説明

フィルム保温性能測定方法

【目的】 気象状態を正確に模擬して放射による冷却のみを測定し、フィルムの保温性能を正確かつ容易に評価できるようにする。
【構成】 放射計10を最上部に設け、この下方に試料フィルム11、アルミニウム板のシャッタ12を順に配置する。さらに、デューア瓶13内に、開口部を上空に向けた空洞黒体14を設置し、この空洞黒体14の開口部と対向して放射計10を配置する。そして、シャッタ12を閉じ、試料フィルム11を配置し、放射計10と試料フィルム11とが熱平衡状態にあるときの読取り値E1 と、シャッタ12を開き試料フィルム11を透過する放射量の読取り値E2 と、試料フィルム11を取り除いたときの読取り値E3 から保温性能評価Hを求める。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビニールハウス栽培などに使用するフィルムに関し、特に、設置場所の使用条件を室内などで模擬的に再現して保温性能の評価を行うフィルム保温性能測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ビニールハウス栽培などでは、各地方における気象条件や栽培作物の種類などを考慮し、ポリ塩化ビニール,ポリエチレン,酢酸ビニール,エチレン酢酸ビニール共重合体酸化物又はナイロンなどのプラスチックフィルムからなる単体、又はこれらを主材料とした多層張り合わせフィルムを用いている。このフィルムには補助材料として様々な目的でガラス,アルミニウム,酸化チタン,カーボンブラックなどの粉末がフィラーとして加えられている。このようなフィルムは、組み合せ材料に応じて、例えば、強度が相違する特性を示すが、元来、このフィルムは冬季にビニールハウス内部での栽培作物を低温から保護することにある。特に、冬季の雲が無く無風の夜に発生する放射冷却による霜柱の発生を防止するために用いられるが、いずれも高保温性を備えたフィルムが必要になる。
【0003】このような高保温性フィルムを開発する場合、そのフィルムの保温性能の評価作業は、冬季の間に、実際にフィルムを設置して作物を栽培する場所で行う必要がある。しかし、この評価作業は、多大の手間と時間を要するとともに、地形や地質、建物や植生など周囲条件の違いによる差異があり過ぎて普遍的な評価が困難であるため、室内などで迅速に評価を行う各種の方法が提案されている。これら方法の一つとして加熱物体冷却速度測定方法がある。この方法は、図6に示すように断熱箱の一面に試料フィルムを貼り、内部に一定温度に加熱した鉄のブロックを置き、その冷却速度で評価を行っている。すなわち、この評価方法は、二個の断熱箱1,2を用意し、一方の断熱箱1の開口部に試料フィルム3を貼り、他方の断熱箱2の開口部に比較用の板ガラス4を貼る。そして、加熱した鉄ブロック5,6には、それぞれ温度センサ7,8を取り付け、2チャネルの温度記録計9で同時に記録し、冷却速度の違いで保温性能の評価を行っている。なお、板ガラスは、経験的に保温性能が最も良好であるとして、比較評価に利用している。
【0004】また、他の方法としては赤外線吸収スペクトル方法がある。この方法は、試料フィルムを赤外線吸収分光々度計にかけ、波長が7〜15μ間の吸収面積を保温性能として評価し、この評価部分、すなわち、図7中の破線ハッチイング部分を切り取り、その切り取った記録紙の物理的重量で保温性能の評価を表している。
【0005】さらに、この種の好適な方法として特公平2ー41410号公報に記載されている方法を挙げることが出来る。この方法においては、フィルムの保温性能を受光部を通じて評価している。この受光部は一定温度に保たれた空洞放射器の内壁を黒体塗料で塗布し、また、輻射型表面温度計の感温度部を、二層金属の複数の熱電対を直列接続するとともに放射状に配列して構成し、受光部中心度と受光部周辺の外気温度との温度差に対応した出力信号から保温性能の評価を行っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の各方法には次のような課題があった。加熱物体冷却速度測定方法は、加熱した鉄ブロック5,6自体の表面に生ずる対流と、温められた内部の空気が試料を通じて外気に伝導する放熱が多くなり、実際のビニールハウス栽培で発生している現象を正確に模擬しているとは考え難く、放射による冷却効果を分離して測定することが困難であった。すなわち、ビニールハウス栽培でのフィルムの保温性能が放射冷却の遮断で決まることを考慮しておらず、一つの試料の測定に数10分以上の長時間を要する非効率的なものであり、さらに、途中で室温が変化する場合があり再現性に欠けるという問題があった。
