素の存在により触媒され、そしてさらに、ヘキサクロロ白金酸カリウムなどのPt+4錯体の存在により触媒される。この酸素は、スパージングによって、必要に応じて高剪断混合を用いて、不活性ガスのヘッドスペース下で、この反応混合物に導入され得る。生成物であるトリクロロピコリン白金酸塩(TCPP)は、ピコプラチンの合成における重要な中間体であり、TCPPとアンモニアとの反応により、ピコプラチンに転換され得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2009年6月12日に出願された、米国出願番号61/186,526の優先権を主張する。米国出願番号61/186,526は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(背景)
ピコプラチン(picoplatin)は、種々の型の悪性疾患(より早期の有機白金薬物(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン)に対する耐性をつけている悪性疾患を含む)の処置の有望性がある、新世代の有機白金薬物である。ピコプラチンは、種々の種類のがんまたは腫瘍(小細胞肺がん、結腸直腸がん、およびホルモン難治性前立腺がんが挙げられる)の処置において、有望性を示している。
【0003】
構造的には、ピコプラチンは:
【0004】
【化1】

であり、そしてシス−アンミンジクロロ(2−メチルピリジン)白金(II)、あるいは[SP−4−3]−アンミン(ジクロロ)(2−メチルピリジン)白金(II)と命名されている。この化合物は、四配位の二価白金の平面四角錯体であり、3種の異なる配位子を有する。2つの配位子は陰イオン性であり、そして2つは中性である。従って、ピコプラチンにおいて白金は+2の電荷を有するので、ピコプラチン自体は中性の化合物であり、対イオンが存在する必要がない。分子内のα−ピコリン(2−メチルピリジン)の存在に関連する名称「ピコプラチン」は、この物質についての米国一般名(USAN)であり、英国一般名(BAN)であり、そして国際一般名(INN)である。ピコプラチンはまた、NX473、ZD0473、およびAMD473などの文献でも言及されており、そして特許文献1、特許文献2、および米国出願番号10/276,503に開示されている。
【0005】
ピコプラチン、ならびにピコプラチンを作製するためのプロセスおよびピコプラチンを処置において使用するためのプロセスは、特許文献1(1997年9月9日発行)、特許文献2(2003年2月11日発行)、およびPCT/GB0102060(2001年5月10日出願、特許文献3として公開されている)に開示および特許請求されており、これらは、その全体が本明細書中に参考として援用される。例えば、特許文献2において、ピコプラチンの合成が開示されており、ここでテトラクロロ白金酸カリウムは、N−メチルピロリドン中で、いかなる触媒も存在せずに2−ピコリンと反応させられて、トリクロロピコリン白金酸カリウムを与え、これがアンモニアと反応して、ピコプラチンを与え得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,665,771号明細書
【特許文献2】米国特許第6,518,428号明細書
【特許文献3】国際公開第2001/087313号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本発明は、テトラクロロ白金酸塩(TCP)から中間体であるトリクロロピコリン白金酸(TCPP)塩を介しての、ピコプラチンの合成の改良された方法に関する。本発明の方法の種々の実施形態は、既存の方法により得られるよりも、高い収率、および重要な中間体であるTCPPのよりクリーンな反応生成物を与える。
【0008】
種々の実施形態において、本発明は、テトラクロロ白金酸塩をトリクロロピコリン白金酸塩に転換する方法を提供し、この方法は、テトラクロロ白金酸塩と2−ピコリンとの有機液体中の分散物を接触させる工程を包含し、この分散物は、それぞれ有効量の酸素およびPt+4錯体をさらに含有し、ここでこの酸素は、酸素ガスまたは酸素ガス含有気体混合物をこの分散物にスパージングすることによって、この分散物に導入され、この分散物は、トリクロロピコリン白金酸塩を提供するために充分な温度で充分な時間にわたって維持される。このPt+4錯体は、ハロゲン化物含有陰イオン(例えば、ヘキサクロロ白金酸(HCP)塩)を含み得る。種々の実施形態において、これらの塩は全て、カリウム塩であり得る。
【0009】
