説明

フィルムの形のオキシフルオリド及びその製造方法

本発明は、基材上に付着させたナノ構造の多孔質オキシフルオリドフィルム、その製造方法及び各種用途に関する。前記オキシフルオリドは多孔質半結晶質構造、及び80%より低い相対湿度レベルについて可視領域で測定して1.08〜1.25の屈折率を有する。その化学組成は、次式


に相当する。ここで、nはMの原子価であって1〜4であり、MはAl、Si、Ge及びGaから選択される少なくとも1種の元素を表わし、M'はCo、Cr、Ni、Fe、Cu、Sb、Ag、Pd、Cd、Au、Sn、Pb、Ce、Nd、Pr、Eu、Yb、Tb、Dy、Er及びGdより成る群から選択される少なくとも1種の元素を表わし、wは0≦w<0.1であり;xは0≦x≦1であり;yは0≦y≦0.5であり;zはz<1であり;tはt<2であり;z+t>0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造の多孔質オキシフルオリド、その製造方法及び様々な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロエレクトロニクスや光学のような様々な技術分野において、低い誘電率を有する材料が求められている。様々な用途において、さらに低い屈折率をも有する誘電材料が求められている。従来用いられてきた材料の中では、多孔質シリカが最も低い屈折率(1.2)を有する。なお、空気の屈折率は1.002であり、稠密シリカの屈折率は1.47である。
【0003】
フッ化マグネシウムは比較的低い屈折率を有し、様々な製造方法が知られている。
【0004】
特開平5−105424号公報により、Mg前駆体及びF前駆体を含有する溶液、又はMgF2の微粒子を含有する溶液を基材(基体)に塗布することから成る、MgF2の反射防止膜の製造方法が知られている。このMg前駆体は硫酸塩、硝酸塩若しくはリン酸塩(水和されていても水和されていなくてもよい)、又はアルコキシドであることができる。前記F前駆体はフッ化アルカリ金属又はフッ化第4級アンモニウムである。
【0005】
Fujihara, et al.(Scripta Materialia, 2001, 44, 2031-2034)により、ゾル−ゲルルートを介してAgナノ粒子を含有するMgF2フィルムを製造する方法が知られている。この方法は、イソプロパノール中の酢酸マグネシウムの溶液を調製し、これにCF3COO2H及びH2Oを添加し、次いで酢酸銀を添加し、この溶液を2時間撹拌し、次いでこれをスピンコーティングによってシリカガラス基材に塗布することから成る。次に、コーティングされた基材を空気中で300℃〜500℃において10分間熱処理し、次いで急冷する。得られる生成物の屈折率は、熱処理の温度に依存し、300℃については1.31、400℃については1.29、そして500℃については1.25である。
【0006】
Fujihara, et al.(Thin Solid Films, 2001, 389, 227-232)により、ゾル−ゲルルートを介してZnOナノ粒子を含有するMgF2フィルムを調製する方法が知られている。この方法は、イソプロパノールIPA中の酢酸マグネシウムの溶液を調製すると共にCF3COO2H及びH2Oを添加する工程、この溶液を1時間撹拌し、次いで90℃に1週間保って酢酸塩前駆体ゲルを得る工程、並びにこのゲルをIPA中に溶解させ、次いで酢酸亜鉛及びメタノールアミンを添加し、この溶液を撹拌する工程、並びにスピンコーティングによってシリカガラス基材に塗布し、次いで即座にサンプルに応じて300〜500℃の範囲の様々な温度に5〜14分間の期間加熱する工程を含む。屈折率は上に挙げたものと同様である。
【特許文献1】特開平5−105424号公報
【非特許文献1】Fujihara, et al., Scripta Materialia, 2001, 44, 2031-2034
【非特許文献2】Fujihara, et al., Thin Solid Films, 2001, 389, 227-232
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多孔質シリカのものより低い屈折率を有し、さらに良好な機械強度をも有する材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従う材料は、基材上にオキシフルオリドのフィルムが設けられて成り、
・前記オキシフルオリドが、多孔質半結晶質構造、80%より低い相対湿度レベルについて可視領域で測定して1.08〜1.25の屈折率、及び次式:
【化1】

