説明

フィルター材をプラズマ加工する方法および装置

本明細書の1つの態様は、喫煙品に好適に使用されるカーボンなどのフィルター材の製造方法を提供する。この方法は、フィルター材の表面を変質することによってフィルターのろ過特性を変性することを含む。この表面の変質は、プラズマ加工によって行われ、例えば表面の酸性または塩基性特性を増加させるために使用することができる。本発明の別の態様は、当該方法によって製造されたフィルターを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙巻きタバコなどの喫煙品用のフィルターを含むフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
殆どの紙巻きタバコは、蒸気を吸収、吸着し、粒状タバコ成分を堆積させるためのフィルターを備えている。多くのフィルターの主要成分は、フィルターペーパーに包まれたセルロースアセテートトウからなるプラグである。通常この材料は、コットンまたは木材パルプから合成繊維として製造される。トリアセチン(グリセロールトリアセテート)などの可塑剤を繊維の結合の補助として使用する場合がある。
【0003】
紙巻きタバコのフィルターは、消費者に満足される製品でありながら紙巻きタバコの煙の望ましくない成分を除去するということのバランスを取らなければならない。従って、紙巻きタバコのフィルターの性質を改善するという試みがなされている。
【0004】
フィルターのろ過特性を向上させようとして紙巻きタバコのフィルターにカーボンまたはチャコールを含ませるための種々の機構が知られている。例えばカーボンは、フィルター内に別個の部材として組み込んでもよく、または粒状のカーボンをフィルタートウおよび/またはフィルターを包むラッピングペーパーに分散させてもよい。下記特許文献1は、紙巻きタバコフィルターに好適に使用される無孔の炭素性のカーボンナノチューブ以外のナノ構造の材料を使用することを開示している。金属を例えば化学的または物理的な蒸着を利用し気相からカーボン上に堆積させてもよい。しかしながら、汚染または残渣などの問題点につながる溶剤を使用するというところに化学的蒸着の欠点の1つがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国公開特許第2006/0151382号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、喫煙品の使用に好適なカーボンを含むフィルター材の製造方法を提供する。この方法は、フィルター材の表面を変質することによってフィルター材のろ過特性を選択的に変えることを含む。表面の変質は、プラズマ加工によって行われる。
【0007】
非平衡または低温プラズマ加工(例えばWertheimer et alによる「Low Temperature Plasma Processing of Materials:Past, Present and Future; Plasma Processes and Polymers」2、7−15、2005参照)は、フィルター材などの材料の性質の大半を変えずに残したまま、材料表面の化学組成および形態を変えることができる。プラズマを使用することによって、設計された化学組成および性質のコーティングをフィルター材に蒸着させたり、所定の化学官能性をグラフトすることができる。極めて広範囲の化学組成が、溶液中では容易に得られない組成を含むプラズマのパラメーターを適切に変更することによって当該表面に利用可能である。さらにプラズマ加工では溶剤を使用する必要がなく、汚染および残留物のリスクを避けることができ、変性工程における環境への影響を軽減することができる。表面組成および形態におけるこのようなプラズマ誘起変性は、通常ろ過特性に影響を与える。例えば、表面積の増加(例えば表面の凹凸を増やすことによる)は、揮発成分の吸着の改善に繋がり、かつ適切な化学基によって強化された新しい表面化学組成が得られる。
【0008】
通常このように変性されたろ過特性は、全ての煙成分に対して均一ではないが、より選択的になることができる。これによって特定の煙成分が他の成分より減少するようにフィルター材のろ過特性の目的とする変性が可能になる。その結果、消費者に対して魅力的でありながら改善された喫煙品となる。
【0009】
フィルターの可能な変性としては、煙中に存在する塩基性の化学物質の吸着を向上し得ることを目的にフィルター表面の酸性質を増加させる、またはその逆で酸性成分の吸着を向上させるためにその塩基質を増加させることが挙げられる。
【0010】
従って、フィルター材のろ過特性の選択的な変性は、酸性成分の吸着を向上させることを含む。
【0011】
