説明

フィルムおよびその製造方法

【課題】乾燥時の風ムラが抑制され、液晶配向が良好であり、他の面状も良好であるフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】(A)重合性液晶化合物、(B)前記重合性液晶化合物の配向を制御可能な配向制御剤、(C)重合開始剤および(D)溶媒を含む重合性液晶組成物を基板に塗布する塗布工程と、形成された塗布膜を乾燥させる乾燥工程とを有し、前記配向制御剤が下記式で表される化合物であり、前記重合性液晶化合物100質量部に対して前記配向制御剤を0.005〜0.2質量部添加するフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性液晶化合物を用いたポリマー層を有するフィルムおよびその製造方法に関する。好ましくは、コレステリック液晶相を固定したなる光反射層を利用した赤外光反射性のフィルムの製造方法に関する。本発明のフィルムは、自動車の窓用遮熱部材として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギーへの関心の高まりから省エネに関する工業製品へのニーズは高く、その一つとして住宅及び自動車等の窓ガラスの遮熱、つまり日光による熱負荷を減少させるのに効果のある、ガラス及びフィルムが求められている。日光による熱負荷を減少させるのには、太陽光スペクトルの可視光領域または赤外領域のいずれかの太陽光線の透過を防ぐことが必要である。特に、自動車用窓に対しては、安全性の面からは可視光域に対する高い透過率が求められるとともに、遮熱に対する要求も高く、国によっては日射反射率を規制する動きもある。
【0003】
断熱・遮熱性の高いエコガラスとしてよく用いられるのがLow−Eペアガラスと呼ばれる熱放射を遮断する特殊な金属膜をコーティングした複層ガラスである。特殊な金属膜は、例えば真空成膜法により複数層を積層することで作製できる。真空成膜よって作製される、これらの特殊な金属膜のコーティングは反射性能に非常に優れるものの、真空プロセスは生産性が低く、生産コストが高い。また、金属膜を使うと、電磁波を同時に遮蔽してしまうために、携帯電話等の使用では電波障害を引き起こし、自動車に使用した場合にはETCが使えないなどの問題がある。また、電波障害のみならず、自動車用窓には、安全性の観点で可視光に対する高い透過性も要求される。
【0004】
これに対し、コレステリック液晶相を利用する方法が、提案されている。例えば、特許文献1に開示されているように、一方の方向の円偏光の光を、1つのコレステリック液晶相をλ/2板の両面に形成することで、700〜1200nm領域で選択的に効率よく反射させることができる。
また、特許文献2には、コレステリック液晶層を有する赤外光反射物品が開示されている。コレステリック液晶層を用いた赤外光反射物品としては、液晶表示装置への利用に対する試みが多く、具体的には可視光領域の光を効率的に反射させる試みが多く、例えば、特許文献3にはコレステリック層を多数重ねた液晶表示装置が開示されている。
【0005】
コレステリック液晶層を含むフィルムを製造する際には、例えば、コレステリック液晶材料を含む塗膜を乾燥・加熱配向・紫外線硬化させる方法が用いられる。コレステリック液晶層を硬化させる方法については、例えば特許文献4に例示されるように、重合性液晶化合物に紫外線を照射することによって硬化させる方法が一般的に用いられ、照射照度を一定範囲内に調整することで、反射波長が広領域のコレステリック液晶フィルムを作製する方法が開示されている。
【0006】
ここで、特に上記の自動車用の赤外光反射物品用途では、面状が良好であり、ムラのない高品質なフィルムが求められている。しかしながら、重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物を塗布および乾燥してフィルムを製造する際、特に製造されたフィルムに乾燥時の風ムラ(具体的には、フィルムの膜厚ムラ)が発生する問題があった(例えば特許文献5参照)。また、同じく特許文献5には、重合性液晶化合物を配向させたときの液晶配向にもムラが生じる問題や、乾燥時の風ムラ以外にその他の面状の問題(特許文献5ではスジ)が生じる問題があることが記載されている。
これらの各種のムラや面状の問題などに対し、特許文献5に記載の発明では、液晶性化合物を含む塗布液に乾燥時の風ムラ防止機能のある化合物として含フッ素ポリマーを添加してその表面張力を下げ、塗布直後の初期乾燥時に凝集板を配置したケーシング内を通過させて塗布膜近傍の境界層が乱されないように乾燥させることで、乾燥時の風ムラを抑制する方法が記載されている。
【0007】
一方、特許文献6には、コレステリック液晶相を固定した層を2層以上有する積層膜の製造方法として、棒状液晶化合物、特定の構造のフッ素系配向制御剤および溶剤を含む硬化性液晶組成物を塗布し、塗布膜を乾燥してコレステリック液晶相としてから硬化させてコレステリック液晶層を固定する工程を繰り返す方法が記載されている。特許文献6では2層目を形成するときの、下層のコレステリック液晶相を固定した層に含まれる配向制御剤に起因する塗布ハジキに着目しているものの、硬化性液晶組成物を塗布して形成した塗布膜の乾燥時の風ムラについて着目していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4109914号公報
【特許文献2】特表平2009−514022号公報
【特許文献3】特許第3500127号公報
【特許文献4】特許第4008358号公報
【特許文献5】特開2008−197170号公報
【特許文献6】特開2011−191582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題を解決することを目的とするものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、乾燥時の風ムラが抑制され、液晶配向が良好であり、他の面状も良好であるフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決することを鑑みて鋭意検討を行った結果、上記特許文献5や6に記載の配向制御剤よりも、乾燥時の風ムラ抑制効果に優れる配向制御剤を新たに見出した。新たに見出した配向制御剤は添加量が少ない場合でも風ムラ抑制効果が得られる。本発明では、特定の構造の配向制御剤を特定の添加量の範囲で添加した重合性液晶組成物を用いることで、乾燥時の風ムラ、液晶配向および他の面状がいずれも良好なフィルムを製造することができることを見出すに至った。
【0011】
前記課題を解決するための手段である本発明は、以下のとおりである。
[1] (A)重合性液晶化合物、(B)前記重合性液晶化合物の配向を制御可能な配向制御剤、(C)重合開始剤および(D)溶媒を含む重合性液晶組成物を基板に塗布する塗布工程と、
形成された塗布膜を乾燥させる乾燥工程とを有し、前記配向制御剤が下記一般式(1)で表される化合物であり、前記重合性液晶化合物100質量部に対して前記配向制御剤を0.005〜0.2質量部添加することを特徴とするフィルムの製造方法。
【化1】

(一般式(1)中、L1およびL2はそれぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキレン基を表す。但し、アルキレン基中の1つのCH2または互いに隣接しない2以上のCH2は、−O−、−S−、−OCO−、−COO−、−NRa−、−NRaCO−、−CONRa−、−NRaSO2−、又は−SO2NRa−で置換されていてもよい(Raは、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表す)。n1およびn2はそれぞれ独立に3以上の整数を表し、このとき複数存在する括弧内の構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。)
[2] [1]に記載の乾燥工程は、風を当てる乾燥工程であることが好ましい。
[3] [1]に記載のフィルムの製造方法は、前記重合性液晶化合物が棒状の重合性液晶化合物であることが好ましい。
[4] [1]〜[3]に記載のフィルムの製造方法は、前記配向制御剤が、前記重合性液晶化合物を水平配向させることができる水平配向剤であることが好ましい。
[5] [1]〜[4]のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法は、前記基板がポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
