説明

フィルム被覆超電導線およびその製造方法ならびにこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイル

【課題】超電導線を高分子フィルムで被覆することにより、隣接超電導線間の電気絶縁性を向上させることができ、隣接超電導線間距離を大幅に短縮した小型のコイルを容易に作製することができるフィルム被覆超電導線およびその製造方法ならびにこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルを提供する。
【解決手段】超電導コイル20は、一枚のフィルム被覆超電導線10を折り重ねたものを巻回することにより構成されたものである。フィルム被覆超電導線10は、テープ状の超電導線と、この超電導線よりも広い幅を持つ二枚の高分子フィルムとから構成される。
超電導線は、超電導線の厚さ方向の両側から、この超電導線よりも広い幅を持つ二枚の高分子フィルムによりそれぞれ長手方向に平行に最も広い面どうしを重ね合わせて挟まれる。超電導線および二枚の高分子フィルムは、融着または接着されることにより一体的に成形され、一枚のフィルム被覆超電導線10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線を高分子フィルムで被覆したフィルム被覆超電導線およびその製造方法ならびにこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧が発生する超電導コイルでは、隣接する超電導線間の短絡を防ぐため隣接する超電導線間を電気絶縁する必要がある。また、複数の単層超電導コイルを同心円状に設置した多層コイルでは、さらに、層間を電気絶縁する必要がある。
【0003】
この多層コイルとして、たとえば、交流電路に組み込まれる超電導変圧器や、短絡や地絡などの事故などによる過大な電流を抑制するための超電導コイルを用いた抵抗型限流器などが挙げられる。
【0004】
この超電導コイルを用いた抵抗型限流器は、超電導線の常電導転移を利用したものであり、通常時には低インピーダンスであり損失(電圧降下)は非常に小さいが、臨界電流を越える過大な電流が超電導線に通電されると超電導線が常電導転移して高インピーダンスとなり、過大電流を速やかに抑制することができるようになっている。この抵抗型限流器に用いられる超電導コイルは、一般に、通常運転時の損失を小さくするために、無誘導コイルを構成することが多い。ここで、無誘導コイルとは、単層コイルを同心円状に配置した多層コイルであって、各層毎に通電方向が逆になるように巻線することにより各層の誘導磁場が互いに打ち消し合うように構成されたコイルであり、層間は電気絶縁のために空間を空けて配置される。
【0005】
従来、この種の超電導コイルに、特開2002−280213号公報(特許文献1)に開示された超電導コイル装置がある。
【0006】
この超電導コイル装置は、超電導線材を、少なくとも3個以上の同心状に配置された円筒形状巻枠の軸方向外周面にターン間に所要の絶縁距離を設けて螺旋状に重層することなく巻回することにより、多層コイルを構成している。
【0007】
この超電導コイル装置は、ターン間に絶縁距離を設け重層することなく巻線しているため、隣接する超電導線間の電気絶縁性能を確保できるようになっている。また、単層コイルを同心円状に空間を空けて配置することで層間の絶縁距離を確保することにより、層間を電気絶縁することができるようになっている。
【特許文献1】特開2002−280213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の超電導コイルでは、ターン間に絶縁距離を設け重層することなく巻線するとともに、多層コイルの層間の絶縁距離を確保するために、各コイルを同心円状に空間を空けて配置している。このため、超電導装置として必要なインピーダンスを確保するためには、コイルが大型化してしまう。
【0009】
また、抵抗型限流器に用いられる超電導コイルでは、通常運転時のインピーダンスを小さくするために多層からなる無誘導コイルが構成されているが、所要のターン間絶縁距離および層間絶縁距離を設けられているため、漏れ磁束によるインダクタンスが残ってしまう。
【0010】
