説明

フィロウイルスまたはアレナウイルス感染の暴露前または暴露後の治療法

ここで記載された発明の組成物および方法は、送達媒体(例えば、組換えウイルスベクターまたはリポソーム)で、フィロウイルス、またはアレナウイルスからの一種以上の遺伝子(例えば、2種以上の遺伝子)を発現させることによる、フィロウイルスおよびアレナウイルス感染に対する暴露前または暴露後の治療法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
背景技術
フィロウイルス、特にザイールエボラウイルス(ZEBOV)、スーダンエボラウイルス、またはマールブルグウイルス(MARV)による感染症は、多くが致死性である重度の出血熱(HF)をヒトおよび非ヒト霊長類において引き起こす。中央アフリカで1976年以降にヒトで生じ、感染者1800人以上で死亡率53%〜90%におよんだ散発的発症に加えて、エボラウイルス(EBOV)はこの同地域で野生猿の数も激減させてきた。このときには、ヒト用の予防ワクチンまたは暴露後治療法オプションがない。これらの高度毒性ウイルスについては今なお多くの知見が蓄積されつつある。しかしながら、フィロウイルスがどのように発病させるのかを理解して、非ヒト霊長類に防御性のある予防ワクチンを開発する上で、この10年で重要な前進があった。これらウイルスの将来の発生に対応して、生物テロ行為に対抗するには、フィロウイルス特異的暴露後の戦略を明らかにする、差し迫った必要性がなお残されている。
【発明の概要】
【0002】
ここで記載された発明の組成物および方法は、送達媒体(例えば、組換えウイルスベクターまたはリポソーム)による、一種以上のフィロウイルスまたはアレナウイルスからの各々一種以上の遺伝子(例えば、二種以上の遺伝子)を発現させることによる、フィロウイルスおよびアレナウイルス感染に対する暴露前および/または暴露後の治療法を提供する。一つの態様において、本発明の医薬組成物は、エボラウイルスのザイール種(ZEBOV)(例えば、Mayinga株,GenBank No.AAN37507)、エボラウイルスのスーダン種(SEBOV)(例えば、Gulu株,GenBank No.AY316199、Boniface株,GenBank No.U28134、またはMaleo株,GenBank No.U23069)、マールブルグウイルス(MARV)(例えば、Musoke株,GenBank No.YP 001531156)またはラッサウイルス(例えば、Josiah株,GenBank No.NP 694870)からの少なくとも一種以上の遺伝子(例えば、糖タンパク質遺伝子)を含んだ組換えウイルスベクターを含有している。もう一つの態様において、送達媒体は、エボラウイルスのザイール種(ZEBOV)(例えば、Mayinga株,GenBank No.AAN37507)、エボラウイルスのスーダン種(SEBOV)(例えば、Gulu株,GenBank No.AY316199、Boniface株,GenBank No.U28134、またはMaleo株,GenBank No.U23069)、マールブルグウイルス(MARV)(例えば、Musoke株,GenBank No.YP 001531156)、またはラッサウイルス(例えば、Josiah株,GenBank No.NP 694870)からの少なくとも一種のポリペプチド(例えば、エボラウイルス糖タンパク質)を含有している。医薬組成物は、薬学上許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはアジュバントを更に含有してもよい。一つの態様において、ウイルスベクターは、例えばエボラウイルス糖タンパク質の、全部または一部を含有またはコードした組換え水疱性口内炎ウイルス(rVSV)ベクターである。該医薬組成物は、例えばワクチンでもよい。該ワクチンは、例えばフィロウイルスまたはアレナウイルス(例えば、ZEBOV、SEBOV、ICEBOV、MARV、またはラッサウイルス)による感染を抑制しうる。該医薬組成物は、フィロウイルスまたはアレナウイルス感染(例えば、ZEBOV、SEBOV、ICEBOV、MARV、またはラッサウイルスによる感染)に伴う諸症状(例えば、発熱、出血熱、重度の頭痛、筋肉痛、不調、極度の虚弱、結膜炎、一般的発疹、嚥下障害、悪心、嘔吐、出血性下痢に続く散在性出血、せん妄、ショック、黄疸、血小板減少、リンパ球減少、好中球増加、様々な臓器(例えば、腎臓および肝臓)における巣状壊死、および急性呼吸困難)も軽減しうる。ここで記載された医薬組成物は、フィロウイルスまたはアレナウイルス(例えば、ZEBOV、SEBOV、ICEBOV、MARV、またはラッサウイルス)に感染した、暴露された、またはそれへの暴露のリスクがある対象へ投与される。該組成物は、例えば、1×10〜1×10pfuのウイルスベクター、好ましくは1×10〜1×10pfu、更に好ましくは1×10〜1×10pfu、最も好ましくは1×10〜1×10pfuを含有している。該組成物は、例えば、少なくとも1×10pfuのウイルスベクター(例えば、1×10pfuのウイルスベクター)を含有している。該組成物は、例えば2回以上で、対象へ投与してもよい。
【0003】
もう一つの態様において、本発明は、感染症を治療するための十分な量により、フィロウイルスまたはアレナウイルス(例えば、ZEBOV、SEBOV、ICEBOV、MARV、またはラッサウイルス)からの少なくとも一種の遺伝子(例えば、糖タンパク質遺伝子)をコードした送達媒体(例えば、組換えウイルスベクター)を対象へ投与することにより、対象でフィロウイルスまたはアレナウイルス感染症を抑制または治療する方法に関する。治療される対象はフィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染を有さなくてもよく、罹患するリスクがあればよい。一方、対象はフィロウイルスまたはアレナウイルスへ既に感染していてもよい。治療される対象は、例えばヒトである。該組成物は、例えば注射(例えば、筋肉内、動脈内、脈管内、静脈内、腹腔内、または皮下注射)により投与される。本方法の組成物は、例えば、1×10〜1×10pfuのウイルスベクター、好ましくは1×10〜1×10pfu、更に好ましくは1×10〜1×10pfu、最も好ましくは1×10〜1×10pfuを含有している。該組成物は、例えば、少なくとも1×10pfuのウイルスベクター(例えば、1×10pfuのウイルスベクター)を含有している。本方法では、例えば、該組成物を対象へ2回以上投与する。