またこれとは別にフィルター材のろ過特性の選択的な変性は、アルカリ成分の吸着を向上させることを含む。
【0012】
またこれとは別にフィルター材のろ過特性の選択的な変性は、フィルター材表面の親水性を向上させることを含む。
【0013】
フィルターの疎水性状の向上させることは、良好な耐水性を供することになる。
【0014】
当然のことながら特定のフィルター材は、連続的に1つ以上の変性工程に付して最終製品となるフィルターに1つ以上の特性を与えてもよい。従って、フィルター材は、例えば2つの異なるプラズマ加工処理に付してもよい。当然のことながら異なる分量の材料で特定のフィルター材を構成してもよく、それぞれを異なる方法でプラズマ加工して最終製品となるフィルターに所望の範囲のろ過特性を付与してもよい。従ってフィルター材は、最初のプラズマ加工処理に付された第1の材料と2番目のプラズマ加工処理に付された第2の材料とを含んでもよい。
【0015】
プラズマ加工に際して使用可能な気体としては、NH(窒素を含む塩基性基をグラフトするための)、その代替として窒素または水素、およびO(酸性基をグラグラフトするための)、その代替として水蒸気などが挙げられる。プラズマエッチングおよびプラズマグラフト化加工は、グラフト化された表面の最終的な化学組成が基材の性質に強く依存するという意味で基材依存性が高い。その代わりプラズマ化学気相堆積法(PE−CVD)加工は、基材依存性がかなり小さい。従って、プラズマ加工は、例えばアクリル酸によるプラズマ化学気相堆積法を含んでもよい。プラズマ加工は、さらにまたはこれとは別に酸素および/またはアンモニアによるエッチングを含んでもよい。
【0016】
PE−CVD加工によって表面にコーティングを発生させるために使用することができ、場合によってはアルゴンまたは他の不活性バッファーガスと混合される気体/蒸気化合物としては、アクリル酸(AA)または他の有機酸(表面酸性基または特性によるコーティングのための)およびアリルアミン(AAm)または他の有機アミン(表面塩基性基または特性によるコーティングのための)などがある。好適な分析制御下の特に電力、圧力、供給機能および流速などのプラズマパラメータを適切に調整することで放電中の原料供給の断片化(fragmentation)を調整することができ、従って基材と相互作用することが可能な活性種(ラジカル、原子、イオンなど)の密度を調整することができ、その結果変性された基材の組成および特性を調整することができる。PE−CVDにおいて通常「モノマー」と言われる供給ガス/蒸気化合物の性質を変えることによって異なる性質および特性(例えばシリカ状、テフロン(登録商標)状など)の多くのコーティングが得ることができ、これらのいくつかは、広く産業で使用されている。
【0017】
フィルター材は、粒状のカーボンを含んでもよい。カーボンは、フィルター内に組み込む前に(例えばセルロースアセテートトウに含浸させるなどして)、適切に構成されたプラズマリアクター内でこの粒状の形態でプラズマ加工してもよい。これとは別にカーボンをプラズマ加工する前にキャリアーに組み込むことも可能である。例えば、カーボンを紙などの材料からなる糸状のものまたはシート状のもにに組み込んでもよい。製造装置は、糸またはシート材用にロールトゥーロール構造を採用してフィルター材がプラズマ加工チャンバーを介して供給されるようにしてもよい。それぞれ異なる形態のプラズマ加工に使用される複数のチャンバーを介してフィルター材を通過させることも1つの可能性としてある。
【0018】
また本発明は、喫煙品に好適に使用されるフィルター材を提供する。このフィルター材は、フィルターのろ過特性を選択的に変成するためにプラズマ加工によって表面変質処理が施されたカーボンを含んでもよい。
【0019】
本発明ではこのようなフィルターを含んだ喫煙品(例えば、紙巻きタバコ)が提供される。
【0020】
従って、本明細書中で説明する方法は、非平衡プラズマ加工によるフィルター材の表面化学組成および他の特性を変質させることを含み、これにより紙巻きタバコおよび他のこのような製品からの煙をより効率よくフィルター材の表面で吸着することができる。1つの特定の態様では、カーボン粒子からなる活性炭をフィルター材として使用し(例えば紙巻きタバコに)、プラズマ加工してその表面特性を変性してもよい。このようなプラズマ加工されたカーボン粒子を使用して模擬喫煙試験を行い、非処理のカーボン粒子と比較して、煙からの特定の成分を除去するためのろ過特性が向上していることが判った。
【0021】
本発明がより理解されるように添付の図面を参照し、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の1つの態様による粒状材の均一プラズマ加工に適したプラズマリアクターチャンバーの略図である。
