説明

フィルタの製造方法

【課題】真空崩壊を起こさず最大効率で乾燥を行なうフィルタの乾燥方法を提供する。
【解決手段】溶媒と触媒とを含む触媒液をセラミックス多孔体からなるフィルタ6に付着させた状態で凍結させる凍結工程と、触媒液が付着するフィルタ6が収容される減圧乾燥炉2を減圧手段により減圧する減圧工程と、減圧乾燥炉2内のフィルタ6を加熱手段5により加熱する加熱工程と、減圧乾燥炉2内の溶媒量を露点計測器7を用いて計測する計測工程と、計測工程により計測される溶媒量に基づき、減圧乾燥炉2の減圧状態を一定に維持し、かつ、加熱手段5による加熱温度が最も高くなるように、コントローラ10により加熱手段5と減圧手段とを制御する制御工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両や建設機械等の内燃機関、特にディーゼルエンジンから排出される排ガス中に含まれるパティキュレート(固体状炭素微粒子、液体あるいは固体状の高分子量炭化水素微粒子)を捕捉し、これを燃焼して排ガスを浄化する排ガス用のフィルタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両や建設機械等に搭載される内燃機関、特にディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートが問題となっている。このパティキュレートの粒子径のほとんどが1μm(ミクロン)以下であるため、大気中に飛散し易く、呼吸により人体に取り込まれ易い。そしてパティキュレートには発ガン性物質も含まれていることから人体への影響が大きな問題となってきている。このため、ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートの排出規制がますます強化されている背景もあり、パティキュレートを効率よく除去できるフィルタが待望されている。
【0003】
従来から行なわれている排ガスのパティキュレートを除去する方法の一つとして、耐熱性のフィルタで捕集したパティキュレートを燃焼させて除去する方法がある。具体的には、多孔質セラミック等の耐熱性三次元構造体からなるフィルタを用いて排ガス中のパティキュレートを捕集し、背圧が上昇した後、バーナーや電気ヒータ等の加熱手段でフィルタを加熱し、捕集されたパティキュレートを燃焼させ、炭酸ガスに変えて外部に放出するものなどである。
【0004】
しかしながら、この方法では、パティキュレートの燃焼温度が高温であることから、捕集したパティキュレートを燃焼除去し、フィルタを再生するために多量のエネルギーが必要となる。また、高温域での燃焼とその反応熱によりフィルタの溶損や割れを生じることがあるという問題点も有している。
【0005】
一方、触媒を用いてパティキュレートに燃焼反応を行わせ、排ガス中でフィルタの燃焼再生を行なう方法もある。この方法は、ヒータ等の加熱手段を用いることなくフィルタを再生させるため上記のような問題が無く有効である。このようなパティキュレートに燃焼反応をおこさせる触媒としては、金属酸化物等からなる触媒が例示でき、当該触媒は三次元構造体のフィルタに担持される。ここで捕集されたパティキュレートは排ガス浄化用触媒の作用によって、より低い温度で燃焼させることができる。このような排ガス浄化用触媒を担持したフィルタを用いて、パティキュレートを排ガス温度で燃焼することができれば、加熱手段を排ガス浄化装置内に設ける必要がないため、排ガス浄化装置の構成を簡単にすることが可能となる。
【0006】
この排ガス浄化用触媒を担持させるフィルタは、例えば、耐熱性が高い、セラミックス等からなり、全体的な形状は円柱で、その軸方向に平行な管軸を有する多数の管状セルが設けられた多管状である。これら複数のセルの内、半数は排ガス入口側が閉塞され他の半数が出口側が閉塞される。そしてセルの端部の閉塞にはプラグと呼ばれる封止材が用いられる。また、入口側が閉塞されたセルと出口側が閉塞されたセルは交互に配置されている。このようなフィルタを通過する排ガスは、まず入口側が開口したセルに流入した後、セルを区画する隔壁を通過し、隣接する入口側が閉塞されているセルの中に導かれる。このとき、パティキュレートは多孔質な隔壁を通過することによって濾過され、多孔質隔壁に捕集される。このタイプの排ガス浄化用触媒が担持されたフィルタは、種々あるフィルタの中でも捕集能力が高く、排ガス浄化用のフィルタとして好適に用いられている。