【0004】
本発明は、感染症を治療するために十分な量で、フィロウイルスまたはアレナウイルス(例えば、ZEBOV、SEBOV、ICEBOV、MARV、またはラッサウイルス)からの少なくとも一種の遺伝子(例えば、糖タンパク質遺伝子)をコードした組換えウイルスベクターを対象へ投与することにより、対象でフィロウイルスまたはアレナウイルスに対する免疫応答を誘導させる方法にも関する。治療される対象はフィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染を有さなくてもよく、罹患するリスクがあればよい。一方、対象はフィロウイルスまたはアレナウイルスへ既に感染していてもよい。治療される対象は、例えばヒトである。該組成物は、例えば注射(例えば、筋肉内、動脈内、脈管内、静脈内、腹腔内、または皮下注射)により投与される。本方法の組成物は、例えば、1×10〜1×10pfuのウイルスベクター、好ましくは1×10〜1×10pfu、更に好ましくは1×10〜1×10pfu、最も好ましくは1×10〜1×10pfuを含有している。該組成物は、例えば、少なくとも1×10pfuのウイルスベクター(例えば、1×10pfuのウイルスベクター)を含有している。本方法では、例えば、該組成物を対象へ2回以上投与する。
【0005】
ここで用いられているように、“投与する”とは、適量の医薬組成物を対象へ与える方法を意味する。ここで記載された方法で利用される組成物は、例えば、非経口、皮膚、経皮、眼、吸入、口腔、舌下、舌周辺、鼻、直腸、局所投与、および経口投与から選択される経路により投与しうる。非経口投与としては、静脈内、腹腔内、皮下、および筋肉内投与がある。投与の好ましい方法は、様々な要素(例えば、投与される組成物の成分および治療される状態の重篤度)に応じて変化する。
【0006】
“治療するために十分な量”とは、対象の状態または障害の症状を臨床的に改善、抑制、または軽減する(例えば、フィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染、または感染後に生じる一以上の症状を改善、抑制、または軽減する)ために投与される組成物の量を意味する。対象におけるどのような改善でも、治療を行う上では十分とみなされる。好ましくは、治療するために十分な量とは、(例えば、本発明の組成物で治療されなかったコントロール対象と比較して、少なくとも10%、20%、または30%、更に好ましくは少なくとも50%、60%、または70%、最も好ましくは少なくとも80%、90%、95%、99%、またはそれ以上)フィロウイルスまたはアレナウイルス感染症の発生または1以上の症状を抑える量、あるいは感染症の一以上の症状の重篤度または対象がそれに罹患している期間を短かくする量である。ここで記載された方法(例えば、本発明の治療法)を実施するために用いられる医薬組成物の十分な量は、投与の方式と治療される対象の年齢、体重、および一般健康度に応じて変化する。医師または研究者であれば、適切な量および投薬法を決定することができる。
【0007】
ここで用いられているように、“遺伝子”という用語は、特定の生物学的活性を有する核酸またはタンパク質産物を直接的または間接的にコードしている核酸分子に関する。
【0008】
“糖タンパク質”とは、例えばフィロウイルスまたはアレナウイルス(例えば、ZEBOV、SEBOV、ICEBOV、MARV、またはラッサウイルス)に対して、対象に防御または治療効果を呈する免疫応答を誘導または増強しうる能力をそれが有しているかぎり、ZEBOV、SEBOV、MARV、またはラッサウイルスゲノムによりコードされる、分泌または貫膜結合型の糖タンパク質ポリペプチド、あるいは該糖タンパク質ポリペプチドのあらゆる断片または変異体を意味する。該糖タンパク質には、少なくとも20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、または70連続残基にわたりZEBOV、SEBOV、MARV、またはラッサウイルス糖タンパク質と実質的に同一(例えば、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または更には100%同一)である、あらゆるポリペプチドも含められる。
【0009】
“免疫応答を誘導する”とは、医薬組成物(例えば、ワクチン)が投与された対象において、ウイルスに対する体液性応答(例えば、抗体の産生)または細胞性応答(例えば、T細胞の活性化)を誘発させることを意味する。
【0010】
“医薬組成物”とは、少なくとも一種の治療または生物学的活性体(例えば、ウイルスベクターへ組み込まれたまたはウイルスベクターとは独立した、フィロウイルスまたはアレナウイルスゲノムのまたはそれに対応した、全部または一部における、少なくとも一種の核酸分子またはタンパク質産物)を含有して、対象への投与に適した、あらゆる組成物を意味する。本発明の目的にとり、治療または生物学的活性体を送達するために適した医薬組成物としては、例えば、錠剤、ゲルキャップ、カプセル、ピル、粉末、顆粒、懸濁液、乳濁液、溶液、ゲル、ヒドロゲル、オーラルゲル、ペースト、点眼剤、軟膏、クリーム、膏薬、水薬、送達デバイス、坐剤、浣腸剤、注射剤、インプラント、スプレー、またはエアロゾルがある。これらいずれの処方剤も周知の容認された技法で製造しうる。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(21st ed.),ed.A.R.Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins,2005およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technology,ed.J.Swarbrick,Informa Healthcare,2006参照、その各々を引用することにより本発明の開示の範囲とされる。