種々の実施形態において、本発明は、テトラクロロ白金酸塩をピコプラチンに転換するための方法をさらに提供し、この方法は、最初に上記のようなテトラクロロ白金酸塩のトリクロロピコリン白金酸塩への転換を実施する工程、次いで、このトリクロロピコリン白金酸塩をアンモニアと接触させてピコプラチンを提供する工程を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(詳細な説明)
(定義)
「ピコプラチン」とは、シス−アンミンジクロロ(2−メチルピリジン)白金(II)、またはこの薬物がまた名付けられているような[SP−4−3]−アンミン(ジクロロ)(2−メチルピリジン)白金(II)をいい、その構造は
【0011】
【化2】

である。これは、レドックス活性金属錯体という一般的なクラスに属する化合物であり、この場合は、第三列の遷移元素である白金の錯体であり、この白金は、+2の酸化状態にある。
【0012】
「テトラクロロプラチネート」または「TCP」とは、式PtCl−2(TCP)の陰イオンをいい、これは、任意の適切な陽イオン(例えば、カリウムイオン)により電荷の釣り合いを取られ得る。テトラクロロプラチネートにおいて、白金イオンは二価であり、Pt+2である。一例は、KPtClである。
【0013】
「Pt+4錯体」とは、四価Pt原子を含む任意の錯体をいう。Ptの配位子は、全て同じであっても、異なっていてもよい。例えば、配位子は、ハロゲン化物、アミン、およびチオールなどを含み得る。Pt+4錯体の例は、ヘキサクロロ白金酸(HCP)塩であり、例えば、ヘキサクロロ白金酸カリウム(KPtCl)である。さらなる例は、配位子としてヒドロキシ、カルボキシレート、カルバメート、または炭酸エステル、あるいはアルコキシ、ホスホノカルボキシレート、ジホスホネートまたはスルフェートを含む、四価白金種である。
【0014】
「トリクロロピコリン白金酸塩」または「TCPP」とは、テトラクロロ白金酸塩の1個のみの塩化物を、中性の配位子である2−ピコリンで置き換えることにより得られる化合物をいう。TCPPは、式:
【0015】
【化3】

を有する。TCPPは、モノ陰イオンであり、任意の適切な陽イオン(例えば、カリウムイオン)によって電荷の釣り合いを取られ得る。この中間体とアンモニアとの反応(この反応において、第二の塩化物配位子がアンモニアに置き換えられる)は、抗がん薬であるピコプラチンを与える。
【0016】
「高剪断混合」とは、液体媒質中で微細な粒子の分散物を調製するための技術であり、ここで高剪断条件が、液体媒質の存在下で、より粗い粒子をより微細な粒子に細かく砕く。
【0017】
「細かく砕く」または「粉砕する」とは、当該分野において周知であるように、固体材料を微細な粉末に物理的に粉砕することをいい、これは、この材料の単位質量あたりの表面積を増加させる役に立つ。
【0018】
「接触させる」とは、この用語が本明細書中で使用される場合、化学反応が起こり得るように、化学物質を分子を接近させて配置することをいい、例えば、溶液に入れること、液体/固体混合物に入れること、および気体混合物を液体溶液に吹き込むことであり、ここでこの液体溶液は、溶解していない固体物質も含有し得る。
【0019】
「スパージング」とは、この用語が本明細書中で使用される場合、気体を溶液、懸濁物、または分散物に導入するプロセスであって、これによって、気体の流れが充分な圧力下でこの溶液、懸濁物、または分散物の表面より下に提供され、その結果、気体がその媒質に吹き込まれ、これによって、この溶液、懸濁物、または分散物の成分と接触する、プロセスをいう。スパージングは、管、または液体内に気体を運び得る他のデバイスを通して行われ得、そしてこの管は、この媒質中に放出される気泡の平均サイズを制御するための、フリットまたは他のデバイスを備え得る。これらの気泡は、これらの気泡とこの媒質との間に、より大きい接触表面積を提供するように、分散され得る。この気体は、気体混合物(例えば、酸素/窒素混合物)であり得る。この気体が供給される圧力は、この媒質のヘッド圧力に打ち勝つためにのみ充分であり得るか、またはより大きくてもよい。スパージングは、反応容器のヘッドスペースが、スパージングされる気体とは異なる気体で満たされている条件下で、行われ得る。
【0020】
「分散物」とは、この用語が本明細書中で使用される場合、材料が溶解しているか、懸濁しているか、またはその両方である、液体媒質(例えば、有機液体)をいう。「懸濁物」とは、主として不溶性である固体が、重大な程度には溶解せずに混合している、液体媒質をいう。「溶液」とは、固体物質または液体物質が均質な様式で溶解している、液体媒質をいう。従って、「分散物」は、いくらかの材料が溶解しておりいくらかの材料が懸濁している、溶液でありかつ懸濁物であるか、または溶液であるか、または懸濁物である。
