説明

ピストン、レシプロエンジン

【課題】ピストンリングに対してむらなく潤滑油を供給することができ、ピストンリング背面へ潤滑油の蓄積を効率良く行うことができるピストン及びレシプロエンジンを提供する。
【解決手段】ピストン20には、ピストンリング22が装着されるピストンリング溝よりも先端側の外周面に潤滑油を円周方向に拡散する誘導溝23が形成される。誘導溝23は、先端側から後端側に向けて傾斜するように形成され、先端頂部Aが潤滑油の供給箇所12に対応する位置に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン及びこれを用いたレシプロエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジン用のシリンダ内壁とピストン外周の間を潤滑する潤滑油を保持するために潤滑油溝を形成したピストンが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に係るエンジン用ピストンでは、ピストン外周面のピストンリング溝下方の凹部以外の全面に、切削条痕による独立した多数の細溝が軸方向と交差する横波型に形成されている。この横波型の細溝は、ピストンの軸方向すなわち上下方向に互いに密接させて平行に形成され、各細溝はピストンの周方向にサインカーブによる6つの谷間を山部間に等間隔で設けた形状になるようバイトによって加工したものである。
【0004】
そして、このピストンがシリンダの内壁に沿って摺動する際に、細溝が横波型で長く、しかも潤滑油が細溝の山部から谷部に流入することによって、ピストンの凹部へ逃げにくくなり、多量の潤滑油を細溝とシリンダの内壁との間に保持でき、また潤滑油を細溝とシリンダの内壁との間に保持でき、また潤滑油の高圧部が広く、これらの圧力も高くなるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−149198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された発明では、潤滑油溝はバイトによる切削条痕であって、軸方向と交差する(ピストンリングと平行になる)ように形成した横波型の細溝である。このため、細溝の谷部に保持されている潤滑油はすぐに流出してしまうことから、特に直径の大きいシリンダでは、摺動面を潤滑する潤滑油を長期的に保持しておくことが困難となる問題を有している。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、ピストンリングに対してむらなく潤滑油を供給することができ、また、ピストンリング背面へ潤滑油の蓄積を効率良く行うことができるピストン及びそれを用いたレシプロエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るピストン、レシプロエンジンでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明に係るピストンは、ピストンリングが装着されるピストンリング溝よりも先端側の外周面に潤滑油を円周方向に拡散する誘導溝を形成したことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ピストンリングへ潤滑油をむらなく供給し、ピストンリングの背面へ潤滑油を効率良く蓄積することができる。したがって、潤滑油が摺動面に広範囲に亘って供給されるので、ピストンリングとシリンダの焼き付きを防止することができる。
【0010】
また、前記誘導溝は、先端側から後端側に向けて傾斜するように形成されることを特徴とする。
また、前記誘導溝の先端頂部は、前記潤滑油の供給箇所に対応する位置に形成されることを特徴とする。
また、前記誘導溝は、前記先端頂部を基準にして軸方向に対して線対称に形成されていることを特徴とする。
また、前記誘導溝は、周方向に均等配置されることを特徴とする。
これにより、潤滑油をピストンリングの全体にむらなく拡散して供給することができる。
【0011】
第2の発明に係るレシプロエンジンは、第1の発明に係るピストンを用いたことを特徴とする。
また、前記ピストンが摺動するシリンダ内壁に潤滑油を供給する給油孔が形成されることを特徴とする。
これにより、ピストンリングとシリンダの焼き付きを確実に防止することができ、長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ピストンリングへ潤滑油をむらなく供給し、ピストンリングの背面へ潤滑油を効率良く蓄積することができる。したがって、潤滑油が摺動面に広範囲に亘って供給されるので、ピストンリングとシリンダの焼き付きを防止することができる。
よって、レシプロエンジンの長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る船舶用レシプロエンジンの概略構成を示す一部断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るピストン及びシリンダを示す断面図である。
