説明

フィルタユニットおよび細胞回収装置

【課題】血球等の血液成分を効果的に除去するとともに、細胞の回収率を向上することができるフィルタユニットを提供する。
【解決手段】細胞懸濁液Aを一方向に通過させることで捕捉される細胞数と回収液Cを逆方向に通過させることで回収される細胞数とが略同等になるような厚さを有する複数のフィルタ11a〜11dと、フィルタ11a〜11dを接続する配管13と、各フィルタ間において配管13から分岐する分岐配管14a,14bと、各フィルタ間にそれぞれ配置され、細胞捕捉時には細胞懸濁液Aが複数のフィルタ11a〜11dを流通するように流路を切り替えるとともに、細胞回収時には回収液Cがフィルタ11a〜11d通過後に分岐配管14a,14bを流通するように流路を切り替える三方弁12a,12bとを備えるフィルタユニット1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞懸濁液から細胞を回収するためのフィルタユニットおよび細胞回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルタに細胞懸濁液を通過させることで、必要な細胞をフィルタにより捕捉する細胞回収方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この細胞回収方法は、細胞懸濁液送液工程、リンス工程、細胞回収工程の3つの工程を有している。細胞懸濁液送液工程では、血球成分を含む細胞懸濁液をフィルタに一方向に通過させる。リンス工程では、細胞懸濁液送液工程における送液方向と同方向に生理食塩水等のリンス液を流通させ、フィルタに捕捉された血球等の血液成分の除去を行う。細胞回収工程では、細胞懸濁液送液工程における送液方向とは逆の方向に回収液を流通させ、フィルタに捕捉された細胞を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4036304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1には、フィルタ内において、送液される上流側に多くの細胞が捕捉され、下流側で捕捉される細胞数が少なくなることが記載されている。これは、細胞がフィルタ内を移動しにくいことに起因する。
【0005】
リンス工程は、血液成分の大きさが、細胞の大きさに比べて小さいことを利用している。すなわち、生理食塩水等のリンス液を流すことで、血球成分をフィルタのより深部へ潜り込ませる、もしくはフィルタを通過させることにより、血球等の血液成分等をフィルタから除去することができる。
【0006】
しかしながら、リンス工程において多くの生理食塩水を流すと、血球成分は効果的に除去できるものの、細胞もフィルタの深部へ潜り込んでしまうため、細胞回収工程における細胞の回収率を低下させてしまう。そこで、特許文献1では、リンス工程での液移動量を限定することで、細胞がなるべくフィルタ内へ潜り込まないようにしている。しかしながら、特許文献1での実施例を見る限り、細胞回収率は約80%程度、血球除去率も約80%程度にとどまっている。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、血球等の血液成分を効果的に除去するとともに、細胞の回収率を向上することができるフィルタユニットおよび細胞回収装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の第1の態様は、細胞懸濁液を一方向に通過させることで捕捉される細胞数と回収液を逆方向に通過させることで回収される細胞数とが略同等になるような厚さを有する複数のフィルタと、複数の前記フィルタを接続する配管と、各前記フィルタ間において前記配管から分岐する分岐配管と、各前記フィルタ間にそれぞれ配置され、細胞捕捉時には前記細胞懸濁液が複数の前記フィルタを流通するように流路を切り替えるとともに、細胞回収時には前記回収液が前記フィルタ通過後に前記分岐配管を流通するように流路を切り替える流路切替手段とを備えるフィルタユニットである。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、複数のフィルタが配管で接続されるとともに、各フィルタ間において分岐配管が配管から分岐し、これら配管と分岐配管の流路が流路切替手段により切り替えられる。このような構成を有することで、配管で接続された複数のフィルタに細胞懸濁液を通過させることによって、フィルタにより細胞懸濁液中の細胞が捕捉される。その後、細胞が捕捉された複数のフィルタに、細胞懸濁液の流通方向とは逆方向に回収液を通過させることによって、フィルタにより捕捉された細胞が回収される。
【0010】