[6] [1]〜[5]のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法は、前記重合性液晶組成物の気液界面を形成してから100msec後の表面張力を24.5mN/mを超えて28.0mN/m以下に制御することが好ましい。
[7] [1]〜[6]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法は、前記塗布膜を乾燥させたポリマー層の上で、前記重合性液晶組成物に含まれる成分の種類および添加量の少なくとも一方を変更して前記塗布工程および前記乾燥工程を少なくとも1回繰り返して、塗布膜を乾燥させたポリマー層を2層以上積層する積層工程を備えることが好ましい。
[8] [1]〜[7]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法は、前記重合性液晶化合物がコレステリック液晶化合物であり、前記塗布工程後に熱を加えて前記重合性コレステリック液晶化合物を配向させ、コレステリック液晶相の状態とする配向工程と、前記重合性液晶組成物に活性放射線を照射してコレステリック液晶相を固定する照射工程を含むことが好ましい。
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法は、前記重合性液晶組成物にキラル剤を添加することが好ましい。
[10] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法は、前記塗布膜を乾燥させたポリマー層が波長800nm以上の赤外光を反射する赤外光反射層であることが好ましい。
[11] [1]〜[10]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法は、前記塗布膜を乾燥させて、右円偏光の光を反射する層を形成する工程および左円偏光の光を反射する層を形成する工程を少なくとも1回ずつ有することが好ましい。
[12] [1]〜[11]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法は、車載用窓材又は建物用窓材用のフィルムの製造方法であることが好ましい。
[13] [1]〜[12]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乾燥時の風ムラが抑制され、液晶配向が良好であり、他の面状も良好であるフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のフィルムの製造方法によって製造されるフィルムの一例の断面を示した概略図である。
【図2】本発明のフィルムの製造方法によって製造されるフィルムの他の例の断面を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。なお、本明細書中、重合性基とは、活性放射線照射により重合反応を起こす基のことを言う。
【0015】
[フィルムの製造方法]
本発明のフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、(A)重合性液晶化合物、(B)前記重合性液晶化合物の配向を制御可能な配向制御剤、(C)重合開始剤および(D)溶媒を含む重合性液晶組成物を基板に塗布する塗布工程と、
形成された塗布膜を乾燥させる乾燥工程とを有し、前記配向制御剤が下記一般式(1)で表される化合物であり、前記重合性液晶化合物100質量部に対して前記配向制御剤を0.005〜0.2質量部添加することを特徴とする。
【化2】

(一般式(1)中、L1およびL2はそれぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキレン基を表す。但し、アルキレン基中の1つのCH2または互いに隣接しない2以上のCH2は、−O−、−S−、−OCO−、−COO−、−NRa−、−NRaCO−、−CONRa−、−NRaSO2−、又は−SO2NRa−で置換されていてもよい(Raは、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表す)。n1およびn2はそれぞれ独立に3以上の整数を表し、このとき複数存在する括弧内の構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。)
このような構成により、本発明のフィルムの製造方法を用いることで、乾燥時の風ムラが抑制され、液晶配向が良好であり、他の面状も良好であるフィルムを製造することができる。
ここで、本明細書中、「乾燥時の風ムラ」とは、フィルムの膜厚ムラの一種であり、10cm×10cm程度の大きさの膜厚のピークバレー値が平均100nm程度のムラのことを言う。また、本明細書中、「液晶配向」とは、偏向顕微鏡によって膜を観察したときの無配向欠陥状態を意味する。また、本明細書中、「他の面状」とは乾燥ムラおよび配向欠陥以外の面状欠陥のことを意味し、フィルム表面のランダムなスジや、ハジキなどを含む。
【0016】
<製造工程>
以下、本発明のフィルムの製造方法について、好ましく用いられる材料や工程について順に説明する。まず、本発明に好ましく用いられる各製造工程について説明する。
【0017】
(塗布工程)
本発明の製造方法は、(A)重合性液晶化合物、(B)前記重合性液晶化合物の配向を制御可能な配向制御剤、(C)重合開始剤および(D)溶媒を含む重合性液晶組成物を基板に塗布する塗布工程を含む。
前記重合性液晶組成物に好ましく用いられる成分について、まず説明する。
【0018】
(A)重合性液晶化合物:
本発明の製造方法に利用される重合性液晶組成物は、重合性液晶化合物を含む。
前記重合性液晶化合物は、重合性コレステリック液晶化合物であることが、前記塗布工程後に熱を加えて前記重合性コレステリック液晶化合物を配向させ、コレステリック液晶相の状態にでき、前記重合性液晶組成物に活性放射線を照射してコレステリック液晶相を固定して、得られるフィルムに赤外光反射機能を付与できる観点から好ましい。
【0019】
本発明の製造方法では、前記重合性液晶化合物は、棒状の重合性液晶化合物であっても、円盤状の重合性液晶化合物(ディスコティック液晶性分子)であってもよいが、棒状の重合性液晶化合物であることが好ましい。
【0020】
ディスコティック液晶性分子は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am.Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載されている。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、重合性基を有するディスコティック液晶性分子は、下記式で表わされる化合物であることが好ましい。
D(−L−Q)d
上式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Qは重合性基であり;dは4〜12の整数である。上記式の円盤状コア(D)の具体例を以下に示す。
以下の各具体例において、LQ(またはQL)は、二価の連結基(L)と重合性基(Q)との組み合わせを意味する。以下の具体例の中では、トリフェニレン(D4)が特に好ましい。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
連結基Lや重合性基Qの詳細や好ましい範囲については、特開2002−129162号公報の[0161]〜[0171]を参照することができる。
【0025】
本発明に使用可能な棒状の重合性コレステリック液晶化合物の例は、棒状ネマチック液晶化合物である。前記棒状ネマチック液晶化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0026】
前記棒状液晶分子の複屈折率は、0.001〜0.7であることが好ましい。重合性基の具体例については、特開2002−129162号公報の[0169]を参照することができる。棒状液晶性分子は、短軸方向に対してほぼ対称となる分子構造を有することが好ましい。そのためには、棒状分子構造の両端に重合性基を有することが好ましい。
【0027】
重合性コレステリック液晶化合物は、重合性基をコレステリック液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性基は種々の方法で、コレステリック液晶化合物の分子中に導入できる。重合性コレステリック液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性コレステリック液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性コレステリック液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性コレステリック液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0028】
