説明

ファラデー回転ミラーおよびその製造方法

【課題】小型で、製作作業性や信頼性、結合効率に優れたファラデー回転ミラーを提供する。
【解決手段】本発明に係るファラデー回転ミラー1は、シングルモードファイバ2と、グレーデッドインデックスファイバ3と、ファラデー回転子5と、全反射ミラー6とを順次配し、グレーデッドインデックスファイバ3とファラデー回転子5との間、および、ファラデー回転子5と全反射ミラー6との間の少なくとも一方に、光学接着剤8a,8bを介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバセンサシステムや光増幅システムなどの動作をより安定させるために適用される光受動部品のファラデー回転ミラーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンサは、系の経路が主として光ファイバで構成され且つ検知要素を光ファイバの光路のいずれかに持つものである。ここで、検知要素とは、検知対象から検知される量に応じて光学的な特性変化を受けるものである。光ファイバセンサでは、振動、圧力、温度、電界、磁界、音波などの外力を検知すべくシングルモードファイバを検知要素として用いる場合、例えばこれらの外力によるシングルモードファイバの光路長の変化がファイバ干渉計によって検出される。
【0003】
しかしながら、このような光ファイバセンサにおいては、光ファイバ中の複屈折による光の偏波状態の偶発的な変化に起因して、出力干渉縞のゆらぎや信号の消滅が起こることが問題となる。
【0004】
このような問題に対して、非特許文献1ではファイバ干渉計の一部にファラデー回転ミラーを使用することが提案されている。このファラデー回転ミラーは、光ファイバ中の複屈折により発生する偏波状態の変動を抑制し、任意の入力偏波状態を維持する機能を担う光部品である。
【0005】
図8は、従来のファラデー回転ミラー21の構成を表す断面図である。ファラデー回転ミラー21は、光ファイバ22、結合用レンズ23、ファラデー回転子25、全反射ミラー26、磁石27を用いて構成されている。
【0006】
光ファイバ22はシングルモードファイバである。結合用レンズ23は、後述の全反射ミラー26で反射した光を光ファイバ22に効率よく結合するための部材であり、光ファイバ22の一端部と対向するように配設されている。ファラデー回転子25は、所定の磁界を印加することにより、入射される光の偏波方向を所定角度回転させる機能を担う部材であり、例えばビスマス置換ガーネット結晶により構成される。ファラデー回転子25の厚さは、例えば入射される光の偏波方向が45°回転するように設定される。全反射ミラー26は、光ファイバ22から出射された光を反射するための部材であり、結合用レンズ23およびファラデー回転子25を介して光ファイバ22の一端部と対向するように配設されている。磁石27は、ファラデー回転子25に所定(例えば、ビスマス置換ガーネット結晶の飽和磁界強度以上)の磁界を印加するための部材である。
【0007】
図9は、光ファイバ22の方向から見た、ファラデー回転ミラー21内における光の偏波状態を説明するための図である。以下、図9を参照しつつ、ファラデー回転ミラー21の動作原理について説明する。なお、便宜上、光ファイバ22から出射した光を入射光、全反射ミラー26で反射された光を反射光と称するとともに、入射光の進行方向を順方向、反射光の進行方向を逆方向と称する。また、入射偏波方向を一直線偏波としたが、本説明はこれに限ることなく、任意の偏波方向にも適応される。
【0008】
まず、光ファイバ22から出射した入射光(図9−a)は、ファラデー回転子25を透過し、その偏波方向が順方向から見て時計回りに45°回転させられる(図9−b)。その後、全反射ミラー26で反射された反射光(図9−c)は、再び逆方向からファラデー回転子25に入射する。ファラデー回転子25を逆方向に透過した反射光はさらにその偏波方向を順方向から見て時計回りに45°回転させられ(図9−d)、光ファイバ22に入射する。その結果、ファラデー回転ミラー21の反射光は、入射光に対して直交する偏波方向となり、入射光が受けたのとちょうど逆の複屈折を受けるため、任意の入力偏波状態に対して出力偏波状態はそれと直交する状態に安定化される。
【0009】
図8、図9に示すようなファラデー回転ミラー21は、光ファイバセンサシステムの他、光ファイバ増幅システムにも応用されている。光ファイバ増幅システムでは、一般的にエルビウムをドープしたシングルモードファイバ(長さ:数10〜数100m)を用いているため、光ファイバ中の複屈折により偏波状態が変化するという問題、さらには長距離光ファイバ通信システムで信号波形劣化をもたらす偏波モード分散という問題があるが、ファラデー回転ミラー21を用いることにより、それらが補償されるため、より安定した出力を得ることができる。
【0010】
また、特許文献1では、小型化を図るべく、結合用レンズに代えて、コア拡大ファイバ(光ファイバと外径が同じ)を用いている。さらに、工程数の削減や組立の簡素化を図るべく、ファラデー回転子の一端面に全反射ミラー膜を形成させたり、コア拡大ファイバとファラデー回転子とを光学接着剤を介して密着させたりする提案がされている。
【0011】
図10、特許文献1のファラデー回転ミラー31の構成を表す断面図である。ファラデー回転ミラー31は、コア拡大ファイバ33、ファラデー回転子35、全反射ミラー膜36、円筒型磁石37、光学接着剤38を用いて構成されている。
【0012】
コア拡大ファイバ33は、コア33aとクラッド33bよりなる。コア拡大ファイバ33は、一般的なシングルモードファイバを局所的に加熱することにより作製される。このような加熱を行うと、コア33aにドープされたGeなどが熱拡散するため、コア33aが拡大するのである。ファラデー回転子35は、上述のファラデー回転子25と同様の構成を有する部材である。全反射ミラー膜36は、多層誘電体からなり、ファラデー回転子35の一端面に直接形成されている。全反射ミラー膜36は、光の損失が小さく、高反射率(例えば99%以上)を有する。円筒型磁石37は、上述の磁石27と同様の機能を担う部材である。