抵抗型限流器に用いられる超電導コイルには、液体ヘリウムや液体窒素などの液化ガスに浸漬して冷却されるものがある。この冷媒として用いられる液化ガスは、超電導線の交流損失などにより気化する可能性がある。この気化により発生したガスは、液体状態に比べて電気絶縁性能に劣る。このため、このガスは超電導線間を橋絡するおそれがある。したがって、液化ガスを用いる超電導コイルの場合、このガスによる超電導線間の橋絡を防止するために、あらかじめ余裕を持ってターン間距離および層間距離を確保しておく必要があり、更に大型化してしまう。
【0011】
また、この冷媒の気化による弊害を防止するために、冷媒温度を沸点以下に保つ必要が生じる。このため、冷凍機などの付帯設備が必要となり、通常運転時に付帯設備の損失が発生する。
【0012】
コイルの小型化のためにターン間の絶縁距離を短くするためには、隣接超電導線間の電気絶縁特性を向上させる必要がある。この方法として、たとえば超電導線の先端部などの角部を曲面に加工することが考えられる。しかし、酸化物超電導線で用いられるような厚さが約1mm以下のテープ状超電導線では曲率加工が困難であり、またその効果も小さい。
【0013】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、超電導線を高分子フィルムで被覆することにより、隣接超電導線間の電気絶縁性を向上させることができ、隣接超電導線間距離を大幅に短縮した小型のコイルを容易に作製することができるフィルム被覆超電導線およびその製造方法ならびにこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るフィルム被覆超電導線は、上述した課題を解決するために、テープ状の超電導線と、この超電導線にその長手方向に重ね合わせられ、上記超電導線よりも広い幅を持つ絶縁性高分子フィルムと、を有することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明に係るフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルは、上述した課題を解決するために、テープ状の超電導線とこの超電導線よりも広い幅を持つ絶縁性高分子フィルムとを長手方向に沿って重ね合わせたフィルム被覆超電導線を長手方向の所要位置で幅方向に沿って折り返して重ねたものを、コイル状あるいは渦巻状に巻回してなることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明に係るフィルム被覆超電導線の製造方法は、上述した課題を解決するために、超電導線とこの超電導線よりも広い幅をもつ絶縁性高分子フィルムとを長手方向に沿って重ねるステップと、前記超電導線と前記絶縁性高分子フィルムを加熱するステップと、前記超電導線と前記絶縁性高分子フィルムを圧縮して互いを融着するステップと、を有することを特徴とする方法である。
【0017】
また、本発明に係るフィルム被覆超電導線の製造方法は、上述した課題を解決するために、超電導線を加熱するステップと、前記加熱後に前記超電導線とこの超電導線よりも広い幅をもつ絶縁性高分子フィルムとを長手方向に沿って重ねるステップと、前記超電導線と前記高分子フィルムを圧縮して互いを融着するステップと、を有することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフィルム被覆超電導線およびその製造方法ならびにこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルによれば、超電導線を高分子フィルムで被覆することにより、隣接超電導線間の電気絶縁性を向上させることができ、隣接超電導線間距離を大幅に短縮した小型のコイルを容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係るフィルム被覆超電導線およびその製造方法ならびにこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明に係るフィルム被覆超電導線およびこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルの第1実施形態を模式的に示す平面図である。
【0021】
図1に示すように、この超電導コイル20は、一枚のフィルム被覆超電導線10を二つ折りして折り返し、折り重ねたものを渦巻状(あるいはコイル状)に巻回することにより構成される。
【0022】