(ここで、nはMの原子価であって、1〜4であり;
MはAl、Si、Ge及びGaから選択される少なくとも1種の元素を表わし;
M'はCo、Cr、Ni、Fe、Cu、Sb、Ag、Pd、Cd、Au、Sn、Pb、Ce、Nd、Pr、Eu、Yb、Tb、Dy、Er及びGdから選択される少なくとも1種の元素を表わし;
wは0≦w<0.1であり;xは0≦x≦1であり;yは0≦y≦0.5であり;zはz<1であり;tはt<2であり;z+t>0である)
に相当する化学組成を有し、
・前記フィルムが単層から成り、100nm〜2μmの範囲の厚さを有する
ことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、z+tは0.01より大きく、より特定的には0.1より大きい。
【0010】
前記材料の多孔質半結晶質構造において、
・孔容積は50%以上であり;
・孔直径は100nm以下であり;そして
・孔の壁は半結晶質オキシフルオリド基本粒子の集合体から成り、その厚さは50nm以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1つの実施形態において、孔の表面は化合物の金属中心の内の1つ(Mg、Ca、M又はM')に結合したOH基を含み、親水性の特徴を有する。
【0012】
別の実施形態において、化合物の孔の表面の金属中心は、ペルフッ素化基(例えばペルフルオロホスホネート基)によって錯化される。これらの基は表面を疎水性にする。
【0013】
wが0である本発明に従う材料のオキシフルオリドは、次式:
【化2】