【0011】
“薬学上許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはアジュバント”とは、対象に生理学上許容されながら、それが投与される医薬組成物の治療特性を保持した、希釈剤、賦形剤、担体、またはアジュバントを意味する。一つの例示の薬学上許容される担体は生理的食塩水である。他の生理学上許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはアジュバントとそれらの処方剤は当業者に知られている。
【0012】
ウイルスベクターに関する“組換え体”とは、例えばウイルスゲノムへ変化を導入するために(例えば、異種ウイルス核酸配列を含有させるために)組換え核酸技術を用いて、インビトロで操作されたベクター(例えば、一種以上の送達媒体(例えば、プラスミド、コスミドなど)へ組み込まれたウイルスゲノム)を意味する。本発明の組換えウイルスベクターの例は、VSVゲノムの全部または一部を含有し、例えば糖タンパク質遺伝子(例えば、フィロウイルスまたはアレナウイルスの糖タンパク質遺伝子)のような異種ウイルス遺伝子の全部または一部に関する核酸配列を含有しているベクターである。
【0013】
“対象”とはあらゆる動物、例えば哺乳類(例えば、ヒト)を意味する。
【0014】
ここで記載された方法に従い治療される対象(例えば、フィロウイルスまたはアレナウイルスに感染したまたは感染するリスクのある対象)は、このような条件を有するとして医療従事者により診断された者である。診断はどのような適切な手段で行ってもよい。感染の進行が抑えられる対象は、そのような診断を受けても、またはそうでなくてもよい。本発明に従い治療される対象は標準検査に付されても、または検査せずに、一以上のリスク要因(例えば、フィロウイルスへの暴露など)の存在により高リスクにある者として特定されてもよい、と当業者であれば理解することであろう。
【0015】
“治療する”とは、予防および/または治療目的で医薬組成物を投与することを意味する。予防療法は、例えば、まだ病んでいないが、具体的な障害、例えばフィロウイルスまたはアレナウイルス感染症にかかりやすい、さもなければそのリスクがある対象に行われる。治療療法は、例えば、対象の状態を改善または安定化させるために、既に罹患した対象(例えば、既にフィロウイルスに感染した患者)に行われる。このように、ここで記載された請求項および態様において、治療するとは、治療または予防目的における対象への投与である。ある場合には、相当する未治療コントロールと比較して、本治療は、何らかの標準技術で調べると、例えば5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%でその障害または症状を軽減させる。ある場合には、治療することにより、ウイルス感染の抑制、感染症の治療、および/または感染症の症状(例えば、出血熱)の軽減をもたらしうる。治療の確認は、症状の改善または非存在を検知することにより、あるいは治療された対象でフィロウイルスまたはアレナウイルスの存在を検知しえないことにより行われる。
【0016】
“ウイルスベクター”とは、遺伝情報を宿主または対象へ伝達しうる二種以上のウイルスからの一種以上のウイルス遺伝子を含有した組成物を意味する。例えば、一種以上のウイルスポリペプチド(例えば、糖タンパク質)を含有しうる脂質膜または構造タンパク質(例えば、キャプシドタンパク質)に、ウイルスベクターの核酸物質が封入されてもよい。ウイルスベクターの一種以上のウイルス遺伝子としては、例えばフィロウイルスまたはアレナウイルスの一種以上のポリペプチドをコードする核酸がある。ウイルスベクターは対象の細胞へ感染させるために用いられ、次いでそこでウイルスベクターの一種以上のウイルス遺伝子のタンパク質産物(例えば、糖タンパク質)への翻訳を促進させる。ウイルスベクターは、例えば、フィロウイルスまたはアレナウイルスのゲノムによりコードされるポリペプチドの一種以上を含有したシュードタイプ化ウイルスでもよい。ウイルスベクター自体は、フィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染症に対して防御性のある、あるいはフィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染症を治療する免疫応答を刺激するために用いうる。一方、ウイルスベクターは、それが対象の一以上の細胞へ感染してから、そこでウイルスベクターの一種以上のウイルス遺伝子の発現を促進し、フィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染症に対して防御性のある、あるいはフィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染症を治療する免疫応答を刺激するように、対象へ投与してもよい。
【0017】
“ワクチン”という用語は、ここで用いられているように、対象へワクチンの投与後に免疫応答を触発して免疫を付与するために用いられる物質として定義される。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明および請求項から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、VSVΔG/ZEBOVGPワクチンで処置されたまたはVSVコントロールワクチンで処置されたアカゲザルの臨床結果について示した表である。