この場合において、複数のフィルタは、細胞懸濁液を一方向に通過させることで捕捉される細胞数と、回収液を逆方向に通過させることで回収される細胞数とが略同等になるような厚さをそれぞれ有している。これにより、細胞懸濁液やリンス液を多く流通した場合にも、フィルタに捕捉された細胞がフィルタの深部にまで潜り込んでしまうことを防止することができる。これにより、リンス液を流通させた際に血球等の血液成分を効率的に除去するとともに、回収液を流通させた際に細胞の回収率を向上することができる。
【0011】
また、流路切替手段により、細胞捕捉時には細胞懸濁液が複数のフィルタを流通するように流路が切り替えられるとともに、細胞回収時には回収液がフィルタ通過後に分岐配管を流通するように流路が切り替えられる。これにより、細胞懸濁液を流通させた場合には、複数のフィルタで効率的に細胞を捕捉することができる。また、回収液を流通させた場合には、回収液によりフィルタから解放された細胞が、他のフィルタに再び捕捉されてしまうことを防止することができ、細胞の回収率を向上することができる。
以上のように、本発明の第1の態様によれば、血球等の血液成分を効率的に除去するとともに、細胞の回収率を向上することができる。
【0012】
上記の第1の態様において、前記流路切替手段が、前記分岐配管の分岐点に設けられた三方弁であることとしてもよい。
分岐配管の分岐点に三方弁を設けることで、前述の流路切替手段として機能させることができる。このように流路切替手段を1つの三方弁とすることで、フィルタユニットを簡易的な装置構成とすることができる。
【0013】
上記の第1の態様において、前記分岐配管および前記三方弁が、各前記フィルタ間においてそれぞれ2つずつ設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、各フィルタ間において、分岐配管が配管から2つずつ分岐するとともに、三方弁が2つの分岐配管の分岐点にそれぞれ設けられた構成とすることができる。このような構成とすることで、各フィルタに回収液を流通させてフィルタに捕捉された細胞を回収する作業を、複数のフィルタで同時に行うことができ、作業の効率化を図ることができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、上記のフィルタユニットと、前記配管に前記細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液供給手段と、前記配管または前記分岐配管に前記回収液を供給する回収液供給手段とを備える細胞回収装置である。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、前述のフィルタユニットを有しているため、細胞懸濁液供給手段により配管に細胞懸濁液を供給することで、複数のフィルタで効率的に細胞を捕捉することができる。また、回収液供給手段により配管または分岐配管に回収液を供給することで、回収液によりフィルタから解放された細胞が、他のフィルタに再び捕捉されてしまうことを防止することができ、細胞の回収率を向上することができる。
【0016】
上記の第2の態様において、前記配管にリンス液を供給するリンス液供給手段を備えることとしてもよい。
リンス液供給手段により配管にリンス液を供給することで、フィルタに捕捉された血球等の血液成分を効率的に除去することができ、回収する細胞の純度を向上することができる。
【0017】
上記の第2の態様において、前記複数のフィルタの後段に設けられ、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液中に含まれる血液成分を検出する血液成分検出手段と、該血液成分検出手段により検出された血液成分の濃度に基づいて前記リンス液供給手段を制御する制御部とを備えることとしてもよい。
【0018】
このようにすることで、複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液中に含まれる血液成分を血液成分検出手段により検出し、検出された血液成分の濃度に基づいてリンス液供給手段を制御部により制御することができる。これにより、フィルタに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去するとともに、リンス液を過度に流通させることによる細胞の損失を防止して、細胞の回収率を向上することができる。
【0019】
上記の第2の態様において、前記血液成分検出手段が、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液の色を検出する色センサであることとしてもよい。