【図2】本発明の1つの態様によるウェブ状の基材の加工に適したロールトゥーロールプラズマリアクターチャンバーの略図である。
【図3】本発明の1つの態様によるカーボン粒子の表面に所定の酸/塩基特性を付与するために使用される同じプラズマ加工で処理されたグラファイト上での異なるpHの水溶液で得られた水接触角(WCA)を示している。
【0023】
プラズマ工程
低圧非平衡コールドプラズマ(即ち数千度の熱プラズマではなく室温プラズマ)は、材料の表面組成および特徴を材料のバルク特性を変えずに変性するためのツールとして有効である。プラズマ加工は、マイクロエレクトロニクス、半導体、食品および薬品のパッキング、自動車、腐食防止および生体材料などの多くの異なる産業で知られている。プラズマ加工の3つの主要な分類として、材料とプラズマで発生する活性種とが相互に作用した後、揮発物の生成によって材料をアブレーションするプラズマエッチング、薄い(5−1000nm)有機または無機コーティングを堆積させるプラズマ化学気相堆積(PE−CVD)およびグロー放電を利用して材料に官能基をグラフトするプラズマ処理に分けられる。グラフト化された官能基は、処理された表面の一定の度合いの架橋に部分的に関連する。
【0024】
プラズマエッチング、プラズマ堆積およびプラズマ処理は、適切に構成された低圧リアクター中、例えば10−2〜10トール(1.3−1300パスカル)で行うことが可能である。電磁場を電極または他の手段(例えば誘電リアクター容器の外部にあるコイル)によって気体供給部に移してグロー放電を生じさせる。通常、連続的な電界ではなく、交流電界(例えば13.56MHzの無線周波数の)が使用される。グロー放電に晒された材料は、気体プラズマ層中に発生する種(原子、ラジカル、イオン)とその材料の表面との相互作用によって変性される。プラズマ加工後、再結合反応によるプラズマ中に形成された低分子および未反応のモノマー分子が排出される。
【0025】
プラズマ加工は、安定した界面の合成によって材料の表面を変性する。共有結合がプラズマ相の活性種と基材の間で形成される。当業者であれば認識しているようにプラズマ加工を継続することによって、PE−CVDによって製せられるコーティングが厚くなり、エッチング処理におけるエッチングされた材料の質(深さ)が向上し、プラズマ加工におけるグラフトの度合いが増加する。より一般的には得られる表面処理は、加えられる電界の入力電力、周波数および変調、気体原料の性質、供給の速度および圧力、基材の温度、バイアス電位、位置およびその他などの実験的パラメーターを適切に調整、制御することによって制御することができる。一方、これらの外部制御パラメーターは、種々の内部ファクター、例えば気体原料のイオン化度、プラズマ中の活性種(原子、イオン、ラジカルなど)の密度、処理の均一性、堆積、エッチング、処理速度などに影響を与える。これらの内部パラメーターは、発光分光法(OES)、レーザー誘起蛍光法(LIF)および吸光分光法(紫外可視および赤外線)などの種々の分析設備を使用して制御することができる。
【0026】
ここで説明したように低圧プラズマ加工は、ろ過特性に影響を与えるカーボンの表面化学組成および特性に合わせて使用される。図1は粒状材のプラズマ処理に適したリアクターを示す。このような粒状材は、18−40メッシュの範囲内にあり、これは420−1000ミクロンに相当する。図1に示したリアクターは、撹拌しながらRF(無線周波数)(13.56MHz)グロー放電で500グラムまでのカーボン粒子を均一に処理することができる回転装置である。このリアクターは、ガラスウイング2を有するロータリーガラスチャンバー1と、固定された無線周波数外部電極3と、接地電極4と、固定されたフランジ5と、回転真空フランジ6とを含む。これに加えてまたはこれとは別にカーボン基材は、例えばグラファイトなどの異なる形体で供してもよい。
【0027】
図2はロールトゥーロール構造を利用した可動ウェブが供給される別のプラズマリアクターチャンバーを示している。このリアクターチャンバーは、第1ロール8を含むプリチャンバー7と、RF電極10を有する反応チャンバー9と、第2ロール12を含むポストチャンバーとを含む。リアクターチャンバーは、さらに1組のポンプ13を含む。この構成は、粉または粒状の材料に対して糸またはシート状の材料に適しており、連続的な加工を可能にする。この装置は、例えばカーボン粒子を含むセルローストウを加工するために使用することができる。この場合材料の緊張および湾曲度は、トウの性状に応じて厳密に制御することができる。特に図2に示すようにトウ14の経路は、トウの損傷を防ぐために角または鋭い湾曲部は存在しない。図2のロールトゥーロール装置は、カーボン紙の処理にも使用することができる(即ちカーボン粒子が含浸またはコートされた紙)。