【図2】図2は、ZEBOV感染症の暴露後の治療法を受けたアカゲザルに関する生存率および血漿ウイルス血症を示したグラフである。図(A)は、1000pfuのZEBOVでi.m.攻撃後20〜30分目に2×10pfuのVSVΔG/ZEBOVGP(対象1〜8,実線)またはVSVコントロールベクター(対象c1およびc2,点線)で処置された動物のKaplan-Meier生存曲線について示している。図(B)は、1000pfuのZEBOVでi.m.攻撃後20〜30分目にVSVΔG/ZEBOVGPまたはVSVコントロールベクターで処置された動物の血漿ウイルス血症について示している。ウイルス血症は表示時点でプラーク法により調べられた。アステリスクは、攻撃後8日目にウイルス血症レベルがコントロール動物(対象c1およびc2)のみで調べられたことを示している。ZEBOV攻撃後6日目における血漿ウイルス血症レベルは三つの異なる群に分けられた。VSVコントロールベクターを受けたコントロール動物(黒色四角)は、高血漿ウイルス血症(>6 log10pfu/mL)を呈した。劇症EBOV HFを呈しかつZEBOV攻撃に屈した、VSVΔG/ZEBOVGPで処置された動物(橙色四角)は中度の血漿ウイルス血症(4〜6 log10pfu/mL)を呈し、一方、生存した、VSVΔG/ZEBOVGPで処置された動物(緑色四角)は、低度の血漿ウイルス血症(1.4 log10pfu/mL)を有した。対象6はEBOV HFに伴う劇症疾患を呈しなかったが、二次細菌感染から18日目に死んだ。
【図3】図3は、ZEBOV感染症の暴露後の治療法を受けたアカゲザルに関する血清学的応答プロファイルである。図は、1000pfuのZEBOVでi.m.攻撃後20〜30分目に2×10pfuのVSVΔG/ZEBOVGPで処置された動物の血清中における、IgM(A)、IgG(B)、およびEBOV中和抗体(C)の発生について示している。
【図4】図4は、MARV攻撃後にrVSVベクターで処置されたアカゲザルのKaplan-Meier生存曲線である。コントロール動物(黒四角)はVSVΔG/ZEBOVGPベクターで処置された。実験群(▲)はVSVΔG/MARVGPベクターで処置された。
【図5】図5は、MARVで攻撃およびrVSVベクターで処置後における非ヒト霊長類の血漿ウイルス血症を示した表である。
【図6】図6は、VSVΔG/MARVGPベクターで処置後におけるMARV感染症の血清学的応答プロファイルを示した表である。
【図7】図7は、MARV攻撃後にVSVΔG/MARVGPで処置された動物における中和抗体の発生を示したグラフである。
【発明の具体的説明】
【0020】
ここで記載された発明は、フィロウイルスまたはアレナウイルス感染に対する暴露前および/または暴露後の治療法に向けた使用のための組成物および方法を提供する。本発明の組成物は、送達媒体の表面に存在する一種以上のフィロウイルスまたはアレナウイルスポリペプチド(例えば、糖タンパク質)を含んだ、送達媒体(例えば、ウイルスベクターまたはリポソーム)を含有する。本発明は、送達媒体へ暴露された対象の細胞で発現されうる一種以上のフィロウイルスまたはアレナウイルス遺伝子(例えば、糖タンパク質遺伝子)を含有した、送達媒体(例えば、ウイルスベクターまたはリポソーム)も含んでなる。双方の場合において、送達媒体は、暴露前または暴露後に、フィロウイルスまたはアレナウイルス感染から対象を防御する免疫応答の発生を促進する。
【0021】
フィロウイルス
フィロウイルスによる感染は、多くが致死性である重度の出血熱をヒトおよび非ヒト霊長類で引き起こす。ここで記載された組成物および方法は、フィロウイルスまたはアレナウイルスの病原種から防御するために、フィロウイルス(例えば、ZEBOV、SEBOV、MARV)またはアレナウイルス(例えば、ラッサウイルス)からの遺伝子を利用している。本発明のウイルスベクターでコードされる遺伝子は、例えば、対象に防御または治療効果を呈する免疫応答を誘導または増強しうる能力を有した糖タンパク質遺伝子またはその断片である。変異または欠失が投与で糖タンパク質により誘発される免疫応答を妨げない限り、該糖タンパク質は変異または欠失(例えば、内部欠失、アミノまたはカルボキシ末端の切除、または点変異)を有してもよい。免疫応答を誘発しうる糖タンパク質ポリペプチドまたは断片は、5、6、7、8、9、10、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、300、400、500、600、またはそれ以上のアミノ酸残基を有しうる。
【0022】
糖タンパク質をコードする配列は、例えば、ウイルス源への遺伝子工学技術の適用、化学合成技術、組換え産生またはそれらいずれかの組合せを含めて、いずれか適切な手段により得られる。フィロウイルスの配列は公表されており、例えばGenBankおよびPubMedを含めた様々な供給元から入手しうる(例えば、ZEBOV Mayinga株に関してはGenBank No.AF272001またはMARV Musoke株に関してはGenBank No.Z12132)。
【0023】
ウイルスベクター
ここで記載された発明において、ウイルスベクターは医薬組成物の送達に利用される。例えばアデノウイルス、ラブドウイルス(例えば、水疱性口内炎ウイルス)、またはポックスウイルスを含めて、いかなる適切なウイルスベクター系も用いることができる。ウイルスベクターは、当業者に知られた従来技術を用いて構築してよい。例えば、ウイルスベクターは、細胞でその発現を指示する調節配列の制御下に置かれた、例えばZEBOV、SEBOV、ICEBOV、MARV、またはラッサウイルスからの遺伝子(例えば、糖タンパク質遺伝子)をコードする少なくとも一種の配列を含有している。例えばフィロウイルス糖タンパク質遺伝子のベクター媒介送達に適した量は、ここで提示された情報に基づいて、当業者により直ちに決定することができる。