【0007】
この排ガス浄化用のフィルタは、多管構造の多孔質セラミクスに触媒液(触媒を溶媒に溶解もしくは分散させた液体)を付着させて乾燥し、その後必要に応じて焼成することにより得られる。触媒液の付着した多管構造体を乾燥させる際に、自然乾燥あるいは乾燥機に入れて常圧での加熱乾燥を行うと、多管構造体の外周部分から乾燥が始まり、そして徐々に中心に向かって乾燥が進んでいく。このとき、多管構造体が乾燥するのに伴い、触媒液中の触媒成分の移動が起こり、多管構造体各部での触媒担持量に島状の分布ができてしまう。
【0008】
そこで、特許文献1や特許文献2に記載されているように、触媒液の付着した多管構造のフィルタを液体窒素で凍結させることにより触媒成分の移動がおこらない状態にした後、真空乾燥機内で減圧することにより、溶媒を昇華させて乾燥するという凍結乾燥法が一部で用いられている。
【0009】
従来の凍結乾燥装置の概略構成図を図5に示す。図5に示すように、減圧乾燥装置1は、減圧乾燥炉2と真空ポンプ3、コールドトラップ4を備えている。減圧乾燥炉2の内部には、加熱手段5が設置されており、この加熱手段5に囲まれた場所に排ガス浄化用のフィルタ6が予め載置されている。この排ガス浄化用のフィルタ6の管状のセル内には凍結した触媒液が均一に分布している。これは触媒液(例えば水に触媒を分散させたもの)が均一に付着した状態で予め液体窒素などを用いて一瞬で凍結させたものであり、その凍結状態を維持したまま減圧乾燥炉2内に載置されている。
【0010】
上記構成において、真空ポンプ3により減圧乾燥炉2内は減圧される。凍結した状態の触媒液は三重点の圧力(水の場合0.006気圧)以下の減圧下では固体状態から直接気体に昇華し、凍結乾燥が行なわれる。この昇華の際、水分は熱を奪うため温度が下がり、連続的に乾燥を継続することができない。このため、加熱手段5は放射熱で排ガス浄化用のフィルタ6全体を−30〜40℃程度に加熱し、これにより昇華する際に水分が奪った熱量分を供給することで、凍結乾燥が連続的に行なわれる。一方、気体となった触媒液の水分は、真空ポンプ3の能力に影響を与えることがないように、冷媒や液体窒素などで低温にされたコールドトラップ4で冷却して固体化され除かれる。この方法では、触媒担持が極めて均一に分布させることができる反面、乾燥が完了するまでに20時間以上を要し、生産性が著しく低いという大きな欠点がある。
【0011】
図6は、従来の凍結乾燥における制御のフローチャートである。まずS601で乾燥を開始した後、S602でヒータ温度の測定を行なう。今回はヒータ温度の設定値を30℃とした。ヒータ温度は常時モニターされており、S603で示すように一定の範囲(今回は29℃以上、31℃以下)であるように制御する。つまり29℃以下である場合は温度を上げ(S604)、31℃以上ならば電力を落として温度を下げる(S605)。温度が上記の範囲であるならばS602に戻りヒータ温度の測定を継続する。これを所定の時間が経過し、乾燥が終了する所定の時間まで繰り返すことにより凍結乾燥が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3799659号公報
【特許文献2】特開2009−106922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来例の排ガス浄化用のフィルタの製造方法では、乾燥が完了するまでに20時間以上を要し、生産性が著しく低いという問題があった。
【0014】
また、これを改善するために、加熱用ヒータ105の温度を上げることで排ガス浄化用のフィルタ107の温度を上げて乾燥速度を早くすることも可能であるが、温度を上げすぎると水の状態図における三重点を超えてしまい、昇華ではなく液化と蒸発が発生してしまう。この状態になると、大量の水分が一気に気化するために減圧状態を維持することができなくなり、凍結乾燥を継続することができず、触媒の担持も均一に行なうことができなくなる。このため温度を上げて乾燥時間を短縮することは容易ではなく、最大限に加熱を行なうことによって最小の乾燥時間に短縮することは非常に困難であった。