【0007】赤外線吸収スペクトル方法は、保温性能が放射冷却の遮断性能で決定されることが考慮さており、0℃付近の黒体放射波長分布の半値幅も概ねこの値であることから効果的な方法であるが、記録紙の紙質が必ずしも一定ではなく、記録幅や波長目盛りも装置ごとに異なるので、同時期に測定した試料間の比較は出来るものの室内の湿度で記録紙の重量が変化して普遍性に欠け、さらに、波長外にある吸収の寄与については無視されてしまい、同波長内でも黒体放射の強度分布が異なることによる誤差が発生する。また、赤外線吸収分光々度計は特殊な測定装置であり、その操作には高度に訓練された技術が必要であり、さらに、一つの試料の測定に数分〜10数分間の長時間を要するという問題があった。
【0008】また、特公平2ー41410号公報に記載された方法は、シャッタを取り除いた後に試料フィルムを配置するため、輻射型表面温度計の感温部と試料フィルムとの間の熱平衡状態、換言すればシャッタと試料フィルムの間に温度差があるため測定誤差を生じる可能性があり、改良の余地があった。このように、上述したいずれの従来例も、最適な高保温性フィルムを開発する場合、そのフィルムの保温性能の正確な評価が困難であった。
【0009】本発明は、上述した事情にかんがみてなされたものであり、気象状態を正確に模擬して、放射による冷却のみを測定し、フィルムの保温性能を正確かつ容易に評価できるようにしたフィルム保温性能測定方法の提供を目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明のフィルム保温性能測定方法は、黒体の開口部と放射計との間の放射計側に試料フィルム、黒体側にシャッタをそれぞれ配置し、透過する放射量を読み取って上記試料フィルムの保温性能の評価を行うに際し、上記シャッタを閉じて上記試料フィルムを配置するとともに、黒体、放射計、試料フィルム及びシャッタの温度が安定していることを確認し、上記放射計の出力が安定した後の放射量を読み取り、この読取り値を第一の読取り値とし、また、上記シャッタを開き、上記試料フィルムを透過する放射量を読み取り、この読取り値を第二の読取り値とし、さらに、上記試料フィルムを取り除いて上記空洞黒体からの放射量を読み取り、この読取り値を第三の読取り値とし、その後、上記第一ないし第三の読取り値にもとづいて試料フィルムの保温性能を評価する方法としてある。 そして好ましくは、(第三の読取り値−第二の読取り値)/(第三の読取り値−第一の読取り値)を第一の保温性能評価とし、黒体、放射計、試料フィルム、シャッタの温度が十分に安定している際の第一の読取り値が実質的に0を示し、第三の読取り値が一定の値を示す際に、所望の第二の保温性能評価を1−(第二の読取り値/第三の)読取り値で表すようにし、また、第一の読取り値を1とし、シャッタが開きかつ試料フィルムが無配置の場合の読取り値を0とする逆数の目盛りを形成し、この目盛り上における試料フィルムを透過する放射量の読取り値によって、直接保温性能の評価を行うようにし、また、黒体を空洞黒体とし、その空洞黒体の開口部を上空に向けて透過放射量を測定するようにし、また、空洞黒体を低温、かつ放射計を空洞黒体より高温度に設定して、透過放射量を測定するようにし、また、試料フィルムと放射計とを実質的に等温度(例えば、室温)の状態にして、透過放射量を測定するようにし、また、試料フィルムと放射計とを室温の状態にして、透過放射量を測定するようにし、また、空洞黒体の温度を、放射計の温度に対して一定の温度差を得るように自動制御するようにし、さらに、放射計の測定値を一定値に自動制御する方法としてある。
【0011】
【作用】上記構成からなる本発明のフィルム保温性能測定方法は、空洞黒体と放射計の間にシャッタと試料フィルムを配置し、放射計の出力が安定した後に放射量を読み取った第一の読取り値と、シャッタを開き試料フィルムを透過する放射量を読み取った第二の読取り値と、試料フィルムを取り除いて空洞黒体からの放射量を読み取った第三の読取り値とから試料フィルムの保温性能の評価を得るようにしている。この場合、気象状態を正確に模擬して放射による冷却のみが純粋、かつ、容易に測定され、フィルムの保温性能が正確に評価される。