図2(a)に示すように、フィルム被覆超電導線10は、テープ状の超電導線11と、この超電導線11よりも広い幅を持つ二枚の高い絶縁性を有する高分子フィルム12とから構成される。なお、本明細書では、テープ状の六面体において、最も長い辺の方向を長手方向、長手方向に直交する平面による六面体の断面における短い辺の方向を厚さ方向およびこの断面におけるもう一方の辺の方向を幅方向と呼ぶ。
【0023】
超電導線11は、超電導線11の厚さ方向の両側から、この超電導線11よりも広い幅を持つ二枚の高分子フィルム12によりそれぞれ長手方向に平行に最も広い面どうしを重ね合わせて挟まれる。超電導線11および二枚の高分子フィルム12は、図2(b)に示すように、固着界面13において融着または接着されることにより一体的に成形され、一枚のフィルム被覆超電導線10を構成する。
【0024】
図3は、本発明に係るフィルム被覆超電導線10の製造方法の一例を概略的に示す説明図である。
【0025】
フィルム被覆超電導線10の製造方法(以下、製造方法1という)は、図3に示すように、ヒータなどの熱源21aを有する加熱炉21により、三枚合わせされた超電導線11および二枚の高分子フィルム12を同時に加熱してから融着させる方法である。
【0026】
この製造方法1では、まず、最も広い面どうしが重ね合わさるように、超電導線11を中にして二枚の高分子フィルム12により長手方向に沿って両側から挟んだ位置におく(図2(a)参照)。次に、この超電導線11および二枚の高分子フィルム12を、加熱炉21において同時に加熱する。このとき、互いの位置関係が乱れないようにガイドローラ23などを用いるとよい。次に、圧縮ローラ22により二枚の高分子フィルム12の外側から圧縮することによって、超電導線11および二枚の高分子フィルム12を固着界面13において融着させる(図2(b)参照)。
【0027】
以上の手順によって、超電導線11および二枚の高分子フィルム12は一体的に成形され、一枚のフィルム被覆超電導線10を得ることができる。
【0028】
このフィルム被覆超電導線10の製造方法1は、超電導線11および二枚の高分子フィルム12を同時に加熱した後に圧縮する方法である。このため、超電導線11と高分子フィルム12および高分子フィルム12どうしを固着界面13において強固に融着することができる。また、圧縮することにより、固着界面13における空隙などの欠陥の発生を防ぐことができる。したがって、製造方法1によれば、フィルム被覆超電導線10は高い電気絶縁特性を持つことができる。
【0029】
図4は、本発明に係るフィルム被覆超電導線10の製造方法の他の一例を概略的に示す説明図である。
【0030】
図4に示すフィルム被覆超電導線10の製造方法(以下、製造方法2という)では、超電導線11のみを加熱炉21により加熱してから超電導線11と二枚の高分子フィルム12を両側から重ね合わせて融着させる方法である。
【0031】
まず、超電導線11のみを加熱炉21で加熱する。次に、超電導線11が二枚の高分子フィルム12により長手方向に平行に最も広い面どうしを重ね合わせて挟まれるように添わせる(重ね合わせる)(図2(a)参照)。次に、圧縮ローラ22により二枚の高分子フィルム12の外側から圧縮することによって、超電導線11および二枚の高分子フィルム12を固着界面13において融着させる(図2(b)参照)。
【0032】
以上の手順によっても、超電導線11および二枚の高分子フィルム12は一体的に成形され、一枚のフィルム被覆超電導線10を得ることができる。
【0033】
この製造方法2は、超電導線11のみを加熱した後に超電導線11および二枚の高分子フィルム12を圧縮する方法である。高分子フィルム12のうち、加熱された超電導線11と接触する部分のみが溶融または軟化する。このため、高分子フィルム12のうち、超電導線11と接触する部分のみが局所的に変形し、超電導線11と強固に融着される。したがって、高分子フィルム12のうち、超電導線11と非接触の部分はほとんど変形しないため、融着時の変形による高分子フィルム12の電気絶縁特性の低下を抑えることができる。
【0034】
なお、製造方法1および製造方法2において、二枚の高分子フィルム12で超電導線11を挟むかわりに、1枚の高分子フィルム12を長手方向に沿って二つ折りに折りたたみ、その間に超電導線11を長手方向に挟みこむようにしてもよいし、中空のチューブ状の高分子フィルム12の内側に超電導線11を挿入してよい。
【0035】