【0015】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑み、加熱を行なっても減圧状態を維持することができ、且つ最小の乾燥時間で凍結乾燥を行ない、均一に触媒の担持を行なえる排ガス浄化用のフィルタの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本願発明にかかる排ガス浄化用のフィルタの製造方法は、溶媒と前記溶媒に溶解もしくは分散させた触媒とを含む触媒液をセラミックス多孔体からなるフィルタに付着させた状態で凍結させる凍結工程と、凍結した状態の前記触媒液が付着する前記フィルタが収容される減圧乾燥炉を減圧手段により減圧する減圧工程と、前記減圧乾燥炉内の前記フィルタを加熱手段により加熱する加熱工程と、前記減圧乾燥炉内の露点または溶媒量を露点計測器を用いて計測する計測工程と、前記計測工程により計測される露点または溶媒量に基づき、前記減圧乾燥炉の減圧状態を一定に維持し、かつ、前記加熱手段による加熱温度が最も高くなるように、コントローラにより前記加熱手段と前記減圧手段とを制御する制御工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記露点の変化率または溶媒量の変化率を演算部を用いて計算する計算工程を含み、前記制御工程においてさらに、前記計算工程により得られる溶媒量の変化率も加味して、前記加熱手段と前記減圧手段とを制御してもよい。
【0018】
これにより減圧状態を維持できる、すなわち本方法によって、溶媒の液化による真空崩壊が起こらない最大の速度で乾燥を行なうことができる。
【0019】
前記制御工程はさらに、予め設定される前記露点の値、溶媒量の値、露点の変化率、または溶媒量の変化率の上限を超えない様に前記加熱手段と前記減圧手段とを制御してもよい。
【0020】
本方法により、減圧状態を維持するための制御を効率的に行なうことができ、加熱温度も高くできるため、乾燥を短時間で終えることができる。
【0021】
前記加熱工程において、前記減圧乾燥炉内の前記フィルタを前記加熱手段であるランプにより加熱してもよい。
【0022】
本方法により、加熱手段の熱容量による残存加熱がなくなるために、抵抗ヒータ加熱を採用する加熱手段よりも排ガス浄化用のフィルタの温度を速く制御できる。加熱温度も高くしても真空崩壊が起きる前にフィルタの温度を下げることができるため、乾燥を短時間で終えることができる。
【0023】
前記加熱工程において、前記減圧乾燥炉内の前記フィルタを前記ランプである真空用ハロゲンヒータにより加熱してもかまわない。
【0024】
本方法により、ランプ加熱源と排ガス浄化フィルタの間を空間的に仕切っている透明材料は不要となり、この透明材料自体がわずかでも加熱されて温度が上がってしまい、加熱停止後に透明材料からの放射熱のためフィルタの温度が少し下がりにくいということが改善される。
【0025】
前記凍結工程において、前記触媒液を前記フィルタであるSiC多孔体に付着させた状態で凍結させてもよい。
【0026】
本方法により、フィルタ基材の熱伝導が大幅に改善されるため、加熱手段の制御に対するフィルタの温度の応答速度が速くなり、また、フィルタ全体の温度分布も小さくなり、加熱手段の加熱温度も高くできるため、乾燥を短時間で終えることができる。
【0027】
さらに、前記フィルタに付着した触媒液に含まれる溶媒の量である付着総溶媒量を取得する総付着溶媒量取得工程と、前記減圧工程、および、前記加熱工程が実施されている間に昇華した溶媒量の積算値である総昇華溶媒量を計測工程により計測される溶媒量に基づき導出する総量導出工程と、前記付着総溶媒量と昇華総溶媒量から乾燥が終了する時間を予測する予測工程とを含んでもよい。
【0028】
本方法により、乾燥が終了する時間を予測することができるため、好適なタイミングで加熱手段による加熱を抑制または停止させることができ、フィルタに担持される触媒への悪影響を回避することが可能となる。
【0029】