(B)重合性液晶化合物の配向を制御可能な配向制御剤:
本発明の製造方法に利用される重合性液晶組成物は、前記重合性液晶化合物の配向を制御可能な配向制御剤を含み、前記配向制御剤が下記一般式(1)で表される化合物であり、前記重合性液晶化合物100質量部に対して前記配向制御剤を0.005〜0.2質量部含む。
下記一般式(1)で表される化合物は、末端にパーフルオロアルキル基を有するフッ素系配向制御剤である。フッ素系配向制御剤は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平配向させることができる。本発明のフィルムの製造方法は、前記配向制御剤が、前記重合性液晶化合物を実質的に水平配向させることができる水平配向剤であることが好ましい。なお、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなる。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、例えば、コレステリック液晶相とする場合は、その螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大や回折性を示したりするため好ましくない。
また、塗布液の表面張力を下げる化合物は膜表面に偏在し、膜表面のコレステリック液晶の配向を妨げたり、積層時の配向欠陥、他の塗布ムラによる膜厚ムラが生じさせたりする可能性がある。これに対し、本発明の製造方法に用いる下記一般式(1)で表される化合物は、これらの問題も抑制することができる。
【0029】
本発明の製造方法では、前記配向制御剤は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化6】

【0030】
一般式(1)中、L1およびL2はそれぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキレン基を表す。但し、アルキレン基中の1つのCH2または互いに隣接しない2以上のCH2は、−O−、−S−、−OCO−、−COO−、−NRa−、−NRaCO−、−CONRa−、−NRaSO2−、又は−SO2NRa−で置換されていてもよい(Raは、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表す)。
1およびL2中に含まれる炭素原子数は、それぞれ独立に、2〜6であることが好ましく、3〜6であることがより好ましく、4〜6であることが特に好ましい。
1およびL2が表すアルキレン基中の1つのCH2または互いに隣接しない2以上のCH2は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−で置換されていることが好ましく、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−で置換されていることがより好ましい。
上記のRaがとりうるアルキル基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。Raがとりうるアルキル基の炭素数は1〜3であることがより好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基を例示することができる。
1およびL2が表すアルキレン基には、分枝があっても無くてもよいが、好ましいのは分枝がない直鎖のアルキレン基である。
【0031】
1およびn2はそれぞれ独立に3以上の整数を表し、このとき複数存在する括弧内の構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。n1およびn2はそれぞれ独立に3〜5であることが好ましく、3または4であることがより好ましく、3であることが特に好ましい。
一般式(1)で表される化合物は、分子構造が対称性を有するものであってもよいし、対称性を有しないものであってもよい。なお、ここでいう対称性とは、点対称、線対称、回転対称のいずれかに該当するものを意味し、非対称とは点対称、線対称、回転対称のいずれにも該当しないものを意味する。
一般式(1)で表される化合物は、分子内に存在するn1個の連結基C613−L1−O−が互いに同一であることが好ましく、また、分子内に存在するn2個の連結基C613−L2−O−が互いに同一であることが好ましい。さらに、分子内に存在するn1個の連結基C613−L1−O−とn2個の連結基C613−L2−O−が全て同じであることがより好ましい。
【0032】
一般式(1)で表される化合物は、末端のC613−L1−O−およびC613−L2−O−は、以下のいずれかの一般式で表される基であることが好ましい。
613−(Cq2q)−O−
613−(Cq2q)−COO−
613−(Cq2q)−O−(Cr2r)−O−
613−(Cq2q)−COO−(Cr2r)−COO−
613−(Cq2q)−OCO−(Cr2r)−COO−
一般式(1)で表される化合物は、末端のC613−L1−O−およびC613−L2−O−は、以下のいずれかの一般式で表される基であることがより好ましい。
613−(Cq2q)−O−(Cr2r)−O−
613−(Cq2q)−OCO−(Cr2r)−COO−
上式において、qは0〜5であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、2〜3であることが特に好ましく、2であることが特に好ましい。rは1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、2〜3であることが特に好ましく、2であることが特に好ましい。
【0033】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示す。ただし、本発明で採用することができる一般式(1)で表される化合物は、下記の具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0034】
【化7】

【0035】
一般式(1)で表される化合物は、特開2002−129162号公報や特開2002−97170号や当該公報において引用されている文献に記載される合成法を適宜選択して組み合わせることにより合成することができる。また、その他の公知の合成法も必要に応じて組み合わせることにより合成することができる。
【0036】
本発明の製造方法では、前記重合性液晶化合物100質量部に対して前記配向制御剤を0.005〜0.2質量部含み、0.01〜0.1質量部含むことが好ましく、0.02〜0.09質量部含むことがより好ましく、0.03〜0.08質量部含むことが特に好ましい。
前記配向制御剤の含有量が上記範囲の上限値以下であることが、得られるフィルムの液晶配向および他の面状の観点から好ましい。前記配向制御剤の含有量が上記範囲の下限値以上であることが、得られるフィルムの乾燥時の風ムラを十分に改善する観点から好ましい。
【0037】
(C)重合開始剤:
本発明の製造方法では、前記重合性液晶組成物は、(C)重合開始剤を含有する。例えば、紫外線照射により硬化反応を進行させて硬化膜を形成する態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)、アシルフォスフィンオキシド化合物(特公昭63−40799号公報、特公平5−29234号公報、特開平10−95788号公報、特開平10−29997号公報記載)等が挙げられる。
光重合開始剤の使用量は、前記重合性液晶組成物(塗布液の場合は固形分)の0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
(D)溶媒:
本発明の製造方法では、前記重合性液晶組成物の溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。前記有機溶媒としては特に制限はなく、公知の溶剤を用いることができる。例えば、ケトン類(アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが例示できる。
本発明の製造方法では、1種又は2種以上の有機溶媒を用いることができ、2種以上の有機溶媒を用いることが好ましい。