【0024】
非ウイルスベクター
非ウイルスアプローチも、フィロウイルスまたはアレナウイルス感染症を治療または予防するために、細胞中へ治療核酸分子またはタンパク質の導入のために用いられる。例えば、フィロウイルスまたはアレナウイルスからの糖タンパク質またはそれをコードする核酸分子は、リポフェクション(例えば、Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413,1987、Ono et al.,Neuroscience Letters 17:259,1990、Brigham et al.,Am.J.Med.Sci.298:278,1989、Staubinger et al.,Methods in Enzymology 101:512,1983参照)、アシアロオロソムコイド‐ポリリジン複合化(Wu et al.,Journal of Biological Chemistry 263:14621,1988、Wu et al.,Journal of Biological Chemistry 264:16985,1989)、またはそれほど好ましくはないが、外科的条件下における微量注入(Wolff et al.,Science 247:1465,1990)により、細胞中へ導入されうる。遺伝子導入は、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション、およびプロトプラスト融合の使用によっても行うことができる。リポソーム、微小粒子、またはナノ粒子も、核酸分子またはポリペプチドに対する免疫応答を刺激するために、細胞または患者へ核酸分子またはタンパク質(例えば、フィロウイルスまたはアレナウイルス糖タンパク質をコードする遺伝子、またはそれでコードされる糖タンパク質)の送達に際して有益となりうる。
【0025】
治療法
ここで記載された方法に従う治療法は、単独でもまたは他の治療法と組み合わせて行ってもよく、例えば家庭、医院、診療所、病院の外来診察室、または病院で行える。治療は通常病院で開始し、そのため医師が治療効果を詳しく観察して、必要な調整を加えられる。治療の期間は、対象の年齢および状態、対象の感染症の重篤度、および対象が治療に応答する度合に依存する。
【0026】
医薬組成物の処方および投与
ここで記載された方法で利用される組成物は、例えば、非経口、皮膚、経皮、眼、吸入、口腔、舌下、舌周辺、鼻、局所投与、および経口投与から選択される経路により投与しうる。投与の好ましい方法は、様々な要因(例えば、投与される組成物の成分および治療される状態の重篤度)に応じて変化する。経口投与に適した処方剤は液体溶液、例えば希釈液(例えば、水、塩水、またはPEG‐400)に溶解された組成物の有効量、カプセル、小包、または錠剤からなり、各々が既定量のワクチンを含有している。医薬組成物は、例えば気管支通路への吸入に向けた、エアロゾル処方剤でもよい。エアロゾル処方剤は、加圧された、薬学上許容される噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、または窒素)と混合してもよい。
【0027】
組成物(例えば、ワクチン)の免疫原性は、本発明の組成物が免疫刺激剤またはアジュバントと同時投与されるならば、有意に改善されうる。当業者に周知の適切なアジュバントとしては、例えばリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、QS21、Quil A(とその誘導体および成分)、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質アナログ、アミノ酸のオクトデシルエステル、ムラミルジペプチド、ポリホスファゼン、リポタンパク質、ISCOMマトリックス、DC‐Chol、DDA、サイトカインと他のアジュバントおよびそれらの誘導体がある。
【0028】
ある場合には、他のウイルスに対して防御応答を誘導する組成物と本発明の組成物を組み合わせることが望ましいかもしれない。例えば、本発明の組成物は他の免疫ワクチン、例えばインフルエンザ、マラリア、結核などに対するもの、または当業界で知られるいずれか他のワクチンと、同時、別々または順次に投与される。
【0029】
ここで記載された発明による医薬組成物は、投与(例えば、標的型送達)直後に、あるいは制御または持続放出処方を用いた投与後いずれか既定の時間に、組成物を放出するように処方してよい。制御または持続放出処方した医薬組成物の投与は、該組成物が、単独または組合せにより、(i)狭い治療指数(例えば、有害な副作用または中毒反応へ至る血漿濃度と、治療効果へ至る血漿濃度との差異が小さい、通常、治療指数TIは半数致死量(LD50)対半数有効量(ED50)の比率として定義される)、(ii)胃腸管で狭い吸収ウィンドウ、または(iii)治療レベルを持続するために1日を通して頻繁な投薬が要求されるような短い生物学的半減期を有している場合に、有用である。
【0030】
多くの戦略は、放出速度が医薬組成物の代謝速度を上回る制御または持続放出を得られるように遂行されうる。例えば、制御放出は、例えば適切な制御放出組成およびコーティングを含めて、処方パラメーターおよび成分の適切な選択により得られる。適切な処方は当業者に知られている。例としては、単または複ユニット錠剤またはカプセル組成物、油溶液、懸濁液、乳濁液、マイクロカプセル、微小球、ナノ粒子、パッチ、およびリポソームがある。
【0031】