なお、前記フィルタの製造方法が含む各処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを実施することも本願発明の実施に該当する。無論、そのプログラムが記録された記録媒体を実施することも本願発明の実施に該当する。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本願発明の排ガス浄化用のフィルタの製造方法によれば、乾燥速度を最大限に高めることができ、短時間の乾燥で、且つ均一に触媒の担持を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態の排ガス浄化用のフィルタの製造方法を説明するための、乾燥炉を含む製造装置の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態の排ガス浄化用のフィルタの製造方法を実施するための制御方法を示したフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態による時間短縮効果を示すための、各加熱温度における残存水分率の変化を表すグラフである。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態の排ガス浄化用のフィルタの製造方法を説明するための、乾燥炉を含む製造装置の概略構成図である。
【図5】図5は、従来例で用いた排ガス浄化用のフィルタの製造方法を説明するための、凍結乾燥装置の概略構成図である。
【図6】図6は、従来例で用いた排ガス浄化用のフィルタの製造方法を実施するための制御方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0033】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1において用いた、凍結乾燥装置の概略構成図である。
【0034】
まず、最初に本実施の形態における排ガス浄化用のフィルタの製造方法に用いられる凍結乾燥装置の基本的な構造と機能について説明する。
【0035】
図1において、減圧乾燥装置1は、減圧乾燥炉2と、減圧手段としての真空ポンプ3と、減圧手段としてのコールドトラップ4と、露点計測器7と、コントローラ10と、加熱手段5とを備えている。減圧乾燥装置1は、減圧乾燥炉2の内部の加熱手段5に囲まれた場所に配置される排ガス浄化用のフィルタ6を減圧乾燥するものである。
【0036】
排ガス浄化用のフィルタ6の基材は、高熱伝導性を有するSiC(炭化ケイ素)からなるセラミック多孔体である。この排ガス浄化用のフィルタ6の管状のセル内には凍結した触媒液が均一に分布している。これは触媒液(例えば溶媒としての水に溶質としての触媒を分散(溶解)させたもの)が均一に付着した状態で予め液体窒素などを用いて一瞬で凍結させたものであり、その凍結状態を維持したまま減圧乾燥炉2内に載置されている。
【0037】
この構成において、露点計測器7の設置場所は、排ガス浄化用のフィルタ6と真空ポンプ3に至る配管との間で、できるだけ排ガス浄化用のフィルタ6に近い位置が望ましい。これは昇華した溶媒である水分量(溶媒量)をいち早く露点計測器7で計測させるためである。これにより、迅速に加熱手段5や減圧手段を制御することができる。
【0038】
上記構成において、主として真空ポンプ3により減圧乾燥炉2内は減圧される。凍結した状態の触媒液は三重点の圧力(溶媒が水の場合0.006気圧)以下の減圧下では固体状態から直接気体に昇華し、凍結乾燥が行なわれる。圧力が0.006気圧以下になった後、加熱手段5の電源を入れ、昇華した水分が奪う熱量を放射熱により与えて補うことにより連続的に凍結乾燥を行なうことができる。このとき放射による熱伝導は既知の式1で表されるようにヒータなどの加熱手段5の表面温度の4乗とフィルタ6の表面温度の4乗の差に比例し、また乾燥速度は、フィルタの受熱量(熱伝導量)に比例するので、加熱手段5の加熱温度が高くなれば乾燥速度が速くなる。
【0039】
W=f・F・σ・A・(T1^4-T2^4) (式1)
【0040】
f:放射係数、F:形態係数、σ:ステファン・ボルツマン定数、A:表面積(m^2)、T1:加熱手段5の表面温度(K)、T2:フィルタ面の温度(K)、^:べき乗
【0041】