塗膜形成性や生産効率などの観点で、前記重合性液晶組成物中における有機溶媒の添加量は、50質量%〜80質量%であることが好ましく、40質量%〜70質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
その他の成分:
前記重合性液晶組成物は、上記の成分に加えて、必要に応じて不斉炭素原子を含む光学活性化合物(キラル剤)や他の添加剤(例えば、セルロースエステル)を含むことができる。
その他、上記液晶組成物は、配向の均一性や塗布適性、膜強度を向上させるために、ムラ防止剤、ハジキ防止剤、及び重合性モノマー等の種々の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。また、前記液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、金属酸化物微粒子等を、光学的性能を低下させない範囲で添加することができる。
【0040】
上記の中でも、前記重合性液晶組成物は、コレステリック液晶相を示すものであることが好ましく、そのためには、キラル剤(光学活性化合物)を含有しているのが好ましい。但し、上記重合性液晶化合物が不正炭素原子を有する分子である場合には、光学活性化合物を添加しなくても、コレステリック液晶相を安定的に形成可能である場合もある。前記光学活性化合物は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4−3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第一42委員会編、1989に記載)から選択することができる。光学活性化合物は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物もカイラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が含まれる。光学活性化合物(キラル剤)は、重合性基を有していてもよい。光学活性化合物が重合性基を有するとともに、併用する重合性液晶化合物も重合性基を有する場合は、重合性光学活性化合物と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、光学活性化合物から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性光学活性化合物が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、光学活性化合物の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
また、光学活性化合物は、液晶化合物であってもよい。
【0041】
前記重合性液晶組成物中の光学活性化合物は、併用される液晶化合物に対して、1〜30モル%であることが好ましい。光学活性化合物の使用量は、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、キラル剤として用いられる光学活性化合物は、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。この様な、強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のキラル剤が挙げられ、本発明に好ましく用いることができる。
【0042】
基板:
本発明の製造方法は、前記重合性液晶組成物を基板に塗布することで安定して製膜することができる。
【0043】
前記基板は、自己支持性があり、前記重合性液晶組成物を塗布して得られた塗布膜を乾燥したポリマー層を支持するものであれば、なんら限定はない。特に複数の前記塗布膜を乾燥したポリマー層を積層して塗布膜を乾燥させたポリマー層を2層以上積層する積層工程を備える場合は、下層の塗布膜を乾燥したポリマー層を含めて基板として、下層の塗布膜を乾燥したポリマー層の上に順次2層目以降の塗布膜を乾燥したポリマー層を積層していくことができる。
本発明では、前記基板はロール トゥ ロールで製造する観点から可塑性であることが好ましい。
また、前記基板は、透明であっても透明でなくてもよい。その中でも、前記基板は透明可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。但し、基板を剥離する工程を含む場合は、透明であることは必要ない。前記基板のヘイズは、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下である。所定の光学特性を満足するように、生産工程を管理して製造される、λ/2板等の特殊の位相差板であってもよいし、また、面内レターデーションのバラツキが大きく、具体的には、波長1000nmの面内レターデーションRe(1000)のバラツキで表現すれば、Re(1000)のバラツキが20nm以上、また100nm以上であり、所定の位相差板としては使用不可能なポリマーフィルム等であってもよい。また前記基板の面内レターデーションについても特に制限はなく、例えば、波長1000nmの面内レターデーションRe(1000)が、800〜13000nmである位相差板等を用いることができる。
【0044】
可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムとしては、液晶表示装置等の表示装置の部材として用いられる種々の光学フィルム用のポリマーフィルムが挙げられる。前記透明可塑性樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリイミド、トリアセチルセルロース(TAC)、などを主成分とするフィルムが例示される。この中でも、ポリエチレンテレフタレートおよび/またはトリアセチルセルロースを主成分とするフィルムが好ましく、本発明の製造方法ではポリエチレンテレフタレートを主成分とするフィルムがより好ましい。なお、主成分とは、フィルムの50質量%以上を占める成分のことを言う。
【0045】
基板を形成する材料は、光学等方性基板とするか、光学異方性基板とするかに応じて決定する。光学等方性基板の場合は、一般にガラスまたはセルロースエステルが用いられる。光学異方性基板の場合は、一般に合成ポリマー(例、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ノルボルネン樹脂)が用いられる。ただし、欧州特許0911656A2号明細書に記載されている(1)レターデーション上昇剤の使用、(2)セルロースアセテートの酢化度の低下、あるいは(3)冷却溶解法によるフィルムの製造により、光学異方性の(レターデーションが高い)セルロースエステルフィルムを製造することもできる。ポリマーフィルムからなる基板は、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。
【0046】
光学異方性基板を得るためには、ポリマーフィルムに延伸処理を実施することが好ましい。光学的一軸性基板を製造する場合は、通常の一軸延伸処理または二軸延伸処理を実施すればよい。光学的二軸性基板を製造する場合は、アンバランス二軸延伸処理を実施することが好ましい。アンバランス二軸延伸では、ポリマーフィルムをある方向に一定倍率(例えば3〜100%、好ましくは5〜30%)延伸し、それと垂直な方向にそれ以上の倍率(例えば6〜200%、好ましくは10〜90%)延伸する。二方向の延伸処理は、同時に実施してもよい。延伸方向(アンバランス二軸延伸では延伸倍率の高い方向)と延伸後のフィルムの面内の遅相軸とは、実質的に同じ方向になることが好ましい。延伸方向と遅相軸との角度は、10°未満であることが好ましく、5°未満であることがさらに好ましく、3°未満であることが最も好ましい。
光学異方性基板は、所望の位相差をもたせて、λ/2板として使用することもできる。この際、位相差としては、350nm〜700nmが好ましく、400〜650nmがより好ましい。
【0047】
前記基板の厚さが、30μm〜200μmであることが好ましく、100〜200μmであることがより好ましい。このような厚さとすることにより、前記赤外光反射層を安定的に製造することができ、また、前記ガラス板に挟持された積層体が前記基板を含む場合にも、前記樹脂フィルムの周辺部も含めて膜ワレやシワを抑制でき、得られる合わせガラスの反射ムラをより効果的に抑制することができる。
【0048】
