説明

ピペットおよび運搬装置

【課題】培地交換や継代の作業性を向上させる。
【解決手段】ピペット101のヘッド111の下面111Dにはチップ112−1乃至112−5が取付けられ、背面111Bのほぼ中央には、液体または気体を注入または吸入する際にユーザが把持するハンドル113が取付けられている。ハンドル113の上部のほぼ中央には、液体または気体を注入または吸入するためのボタン114およびボタン115が前後に並ぶように設けられている。ヘッド111の左面111Lおよび右面111Rのほぼ中央には、チップ112−1乃至112−5が液体または気体を注入または吸入する方向と直交する方向に延びたバー117L,117Rが設けられている。ピペット101は、バー117L,117Rからなる支持軸を基点にして、ユーザが液体または気体を注入する方向に対して傾けて使用される。本発明は、例えば、培地交換や継代に用いるピペットに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットおよび運搬装置に関し、特に、培地交換や継代の作業性を向上させるようにしたピペットおよび運搬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の培地交換や継代を、装置内において自動で行う培養観察装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、細胞の培地交換や継代を自動化するためには、非常に多くのコストがかかるため、培地交換や継代を手作業で行うことが一般的である。培地交換や継代を手作業で行う場合、通常、培養観察装置から細胞の入った培養容器を取り出し、クリーンベンチや無菌室などの外部の作業スペースに搬送し、培地交換や継代を行った後、培養容器を培養観察装置に再搬入するといった流れで作業が行われる。そのため、容器の搬送中に細胞が外気に触れ、コンタミネーション等が発生する恐れがある。また、細胞の培養に適した培養観察装置内の環境から細胞を外に出すことにより、細胞に悪影響を与えてしまう恐れがある。
【0004】
そのため、培養観察装置から外部の作業スペースに培養容器を搬送せずに、外部雰囲気から隔離された状態で培地交換や継代を行えるようにすることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−16194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、外部雰囲気から隔離された状態で培地交換や継代を行えるようにした場合、外部から培養容器へのアクセスが制限され、作業性が低下することが想定される。
【0007】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、培地交換や継代の作業性を向上させるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面のピペットは、液体または気体を注入または吸入し、計量可能なピペットであって、前記液体または気体を注入または吸入するチップと、前記チップを保持するヘッド部と、前記ヘッド部から延びた、前記液体または気体を注入または吸入する際にユーザが把持するためのハンドルと、前記ハンドルに設けられ、前記液体または気体を注入または吸入する操作部材と、前記ヘッド部に設けられ、前記チップが前記液体または気体を注入または吸入する方向と直交する方向に延びた支持部材とを備え、前記支持部材を基点にして、ユーザが前記液体または気体を注入する方向に対して傾けて使用される。
【0009】
本発明の第1の側面のピペットにおいては、液体または気体を注入または吸入するチップを保持するヘッド部に設けられ、前記チップが前記液体または気体を注入または吸入する方向と直交する方向に延びた支持部材を基点にして、ピペットが、ユーザが液体または気体を注入する方向に対して傾けて使用される。
【0010】
本発明の第2の側面の運搬装置は、密閉空間が形成され、前記密閉空間内に、細胞の入った培養容器を格納し、運搬に用いられる運搬装置であって、前記密閉空間内に設けられ、ピペットに設けられた支持部材を設置するための複数のガイド部材を有し、前記ガイド部材のいずれかに前記支持部材を設置することにより、前記密閉空間内の複数の所定の位置のいずれかに前記ピペットを設置することが可能である。
【0011】
本発明の第2の側面の運搬装置においては、ピペットに設けられている支持部材を複数のガイド部材のいずれかに設置することにより、運搬装置の密閉空間内の複数の所定の位置のいずれかに前記ピペットが設置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1または第2の側面によれば、培地交換や継代の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した培養処理装置システムの正面図である。