すなわち、この凍結乾燥方法において、加熱手段5の加熱温度を上げれば昇華が早く進み、乾燥時間が短縮されるということであるが、加熱温度が高すぎると昇華ではなく液化と気化がほぼ同時に起こり、一気に体積膨張が起こるため減圧状態を維持できず、乾燥できなくなってしまう。一方、通常、気体となった触媒液の水分は、真空ポンプ3の能力に影響を与えることがないように、冷媒や液体窒素などで低温にされたコールドトラップ4で冷却して固体化され除かれる。これにより排気能力を維持し、減圧乾燥炉2内の減圧を保つことができる。従って、コールドトラップ4は減圧手段の一つとしている。
【0042】
減圧状態を維持しながら最短の時間で乾燥させるために、加熱手段5の表面温度や放射熱量、すなわち加熱手段5に投入する電力は、露点計測器7により計測された溶媒量(水分量)、および、溶媒量の変化率に基づきコントローラ10により制御される。
【0043】
例えば、予め減圧状態が維持できるように設定された露点の値、溶媒量の値、露点の変化率、または溶媒量の変化率の閾値よりもその値が高くなると、加熱手段5の出力を下げ(加熱手段5に投入する電力を下げて)、また、減圧手段を制御して減圧乾燥炉2内の圧力を下げる。減圧手段により圧力を下げる方法としては、主に真空ポンプの設定を変えて高真空にすることが有効である。例えば、油回転ポンプやターボ分子ポンプのモータの回転数を上昇するように設定を変える。また、コールドトラップ4の温度を下げて昇華した水分の固化効率をあげることによっても減圧手段の排気効率を上げて減圧乾燥炉2内の圧力を下げることができる。これにより露点計測器7の中の状態を予め設定した露点の値、溶媒量の値、露点の変化率、または溶媒量の変化率の閾値以下で一定に保つ。また、一定間隔、例えば1秒毎の露点を計測し、その値である溶媒量の変化率が増加している場合は、ヒータの出力(温度)を下げることにより、露点の値が露点閾値に近づくことを事前に制御することができる。
【0044】
露点の値、溶媒量の値、露点の変化率、または溶媒量の変化率の閾値は、排出される排ガス浄化用のフィルタ6の大きさと構造、減圧手段の排気能力、触媒液がフィルタ6に付着している総量である付着総触媒量に依存する。排ガス浄化用のフィルタ6の大きさと構造を示す指標としては、フィルタ6の総表面積が考えられる。具体的に総表面積は、多管状のフィルタ6を構成する一つのセルの表面積とセルの数の積と、円筒形の外側表面積との和で求めればよい。触媒液の付着総触媒量が多い場合は、液が厚くなりセルの表面を覆うため総表面積は減少する。また、減圧手段の排気能力が高い場合は、昇華した水分がより効率よく排出されるため圧力が低くなり、水(溶媒)の状態図における低圧側の状態となるため真空崩壊が起こりにくくなる。
【0045】
ここで、露点計測器7が計測する露点と溶媒量との関係は、一方を計測すれば、他方を求めることができる1対1の関係である。従って、どの方式の露点計でも、このどちらかを計測してその結果を露点として表示しており、当該表示(情報)に基づき他方の導出も可能である。
【0046】
コントローラ10による制御のフロー図を図2に示し、図2を用いて制御の流れを説明する。
【0047】
本実施形態では、露点閾値を−45℃、露点計測器7が計測する時間間隔である計測間隔を1秒とした。
【0048】
減圧乾燥を開始する(S200)。定常状態となる所定の時間が経過したときの乾燥条件(加熱手段5への投入電力量、真空度、コールドトラップ4の温度)を条件Aとし(S201)コントローラ10は条件Aを記憶する。なお、真空度は減圧乾燥炉2に取り付けられる図示しない真空度計測手段により計測される。
【0049】
その後、露点計測器7は、露点の測定を行なう(S202)。この段階で露点計測器7が測定した露点はDPとしてコントローラ10に記憶される。コントローラ10は、DPが閾値の−45℃以下であると判定した場合は(S203:Yes)、そのままの状態を維持しつつ露点計測を行い(S204−1)、S206のフローを実行する。
【0050】
一方、S203の判定でDPが−45℃より高い場合(S203:No)は、後のフローに備えてDPをDPと定義する(S204−2)。
【0051】