【0013】
一般的に、光ファイバからの放射ビームの発散角はコア径が大きくなるほど小さくなり、平行光に近づいていく。したがって、発散角が大きい場合、反射光はコア拡大ファイバ33に結合し難くなる。特許文献1ではコア径を3〜4倍に拡大することで結合効率の低下、すなわち挿入損失の増加を抑制している。一方、コア拡大ファイバ33の端面から全反射ミラー膜36までの距離が長くなるほど放射ビームは発散し、結合効率の低下を招くため、ファラデー回転子35はコア拡大ファイバ33に密着させて実装される。特許文献1では、光学接着剤38の厚さは極めて小さく、10μm以下に設定されている。
【0014】
さらに特許文献2ではコア拡大ファイバを用い、台形状のファラデー回転子を用いることで不要反射光の戻り光を抑制することが提案されている。
【0015】
図10は、特許文献2のファラデー回転ミラー41を表す断面図である。ファラデー回転ミラー41は、コア拡大ファイバ43、ファラデー回転子45、全反射ミラー膜46、円筒型磁石47、光学接着剤48よりなる。
【0016】
コア拡大ファイバ43は、その一端面(ファラデー回転子45との対向面)が光軸の垂直軸に対して傾斜している点においてのみ、上述のコア拡大ファイバ33と相違している。ファラデー回転子45は、その一端面においてコア拡大ファイバ43と接続した状態で、その他端面が光軸に対して垂直となるような形状(図10では台形状)に構成されている。全反射ミラー膜46、円筒型磁石47および光学接着剤48は、上述の全反射ミラー膜36、円筒型磁石37および光学接着剤38と同様の構成を有する部材である。
【非特許文献1】Electronics Letter 14th March 1991 vol27 No6
【特許文献1】特許第3548283号
【特許文献2】特許第3602891号
【特許文献3】特開2002−14253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、図7に示すように、結合用レンズ23を用いるファラデー回転ミラー21においては、以下のような問題点があった。
【0018】
ファイバ干渉計の検知部や光ファイバ増幅システムでは、ファラデー回転ミラー21を光ファイバや光ファイバカプラ等と接続して筐体内に実装されるが、光ファイバの外径φ0.25mm、光ファイバカプラの外径φ2〜3mmに対して、ファラデー回転ミラー21はφ5mmと大きいため、装置の大型化の原因となっている。なお、ファラデー回転ミラー21がφ5mm程度の大きさになるのは、結合用レンズ23の径が2mm程度の大きさであるのに加え、結合用レンズ23を他の構成部品と接合するための金具等を含めるとφ5mm程度と大きくになってしまう。
【0019】
また、ファラデー回転ミラー21では、光ファイバ22、結合用レンズ23および全反射ミラー26を高精度で光学調整する必要がある。したがって、ファラデー回転ミラー21では、工程数が多くなるのに加え、組立が煩雑となるため、製作時間がかかってしまう。
【0020】
一方、ファラデー回転ミラー31では、外径がφ0.125mmのコア拡大ファイバ33を採用することにより小型化を図るとともに、工程数の削減および組立の簡素化を提案している。しかしながら、ファラデー回転ミラー31では、コア拡大ファイバ33の作製時にシングルモードファイバのコア径を3〜4倍に拡大すべく、高温(例えば1200℃)で長時間(例えば12時間)の加熱が必要であるため、作業性が悪く、製作時間の短縮も充分に改善することができない。また、ファラデー回転ミラー31では、高温で長時間の熱処理を行うことに起因して信頼性が低下してしまう場合がある。さらに、ファラデー回転ミラー31では、ファラデー回転子35の端面で発生する不要反射光(戻り光)がほぼコア拡大ファイバ33に結合してしまう問題がある。
【0021】
他方、ファラデー回転ミラー41では、台形状のファラデー回転子45を採用することにより不要反射光を抑制することが提案されている。しかしながら、ファラデー回転ミラー41では、ファラデー回転ミラー31と同様、作業性や製作時間、信頼性などの問題を充分に解消できていない。
【0022】
なお、ファラデー回転子45には、挿入損失の低減をすべく、全反射ミラー膜46が直接蒸着されている。一般的に、コア拡大ファイバ43からの放射ビームの発散角はコア径が大きくなるほど小さくなり、平行光に近づいていく傾向にある。そのため、コア径が小さいほど(発散角が大きいほど)、反射光はコア拡大ファイバ43に結合し難くなる。したがって、ファラデー回転ミラー41は、コア径を3〜4倍に拡大することで結合効率の低下、すなわち挿入損失の増加を抑制している。また、コア拡大ファイバ43の端面から全反射ミラー膜46までの距離が長くなるほど放射ビームが発散してしまうため、ファラデー回転ミラー41では全反射ミラー膜46をファラデー回転子45に直接形成させることにより、挿入損失の増加を抑制している。
【0023】
図11は、特許文献3の光学結合系を表す図であり、(a)はその要部拡大断面図、(b)はグレーデッドインデックスファイバ53の要部拡大断面図、(c)はグレーデッドインデックスファイバ53を透過する光線のイメージ図である。図11に示す光学結合系は、光ファイバ52、グレーデッドインデックスファイバ53、コアレスファイバ54からなり、コアレスファイバ54の一部を光学機能素子に置換することで、透過光学系の光受動部品を提供することができる。グレーデッドインデックスファイバ53は、コア53aおよびクラッド53bからなり、コア53aは中心部で最大となり、外周部に向かい屈折率が段階的(または連続的)に低下する屈折率分布を有しているため、グレーデッドインデックスファイバ53を透過する光線は周期的に屈曲して伝播する。グレーデッドインデックスファイバ53は、適当な長さに切断することにより、平行光や集束光に対応することができるレンズとして機能する。