【図2】本発明を適用した培養処理装置システムの平面図である。
【図3】本発明を適用した培養処理装置システムのブロック図である。
【図4】容器運搬ケースの側面図である。
【図5】容器運搬ケースの装着状態での側面図である。
【図6】容器運搬ケースの平面図である。
【図7】容器運搬ケースの装着状態での平面図である
【図8】容器運搬ケースの装着状態での背面図である。
【図9】容器運搬ケースに設けられるガイド部材の第1の実施の形態を示す図である。
【図10】本発明を適用したピペットの第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図11】本発明を適用したピペットの第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図12】容器運搬ケースに設けられるガイド部材の第2の実施の形態を示す図である。
【図13】ピペットの使用例を示す図である。
【図14】プレート傾斜器の側面図である。
【図15】プレート傾斜器の使用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1および図2は、本発明を適用した培養処理装置システム1の正面図および平面図である。また、図3は、培養処理装置システム1のブロック図である。
【0016】
培養処理装置システム1は、培養処理装置の一例であるインキュベータ11と、容器運搬ケース12とを有している。
【0017】
インキュベータ11は、上部ケーシング13と下部ケーシング14とを有している。インキュベータ11の組立状態において、上部ケーシング13は下部ケーシング14の上に載置されている。なお、上部ケーシング13と下部ケーシング14との内部空間は、ベースプレート15によって上下に仕切られている。
【0018】
また、上部ケーシング13の内部には、生体試料(細胞など)の培養を行う恒温室16が形成されている。この恒温室16には、ガス分析センサ17とガス調整部18とが配置されている。なお、恒温室16内には、温度制御装置や湿度制御装置などがさらに配置されていてもよい(温度制御装置、湿度制御装置などの図示は省略する)。
【0019】
ここで、ガス分析センサ17は、恒温室16内の雰囲気ガスの組成を検出する。また、ガス調整部18は、二酸化炭素ボンベ、酸素ボンベおよび窒素ボンベ(各ボンベの図示は省略する)と接続されている。そして、ガス調整部18は、各ボンベから恒温室16にガスを導入して、恒温室16内の雰囲気ガスの組成を調整する。これにより、インキュベータ11は、恒温室16内の状態を生体試料の培養に適した低酸素環境に維持できる(図1,図2でのガス分析センサ17、ガス調整部18の図示はいずれも省略する)。なお、ガス調整部18は、恒温室16外にガスを供給する配管(不図示)を有しており、容器運搬ケース12に対して上記のガスを供給することもできる。
【0020】
恒温室16の前面(図2の下側)には、外扉19および内扉20が配置されている。外扉19は、上部ケーシング13および下部ケーシング14の前面を覆っている。内扉20は、外扉19の内側で上部ケーシング13の前面を覆っており、外扉19の開放時に恒温室16と外部との環境を隔離する。また、外扉19および内扉20は、パッキンP1,P2によりそれぞれ気密性が維持されている。なお、外扉19には、モニタ21および操作パネル22が取り付けられている。
【0021】
また、恒温室16の右側面(図2の右側)には、恒温室16と外部とを連絡する搬出入口23が開口されている。この搬出入口23は、培養容器32を搬出入するときに用いられる。そして、搬出入口23は、スライドによって開閉する気密扉24で密閉される。なお、上記の気密扉24は、扉駆動装置25によって自動的に開閉させることができる。
【0022】
なお、上部ケーシング13の外側での搬出入口23の周囲には、容器運搬ケース12の装着位置を示す環状のガイド片26と、容器運搬ケース12との通信を行うための電気接点27とが設けられている(なお、電気接点27は図3でのみ示す)。
【0023】
また、恒温室16には、ストッカー28、観察ユニット29、容器搬送装置30、容器搬出入装置31が配置されている。
【0024】
ストッカー28は、上部ケーシング13の前面(図2の下側)からみて恒温室16の左側に配置される。ストッカー28は複数の棚を有しており、ストッカー28の各々の棚には培養容器32を複数収納することができる。そして、各々の培養容器32には生体試料が培地とともに収容される。
【0025】
観察ユニット29は、上部ケーシング13の前面からみて恒温室16の右側に配置される。この観察ユニット29では、培養容器32内の生体試料のタイムラプス観察を実行することができる。