に相当する化合物である。
【0014】
さらにyが0の時、前記オキシフルオリドは次式:
【化3】

に相当する。
【0015】
前記オキシフルオリドは、さらにx=0の時にはMgのみを含有し、次式:
【化4】

に相当し、x=1の時にはCaのみを含有し、次式:
【化5】

に相当する。
【0016】
x及び/又はyが0ではない場合、元素(群)M並びにx及び/又はyの値を適切に選択することによって、この材料のある種の特性を調節することができる。
【0017】
元素M'は、ドーパント元素として通常用いられる元素から選択される。M'は、例えば光ルミネセンス用の材料についてはEu、水素検出用の材料についてはPtであることができる。wが0ではない本発明に従う材料は、マトリックス材料が元素(群)M'でドープされた化合物である。
【0018】
本発明の多孔質オキシフルオリドは、80%より低い相対湿度レベルについて可視領域で測定して一般的に1.08〜1.25の範囲という非常に低い屈折率を有する。これらは、空気中で、高温(一般的に600℃まで)において、及び水又はエタノールのような標準的な溶剤中で、安定である。これらはさらに、20〜500MPaの範囲のヤング率(水による毛細管張力下での表面に対して垂直方向の層の収縮によって測定)によって決定される良好な機械的安定性を有する。
【0019】
オキシフルオリドフィルムを有する基材は、光学ミネラル支持体と称される金属材料又は酸化物から選択するのが好ましい。例として、ケイ素(シリコン)、シリカ、マイカ、アルミナ又は金を挙げることができる。
【0020】
本発明に従うオキシフルオリドフィルム上に化合物又は粒子を付着させた場合、高い多孔性レベル及び孔の寸法にも拘らず、オキシフルオリドフィルムの表面直下に配置する孔だけが化合物又は粒子にアクセス可能である。下の方にある孔はアクセス不能のままである。
【0021】
本発明に従う材料は、単一工程で基材上に前駆体溶液の単層フィルムを付着させることによって得られる。
【0022】
より特定的には、オキシフルオリドフィルムを調製するための方法は、次の工程:
・揮発性溶剤中に少なくとも1種のMg前駆体及び/又は少なくとも1種のCa前駆体、少なくとも1種のF前駆体、随意としての少なくとも1種のM前駆体、並びに随意としての少なくとも1種のM'前駆体を含有させた溶液から基材上にフィルムを付着させる工程;
・溶剤、及び前駆体同士の反応の副生成物として生成する可能性がある揮発性化合物を蒸発させる工程;並びに
・300℃〜600℃の範囲の温度において焼入れ(trempe)し、次いでこの焼入れ温度を保つことから成る熱処理工程:
を含み、
前記前駆体溶液のフィルムは基材上に単一工程で付着させた単層フィルムであり、この単層溶液のフィルムの付着条件は、熱処理後に100nm〜2μmの範囲の厚さを有するフィルムが単層として得られるように選択されることを特徴とする。
【0023】
前記の溶液のフィルムは、慣用の液体付着プロセス、例えばスピンコーティング、浸漬コーティング又は吹付けコーティングによって、基材上に付着させることができる。前記溶液フィルムを付着させるための各技術における所望の厚さを得るための固有の条件の決定は、当業者の能力の範囲内である。
【0024】
一般的に、前駆体の溶液は、金属(Mg、Ca、M及び/又はM')イオンの濃度が0.1M〜3M、好ましくは0.5M〜1.5Mとなるような金属イオン前駆体含有率を有する。さらに、前駆体の溶液は、フッ素原子/金属イオンの比FA/MIが1〜20、好ましくは3〜12となるようなフッ素前駆体含有率を有する。
【0025】
前駆体溶液中の金属イオンの濃度が0.1Mより低い場合には、単一付着工程で少なくとも100nmの厚さを有するオキシフルオリド層を得ることが難しくなり、不可能になることさえある。前駆体溶液中の金属イオンの濃度が3Mより高い場合には、溶液の粘度が高すぎて均質フィルムが得られない。
【0026】
FA/MI比が小さくなると製造されるオキシフルオリドの多孔度が低下するという影響がある。FA/MI比が1未満の場合、熱処理後に得られるフィルムは非常に低い多孔度を有し、屈折率が1.25超になってしまう。FA/MI比が大きくなると基材の湿潤性が低下するという影響がある。FA/MI比が20より大きい場合には、基材の湿潤性が低すぎて均質なオキシフルオリドフィルムが得られない。
【0027】