フィルタ通過後の細胞懸濁液の色(例えば赤色系)を色センサにより検出することで、複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液中に含まれる血液成分の濃度を検出することができ、フィルタに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去することができる。
【0020】
上記の第2の態様において、前記血液成分検出手段が、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液の光学的特性を検出する光学センサであることとしてもよい。
フィルタ通過後の細胞懸濁液の光学的特性(例えば吸光度や散乱光)を光学センサにより検出することで、複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液中に含まれる血液成分の濃度を検出することができ、フィルタに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去することができる。
【0021】
上記の第2の態様において、前記血液成分検出手段が、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液の電気伝導率を検出する導電センサであることとしてもよい。
フィルタ通過後の細胞懸濁液の電気伝導率を導電センサにより検出することで、複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液中に含まれる血液成分の濃度を検出することができ、フィルタに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、血球等の血液成分を効果的に除去するとともに、細胞の回収率を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞回収装置の概略構成図である。
【図2】図1のフィルタユニットの模式図である。
【図3】図2の各フィルタの特性を示すグラフである。
【図4】図2の各フィルタにより捕捉される細胞数および血球数と深さとの関係を示すグラフであり、(a)はリンス液供給前、(b)はリンス液供給後の状態を示している。
【図5】本発明の第1の変形例に係る細胞回収装置の概略構成図である。
【図6】本発明の第2の変形例に係るフィルタユニットの模式図である。
【図7】図6の中段〜下段のフィルタにより捕捉された細胞を回収する際の状態を説明する図である。
【図8】図6の最上段のフィルタにより捕捉された細胞を回収する際の状態を説明する図である。
【図9】本発明の第3の変形例に係るフィルタユニットの模式図である。
【図10】図9のフィルタにより捕捉された細胞を回収する際の状態を説明する図である。
【図11】従来のフィルタにより捕捉される細胞数および血球数と深さとの関係を示すグラフであり、(a)はリンス液供給前、(b)はリンス液供給後の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態に係るフィルタユニット1およびフィルタユニット1を備える細胞回収装置100について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞回収装置100は、図1に示されるように、後述するフィルタユニット1と、細胞懸濁液Aを収容する細胞懸濁液容器101と、リンス液Bを収容するリンス液容器102と、フィルタユニット1に細胞懸濁液Aおよびリンス液Bを供給するポンプ(細胞懸濁液供給手段、リンス液供給手段)106と、回収液Cを収容する回収液容器104と、フィルタユニット1に回収液Cを供給するポンプ(回収液供給手段)107と、フィルタユニット1により捕捉された細胞を回収液Cとともに収容する回収容器103と、フィルタユニット1からの廃液を回収する廃液容器105とを備えている。
【0025】
細胞懸濁液容器101とポンプ106との間にはバルブ111が設けられ、リンス液容器102とポンプ106との間にはバルブ112が設けられている。これらバルブ111,112を開閉動作させることで、フィルタユニット1への供給を細胞懸濁液Aとリンス液Bとで切り替えるようになっている。
また、フィルタユニット1と回収容器103との間にはバルブ113が設けられ、フィルタユニット1と廃液容器105との間にはバルブ114が設けられている。
【0026】
本実施形態に係るフィルタユニット1は、図2に示されるように、複数のフィルタ11a〜11dと、フィルタ11a〜11dを接続する配管13(13a,13b)と、フィルタ11a〜11dにそれぞれ接続された回収液配管15a〜15dと、各フィルタ間において配管13から分岐する分岐配管14a,14bと、各フィルタ間にそれぞれ配置された三方弁(流路切替手段)12a,12bとを備えている。