基板とその上に設けられる層(接着層、配向膜または前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層)との接着を改善するため、基板に表面処理(例、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線(UV)処理、火炎処理)を実施してもよい。基板に紫外線吸収剤を添加してもよい。基板の上に、接着層(下塗り層)を設けてもよい。接着層については、特開平7−333433号公報に記載がある。接着層の厚さは、0.1〜2μmであることが好ましく、0.2〜1μmであることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の製造方法で製造されるフィルムは、前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層側に下塗り層を有していてもよい。前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層は、通常、基板上に設けられることが好ましいが、このとき、基板によっては、下塗り層を設けた上に前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層を設けることが好ましい場合があるためである。
下塗り層の形成に利用可能な材料の例には、アクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性ポリエステル等が含まれる。また、下塗り層の表面を中間膜と接着する態様では、下塗り層と中間膜との接着性が良好であるのが好ましく、その観点では、下塗り層は、ポリビニルブチラール樹脂も、前記材料とともに含有しているのが好ましい。また、下塗り層は、上記したように密着力を適度に調節する必要があるので、グルタルアルデヒド、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサン等のジアルデヒド類またはホウ酸等の硬膜剤を適宜用いて硬膜させることが好ましい。硬膜剤の添加量は、下塗り層の乾燥質量の0.2〜3.0質量%が好ましい。
前記下塗り層は、塗布により透明可塑性樹脂フィルム等の基板の表面上に形成されることが好ましい。このときの塗布方法については特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。
下塗り層の厚みは、0.05〜0.5μmが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法で製造されるフィルムは、前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層と前記基板との間に配向層を有していてもよい。なお、配向層は、本発明の製造方法で製造されるフィルムから基板を剥離する場合はその際に一緒に剥離することもできる。
配向層は、前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層を製膜する際には、前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層と隣接する必要があるので、前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層と基板または下塗り層との間に設けるのが好ましい。但し、下塗り層が配向層の機能を有していてもよい。また、前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層どうしの間に配向層を有していてもよい。
前記配向層は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成等の手段で設けることができる。さらには、電場の付与、磁場の付与、或いは光照射により配向機能が生じる配向層も知られている。配向層は、ポリマーの膜の表面に、ラビング処理により形成するのが好ましい。配向膜は、後述する基板と共に剥離することが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法では、前記重合性液晶組成物は、前記(D)溶媒に上述の各材料を溶解および/または分散した、塗布液として調製されるのが好ましい。本発明の製造方法の塗布工程は、前記重合性液晶組成物を塗布液にして完成させた後に、例えば、ポリマーフィルム、ガラス板、石英板等の基板の表面に、又は必要であれば、基板上に形成された配向膜表面に塗布されることが好ましい。
前記重合性液晶組成物の塗布は、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等の種々の方法によって行うことができる。また、インクジェット装置を用いて、前記硬化性液晶組成物をノズルから吐出して、塗膜を形成することもできる。
本発明の製造方法では、乾燥後の前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させたポリマー層の厚みが1μm〜8μmとなるように塗布量を調節することが好ましく、3〜7μmとなるように塗布量を調節することがより好ましい。
【0052】
(乾燥工程)
本発明の製造方法は、塗布工程で形成された前記重合性液晶組成物の塗布膜を乾燥させる乾燥工程を有する。このような乾燥工程により、前記重合性液晶組成物中に含まれる前記溶媒を除くときに、本発明では前記重合性液晶組成物中の配向制御剤の種類と量を制御することなどにより、得られるフィルムの乾燥時の風ムラを抑制することができる。前記乾燥工程は、風を当てる乾燥工程であることが好ましい。但し、フィルムの乾燥時の風ムラは、前記乾燥工程において積極的に風を当てて乾燥させる場合に発生するのみならず、例えば塗布膜を形成した基板を搬送しながら乾燥ゾーンを通過させるときなどにも発生する。
【0053】
本発明では、このような乾燥時の風ムラを抑制するため、塗布液の動的表面張力を適切に調整することにより、塗布液のレベリング性を向上させることがより好ましい。
本発明のフィルムの製造方法は、前記重合性液晶化合物、前記配向制御剤および後述の溶媒の種類および量を適宜組み合わせて、前記重合性液晶組成物の気液界面を形成してから100msec後の表面張力を24.5mN/mを超えて28.0mN/m以下に制御することが、得られるフィルムの乾燥時の風ムラを十分に改善する観点から好ましい。
前記重合性液晶組成物の気液界面を形成してから100msec後の表面張力は、24.5mN/mを超えて、27.3mN/m以下であることがより好ましい。
【0054】
なお、高速塗布・乾燥を行う場合、通常、高速塗布に好適なスロットダイを用いるが、その装置構成上の制約から、高粘度・高密度の塗布液には不適であるという性質がある。このため、塗布液の密度を従来よりも小さくし、その分、塗布量を増加させることが好ましい。しかしながら、塗布量の増加に伴い、乾燥エネルギーも増加させる必要があるため、フィルムに乾燥時の風ムラがより一層生じ易くなる。本発明のフィルムの製造方法は、このような場合にも有用である。
【0055】
前記乾燥工程は塗布工程の後で行い、塗布工程の後で配向工程の前に行うことが好ましい。
【0056】
前記塗布工程で形成された塗布膜に風をあてる通風乾燥手段としては特に制限はないが、従来技術として使用されているローラ搬送ドライヤ方式又はエアフローティングドライヤ方式の乾燥装置が使用できる。いずれの方式の乾燥装置であっても、乾燥した空気を塗布膜の表面に供給して塗布膜を乾燥させる点では共通する。
【0057】
前記乾燥工程におけるフィルム近傍の温度は、特に制限はなく、塗布膜を加熱する手段を設けてもよい。本発明では、前記乾燥工程におけるフィルム近傍の温度は20〜50℃であることが好ましく、室温であることが製造コストの観点からより好ましい。
【0058】
前記乾燥工程では、フィルム表面の塗布膜に対してフィルム搬送方向に向かって乾燥風をあてることが好ましい。
前記乾燥工程において塗布膜に風をあてる時間は、例えば10〜120秒間であることが好ましく、15〜60秒間であることがより好ましく、20〜40秒間であることが特に好ましい。
【0059】
塗布・乾燥ラインの高速化のため、初期乾燥工程では、送風せずに凝集板を用いて溶剤を凝縮回収して塗布膜を乾燥する方法(凝縮ドライヤ乾燥又は熱乾燥ともいう)を併用してもよい。前記凝縮ドライヤ乾燥については、特開2008−197170号公報に記載の方法を採用することができる。
【0060】
また、前記乾燥工程は形成された塗布膜に風をあてる以外の方法を併用してもよく、加熱、送風その他の方法により制限なく行うことができる。加熱を行う場合、10℃〜60℃で5秒〜600秒間熱を加えることが好ましく、15℃〜55℃で5秒〜200秒間熱を加えることがさらに好ましく20℃〜50℃で10秒〜100秒間熱を加えることが特に好ましい。
【0061】
配向工程:
本発明の製造方法は、塗布された前記重合性液晶組成物に熱を加えて、前記重合性液晶化合物を配向させ、コレステリック液晶相の状態とする工程を含むことが好ましい。