オキシフルオリド前駆体を浸漬コーティングによって基材に塗布する場合には、この基材を上に規定したような前駆体の溶液中に浸漬し、次いでそこから取り出す。その時の取り出し速度がフィルムの厚さを決定する。前駆体溶液の濃度及び望まれるフィルム厚さの関数としての適切な取り出し速度は、通常の試験によって決定することができる。一般的に、より高い濃度はより遅い取り出し速度で所定の厚さを得ることを可能にする。例えば、上に規定したような前駆体溶液について、一般的に、標準温度及び圧力条件下で5%〜80%(典型的には20%以下)の相対湿度において、0.1〜8mm/秒、好ましくは0.5〜5mm/秒の取り出し速度で、所望のオキシフルオリドフィルム厚さを得ることができる。
【0028】
1つの特定実施形態において、熱処理の後に、孔の壁及び結果として基材に塗布したオキシフルオリドフィルムのアクセス可能表面全体を疎水性にするための随意工程を行うことができる。
【0029】
前駆体溶液の溶剤は、揮発性有機溶剤、例えば水、アセトン又はエタノールから選択される。
【0030】
Mg、Ca、M又はM'元素の前駆体は、該元素の有機塩、無機塩、アルコキシド又は有機錯体であることができ、カチオン部分がフッ素前駆体から由来するF-、周囲のO2から由来するO2-及び溶剤が水である場合の溶剤から若しくは大気中の湿分から由来するOH-と結合するように、そして熱処理の間にアニオンが消失するように、選択される。例としては、Mg、Ca又はM酢酸塩、テトラエトキシシランSi前駆体及び各種M'元素の塩化物を挙げることができる。
【0031】
フッ素前駆体化合物は、フッ素化又はペルフッ素化基に結合した錯化用電子供与性基を含む有機化合物から選択することができる。例として、カルボン酸フルオロアルキル又はカルボン酸ペルフルオロアルキル及び対応する酸、特にトリフルオロ酢酸(TFA)を挙げることができる。
【0032】
各成分の量は、指数w、x及びyの値の関数として選択される。
【0033】
すべての場合において、溶剤は、溶液を基材と接触させた後に蒸発させる。
【0034】
基材は、オキシフルオリドでコーティングされた基材に予定される用途の関数として選択される。マイクロエレクトロニクス又は光学の分野において一般的に用いられる基材は、シリカ又はシリコン(ケイ素)ウエハーである。
【0035】
溶剤を蒸発させた後に得られたフィルムの熱処理は、空気中で又は不活性気体中で、300℃〜600℃の温度において焼入れし、この焼入れ温度を5分〜24時間の範囲の期間保つことによって実施するのが有利である。
【0036】
本発明の方法によって熱処理終了時に基材上のフィルムの形で得られる材料は、化合物の金属中心の1つ(Mg、Ca、M又はM')に結合したOH基を含む。これらの基が孔の表面を親水性にする。本発明の材料が例えば低い誘電率を有する層を形成させるためのものである場合には、孔の表面が疎水性であるのが好ましい。熱処理終了時に得られた本発明に従う材料は、疎水性基(例えばペルフッ素化基)及び前記金属中心の錯化用基を含む試薬で処理することができる。錯化剤の適用は、気相中又は溶液中での含浸技術によって実施することができる。
【0037】
本発明の材料は、その特性故に、次の分野において特に有利である:
・低い誘電率を有する層の形の材料又は絶縁層の形の材料が求められるマイクロエレクトロニクスの分野;並びに
・光学の分野(鏡、フィルター、モノクロメーター、偏光子及び導波管の構造中の部品である低い光学密度を有する層を製造するため)。
【0038】
孔の表面を疎水性にした材料は、このような疎水性特徴が孔の表面上及び従って粉末粒子又はフィルムの表面上に水の層が形成するのを防止するという事実のために、湿度が高い雰囲気中で用いることができるという追加の利点を有する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
例1
【0041】
シリカフィルムでコーティングされたシリコン基材上のマグネシウムオキシフルオリドフィルムの調製
【0042】
7.16gのMg(CH3COO)2・4H2Oを50gのエタノール、1.5gのH2O及び7.35gのCF3COOHと混合した。溶解後に、得られた溶液中に厚さ2nmのシリカフィルムでコーティングされたSi基材を浸漬し、次いで2mm/秒の取り出し速度で湿度10%未満の雰囲気中に取り出した。次いで基材上に付着した層を赤外ランプ下に移し、(フィルムの)温度を450℃に保った。この450℃の温度に10分間保った。最終付着オキシフルオリド層の厚さは150nmだった。
【0043】
得られたサンプルに対して、制御された雰囲気のチャンバー内で周囲湿度の関数としての屈折率の変化を分光偏光解析法によって測定した。
【0044】
図1は、湿度レベル(RH%)(x軸上)の関数としての屈折率の変化(n)(y軸上)を表わす。
【0045】