【0021】
「液体媒質」とは、液体であり、一般的に溶媒と称されるが、これには成分が必ずしも溶解しなくてもよく、懸濁してもよい。「有機液体」とは、有機物質を含むような物質であり、代表的に「有機溶媒」として公知であるが、これには全ての材料が必ずしも溶解しなくてもよい。例としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム、エタノール、またはヘキサンなどが挙げられる。
【0022】
「有効量(単数または複数)」とは、これらの用語が本明細書中で使用される場合、記載される成分が、所望の結果(例えば、反応の触媒作用)をもたらすために充分な量または濃度で、反応混合物中に存在することを意味する。本明細書中の種々の成分の具体的な有効量は、本明細書中に開示されている。
【0023】
(説明)
種々の実施形態において、本発明は、テトラクロロ白金酸塩をトリクロロピコリン白金酸塩に転換するための方法を提供し、この方法は、テトラクロロ白金酸塩および2−ピコリンの、有機液体中の分散物を接触させる工程を包含し、この分散物は、それぞれ有効量の酸素およびPt+4錯体を含有し、この酸素は、酸素ガスまたは酸素ガス含有気体混合物をこの分散物にスパージングすることによって、この分散物に導入され、この分散物は、トリクロロピコリン白金酸塩を提供するために充分な温度で充分な時間にわたって維持される。予測不可能であったことに、酸素および四価白金錯体が、TCPからのTCPPの形成を触媒するように働くこと、ならびに実際に、酸素を排除した条件下では、この反応は満足な程度に進行しないことが、本発明の本発明者らによって見出された。
【0024】
種々の実施形態において、酸素は、気体混合物の成分として、溶液または分散物と接触させられ得る。例えば、この気体混合物は、希釈剤として窒素を含有し得、この気体混合物は、大きい規模で操作する際に、純粋な酸素ガスの使用よりも高いレベルの安全性を提供し得る。より具体的には、この気体混合物は、約20%の酸素および約80%の窒素(自然の空気に見出されるような相対割合)を含有し得る。種々の実施形態において、この気体混合物は、この気体混合物を圧力下で溶液に注入すること、すなわち、「スパージング」によって、溶液と接触させられる。種々の実施形態において、溶液に加えられる気体混合物の総量は、テトラクロロ白金酸塩のモル量に対して、約0.3モル当量〜約0.4モル当量の酸素を含有する。
【0025】
種々の実施形態において、この反応は、約25%の濃度で行われ得る。すなわち、1グラムのTCPあたり約3mL〜4mLの有機液体が、この反応分散物中に存在する。
【0026】
この反応混合物を光(例えば、紫外光)で照射することが不必要であり、TCP塩からTCPP塩への転換に触媒作用を提供しないことが、本発明の発明者らにより見出された。
【0027】
種々の実施形態において、四価白金錯体(例えば、ヘキサクロロ白金酸カリウム塩)が、この溶液中に、テトラクロロ白金酸塩の重量の約0.05重量%〜0.2重量%で存在する。ヘキサクロロ白金酸塩を使用する場合、別の純粋な物質として添加され得るか、またはこの反応において使用されるTCP中の既知量の不純物として存在し得る。TCPは、HCPから調製され得、そしてTCPの市販のサンプルは、HCPを不純物としてしばしば含有することが公知である。本発明の発明者らは、HCPがTCP出発物質中に不純物として存在する場合、TCPPを与える反応を触媒するように働き得、そしてこの反応が完了(すなわち、TCP出発物質の完全な消費)まで進行することを補助し得ることを見出した。あるいは、別のハロゲン化物(例えば、臭化物)、アミノ、チオ、ヒドロキシ、カルボキシレート、カルバメート、炭酸エステル、アルコキシ、ホスホノカルボキシレート、ジホスホネート、またはスルフェート錯体などの配位子を含む、他の四価白金錯体が添加され得る。
【0028】
本発明の種々の実施形態において、2−ピコリンは、出発TCPに対しておよそ1.0〜1.3のモル比で、この溶液中に存在し得る。この反応を本発明の条件下で完了させるために、大モル過剰は必要とされない。
【0029】
種々の実施形態において、テトラクロロ白金酸塩、ヘキサクロロ白金酸塩錯体、またはこれらの両方は、この反応混合物中に、カリウム塩として存在し得る。カリウム塩が使用される場合、生成物であるTCPPもまた、カリウム塩の形態で回収される。他の適切な陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)もまた使用され得る。