【0027】
なお、図2において、フィルタ11cと11dとの間には、1つ以上のフィルタと、各フィルタ間に配置される分岐配管および三方弁とが備えられていてもよいが、本実施形態では作図の都合上、フィルタ11cと11dとの間のフィルタ、分岐配管、および三方弁については図示を省略する。
【0028】
フィルタ11aとフィルタ11bとは配管13aにより接続されている。配管13aには、その途中位置に三方弁12aが設けられ、三方弁12aには分岐配管14aが接続されている。このような構成を有することで、三方弁12aを動作させることにより、フィルタ11aとフィルタ11bとの間の流路、すなわち配管13aと分岐配管14aの流路が切り替えられるようになっている。
【0029】
フィルタ11bとフィルタ11cとは配管13bにより接続されている。配管13bには、その途中位置に三方弁12bが設けられ、三方弁12bには分岐配管14bが接続されている。このような構成を有することで、三方弁12bを動作させることにより、フィルタ11bとフィルタ11cとの間の流路、すなわち配管13bと分岐配管14bの流路が切り替えられるようになっている。
【0030】
同様に、フィルタ11cとフィルタ11dとの間にも図示しない三方弁が設けられており、この三方弁を動作させることにより、フィルタ11cとフィルタ11dとの間の流路が切り替えられるようになっている。
【0031】
このように構成されたフィルタユニット1に対して、細胞懸濁液Aおよびリンス液Bが、配管13から一方向(図2において紙面下方向)に通過させられる。また、回収液Cが、回収液配管15a〜15dからフィルタ11a〜11dのそれぞれに供給され、フィルタ11a〜11dに細胞懸濁液Aとは逆方向(図2において紙面上方向)に通過させられる。
【0032】
ここで、細胞懸濁液Aは、脂肪組織等の生体組織が消化酵素液により消化されて、生体組織から細胞が単離した懸濁液のことである。リンス液Bは、例えば生理食塩水であり、フィルタ11a〜11dに捕捉された細胞懸濁液A中の血球等の血液成分を除去するために供給される液体である。回収液Cは、例えば生理食塩水であり、フィルタ11a〜11dに捕捉された細胞をフィルタから解放して回収するために供給される液体である。
【0033】
フィルタ11a〜11dは、例えば不織布で構成され、目開きが細胞よりも小さくされたフィルタであり、細胞懸濁液A中の細胞を捕捉できるようになっている。
ここで、一般的にフィルタは、図3に示すように、その厚さが大きくなるほど、細胞の捕捉率(捕捉した細胞数/通過させた細胞懸濁液中の細胞数)は指数関数的に大きくなる。さらに、フィルタの厚さが小さすぎると、細胞の捕捉率が低下するだけでなく、リンス液を流通させた場合に、血球等の血液成分だけでなく、一旦は捕捉した細胞も流出してしまう。
【0034】
しかしながら、フィルタの厚さが大きくなるほど、細胞の捕捉率と回収率(回収可能な細胞数/捕捉した細胞数)とが乖離する。これは、フィルタの厚さが大きいと、細胞がフィルタの深部へ潜り込んでしまい、回収液を逆方向から流通させてもフィルタから解放することのできない細胞が増加するためである。すなわち、フィルタは、その厚さが大きくなるほど、捕捉率を高めることができるものの、回収率が低下してしまう。
【0035】
そこで、本実施形態におけるフィルタ11a〜11dは、図3に示すように、捕捉率に対して回収率が良い領域の厚さに設定する。すなわち、フィルタ11a〜11dは、細胞懸濁液Aを一方向に通過させることで捕捉される細胞数と、回収液Cを逆方向に通過させることで回収される細胞数とが略同等になるような厚さに設定する。
【0036】
このような厚さのフィルタとすることで、各フィルタそれぞれについての捕捉率は低いものの、上記のフィルタを複数積層することによって、フィルタユニット全体としての細胞の捕捉率を向上させるとともに、細胞の回収率をも向上することができる。
【0037】
図2に示すように、三方弁12a,12bは、細胞捕捉時および細胞洗浄時には、細胞懸濁液Aおよびリンス液Bが、複数のフィルタ11a〜11dを流通するように流路を切り替える。すなわち、細胞捕捉時および細胞洗浄時には、三方弁12a,12bは、配管13a,13bの流路を開くとともに、分岐配管14a,14bへの流路を閉じて、細胞懸濁液Aおよびリンス液Bを配管13,13a,13bの順に流通させる。
【0038】
また、三方弁12a,12bは、細胞回収時には、回収液Cがフィルタ通過後に分岐配管14a,14bを流通するように流路を切り替える。すなわち、細胞回収時には、三方弁12a,12bは、配管13a,13bの流路を閉じるとともに、分岐配管14a,14bへの流路を開いて、回収液配管15b,15cから供給された回収液Cを、それぞれ分岐配管14a,14bに流通させる。