図1において、曲線ADSは湿度レベルを上昇させていった時の屈折率nの変化を表わし、曲線DESは湿度レベルを低下させていった時の屈折率nの変化を表わす。90%より低い湿度レベルについては屈折率が非常に僅かに変化するだけであり(700nmの波長で測定して1.11〜1.13)、その変化は可逆的であり、層の特性を変化させないことがわかる。
【0046】
孔寸法分布(水吸着/脱着により測定)は、フィルムの厚さ全体にわたって非常に狭い孔寸法分布を示した(図1の吸着/脱着等温DESを参照されたい)。このデータは、非常に均質なフィルムに相当する。
【0047】
図2及び3はそれぞれ、TEM(透過型電子顕微鏡)及びAFM(近接場顕微鏡)に依るサンプルの分析によって得られた顕微鏡写真を表わす。
【0048】
電子線回折分析は、高解像度TEM(図2)によって観察された粒子の結晶度を立証した。
【0049】
図3において、示されたサンプルの表面は、各辺が1μmの正方形であり、最も高いピークと最も低い谷とから求めた高さは74.25nmである。図3は、オキシフルオリドが平均寸法20nmの球状粒子から成る多孔質構造を有することを示す。これは、層の表面について、約20nmの小さい凸凹及びもっと大きい約50nmの凹みをもたらした。しかしながら、下の方にある孔はアクセス不能なままであることが証明された。この点を立証するために、オキシフルオリドサンプルの表面に寸法40nmのLudox(登録商標)SiO2粒子から成る層を付着させ、そして、第1層が150nmの厚さを有しているのにLudox(登録商標)粒子が第1層の50nmの深さまでサンプル中に浸透するだけであることが観察された。この浸透は表面下50nmだけ初期層の光学特性の変化を引き起こした。
【0050】
図4は、シリカ粒子の表面層を有するサンプルの構造の概略図である。直径が大きい方のビーズはLudox(登録商標)粒子を表わし、直径が小さい方のビーズは半結晶質オキシフルオリド粒子を表わす。この表面層はLudox(登録商標)ビーズのみから成る。基材Sと直接接触する層は、オキシフルオリド粒子のみから成り、低い屈折率を有する。中間層は各種粒子が相互に浸透した層を表わす。
【0051】
このフィルムのXPS分析は、3種の主要元素(Mg、F及びO)がMg35%、F40%、O25%の原子割合(許容誤差10%)で存在することを示した。このデータは、実験式MgF1.140.15(OH)0.56に相当する。スペクトルのデコンヴォルーション(解析)は、各元素の単一の個体群を示し、無機マトリックスの均質性及びその(半)結晶性を立証した。
【0052】
例2
【0053】
疎水性Mgオキシフルオリドフィルムの調製
【0054】
例1の手順に従って調製したオキシフルオリドフィルムを、下記の方法に従って孔の表面を疎水性にするために処理した。1重量%ペルフルオロホスフェート(Aldrich社より商品名Zonyl FSEフルオロ界面活性剤No. 421391の下で販売されているもの)を含有させた水溶液中に前記フィルムを1時間浸漬した。次に、ペルフルオロホスフェート溶液から取り出した後に、フィルムを多量の水で洗浄し、次いで150℃において30分間乾燥させた。
【0055】
湿度の関数としての屈折率の変化の偏光解析研究は、相対湿度95%超で光学密度が有意に増大するのに対して、初期の未処理フィルムについては限界が85%であることを示した。低湿度における屈折率は、このグラフトによって僅かに変性された。これは、処理前のフィルムの屈折率と比較して0.01〜0.02増大した。
【0056】
例3
【0057】
Eu2+をドープされたCa及びMgオキシフルオリドフィルムの調製
【0058】
厚さ2nmのシリカフィルムでコーティングされたシリコン基材上にマグネシウム/カルシウムオキシフルオリド(Eu2+をドープしたもの)フィルムを調製した。
【0059】
7.16gのMg(CH3COO)2・4H2O、0.150gのCa(CH3COO)2・2H2O、50gのエタノール、1.5gのH2O及び8gのCF3COOHを含有する溶液を調製し、次いでこれに0.025gのEuCl3・6H2Oを添加した。溶解後に、こうして得られた溶液中にSi基材を浸漬し、2mm/秒の取り出し速度で湿度10%未満の雰囲気中に取り出すことによって、この溶液の単層を付着させた。次いで基材上に付着した層を赤外ランプ下に移し、(フィルムの)温度を450℃に保った。この450℃の温度に10分間保った。こうして得られたオキシフルオリド層の厚さは150nmだった。
【0060】
得られたサンプルに対して、制御された雰囲気のチャンバー内で周囲湿度の関数としての屈折率の変化n700を分光偏光解析法によって測定した。得られた結果は、例1のサンプルについて観察された光学特性の変化とすべての点において同様だった。これらを次の表に与える。
【0061】
【表1】