また、二枚の高分子フィルム12で超電導線11を両側から挟んだもの所要の位置で幅方向に沿って折り返して折り重ねた後に、製造方法1によって加熱し圧縮してもよい。折り重ねた後に加熱し圧縮する場合、折り重ねの内側にできる高分子フィルム12どうしの界面を融着させることにより固着界面13とすることができる。したがって、さらに空隙などの欠陥の発生を防ぐことができ、フィルム被覆超電導線10はより高い電気絶縁特性を持つことができる。
【0036】
図5は、フィルム被覆超電導線10を、長手方向に垂直かつ幅方向に平行な直線に沿って折り返して重ねた様子を示す概略的な斜視図である。
【0037】
この折り重ねたフィルム被覆超電導線10を、折り返し部が内側に来るように密接して巻回することにより、図1に示す超電導コイル20を構成することができる。
【0038】
次に、本発明に係るフィルム被覆超電導線10およびこのフィルム被覆超電導線10を用いた超電導コイル20の作用について説明する。
【0039】
図6は、図1に示す超電導コイル20のII−II線に沿う平面において切断した縦断面図である。
【0040】
超電導コイル20は、折り重ねたフィルム被覆超電導線10を渦巻状(またはコイル状)に巻回して構成されている。このため、界面は、図6に示すように、最外層から内側に向かって、固着界面13、折り返しの内側どうしの界面である内側接触界面14、固着界面13、折り返しの外側どうしの界面である外側接触界面15の順に現れ、これを繰り返す。したがって、隣接する超電導線11の間には、常に高分子フィルム12が存在することになる。
【0041】
なお、二枚の高分子フィルム12で超電導線11を挟んだものを折り重ねた後に、製造方法1によって加熱し圧縮した場合、図6に示す界面のうち、折り返しの内側どうしの界面である内側接触界面14は、高分子フィルム12どうしの固着界面13となる。
【0042】
図6において、たとえば紙面最右(超電導コイル20の最外層)の超電導線11から紙面奥へ電流を流す場合、この電流は、紙面左から3番目の超電導線11を紙面奥へ流れてフィルム被覆超電導線10の折り返し部に到達して戻り、紙面右から4番目の超電導線11を紙面手前方向へ流れたのち紙面右から2番目の超電導線11から紙面手前方向へと流れる。
【0043】
本実施形態に係るフィルム被覆超電導線10を用いた超電導コイル20は、隣接する超電導線11の間(ターン間)に、常に二枚の絶縁性の高分子フィルム12が存在する。この高分子フィルム12は、超電導線11とともに重層し、または巻回してコイル形状としても、電気絶縁性能の低下がほとんどない。このため、隣接する超電導線11の間は、この高分子フィルム12によって、安定した電気絶縁性能が確保される。
【0044】
したがって、超電導コイル20の通常運転時において、超電導線11が常電導転移することなどにより、隣接する超電導線11どうしの間に電位差が生じた場合でも、隣接する超電導線11どうしが短絡することがない。したがって、このフィルム被覆超電導線10を用いた超電導コイル20によれば、フィルム被覆超電導線10どうしを密接して巻線することができ、隣接超電導線間距離を大幅に短縮した小型の多層コイルを容易に作製することができる。
【0045】
また、隣り合う超電導線11には逆方向の電流が流れるため、互いに誘導磁場を打ち消し合う。このため、超電導コイル20は無誘導コイルを構成する。フィルム被覆超電導線10は密接して巻回されているため、その磁気結合は大きく、超電導コイル20は、インダクタンスが極めて小さなコイルとすることができる。
【0046】
なお、フィルム被覆超電導線10において、固着界面13が電気絶縁的な弱点部になるが、本実施形態で示したように、超電導線11よりも広い幅を持つ高分子フィルム12を用いることにより、隣接超電導線11の間の電位差に対して十分な電気絶縁性を保つことができる。
【0047】
一般に、超電導コイルを液体ヘリウムや液体窒素などの液体冷媒に浸漬する場合、超電導線が常電導転移してジュール発熱し冷媒が蒸発すると、超電導線の周囲に熱伝導率が低く比熱の小さな気体の膜が形成されるために、超電導線の温度が上昇してしまう。
【0048】
本実施形態に係る超電導コイル20を構成するフィルム被覆超電導線10は、超電導線11を高分子フィルム12により被覆している。このため、超電導コイル20を液体冷媒に浸漬する場合、この冷媒は高分子フィルム12を介して超電導線11を冷却する。したがって、超電導線11が常電導転移しジュール発熱しても、超電導線11の周囲には気体に比べて比熱の大きな高分子フィルム12が配置されているため、超電導線11の温度上昇を抑制することができる。