【0012】
【実施例】以下、本発明のフィルム保温性能測定方法の実施例について図面を参照しながら説明する。先ず、実施例の概略を説明する。冬季夜間の霜が下りるような晴天かつ無風の気象条件下において、上空に放射温度計を向けると、気象条件によっても異なるが、通常、放射温度計は−15℃〜−25℃の値を示す。すなわち、全ての物体はステファンボルツマンの法則に従った電磁波エネルギーを放射しており、上空から地面に向かって約−20℃の黒体からの放射を受ける。さらに、地面から上空に向かっても0℃相当のエネルギーが放射され、その差分だけ地面が冷却される。したがって、ビニールハウス栽培では、栽培場所を覆うようにフィルムを設けて、放射を遮断して保温する。この場合、ビニールハウス内外における温度差はほとんど無く、また、無風状態のために対流及び伝導による熱伝達もほとんど無いので、放射による熱伝達だけが問題となる。
【0013】本発明は、この現象を模擬して利用したものであり、地面に相当する放射計と上空に相当する低温度の空洞黒体とを対向して配置し、その間に試料フィルムを配置して放射の遮断性能を評価している。この実施の過程において、当初は冬季夜間の栽培場所での現象をそのまま模擬するのが好ましいと考え、放射計と試料フィルムを0℃付近で同一温度に保ち、黒体を−20℃に保持しようしたが、周囲温度との差が大きいために対流が発生し、種々な問題が発生した。すなわち、冷却した放射計が結露し、試料の温度は雰囲気に引き込まれて安定せず、試料からの放射が測定値に誤差として現れた。空洞黒体はドライアイスとアルコールの混合物で冷却したが、空洞内面が結霜し、その表面の温度は雰囲気の温度に引き込まれて上昇し、安定した値が得られなかった。この不都合を回避するために、装置全体を20℃高い方にシフトしたところ良好な結果が得られた。以下、この良好な結果が得られた実施例を説明する。
【0014】先ず、第一の実施例について説明する。図1R>1は第一実施例を実施する装置例の構成を示している。図1において、放射計10を最上部に設け、この下方に試料フィルム11、アルミニウム板のシャッタ12を順に配置した。さらに、デューア瓶13内に、開口部を鉛直上方に向けた空洞黒体14を設置し、この空洞黒体14の開口部と対向して上記放射計10を配置した。放射計10、試料フィルム11、シャッタ12を20℃付近の室温に保ち、空洞黒体14はデューア瓶13に満たした氷水15で0℃に保持した。放射計10は0℃の空洞黒体14の放射の波長領域を十分にカバーする必要から波長特性のほとんど無いサーモパイル方式のものを用いた。
【0015】次に、この第一の実施例における動作及び保温性能の評価について説明する。測定操作は、次の■〜■の処理手順で行い、保温性能評価Hを式(2)で得るようにした。
■ 各部の温度が安定していることを確認する。
■ シャッタ12を閉じ、試料フィルム11を配置する。
■ 放射計10の出力が安定、すなわち、放射計10と試料フィルム11とが熱平衡状態となるのを待って値を読み取り、これを読取り値E1 とする。
■ シャッタ12を開き、試料フィルム11を透過する放射量を放射計10で読み取り、これを読取り値E2 とする。
■ 試料フィルム11を取り除き、空洞黒体14の放射量を放射計10で読み取る。これを読取り値E3 とする。
■ シャッタ12を閉じて測定を終了する。
【0016】次に、放射計10での読取り値E1 ,E2 ,E3 から、保温性能評価Hを次の式(1)で算出した。
H=(E3 −E2 )/(E3 −E1 ) …(1)
ここで、各部の温度が十分に安定していれば、読取り値E1 はほぼ0を示し、読取り値E3 が、ある一定の値を示すため、式(1)は次式(2)で表すことができる。
H=1−(E2 /E3 ) …(2)