【0026】
この観察ユニット29は、上部ケーシング13のベースプレート15の開口部に嵌め込まれて設置される。観察ユニット29は、試料台33と、試料台33の上方に張り出したスタンドアーム34と、顕微光学系および撮像装置を内蔵した本体部分35とを有している。そして、試料台33およびスタンドアーム34は恒温室16に配置される一方で、本体部分35は下部ケーシング14に収納される。
【0027】
試料台33は透光性の材質で構成されており、その上に培養容器32を載置することができる。この試料台33は水平方向に移動可能に構成されており、上面に載置した培養容器32の位置を調整することができる。また、スタンドアーム34には光源が内蔵されている。そして、撮像装置は、スタンドアーム34によって試料台33の上側から透過照明された生体試料を顕微光学系を介して撮像する。かかる構成により、生体試料の顕微鏡観察を環境条件を変化させることなく行うことが可能となる。
【0028】
容器搬送装置30は、上部ケーシング13の前面からみて恒温室16の中央に配置される。容器搬送装置30は、多関節アームを有する垂直ロボットの先端に、培養容器32を挟持するためのアームを取り付けて構成されている。これにより、容器搬送装置30は、ストッカー28、観察ユニット29の試料台33、容器搬出入装置31との間で培養容器32の受け渡しを行うことができる。
【0029】
容器搬出入装置31は、搬出入口23の付近に配置されている。本実施形態の例では、観察ユニット29の上方に容器搬出入装置31が配置されている。この容器搬出入装置31には、上下方向に3つの培養容器32を収納できるラック36をマウントできる。そして、容器搬出入装置31は、上記のホルダを搬出入口23の外側にスライドさせることで、搬出入口23からラック36ごと培養容器32の搬出入を行う。なお、ラック36への培養容器32の出し入れは、容器搬送装置30によって行われる。
【0030】
一方、下部ケーシング14には、観察ユニット29の本体部分35や、制御装置37が収納されている。ここで、制御装置37は、培養処理装置システムの統括的な制御を行うコンピュータであって、ガス分析センサ17、ガス調整部18、気密扉24の扉駆動装置25、モニタ21および操作パネル22、観察ユニット29、容器搬送装置30、容器搬出入装置31とそれぞれ接続されている(図3参照)。また、制御装置37は、電気接点27を介して容器運搬ケース12側のケースマイコン48との通信を実行する。さらに、制御装置37は記憶部38を内蔵している。この記憶部38には、恒温室16内に収納された培養容器32の登録情報や、各々の培養容器32の観察スケジュールや、観察ユニット29で撮像した顕微鏡画像のデータなどが記憶される。
【0031】
次に、図4から図9を参照しつつ、容器運搬ケース12の構成を説明する。この容器運搬ケース12は、インキュベータ11の搬出入口23の外側に装着できるように構成されている。そして、容器運搬ケース12は、外部雰囲気から隔離された状態で培養容器32を運搬するときや、外部雰囲気から隔離された状態で培養容器32の搬出入を行うために用いられる。
【0032】
容器運搬ケース12のケース本体40は直方体状に形成されており、その内側に上記のラック36を収容できる容器収納室41を有している。また、ケース本体40の一面(図4から図7の右側)は上記の容器収納室41と連通するようにその全面が開口されている。さらに、容器収納室41からケース本体40の開口までの空間は、ラック36が通過可能なサイズに設定されている。なお、本実施形態でのケース本体40は、容器収納室41内の状態を視認できるように透明な材質で形成されている。
【0033】
この容器運搬ケース12は、開口部分が搬出入口23と対向するようにインキュベータ11に装着される。なお、容器運搬ケース12がインキュベータ11に装着された状態では、ケース本体40がインキュベータ11の搬出入口23を覆うとともに、ケース本体40の開口部はインキュベータ11の壁面と密着する。なお、ケース本体40の正面端部には、容器運搬ケース12の装着状態において気密性を保持するために、環状のシールリング42が取り付けられている。
【0034】
さらに、ケース本体40の両側面には、インキュベータ11側に設けられたガイド片26と係合する固定具43がそれぞれ設けられている。そのため、固定具43をガイド片26に係合させることで、容器運搬ケース12をインキュベータ11に確実に固定できる。
【0035】
また、ケース本体40の内側には両開きの仕切り扉44が設けられている。この仕切り扉44は、容器運搬ケース12に内蔵された電動の扉駆動装置45によって開閉させることができる。上記の仕切り扉44を開放した状態では、容器収納室41にラック36を搬出入することが可能となる。一方、上記の仕切り扉44を閉じた状態では、容器収納室41の入口が密閉されて外部雰囲気から遮断される。