【0049】
次に、図7に図1に示すフィルム被覆超電導線10の第1変形例を示す。
【0050】
図7においては、このフィルム被覆超電導線10は、テープ状の超電導線11の外側に導電性高分子フィルム16を巻回して設け、その両側に高分子フィルム12を製造方法1または製造方法2によって融着や接着するなどして構成している。
【0051】
図7に示す実施形態の構成によれば、超電導線11の外側に巻回した導電性高分子フィルム16外周面の曲率半径は超電導線11の端部の曲率半径よりも大きくなるため、超電導線11の端部の角部への電界集中を抑制することができ、電気絶縁特性を向上することができる。
【0052】
このフィルム被覆超電導線10を第1実施形態のフィルム被覆超電導線10として用いても、同様の作用効果を得ることができる。
【0053】
なお、導電性高分子フィルム16は、1枚の導電性高分子フィルム16を長手方向に沿って二つ折りに折りたたみ、その間に超電導線11を長手方向に挟みこむようにしてもよいし、中空のチューブ状の導電性高分子フィルム16内に超電導線11を挿入したのちに、加熱し、圧縮することなどで平面状に成形して構成してもよい。
【0054】
次に、図8(b)に図1に示すフィルム被覆超電導線10の第2変形例を示す。
【0055】
図8(a)に示すように、フィルム被覆超電導線10は、高分子フィルム12よりも融点の低い低融点高分子フィルム17を有する。この低融点高分子フィルム17は高分子フィルム12と超電導線11の間に挿入される。
【0056】
図8(b)に示す実施形態の構成によれば、製造方法1または製造方法2などによりに融着や接着するなどする場合、低融点高分子フィルム17の溶融を利用することで、高分子フィルム12は変化させずに超電導線11と高分子フィルム12を、融着することができるため、高い電気絶縁性能を確保することができる。
【0057】
たとえば、低融点高分子フィルム17としてたとえば低密度ポリエチレン(融点120℃)を用いる場合、この低融点高分子フィルム17の外側に位置する高分子フィルム12には低密度ポリエチレンよりも高融点の材料、たとえばポリエチレンテレフタラート(PET)(融点258℃)を用いるとよい。この場合、製造方法1または製造方法2を適用するにあたり、加熱温度をたとえば130℃に設定すれば、低融点高分子フィルム17のみが融解し、外側の高分子フィルム12はほとんど変形しない。したがって、低融点高分子フィルム17を用いることにより、高分子フィルム12の電気絶縁性能は損なわれず、高い電気絶縁性能を有するフィルム被覆超電導線10を得ることができる。
【0058】
このフィルム被覆超電導線10を第1実施形態のフィルム被覆超電導線10として用いても、同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
図9は、本発明に係るフィルム被覆超電導線およびこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルの第2実施形態を模式的に示す平面図である。
【0060】
この実施形態を説明するにあたり、図1に示された超電導コイル20と同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0061】
この実施形態に示された超電導コイル20Aは、一枚のフィルム被覆超電導線10Aを折り重ねたものを渦巻状またはコイル状に巻回することにより構成される。
【0062】
図10(a)に示すように、フィルム被覆超電導線10Aは、テープ状の超電導線11と、この超電導線11よりも広い幅を持つ一枚の高分子フィルム12とから構成される。
【0063】
超電導線11は、厚さ方向の片側において、この超電導線11よりも広い幅を持つ一枚の高分子フィルム12と最も広い面どうしを重ね合わせ、図10(b)に示すように、固着界面13において融着または接着されることにより一体的に成形され、一枚のフィルム被覆超電導線10Aを構成する。
【0064】
なお、このフィルム被覆超電導線10Aの製造には、製造方法1または製造方法2のいずれを用いてもよい。いずれの製造方法によっても、高分子フィルム12は超電導線11と接触する部分のみが局所的に変形し、固着界面13において超電導線11と強固に融着される。
【0065】