【図3】ピストンリングとピストンリング溝を示す拡大断面図である。
【図4】給油孔と誘導溝の相対位置関係を示す図である。
【図5】誘導溝の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るピストン及びレシプロエンジンの実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る船舶用レシプロエンジン1の概略構成を示す一部断面図である。
船舶用レシプロエンジン1は、シリンダ10、シリンダ10の内周壁11に摺動可能に挿嵌されたピストン20、ピストン20の底面に連結されたピストンロッド8、ピストンロッド8の一端に連結されたコネクティングロッド4、コネクティングロッド4に連結された回転駆動軸2等を備えている。
そして、ピストン20は、回転駆動軸2を介して回転駆動されるコネクティングロッド4により上下方向(鉛直方向に配置した場合)に往復移動するように構成されている。
【0015】
図2は、本発明の実施形態に係るピストン及びシリンダを示す断面図である。
図2に示すように、シリンダ10の内周壁11には潤滑油Lをピストン20に対して供給する複数の給油孔12が形成されている。給油孔12は、例えば8つ形成され、シリンダ10の内周壁11において、ピストン20の摺動方向の同一位置、かつ、周方向に均等な間隔に形成(均配)されている。
【0016】
ピストン20の外周面には、4本のピストンリング溝21が形成されており、これらピストンリング溝21にはピストンリング22が装着される。ピストンリング22は、給油孔12から内周壁11に給油された潤滑油Lをピストン20の上下運動により掻き上げ、掻き下げを行い、ピストンリング22の外周とシリンダ10の内周壁11との摺動面の潤滑を行っている。
【0017】
図3は、ピストンリングとピストンリング溝を示す拡大断面図である。
図3に示すように、ピストンリング22の背面とピストンリング溝21の底面との間に隙間15が形成される。この隙間15には、潤滑油Lが蓄積されるようになっている。つまり、シリンダ10とピストン20の間に供給された潤滑油Lは、ピストン20の上昇移動によりピストンリング22によって掻き上げられ、ピストンリング22の上面とピストンリング溝21の隙間を通して隙間15に蓄積されるようになっている。
【0018】
図4は、給油孔と誘導溝の相対位置関係を示す図である。すなわち、図4は、上下に往復運動しているピストン20(誘導溝23)から見た給油孔12の位置関係を表しており、給油孔12(破線)が上下方向に延びる帯状の領域として示されている。
【0019】
図4に示すように、ピストン20の外周面には、給油孔12から給油された潤滑油Lを円周方向に拡散する複数の誘導溝23が形成されている。誘導溝23は、各ピストンリング溝21(ピストンリング22)の直上、すなわち先端側に円周方向に沿って8つ形成されている。つまり、シリンダ10の内周壁11に形成された各給油孔12とピストン20の外周面に形成された誘導溝23とは同一数である。
なお、ピストン20の先端とは、シリンダ10に装着した際にシリンダ・ヘッド(燃焼室)側となる端部であり、後端とは、ピストンロッド8側の端部である。
【0020】
各誘導溝23は、扁平状への字形に形成されており、への字形の中間点に形成された頂部(先端頂部)Aから両側の側端部(後端部)Bに向けて傾斜する一定長さの溝として形成される。つまり、ピストン20の先端側から後端側に向けて傾斜するように形成される。
そして、誘導溝23における頂部Aは、シリンダ10の内周壁11に形成された各給油孔12に対応する位置に形成される。
【0021】
したがって、シリンダ10の内周壁11に形成された各給油孔12からシリンダ10とピストン20の間に潤滑油Lが供給されると、潤滑油Lの一部は、ピストン20の上下運動により、各ピストンリング溝21(ピストンリング22)の直上に形成された各誘導溝23の頂部Aから誘導溝23内に流れ込む。
そして、誘導溝23内に流れ込んだ潤滑油Lは、頂部Aから両側端部Bに向けて流下し、更に、両側端部Bから再びシリンダ10とピストン20の間に流れ出る。つまり、潤滑油Lは、誘導溝23に沿ってピストン20の周方向に拡散する。
【0022】
このように、シリンダ10の各給油孔12から供給された潤滑油Lは、誘導溝23に沿ってピストン20の周方向に拡散するので、ピストンリング22の上面には潤滑油Lがむらなく供給される。
【0023】
こうして、給油孔12から吐出された潤滑油Lは、各ピストンリング22の上面にむらなく供給され、さらにピストンリング22の背面に形成される隙間15に確実に蓄積される。つまり、潤滑油Lは、誘導溝23を介してピストン20の周方向に拡散して、ピストンリング22の外周とシリンダ10の内周壁11との摺動面を良好に潤滑する。
【0024】