本発明の医薬組成物(例えば、ワクチン)の投与は、当業者に知られた経路のいずれによってもよい。投与は、例えば筋肉内注射による。ここで記載された方法で利用される組成物は、例えば非経口、皮膚、経皮、眼、吸入、口腔、舌下、舌周辺、鼻、直腸、局所投与、および経口投与から選択される経路でも投与しうる。非経口投与としては、静脈内、腹腔内、皮下、および筋肉内投与がある。投与の好ましい方法は、様々な要因、例えば投与される組成物の成分および治療される状態の重篤度に応じて変化する。該組成物はワクチンとして、あるいは対象がフィロウイルスまたはアレナウイルスへ暴露された後で投与される。該組成物は、例えば暴露後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、35、40、45、50、55、または60分目に投与しても、あるいはフィロウイルスまたはアレナウイルスへ暴露された後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、20、24、48、72時間またはそれ以上にわたり対象へ投与してもよい。
【0032】
用量
本発明の医薬組成物は、フィロウイルスまたはアレナウイルスの病原株に対して治療上有効、免疫原性および/または防御性となるような量(例えば、少なくとも1×10pfu/回または1×10〜1×10pfu/回)で投与される。投与される用量は、治療される対象(例えば、投与の方式と、治療される対象の年齢、体重、免疫系の能力、および一般健康度)に依存する。該組成物は、過度の有害な生理学的作用なしに、免疫応答を誘発しうる十分なレベルの発現を呈するような量で投与される。医師または研究者であれば、適切な量および投薬法を決めることができる。
【0033】
加えて、本発明の組成物の単または複数回投与が対象に行われてもよい(例えば、1回の投与または2回以上の投与)。例えば、フィロウイルスまたはアレナウイルス感染を特に受けやすい対象は、該ウイルスに対する防御を確立および/または維持するために複数回の治療を必要とすることがある。ここで記載された医薬組成物により誘導される免疫のレベルは、例えば、中和分泌および血清抗体の量を測定することによりモニターしうる。用量は、ウイルス感染に対して望ましい防御レベルを維持するために、必要に応じて調整または再現しうる。
【実施例】
【0034】
本発明は以下の実施例で説明されているが、それらは決して本発明を限定するものではない。
【0035】
実施例1.組換えベクターおよびウイルスの構築
これまでに記載されたように、VSV Indiana血清型の感染性クローンを用いて、MARV株Musoke(MARV‐Musoke)、ザイールエボラウイルス株Mayinga(ZEBOV)、またはラッサウイルス株Josiahの糖タンパク質(GP)を発現するrVSVを作製した(例えば、Garbutt et al.,J.Virol.78:5458-65,2004およびJones et al.,Nat.Med.11:786-90,2005参照)。具体的には、五種のVSV遺伝子(核タンパク質(N)、リンタンパク質(P)、マトリックスタンパク質(M)、糖タンパク質(G)、およびポリメラーゼ(L))、それに隣接するバクテリオファージT7プロモーター配列、VSVリーダー配列、肝炎ウイルスデルタウイルスリボザイム配列およびT7ターミネーター配列を含有したプラスミドを用いる。G遺伝子と、L遺伝子との間には、唯一のリンカー部位(Xho‐NheI)と、それに隣接した、発現されるべき追加遺伝子に関する転写開始および終結シグナルが存在する。糖タンパク質についてコードする適切なオープンリーディングフレームをPCRにより作製し、VSV G遺伝子を欠くVSVゲノムベクターへクローニングし、配列を確認して、レスキューを行った。攻撃研究のために、ケニヤで1980年にヒトから単離されたMARV‐Musoke株を用いた。ZEBOV(株Kikwit)は1995年にKikwitでEBOV発生の患者から単離した。
【0036】
実施例2.動物研究で行われた血液学および血清生化学解析
総白血球数、リンパ球数、赤血球数、血小板数、ヘマトクリット値、総ヘモグロビン、平均細胞容積、平均赤血球容積、および平均赤血球ヘモグロビン濃度を、レーザー式血液分析器(Beckman Coulter)を用いることにより、EDTAを含有したチューブに集められた動物血液サンプルから調べた。白血球示差はWright染色血液塗抹標本においてマニュアルで行った。PICCOLO Point-Of-Care血液分析器(Abaxis)を用いることにより、アルブミン、アミラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコース、コレステロール、総タンパク質、総ビリルビン、尿素窒素、およびクレアチニンの濃度について血清サンプルを検査した。
【0037】
実施例3.動物研究におけるウイルス検出
適切なRNA単離キット(Qiagen)を用いて、動物白血球およびスワブからRNAを単離した。VSVを検出するために、マトリックス遺伝子(ヌクレオチド位置2355‐2661,NC 001560)を標的とするRT‐PCR法を用いた。Lポリメラーゼ遺伝子を標的とするプライマーペアの使用によりMARV RNAを検出した。このMARV法の検出限界は0.1プラーク形成単位(pfu)/血漿mLである。感染性MARVの量は、全血液サンプルからのVero E6細胞でプラーク法により測定した。簡単に言えば、サンプルの10倍希釈液を順次に二重ウェルでVero E6単層へ吸着させた(0.2mL/ウェル)、こうすると、このプラーク法の検出限界は25pfu/mLであった。ZEBOV RNAは、L遺伝子(ZEBOV:RT‐PCR,ヌクレオチド位置13344‐13622、ネステッドPCR, ヌクレオチド位置13397‐13590)を標的とするプライマーペアを用いて検出した。ZEBOV特異的RT‐PCRの感度は約0.1pfu/mLである。ZEBOV滴定は、全血液と選択された臓器(例えば、副腎、卵巣、リンパ節、肝臓、脾臓、膵臓、肺臓、心臓、および脳)およびスワブサンプルからのVero E6細胞で、プラーク法により行った。サンプルの10倍希釈液を順次に二重ウェルでVero E6単層へ吸着させた(0.2mL/ウェル)、こうすると、このプラーク法の検出限界は25pfu/mLであった。