このフィルム被覆超電導線10Aを折り重ねて巻回して超電導コイル20Aを構成するにあたり、超電導線11どうしの接触短絡を防ぐ必要がある。この接触短絡は、大きくわけて次の二通りの巻回方法により防ぐことができる。
【0066】
第一の巻回方法(以下、方法1という)は、超電導線11が内側に来るようにフィルム被覆超電導線10Aを折り重ねる場合の巻回方法である。
【0067】
超電導線11が内側に来るようにフィルム被覆超電導線10Aを折り重ねる場合、折り重ねの内側で超電導線11どうしが接触してしまう。この接触を防ぐために、図11(a)に示すように、折り重ねの内側に絶縁性の高分子フィルム12を挿入する。この高分子フィルム12を挿入したフィルム被覆超電導線10Aを巻回することにより、超電導線11どうしの接触を防ぐことができる。
【0068】
なお、この挿入する高分子フィルム12を二枚とした場合は、第1実施形態と同様に、隣接する超電導線11の間(ターン間)に、常に二枚の高分子フィルム12が存在することになる。
【0069】
第二の巻回方法(以下、方法2という)は、超電導線11が外側に来るようにフィルム被覆超電導線10Aを折り重ねる場合の巻回方法である。
【0070】
超電導線11が外側に来るようにフィルム被覆超電導線10Aを折り重ねる場合、この折り重ねたものを重層して巻回すると、ターン間で折り重ねの外側の超電導線11どうしが接触してしまう。この接触を防ぐために、図11(b)に示すように、折り重ねたフィルム被覆超電導線10Aのターンの内側となる側に高分子フィルム12を添えたものを巻回する。この結果、ターン間に高分子フィルム12を挿入しながら巻回することになり、超電導線11どうしの接触を防ぐことができる。
【0071】
なお、添える高分子フィルム12を二枚とした場合は、第1実施形態と同様に、隣接する超電導線11の間(ターン間)に、常に二枚の高分子フィルム12が存在することになる。
【0072】
この方法1または方法2でフィルム被覆超電導線10Aを巻回した超電導コイル20Aは、方法1で挿入したまたは方法2で添えられた高分子フィルム12と超電導線11との間にはわずかながら隙間が存在する。このため、超電導コイル20Aを液化ガスなどの液体冷媒で冷却する場合、この高分子フィルム12と超電導線11との隙間に冷媒が浸透するため、超電導線11の冷却特性が向上し、超電導状態の安定性を向上させることができる。
【0073】
なお、超電導コイル20Aにおいて、隣接するフィルム被覆超電導線10A間に発生する電圧に対しては高分子フィルム12の沿面絶縁となるが、超電導線11に比べて幅の広い高分子フィルム12を用いることにより、電気絶縁特性を確保することができる。
【0074】
なお、第1実施形態に示したフィルム被覆超電導線10の変形例1および変形例2をフィルム被覆超電導線10Aとして用いてもよい。このとき、フィルム被覆超電導線10を構成する二枚の高分子フィルム12のうち一方は不要であることに注意する。変形例1または変形例2の特有の効果を得ることができるとともに、第2実施形態に示した作用効果を得ることができる。
【0075】
図12は、本発明に係るフィルム被覆超電導線およびこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルの第3実施形態を模式的に示す平面図である。
【0076】
この実施形態を説明するにあたり、図1に示された超電導コイル20と同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0077】
図12に示すように、この実施形態に示された超電導コイル20Bは、フィルム被覆超電導線10Bを渦巻状あるいはコイル状に巻回して構成される。
【0078】
図13(a)に示すように、フィルム被覆超電導線10Bは、3枚のテープ状の超電導線11と、この超電導線11よりも広い幅を持つ四枚の高分子フィルム12とから構成される。このため、フィルム被覆超電導線10Bは、第1実施形態に示したフィルム被覆超電導線10三枚(三層)からなる集合体ということができる。また、フィルム被覆超電導線10Bは、第2実施形態に示したフィルム被覆超電導線10A(図10(b)参照)三枚(三層)からなる集合体において最外部となる超電導線11に高分子フィルム12を重ねたものということもできる。三枚の超電導線11と四枚の高分子フィルム12は、それぞれ長手方向に平行に最も広い面どうしで交互に重ね合わされる。このとき、最外部は高分子フィルム12となることに注意する。