【0030】
種々の実施形態において、溶媒は、N−メチルピロリドンを含有する。これは、極性非プロトン性溶媒であり、これには生成物であるTCPPは可溶性であるが、副生成物であるKClは、重大な程度には可溶性ではない。従って、副生成物であるKClは、TCPのTCPPへの転換後に、濾過、遠心分離、または沈殿した固体から液体を分離するための当該分野において周知である他の方法によって、この反応混合物から除去され得る。例えば、1ミクロン〜50ミクロンのセラミックインラインフィルタでの濾過が、使用され得る。
【0031】
種々の実施形態において、TCPと2−ピコリンとが接触させられる温度は、約60℃〜80℃である。より具体的には、この温度は約60℃〜70℃であり得る。
【0032】
種々の実施形態において、上記時間は、約30分〜約240分、または約90分〜150分であり得る。より具体的には、NMP中のTCPとHCPとの混合分散物中への2−ピコリンの添加は、酸素ガス混合物の添加を伴って、約90分にわたって行われ得る。2−ピコリンの添加は、溶媒中でのTCPの高剪断混合の約45分後に開始され得、そして混合およびスパージングが約90分間続き得、その後、2−ピコリンの添加の完了後さらに35分間にわたって、この混合物が例えば約65℃で加熱され得る。スパージングは、充分な量の酸素含有気体がこの反応分散物に送達される限り、この反応中の種々の段階で、連続的に行われても断続的に行われてもよい。
【0033】
本発明の方法の種々の実施形態において、このプロセスは、閉じた反応設備内で比較的大規模で使用するために、特に適している。このプロセスは、産業規模で反応を実施するために適切であり、例えば、薬の製造において、例えば、数キログラム、数十キログラム、またはそれより大きい規模で使用される。例えば、最低約0.5kg、または少なくとも約2.0kg、または少なくとも約10kgの量のテトラクロロ白金酸塩が、この方法において使用され得る。この反応の規模が増大するにつれて、反応分散物の体積に対する表面積の比が減少し、残留するヘッドスペース酸素を次第に少なくして、この反応を触媒するのに適切にする。従って、この反応分散物への、スパージングによる酸素の導入は、適切な量が存在することを確実にすることによって、この気体が触媒として効果的に機能することを可能にする。スパージングはまた、反応設備における不活性ヘッドスペースガスの使用を可能にし、このことは、安全性の観点から有利である。
【0034】
本発明の種々の実施形態において、テトラクロロ白金酸塩は、微細に砕かれた粉末であり得る。2−ピコリン試薬は、2−ピコリン試薬が不溶性であるNMPなどの溶媒中の溶液内に存在するので、固体のTCP塩の、より高い表面積対体積の比が望ましい。従って、当該分野において周知であるような、TCP前駆体を細かく砕く方法(ボールミルまたはディスクミルの使用が挙げられる)が使用され得る。
【0035】
そして、種々の実施形態において、反応混合物の高剪断混合が使用され得る。溶媒および2−ピコリンを含む液体中での固体のTCP塩の高剪断混合は、TCP塩の平均粒径を減少させ得、かつTCP塩の新しい表面を露出させる役に立ち得、これらの表面を、2−ピコリンとの反応のために利用可能にする。例えば、高剪断混合は、TCP粒子の表面層と2−ピコリンとの反応により形成される、閉塞性のKClを除去する役に立ち得、このことは、KCl表面層がTCPの2−ピコリンへの接近性を減少させ、その結果、所望の反応の速度および完了程度を低下させる傾向がある点で、有利である。高剪断混合はまた、スパージングされた酸素ガス混合物を分散させて、酸素吸着のための表面積を最大にし、そして一貫した操作を提供するのに役に立ち得る。
【0036】
種々の実施形態において、一旦、TCPと2−ピコリンとの反応が完了すると、この反応分散物は、副生成物であるKCl(または他の陽イオンが使用される場合に得られる対応する無機塩(例えば、NaCl))および転換していないTCPのほとんどを除去するため、ならびにHCPの含有量を残留するTCPに対して0.3%w/w未満のレベルまで低下させるために、当該分野において周知である方法(例えば、濾過または遠心分離)を使用して、処理され得る。例えば、副生成物であるKClおよび未反応のTCPは、TCPと2−ピコリンとの、極性非プロトン性溶媒(例えば、NMPまたはDMF)中での縮合が行われた反応容器の、出口ライン上にあるインラインフィルタの使用によって除去され得る。より具体的には、セラミックフリットまたは金属(例えば、ステンレス鋼)の多孔性プレート、あるいは深層フィルタ、あるいはメンブレンフィルタが、使用され得る。このフィルタは、任意の適切な多孔度を有し得る。例えば、約1ミクロン〜約50ミクロンの範囲の細孔を有するフィルタ媒体が使用され得る。