この場合、式(1)から理解できるように放射計10の感度を可変にし、読取り値E3 の最大指示を0とし、さらに、読取り値E1 の最小値を最大1と逆数で目盛ると、この目盛り上の読取り値E2 をそのまま保温性能評価Hとして算出できる。この第一の実施例では、実際のビニールハウスでの条件よりも20℃だけ高温シフトしたが、この場合、測定評価に問題がないというよりも、むしろ安定した測定ができた。すなわち、放射計10と試料フィルム11及びシャッタ12を室温に置くだけで、何らの強制的な操作なしに等温度に保持でき、結露するなどの問題を発生しない利点がある。空洞黒体14も0℃であり結氷することがなく、内面温度は安定した0℃を保持した。また、空洞黒体14内面には少量の結露が見られたが、開口部が上方に向いているので対流による空気の交換が無く、さらに結露が進行すること無く測定に支障が生じなかった。
【0017】なお、装置全体をさらに約20℃高温にシフトした37℃の定温度室に移動し、空洞黒体14を17℃の水で冷却して測定しても、20℃の室温での測定と誤差範囲で一致したので、逆に20℃下方にシフトしても大差ないと考えられる。
【0018】次に、第二の実施例について説明する。第一の実施例では、低温の空洞黒体14は0℃に保たれているが、放射計10は室温と熱平衡状態にあり、室温の変化で放射計の読取り値が変化し、室温が20℃のときに比較して30℃では約60%増しの値を示した。したがって、気温変化の多い日には、毎回の測定に式(1)又は式(2)で保温性能評価Hを算出するか、放射計10の感度を変更して読取り値E0 を最大目盛りの0合わせる作業が必要であった。
【0019】第二の実施例では、その面倒な作業を無くすために、空洞黒体の温度を常に放射計よりも20℃低い一定の温度差となるように追従制御を行った。図2は、この追従制御を行う第二実施例を実施する装置例の構成を示している。図2において、試料フィルム17、シャッタ18の上部の放射計19に取り付けた第一の温度センサ20の測定値から、空洞黒体24の内面に取り付けた第二の温度センサ21の測定値を減算部22で引き算し、その差が差温度設定部23に設定された値と等しくなるように、空洞黒体24を冷却する電子冷却器25に通流する電流を温度制御部26によって自動制御した。これらの温度制御のための各装置類は通常の市販品で構成したが、両者の温度差を20±0.1℃に保つことができた。
【0020】次に、この第二の実施例における動作及び保温性能の評価について説明する。この第二の実施例では第一の実施例と同様な処理手順で測定操作をした場合、室温の変化ごとに放射計19の感度調節が不要になると期待したが、幾分かの調節は必要であった。すなわち、室温20℃における空洞黒体24の温度が0℃のときの放射計19の値に比較して、空洞黒体24を10℃(室温30℃)上方にシフトした場合の放射計19の値は約10%増大した。室温が安定しており、その変化が1℃程度のときは放射計19の感度調節を不要にして測定操作が可能であったが、それ以上の変化がある場合は感度調節の必要が認められた。
【0021】次に、第三の実施例を説明する。第二の実施例のように室温の変化によって放射計19の感度調節を要するのは、実際の測定作業上面倒であり、また、室温が急変すると誤差発生の要因ともなる。この第三の実施例では放射計の出力が一定となるように空洞黒体の温度の調整を試みた。図3は、この第三実施例を実施する装置例の構成を示している。図3において、電子冷却器33で冷却された空洞黒体32の放射量を放射計30で検出し、放射量表示部38への出力信号を分岐して電子冷却調節部31に帰還する。この電子冷却調節部31に放射量設定部34を設け、室温20℃、空洞黒体32の温度が0℃のときの放射計30の出力に等しい値を設定して、室温が丁度20℃であれば空洞黒体32は0℃となるように電子冷却器33に通流する電流を調節している。室温が上昇すると放射計30の出力が増大しようとするが、電子冷却調節部31の調整制御で電子冷却器33に通流する電流が低減し、放射量が設定された値となるまで空洞黒体32の温度が上昇する。逆に、室温が低下すると放射計30の出力が低下しようとするので、電子冷却調節部31の調整制御で電子冷却器33に通流する電流が増大して放射量が設定された値になるまで空洞黒体32の温度が低下する。