続いて、S207の処置1を行なう。すなわち乾燥速度をわずかに下げるために加熱手段5の温度をΔT下げ、コールドトラップ4の温度をΔTCT下げ、真空ポンプ3の排気能力を上げて真空度をΔP上げる。この際、加熱手段5の温度を下げるためには、一旦加熱手段5に投入する電力を遮断し、十秒程度経って加熱手段5自体の温度が下がってから再度加熱手段5に電力を投入する方法が有効である。つまり、加熱手段5に投入する電力量を低下させる。これは真空中では対流による熱伝導がないため輻射だけでは熱が伝わりにくく、且つ加熱手段5自体に熱容量があるためである。
【0052】
コールドトラップ4の温度を下げる方法は、冷媒や液体窒素の循環速度を上げるのが一般的である。また、液体ヘリウムなどのより低温の材料を冷媒に混合する方法でも実現できる。またコールドトラップ4の配管長を長くしてトラップ効果を上げる方法でも良い。
【0053】
この3つの処置を行なう順番は特に定めなくても良いが、反応を早く行なう観点から、S203やS206等の判定直後の瞬時にほぼ同時に行なう方が望ましい。また、必ず3つとも行なう必要もなく、効果の少ない処置を省いても本発明の効果は得られる。
【0054】
S204−1の露点測定結果DPもDPと同様に露点閾値である−45℃との比較を行なう(S205)。DPが−45℃より大きいとき(S205:No)は、S207の処置1を行なう。DPが−45℃以下の場合(S205:Yes)は、S206においてDPとDPの変化率(本実施の形態では測定間隔が1秒であるのでDPとDPの差)を比較し、コントローラ10が判定を行う(S206)。判定の結果、変化率が0.1℃/sec(差が0.1℃)よりも大きい場合は、S203において露点が−45℃以上となった場合と同様に、S207の処置1を行なう。S206で変化率が0.1℃/sec(差が0.1℃)以下の場合は、S204−1に戻り継続して乾燥と露点測定を行なう。この際、S212でDPをDPと定義し直す(S212)。これにより前の測定結果であるDPとの比較をフローチャートに沿って継続的に行なうことができる。
【0055】
S207の処置1後も同様に露点計測を行ない(S208)、S207の処置1後の測定結果であるDPについて判定を行なう(S209)。DPが−45℃より高い場合はS207の処置1を行ない、DPが−45℃より低い場合はS210で露点の比較を行ない、その判定結果が0.1℃より大きい場合はS207の処置1を行なう。0.1℃より小さい場合は、ヒータ温度等を条件Aに戻し(S211、処置2)、DPをDPと定義し直し(S212)、再びDP測定を行ない(S204−1)、DPの値を更新することにより、凍結乾燥と露点の測定を継続する。
【0056】
凍結乾燥を終えるタイミングは、予め求めた所定の時間経過後でも良いし、露点計測器7により計測している露点が例えば−60℃等所定の値になることや、フィルタ6の温度を計測して例えば0℃以上になることなど、減圧乾燥炉2内の何らかの状態の変化量を基準に判断し、確実に乾燥を終えるために、さらに所定時間長く乾燥を継続しても良い。
【0057】
また、フローチャートに示したこれらの処理をそれぞれ非常に短時間で繰り返すことにより、真空崩壊を起こさない最短の時間で乾燥を行なうことができる。具体的には、露点を計測する間隔が0.1〜数秒以内となることが好ましい。
【0058】
なお、本実施の形態においては、溶媒量の変化率をコントローラ10が備える演算部(図示せず)を用いて計算し、処置1(S207)を行うか否かの判定に演算部の計算結果を用いたが、必ずしも当該演算が必要ではない。ただし、溶媒量の変化率を用いて判定することにより、より適切に加熱手段5や減圧手段を制御することが可能となる。また、溶媒量の変化率を示す露点変化から制御を行なう方法として、露点計測器7が断続的に測定する露点の隣り合う二つの測定結果を比較し、単位時間(本実施の形態では1秒)あたりの差が0.1℃を境界条件として設定したが、露点の時間的変化を示す露点曲線を取得し、当該露点曲線の微分曲線が一定時間正か負かということで判定することも可能である。この場合、露点変化、すなわち溶媒量の変化率も迅速に知ることができる。また、凍結乾燥の進行に伴い、排ガス浄化用のフィルタ6の凍結水の状態も変化するため、最初に測定したDPの値と、そのときの露点を長時間(例えば10分程度)毎に比較し、補正を行なう方が望ましい。
【0059】