【0037】
種々の実施形態において、TCPP生成物は、例えば、KClが濾別されたNMP溶液から、有機液体を添加して沈殿した固体のトリクロロピコリン白金酸塩を得ることによって、回収され得る。この有機液体は、TCPPが不溶性である溶媒(例えば、ジクロロメタン)であり得る。
【0038】
種々の実施形態において、固体形態で回収されるTCPP塩の収率は、少なくとも約80%である。種々の実施形態において、沈殿した固体のトリクロロピコリン白金酸塩(TCPP)中のテトラクロロ白金酸塩(TCP)の残留重量%は、約0.5%以下である。種々の実施形態において、回収されるトリクロロピコリン白金酸塩の純度は、約98%以上である。
【0039】
種々の実施形態において、ピコプラチンは、本発明の実施形態に従って、沈殿した固体のトリクロロピコリン白金酸塩をアンモニアと接触させることにより合成され得る。このピコプラチン生成物は、当該分野において周知であるもののような方法によって、単離および精製され得る。
【0040】
例えば、本発明の方法によりピコプラチンを生成するために使用され得る3段階プロセスを、以下のスキーム1に概説する。このプロセスの段階1において、出発物質であるテトラクロロ白金酸塩(TCP)および2−ピコリンが、酸素およびPt+4錯体(例えば、ヘキサクロロ白金酸塩錯体)の存在下で反応させられて、中間体であるトリクロロピコリン白金酸塩(TCPP)を生成する。段階2において、このTCPPがアンモニアと反応して、粗製ピコプラチンを形成する。段階3において、この粗製ピコプラチンが再結晶により精製され、次いで単離され、洗浄され、そして乾燥させられて、ピコプラチン(がんの処置のために有用な活性な薬学的成分(API))を提供する。
【0041】
スキーム1:ピコプラチンのプロセスの流れ図
【0042】
【化4】

予測不可能であったことに、酸素(O)の存在が、この反応が認め得るほど進行するために必要であること、およびHCPなどのPt+4錯体が、一貫した反応の完了を達成するために必要とされることが、本発明の本発明者らによって見出された。OとHCPとの両方が、驚くべきことに、この反応において触媒特性を有することが見出された。Oと、HCPなどのPt+4錯体との両方が、TCPと2−ピコリンとの間の反応が技術的に認容可能な速度で完了するまで進行するために、存在することが必要とされる。
【0043】
この反応化学をスキーム2に示す。
【0044】
スキーム2:段階1の反応化学
【0045】
【化5】

HCPは、TCPの市販調製物における周知の夾雑物である。なぜなら、TCPのための1つの主要な製造プロセスが、HCPの還元を包含するからである。TCPの多くの市販サンプルが、残留量の未反応HCPを含有することが見出されている。本発明の発明者らは、TCPと2−ピコリンとの縮合を行う際に、周囲大気条件下で行われる反応が、検出可能な量のHCPを含有するTCPのバッチを使用すると、実質的にHCPを含まないバッチを使用するよりも、より容易に進行することを観察した。反応混合物中でTCPに対して約0.05重量%〜2重量%のHCPの含有量が有利であるが、有機液体中のTCPの濃度が約25%w/v〜33%w/vの範囲である場合、約0.3%より多いHCPの量は、固体の未溶解形態で残りやすいことが見出された。
【0046】
この反応が窒素雰囲気下で行われた場合、驚くべきことに、HCPの存在下でさえも、TCPと2−ピコリンとの間で反応がほとんどまたは全く起こらないことが観察された。逆に、酸素含有気体混合物が反応混合物に吹き込まれた(スパージングされた)場合、この反応は、完了するまで容易に進行した。HCPもまたこの反応混合物中に存在する場合、この反応は、さらにより完全に、迅速に進行して、所望の生成物であるTCPPの良好な収率および高い純度を提供した。この酸素含有気体混合物は、純粋な酸素であり得る。しかし、大規模での安全性の理由により、窒素などの不活性気体で希釈された酸素から構成された気体混合物が賢明である。例えば、20%O/80%Nの気体混合物が、スパージングのために使用され得る。気体の総量は、規定された量のOを反応混合物に提供するように、導入され得る。例えば、TCPに対して約0.3当量のOが、TCPおよび2−ピコリンを含有する溶液に添加され得る。反応混合物中への酸素の溶解は、さらなる混合または撹拌によって、容易にされ得る。