【0024】
このようなグレーデッドインデックスファイバ53の基本的構造は光通信に用いられる、マルチモードファイバに採用されるが、外径の太い母材を作製して母材を引き延ばすことにより大量に生産することが可能であり、コア拡大ファイバ33,43に比較して極めて生産性が高い特徴がある。
【0025】
しかしながら、グレーデッドインデックスファイバ53は、上述のように長さによってレンズ性能が変化するため、ファイバ長を高精度に調節する必要がある。グレーデッドインデックスファイバ53は、一般の光ファイバと同様に劈開によりカットされ、例えばファイバカッターにより容易に切断することができるため、加工作業性に優れているが、このような設備によりファイバをカットすると例えば数十μmの長さバラツキが生じてしまう。したがって、このため図10(a)のようにファイバ端面に密着させてファラデー回転子を接続すると、グレーデッドインデックスファイバ53の長さバラツキにより、結合距離が一致しないため、充分な結合が得られないという問題がある。
【0026】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、小型で、製作作業性や信頼性、結合効率に優れたファラデー回転ミラーを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、シングルモードファイバと、グレーデッドインデックスファイバと、ファラデー回転子と、全反射ミラーとを順次配し、前記グレーデッドインデックスファイバと前記ファラデー回転子との間、および、前記ファラデー回転子と前記全反射ミラーとの間の少なくとも一方に、光学接着剤を介在させることを特徴とする。
【0028】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記グレーデッドインデックスファイバと前記ファラデー回転子との間、および、前記ファラデー回転子と前記全反射ミラーとの間の少なくとも一方に、コアレスファイバを更に介在させてもよい。
【0029】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記コアレスファイバのファラデー回転子との対向面が前記グレーデッドインデックスファイバの光軸と直交する面に対して傾斜し、前記ファラデー回転子が前記コアレスファイバの前記対向面に密着し、前記全反射ミラーが前記グレーデッドインデックスファイバの光軸に対し垂直に配されているのが好ましい。
【0030】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記光学接着剤の厚さが10μm以上であるのが好ましい。
【0031】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記全反射ミラーが前記ファラデー回転子に直接成膜されているのが好ましい。
【0032】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記グレーデッドインデックスファイバの長さが該グレーデッドインデックスファイバを伝搬する光の1周期の0.31〜0.5倍であるのが好ましい。
【0033】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記シングルモードファイバとグレーデッドインデックスファイバとが貫通孔を有するフェルールの該貫通孔内に配されているのが好ましい。
【0034】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記全反射ミラーの外形が前記グレーデッドインデックスファイバの光軸方向から見て、前記ファラデー回転子の外形の範囲内に位置しているのが好ましい。
【0035】
第1の側面に係るファラデー回転ミラーは、前記グレーデッドインデックスファイバの光軸方向から見て、前記ファラデー回転子および前記全反射ミラーが略正方形であり、前記ファラデー回転子の外形線と前記全反射ミラーの対角線とが略平行であるのが好ましい。
【0036】
本発明の第2の側面に係るファラデー回転ミラーの製造方法は、シングルモードファイバと、グレーデッドインデックスファイバと、ファラデー回転子と、全反射ミラーとを順次配し、前記グレーデッドインデックスファイバと前記ファラデー回転子との間、および、前記ファラデー回転子と前記全反射ミラーとの間の少なくとも一方に、光学接着剤を介在させる工程と、光学接着剤の厚さを調整する工程と、光学接着剤を硬化させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明の第1の側面に係るファラデー回転ミラーでは、グレーデッドインデックスファイバとファラデー回転子との間、および、ファラデー回転子と全反射ミラーとの間の少なくとも一方に、光学接着剤が介在している。そのため、本ファラデー回転ミラーでは、例えば光学接着剤の厚さを調節することにより、グレーデッドインデックスファイバの長さやファラデー回転子の厚さにおける加工バラツキに起因するファラデー回転ミラーの特性(挿入損失など)の悪化を抑制することができる。すなわち、本ファラデー回転ミラーでは、例えば全反射ミラーで反射した光を光ファイバに効率よく結合するための結合用レンズに比べて小型化を図るのに好適で、且つ、例えばコア拡大ファイバに比べて製作作業性および信頼性の向上を図るのに好適であるものの、加工バラツキに起因する特性(挿入損失など)の悪化が懸念されたグレーテッドインデックスファイバを適用することが可能となる。したがって、本ファラデー回転ミラーは、小型で、製作作業性や信頼性に優れているのに加え、挿入損失の低減の観点においても優れているのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に実施例として、本発明によるファラデー回転ミラーについて説明する。