【0028】
図3はプラズマ加工によるカーボン材の酸/塩基表面特性の調整に関するデータを示している。この場合、O/NH(グラフト)またはAA/AAm気相混合物(PE−CVD)によって供給されるRF(13.56MHz)グロー放電を使用して酸性(酸素含有)および/または塩基性(窒素含有)表面基で平坦なグラファイト基材の表面を変質した。
【0029】
/NHグラフト化放電は、100ワットのRFパワーインプットによって2分間、0.25ミリバールの圧力で行った。総流量は、10/0、5/5および0/10sccm/sccmのO/NHの流量比で10sccmであった。AA/AAm PE−CVD放電は、100ワットのRFパワーインプットによって10分間、0.120ミリバールの圧力で行った。総流量は、4/0、2/2および0/4sccm/sccmのAA/AAm流量比で10sccmで、6sccmでアルゴンを緩衝ガスとした。未処理およびグラフト/コートされたグラファイトのWCA測定を2μlの酸(HCl)および塩基(NaOH)水溶液滴で行った。
【0030】
未処理のグラファイトの表面のWCAは、酸性/塩基性基が表面に存在しなかったので、約90度であり、プロービング溶液のpHにおいて一定であった。グラフト化されたまたはコーティングに含まれた酸素および窒素を含有する加えられた両方の種類の基が極性であり、未処理のカーボンに対して親水性であるので、調査された全ての放電は、グラファイトのWCA値を下げた。
【0031】
グラファイトの表面に酸性酸素含有基(−COOH、OHなど)を加える100%Oおよび100%AA放電では、WCAデータは、実際には低pH値では高く、基材の表面での酸性基と溶液との相互作用により、塩基性(pHの高い)溶液を使用した場合には低くなった。これと全く反対のことがグラファイトの表面に塩基性の窒素含有基(−NHなど)を加える100%NHおよび100%AAm放電の場合に観察された。これらの傾向においてWCA値は高いpH溶液を使用した場合に高くなり、相互作用、この場合、基材表面の塩基性基と溶液との相互作用によって酸性(低い)pHで小さくなる。1/1O/NHおよびAA/AAm放電によって、酸性および塩基性の両方の種類の基を同時にグラファイトの面に加え、中性のpHに対して低いおよび高いpH値で低下した(強い表面/溶液相互作用)WCA値によって両性の挙動が観察された。これらの例は、プラズマ加工中に異なる特性を有する反応物を使用して基材全体に実施可能な制御の度合いを例示するものである。
【0032】
カーボン粒子のプラズマ加工
カーボン粒子を図3に示すような酸/塩基表面特性を付与することを目的に種々の表面加工を使用して図1に示したようなプラズマリアクターで処理した。
【0033】
アクリル酸でのPE−CVD/AR RFグロー放電
このPE−CVD工程は、AA蒸気およびArによって供給される放電において実行される。AR/AA流量比、RFパワー、圧力、リアクターの回転および処理時間は、CHxOyの組成による架橋されたコーティングがカーボン粒子の表面に密に結合して成長して、その平均の厚さが5−50nmの範囲の値に調整できるような方法で制御される。
【0034】
この方法で製せられたサンプルの場合、X線光電子分光法(XPS)、FT−IRおよびWCA分析法によって得られた特性評価データは、粒子の層のその非連続性によってWCAが測定不能であり(水が吸収される)、予想通り(図3の100%AAのWCAデータと比較して)かなりの疎水性コーティングであることが判った。図3に示すようにこのようなコーティングの酸性特性は、カルボキシル、ヒドロキシル、カルボニルなどの酸素含有基の存在によるものである。コーティング中のこのような基の表面密度は、プラズマ相のAAモノマーの分裂の度合いに依存し、これはプラズマパラメーターを適切に調整することによって制御可能であり、電源入力を下げるおよび/または圧力を上げることによって下げられる。
【0035】
プラズマ堆積層は、カルボキシル基だけが酸素含有基として存在する従来のポリ−アクリル酸とは全く異なる組成および構造を有する。一定の度合いの架橋(C−CおよびC−O結合)がこのプラズマ堆積コーティングに存在し、コーティング自体を空気および水中で安定させる。勿論、サンプルの堆積を空気および水中でエージング処理してしばらくした後、分析を行ったが、関連する組成の変化は、検出されなかった。
【0036】
グロー放電でのプラズマ処理