【0039】
配管13には、細胞懸濁液Aを収容する細胞懸濁液容器101と、リンス液Bを収容するリンス液容器102とが接続されている(図1参照)。配管13は、例えばチューブであり、その途中位置には細胞懸濁液Aおよびリンス液Bを供給するポンプ106が設けられている。
【0040】
回収液配管15a〜15dには、回収液Cを収容する回収液容器104が接続されている(図1参照)。回収液配管15a〜15dは、例えばチューブであり、その途中位置には回収液Cを供給するポンプ107が設けられている。
ポンプ106,107は、例えばベリスタリックポンプであり、図示しないローラによりチューブを外部から押し潰すことで、チューブ内の液体を送るようになっている。
【0041】
分岐配管14a,14bには、フィルタ11b,11cに捕捉された細胞を、回収液配管15b,15cから供給された回収液Cとともに収容する回収容器103が接続されている(図1参照)。また、回収容器103は、配管13にも接続されており、最上段のフィルタ11aに捕捉された細胞を、回収液配管15aから供給された回収液Cとともに収容するようになっている。
【0042】
上記構成を有するフィルタユニット1および細胞回収装置100の作用について以下に説明する。
まず、三方弁12a,12bを動作させて、細胞懸濁液Aおよびリンス液Bが、複数のフィルタ11a〜11dを流通するように流路を切り替える。この状態において、図1に示すように、バルブ111を開くとともにバルブ112を閉じて、ポンプ106を作動させ、細胞懸濁液容器101から細胞懸濁液Aをフィルタユニット1(配管13)に供給する。これにより、細胞懸濁液A中の細胞および血球がフィルタ11a〜11dに捕捉される。
【0043】
次に、バルブ111を閉じるとともにバルブ112を開いて、ポンプ106を作動させ、リンス液容器102からリンス液Bをフィルタユニット1(配管13)に供給する。これにより、フィルタ11a〜11dに捕捉された血球がフィルタ11a〜11dから除去される。
【0044】
次に、三方弁12a,12bを動作させて、回収液Cがフィルタ通過後に分岐配管14a,14bを流通するように流路を切り替える。この状態において、図1に示すように、ポンプ107を作動させて、回収液容器104から回収液Cをフィルタユニット1(回収液配管15a〜15d)に供給する。これにより、フィルタ11a〜11dに捕捉された細胞が、配管13および分岐配管14a,14bから回収される。
【0045】
この場合におけるフィルタユニット1の細胞の捕捉率および回収率について、従来例との比較を行いながら説明する。図11は従来のフィルタユニットにおけるフィルタ深さと捕捉される細胞数および血球数との関係を示している。図4は本実施形態のフィルタユニット1におけるフィルタ深さと捕捉される細胞数および血球数との関係を示している。なお、図11および図4において、グラフの実線は細胞を、グラフの点線は血球を示している。
【0046】
従来のフィルタユニットによれば、図11(a)に示すように、細胞懸濁液Aをフィルタに通過させた場合に、フィルタの深部になるほど、捕捉される細胞および血液成分(血球)も指数関数的に減少する。なお、血液成分(血球)は細胞よりも粒径が小さいため、フィルタの奥深くに入り込みやすい。そのため、フィルタ深部においては、血液成分(血球)が細胞よりも多くなっている。
【0047】
このように細胞および血球が捕捉されたフィルタにリンス液Bを流通させることで、図11(b)に示すように、血液成分(血球)は減少するものの、リンス液Bにより細胞および血球がフィルタの奥深くに流されて、それぞれの分布曲線の曲率が小さくなる。この場合には、特に、細胞がフィルタのより奥深くに潜り込むこととなり、回収液Cを逆方向から流通させても、フィルタから細胞を回収することが困難となる。
【0048】
これに対して、本実施形態に係るフィルタユニット1によれば、図4(a)に示すように、細胞懸濁液Aをフィルタに通過させた場合に、フィルタ11a〜11dのそれぞれにおいて細胞懸濁液A中の細胞および血球が捕捉される。このフィルタ11a〜11dにより捕捉される細胞および血球の数は、細胞懸濁液Aを流通させる上流方向に従って多くなる(すなわち、フィルタ11a>フィルタ11b>フィルタ11c>フィルタ11d)。また、各フィルタにおいて、フィルタの深部になるほど、捕捉される細胞および血液成分(血球)も指数関数的に減少する。
【0049】