【0039】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るファラデー回転ミラー1の構成を模式的に示す。ファラデー回転ミラー1は、シングルモードファイバ2、グレーデッドインデックスファイバ(GIF)3、コアレスファイバ4、ファラデー回転子5、全反射ミラー6、磁石7、光学接着剤8a、8bを含んで構成される。
【0040】
光ファイバ2は、その一端部から入射した光をその他端部から出射すべく、光を導くためのものである。光ファイバ2を構成する材料としては、石英ガラス、多成分系ガラス、プラスチックなどが挙げられる。
【0041】
グレーデッドインデックスファイバ3は、光ファイバ2のコア部分の中心を最大とする所定の屈折率分布を有する光ファイバである。グレーデッドインデックスファイバ3を伝搬する光は、図11(c)に示すように、グレーデッドインデックスファイバ3の長さに対して周期性を持って蛇行し(蛇行周期)、透過する。この蛇行周期は、通常光の波長に関係なく一定である。図11(c)では、グレーデッドインデックスファイバ3の長さがサインカーブの1周期分に相当する場合の状態が示されており、この長さを1ピッチと規定する。なお、グレーデッドインデックスファイバ3がレンズ機能を適切に担うべく、グレーデッドインデックスファイバ3の出射角度が絞られる範囲(ピッチが0.25〜0.5の範囲)でグレーデッドインデックスファイバ3の長さが設定される。ピッチが0.25の場合、最適結合距離は理論上無限大であり、ピッチが0.5の場合、最適結合距離は理論上ゼロとなる。
【0042】
図2は、グレーデッドインデックスファイバ3の長さ(GIF長)とその最適結合距離との関係を示す。図2によく表れているように、グレーデッドインデックスファイバ3の長さが長くなるにつれて、最適結合距離は短くなる。この最適結合距離とファラデー回転子5の厚さとの差が小さい(例えば300μm以下の)場合、コアレスファイバ4を省略してもよい。ここで、最適結合距離とは、シングルモードファイバ2の出射端の光がグレーデッドインデックスファイバ3により結像する点と、グレーデッドインデックスファイバ3の端面との間の距離を意味しており、この結像点に全反射ミラー6を配設すると、反射光はシングルモードファイバ2の出射端に結像するため、反射率が最大となる結合を得ることができる。なお、本実施形態における最適結合距離は、コアレスファイバ4の長さと、ファラデー回転子5の厚さと、光学接着剤8a,8bの厚さとの総和に実質的に等しい。但し、ファラデー回転子5の厚さとは、物理的な厚さではなく、シングルモードファイバ2、グレーデッドインデックスファイバ3、コアレスファイバ4、光学接着剤8a、8bと同等な屈折率(例えば1.46)に整合させた、光学的長さを示す。例えば、ファラデー回転子5がビスマス置換ガーネットの場合、屈折率は2.34であり、光学的な長さは物理的な長さに1.46/2.34を掛けた値となる。
【0043】
図3は、グレーデッドインデックスファイバ3の長さを規定するピッチ(pitch)と反射減衰量との関係を示す。図3によく表れているように、ピッチが0.31を超えると、反射減衰量は−30dB未満となる。ここで、反射減衰量とは、ファラデー回転ミラー1の全反射量に対する、全反射ミラー6以外の反射点の反射量の比である。全反射ミラー6以外の反射点は図1に示す各構成部材の界面において発生し、その発生量は屈折率差に起因する。特に、屈折率差の大きいファラデー回転子5の界面は反射減衰量が大きくなる。これら全反射ミラー6以外の反射点の内、ファラデー回転子5を透過しない反射光は、図8を用いて説明したような偏波状態が回転する光ではなくなり、ノイズ成分となる。また、「−30dB」とは、「10×log(1/1000)」で与えられる数値であり、全反射量に対し1/1000の反射量(0.1%のノイズ)を示すものである。したがって、「反射減衰量−30dB未満」とは、ノイズ成分を0.1%未満にすることを意味する。
【0044】
コアレスファイバ4は、光学的な結合距離を調整するための部材であり、屈折率分布を実質的に持たない均質な構成を有する。
【0045】
ファラデー回転子5は、例えば所定の磁界を印加することにより、入射される光の偏波方向を所定角度回転させる機能を担う部材であり、ビスマス置換ガーネット結晶などにより構成される。ファラデー回転子5の厚さは、例えば入射される光の偏波方向が45°回転するように設定される。具体的には、入射する光の波長により異なるが1550nmの場合、350〜500μm(物理的な厚さ)である。なお、ファラデー回転子5は、その表面に光の反射を防止するための反射防止膜(図示せず)を施すのが好ましい。この反射防止膜としては、例えばARコートが挙げられ、その形成位置としては、例えばファラデー回転子5の一方の主面に全反射ミラー6が形成される場合、他方の主面が挙げられる。このような反射防止膜をファラデー回転子5の表面に施すことにより、ファラデー回転ミラー1の不要反射(反射戻り光)を低減することができるのである。
【0046】
ここで、ファラデー回転子5の製造方法の一例について説明する。まず、大判(例えば、10mm角以上)の平板に対して研磨加工を施す。次に、必要に応じて研磨加工を施した表面の所定箇所に反射防止膜を施す。次に、反射防止膜を施した平板をダイシングカットなどにより所定の大きさ(例えば、1mm角以下)に裁断する。以上のようにして、一つの大判の平板から100個以上のファラデー回転子5を取り出す。このような製造方法は、個々に加工する必要がなくなるため、製作作業性や量産性に優れている