【0038】
実施例4.動物研究における体液性免疫応答解析
抗原として精製ウイルス粒子を用いて、酵素結合免疫吸着法(ELISA)によりZEBOVおよびMARVに対するIgGおよびIgM抗体を検出した。当業者に知られているように、一定ウイルス:血清希釈フォーマットでプラーク減少を測定することにより、中和法を行った。簡単に言えば、標準量のZEBOV(100pfu)またはMARV(100pfu)を血清サンプルの連続2倍希釈液と60分間インキュベートした。Vero E6細胞へ60分間接種するために該混合液を用いた。細胞を寒天培地上に重層し(overlay)、8日間インキュベートし、プラークをニュートラルレッド染色後48時間で計数した。終点力価を血清の希釈により調べたが、これはプラークの50%を中和した場合である(PRNT50)。
【0039】
実施例5.動物研究における細胞性免疫応答解析
末梢血単核細胞をアカゲザル全血サンプルからFicoll勾配での分離により単離した。約1×10細胞を細胞表面マーカー、グランザイムB、およびウイルス抗原についてモノクローナル抗体を用いて染色した。細胞を固定し、Tween-20で補充されたFACS溶離液(Becton Dickinson)で透過性にし、CD3、CD4、CD8に対する抗体と、腫瘍壊死因子αまたはインターフェロンγとの混合物により染色した。サンプルを蛍光励起細胞分取分析器(FACS Calibur,Becton Dickinson)でランし、ソフトウェア(FlowJo)で解析した。サイトカイン陽性細胞を個別のリンパ球サブセットでパーセンテージとして求め、少なくとも200,000事例を全サンプルについて解析した。
【0040】
実施例6.ZEBOV感染症の暴露後治療法を検定するアカゲザル研究
中国原産の健常成熟Macaca mulatta(3〜6kg)10匹をこの研究に用いた。簡単に言えば、全10匹のサルを1000pfuのZEBOV,株Kikwitで筋肉内(i.m.)接種により攻撃した。ZEBOV攻撃後約20〜30分間で、4箇所の異なる解剖位置(左および右三頭筋と左および右後肢大腿部)に分けて、ZEBOV GPを発現するVSVΔG/ZEBOVGPベクターの2×10pfuの用量でi.m.注射を8匹の動物に行った。2匹の動物は実験コントロールとして用い、そのうち1匹にはMARV GPを発現するVSVΔG/MARVGPベクター、他方へはラッサウイルス糖タンパク質前駆体を発現するVSVΔG/LASVGPCベクターを相当用量で同経路により投与した。確立されたスコアシートを用いて、ZEBOV HFの臨床症状について全動物を1日2回調べた。スワブサンプル(経口、鼻、および直腸)および血液をZEBOV攻撃前とZEBOV攻撃後3、6、および10日目に採取した。生存動物は50日以上保育した。全非ヒト霊長類研究はUnited States Army Medical Research Institute of Infectious Diseases(USAMRIID)においてBSL‐4生物学的封じ込めで行われ、USAMRIID Laboratory Animal Care and Use Committeeにより承認された。動物研究は動物福祉法と動物に関する他の連邦法および規則に従い行った。動物にかかわる実験はGuide for the Care and Use of Laboratory Animals,National Research Council,1996で述べられた指針に従う。用いられた施設はAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care Internationalから完全に認定されている。
【0041】
1000pfuのZEBOVで攻撃後20〜30分目に、8匹のアカゲザル(対象1〜8)をVSVΔG/ZEBOVGPワクチン(2×10pfu)、2匹のアカゲザル(対象c1およびc2)をVSVコントロールワクチン(2×10pfu)のi.m.注射で処置した。免疫化および攻撃用量は、以前に成功した暴露前ワクチン研究で用いられたものに相当した。全動物が6日目には発熱するようになり、血液データが6日目には病気の徴候を呈し、これら動物のほとんどにおいて、通常リンパ球減少として現れた(図1)。意外にも、VSVΔG/ZEBOVGP処置動物の50%(対象1、2、5、および7)は重症の徴候を示すことなく、致死的ZEBOV攻撃から生き延び(図1および図2A)、一方3匹のVSVΔG/ZEBOVGP処置サル(対象3、4、および8)は、発熱、臨床化学値の変動および斑状発疹を含めて特徴的ZEBOV HFを呈した。これらの動物は9日目(対象3)および10日目(対象4および8)に死んだ。特に、ZEBOV攻撃に屈した全VSVΔG/ZEBOVGP処置動物(対象3、4、および8)は6日目に血漿ウイルス血症を呈し(1×10〜1×10pfu/mL)、一方血漿ウイルス血症は生き延びた動物で一過性であり(対象1、2、5、および7)、6日目に1×10pfu/mLを超えなかった(図2B)。最後のVSVΔG/ZEBOVGP処置サル(対象6)は18日目に死んだ。この動物は6日目に一過性の低レベルZEBOVウイルス血症を有し、10日目にはZEBOV感染症を克服していた(図2B)。更に、該動物は重度のZEBOV HFに伴う臨床症状を呈さず、臓器感染力滴定では死後に検査された組織のいずれでも感染性ZEBOVの証拠を示さなかった。病理結果は、免疫組織化学法で調べたところ、Streptococcus pneumoniaeで引き起こされる播種性敗血症および腹膜炎でこのサルが死んだことを示していた。細菌感染源は未知である。VSVコントロールベクターで処置された双方のサル(対象c1およびc2)は、6日目に1×10pfu/mLを超える血漿ウイルス血症力価で病気の過程中ずっと重度の症状、7日目には明らかな斑状発疹と、>1×10pfu/mLのピークウイルス血症力価(図2B)でZEBOV攻撃後8日目の死(図1および図2A)を招いた。加えて、RT‐PCRを用いてもVSVウイルス血症について全動物を検査した。VSV RNAはわずか免疫後3日目にほとんどの免疫化動物で検出され、ワクチンベクターの一過性ウイルス血症を示した。VSVウイルス血症と生存率とに相関はなかった。
