説明

フィルター

【課題】 本発明は、アルミニウム材料の表面処理工程において使用される洗浄水中に含まれる微粒子を確実に除去し、洗浄後のアルミニウム材料の表面における微粒子の付着を防いで、製品不良の発生を抑えるとともに、逆洗により繰り返し使用することのできるニッケルの多孔質体のフィルターを提供することにある。
【解決手段】 アルミニウム材料の表面処理工程における水洗工程で使用する、孔径が1020〜510μmで、且つ密度が0.26〜0.34g/cm3の範囲内のニッケルからなる多孔質体であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材料の表面処理工程の水洗工程で使用される、ニッケルの多孔質体からなるフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム材料の表面処理工程の水洗槽で使用される洗浄水は、おもに工業用水や地下水、あるいは、表面処理工程で使用された再利用水などが利用される。しかしながら、水洗工程で使用された洗浄水中には、表面処理工程で発生したアルミニウム化合物や、工業用水中に存在する珪藻類及び糸状菌類、あるいは上記で挙げた雑多な結合物が、0.1〜数千μmの微粒子として含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−273128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような洗浄水を利用すると、洗浄水中に含有する微粒子や珪藻類、糸状菌類がアルミニウム材料表面に付着したまま次の工程に移行することから、各工程を経て完成した製品に不良が発生する問題があった。そこで、従来は、洗浄水中に含まれる微粒子、珪藻類、糸状菌類を除去する目的で糸巻きフィルターにより使用前の洗浄水をろ過するものであったが、糸巻きフィルターは、微粒子を除去するものの、珪藻類、糸状菌類は除去することができず、さらに、逆洗して再利用することができず、使用後にはそのまま破棄されていたため、水洗に大変なコストがかかっていた。また、フィルターで捕捉しきれない珪藻類及び糸状菌類の繁殖を抑制することができず、洗浄水の濁りやフィルターの目詰まりを早める要因となっていた。本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、洗浄水中に含まれる微粒子を確実に除去し、洗浄後のアルミニウム材料の表面における微粒子の付着を防いで、製品不良の発生を抑えるとともに、逆洗により繰り返し使用することができ、また、洗浄水中の珪藻類及び糸状菌類の繁殖を抑制することのできるニッケルの多孔質体からなるフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のうち請求項1記載の発明は、アルミニウム材料の表面処理工程における水洗工程で使用する、孔径が1020〜510μmで、且つ密度が0.26〜0.34g/cm3の範囲内のニッケルからなる多孔質体であることを特徴とする。
【0006】
本発明のうち請求項2記載の発明は、銀を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明によれば、孔径が1020〜510μmで、且つ密度が0.26〜0.34g/cm3のニッケル多孔質体フィルターを、アルミニウム材料の表面処理工程における水洗工程で使用することで、洗浄水中に含まれる微粒子を最も効率的に除去できるようになり、しかも、洗浄水のろ過に使用した本発明によるニッケル多孔質体フィルターを逆洗したときに、良好なろ過水量を確保して再生できることから、繰り返し使用することができてコストの削減を図ることできる。
【0008】
本発明のうち請求項2記載の発明によれば、フィルターが銀を含むことにより、フィルターを通した洗浄水の抗菌作用が付与されることで、アルミニウム材料の表面処理工程における水洗工程の効率化とコスト削減が一層図られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)(b)は、本実施による性能試験の実施設備について説明する簡略図である。
【図2】本実施によるニッケル多孔質体フィルターを使用する表面処理工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面に基づいて本実施によるニッケルからなる多孔質体のフィルターについて説明する。本実施によるニッケルからなる多孔質体のフィルター(以下、フィルターと記す)は、純度99%以上のニッケルからなり、他にコバルト,鉄,ケイ素,カルシウム,銀等を適宜含有して形成するものである。このようにして得られたフィルターを図2のようなアルミニウム材料の表面処理工程において、特に陽極酸化皮膜の形成にかかる工程の着色前水洗から湯洗工程で、使用するものである。また、本工程では、図1(a)(b)に示すように、水中ポンプによって水洗槽から吸い上げた水をフィルター格納器具まで送り込み、フィルター格納器具において珪藻類及び糸状菌類などに代表される微粒子を本実施によるフィルターによってろ過し、ろ過水を水洗槽へ戻す。また、必要に応じ、水洗槽上において、ろ過水をアルミニウム材料にシャワー式に噴射し、アルミニウム材料の表面に付着した微粒子を洗浄する。また、フィルターのろ過水量が落ちてきたら、フィルターを逆洗するために、2kg/cm2Gの逆洗用エアーまたは逆洗用純水により5分間の逆洗をしてフィルターを再生する。
【0011】
<ニッケル多孔質体フィルターの性能試験>
上述した本実施によるフィルターの第一の性能試験として、上記の図1(a)(b)で説明した試験設備を使用し、直径約50mmで厚みが約15mmの円盤状に成形してあるとともに、孔径がそれぞれ1670、1020、510、420、320μmで、且つ密度がそれぞれ0.24、0.26、0.34、0.37、0.45g/cm3である5種類の各ニッケル多孔質体フィルターを1、5、10、20個と一列に重ねて形成した試験体を用意し、フィルター格納器具の中に設置した。比較として、直径63mm、長さ250mm、孔径1μmの糸巻きフィルターを用いた。その試験体にSS(浮遊物質濃度)16mg/lの陽極酸化後水洗工程で使用した洗浄水(以下、陽極酸化後水洗水という)を垂直落下させ、ここで得られたろ液を用いて、ろ過率及びアルミニウム材料表面における微粒子の付着の有無を測定・検知した。また、陽極酸化後水洗水中には、表1に示すように、微粒子の径が10μm以下のものが最も多く、全体としては、0.6〜2000μmまでの範囲の大きさの微粒子が含まれていた。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
【表3】