この工程は、酸素、場合によってはアルゴンとの混合物によって供給される放電で実行される。この工程のパラメーターは、酸素含有化学基(カルボキシル、ヒドロキシルおよびカルボニル)の酸化層がカーボンの表面に形成され、その極性(親水性、酸性)を向上させるように制御することができる。酸素原子は、炭素質材料との反応性が極めて高いフラグメント化された酸素分子からのプラズマに形成される。カーボンは一酸化炭素および二酸化炭素分子を発生させ、カーボン上に酸化された層を残すエッチング(アッシング)反応により消費される。変性された層の平均的な厚さは、非常に薄く、エッチング速度は、プラズマ条件によって調整可能である。一般的にプラズマ中の酸素原子の密度が高くなるにつれて、エッチング速度は速くなり、酸化されたカーボンの粗さおよび表面積も増加する。
【0037】
このように調製されたサンプルに対する組成的なXPSおよびWCAデータは、カーボン表面に顕著な親水性を示し、粒状層のWCAは測定不能であった(水が吸収される)。グラフト化された表面は、図3に示した平坦なグラファイトのように酸素含有官能性の存在により、特定の酸性の特徴を呈する。エージング組成データによれば処理された表面の空気中での安定性は、極めて良好である。
【0038】
NHグロー放電でのプラズマ処理
この処理(グラフト化)工程は、NH、場合によってはアルゴンとの混合物による放電中で実行される。この処理のパラメーターは、窒素を含む化学基(アミノ、イミノなどの)の層がフラグメント化された窒素含有ラディカルとの相互反応によってカーボンの表面にグラフト化されるように制御される。Oによるプラズマ処理に対して、NH放電は、より滑らかな変性過程を誘発し、エッチング速度は、極めて遅い。変性された層の平均的な厚さは、極めて薄く、NH−プラズマ処理されたカーボンの粗さおよび表面積は、ほんの僅かながら変化する。
【0039】
組成的なXPSおよびWCAデータは、カーボン表面に顕著な親水性を示し、粒状層のWCAは測定不能であった(水が吸収される)。窒素がグラフトされた表面は、図3に示した平坦なグラファイトのように窒素含有官能性の存在により、特定の塩基性の特徴を呈する。エージング組成データによれば処理された表面の空気中での安定性は、極めて良好である。
【0040】
結果の論証
カーボン:煙の化学的性質
6つの標準的なココナッツカーボンサンプル(それぞれ10グラム)を表1に示すガスを供給し、作業パラメーターで図1に略式に示したような回転リアクター中でプラズマ加工した。
【0041】
【表1】

【0042】
プラズマ加工後、処理されたカーボン添加剤それぞれを60mg、密度229mg/cmのヴァージニアスタイルのタバコを含み、長さが56mmでのタバコロッドに装着されたキャビティー式のフィルター(12mmのセルロースアセテート吸い口端/5mmのフィルター添加剤/10mmのセルロースアセテートロッド端部)に組み込んだ。この紙巻きタバコの円周は、24.6mmとなった。他の変数を取り込まないためにフィルターには換気孔を設けなかった。
【0043】
2つの対照紙巻きタバコを使用した。第1の対照では上記と同じ設計の紙巻きタバコに未処理のカーボン60mgを加えた。第2の対照では長さ5mmの空のキャビティーをフィルターに設けた。これらの紙巻きタバコを喫煙前に3週間、22℃、相対湿度60%で状態調節した。喫煙をISO条件下、即ち1分毎に1回、2秒間35mlの吸煙を行った。収率(yield)は単位タールに標準化し、未処理のカーボンを含む紙巻きタバコに対する減少率を算出し、下記表2に示す(21%以上の減少率には網掛けをした。正の数は未処理のカーボンと比べて減少率が高いことを示している)。
【0044】
【表2】

処理されたカーボンによる減少率(BDL=検出限界未満)
【0045】
処理されたカーボンと未処理のカーボンとの間に基本的な煙の化学的性質には違いはなく、例えばタールの量は、紙巻きタバコ1本当たり約10mgであり、一酸化炭素レベルも同様であった。サンプル2および5は、未処理のカーボンと比較した場合、ある蒸気相化合物に対して著しく向上しており、サンプル3および4はなにも向上しなかった。サンプル5および6は、ガスの供給量は同じであったが減少率についてはかなり異なっていた。これはおそらくカルボキシル基の表面密度がプラズマ相のモノマーの細分化の度合いに強く依存し、例えば電力を増加させることによって低下することによる。
【0046】
当業者であればここで説明した特定の態様に対して多くの変形例を認識するはずであるが、本発明はここで説明した特定の態様に限定されるものではなく、むしろ添付の特許請求の範囲およびそれと同等のものによって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
喫煙品に好適なフィルター材であって、このフィルター材は、フィルターの選択的なろ過特性を変性するために表面がプラズマ加工によって変質されているカーボンを含むことを特徴とするフィルター材。
【請求項2】
カーボンが粒状であることを特徴とする請求項1記載のフィルター材。