コレステリック液晶相への転移温度とするために、塗布された前記重合性液晶組成物に熱を加える。前記熱を加える方法としては、例えば、一旦等方性相の温度まで加熱し、その後、コレステリック液晶相転移温度まで冷却する等によって、安定的にコレステリック液晶相の状態にすることができる。前記重合性液晶組成物の液晶相転移温度は、製造適性等の面から10〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。10℃以上であれば液晶相を呈する温度範囲にすることが容易であり、200℃以下であれば熱エネルギーの消費等の観点から好ましく、さらに基板の変形や変質等に対しても有利である。
前記重合性液晶化合物を配向させ、コレステリック液晶相の状態とするには、50℃〜150℃で5秒〜600秒間熱を加えることが好ましく、70℃〜130℃で5秒〜480秒間熱を加えることがさらに好ましく、80℃〜100℃で30秒〜300秒熱を加えることが特に好ましい。
【0062】
照射工程:
本発明の製造方法は、前記重合性液晶組成物に活性放射線を照射してコレステリック液晶相を固定し、赤外光反射層を形成する照射工程を含むことが好ましい。
前記活性照射線としては、紫外線等を用いることができる。紫外線照射を利用する態様では、紫外線ランプ等の光源が利用される。この工程では、紫外線を照射することによって、コレステリック液晶相が固定されて、赤外光反射層が形成される。
【0063】
活性放射線の照射エネルギー量については特に制限はないが、一般的には、100mJ/cm2〜800mJ/cm2程度が好ましい。また、重合性液晶組成物に活性放射線を照射する時間については特に制限はないが、硬化膜の充分な強度及び生産性の双方の観点から決定されるであろう。
【0064】
コレステリック液晶相を固定する反応を促進するため、加熱条件下で活性放射線照射を実施してもよい。また、活性放射線照射時の温度は、コレステリック液晶相が乱れないように、コレステリック液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達せず、膜強度が不十分の場合には、窒素置換等の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては、10%以下が好ましく、7%以下がさらに好ましく、3%以下が最も好ましい。
【0065】
上記照射工程では、コレステリック液晶相が固定されて、赤外光反射層が形成される。ここで、液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様である。それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、活性放射線照射によってコレステリック液晶相の配向状態を固定する。
【0066】
なお、本発明においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に赤外光反射層中の液晶組成物がもはや液晶性を示す必要はない。例えば、液晶組成物が、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0067】
積層工程:
本発明の製造方法は、前記塗布膜を乾燥させたポリマー層の上で、前記重合性液晶組成物に含まれる成分の種類および添加量の少なくとも一方を変更して前記塗布工程および前記乾燥工程を少なくとも1回繰り返して、塗布膜を乾燥させたポリマー層を2層以上積層する積層工程を含むことが好ましい。このような塗布膜を乾燥させたポリマー層を2層以上の積層体を得る場合においても、本発明の製造方法は好ましく採用することができる。本発明の製造方法では、乾燥時の風ムラが抑制されているため、下層の膜厚ムラに起因する積層工程での塗布ムラや配向ムラが誘起されにくく、好ましい。
本発明のフィルムの製造方法は、前記塗布膜を乾燥させて、右円偏光の光を反射する層を形成する工程および左円偏光の光を反射する層を形成する工程を少なくとも1回ずつ有することが好ましい。
【0068】
[フィルム]
本発明のフィルムは、本発明のフィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする。
本発明の製造方法により得られる本発明フィルムは、乾燥時の風ムラが抑制されているため、赤外光反射フィルムとして用いたときに膜厚ムラに起因する反射率が高い部分と低い部分ができにくく、局所的な遮熱性能ムラを抑制でき、反射率の差による目視可能なムラも抑制することができる。
【0069】
<赤外光反射フィルム>
本発明のフィルムの製造方法により製造されたフィルムは、前記塗布膜を乾燥させたポリマー層が波長800nm以上の赤外光を反射する赤外光反射層であることが好ましい。
本発明のフィルムは、赤外光反射フィルムであることが好ましい。本発明の製造方法を用いることで、光学特性が良好で、ムラや配向欠陥の抑制された赤外光反射フィルムを得ることができる。
【0070】
(反射波長)
本発明の製造方法で製造される赤外光反射フィルムの反射する光の特定の領域の波長は、製造方法のさまざまな要因によってシフトさせることができることが知られており、キラル剤の添加濃度のほか、コレステリック液晶相を固定するときの温度や照度と照射時間などの条件などでシフトさせることができる。
本発明のフィルムの製造方法は、800nm以上の赤外光を反射する赤外光反射フィルムを製造するときにより好ましく用いることができる。
【0071】
本発明のフィルムの製造方法は、反射中心波長が950〜2000nmにある赤外光反射フィルムを製造するときに好ましく用いることができ、反射中心波長が950〜1400nmにある赤外光反射フィルムを製造するときにより好ましく用いることができる。反射波長域では通常100〜250nmの帯域の光を反射する場合が多く、その反射波長の平均値を反射中心波長と呼ぶ。
前記赤外光反射フィルムは、本発明のフィルムの製造方法で製造され、波長800nm以上の赤外光を反射することが好ましく、800nm〜2000nmの赤外光領域において、入射する光の30%以上を反射する波長領域を反射することがより好ましい。以下、前記赤外光反射フィルムについて説明する。
【0072】
(構成)
本発明の製造方法によって製造されるフィルムの例を図1、図2にそれぞれ示す。
図1に示すフィルム21は、樹脂フィルム12の一方の表面上に形成された、コレステリック液晶相を固定してなる赤外光反射層14aを有している。また、図2に示すフィルム21は、さらにその上に、コレステリック液晶相を固定してなる赤外光反射層14b、16a及び16bをさらに有する。前記赤外光反射フィルムはこれらの態様に限定されるものではなく、3層以上赤外光反射層が形成されていることが好ましく、6層以上赤外光反射層が形成されている態様がさらに好ましい。一方、前記赤外光反射層が奇数層形成されていてもよい。
【0073】
図1および図2中にそれぞれ示すフィルム21は、各赤外光反射層が、コレステリック液晶相を固定してなるので、当該コレステリック液晶相の螺旋ピッチに基づいて、特定の波長の光を反射する光選択反射性を示す。例えば、隣接する赤外光反射層(14aと14b、16aと16b)が、同程度の螺旋ピッチを有するとともに、互いに逆向きの旋光性を示していると、同程度の波長の左及び右円偏光のいずれも反射することができるので好ましい。例えば、図2のフィルム21の一例として、赤外光反射層14a及び14bのうち、赤外光反射層14aが右旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、赤外光反射層14bが左旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、赤外光反射層14a及び14bで、螺旋ピッチが同程度d14nmである例が挙げられる。
また、図2のフィルム21のそれぞれの一例として、赤外光反射層14a及び14bの関係がフィルム21の上記例と同様であり、赤外光反射層16aが右旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、赤外光反射層16bが左旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、光反射層16a及び16bで螺旋ピッチが同程度d16nmであり、及びd14≠d16を満足する例が挙げられる。この条件を満足するフィルム21は、上記フィルム21の例と同様の効果を示すとともに、さらに、赤外光反射層16a及び16bによって、反射される光の波長帯域が拡張し、広帯域の光反射性を示す。
【0074】