【0036】
また、容器収納室41の内部には、容器収納室41内の雰囲気ガスの組成を検出するガス分析センサ46と、容器収納室41内のラック36の有無を検出する接触式の容器検出スイッチ47とが配置されている。扉駆動装置45、ガス分析センサ46および容器検出スイッチ47は、容器運搬ケース12に内蔵された制御用のケースマイコン48にそれぞれ接続されている。
【0037】
また、ケース本体40の開口近傍には、上記のケースマイコン48と接続された電気接点49が設けられている。そして、容器運搬ケース12の装着状態において、容器運搬ケース12側の電気接点49はインキュベータ11側の電気接点27と接触し、両者の間で電気的な接続が確立するようになっている(なお、電気接点49は図3でのみ示す)。
【0038】
また、ケース本体40の上面には、容器収納室41の雰囲気ガスの組成を調整するためのガス導入ポート50およびガス排出ポート51が設けられている。このガス導入ポート50およびガス排出ポート51は、容器運搬ケース12の装着状態においてガス調整部18からの配管と接続できるようになっている。そのため、インキュベータ11のガス調整部18は、ガス導入ポート50およびガス排出ポート51を介して、容器収納室41内の雰囲気ガスの組成を調整することができる。
【0039】
さらに、ケース本体40の背面側(開口との反対側)には、可撓性のグローブ52を取り付けた作業穴53が開口されている。これにより、ユーザは外部にいながら作業穴53からグローブ52に手を挿入して、容器収納室41の状態を確認しつつ種々の作業(例えば、培養容器32の蓋の開閉、培地交換、継代など)を行うことができる。
【0040】
また、容器収納室41の天井には、ピペットの位置決めを行うためのガイド54L,54Rが設けられている。ガイド54L,54Rは、例えば、金属製のワイヤからなり、図9に示されるように、それぞれ、底が滑らかな曲線状になった同じ形状の凹型の溝54La−1乃至54La−12および溝54Ra−1乃至54Ra−12が、所定の間隔で一直線上に並ぶように形成されている。なお、ガイド54L,54Rの隣接する溝の間隔は、例えば、生体試料の培養に用いるウェルプレートのウェルの間隔と一致するように設定される。
【0041】
ガイド54L,54Rは、その長手方向が仕切り扉44に対して垂直な方向を向き、所定の間隔で平行に整列するように、容器収納室41の天井に取付けられている。これにより、溝54La−1と溝54Ra−1、溝54La−2と溝54Ra−2、・・・、溝54La−12と溝54Ra−12の各ペアが、それぞれ所定の間隔を空けて対面するとともに、全てのペアが所定の間隔で縦方向に配列される。
【0042】
なお、以下、溝54La−1乃至54La−12を個々に区別する必要がない場合、単に溝54Laと称し、溝54Ra−1乃至54Ra−12を個々に区別する必要がない場合、単に溝54Raと称する。
【0043】
次に、図10を参照して、容器運搬ケース12内で使用するピペットの実施の形態について説明する。図10は、本発明を適用したピペット101の外観を模式的に表した斜視図である。なお、図中、ピペット101のヘッド111側を前側とし、ハンドル113側を後ろ側とする。
【0044】
ピペット101の直方体状のヘッド111の下面111Dには、チップ112−1乃至112−5の5個のチップが取付けられている(ただし、図中、チップ112−1乃至112−3のみが図示されている)。ピペット101は、このチップ112−1乃至112−5を用いて液体の注入または吸入を同時に行うことが可能で、計量可能なマルチチャンネルのピペットである。なお、以下、チップ112−1乃至112−5を個々に区別する必要がない場合、単にチップ112と称する。
【0045】
ヘッド111の背面111Bのほぼ中央には、ハンドル113が垂直に突出するように取付けられている。すなわち、ハンドル113は、チップ112が液体を注入または吸入する方向に対して、ほぼ垂直になるように傾けて設けられている。ユーザは、このハンドル113を把持し、ピペット101を動かしたり、操作したりする。ハンドル113の上部のほぼ中央には、ボタン114およびボタン115が前後に並ぶように設けられている。ボタン114を押下すると、外部(例えば、培養容器32など)からチップ112に液体を吸入することができ、ボタン115を押下すると、チップ112から外部(例えば、培養容器32など)に液体を注入することができる。さらに、ハンドル113の後端には、ダイヤル116が取付けられている。ダイヤル116は、例えば、各チップ112に吸入する液体の量、または、各チップ112から注入する液体の量を調整するために用いられる。
【0046】