【0022】放射計30の出力が設定された値となる空洞黒体32の温度は、室温が30℃のときに12.2℃、室温が40℃では24.0℃となり、両者の温度差が次第に少なくなっている。これは第二の実施例で一定温度差としたときに、室温の上昇にともない放射量の増大があったが、これを補償したことを意味する。この放射量調節をしている間は、試料フィルム35及びシャッタ36は空洞黒体32の開口部の上方位置から退避している。測定操作を行う数分間の短い時間だけシャッタ36及び試料フィルム35が空洞黒体32と放射計30の間に配置される。このとき、試料フィルム35及びシャッタ36が開口部上方位置に有ることをセンサ37で検知して調節制御を保留し、自然吸熱による空洞黒体32の温度の温度上昇を抑えるに必要な一定電流に保持される。この際、測定操作を行う間の温度変化はほとんど認められなかった。この第三の実施例では、室温の変化によって0点調節及び感度補正は不要となり、温度補償のための計算も不要になり、さらに、測定操作を行う熟練要員も不要になる。また、ターレット式の試料ホルダーなどを用いれば多数の試料フィルム(35)を自動測定することも可能になる。
【0023】次に、第四の実施例について説明する。第二の実施例では放射計自体と黒体の温度差を一定にしたが、両者の温度が変化すると誤差が生じた。また、第三の実施例ではシャッタを閉じたときの基準設定及び試料フィルムの測定を行なっている間は、黒体の温度制御ができないので、便法的にその短時間の間だけ制御電流を停止するか、吸熱による温度上昇を補正する程度の一定電流を流す。しかし、いずれの手段も制御が停止しているので測定の所要時間が短い時間に制限され、室内の雰囲気温度の違いによっては、補正が正常に行われない可能性がある。そこで、この第四の実施例では、基準設定や試料測定中でも休まず制御できるように改良した。図5R>5は、この第四実施例を実施する装置例の構成を示している。この装置は上記第二実施例における温度設定器23を関数発生器に置換え、放射計の第一温度センサ20が絶対温度で293度のときに空洞黒体24の絶対温度を273度とし、これに後述する表1の増分を加えた値を黒体の設定温度とした。
【0024】次に、この第四の実施例における動作及び保温性能の評価について説明する。黒体放射の現象はステファンボルツマンの法則に忠実に従うので、放射計自体の温度が判れば、放射計に感知される値をある一定に保つための黒体温度は一義的に決定される。
ステファンボルツマンの法則 E=σT4 …(3)
(T:絶対温度表示 σ=5.6694×10-5
放射計と黒体の各絶対温度がT1,T2のときの放射量の差は E(ΔT)=σ(T14−T24) …(4)
となり、両者の温度が293および273における放射量の差は、それぞれの値を代入してE(20)=5.6694×10-5(2934−2734)=1.029×105放射計自体の温度が変化しても、この同一値を表示させるための黒体温度は、T2=(T14−E(20)/σ)1/4これに各値を代入して、 T2=(T14−0.18150×10101/4 …(5)
【0025】放射計自体の温度を測定し、上記(5)式に従って黒体温度を制御すれば常時制御が可能となり、基準設定や試料測定のための時間制限がなくなる。ただし、4乗根を開く面倒な計算を含むので、実際の装置では上記の式を予め計算して求めた値を折れ線近似の関数発生器とし、黒体温度T2は、放射計自体の温度T1が293度のときを273度とし、0.1上昇ごとにT2の増分を下記の表1のとおり与えた。
【0026】
表11の区間とT2の増分Δt 区間 ℃ 増分Δt 293.0〜298.0 0.123 298.1〜303.0 0.121 303.1〜308.0 0.119 308.1〜313.0 0.117すなわち、放射計と黒体の温度は表2のようになる。
表212 ΔT 293.0 273.00 20.00 298.0 279.15 18.85 303.0 285.20 17.80 308.0 291.15 16.85 313.0 297.00 16.00
【0027】上記式(5)に表2の値を代入すると、放射計温度がT1のときの放射量と、黒体温度がT2のときの放射量の差を求めることができ、これをまとめると表3のようになり、放射量の差が0.2%以内であることが認められる。
表3 放射計温度T1 黒体温度T2 放射量の差 293 273.00 1.029×105 298 279.15 1.028×105 303 285.20 1.028×105 308 291.15 1.028×105 313 297.00 1.030×105