本発明の製造方法により製造されるフィルムは、各層のコレステリック液晶相に基づく選択反射特性を示すことが好ましい。前記赤外光反射フィルムは、右捩れ及び左捩れのいずれのコレステリック液晶相を固定してなる層を有していてもよい。同一の螺旋ピッチの右捩れ及び左捩れのコレステリック液晶相を固定した層をそれぞれ有していると、特定の波長の光に対する選択反射率が高くなるので好ましい。また、同一の螺旋ピッチの右捩れ及び左捩れのコレステリック液晶相を固定した層の対を、複数有していると、選択反射率を高められるとともに、選択反射波長域を広帯域化するので好ましい。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、棒状液晶の種類又は添加されるキラル剤の種類によって調整でき、螺旋ピッチは、これらの材料の濃度によって調整できる。
【0075】
(特性)
また、赤外光反射フィルムが赤外光反射層を2層以上有する積層体であるときの総厚みについては特に制限はないが、コレステリック液晶相を固定した赤外光反射層を4層以上含み、赤外線反射域に広く光反射特性、即ち遮熱性、を示す態様では、各層の厚みは、3〜6μm程度であり、且つ赤外光反射フィルムの総厚みd3は、通常、15〜40μm程度になるであろう。
【0076】
また、前記赤外光反射フィルムの1層の赤外光反射層(または複数層の光反射層を有する場合は各光反射層)の選択反射波長については特に制限はない。用途に応じて、螺旋ピッチを調整することで、所望の波長光に対する反射特性を持たせることができる。一例は、少なくとも1層が、波長800nm〜2000nmの赤外光波長域の光の一部を反射する、いわゆる赤外反射膜であり、それにより遮熱性を示す。前記赤外光反射フィルムの一例は、波長900nm〜1160nmの太陽光を80%以上反射することが可能であり、さらには90%以上反射することが可能であることが好ましい。この性能を使ってウインドウフィルムを作ると、JIS A−5759(建築窓ガラス用フィルム)で規定されている遮蔽係数で0.7以下となる高い遮熱性能を達成可能である。
【0077】
前記赤外光反射フィルムは、低ヘイズを達成可能であり、具体的には、赤外光反射フィルムのヘイズ0.30%未満を達成可能である。前記赤外光反射フィルムのヘイズが0.50%以下であることが好ましく、0.40%以下であることがより好ましく、0.30%以下であることが特に好ましい。また、ヘイズが上記好ましい範囲を満たし、かつ前記赤外光反射フィルムの後述する脆性(破断時の伸び率)が2%以上であることが好ましい。
窓等に貼付されている赤外光反射フィルムには、透明であることが要求され、ヘイズは低いほど好ましい。ヘイズは好ましくは0.30%以下である。なお、ヘイズは、JIS K 7136:2000(プラスチック−透明材料のヘーズの求め方)に準拠して測定することができる。
【0078】
(形態)
前記赤外光反射フィルムの形態は、シート状に広げられた形態であっても、ロール状に巻き取られた形態であっても構わないが、ロール状に巻き取られていることも好ましい。すなわち、本発明の赤外光反射フィルムは製造工程において巻き取りと送り出しを繰り返された場合に良好な光学特性を維持できることに加え、さらに製造後にロール状に巻き取られた状態で保管、搬送などをされても良好な光学特性を維持できることがより好ましい。
前記赤外光反射フィルムは、それ自体が窓材として利用できる自己支持性のある部材であっても、またそれ自体は自己支持性がなく、自己支持性のあるガラス板等の基板に貼合等されて用いられる部材であってもよい。
【0079】
例えば、コレステリック液晶相を固定化する場合には、一つの層では右あるいは左円偏光成分のどちらか一方のみになり、最大50%の反射性能を示す。右円偏光を反射する層と左円偏光を反射する層を塗り重ねることで、最大100%の反射性能を高めることができる。反射帯域の幅は、通常100〜150nmになるが、コレステリック層の複屈折率Δnが高い材料を用いたり、作製した膜内部のキラル剤の膜断面方向のキラル剤の濃度分布をつけたりすることで、この反射帯域を150〜300nm程度まで広げることができる。
【0080】
(用途)
前記赤外光反射フィルムの用途は特に制限されない。前記赤外光反射フィルムは、車載用窓材又は建物用窓材用赤外光反射フィルムであることが好ましい。
前記赤外光反射フィルムは、さらにガラス板やプラスチック基板等の表面に貼合されて用いられてもよい。この態様では、前記遮熱部材のガラス板等との貼合面は、粘着性であるのが好ましい。本実施形態では、前記赤外光反射フィルムは、ガラス板等の基板表面に貼合可能な、粘着層、易接着層等を有しているのが好ましい。勿論、非粘着性の前記赤外光反射フィルムを、接着剤を利用してガラス板の表面に貼合してもよい。
【0081】
前記赤外光反射フィルムは、太陽光に対して遮熱性を示すことが好ましく、太陽光の700nm以上の赤外線を効率よく反射することが好ましい。
前記赤外光反射フィルムは、車両用又は建物用の遮熱性窓そのものとして、又は遮熱性付与を目的として、車両用又は建物用の窓に用いられるシート又はフィルムとして、利用することができる。その他、フリーザーショーケース、農業用ハウス用材料、農業用反射シート、太陽電池用フィルム等として用いることができる。その中でも、前記赤外光反射フィルムは、車載用窓材又は建物用窓材用赤外光反射フィルムに用いることが、高可視光透過率と低へイズという特性の観点から好ましい。
【0082】
また、前記赤外光反射フィルムは、合わせガラス内部に組み込まれて遮熱部材として利用されてもよい。
前記遮熱部材は、住宅、オフィスビル等の建造物、又は自動車等の車両の窓に、日射の遮熱用の部材として貼付される。又は、日射の遮熱用の部材そのもの(たとえば、遮熱用ガラス、遮熱用フィルム)として、その用途に供することができる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例と比較例(なお比較例は公知技術というわけではない)を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0084】
[実施例1〜6および比較例1〜10]
<重合性液晶組成物(R1)の調製>
下記重合性液晶分子A、配向制御剤、キラル剤、重合開始剤および溶媒を混合し、下記組成の塗布液を調製した。得られた塗布液を、各実施例および比較例の重合性液晶組成物(R1)とした。得られた重合性液晶組成物(R1)の動的表面張力を、協和界面科学株式会社社製、Auto Dynamic Surface Tensiometer BP−D4を用いて測定した結果を、下記表1に記載した。
・下記重合性液晶分子A(商品名:RM−257、入手先:Merck)
100質量部
・下記表1に記載の配向制御剤 下記表1に記載の量
・下記のキラル剤(商品名:LC−756、入手先:BASF) 5.0質量部
・重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が25質量%となる量
【0085】
【化8】

【0086】
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【0087】
<フィルムの製造>
(重合性液晶組成物の調製)
また、重合性液晶組成物である塗布液(R1)のキラル剤(A)をLC−756(BASF社製) 3.0質量部に変更しただけで他は同様にして重合性液晶組成物である塗布液(L1)を調製した。
【0088】
また、重合性液晶を含む塗布液(R1)のキラル剤(A)の処方量を4.0質量部に変更しただけで他は同様にして塗布液(R2)を調製した。
【0089】
また、重合性液晶を含む塗布液(L1)のキラル剤LC−756の処方量を2.4質量部に変更しただけで他は同様にして塗布液(L2)を調製した。
【0090】
(下塗り層用塗布液の調製)
下記に示す組成の下塗り層用塗布液(S1)を調製した。
下塗り層用塗布液(S1)の組成:
アクリルエステル樹脂ジュリマーET−410
(東亞合成(株)製、固形分濃度30%) 50質量部
メタノール 50質量部
【0091】
(配向層用塗布液の調製)
下記に示す組成の配向層用塗布液(H1)を調製した。
配向層用塗布液(H1)の組成:
変性ポリビニルアルコールPVA203(クラレ社製) 10質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
【0092】
(塗布、乾燥およびフィルムの形成)
PETフィルム(下塗り層無し、富士フイルム(株)製、厚み:50μm、大きさ320mm×400mm)の表面上に、下塗り層用塗布液(S1)を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の膜厚が0.25μmになるように塗布した。その後、150℃で10分間加熱し、乾燥、固化し、下塗り層を形成した。