ヘッド111の左面111Lのほぼ中央および右面111Rのほぼ中央には、それぞれ円柱状のバー117L,117Rが、垂直に突出するように設けられている。バー117L,117Rは、チップ112が液体を注入または吸入する方向およびハンドル113が突出する方向に対して垂直な支持軸であって、ピペット101を支持するための支持軸を構成し、後述するように、ピペット101を容器運搬ケース12の容器収納室41の所定の位置に支持するための支持部材として用いられる。また、バー117L,117Rの先端に、それぞれ円形のストッパ118L,118Rが形成されている。
【0047】
ガイド54L,54Rの間隔は、ピペット101のヘッド111の左右の幅より広く、ストッパ118Lとストッパ118Rとの間隔より狭くなるように設定されている。従って、ピペット101の前後方向を、ガイド54L,54Rの長手方向と同じ方向に向けて、ガイド54L,54Rの互いに対向する溝(例えば、溝54La−1と溝54Ra−1)に、ピペット101のバー117Lおよびバー117Rを設置することにより、容器収納室41の所定の位置にピペット101を容易に設置することができる。これにより、例えば、生体試料を培養するためのウェルプレートのウェルの各列に対するチップ112の位置決めが容易になる。
【0048】
また、上述したように、ガイド54L,54Rの各溝54La,54Raの底が滑らかな曲線状になっているので、バー117L,117Rを溝54La,54Raに設置した状態で、バー117Lおよび117Rを軸にして、ピペット101を容易に回転させることができる。従って、ピペット101の位置決めを行った後、チップ112の向きを容易に調整することができる。
【0049】
さらに、上述したように、ピペット101のハンドル113が、チップ112が液体を注入または吸入する方向に対して、ほぼ垂直になるように傾けて設けられている。従って、容器運搬ケース12のように、容器収納室41内へのアクセスが作業穴53(グローブ52)に限定され、上方からのアクセスが制限される環境においても、容易にピペット101を操作したり、動かしたりすることができ、作業性が向上する。その結果、外部雰囲気から隔離された状態を保持したまま、グローブ52に手を挿入し、容器収納室41内で培地交換や継代などの作業を行うことが容易になる。
【0050】
なお、ガイド54Lの溝54Laの数、ガイド54Rの溝54Raの数、および、ピペット101のチップ112の数は、その一例であり、任意の数に設定することが可能である。
【0051】
また、ハンドル113は、必ずしもヘッド111の背面111Bに対して垂直に設ける必要はなく、例えば、ある程度上または下方向に傾けて設けるようにしてもよい。
【0052】
次に、図11乃至図13を参照して、ピペットと容器運搬ケース12に設けられるガイドの組み合わせの第2の実施の形態について説明する。
【0053】
図11は、本発明を適用したピペット201の外観を模式的に表した斜視図である。なお、図中、ピペット201のヘッド211側を前側とし、ハンドル113側を後ろ側とする。
【0054】
ピペット201の直方体状のヘッド211の下面211Dには、チップ212−1乃至212−5の5個のチップが取付けられている(ただし、図中、チップ212−1乃至212−4のみが図示されている)。ピペット201は、このチップ212−1乃至212−5を用いて液体の注入または吸入を同時に行うことが可能で、計量可能なマルチチャンネルのピペットである。なお、以下、チップ212−1乃至212−5を個々に区別する必要がない場合、単にチップ212と称する。
【0055】
ヘッド211の背面211Bのほぼ中央には、ピペット101と同じハンドル113が垂直に突出するように取付けられている。
【0056】
ヘッド211の左面211L,右面211Rには、それぞれ角柱状のバー213L,213Rが、垂直に突出するように設けられている。バー213L,213Rは、チップ212が液体を注入または吸入する方向およびハンドル113が突出する方向に対して垂直な支持軸であって、ピペット201を支持するための支持軸を構成し、後述するように、ピペット201を容器運搬ケース12の容器収納室41の所定の位置に支持するための支持部材として用いられる。また、バー213Lは、ヘッド211の左面211Lに形成されている溝211Laに案内されて上下に平行移動することが可能である。同様に、バー213Rは、ヘッド211の右面211Rに形成されている溝211Ra(不図示)に案内されて上下に平行移動することが可能である。
【0057】
図12は、ピペット201に対応して、ガイド54L,54Rの代わりに容器運搬ケース12に設けられるガイド231L,231Rの一例を示している。ガイド231L,231Rは、それぞれ、同じ形状の方形の溝231La−1乃至231La−12および溝231Ra−1乃至231Ra−12が、所定の間隔で一直線上に並ぶように形成されている。なお、ガイド231L,231Rの隣接する溝の間隔は、例えば、生体試料の培養に用いるウェルプレートのウェルの間隔と一致するように設定される。