【0079】
この3枚のテープ状の超電導線11と四枚の高分子フィルム12は、図13(b)に示すように、固着界面13において融着または接着されることにより一体的に成形され、三枚のフィルム被覆超電導線10からなる一枚のフィルム被覆超電導線10Bを構成する。
【0080】
このフィルム被覆超電導線10Bを製造する際には、超電導線11と高分子フィルム12を図13(a)に示すように交互に重ね合わせた後に、加熱し、圧縮して一体化する(以下、製造方法3という)。
【0081】
この製造方法3によれば、フィルム被覆超電導線10Bの全ての界面を融着させることにより固着界面13とすることができる。このため、フィルム被覆超電導線10Bをフィルム被覆超電導線10またはフィルム被覆超電導線10Aを三層重ねた集合体として考えた場合、各フィルム被覆超電導線10またはフィルム被覆超電導線10Aの界面に生じるギャップを極力抑えることができる。したがって、フィルム被覆超電導線10またはフィルム被覆超電導線10Aを三層重ねた集合体たるフィルム被覆超電導線10Bを、高い電気絶縁特性を有するものとすることができる。
【0082】
次に、本発明に係るフィルム被覆超電導線10またはフィルム被覆超電導線10Aを三層重ねた集合体たるフィルム被覆超電導線10Bおよびこのフィルム被覆超電導線10Bを用いた超電導コイル20Bの作用について説明する。
【0083】
図14は、図12に示す超電導コイル20BのII−II線に沿う平面において切断した縦断面図である。
【0084】
超電導コイル20Bは、フィルム被覆超電導線10またはフィルム被覆超電導線10Aを三層重ねた集合体たるフィルム被覆超電導線10Bを渦巻状あるいはコイル状に巻回して構成されている。このため、界面は、図14に示すように、最外層から内側に向かって、固着界面13が五面現れた後にフィルム被覆超電導線10Bどうしの接触界面18が現れ、これを繰り返す。したがって、隣接する超電導線11の間には、常に高分子フィルム12が存在することになる。
【0085】
図14において、超電導線11a、11bおよび11cにはそれぞれ120°位相がずれた電流を流すとよい。このことにより、お互いの誘導磁場を打ち消しあうことができる。超電導線11a、11bおよび11cは密接しているため、互いに磁気結合が強い。したがって、超電導コイル20Bは、きわめて小さなインピーダンスとすることができる。
【0086】
また、この超電導コイル20Bにおいて、単相または2相のみに超電導線の臨界電流を越えた事故電流が流れた場合、この事故電流が流れた超電導線が常電導状態に遷移して抵抗性のインピーダンスを発生する。このとき、同時に3相のバランスが崩れてしまうため、コイルに大きなインダクタンスが生じる。したがって、この超電導コイル20Bは、限流器として用いると、大きな限流効果を得ることができる。
【0087】
なお、第1実施形態に示したフィルム被覆超電導線10の変形例1および変形例2を三層重ねたものを利用してフィルム被覆超電導線10Bを構成してもよい。変形例1または変形例2の特有の効果を得ることができるとともに、第3実施形態に示した作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係るフィルム被覆超電導線およびこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルの第1実施形態を模式的に示す平面図。
【図2】(a)は図1に示すフィルム被覆超電導線の構成要素を示す概略的な斜視図、(b)は図1に示すフィルム被覆超電導線の断面を概略的に示す斜視図。
【図3】本発明に係るフィルム被覆超電導線の製造方法の一例を概略的に示す説明図。
【図4】本発明に係るフィルム被覆超電導線の製造方法の他の一例を概略的に示す説明図。
【図5】フィルム被覆超電導線を、長手方向に垂直かつ幅方向に平行な直線に沿って折り返して重ねた様子を示す概略的な斜視図。
【図6】図1のII−II線に沿う平面において切断した縦断面図。
【図7】図1に示すフィルム被覆超電導線10の第1変形例を示す縦断面図。
【図8】(a)は図1に示すフィルム被覆超電導線10の第2変形例の構成要素を示す概略的な縦断面図、(b)は図1に示すフィルム被覆超電導線10の第2変形例を概略的に示す縦断面図。