【請求項3】
粒状カーボンがキャリアーに組み込まれることを特徴とする請求項2記載のフィルター材。
【請求項4】
キャリアーがセルロースアセテートトウであることを特徴とする請求項3記載のフィルター材。
【請求項5】
キャリアーが紙であることを特徴とする請求項3記載のフィルター材。
【請求項6】
カーボンの第1の部分の表面が第1のプラズマ加工処理によって変質され、カーボンの第2の部分の表面が第2のプラズマ加工処理によって変質されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載のフィルター材。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか1項記載のフィルターを含む喫煙品。
【請求項8】
喫煙品に適したカーボンを含むフィルター材の製造方法であって、この方法はフィルター材の表面を変質することによってフィルター材のろ過特性を選択的に変性することを含み、表面の変質はプラズマ加工によって行われることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記フィルター材のろ過特性の選択的な変性が酸性物質の吸着を増加させることを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記フィルター材のろ過特性の選択的な変性がアルカリ性物質の吸着を増加させることを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記フィルター材のろ過特性の選択的な変性がフィルター材の表面の親水性を増加させることを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記プラズマ加工がアクリル酸によるプラズマ化学気相堆積法を含むことを特徴とする請求項8乃至11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記プラズマ加工がOおよび/またはNHによるエッチングを含むことを特徴とする請求項8乃至11いずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記フィルター材が2つの異なるプラズマ加工処理に付されることを特徴とする請求項8乃至11いずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記フィルター材が第1のプラズマ加工処理に付される第1の材料と、第2のプラズマ加工処理に付される第2の材料とを含むことを特徴とする請求項8乃至13いずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記フィルター材が粒状のカーボンであることを特徴とする請求項8乃至15いずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記フィルター材が糸状材またはシート状材を含むことを特徴とする請求項8乃至15いずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記糸状材またはシート状材が粒状のカーボンを含むことを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記プラズマ加工がフィルター材がプラズマ加工チャンバーを介して供給されるように糸状材またはシート状材のためのロールトゥーロール構造を利用することを含むことを特徴とする請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
添付の図面を参照して本明細書中で実質的に説明されたフィルター材。
【請求項21】
添付の図面を参照して本明細書中で実質的に説明されたフィルター材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2011−519268(P2011−519268A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502321(P2011−502321)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052839
【国際公開番号】WO2009/121698
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(500252844)ブリティッシュ アメリカン タバコ (インヴェストメンツ) リミテッド (111)
【氏名又は名称原語表記】BRITISH AMERICAN TOBACCO (INVESTMENTS) LIMITED
【Fターム(参考)】