【0058】
ガイド231L,231Rは、容器収納室41の天井のガイド54L,54Rが取付けられた位置とほぼ同じ位置に取付けられる。これにより、溝231La−1と溝231Ra−1、溝231La−2と溝231Ra−2、・・・、溝231La−12と溝231Ra−12の各ペアが、それぞれ所定の間隔を空けて対面するとともに、全てのペアが所定の間隔で縦方向に配列される。
【0059】
なお、以下、溝231La−1乃至231La−12を個々に区別する必要がない場合、単に溝231Laと称し、溝231Ra−1乃至231Ra−12を個々に区別する必要がない場合、単に溝231Raと称する。
【0060】
ガイド231L,231Rの内側の間隔は、ピペット201のヘッド211の左右の幅より広く、ピペット201のバー213Lの左端からバー213Rの右端までの間隔より狭い。従って、ピペット201の前後方向を、ガイド231L,231Rの長手方向と同じ方向に向けて、ガイド231L,231Rの互いに対向する溝(例えば、溝231La−1と溝231Ra−1)に、ピペット201のバー213Lおよびバー213Rを設置することにより、容器収納室41の所定の位置にピペット201を容易に設置することができる。これにより、例えば、図13に示されるように、生体試料を培養するためのウェルプレート251のウェルの各列に対するチップ212の位置決めが容易になる。なお、図13では、図を分かりやすくするために、ピペット201のハンドル113の図示を省略している。
【0061】
また、ピペット201は、バー213L,213Rをガイド231L,ガイド231Rの溝231La,231Raに設置した状態で、バー213L,213Rを軸にして、ヘッド211を上下方向にスライドさせることができる。さらに、バー213L,213Rが、それぞれ溝211La,211Raの下端に当接するまでヘッド211を上にスライドさせた後、さらにヘッド211を上に持ち上げると、溝211La,211Raの下端に支持されてバー213L,213Rが持ち上がり、溝231La,231Raからバー213L,213Rを抜くことができる。
【0062】
さらに、ピペット201も、ピペット101と同様の理由により、容器運搬ケース12のように、容器収納室41内へのアクセスが作業穴53(グローブ52)に限定され、上方からのアクセスが制限される環境においても、容易に操作したり、動かしたりすることができ、作業性が向上する。
【0063】
なお、ガイド231Lの溝231Laの数、ガイド231Rの231Raの数、および、ピペット201のチップ212の数は、その一例であり、任意の数に設定することが可能である。
【0064】
また、ハンドル113は、必ずしもヘッド211の背面211Bに対して垂直に設ける必要はなく、例えば、ある程度上または下方向に傾けて設けるようにしてもよい。
【0065】
次に、図14および図15を参照して、容器運搬ケース12内で使用することが可能なプレート傾斜器301について説明する。図14は、プレート傾斜器301の外観を模式的に表した側面図であり、図15は、プレート傾斜器301の上にウェルプレート351を載置した状態を示す模式図である。なお、図中、プレート傾斜器301のベース311側を前側とし、ハンドル315側を後ろ側とする。
【0066】
プレート傾斜器301は、ベース311の上に、バネ312およびバネ313を介して、プレート314が設けられている。また、ベース311の後端には、ハンドル315が取付けられている。ユーザは、このハンドル315を把持し、プレート傾斜器301を動かしたり、操作したりする。また、ハンドル315の上部のほぼ中央には、ボタン316およびボタン317が前後に並ぶように設けられている。ボタン316を押下すると、バネ312が伸び、バネ313が縮み、ボタン317を押下すると、バネ312が縮み、バネ313が伸びる。これにより、プレート314の前後方向の傾斜角を調整することができる。
【0067】
従って、例えば、図15に示されるように、プレート314の上にウェルプレート351を載置した状態で、ウェルプレート351の前後方向の傾斜角を調整することができる。これにより、例えば、容器運搬ケース12内などのアクセスが制限される環境下で、ピペット101のチップ112、または、ピペット201のチップ212に対するウェルプレート351の傾きを容易に調整することができ、ウェルプレート351に対する液体の注入または吸入が行いやすくなる。
【0068】
なお、以上の説明では、ピペットの位置決め用のガイドが、2つの部材(ガイド54L,54R、または、ガイド231L,231R)により構成される例を示したが、1つの部材または3つ以上の部材により構成するようにしてもよい。