【図9】本発明に係るフィルム被覆超電導線およびこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルの第2実施形態を模式的に示す平面図。
【図10】(a)は図9に示すフィルム被覆超電導線の構成要素を示す概略的な縦断面図、(b)は図9に示すフィルム被覆超電導線を概略的に示す縦断面図。
【図11】(a)は第一の巻回方法を概略的に示す説明図、(b)は第二の巻回方法を概略的に示す説明図。
【図12】本発明に係るフィルム被覆超電導線およびこのフィルム被覆超電導線を用いた超電導コイルの第3実施形態を模式的に示す平面図。
【図13】(a)は図12に示すフィルム被覆超電導線の集合体の構成要素を示す概略的な縦断面図、(b)は図12に示すフィルム被覆超電導線の集合体を概略的に示す縦断面図。
【図14】図12のII−II線に沿う平面において切断した縦断面図。
【符号の説明】
【0089】
10、10A、10B フィルム被覆超電導線
11、11a、11b、11c 超電導線
12 高分子フィルム
13 固着界面
14 内側接触界面
15 外側接触界面
16 導電性高分子フィルム
17 高分子材料
18 接触界面
20、20A、20B 超電導コイル
21 加熱炉
21a 熱源
22 圧縮ローラ
23 ガイドローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の超電導線と、
この超電導線にその長手方向に重ね合わせられ、上記超電導線よりも広い幅を持つ絶縁性高分子フィルムと、
を有することを特徴とするフィルム被覆超電導線。
【請求項2】
前記絶縁性高分子フィルムは、超電導線を挟んで両側に配置されたものである請求項1記載のフィルム被覆超電導線。
【請求項3】
前記超電導線と前記絶縁性高分子フィルムは、長手方向に沿って互いに融着されたものである請求項1または2に記載のフィルム被覆超電導線。
【請求項4】
前記超電導線は、この超電導線の周囲を導電性を有する導電性高分子フィルムで囲まれたものであり、
前記絶縁性高分子フィルムは前記導電性高分子フィルムよりも広い幅を持つものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフィルム被覆超電導線。
【請求項5】
前記超電導線と前記絶縁性高分子フィルムの間にこの絶縁性高分子フィルムよりも低融点の高分子材料からなる低融点高分子フィルムを挿入して重ね合わせたものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフィルム被覆超電導線。
【請求項6】
テープ状の超電導線とこの超電導線よりも広い幅を持つ絶縁性高分子フィルムとを長手方向に沿って重ね合わせたフィルム被覆超電導線を長手方向の所要位置で幅方向に沿って折り返して重ねたものを、コイル状あるいは渦巻状に巻回してなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項7】
前記フィルム被覆超電導線は、請求項2ないし5のいずれか1項に記載のフィルム被覆超電導線である請求項6記載の超電導コイル。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のフィルム被覆超電導線を三層重ねてコイル状あるいは渦巻状に巻回したことを特徴とする超電導コイル。
【請求項9】
超電導線とこの超電導線よりも広い幅をもつ絶縁性高分子フィルムとを長手方向に沿って重ねるステップと、
前記超電導線と前記絶縁性高分子フィルムを加熱するステップと、
前記超電導線と前記絶縁性高分子フィルムを圧縮して互いを融着するステップと、
を有することを特徴とするフィルム被覆超電導線の製造方法。
【請求項10】
超電導線を加熱するステップと、
前記加熱後に前記超電導線とこの超電導線よりも広い幅をもつ絶縁性高分子フィルムとを長手方向に沿って重ねるステップと、
前記超電導線と前記高分子フィルムを圧縮して互いを融着するステップと、
を有することを特徴とするフィルム被覆超電導線の製造方法。
【請求項11】
前記超電導線と前記高分子フィルムとを長手方向に沿って重ねるステップは、複数の前記超電導線と複数の前記高分子フィルムを交互に長手方向に沿って重ねるステップである請求項9記載のフィルム被覆超電導線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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