また、本実施の形態では、露点の測定間隔(S202、S204−1、S208の各間隔)を1秒毎、S206での露点の変化量の比較回数を1回(S206で露点の差が0.1より大きければすぐにS207を行なう)としたが、露点計測器7の誤差変動や応答速度、減圧乾燥炉2内の空間の大きさなどに応じて適切な値を設定することが望ましい。また、露点測定の測定ばらつきも考慮して、露点の変化量の比較回数は3回以上(すなわちS204−1からS206を繰返し、S206での比較判定が0.1以上の場合が3回以上続いてからS207の処置1を行なう)としてもかまわない。
【0060】
また、乾燥終了間際では、排ガス浄化用のフィルタ6の表面には部分的に水分がなくなっているため、そのままの温度で加熱を行なった場合は、触媒液に含まれる硫化物や硝化物が熱で分解されてしまい触媒特性が劣化する可能性もあるので、乾燥終了前の20分程度は加熱手段5の表面温度を150℃以下まで下げる方が望ましい。
【0061】
図3は、30℃から185℃までの加熱手段の各表面温度で凍結乾燥を行なった場合の、各時間における排ガス浄化用のフィルタの残存水分率を示している。
【0062】
残存水分率が0、すなわち乾燥が終了するまでの時間は、加熱温度が高くなると大幅に減少し、本実施の形態の場合、185℃までの加熱が可能となり、乾燥時間は3時間まで短縮することができた。
【0063】
また、以下の方法で乾燥の終了時間を予測することができる。まず、乾燥前に触媒液の付着量を計測して付着総溶媒量を求めておき、次に乾燥中露点計測器7により計測した露点から昇華した溶媒量の積算値である総昇華溶媒量を導出する。付着総溶媒量と総昇華溶媒量との値の差から残存溶媒量を計算することができ、触媒液の付着量が変化しても乾燥時間を予測することができるため、乾燥終了前の加熱手段5の降温処理を適切なタイミングで行なうことができる。従って、最適で効率的な時間で乾燥することができる。
【0064】
なお、本実施の形態において、溶媒は予め液体窒素を用いて凍結させてから減圧乾燥炉2内に載置したが、液体状態のまま減圧し、その減圧中に奪われる気化熱を利用して凍結させても良い。
【0065】
また、加熱手段5が排ガス浄化用のフィルタ6を直接加熱する構成としたが、ヒータと排ガス浄化用のフィルタの間にバッファー金属を設置し、間接的に加熱する構成でも構わない。
【0066】
また、セラミック多孔体の材料は炭化ケイ素(SiC)としたが、コージェライトなど他の材料でも構わない。
【0067】
また、露点閾値はフロー図を用いた説明で−45℃としたが、前述の様に真空ポンプの性能や排ガス浄化用のフィルタの大きさと形状、減圧乾燥炉の容積、露点計測器の設置場所などにより異なるため、閾値の設定には、予め実験を行ない、設計理論値と実験値の差を求めて、制御に反映する方法が有効である。
【0068】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について、図4の装置の概略構成図を用いて説明する。
【0069】
図4において加熱方式以外は実施の形態1と同じであるので説明は省略する。
【0070】
図1に示した実施の形態1では加熱手段5としてシースヒーターなどの抵抗加熱を用いたのに対し、本実施の形態の加熱手段5は、ランプ加熱を用いている。加熱手段5としてランプ加熱を採用することにより、抵抗ヒータ加熱よりも減圧乾燥炉2内に配置されるフィルタ6の温度を速く制御できる。この理由は、抵抗ヒータ加熱を採用する加熱手段5は熱容量が比較的大きいため、加熱のための電力の投入を停止しても加熱手段5自体はすぐに冷えずフィルタ6を加熱し続けるため、フィルタ6の降温速度が遅いためである。
【0071】
本実施の形態の場合、フィルタ6は、石英ガラスなどの材料からなる透明シールド壁9の内方に配置されており、加熱手段5である加熱ランプは、透明シールド壁9の外方に設置されている。加熱ランプからなる加熱手段5は、透明シールド壁9を通過する放射熱によりフィルタ6を加熱する。この際、透明シールド壁9は透明であるため光が透過し、透明シールド壁自体の熱の吸収は最小減に抑えられている。
【0072】
凍結乾燥における工程は、実施の形態1と同じであるが、加熱手段5として加熱ランプで加熱を行なっているため、温度の応答速度が速くなり、これにより実施の形態1で示した加熱手段5の温度の制御量も小さくすることができ、露点閾値は高く、加熱温度も高くできるため乾燥時間も短くすることができる。