【0062】
例4
【0063】
Mg及びSiオキシフルオリドフィルムの調製
【0064】
厚さ2nmのシリカフィルムでコーティングされたシリコン基材上に、マグネシウム/ケイ素オキシフルオリドフィルムを調製した。
【0065】
7.16gのMg(CH3COO)2・4H2O、0.175gのSi(CH3CH2O)4、50gのエタノール、1.5gのH2O及び8gのCF3COOHを互いに混合した。こうして得られた溶液中に基材を浸漬し、2mm/秒の取り出し速度で湿度10%未満の雰囲気中に取り出すことによって、この溶液の単層を付着させた。次いで基材上に付着した層を赤外ランプ下に移し、(フィルムの)温度を450℃に保った。この450℃の温度に10分間保った。こうして得られたオキシフルオリド層の厚さは150nmだった。
【0066】
得られたサンプルに対して、制御された雰囲気のチャンバー内で周囲湿度の関数としての屈折率の変化n700を分光偏光解析法によって測定した。得られた結果は、例1のサンプルについて観察された光学特性の変化と同様だった。測定された屈折率は、湿度0%及び100%についてそれぞれ1.12及び1.41の範囲だった(700nmの波長において)。これらを次の表に与える。
【0067】
【表2】

【0068】
例5
【0069】
Mg及びAlオキシフルオリドフィルムの調製
【0070】
厚さ2nmのシリカフィルムでコーティングされたシリコン基材上にマグネシウム/アルミニウムオキシフルオリドフィルムを調製した。
【0071】
7.16gのMg(CH3COO)2・4H2O、0.100gのAlCl3・6H2O、50gのエタノール、1.5gのH2O及び8gのCF3COOHを互いに混合した。溶解後に、こうして得られた溶液中に前記Siを浸漬し、2mm/秒の取り出し速度で湿度10%未満の雰囲気中に取り出すことによって、この溶液の単層を付着させた。次いで基材上に付着した層を赤外ランプ下に移し、(フィルムの)温度を450℃に保った。この450℃の温度に10分間保った。こうして得られたオキシフルオリド層の厚さは150nmだった。得られたサンプルに対して、制御された雰囲気のチャンバー内で周囲湿度の関数としての屈折率の変化n700を分光偏光解析法によって測定した。得られた結果は、例1のサンプルについて観察された光学特性の変化と同様だった。測定された屈折率は、湿度0%及び100%についてそれぞれ1.10及び1.38の範囲だった(700nmの波長において)。これらを次の表に与える。
【0072】
【表3】

【0073】
例6
【0074】
シリカフィルムでコーティングされたシリコン基材上のマグネシウムオキシフルオリドフィルムの調製
【0075】
例1の方法を用い、下記の条件下で、厚さ2nmの不透明シリコン基材上のマグネシウムオキシフルオリドの2つのサンプルを調製した。
【0076】
【表4】

【0077】
水銀プローブ法を用い、0Vの電圧及び100kHzの周波数を加えることによって、得られた各サンプルの誘電率を測定した。測定システムは、不透明Si基材(0.007Ω/cmより低い抵抗)、多孔質オキシフルオリドフィルム及び水銀から成るものだった。結果は次の通りだった。
【0078】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】例1において得られた材料についての湿分レベル(RH%)(x軸上)の関数としての屈折率の変化(n)(y軸上)を表わしたグラフである。
【図2】例1において得られた材料についての透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】例1において得られた材料についての近接場顕微鏡写真である。
【図4】例1において得られたシリカ粒子の表面層を有する材料の構造の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にオキシフルオリドのフィルムが設けられて成る材料であって、
(a)前記オキシフルオリドが、多孔質半結晶質構造、80%より低い相対湿度レベルについて可視領域で測定して1.08〜1.25の屈折率、及び次式:
【化1】