【0028】次に、第一ないし第四の実施例における実験データについて説明する。第一ないし第四の実施例における保温性能評価Hが正確であることを証明するために、各種の試料フィルムを五面に張った一立方メートルの直方体の模擬ハウスを作成し、冬季の屋外で実験した。実験地としては、周囲50m以内に高い建物及び高い木がなく、空が広く開いている栽培地である農地を選択した。保温性能能評価Hは、模擬ハウス内の直径30cmの水槽に前日に1リットルの水を入れ、翌朝までの放熱量を結氷の重量と未結氷部分の水温低下量とから算出し、第一ないし第四の実施例との比較を行った。実験は1月下旬から2月下旬までの特に寒い日を選んで行い、結氷のための放熱は80カロリー/g、水温の低下の放熱は1カロリー/g℃とし、四回の実験を行った。この四回の合計値を用いて比較したものを表4に示す。なお、表4において、PEはポリエチレン、Alはアルミニューム、酢ビ(1)は、酢酸ビニールの両側にポリエチレンをラミネートしたもの、酢ビ(2)は酢酸ビニール単体である。
【0029】
表4 試料フィルムの保温効果の比較測定─────────────────────────────────── 試料 露地 PE 酢ビ 酢ビ ポリ塩化 PE+ (1) (2) ビニール AL粉 ─────────────────────────────────── 未結氷水 (1) 15.0 15.0 15.0 15.0 15.0 15.0 ─────────────────────────────────── 結氷 (2) 108.1 53.0 34.4 28.4 20.9 9.6 ─────────────────────────────────── 合計 (3) 123.1 68.0 49.4 43.4 35.9 24.6 ─────────────────────────────────── 放熱量比 (4) 1.00 0.552 0.401 0.353 0.292 0.200 ─────────────────────────────────── 保温効果 (5) 1.00 1.81 2.49 2.83 3.42 5.00 ─────────────────────────────────── 実施例で 0.00 0.11 0.21 0.26 0.38 0.63 の測定値 ─────────────────────────────────── (1)(2)(3) の単位はCal, (3)=(1)+(2)(4) 露地を1.00とした比, (5)=1/(4) 実験地: 横浜市保土ヶ谷区
【0030】比較のために、試料フィルムが無く保温性能評価Hが得られない栽培地での放熱を基準として選び、その逆数を保温性能評価Hに対応する保温効果として表したものと、第一ないし第四の実施例とを適用した場合の測定値を図5のグラフに示す。図5に示すように両者は良好な直線関係にあり、第一ないし第四の実施例が正常に保温性能を表していることを証明している。
【0031】なお、第一ないし第三の実施例では、空洞黒体(14,24,32)が低温、また、放射計(10,19,30)を高温としたが、空洞黒体(14,24,32)の放射に対する試料フィルム(11,17,35)の挙動は可逆的であるため空洞黒体(14,24,32)と放射計(10,19,30)の温度条件が逆転しても第一ないし第三の実施例の測定が成り立つ。また、放射計(10,19,30)を室温の20℃、空洞黒体を40℃としても測定には差し支えなかった。この場合は高温の空洞黒体(14,24,32)の開口部を上方に向けると、対流によって空洞黒体(14,24,32)自体の冷却と試料フィルム(11,17,35)の温度上昇が生ずるので、両者の上下位置関係を逆さまにする必要があった。
【0032】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のフィルム保温性能測定方法は、空洞黒体、放射計、試料フィルム、シャッタの温度の安定後にシャッタを閉じて試料フィルムを配置し、放射計の出力が安定した後に放射量を読み取った第一の読取り値と、シャッタを開き試料フィルムを透過する放射量を読み取った第二の読取り値と、試料フィルムを取り去り空洞黒体からの放射量を読み取った第三の読取り値とから試料フィルムの保温性能の評価を得るようにしているため、気象状態を正確に模擬して放射による冷却のみが純粋、かつ、容易に測定でき、フィルムの保温性能が正確に評価できるという効果を有する。これにより、ビニールハウス栽培地に適した高保温性フィルムの開発が容易になるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフィルム保温性能測定方法の実施に用いる第一の装置例の構成を示すブロック図である。