【0069】
また、ガイドの取付け位置は、容器収納室41の天井に限定されるものではなく、例えば、容器収納室41の側面や床面に取付けるようにしてもよい。あるいは、例えば、容器収納室41の壁面にガイドを形成するようにしてもよい。
【0070】
さらに、以上の説明では、ピペット101の支持軸(バー117L,117R)およびピペット201の支持軸(バー213L,213R)を設置するための設置場所として、凹型の溝を用いる例を示したが、溝以外の形状または構造の設置場所を設けるようにしてもよい。
【0071】
また、以上の説明では、ピペット101およびピペット201の設置用の支持部材として支持軸を用いる例を示したが、支持軸以外の形状または構造の支持部材を用いるようにしてもよい。
【0072】
さらに、液体の注入または吸入を行うためのピペットの操作部材は、上述したボタンに限定されるものではなく、例えば、スイッチやレバーなどの他の操作部材により構成するようにしてもよい。
【0073】
また、以上の説明では、液体の注入または吸入を行うピペットの例を示したが、本発明は、気体の注入または吸入に用いるピペットにも適用することが可能である。
【0074】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 培養処理装置システム, 11 インキュベータ, 12 容器運搬ケース, 16 恒温室, 23 搬出入口, 30 容器搬送装置, 31 容器搬出入装置, 32 培養容器, 40 ケース本体, 41 容器収納室, 42 シールリング, 44 仕切り扉, 45 扉駆動装置, 52 グローブ, 53 作業穴, 54L,54R ガイド, 54La−1乃至54Ra−12 溝, 101 ピペット, 111 ヘッド, 112−1乃至112−5 チップ, 113 ハンドル, 114,115 ボタン, 116 ダイヤル, 117L,117R バー, 118L,118R ストッパ, 201 ピペット, 211 ヘッド, 212−1乃至212−5 チップ,213L,213R バー, 231L,231R ガイド, 231La−1乃至231Ra−12 溝, 301 プレート傾斜器, 311 ベース, 312,313 バネ, 314 プレート, 315 ハンドル, 316,317 ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体または気体を注入または吸入し、計量可能なピペットにおいて、
前記液体または気体を注入または吸入するチップと、
前記チップを保持するヘッド部と、
前記ヘッド部から延びた、前記液体または気体を注入または吸入する際にユーザが把持するためのハンドルと、
前記ハンドルに設けられ、前記液体または気体を注入または吸入する操作部材と、
前記ヘッド部に設けられ、前記チップが前記液体または気体を注入または吸入する方向と直交する方向に延びた支持部材と
を備え、
前記支持部材を基点にして、ユーザが前記液体または気体を注入する方向に対して傾けて使用される
ことを特徴とするピペット。
【請求項2】
前記支持部材は、前記液体または気体を注入または吸入する方向に対して垂直に設けられている支持軸により構成される
ことを特徴とする請求項1に記載のピペット。
【請求項3】
密閉空間が形成され、前記密閉空間内に、細胞の入った培養容器を格納し、運搬に用いられる運搬装置において、
前記密閉空間内に設けられ、請求項1に記載のピペットに設けられた前記支持部材を設置するための複数のガイド部材を有し、
前記ガイド部材のいずれかに前記支持部材を設置することにより、前記密閉空間内の複数の所定の位置のいずれかに前記ピペットを設置することが可能である
ことを特徴とする運搬装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記ピペットが前記液体または気体を注入または吸入する方向に対して垂直に設けられている支持軸により構成され,
前記複数のガイド部材として、所定の間隔を空けて対面し、前記支持軸を設置するための凹部のペアが所定の方向に複数配列されている
ことを特徴とする請求項3に記載の運搬装置。
【請求項5】
前記凹部の底が滑らかな曲線状になっている
ことを特徴とする請求項4に記載の運搬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−273574(P2010−273574A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127209(P2009−127209)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】