全反射ミラー6は、光を実質的に全反射させるための部材であり、ガラス体(ガラス基板やコアレスファイバなど)の主面やファラデー回転子5の主面に形成されている。全反射ミラー6としては、例えば誘電体多層膜自体、ガラスなどからなる基板に誘電体多層膜を蒸着させた多層誘電体、該基板に反射率の高い金属(アルミニウムなど)を蒸着させたもの、およびアルミニウム板などが挙げられるが、高反射率(例えば99%以上)および低光損失の観点から誘電体多層膜や多層誘電体が好ましい。
【0047】
磁石7は、ファラデー回転子5に所定の磁界(光軸10と平行な磁界)を印加するための部材であり、本実施形態では円筒形である。なお、ファラデー回転子5として磁界の印加を必要としないものを採用する場合、磁石7は省略してもよい。
【0048】
光学接着剤8a,8bは、グレーデッドインデックスファイバ3と全反射ミラー6との間の離間距離を調整する機能を担う部材である。光学接着剤8a,8bとしては、エポキシ系やアクリル系の透光性樹脂が挙げられ、特に屈折率がコアレスファイバ4と同等(例えば1.45〜1.5)のものが好適である。また、光学接着剤8a,8bとしては、作業性の観点から可視光や紫外線や熱に対して硬化性を有するものが好適である。光学接着剤8a,8bによる調整は、光学接着剤8aおよび光学接着剤8bの少なくとも一方の厚さを変化させることにより行う。具体的には、まず、ファラデー回転子5と全反射ミラー6とを密着させた状態(例えば両者間の間隔が10μm以下の状態)で光学接着剤8bを硬化させることにより、ファラデー回転子5と全反射ミラー6とを一体化する。次に、結合状態を確認するために挿入損失を計測しつつ、所定の厚さ(例えば30μm以上)で且つ非硬化の状態(流動性のある状態)で介在させた光学接着剤8aの厚さを適宜変化させる。挿入損失の計測は、光源(商品名:Laser Source 81553SM、アジレント・テクノロジー株式会社製)の出射光を光サーキュレータ(型番:PICA-1550-S、株式会社応用光電研究室)を介してファラデー回転ミラー1に入射し、その反射光を再度光サーキュレータ(型番:PICA-1550-S、株式会社応用光電研究室)を介して、受光器(商品名:Optical Head 81521B、アジレント・テクノロジー株式会社製)で受けることにより行った。次に、所望の厚さ(例えば最適結合距離に応じて決定される厚さ)に変化させた光学接着剤8aを紫外線や熱などにより硬化させる。以上のようにして、上記調整を行うことができるのである。なお、上記調整後、必要に応じて磁石7を所定の位置に配設することにより、ファラデー回転ミラー1を得ることができる。
【0049】
本実施形態に係るファラデー回転ミラー1では、グレーデッドインデックスファイバ3とファラデー回転子5との間、および、ファラデー回転子5と全反射ミラー6との間に、光学接着剤8a,8bが介在している。そのため、ファラデー回転ミラー1では、光学接着剤8a,8bの厚さを調節することにより、グレーデッドインデックスファイバ3の長さやファラデー回転子5の厚さにおける加工バラツキに起因するファラデー回転ミラー1の特性(挿入損失など)の悪化を抑制することができる。すなわち、ファラデー回転ミラー1では、全反射ミラー6で反射した光を光ファイバに効率よく結合するための結合用レンズに比べて外径が小さく、且つ、例えばコア拡大ファイバに比べて製作作業性および信頼性の向上を図るのに好適であるものの、加工バラツキに起因する特性(挿入損失など)の悪化が懸念されるグレーテッドインデックスファイバ3を適用することが可能となる。したがって、ファラデー回転ミラー1は、小型で、製作作業性(量産性)や信頼性に優れているのに加え、挿入損失の低減においても優れているのである。
【0050】
ファラデー回転ミラー1では、図11に示すような加工が難しい台形上のファラデー回転子45を用いることなく、加工が簡素な平板状のファラデー回転子5を用いて、ピッチを調整することで反射減衰量の低減を図ることができる。
【0051】
ファラデー回転ミラー1は、光学接着剤8bの厚さが10μm以上である。最適結合距離は、コアレスファイバ4の長さと、ファラデー回転子5の光学的な厚さと、光学接着剤8a,8bの厚さとの総和に実質的に等しいが、コアレスファイバ4やファラデー回転子5は、その製造上数十μm単位のバラツキが生じるため、数μm単位の調整では有意な効果を得ることができない場合がある。したがって、ファラデー回転ミラー1は、有意なバラツキ調整を行ううえで好適なのである。
【0052】
ファラデー回転ミラー1は、コアレスファイバ4を採用することにより、光学接着剤8aの厚さを不要に大きくせずにすむ。光学接着剤8aは、通常数%の硬化収縮率を有するため、光学接着剤8aの厚さが不要に大きくなると、その分硬化時におけるファラデー回転子5の光軸方向の移動が大きくなってしまう場合があるが、本構成によると、そのような移動を抑制することができる。
【0053】
図4は、本発明の第2の実施形態に係るファラデー回転ミラー11の構成を模式的に示す。ファラデー回転ミラー11は、コアレスファイバ4におけるファラデー回転子5との対向面を光軸10に対して所定の加工角度で傾斜する傾斜面とし、該傾斜面に光学接着剤8aを介してファラデー回転子5を密着させ、光軸10に対して主面が垂直となるように全反射ミラー6を配設し、光学接着剤8bによりグレーデッドインデックスファイバ3などの加工バラツキの調整を図る構成とした点で、ファラデー回転ミラー1と異なる。ファラデー回転ミラー11の他の構成については、ファラデー回転ミラー1に関して上述したのと同様である。
【0054】
図5は、上記傾斜面の加工角度と反射減衰量との関係を示す。図5によく表れているように、加工角度が大きくなるにつれ、反射減衰量が小さくなる。したがって、ファラデー回転ミラー1’は、より高い減衰効果を得ることができるので、反射減衰量の観点でより優れているのである。
【0055】
図6は、本発明の第3の実施形態に係るファラデー回転ミラー12の構成を模式的に示す。ファラデー回転ミラー21は、シングルモードファイバ2、グレーデッドインデックスファイバ3およびコアレスファイバ4がフェルール13により保持される構成とした点で、ファラデー回転ミラー11と異なる。
【0056】
ファラデー回転ミラー12では、例えば各ファイバ2〜4の直径(例えば125μm)がファラデー回転子5の物理的な厚さ(例えば350〜500μm)より小さくても、フェルール13におけるファラデー回転子5の実装面を最適な大きさ(ファラデー回転子5の物理的な厚さに応じて決定される)に調整することにより、構造的により安定なものとすることができる。また、ファラデー回転ミラー12では、コアレスファイバ4に上記傾斜面を形成する際に、フェルール13ごと研磨加工することが可能となるため、コアレスファイバ4のみを研磨加工する場合や劈開によるカットする場合に比べて加工バラツキを低減することができる。
【0057】
以上、本発明の具体的な実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【0058】
ファラデー回転ミラー1,11,12では、グレーデッドインデックスファイバ3とファラデー回転子5との間、および、ファラデー回転子5と全反射ミラー6との間のいずれか一方に光学接着剤8aもしくは光学接着剤8bを有していればよい。このような構成においても、同様の効果を奏する。
【0059】
ファラデー回転ミラー1,11,12では、ファラデー回転子5と全反射ミラー6との間にコアレスファイバを介在させてもよい。このような構成においても、同様の効果を奏する。
【0060】
図7は、ファラデー回転子5と全反射ミラー6との位置関係および大きさの関係を表す。ファラデー回転ミラー1,11,12では、全反射ミラー6の大きさをファラデー回転子5の大きさ(例えば外寸)と同等もしくは小さく設定するのが好ましい。このような構成によると、光学接着剤8a,8bがファラデー回転子5の側面に回り込む量を抑制することができる。
【0061】
ファラデー回転ミラー1,11,12では、図7に示すように、平面視でファラデー回転子5の中央に位置するように全反射ミラー6を接着するのが好ましい。このような構成によると、全反射ミラー6の側面に付着する光学接着剤8bの付着量がほぼ均等となるため、結合性能をより高めることができる。
【0062】
ファラデー回転ミラー1,11,12では、図7(c),(d)に示すように、ファラデー回転子5に対して全反射ミラー6を、光軸を軸心として45°回転させてもよい。このような構成によると、全反射ミラー6の側面に付着する光学接着剤8bの付着量を均等にするうえで好適であるのに加え、光学接着剤8bの表面張力により全反射ミラー6の位置ずれを自発的に修正されるため量産安定性に優れている。
【0063】
ファラデー回転ミラー12では、フェルール13に代えてキャピラリを採用してもよい。このような構成においても、フェルール13を採用する場合と同様の効果を奏する。
【0064】
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0065】
[実施例1]
<ファラデー回転ミラーの作製>本発明の実施例1に係るファラデー回転ミラーとして、図1に示したファラデー回転ミラー1を作製した。具体的な作製方法について、以下に説明する。まず、1550nm用のシングルモードファイバ2と、比屈折率差1.5%で厚さ約540nm(0.35ピッチ)のグレーデッドインデックスファイバ3と、ファイバ長が約40μmで、添加物のない純石英からなるコアレスファイバ4とを、外形調芯しつつ融着接続して、各ファイバ2〜4からなる融着接続体を作製した。次に、入射光の波長が1550nmの場合に該入射光の偏波方向が45°回転するように物理的厚さが約380μm(光学的長さ:240μm)に設定され且つ一方の主面に反射防止膜としてARコートを所定の厚さで形成した10mm角のファラデー回転子母板を0.8mm角に裁断加工することにより得られるファラデー回転子5の他方の主面に、反射率が99%以上となるように調整された多層誘電体からなる全反射ミラー6を、アクリル系紫外線硬化型光学接着剤を介して密着接続することにより、全反射ミラー6付きファラデー回転子5を作製した。次に、上記融着接続体におけるコアレスファイバ4の端面に、アクリル系紫外線硬化型光学接着剤を介して全反射ミラー6付きファラデー回転子5を接着した。次に、このアクリル系紫外線硬化型光学接着剤を硬化させる前に挿入損失(シングルモードファイバ2の入射光と反射光の比)が0.7dB以下となるように調芯したうえで、紫外線を照射することによりアクリル系紫外線硬化型光学接着剤を硬化した。本実施例におけるファラデー回転ミラーを5個作製した。
【0066】
<挿入損失の測定>波長1550nmの光源(商品名:Laser Source 81553SM、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用い、その出射光を光サーキュレータ(型番:PICA-1550-S、株式会社応用光電研究室)の第1のポートに入射し、第2のポートを介して、ファラデー回転ミラー1に入射し、その反射光を再度上記光サーキュレータの第2のポートに入射し、第3のポートを受光器(商品名:Optical Head 81521B、アジレント・テクノロジー株式会社製)に接続した評価系で行った。挿入損失は、光サーキュレータの第2のポートの出射光を直接受光器に接続し計測した後、第2のポートをファラデー回転ミラー1に接続して反射光の光量を受光器で計測することにより、光サーキュレータの第2のポートにおける出射光と反射光の比として導出した。なお、受光器で計測した挿入損失から、予め計測したサーキュレータの第2のポートと第3のポートの挿入損失を差し引いた値が真の挿入損失である。
【表1】

【0067】
<反射減衰量の測定>光軸方向における所定位置の反射光量を測定することが可能な反射減衰量測定器(商品名:プレシジョン・リフレクトメータ 8504B、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて行った。波長1550nmの光源(商品名:Laser Source 81553SM、アジレント・テクノロジー株式会社製)を選択し、測定器の出力ポートにファラデー回転ミラー1におけるシングルモードファイバ2を接続して測定を行った。全反射ミラー6の反射光量と比較して他の反射光量は非常に小さいため、全反射ミラー6における光量を全反射光量として、全反射ミラー6の光量に対する、各々反射点での反射光量の比を反射減衰量とした。
【0068】
[実施例2]
<ファラデー回転ミラーの作製>本発明の実施例2に係るファラデー回転ミラーとして、図4に示したファラデー回転ミラー11を作製した。具体的な作製方法について、以下に説明する。まず、1550nm用のシングルモードファイバ2と、比屈折率差1.5%で厚さ約540nm(0.35ピッチ)のグレーデッドインデックスファイバ3と、ファイバ長が約40μmで、端面の設定加工角度が4°±1°で、添加物のない純石英からなるコアレスファイバ4とを、外形調芯しつつ融着接続して、各ファイバ2〜4からなる融着接続体を作製した。次に、上記融着接続体におけるコアレスファイバ4の端面に、アクリル系紫外線硬化型光学接着剤を介して、入射光の波長が1550nmの場合に該入射光の偏波方向が45°回転するように物理的厚さが約380μm(光学的長さ:240μm)に設定され且つ一方の主面に反射防止膜としてARコートを所定の厚さで形成した10mm角のファラデー回転子母板を0.8mm角に裁断加工することにより得られるファラデー回転子5を密着接続した。次に、ファラデー回転子5の他方の主面に、反射率が99%以上となるように調整された多層誘電体からなる全反射ミラー6を、アクリル系紫外線硬化型光学接着剤を介して接着した。次に、このアクリル系紫外線硬化型光学接着剤を硬化させる前に挿入損失(シングルモードファイバ2の入射光と反射光の比)が0.7dB以下となるように調芯したうえで、紫外線を照射することによりアクリル系紫外線硬化型光学接着剤を硬化した。このようにして、本実施例におけるファラデー回転ミラーを5個作製した。
【0069】
<反射減衰量の測定>実施例1と同様の測定方法により反射減衰量を測定し、その結果を表1に示した。
【0070】
[実施例3]
<ファラデー回転ミラーの作製>本発明の実施例3に係るファラデー回転ミラーとして、図6に示したファラデー回転ミラー12を作製した。具体的な作製方法について、以下に説明する。まず、1550nm用のシングルモードファイバ2と、比屈折率差1.5%で厚さ約540nm(0.35ピッチ)のグレーデッドインデックスファイバ3と、ファイバ長が約40μmで、添加物のない純石英からなるコアレスファイバ4とを、外形調芯しつつ融着接続して、各ファイバ2〜4からなる融着接続体を作製した。次に、フェルール13(外径:2.5mm、内径:0.125mm(公差0.001mm))の貫通孔にエポキシ系熱硬化型接着剤を用いて挿着した後、その端面を設定傾斜角度4.5°±0.5°で研磨加工した。次に、上記融着接続体を挿着済みのフェルール13におけるコアレスファイバ4側の端面に、アクリル系紫外線硬化型光学接着剤を介して、入射光の波長が1550nmの場合に該入射光の偏波方向が45°回転するように物理的厚さが約380μm(光学的長さ:240μm)に設定され且つ一方の主面に反射防止膜としてARコートを所定の厚さで形成した10mm角のファラデー回転子母板を0.8mm角に裁断加工することにより得られるファラデー回転子5を密着接続した。次に、ファラデー回転子5の他方の主面に、反射率が99%以上となるように調整された多層誘電体からなる全反射ミラー6を、アクリル系紫外線硬化型光学接着剤を介して接着した。次に、この光学接着剤を硬化させる前に挿入損失(シングルモードファイバ2の入射光と反射光の比)が0.7dB以下となるように調芯したうえで、紫外線を照射することによりアクリル系紫外線硬化型光学接着剤を硬化した。このようにして、本実施例におけるファラデー回転ミラーを5個作製した。
【0071】
<傾斜角度の測定>傾斜面に波長650nmレーザーポインター(商品名:サシ−40、コクヨ株式会社製)を照射し、その反射位置により傾斜角度を計測した。シングルモードファイバ2の光軸の延長線上、ファラデー回転ミラー1から約1.5m離れた位置から、レーザーポインターを照射し、ファラデー回転ミラー1から約1.4m離れた位置に同心円状の受光版を配置し、その光軸からのズレ量x(m)を計測した。この計測値を数式「x/1.4=tanθ」に当てはめて、傾斜角度を導出した。
【0072】
<反射減衰量の測定>実施例1と同様の測定方法により反射減衰量を測定し、その結果を表1に示した。
【0073】
[比較例1]
<ファラデー回転ミラーの作製>上記融着接続体におけるコアレスファイバ4の端面に、光学接着剤による位置調整を行うことなく、光学接着剤により全反射ミラー6付きファラデー回転子5を密着接続した以外は、実施例1と同様にして本比較例のファラデー回転ミラーを作製した。
【0074】
<挿入損失の測定>実施例1と同様の測定方法により挿入損失を測定し、その結果を表1に示した。
【0075】
<反射減衰量の測定>実施例1と同様の測定方法により反射減衰量を測定し、その結果を表1に示した。
【0076】
<評価>比較例1のファラデー回転ミラーでは、挿入損失が最大1.3dBであり、且つ、反射減衰量が最大で−29dBとなるため、充分な特性(挿入損失など)を得ることができなかったのに対して、実施例1〜3のファラデー回転ミラーでは、挿入損失が0.7dB以下であり、且つ、反射減衰量が−30dB未満となるため、充分な特性(挿入損失など)を得ることができた。また、実施例2のファラデー回転ミラーでは、反射減衰量が−40dB未満となり、より優れた特性を得ることができた。さらに、実施例3のファラデー回転ミラーでは、傾斜角度のバラツキが±0.5°以内に収めることができるとともに、反射減衰量も−50dB未満となり、より優れた特性を得ることができた。したがって、本実施例1〜3に係るファラデー回転ミラーによると、小型で、製作作業性(量産性)や信頼性に優れているグレーデッドインデックスファイバを採用しても、挿入損失の増加のないものとすることができるのが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図2】グレーデッドインデックスファイバの長さ(GIF長)とその最適結合距離との関係を示すグラフである。
【図3】グレーデッドインデックスファイバの長さを規定するピッチと反射減衰量との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図5】加工角度と反射減衰量との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図7】本発明に係るファラデー回転ミラーにおけるファラデー回転子と全反射ミラーとの間の配設関係を表し、(a)は第1状態の側面図であり、(b)は第1状態の平面図であり、(c)は第2状態の側面図であり、(d)は第2状態の平面図である。
【図8】従来のファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図9】図8に示すファラデー回転ミラーにおける光の偏波状態を説明する模式図である。
【図10】特許文献1のファラデー回転ミラーを表し、(a)はその要部構造を模式的に表す断面図であり、(b)はコア拡大ファイバのみを模式的に表す断面図である。
【図11】特許文献2のファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図12】特許文献3の光学結合系を模式的に表し、(a)はその要部構造を表す断面図であり、(b)はグレーデッドインデックスファイバの屈折率分布の表す図であり、(c)はグレーデッドインデックスファイバの蛇行周期を表す図である。
【符号の説明】
【0078】
1,11,12,21,31,41 ファラデー回転ミラー
2,22,52 シングルモードファイバ
3,53 グレーデッドインデックスファイバ
3a,33a コア
3b,33b クラッド
4,54 コアレスファイバ
5,25,35,45 ファラデー回転子
6,26,36、46 全反射ミラー
7,27,37,47 磁石
8a,8b、38,48 光学接着剤
10 光軸
13 フェルール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルモードファイバと、グレーデッドインデックスファイバと、ファラデー回転子と、全反射ミラーとを順次配し、
前記グレーデッドインデックスファイバと前記ファラデー回転子との間、および、前記ファラデー回転子と前記全反射ミラーとの間の少なくとも一方に、光学接着剤を介在させることを特徴とする、ファラデー回転ミラー。
【請求項2】
前記グレーデッドインデックスファイバと前記ファラデー回転子との間、および、前記ファラデー回転子と前記全反射ミラーとの間の少なくとも一方に、コアレスファイバを更に介在させる、請求項1に記載のファラデー回転ミラー。
【請求項3】
前記コアレスファイバのファラデー回転子との対向面は、前記グレーデッドインデックスファイバの光軸と直交する面に対して傾斜し、
前記ファラデー回転子は、前記コアレスファイバの前記対向面に密着し、
前記全反射ミラーは、前記グレーデッドインデックスファイバの光軸に対し垂直に配されている、請求項2に記載のファラデー回転ミラー。
【請求項4】
前記光学接着剤の厚さは10μm以上である、請求項1から3のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項5】
前記全反射ミラーは、前記ファラデー回転子に直接成膜されている、請求項1から請求項4のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項6】
前記グレーデッドインデックスファイバの長さは、該グレーデッドインデックスファイバを伝搬する光の1周期の0.31〜0.5倍である、請求項1から5のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項7】
前記シングルモードファイバとグレーデッドインデックスファイバとは、貫通孔を有するフェルールの該貫通孔内に配されている、請求項1から6のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項8】
前記全反射ミラーの外形は、前記グレーデッドインデックスファイバの光軸方向から見て、前記ファラデー回転子の外形の範囲内に位置している、請求項1から7のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項9】
前記グレーデッドインデックスファイバの光軸方向から見て、前記ファラデー回転子および前記全反射ミラーは略正方形であり、前記ファラデー回転子の外形線と前記全反射ミラーの対角線とは略平行である、請求項8に記載のファラデー回転ミラー。
【請求項10】
シングルモードファイバと、グレーデッドインデックスファイバと、ファラデー回転子と、全反射ミラーとを順次配し、前記グレーデッドインデックスファイバと前記ファラデー回転子との間、および、前記ファラデー回転子と前記全反射ミラーとの間の少なくとも一方に、光学接着剤を介在させる工程と、
光学接着剤の厚さを調整する工程と、
光学接着剤を硬化させる工程と、を含む、ファラデー回転ミラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−309123(P2006−309123A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283013(P2005−283013)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】