【0047】
この反応混合物は、気体のスパージングによって撹拌され得るが、当該分野において周知であるように、パドルを用いるかまたは高剪断混合技術を使用することなどにより、さらに混合または撹拌され得る。気体のスパージングが行われている時間中のさらなる混合(特に、高剪断混合)は、気泡と反応溶液または分散物との間の増加した接触を提供することを補助し得、その結果、酸素の有効溶解濃度が、より容易に達成され得る。
【0048】
この反応は、照射(例えば、UV光の照射)の条件下で行われる必要がない。これは、特定の量の白金の、+2状態から+4状態への酸化が、触媒作用を補助するということ、またはいくらか介入する白金の酸化状態が関連するということであり得る。しかし、酸素が全く存在しない状態でのHCPは、単独では触媒として有効ではないが、酸素の存在下では、添加されたHCPは、さらなる触媒活性を示すことが見出された。
【0049】
以下の表1は、反応溶媒(NMP)中の水分、光、および酸素の存在または非存在の、反応に対する影響の明確化に関する、一連の実験を示す。残留TCP(未反応出発物質である)は、TCPPへのより乏しい転換が観察された反応において、より高い。
【0050】
【表1】

グラフ1およびグラフ2において以下にグラフにより示されるように、さらなる実験を行った。
【0051】
グラフ1は、本発明の方法の種々の実施形態を使用する反応における、TCPからTCPPへの収率を表わす、三次元表面を図示する。この収率は、x軸上に示される添加される空気(酸素)(1グラムのTCPあたりの空気のmL数)、およびy軸上に示される添加されるHCP(重量%)の関数として、z軸上に示される。
【0052】
【化6】

見られ得るように、空気(酸素)の非存在下では、非常に少量の生成物が得られる。空気の添加の最適な量は、反応混合物中の1グラムのTCPあたりおよそ20mL〜25mLである。しかし、存在するHCPの量はまた、TCPPの収率に影響を与える。約0.2重量%の含有量において、この収率は、添加されるHCPの量に対して最適化される。酸素は単独で強力な触媒効果を有し、HCPは単独では効果がないが、酸素の存在下では、HCPは、反応混合物中に存在する触媒活性を追加することが明らかである。
【0053】
以下のグラフ2は、示される条件下で反応混合物中で検出された、未反応TCPの量を図示する。ここでまた、添加された空気(1グラムのTCPあたりの、20%の酸素/80%の窒素を含む合成空気のmL数)がx軸上に示され、HCPの重量%がy軸上に示され、そして未反応TCPの百分率がz軸上に示される。
【0054】
【化7】

【0055】
【表2】

以下のグラフ3は、反応が空気(酸素)の存在下でNMP中で小規模で行われる場合に、TCPに対して約0.1%w/wのHCPレベルが、TCPのTCPPへの高度な転換を得るために充分であることを示す。HCPをTCPに対して0.01%w/w〜0.64%w/wで加えた、一連の均質な溶液の反応系を用いて、研究を実施した。これらの反応を、小規模で空気の存在下で実施した。サンプルを、ピコリンのアリコートの添加の直前および直後に採取した。0.01%w/wのHCPから0.04%w/wへの、初期反応速度の急激な増加が存在し、次いで、プラトーへの約0.1%w/wのより小さい増加が存在した。これらの研究は、HCPが、反応溶媒NMP中で酸素の存在下での、TCPと2−ピコリンとの反応に対して、触媒効果を有することを示す。
【0056】
【化8】

【実施例】
【0057】
実施例1:本発明の方法による、TCPのTCPPへの転換のプロセス概説:
(1.反応器の準備および充填)
1.1.高剪断撹拌装置を備えたジャケット付き反応容器に、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)を入れる。
【0058】
1.2.この反応器の内容物を撹拌しながら65℃の目標温度まで加熱を開始する。
【0059】
1.3.高剪断撹拌機を用いて、テトラクロロ白金酸(TCP)カリウムおよびヘキサクロロ白金酸(HCP)カリウムをこの反応容器に入れる。
【0060】
1.4.この高剪断混合機の再循環経路への、濾過した空気のスパージングを開始する。
【0061】
(2.反応)
2.1.反応器へのTCPの添加の45分後に、その温度が65℃になったら、2−ピコリン(2−Pic)の添加を開始する。
2−Picを90分かけてこの反応容器に連続的に加える。