【0015】
<性能試験結果>
表2のように、各試験体を比較したとき、密度が高くなるほどろ過率が高くなり、アルミニウム材料表面における微粒子の付着も少なかった。また、表3のように、アルミニウム材料表面に微粒子の付着がなかったのは、ろ過率が83%以上の試験体であった。
【0016】
第二の性能試験として、上記第一の性能試験において使用した試験体のうち、ろ過率が83%以上であった、孔径が1020、510、420、320μmで、且つ密度が0.26、0.34、0.37、0.45g/cm3の4種類の試験体を使用し、各試験体について、水洗水を10分間ろ過したときのろ過水量の変化と、上記性能試験で使用したフィルターを逆洗した各試験体のろ過水量について、それぞれ測定した。
【0017】
【表4】

【0018】
【表5】

【0019】
<性能試験結果>
表4と表5のように、孔径320μmで、且つ密度0.45g/cm3のフィルターでは、試験開始後3分経過でろ過水量が極端に減少しており、さらに逆洗後のろ過水量も、初期値と比較して49%までしか回復しなかった。また、孔径420μmで、且つ密度0.37g/cm3のフィルターにおいても、試験開始後3分経過から5分経過までろ過水量が次第に減少していき、10分経過後には6%まで減少した。さらに、逆洗後のろ過水量も、初期値と比較して58%までしか回復しなかった。その他の2種類の試験体では、時間とともに徐々にろ過水量の減少が見られたが、逆洗後はいずれも97%以上の良好なろ過水量が確保された。
【0020】
<まとめ>
以上の第一、第二の性能試験の結果から勘案し、ろ過率が良好で、所定時間安定したろ過水量で使用でき、さらに、逆洗により繰り返し使用することに適したフィルターは、孔径が1020〜510μmで、且つ密度が0.26〜0.34g/cm3の範囲のものであることがわかった。特に、孔径1020μm、密度0.26g/cm3のニッケル多孔質体を積み重ねて形成するフィルターでは、さらに、長時間にわたり良好なろ過性能を発揮するとともに、個々にばらして逆洗することもできるため、繰り返し使用する際にも都合が良い。
【0021】
本発明の他の実施形態として、ニッケル91%、銀8%、他にコバルト,鉄,ケイ素,カルシウム等を適宜含有して多孔質体に形成したフィルターを用いて抗菌性を測定する試験をそれぞれ行った。
本実施によるフィルターの試験体(直径、厚み、密度)や試験設備については、上述したニッケル99%以上を含有した多孔質フィルターと同じ条件で行うものであるから、詳細については省略する(段落番号0011、段落番号0016の記載参照)。
【0022】
【表6】

【0023】
<性能試験結果>
本実施による多孔質体フィルターの抗菌性は、表6のように、本実施のものと同じ条件(直径50mm、孔径1670μm、厚さ15mm)で成形したニッケル99%含有のフィルター、および、フィルターなしの3種類について、各々をSS16mg/lの陽極酸化後水洗工程で使用した洗浄水で満たしたビーカーの中に入れて55日間置き、SS、濁度、透視度を比較した。
その結果、表6のように、Agを8%含有するフィルターでは、SSが1mg/l、濁度が1度、そして透視度が1度と高い抗菌性能を奏するデータが得られた。また、ニッケル99%含有のフィルターでは、SSが9mg/l、濁度が7度、そして透視度が43度であり、フィルターなしでは、SSが12mg/l、濁度が12度、そして透視度が29度であった。
【0024】
<まとめ>
以上の各性能試験の結果から勘案し、本実施によるフィルターは、フィルターを使用しないものは勿論、ニッケル99%含有のフィルターと比較しても、洗浄水への銀の溶出により、抗菌性能が高まることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材料の表面処理工程における水洗工程で使用する、孔径が1020〜510μmで、且つ密度が0.26〜0.34g/cm3の範囲内のニッケルからなる多孔質体であることを特徴とするフィルター。
【請求項2】
銀を含んでいることを特徴とする請求項1記載のフィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−92923(P2011−92923A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112282(P2010−112282)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000175560)三協立山アルミ株式会社 (529)
【出願人】(594172765)株式会社安達工業 (3)
【Fターム(参考)】