このように細胞および血球が捕捉されたフィルタ11a〜11dにリンス液Bを流通させることで、図4(b)に示すように、血液成分(血球)は減少するものの、リンス液Bにより細胞および血球がフィルタの奥深くに流されて、それぞれの分布曲線の曲率が小さくなる。しかしながら、前述のように、フィルタ11a〜11dは、細胞懸濁液Aを一方向に通過させることで捕捉される細胞数と、回収液Cを逆方向に通過させることで回収される細胞数とが略同等になるような厚さに設定されている。したがって、回収液Cを逆方向から流通させた場合に、各フィルタから細胞を容易に回収することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態に係るフィルタユニット1および細胞回収装置100によれば、配管13で接続された複数のフィルタ11a〜11dに細胞懸濁液Aを通過させることで、フィルタ11a〜11dにより細胞懸濁液A中の細胞が捕捉される。その後、細胞が捕捉されたフィルタ11a〜11dに、細胞懸濁液Aの流通方向とは逆方向に回収液Cを通過させることで、フィルタ11a〜11dにより捕捉された細胞が回収される。
【0051】
この場合において、フィルタ11a〜11dは、細胞懸濁液Aを一方向に通過させることで捕捉される細胞数と、回収液Cを逆方向に通過させることで回収される細胞数とが略同等になるような厚さをそれぞれ有している。これにより、細胞懸濁液Aやリンス液Bを多く流通した場合にも、フィルタ11a〜11dに捕捉された細胞がフィルタ11a〜11dの深部にまで潜り込んでしまうことを防止することができる。これにより、リンス液Bを流通させた際に血球等の血液成分を効果的に除去するとともに、回収液Cを流通させた際に細胞の回収率を向上することができる。
【0052】
また、三方弁12a,12bにより、細胞捕捉時には細胞懸濁液Aが複数のフィルタ11a〜11dを流通するように流路が切り替えられるとともに、細胞回収時には回収液Cがフィルタ11a〜11d通過後に分岐配管14a,14bを流通するように流路が切り替えられる。これにより、細胞懸濁液Aを流通させた場合には、フィルタ11a〜11dで効率的に細胞を捕捉することができる。また、回収液Cを流通させた場合には、回収液Cによりフィルタ11a〜11dから解放された細胞が、他のフィルタ11a〜11dに再び捕捉されてしまうことを防止することができ、細胞の回収率を向上することができる。
【0053】
上述のように、本実施形態に係るフィルタユニット1および細胞回収装置100によれば、血球等の血液成分を効率的に除去するとともに、細胞の回収率を向上することができる。
また、上記の流路切替手段として、分岐配管14a,14bの分岐点に三方弁を設けることで、フィルタユニット1を簡易的な装置構成とすることができる。
【0054】
[第1の変形例]
本実施形態の第1の変形例として、図5に示すように、前述の細胞回収装置100において、フィルタユニット1(フィルタ11d)の後段に、フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液Aの色を検出する血液成分検出手段201を設け、該血液成分検出手段により検出された血液成分の濃度に基づいてポンプ106(リンス液供給手段)を制御部202により制御することとしてもよい。
【0055】
このようにすることで、複数のフィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液A中に含まれる血液成分を血液成分検出手段201により検出し、検出された血液成分の濃度に基づいてポンプ106を制御部202により制御することができる。これにより、フィルタ11a〜11dに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去するとともに、リンス液Bを過度に流通させることによる細胞の損失を防止して、細胞の回収率を向上することができる。
【0056】
なお、上記の血液成分検出手段201は、フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液Aの赤色系を検出する色センサであることとしてもよい。
フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液Aの赤色(血液成分)を色センサにより検出することで、フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液A中に含まれる血液成分の濃度を検出することができ、フィルタ11a〜11dに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去することができる。
【0057】
また、上記の血液成分検出手段201は、フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液Aの光学的特性を検出する光学センサであることとしてもよい。
フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液Aの光学的特性(例えば吸光度や散乱光)を光学センサにより検出することで、フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液A中に含まれる血液成分の濃度を検出することができ、フィルタ11a〜11dに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去することができる。
【0058】
また、上記の血液成分検出手段201は、フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液Aの電気伝導率を検出する導電センサであることとしてもよい。
フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液Aの電気伝導率を導電センサにより検出することで、フィルタ11a〜11d通過後の細胞懸濁液A中に含まれる血液成分の濃度を検出することができ、フィルタ11a〜11dに捕捉された血球等の血液成分を効果的に除去することができる。
【0059】
[第2の変形例]
本実施形態の第2の変形例として、前述のフィルタユニット1において、回収液Cの供給位置を変えることとしてもよい。
本変形例に係るフィルタユニット2は、図6に示すように、分岐配管14a,14bを、フィルタ11a〜11dに捕捉された細胞を回収液Cとともに回収する配管としてだけでなく、回収液Cを供給する配管(図2における回収液配管15a〜15d)として利用している。すなわち、分岐配管14a,14bには、それぞれ、回収液容器104と回収容器103とが接続されるとともに、その流路を切り替えるバルブ(図示略)が設けられている。
【0060】
本変形例に係るフィルタユニット2によれば、フィルタ11bに捕捉されている細胞を回収する場合には、図7に示すように、配管13aの流路を閉じるとともに、分岐配管14aへの流路を開いて、分岐配管14bから供給された回収液Cを分岐配管14aに流通させる。
【0061】
また、フィルタ11aに捕捉されている細胞を回収する場合には、図8に示すように、配管13aのフィルタ11bへの流路を閉じるとともに、配管13aのフィルタ11aへの流路を開いて、分岐配管14aから供給された回収液Cを配管13に流通させる。
【0062】
以上のように、本変形例に係るフィルタユニット2によれば、前述のフィルタユニット1と同様の効果に加えて、回収液配管15a〜15dを無くすことができ、フィルタユニットの装置構成の小型化を図ることができる。
【0063】
[第3の変形例]
本実施形態の第3の変形例として、前述の第2の変形例に係るフィルタユニット2において、フィルタ間の配管11a,11bに、分岐配管および三方弁をそれぞれ2つずつ設けることとしてもよい。
【0064】
本変形例に係るフィルタユニット3は、図9に示すように、第2の変形例の構成(図6参照)に加えて、配管13aに三方弁17aと分岐配管18aとが設けられ、配管13bに三方弁17bと分岐配管18bとが設けられている。
【0065】
三方弁17aは、配管13aにおいて三方弁12aとフィルタ11bとの間に設けられている。分岐配管18aは、三方弁17aに接続されることで、配管13aから分岐している。
三方弁17bは、配管13bにおいて三方弁12bとフィルタ11cとの間に設けられている。分岐配管18bは、三方弁17bに接続されることで、配管13bから分岐している。
【0066】
上記構成を有する本変形例に係るフィルタユニット3によれば、フィルタ11aに捕捉されている細胞を回収するためには、図10に示すように、三方弁12aの三方弁17aへの流路を閉じるとともに、三方弁12aのフィルタ11aへの流路を開いて、分岐配管14aから供給された回収液Cを配管13に流通させる。
【0067】
また、フィルタ11bに捕捉されている細胞を回収するためには、図10に示すように、三方弁12bの三方弁17bへの流路を閉じるとともに、三方弁12bのフィルタ11bへの流路を開く。また、三方弁17aの分岐配管18aへの流路を開いて、分岐配管14bから供給された回収液Cを分岐配管18aに流通させる。この際、三方弁17aは、分岐配管18aへの流路を開いていればよく、三方弁12aへの流路については開いていても閉じていてもよい。
【0068】