(ここで、nはMの原子価であって、1〜4であり;
MはAl、Si、Ge及びGaから選択される少なくとも1種の元素を表わし;
M'はCo、Cr、Ni、Fe、Cu、Sb、Ag、Pd、Cd、Au、Sn、Pb、Ce、Nd、Pr、Eu、Yb、Tb、Dy、Er及びGdから選択される少なくとも1種の元素を表わし;
wは0≦w<0.1であり;xは0≦x≦1であり;yは0≦y≦0.5であり;zはz<1であり;tはt<2であり;z+t>0である)
に相当する化学組成を有し、
(b)前記フィルムが単層から成り、100nm〜2μmの範囲の厚さを有する
ことを特徴とする、前記材料。
【請求項2】
孔の容積が50%以上であり;
孔の直径が100nm以下であり;そして
孔の壁が半結晶質オキシフルオリド基本粒子の集合体から成り、その厚さが50nm以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
孔の表面が前記の化合物の金属中心の内の1つ(Mg、Ca、M又はM')に結合したOH基を含むことを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記の化合物の孔の表面の金属中心がペルフッ素化基によって錯化されたことを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
前記基材が金属材料又は酸化物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
前記基材がケイ素、シリカ、マイカ、アルミナ又は金から成ることを特徴とする、請求項5に記載の材料。
【請求項7】
前記オキシフルオリドが次式:
【化2】

に相当することを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
前記オキシフルオリドが次式:
【化3】

に相当することを特徴とする、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
前記オキシフルオリドが次式:
【化4】

又は
【化5】

の内の一方に相当することを特徴とする、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
z+tが0.01より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項11】
単一工程で基材上に前駆体の溶液の単層フィルムを付着させることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の材料の製造方法。
【請求項12】
次の工程:
・揮発性溶剤中に少なくとも1種のMg前駆体及び/又は少なくとも1種のCa前駆体、少なくとも1種のF前駆体、随意としての少なくとも1種のM前駆体、並びに随意としての少なくとも1種のM'前駆体を含有させた溶液から基材上にフィルムを付着させる工程;
・溶剤、及び前駆体同士の反応の副生成物として生成する可能性がある揮発性化合物を蒸発させる工程;並びに
・300℃〜600℃の範囲の温度に加熱し、次いでこの加熱温度を保つことから成る熱処理工程:
を含み、
前記前駆体溶液のフィルムが基材上に単一工程で付着させた単層フィルムであり、この前駆体溶液のフィルムの付着条件が、熱処理後に100nm〜2μmの範囲の厚さを有するフィルムが単層として得られるように選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記の溶液のフィルムをスピンコーティング、浸漬コーティング又は吹付けコーティングによって基材上に付着させることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記の前駆体の溶液が、金属(Mg、Ca、M及び/又はM')イオンの濃度が0.1M〜3M、好ましくは0.5M〜1.5Mとなるような金属イオン前駆体含有率を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記の前駆体の溶液が、フッ素原子/金属イオンの比FA/MIが1〜20、好ましくは3〜12となるようなフッ素前駆体含有率を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記の前駆体溶液のフィルムを浸漬コーティングによって基材に付着させ、その際に、該基材を前駆体溶液中に浸漬し、次いで0.1〜8mm/秒の取り出し速度で取り出すことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記材料の孔の壁の表面を疎水性にするための追加工程を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
溶剤が揮発性有機溶剤から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
Mg、Ca、M又はM'元素の前駆体が、該元素の有機塩、無機塩、アルコキシド又は有機錯体であって、そのカチオン部分がF-、O2-及びOH-と結合し且つ熱処理の間にアニオンが消失するように選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
フッ素前駆体化合物がフッ素化又はペルフッ素化基に結合した錯化用電子供与性基を含む有機化合物から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記フッ素前駆体がカルボン酸フルオロアルキル又はカルボン酸ペルフルオロアルキル及び対応する酸から選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記熱処理を空気中で又は不活性気体中で実施し、この熱処理が、300℃〜600℃の温度において加熱し、この加熱温度を5分〜24時間の範囲の期間保つことから成ることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
前記追加処理が熱処理後に得られた材料を疎水性基を含む試薬と接触させることから成ることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
鏡、フィルター、モノクロメーター、偏光子及び導波管の構造中の部品である低い光学密度を有する層を製造するための、請求項1に記載の材料の使用。
【請求項25】
低い誘電率を有する層又は絶縁層を製造するための、請求項1に記載の材料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−515806(P2009−515806A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540648(P2008−540648)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002510
【国際公開番号】WO2007/057551
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(507018539)ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー (10)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)