撹拌を維持し、そしてこの反応温度を65℃で35分維持する。
空気のスパージングを止める。この反応混合物を冷却する。
【0062】
(3.反応のクエンチ)
3.1.適切なサイズの適合性フィルタに通すことにより、反応混合物をクエンチ用容器に移す。
【0063】
3.2.NMPをこの反応容器に入れて、反応混合物を壁からすすぐ。このすすぎ液を、このフィルタに通してクエンチ用容器内に移す。この間、内容物を25℃に維持する。
【0064】
3.3.撹拌しながら、内容物を25℃に維持しながら、ジクロロメタン(DCM)をクエンチ用容器に20分かけて入れる。DCMの添加の30分後まで、撹拌を続ける。
【0065】
(4.生成物の単離および洗浄)
4.1.クエンチした反応混合物を適切なサイズの適合性フィルタで濾過する。
【0066】
4.2.これらの固体をDCM中に3回再懸濁させる。
【0067】
(5.生成物の乾燥)
5.1.これらの固体を、撹拌しながら40℃で減圧下で乾燥させる。
【0068】
【表3】

TCPからの収率;N/A=適用なし。
【0069】
本発明は、当業者が本発明を作製および使用するために充分に詳細に記載および例示されたが、種々の変更、改変および改善が、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者に明らかになる。
【0070】
本明細書中に記載される全ての特許および刊行物は、各個々の刊行物が、その全体が本明細書中に参考として援用されると明示的に個々に示されると同程度に、本明細書中に参考として援用される。
【0071】
使用された用語および説明は、説明の観点で使用されたのであり、限定の観点ではない。このような用語および表現の使用において、図示および記載された特徴またはその一部分のいかなる均等物も排除することは意図されず、種々の改変が、本願発明の範囲内で可能であることが認識される。従って、本発明は、好ましい実施形態によって具体的に開示されたが、本明細書中に開示される概念の必要に応じた特徴、改変およびバリエーションが当業者により求められ得ること、ならびにこのような改変およびバリエーションが、添付の特許請求の範囲により規定されるような本発明の範囲内であるとみなされることが、理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラクロロ白金酸塩をトリクロロピコリン白金酸塩に転換する方法であって、該テトラクロロ白金酸塩と2−ピコリンとの有機液体中の分散物を接触させる工程を包含し、該分散物は、有効量の酸素をさらに含有し、該酸素は、酸素ガスまたは酸素ガス含有気体混合物を該分散物にスパージングすることによって、該分散物に導入され、該分散物は、該トリクロロピコリン白金酸塩を提供するために充分な温度で充分な時間にわたって維持される、方法。
【請求項2】
有効量のPt+4錯体を前記分散物中に提供する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Pt+4錯体がヘキサクロロ白金酸塩である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記気体混合物が酸素および窒素を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記気体混合物が自然の空気である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記気体混合物が約20%の酸素および約80%の窒素を含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記分散物に導入される前記酸素ガスまたは前記酸素ガス含有気体混合物の総量が、該分散物中に存在する前記テトラクロロ白金酸塩のモル量に対して、約0.3モル当量〜約0.4モル当量の酸素を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
酸素ガスが導入される期間のうちの少なくとも一部の間、前記分散物が撹拌されて、該分散物中への該ガスの溶解を補助する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
撹拌が高剪断混合を包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記有機液体のmLでの体積が、前記テトラクロロ白金酸塩のグラムでの重量の約3倍〜4倍である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