本変形例に係るフィルタユニット3によれば、上記のフィルタ11aに捕捉されている細胞を回収する作業と、フィルタ11bに捕捉されている細胞を回収する作業とを同時に行うことができる。すなわち、本変形例に係るフィルタユニット3によれば、前述のフィルタユニット2と同様の効果に加えて、各フィルタ11a〜11dに回収液Cを流通させてフィルタ11a〜11dに捕捉された細胞を回収する作業を、複数のフィルタ11a〜11dで同時に行うことができ、作業の効率化を図ることができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態および各変形例について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明の実施形態と各変形例を適宜組み合わせてもよく、特に限定されるものではない。
【0070】
また、本実施形態では、フィルタを4つ備えた例について説明したが、2つ以上のフィルタを備えていればよく、フィルタの段数に関わらず、各フィルタ間に分岐配管および三方弁を設ければ、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0071】
また、回収したい細胞の種類(粒径)等によって使用するフィルタの段数を変更してもよい。この場合には、細胞の種類とフィルタの段数とが対応付けられたテーブルを予め記憶しておき、回収したい細胞の種類に応じて三方弁を動作させて、使用するフィルタの段数を自動的に決定することとしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1,2,3 フィルタユニット
11a〜11d フィルタ
12a,12b 三方弁(流路切替手段)
13,13a,13b 配管
14a,14b 分岐配管
15a〜15d 回収液配管
100,200 細胞回収装置
101 細胞懸濁液容器
102 リンス液容器
103 回収容器
104 回収液容器
105 廃液容器
106 ポンプ(細胞懸濁液供給手段、リンス液供給手段)
107 ポンプ(回収液供給手段)
201 血液成分検出手段
202 制御部
A 細胞懸濁液
B リンス液
C 回収液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を一方向に通過させることで捕捉される細胞数と回収液を逆方向に通過させることで回収される細胞数とが略同等になるような厚さを有する複数のフィルタと、
複数の前記フィルタを接続する配管と、
各前記フィルタ間において前記配管から分岐する分岐配管と、
各前記フィルタ間にそれぞれ配置され、細胞捕捉時には前記細胞懸濁液が複数の前記フィルタを流通するように流路を切り替えるとともに、細胞回収時には前記回収液が前記フィルタ通過後に前記分岐配管を流通するように流路を切り替える流路切替手段とを備えるフィルタユニット。
【請求項2】
前記流路切替手段が、前記分岐配管の分岐点に設けられた三方弁である請求項1に記載のフィルタユニット。
【請求項3】
前記分岐配管および前記三方弁が、各前記フィルタ間においてそれぞれ2つずつ設けられた請求項2に記載のフィルタユニット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のフィルタユニットと、
前記配管に前記細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液供給手段と、
前記配管または前記分岐配管に前記回収液を供給する回収液供給手段とを備える細胞回収装置。
【請求項5】
前記配管にリンス液を供給するリンス液供給手段を備える請求項4に記載の細胞回収装置。
【請求項6】
前記複数のフィルタの後段に設けられ、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液中に含まれる血液成分を検出する血液成分検出手段と、
該血液成分検出手段により検出された血液成分の濃度に基づいて前記リンス液供給手段を制御する制御部とを備える請求項5に記載の細胞回収装置。
【請求項7】
前記血液成分検出手段が、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液の色を検出する色センサである請求項6に記載の細胞回収装置。
【請求項8】
前記血液成分検出手段が、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液の光学的特性を検出する光学センサである請求項6に記載の細胞回収装置。
【請求項9】
前記血液成分検出手段が、前記複数のフィルタ通過後の細胞懸濁液の電気伝導率を検出する導電センサである請求項6に記載の細胞回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−70640(P2012−70640A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216023(P2010−216023)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】