【0073】
本実施の形態では加熱方法として透明シールド壁9として石英などの透明材料を介して外から加熱する方法を用いたが、加熱手段として加熱ランプの一つである真空用ハロゲンヒータを用いた場合、透明シールド壁9は不要となる。これにより、透明シールド壁9自体がわずかでも加熱されて温度が上がってしまい、加熱停止後に透明材料からの放射熱のため温度が少し下がりにくいということも改善される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本願発明の排ガス浄化用のフィルタの製造方法によれば、排ガス浄化用のフィルタの様な多孔質材料を基材とする材料の乾燥のみならず、加熱を行なうことにより材料自体の変質が起こらないものであればあらゆる凍結乾燥工程に広範に適用することができ、乾燥時間を大幅に短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0075】
1 減圧乾燥装置
2 減圧乾燥炉
3 真空ポンプ
4 コールドトラップ
5 加熱用ヒータ
6 排ガス浄化用のフィルタ
7 露点計測器
8 加熱ランプ
9 透明シールド
10 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と前記溶媒に溶解もしくは分散させた触媒とを含む触媒液をセラミックス多孔体からなるフィルタに付着させた状態で凍結させる凍結工程と、
凍結した状態の前記触媒液が付着する前記フィルタが収容される減圧乾燥炉を減圧手段により減圧する減圧工程と、
前記減圧乾燥炉内の前記フィルタを加熱手段により加熱する加熱工程と、
前記減圧乾燥炉内の露点または溶媒量を露点計測器を用いて計測する計測工程と、
前記計測工程により計測される露点または溶媒量に基づき、前記減圧乾燥炉の減圧状態を一定に維持し、かつ、前記加熱手段による加熱温度が最も高くなるように、コントローラにより前記加熱手段と前記減圧手段とを制御する制御工程と
を含む排ガス浄化用のフィルタの製造方法。
【請求項2】
さらに、
前記露点の変化率または前記溶媒量の変化率を演算部を用いて計算する計算工程を含み、
前記制御工程においてさらに、前記計算工程により得られる露点の変化率または溶媒量の変化率も加味して、前記加熱手段と前記減圧手段とを制御する
請求項1に記載の排ガス浄化用のフィルタの製造方法。
【請求項3】
前記制御工程はさらに、予め設定される前記露点の値、溶媒量の値、露点の変化率、または溶媒量の変化率の上限を超えない様に前記加熱手段と前記減圧手段とを制御する
請求項1に記載の排ガス浄化用のフィルタの製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、前記減圧乾燥炉内の前記フィルタを前記加熱手段であるランプにより加熱する請求項1に記載の排ガス浄化用のフィルタの製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程において、前記減圧乾燥炉内の前記フィルタを前記ランプである真空用ハロゲンヒータにより加熱する請求項4に記載の排ガス浄化用のフィルタの製造方法。
【請求項6】
前記凍結工程において、前記触媒液を前記フィルタであるSiC多孔体に付着させた状態で凍結させる請求項1に記載の排ガス浄化用のフィルタの製造方法。
【請求項7】
さらに、
前記フィルタに付着した触媒液に含まれる溶媒の量である付着総溶媒量を取得する総付着溶媒量取得工程と、
前記減圧工程、および、前記加熱工程が実施されている間に昇華した溶媒量の積算値である総昇華溶媒量を計測工程により計測される溶媒量に基づき導出する総量導出工程と、
前記付着総溶媒量と昇華総溶媒量から乾燥が終了する時間を予測する予測工程と
を含む請求項1に記載の排ガス浄化用のフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245491(P2012−245491A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121051(P2011−121051)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】