次いで、形成した下塗り層の上に、配向層用塗布液(H1)を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の膜厚が1.0μmになるように塗布速度25m/分で塗布した。その後、100℃で2分間加熱し、乾燥、固化し、配向層を形成した。配向層に対し、ラビング処理(レーヨン布、圧力:0.1kgf、回転数:1000rpm、搬送速度:10m/min、回数:1往復)を施した。
【0093】
次いで、調製した重合性液晶を含む塗布液(R1)、(R2)、(L1)、(L2)を用い、下記の手順にてコレステリック液晶相を固定し、赤外線反射層であるコレステリック液晶相を固定してなる液晶膜を製造した。
(1)各重合性液晶を含む塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の膜の厚みが6μmになるように、前記PETフィルムの配向層上に、室温にて塗布速度25m/分で塗布した。
(2)前記PETフィルムをローラーによって搬送しながら、室温にてフィルム表面の塗布膜に対してフィルム搬送方向に向かって乾燥風をあてて、30秒間乾燥させて溶剤を除去した。その後、125℃の雰囲気で2分間加熱し、その後95℃でコレステリック液晶相とした。次いで、フージョンUVシステムズ(株)製無電極ランプ「Dバルブ」(90mW/cm)にて、出力60%で6〜12秒間UV照射し、コレステリック液晶相を固定して、コレステリック液晶相を固定してなる液晶膜(赤外線反射層)を作製した。
(3)室温まで冷却した後、上記工程(1)及び(2)を繰り返し、4層積層されたコレステリック液晶相の液晶膜がPET上に形成された、各実施例および比較例のフィルムを作製した。
なお、塗布液は、(R1)、(R2)、(L1)、(L2)の順番に塗布を行なった。
【0094】
<評価>
各実施例および比較例で用いた乾燥時の風ムラ、液晶配向、他の面状を以下の方法で評価した。
【0095】
(乾燥時の風ムラ)
2枚の偏光板をクロスニコルに設置し、その間にサンプルを設置して観察したときに視認できるスジ状のムラを乾燥時の風ムラとした。乾燥時の風ムラの以下の基準にしたがって決定した。
◎: ムラが視認できない。
○: ムラがほとんど視認できない。
×: ムラが視認できる。
××: ムラが激しい。
【0096】
(液晶配向)
液晶配向性の優劣は、偏向顕微鏡によって膜を観察したときの配向欠陥の有無によって、以下の基準にしたがって決定した。
◎: 配向不良なし。
○: 配向不良ほとんどなし。
△: 配向不良ややあり。
×: 全面に配向不良あり。
【0097】
(他の面状)
乾燥ムラおよび配向欠陥以外の面状について、2枚の偏光板をクロスニコルに設置し、その間にサンプルを設置して観察し、以下の基準にしたがって決定した。
◎: ムラが視認できない。
○: ムラがほとんど視認できない。
△: ムラがやや視認できる。
×: ムラが視認できる。
【0098】
得られた結果を下記表1に記載した。
なお、表1における配向制御剤のメソゲン骨格(1’)欄は、下記構造を有するか有さないかを記載したものである。
【化19】

【0099】
【表1】

【0100】
表1より、本発明のフィルムの製造方法を用いることで、乾燥時の風ムラが抑制され、液晶配向が良好であり、他の面状も良好であるフィルムを作製できることが分かった。
一方、比較例1は配向制御剤の範囲が本発明の範囲の上限値を上回る条件で製造したフィルムであり、液晶配向が悪く、他の面状も悪いことがわかった。比較例2は。配向制御剤の範囲が本発明の範囲の下限値を下回る条件で製造したフィルムであり、乾燥時の風ムラが悪いことがわかった。比較例3〜10は本発明で規定する配向制御剤の範囲外の構造を有する配向制御剤を用いて製造したフィルムであり、いずれも乾燥時の風ムラが悪いことがわかった。
なお、各実施例で得られたフィルムの反射波長のピークは900nmであった。
【符号の説明】
【0101】
12 基板
14a、14b、16a、16b 赤外光反射層(塗布膜を乾燥させたポリマー層)
21 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性液晶化合物、(B)前記重合性液晶化合物の配向を制御可能な配向制御剤、(C)重合開始剤および(D)溶媒を含む重合性液晶組成物を基板に塗布する塗布工程と、
形成された塗布膜を乾燥させる乾燥工程とを有し、
前記配向制御剤が下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記重合性液晶化合物100質量部に対して前記配向制御剤を0.005〜0.2質量部添加することを特徴とするフィルムの製造方法。
【化1】

(一般式(1)中、L1およびL2はそれぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキレン基を表す。但し、アルキレン基中の1つのCH2または互いに隣接しない2以上のCH2は、−O−、−S−、−OCO−、−COO−、−NRa−、−NRaCO−、−CONRa−、−NRaSO2−、又は−SO2NRa−で置換されていてもよい(Raは、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表す)。
1およびn2はそれぞれ独立に3以上の整数を表し、このとき複数存在する括弧内の構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記乾燥工程は、風を当てる乾燥工程であることを特徴とする請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記重合性液晶化合物が棒状の重合性液晶化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記配向制御剤が、前記重合性液晶化合物を水平配向させることができる水平配向剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記基板がポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記重合性液晶組成物の気液界面を形成してから100msec後の表面張力を24.5mN/mを超えて28.0mN/m以下に制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記塗布膜を乾燥させたポリマー層の上で、前記重合性液晶組成物に含まれる成分の種類および添加量の少なくとも一方を変更して前記塗布工程および前記乾燥工程を少なくとも1回繰り返して、塗布膜を乾燥させたポリマー層を2層以上積層する積層工程を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記重合性液晶化合物がコレステリック液晶化合物であり、
前記塗布工程後に熱を加えて前記重合性コレステリック液晶化合物を配向させ、コレステリック液晶相の状態とする配向工程と、
前記重合性液晶組成物に活性放射線を照射してコレステリック液晶相を固定する照射工程を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記重合性液晶組成物にキラル剤を添加することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記塗布膜を乾燥させたポリマー層が波長800nm以上の赤外光を反射する赤外光反射層であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記塗布膜を乾燥させて、右円偏光の光を反射するポリマー層を形成する工程および左円偏光の光を反射するポリマー層を形成する工程を少なくとも1回ずつ有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項12】
車載用窓材又は建物用窓材用のフィルムの製造方法であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするフィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−113913(P2013−113913A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257792(P2011−257792)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】