【図2】第二の装置例における構成を示すブロック図である。
【図3】第三の実施例における構成を示すブロック図である。
【図4】第四の実施例における構成を示すブロック図である。
【図5】実施例の説明に供され、測定値を示す図である。
【図6】従来例の加熱物体冷却速度測定方法に係る構成を示すブロック図である。
【図7】従来例の赤外線吸収スペクトル方法の説明に供され、透過率対波長を示す特性図である。
【符号の説明】
10,19,30 放射計
11,17,35 試料フィルム
12,18,36 シャッタ
13 デューア瓶
14,24,32 空洞黒体
20,21 温度センサ
22 減算部
23 差温度設定部
25,33 電子冷却器
26 温度制御部
31 電子冷却調節部
34 放射量設定部
37 センサ
43 関数発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 黒体の開口部と放射計との間に試料フィルム、シャッタを配置し、透過放射量を読み取って上記試料フィルムの保温性能の評価を行うためのフィルム保温性能測定方法にあって、上記黒体、放射計、試料フィルム及びシャッタの温度の安定を確認し、かつ上記シャッタを閉じて上記試料フィルムを配置し、上記放射計の出力が安定した後の放射量を読み取り、この読取り値を第一の読取り値とし、次いで、上記シャッタを開き、上記試料フィルムを透過する放射量を読み取り、この読取り値を第二の読取り値とし、さらに、上記試料フィルムを取り除いて上記空洞黒体からの放射量を読み取り、この読取り値を第三の読取り値とし、上記第一ないし第三の読取り値にもとづいて試料フィルムの保温性能を評価することを特徴としたフィルム保温性能測定方法。
【請求項2】 第一の読取り値が実質的に0を示し、第三の読取り値が一定の値を示す際に、所望の第二の保温性能評価を1−(第二の読取り値/第三の読取り値)で表すことを特徴とする請求項1記載のフィルム保温性能測定方法。
【請求項3】 第一の読取り値を1とし、シャッタが開きかつ試料フィルムが無配置の場合の読取り値を0とする逆数の目盛りを形成し、この目盛り上における試料フィルムを透過する放射量の読取り値によって、直接保温性能の評価を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のフィルム保温性能測定方法。
【請求項4】 黒体を空洞黒体とし、その空洞黒体の開口部を上空に向けて透過放射量を測定することを特徴とする請求項1,2又は3記載のフィルム保温性能測定方法。
【請求項5】 空洞黒体を低温、かつ放射計を空洞黒体より高温度に設定して、透過放射量を測定することを特徴とする請求項1,2,3又は4記載のフィルム保温性能測定方法。
【請求項6】 試料フィルムと放射計を実質的に等温度の状態にして、透過放射量を測定することを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載のフィルム保温性能測定方法。
【請求項7】 試料フィルムと放射計を室温の状態にして、透過放射量を測定することを特徴とする請求項4記載のフィルム保温性能測定方法。
【請求項8】 空洞黒体の温度を、放射計の温度に対して一定の温度差を得るように自動制御することを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6又は7記載のフィルム保温性能測定方法。
【請求項9】 放射計の測定値を一定値に自動制御することを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載のフィルム保温性能測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−11438
【公開日】平成6年(1994)1月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−189843
【出願日】平成4年(1992)6月24日
【出願人】(390001856)