前記Pt+4錯体が、前記テトラクロロ白金酸塩の重量の約0.05重量%〜2.0重量%で前記分散物中に存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記2−ピコリンが、出発TCPに対して、およそ1.0〜1.3のモル比で前記分散物中に存在する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
前記テトラクロロ白金酸塩、前記Pt+4錯体またはこれらの両方が、カリウム塩である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
前記溶媒がN−メチルピロリドンを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項15】
前記温度が約60℃〜80℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
前記時間が約30分〜約150分である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項17】
前記テトラクロロ白金酸塩が微細に砕かれた粉末である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項18】
接触が高剪断混合を包含する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項19】
前記時間が経過した後に、前記溶液を濾過する工程を包含する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項20】
前記時間が経過した後に、必要に応じて前記溶液を濾過し、次いで第二の有機液体を添加して、沈殿した固体のトリクロロピコリン白金酸塩を提供する工程を包含する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項21】
前記第二の有機液体がジクロロメタンを含有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記沈殿した固体のトリクロロピコリン白金酸塩の収率が少なくとも約80%である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記沈殿した固体のトリクロロピコリン白金酸塩中の前記テトラクロロ白金酸塩の残留重量%が約0.5%以下である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記トリクロロピコリン白金酸塩の純度が約98%以上である、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記時間の前の前記分散物が、最低約0.5kgの量のテトラクロロ白金酸塩を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項26】
前記時間の前の前記分散物が、少なくとも約2.0kgの量のテトラクロロ白金酸塩を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項27】
前記時間の前の前記分散物が、少なくとも約10kgの量のテトラクロロ白金酸塩を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項28】
前記分散物が、不活性ヘッドスペースガスが内部に配置されている反応容器に含まれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項29】
前記沈殿した固体のトリクロロピコリン白金酸塩をアンモニアと接触させてピコプラチンを提供する工程をさらに包含する、請求項1または2に記載の方法。

【公表番号】特表2012−530068(P2012−530068A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515190(P2012−515190)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/038348
【国際公開番号】WO2010/144827
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(398003681)ポニアード ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】