このように、ピストンリング22が装着されるピストンリング溝21の上部外周面に給油孔12から供給される潤滑油Lを円周方向に拡散する誘導溝23を形成することにより、ピストンリング22の上面へ潤滑油Lをむらなく供給し、ピストンリング22の背面へ潤滑油Lを効率良く蓄積することができる。つまり、本実施形態においては、給油孔12を3倍(頂部Aと2つの側端部B)にしたのと同様の効果を得ることができる。
【0025】
これにより、ピストン20の上下に配置された各ピストンリング22の背面に蓄積された潤滑油Lが摺動面に広範囲に亘って供給されるので、ピストンリング22とシリンダ10の内周壁11の焼き付きを防止することができる。
【0026】
前述した実施の形態で示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0027】
例えば、誘導溝23は、への字形に形成した例に付き説明したが、これに限らない。誘導溝は所定幅に亘って傾斜した溝として形成されれば良く、直線傾斜溝やハの字状の溝として形成することもできる。
【0028】
すなわち、図5(a)に示すように、誘導溝24は、一端を先端頂部とし他端を後端部とする直線状の傾斜溝として形成される。そして、この頂部は給油孔12の位置に対応している。したがって、給油孔12から吐出した潤滑油Lは、誘導溝24の先端頂部から後端部に向けて流下する。これにより、ピストンリング22の上面へ潤滑油Lをむらなく供給し、ピストンリング22の背面へ潤滑油Lを効率良く蓄積することができる。
【0029】
また、図5(b)に示すように、誘導溝25は、ハ字状の傾斜溝として形成される。すなわち、一端を先端頂部とし他端を後端部とする直線状の一対の傾斜溝が、各頂部を近接させつつ、頂部近傍を基準として軸方向に対して線対称に配置する。
そして、誘導溝25の各頂部は、それぞれ給油孔12の位置に対応しており、給油孔12から吐出した潤滑油Lは、誘導溝25の両頂部からそれぞれ流入して後端部に向けて流下する。これにより、ピストンリング22の上面へ潤滑油Lをむらなく供給し、ピストンリング22の背面へ潤滑油Lを効率良く蓄積することができる。
【0030】
また、誘導溝は直線形状でなく、円弧形であってもよい。また、誘導溝の深さも均一の場合に限らず、不均等であってもよい。また、一つの誘導溝を複数の給油孔に対応するようにしてもよい。
このように、誘導溝の形状、数、給油孔との位置関係は、潤滑油Lの供給(拡散)効率等に応じて適宜変更することが好ましい。
【0031】
また、上記実施形態では、ピストンの周方向に同一形状の誘導溝を複数設ける場合について説明したが、異形状の誘導溝を複数設ける場合であってもよい。給油孔12がシリンダ10の内周壁11の周方向に不均一に配置される場合に有効である。
【0032】
また、上記実施形態では、ピストンの先端側を鉛直方向に上側に向けて配置した場合について説明したが、ピストンを傾斜、水平配置及び倒立するように配置した場合であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…船舶用レシプロエンジン、 10…シリンダ、 11…内周壁(シリンダ内壁)、 12…給油孔(供給箇所)、 20…ピストン、 21…ピストンリング溝、 22…ピストンリング、 23,24,25…誘導溝、 A…頂部(先端頂部)、 B…側端部(後端部)、 L…潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンリングが装着されるピストンリング溝よりも先端側の外周面に潤滑油を円周方向に拡散する誘導溝を形成したことを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記誘導溝は、先端側から後端側に向けて傾斜するように形成されることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記誘導溝の先端頂部は、前記潤滑油の供給箇所に対応する位置に形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記誘導溝は、前記先端頂部を基準にして軸方向に対して線対称に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のピストン。
【請求項5】
前記誘導溝は、周方向に均等配置されることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のピストン。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載のピストンを用いたことを特徴とするレシプロエンジン。
【請求項7】
前記ピストンが摺動するシリンダ内壁に潤滑油を供給する給油孔が形成されることを特徴とする請求項6に記載のレシプロエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate