説明

ファラデー回転ミラー

【課題】小型で、製作作業性や信頼性、結合効率に優れたファラデー回転ミラーを提供する。
【解決手段】光ファイバ2と、該光ファイバ2からの出射光を反射して反射光を前記光ファイバ2に入射させる反射部材4と、該反射部材4と前記光ファイバ2との間に配置され、光学接着剤8を介して前記反射部材4の反射面および前記光ファイバ2の一端に接合されるファラデー回転子3と、吸湿剤を含んでなり、かつ前記光学接着剤8の表面に被着された保護部材9と、を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバセンサシステムや光増幅システムなどの動作をより安定させるために適用される光受動部品のファラデー回転ミラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンサは、系の経路が主として光ファイバで構成され且つ検知要素を光ファイバの光路のいずれかに持つものである。ここで、検知要素とは、検知対象から検知される量に応じて光学的な特性変化を受けるものである。光ファイバセンサでは、振動、圧力、温度、電界、磁界、音波などの外力を検知すべく光ファイバを検知要素として用いる場合、例えばこれらの外力による光ファイバの光路長の変化がファイバ干渉計によって検出される。
【0003】
しかしながら、このような光ファイバセンサにおいては、光ファイバ中の複屈折による光の偏波状態の偶発的な変化に起因して、出力干渉縞のゆらぎや信号の消滅が起こることが問題となる。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1ではファイバ干渉計の一部にファラデー回転ミラーを使用することが提案されている。このファラデー回転ミラーは、光ファイバ中の複屈折により発生する偏波状態の変動を抑制し、任意の入力偏波状態を維持する機能を担う光部品である。
【0005】
図4は従来のファラデー回転ミラー11の構成を表す断面図である。ファラデー回転ミラー11は、光ファイバ12、結合用レンズ13、ファラデー回転子15、反射部材(以下、全反射ミラー)16、磁石17を用いて構成されている。
【0006】
光ファイバ12はシングルモードファイバである。結合用レンズ13は、後述の全反射ミラー16で反射した光を光ファイバ12に効率よく結合するための部材であり、光ファイバ12の一端部と対向するように配設されている。ファラデー回転子15は、所定の磁界を印加することにより、出射される光の偏波方向を所定角度回転させる機能を担う部材であり、例えばビスマス置換ガーネット結晶により構成される。ファラデー回転子15の厚さは、例えば入射される光の偏波方向が45°回転するように設定される。全反射ミラー16は、光ファイバ12から出射された光を反射するための部材であり、結合用レンズ13およびファラデー回転子15を介して光ファイバ12の一端部と対向するように配設されている。磁石17は、ファラデー回転子15に所定(例えば、ビスマス置換ガーネット結晶の飽和磁界強度以上)の磁界を印加するための部材である。
【0007】
図5は、光ファイバ12の方向から見た、ファラデー回転ミラー11内における光の偏波状態を説明するための図である。以下、図5を参照しつつ、ファラデー回転ミラー11の動作原理について説明する。なお、光ファイバ12から出射した光を出射光、全反射ミラー16で反射された光を反射光と称するとともに、出射光の進行方向を順方向、反射光の進行方向を逆方向と称する。また、出射偏波方向を一直線偏波としたが、本説明はこれに限ることなく、任意の偏波方向にも適応される。
【0008】
まず、光ファイバ12から出射した出射光(図5−a)は、ファラデー回転子15を透過し、その偏波方向が順方向から見て時計回りに45°回転させられる(図5−b)。その後、全反射ミラー16で反射された反射光(図5−c)は、再び逆方向からファラデー回転子15に入射する。ファラデー回転子15を逆方向に透過した反射光はさらにその偏波方向を順方向から見て時計回りに45°回転させられ(図5−d)、光ファイバ12に入射する。その結果、ファラデー回転ミラー11の反射光は、出射光に対して直交する偏波方向となり、出射光が受けたのとちょうど逆の複屈折を受けるため、任意の出射偏波状態に対して反射偏波状態はそれと直交する状態に安定化される。
【0009】
図4、図5に示すようなファラデー回転ミラー11は、光ファイバセンサシステムの他、光ファイバ増幅システムにも応用されている。光ファイバ増幅システムでは、一般的にエルビウムをドープしたシングルモードファイバ(長さ:数10〜数100m)を用いているため、光ファイバ中の複屈折により偏波状態が変化するという問題、さらには長距離光ファイバ通信システムで信号波形劣化をもたらす偏波モード分散という問題があるが、ファラデー回転ミラー11を用いることにより、それらが補償されるため、より安定した反射光を得ることができる。
【0010】
また、特許文献1では、小型化を図るべく、結合用レンズに代えて、コア拡大ファイバ(光ファイバと外径が同じ)を用いている。さらに、工程数の削減や組立の簡素化を図るべく、ファラデー回転子の一端面に反射部材(全反射ミラー膜)を形成させたり、コア拡大ファイバとファラデー回転子とを光学接着剤を介して密着させたりする提案がされている。
【0011】
図6(a)は、特許文献1のファラデー回転ミラー21の構成を表す断面図である。ファラデー回転ミラー21は、コア拡大ファイバ23、ファラデー回転子25、反射部材(以下、全反射ミラー膜)26、円筒型磁石27、光学接着剤28を用いて構成されている。
【0012】
コア拡大ファイバ23は、図6(b)に示すように、コア23aとクラッド23bよりなる。ファラデー回転子25は、上述のファラデー回転子25と同様の構成を有する部材である。全反射ミラー膜26は、多層誘電体からなり、ファラデー回転子25の一端面に直接形成されている。全反射ミラー膜26は、光の損失が小さく、高反射率(例えば99%以上)を有する。円筒型磁石27は、上述の磁石17と同様の機能を担う部材である。
【0013】
コア拡大ファイバ23の端面から全反射ミラー膜26までの距離が長くなるほど放射ビームは発散し、結合効率の低下を招くため、ファラデー回転子25はコア拡大ファイバ23に密着させて実装される。特許文献1では、光学接着剤28の厚さは極めて小さく、10μm以下に設定されている。
【0014】
さらに特許文献2では、コア拡大ファイバを用い、台形状のファラデー回転子を用いることで不要反射光の戻り光を抑制することが提案されている。
【0015】
図7は、特許文献2のファラデー回転ミラー31を表す断面図である。ファラデー回転ミラー31は、コア拡大ファイバ33、ファラデー回転子35、反射部材(以下、全反射ミラー)36、円筒型磁石37、光学接着剤38よりなる。
【0016】
コア拡大ファイバ33は、その一端面(ファラデー回転子35との対向面)が光軸の垂直軸に対して傾斜している点においてのみ、上述のコア拡大ファイバ23と相違している。ファラデー回転子35は、その一端面においてコア拡大ファイバ33と接続した状態で、その他端面が光軸に対して垂直となるような形状(図7では台形状)に構成されている。全反射ミラー膜36、円筒型磁石37および光学接着剤38は、上述の全反射ミラー膜26、円筒型磁石27および光学接着剤28と同様の構成を有する部材である。
【特許文献1】特開平9−26556号公報
【特許文献2】特開平9―21608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、図4に示された結合用レンズ13を用いるファラデー回転ミラー11においては、以下のような問題点があった。
【0018】
ファイバ干渉計の検知部や光ファイバ増幅システムでは、ファラデー回転ミラー11を光ファイバや光ファイバカプラ等と接続して筐体内に実装されるが、光ファイバの外径φ0.25mm、光ファイバカプラの外径φ2〜3mmに対して、ファラデー回転ミラー11はφ5mmと大きいため、装置の大型化の原因となっている。なお、ファラデー回転ミラー11がφ5mm程度の大きさになるのは、結合用レンズ13の径が2mm程度の大きさであるのに加え、結合用レンズ13を他の構成部品と接合するための金具等を含めるとφ5mm程度と大きくなっていた。
【0019】
また、ファラデー回転ミラー11では、光ファイバ12、結合用レンズ13および全反射ミラー16を高精度で光学調整する必要がある。したがって、ファラデー回転ミラー11では、工程数が多くなるのに加え、組立が煩雑となるため、多大なる製作時間がかかっていた。
【0020】
一方、ファラデー回転ミラー21では、外径がφ0.125mmのコア拡大ファイバ23を採用することにより小型化を図るとともに、工程数の削減および組立の簡素化を提案している。他方、ファラデー回転ミラー31では、台形状のファラデー回転子35を採用することにより不要反射光を抑制することが提案されている。しかしながら、ファラデー回転ミラー31では、ファラデー回転ミラー21と同様、信頼性などの問題を十分に解消できていない。それは、ファラデー回転ミラー31に採用されている台形状のファラデー回転子35は、不要反射光は抑制できるが、ファラデー回転子35が台形状であるため、ファラデー回転子35の機能である光ファイバからの出射光を45°回転させる作用を担うような厚みに加工することが困難であった。また、ファラデー回転ミラー31では、コア拡大ファイバ33とファラデー回転子35の接合に用いられている光学接着剤が水分によって劣化する傾向があった。したがって、ファラデー回転ミラー31では、比較的高温で内部水蒸気量の多い環境下で使用された場合、光学接着剤に水分が浸入して脆化等の劣化が進み、コア拡大ファイバ33とファラデー回転子35の取り付け変動が生じ、光学透過率や反射率の低下などが発生していた。
【0021】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、小型で、製作作業性や信頼性、光の結合効率に優れたファラデー回転ミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るファラデー回転ミラーは光ファイバと、該光ファイバからの出射光を反射して反射光を前記光ファイバに入射させる反射部材と、該反射部材と前記光ファイバとの間に配置され、光学接着剤を介して前記反射部材の反射面および前記光ファイバの一端に接合されるファラデー回転子と、吸湿剤を含んでなり、かつ前記光学接着剤の表面に被着された保護部材と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のファラデー回転ミラーでは、好ましくは前記保護部材がさらに前記ファラデー回転子および/または前記反射部材の表面を被着することを特徴とする。
【0024】
また、本発明のファラデー回転ミラーでは、好ましくは前記保護部材が樹脂で構成されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明のファラデー回転ミラーでは、好ましくは前記保護部材が前記吸湿剤を0.1〜50質量%含んでなることを特徴とする。
【0026】
また、本発明のファラデー回転ミラーでは、好ましくは前記保護部材に含まれる吸湿剤が、シリカゲル、ゼオライト、またはポリアクリル酸塩系ポリマーのうち少なくとも1種以上含んで構成されていることを特徴とする。
【0027】
また、本発明のファラデー回転ミラーでは、好ましくは筒体の内部に保持されることを特徴とする。
【0028】
また、本発明のファラデー回転ミラーでは、好ましくは前記保護部材が前記ファラデー回転子および前記反射部材を覆うとともに前記筒体の一端と接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るファラデー回転ミラーは、光学接着剤を介して反射部材の反射面および光ファイバの一端に接合されるファラデー回転子を接合しているため、例えば光学接着剤の厚さや角度を調節することにより、加工バラツキに起因するファラデー回転ミラーの特性(挿入損失など)の悪化を抑制することができる。さらに、本ファラデー回転ミラーでは、光学接着剤の表面が吸湿剤を含む保護部材に被着されているため、例えば高温高湿などの環境下であっても、光学接着剤中に浸入する水分を抑制できる。その結果、本ファラデー回転ミラーでは、光学接着剤の水分による劣化を低減できるため、例えば光ファイバ、ファラデー回転子、および反射部材の位置ずれによる光挿入損失の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に実施例として、本発明によるファラデー回転ミラーについて説明する。
【0031】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るファラデー回転ミラー1の構成を模式的に示す。ファラデー回転ミラー1は、シングルモードファイバ2a、グレーデッドインデックスファイバ(GIF)2b、コアレスファイバ2c、2a〜2cを融着して成る光ファイバ2とファラデー回転子3、反射部材(以下、全反射ミラー)4、磁石5、筒体(以下、フェルール)6、スリーブ7、光学接着剤8a、8b、保護部材9、とを備えるように構成される。
【0032】
光ファイバ2は、その一端部から入射した光をその他端部から出射すべく、光を導くためのものである。光ファイバ2を構成する材料としては、石英ガラス、多成分系ガラス、プラスチックなどが挙げられる。ここで、シングルモードファイバ2aは、コア径を小さく設定して単一のモードのみを効率よく光伝搬させる光ファイバである。また、グレーデッドインデックスファイバ(GIF:Graded Index Fiber)2bはレンズ機能も備える光ファイバであり、ファイバの径方向に屈折率分布が緩やかに変動させて作製された光ファイバである。また、コアレスファイバは屈折率の異なるコアを持たず、石英などの単一材料で作られた屈折率が一様な光ファイバである。
【0033】
ファラデー回転子3は、例えば所定の磁界を印加することにより、光ファイバ2からの出射もしくは反射部材からの反射によって入射される光の偏波方向を所定角度回転させる機能を担う部材であり、ビスマス置換ガーネット結晶などにより構成される。ファラデー回転子3の厚さは、例えば光ファイバから出射され、ファラデー回転子3に入射される光の偏波方向が45°回転するように設定される。具体的には、入射する光の波長により異なるが1550nmの場合、350〜500μm(物理的な厚さ)である。なお、ファラデー回転子3は、その表面に光の反射を防止するための反射防止膜(図示せず)を施すのが好ましい。この反射防止膜としては、例えばARコートが挙げられ、その形成位置としては、例えばファラデー回転子3の一方の主面に全反射ミラーが形成される場合、他方の主面が挙げられる。このような反射防止膜をファラデー回転子3の表面に施すことにより、ファラデー回転ミラー1の不要反射(反射戻り光)を低減することができるのである。
【0034】
全反射ミラー(反射部材)4は、光を実質的に全反射させるための部材であり、ファラデー回転子3の主面に光学接着剤を介して接着されている。全反射ミラー4としては、例えば誘電体多層膜自体、ガラスなどからなる基板に誘電体多層膜を蒸着させた多層誘電体、該基板に反射率の高い金属(アルミニウムなど)を蒸着させたもの、およびアルミニウム板などが挙げられるが、高反射率(例えば99%以上)および低光損失の観点から誘電体多層膜や多層誘電体が好ましい。
【0035】
磁石5は、ファラデー回転子3に所定の磁界(光軸と平行な磁界)を印加するための部材であり、本実施形態では円筒形である。なお、ファラデー回転子3として磁界の印加を必要としないものを採用する場合、磁石5は省略してもよい。
【0036】
フェルール(筒体)6は、光ファイバ2を保持するための部材であり、例えば円筒形で構成され、その内孔内で光ファイバ2を保持する機能を有する。このフェルール6は、例えばアルミナ、ジルコニア等のセラミックス、結晶化ガラス等のガラス、ステンレス等の金属、または金属を混合して精度や強度を向上させた樹脂等で構成される。このフェルール6は、セラミックスで構成されるのであれば、例えば押し出し成形等で所望の形状で作製された成形体を焼成することで得られ、一方、金属で構成されるのであれば、例えば切削加工で所望の形状に作製すればよい。
【0037】
スリーブ7は、フェルール6を保持するための部材であり、例えば円筒形で構成され、その内孔内でフェルール6を保持する機能を有する。このスリーブ7は、例えばアルミナ、ジルコニア等のセラミックス、ステンレス等の金属で構成され、セラミックスであれば、例えば押し出し成形等で所望の形状で作製された成形体を焼成することで得られ、一方、金属であれば、例えば切削加工で所望の形状に作製すればよい。なお、本発明の第1の実施例に係るファラデー回転ミラーでは、光ファイバを保持するためのフェルール6、およびフェルール6を保持するためのスリーブ7が用いられているが、このフェルール6およびスリーブ7については、ファラデー回転ミラーの機能を発揮する構成であれば、フェルール6およびスリーブ7を有さない形態であってもよい。
【0038】
光学接着剤8aと8bは、グレーデッドインデックスファイバ2bと全反射ミラー4との間の離間距離の調整、および全反射ミラー4の取り付け角度の調整を行い光結合のピークに設定するとともに、光ファイバ2、ファラデー回転子3、および反射部材4を互いに接着固定する機能を担う部材である。以下光学接着剤8a、8bはまとめて光学接着剤8とする。
【0039】
光学接着剤8にはエポキシ系やアクリル系の透光性樹脂が挙げられ、特に屈折率がコアレスファイバ4と同等(例えば1.45〜1.5)のものが好適である。また、光学接着剤8としては、作業性の観点から可視光や紫外線や熱に対して硬化性を有するものが好適である。光学接着剤8による光結合のピークの調整は、光学接着剤8の厚さを変化させるとともに全反射ミラー4の角度を変化させることにより行う。具体的には、まず、光ファイバ2(コアレスファイバ2c)とファラデー回転子3、ファラデー回転子3と全反射ミラー4とをそれぞれ光学接着剤8を介して密着させた状態で光学接着剤8を硬化させることにより、光ファイバ2、ファラデー回転子3、および全反射ミラー4とを一体化する。この時、結合状態を確認するため挿入損失を計測しつつ、所定の厚さで且つ非硬化の状態(流動性のある状態)で介在させた光学接着剤8の厚さを適宜変化させる。挿入損失の計測は光源(アジレント・テクノロジー製Laser Source 81553SM)の出射光を光サーキュレータを介して、ファラデー回転ミラー1に入射し、その反射光を再度光サーキュレータを介して、受光器(アジレント・テクノロジー製Optical Head 81521B)で行った。次に、所望の厚さ(例えば最適結合距離に応じて決定される厚さ)に変化させた光学接着剤8を紫外線や熱などにより硬化させる。以上のようにして、上記調整を行うことができる。なお、上記調整後、必要に応じて磁石5を所定の位置に配設する。
【0040】
保護部材9は、光学接着剤8の表面に被着されて該光学接着剤8を保護する機能を担う部材である。具体的には、この保護部材9は、主に水分を吸収するための吸湿剤を含んでなり、例えば外部から水分が浸入しても、保護部材9内にある吸湿剤が水分を吸収するため、光学接着剤8の水分による劣化を抑制するための部材である。
【0041】
保護部材9は、主として樹脂で構成され、その材質には例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。
【0042】
また、保護部材9に含有される吸湿剤としては、例えばシリカゲル、ゼオライト等の無機物もしくは高い吸水性を有するポリアクリル酸塩系ポリマーなどの有機物が挙げられる。この吸湿剤は、保護部材9中に0.1乃至50.0質量%含有されていることが好ましい。これは、吸湿剤が0.1質量%未満であると光学接着剤8に対する水分の浸入を抑制する効果が弱く、一方で、50.0質量%を超えると保護部材9を主として構成する樹脂の流動性の悪化に伴う樹脂の成型性が悪くなるため、所定の形状に保護部材を成形することが困難になる場合がある。
【0043】
以下に保護部材9の形成方法について説明する。光ファイバ2(コアレスファイバ2c)、ファラデー回転子3、および全反射ミラー4をそれぞれ光学接着剤8で接着固定した状態で、例えば金型内に配置する。次に、金型内で光学接着剤8の表面に吸湿剤を含有させた樹脂を流し込み、該樹脂を加熱もしくは紫外線照射によって硬化させることにより、光学接着剤8の表面に保護部材9を形成する。また、磁石が実装されている場合は、例えばディスペンサーを用いて磁石5内径部に吸湿剤を含有する樹脂を光学接着剤8の表面を被覆するように充填させて硬化させてもよい。
【0044】
次に、本発明の第2の実施形態に係るファラデー回転ミラー101の構成について図2を用いて説明する。なお、以下の説明において、本発明の第1の実施形態と同じ部材に関しては、同符号を付してある。
【0045】
ファラデー回転ミラー101では、図2に示すように、保護部材9が光学接着剤8の表面に被着されるとともに、ファラデー回転子3および全反射ミラー4も保護するように配されている。このように、保護部材9がファラデー回転子3および全反射ミラー4も保護するように形成されていれば、ファラデー回転子3および全反射ミラー4に浸入する水分を抑制してこれら光学部品の耐湿性を向上させることができるとともにこれらの部材の位置ずれを抑制することができる。なお、図2では、ファラデー回転子3および全反射ミラー4の両方が保護部材9により保護されているが、どちらか一方が保護されている形態でもよく、また、図2に示すように、磁石5も保護するような形態であってもよい。このとき用いられる保護部材9の材質としては、光学部品(ファラデー回転子3、全反射ミラー4)、磁石5等に近い比較的低い熱膨張係数(6×10―6/℃乃至10×10−6/℃)を有するエポキシ樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0046】
このファラデー回転ミラー101は、光ファイバ2(コアレスファイバ2c)、ファラデー回転子3、および全反射ミラー4をそれぞれ光学接着剤8で接着固定した状態で、例えば金型内に配置し、保護部材9を形成する所定の位置に吸湿剤を含有する樹脂を充填し、トランスファーモールドすることで得ることができる。
【0047】
次に、本発明の第3の実施形態に係るファラデー回転ミラー201の構成について図3を用いて説明する。なお、以下の説明において、本発明の第1の実施形態と同じ部材に関しては、同符号を付してある。
【0048】
ファラデー回転ミラー201では、保護部材9がファラデー回転子3および全反射ミラー4を覆うとともに光ファイバ2を保持するフェルール6の一端と接合されている。このファラデー回転ミラー201では、このファラデー回転ミラー201では、保護部材9がフェルール6の一端と接合されているため、光ファイバ2、ファラデー回転子、および全反射ミラー4を互いに一体的に固定することができる、そのため、例えばファラデー回転ミラー201に外力が作用しても、光ファイバ2、ファラデー回転子、および全反射ミラー4の位置ずれを抑制することができる。
【0049】
このようなファラデー回転ミラー201は、光ファイバ2(コアレスファイバ2c)、ファラデー回転子3、および全反射ミラー4をそれぞれ光学接着剤8で接着固定した状態で、例えば金型内に配置し、保護部材9を形成する所定の位置に吸湿剤を含有する樹脂を充填し、トランスファーモールドすることで得ることができる。
【0050】
なお、以上の実施形態は本発明の一実施例であり、本発明の技術思想又は原理に沿っていれば、上述の実施形態に種々の変更、材料変更などを施しても良い。
【0051】
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0052】
[実施例1]
<ファラデー回転ミラーの作製>本発明の実施例1に係るファラデー回転ミラーとして、図1に示したファラデー回転ミラー1を作製した。具体的な作製方法について、以下に説明する。
【0053】
まず、1550nm用のシングルモードファイバ2aと、比屈折率差1.5%のグレーデッドインデックスファイバ2bと、添加物のない純石英からなるコアレスファイバ2cとを、外形調芯しつつ融着接続して、各ファイバ2a〜2cからなる光ファイバ2を作製した。これをセラミックなどからなるフェルール6に取り付け、端面をPC研磨し、ファイバ付きフェルールを得る。このファイバ付きフェルールをステンレスなどからなるスリーブ7に圧入取り付けを行う。次に、出射光の波長が1550nmの場合に該出射光の偏波方向が45°回転するように設定され且つ一方の主面に反射防止膜としてARコートを所定の厚さで形成したファラデー回転子母板を約0.8mm角に裁断加工することにより得られるファラデー回転子3をファイバーフェルール端面に光学接着剤8b(アクリル系紫外線硬化型)を介して実装する。次に、ガラスなどからなる透明部材の面に、反射率が99%以上となるように調整された多層誘電体からなる全反射ミラー4を光学接着剤8a(アクリル系紫外線硬化型)を介してファラデー回転子3に実装することにより、全反射ミラー4付きファラデー回転子3を作製した。次に、この光学接着剤を硬化させる前に光ファイバ2の入射光と反射光の比、すなわち挿入損失が0.7dB以下となるように調芯したうえで、紫外線を照射することにより光学接着剤を硬化した。その後、磁石5をフェルール6の一端に内孔内にファラデー回転子3が配されるように接着した。最後に、吸湿剤としてシリカゲルを25質量%含有したエポキシ樹脂からなる樹脂剤を光学接着剤8(8a、8b)の表面を覆うようにディスペンサーを用いてモールドして保護部材9を形成し、ファラデー回転子ミラー1を得た。
【0054】
[実施例2]
<ファラデー回転ミラーの作製>本発明の実施例2に係るファラデー回転ミラーとして、図2に示したファラデー回転ミラー101を作製した。具体的な作製方法について、以下に説明する。
【0055】
まず、1550nm用のシングルモードファイバ2aと、比屈折率差1.5%のグレーデッドインデックスファイバ2bと、添加物のない純石英からなるコアレスファイバ2cとを、外形調芯しつつ融着接続して、各ファイバ2a〜2cからなる光ファイバ2を作製した。これをセラミックなどからなるフェルール6に取り付け、端面をPC研磨し、ファイバ付きフェルールを得る。このファイバ付きフェルールをステンレスなどからなるスリーブ7に圧入取り付けを行う。次に、出射光の波長が1550nmの場合に該出射光の偏波方向が45°回転するように設定され且つ一方の主面に反射防止膜としてARコートを所定の厚さで形成したファラデー回転子母板を約0.8mm角に裁断加工することにより得られるファラデー回転子3をファイバ付きフェルール端面に光学接着剤8b(アクリル系紫外線硬化型)を介して実装する。ガラスなどからなる透明部材の面に、反射率が99%以上となるように調整された多層誘電体からなる全反射ミラー4を光学接着剤8a(アクリル系紫外線硬化型)を介してファラデー回転子に実装することにより、全反射ミラー4付きファラデー回転子101を作製した。次に、この光学接着剤を硬化させる前に光ファイバ2の出射光と反射光の比、すなわち挿入損失が0.7dB以下となるように調芯したうえで、紫外線を照射することにより光学接着剤を硬化した。その後、ファラデー回転子3と全反射ミラー4と各々を接合している光学接着剤8aと8bを覆うように磁石5を配するとともにスリーブ7と接着した。次に、吸湿剤としてシリカゲルを25質量%含有するエポキシ樹脂からなる樹脂剤を作製した。最後に、この樹脂剤をタブレット状に成形して、ファラデー回転子3、全反射ミラー4、磁石5、およびスリーブの一端を覆うように樹脂剤を金型にセットした後に、インジェクションモールド加工を施すことによって保護部材9が形成されたファラデー回転ミラー101を得た。
【0056】
[比較例1]
本発明の比較例として、本発明の実施例1に係るファラデー回転ミラーの保護部材9を備えていない形態のファラデー回転ミラーを作製した。なお、この比較例のファラデー回転ミラーに使用された部材(光ファイバ、ファラデー回転子、全反射ミラー等)は、本発明の実施例1に係るファラデー回転ミラーと同じ部材を用いた。
【0057】
<環境試験>
上記で得られた実施例1、実施例2、および比較例1のファラデー回転ミラーに対し、以下のような環境試験を行った後に下記に詳述する挿入損失および反射減衰量の測定をした。(環境試験1)環境試験1は、ファラデー回転ミラーを例えば内部の温度を制御可能な冷熱衝撃試験装置の中に配置し、―40℃⇔85℃の温度サイクルを100サイクルする試験である。
【0058】
(環境試験2)環境試験2は、ファラデー回転ミラーを例えば内部の温度および湿度を制御可能な高温高湿試験装置の中に配置し、温度を約85℃および湿度を約85%に設定した環境下でファラデー回転ミラーを2000時間まで晒した。
【0059】
<挿入損失の測定>波長1550nmの光源(アジレント・テクノロジー製Laser Source 81553SM)を用い、その出射光を光サーキュレータ((株)応用光電研究室)の第1のポートに入射し、第2のポートを介して、ファラデー回転ミラー1に入射し、その反射光を再度光サーキュレータの第2のポートに入射し、第3のポートを受光器(アジレント・テクノロジー製Optical Head 81521B)に接続した評価系で行った。挿入損失は光サーキュレータの第2のポートにおける出射光と反射光の比であるが、まず光サーキュレータの第2のポートの出射光を直接受光器に接続し計測した後、第2のポートをファラデー回転ミラー1に接続し、反射光の光量を受光器で計測した。なお、受光器で計測した挿入損失から、予め計測したサーキュレータの第2のポートと第3のポートの挿入損失を差し引いた値が真の挿入損失となる。そして、上記に示した環境試験の前後において本発明の実施例1、2および本発明の比較例1のファラデー回転ミラーの挿入損失を測定し、試験前後の差Δを表1に示した。
【0060】
<反射減衰量の測定>反射減衰量測定器(アジレント・テクノロジー製プレシジョン・リフレクトメータ 8504B)を用いて行った。光源は1550nmを選択し、測定器の出力ポートにファラデー回転ミラー1のシングルモードファイバを接続して行った。本測定器は光軸方向の位置毎の反射光量を測定することが可能である。全反射ミラー4の反射光量と比較して他の反射光量は非常に小さいため、全反射ミラー4における光量を全反射光量とすれば、全反射ミラー4の光量に対する、各々反射点の反射光量の比を反射減衰量とできる。そして、上記に示した環境試験の前後において本発明の実施例1、2および本発明の比較例1のファラデー回転ミラーの反射減衰量を測定し、試験前後の差Δを表1に示した。
【表1】

【0061】
<評価>
表1に示すように、本発明の実施例1、2に係るファラデー回転ミラーは、光学接着剤の表面に吸湿剤を含む保護部材を被着させてなるため、温度サイクル試験前後の反射減衰量と挿入損失、および高温高湿試験前後の挿入損失差を小さくして特性改善することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図4】従来のファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【図5】図4に示すファラデー回転ミラーにおける光の偏波状態を説明する模式図である。
【図6】特許文献1のファラデー回転ミラーを表し、(a)はその要部構造を模式的に表す断面図であり、(b)はコア拡大ファイバのみを模式的に表す断面図である。
【図7】特許文献2のファラデー回転ミラーの要部構造を模式的に表す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1,11,21,101,201・・・ファラデー回転ミラー
2・・・光ファイバ
2a,12,23・・・シングルモードファイバ
2b・・・グレーデッドインデックスファイバ
2c・・・コアレスファイバ
3,15,25・・・ファラデー回転子
4,16,26・・・全反射ミラー(反射部材)
5,17,27・・・磁石
6・・・フェルール(筒体)
7・・・スリーブ
8,28・・・光学接着剤
9・・・保護部材
13・・・光結合用レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、
該光ファイバからの出射光を反射して反射光を前記光ファイバに入射させる反射部材と、
該反射部材と前記光ファイバとの間に配置され、光学接着剤を介して前記反射部材の反射面および前記光ファイバの一端に接合されるファラデー回転子と、
吸湿剤を含んでなり、かつ前記光学接着剤の表面に被着された保護部材と、を備えるファラデー回転ミラー。
【請求項2】
前記保護部材は、前記ファラデー回転子および/または前記反射部材の表面を被着することを特徴とする請求項1に記載のファラデー回転ミラー。
【請求項3】
前記保護部材は、樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のファラデー回転ミラー。
【請求項4】
前記保護部材は、前記吸湿剤を0.1〜50質量%含んでなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項5】
前記吸湿剤は、シリカゲル、ゼオライト、またはポリアクリル酸塩系のポリマー材料のうち少なくとも1種以上含んで構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項6】
前記光ファイバは、筒体の内部に保持されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のファラデー回転ミラー。
【請求項7】
前記保護部材は、前記ファラデー回転子および前記反射部材を覆うとともに前記筒体の一端と接合されていることを特徴とする請求項6に記載のファラデー回転ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−148133(P2007−148133A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344260(P2005−344260)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】