【0042】
ZEBOV攻撃から生き延びた全部で4匹の動物(対象1、2、5、および7)と18日目まで生き延びた動物(対象6)はZEBOV特異的体液性免疫応答を生じ、その際に低力価IgM抗体が6〜14日目に検出され(対象1、5、および7)(図3A)、中度IgG抗体力価が10〜22日目に検出された(対象1、2、5、6、および7)(図3B)。ZEBOV攻撃から生き延びた全部で4匹の動物(対象1、2、5、および7)と、18日目まで生き延びた動物(対象6)(図3C)とでは、攻撃後14〜37日目にZEBOVに対する中和抗体力価(1:80)が検出された。体液性免疫応答は非生存動物のいずれでも検出できなかったが、生存動物で検出可能なIgMおよびIgG応答を生じさせるために十分な攻撃後9および10日目までこれらの動物は生きていた。
【0043】
感染症から生き延びたアカゲザルはすべて、感染から6日以内にウイルスを抑制した。データは明らかに、6日目に中または高レベルのウイルス血症は例外なく致死的結果をもたらしたことを示している(図2)。中和抗体は感染抑制に必須ではなく、動物がEBOV感染症を克服し終わるまでそれらが検出されなかったからである。循環CD4およびCD8T細胞は、治療にかかわらず、全動物で数が減少した。これは、感染の初期抑制に古典的T細胞応答を要しなくてよいことを示している。アカゲザルにおけるEBOV HFの時間経過は非常に短く(約8日間)、したがってCD8細胞毒性T細胞応答は感染症の抑制に全く関与していないらしく、感染症が抑制し終わるまで特異的応答細胞の細胞数がピークに達しなかったからである。防御の一次免疫相関は、防御動物のみでみられた非中和抗体の急発生であるらしい(図3)。これが、VSVΔG/ZEBOVGP処置動物におけるNK細胞増加とあいまって、ウイルス感染一次標的細胞の死の有意な増加と、結果的にZEBOV感染症の排除をもたらしたのかもしれない。防御上におけるNK細胞の重要な役割は、ウイルス様粒子での免疫化についても記載されてきた。
【0044】
コントロールのVSVベースワクチンで免疫された動物がZEBOV攻撃に屈したことから、適応免疫は生存を促進する上で必須である。双方のコントロール動物が8日目に死んでおり、これはこの種株と同経路および用量で感染させたアカゲザル(歴史的n=23)における歴史的平均である。しかしながら、他のメカニズムもおそらく関与している。最近、抗ウイルス作用メカニズムの一つが、致死性野生型ウイルスの複製との細胞内干渉である、干渉ワクチンに関する新たなパラダイムが記載された。この例では、主に宿主細胞指向性を決めてウイルス侵入を媒介するEBOV GPをVSVベクターが利用している。ZEBOV GPを発現するVSVベクターはインビトロで野生型ZEBOVと同様の細胞に感染することが証明されていた。しかも、VSVΔG/ZEBOVGPベクターは野生型ZEBOVより有意に速く複製する。したがって、これらのベクターはウイルス干渉によりZEBOVと競合することが可能である。明らかに、ZEBOV複製の軽または中度阻害でも感染の過程を遅らせ、宿主に有利なバランスをもたらしうる。
【0045】
実施例7.MARV感染症の暴露後治療法を検定するアカゲザル研究
上記のように、5匹のアカゲザルをMARV感染で攻撃した。MARVで攻撃されてからVSVΔG/MARVGPベクターで処置された動物5匹のうち3匹は6日目までに発熱した。しかしながら、体温は10日目までに攻撃前の程度へ戻った。全5匹の動物がMARV攻撃から生き延びた。対照的に、(非特異的VSVΔG/ZEBOVGPベクターで処置された)コントロール動物3匹のうち1匹は6日目に熱を発し、残り2匹のコントロール動物は10日目までに発熱した。これらのコントロールにおける病状進行はアカゲザルにおけるMARV感染と合致していた。全3匹のコントロール動物は10日目までに斑状発疹を呈して、MARV感染に屈し、2匹の動物は11日目に死に、残りの動物は12日目に死んだ(図4)。
【0046】
rVSVベクターのウイルス血症が処置後に生じるか否かを決定するために、全8匹の処置動物の全血サンプルをRT‐PCRで解析した。一過性rVSVウイルス血症が、3日目に、VSVΔG/MARVGP処置動物5匹のうち4匹、およびコントロール動物3匹のうち2匹で検出された。MARV複製もMARV攻撃とrVSVベクター処置後に採取された血液サンプルから解析された(図5)。全3匹のコントロール動物は6日目までに高MARV力価(約10〜10pfu/mL)を呈した。対照的に、MARV攻撃後にVSVΔG/MARVGPベクターで処置された動物5匹からは、いかなる時点でもプラーク法で血漿中にMARVが検出されなかった。しかしながら、RT‐PCRでは特異的処置動物5匹のうち4匹において3日目に一過性MARVウイルス血症を示した。
【0047】
血液化学および血液学の解析に際して、実質的変化(攻撃前の程度と比較して3倍以上の変化)がこの研究中にVSVΔG/MARVGPベクターで処置された動物5匹において検出されなかった。しかしながら、3匹のコントロール動物は末期状態のときに白血球増加と好中球増加を併発した。加えて、3匹のコントロール動物は10日目にアルカリホスファターゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、γ‐グルタミルトランスフェラーゼ、および総ビリルビンの循環濃度で実質的増加を示し、肝臓への重度なダメージを示唆していた。2匹のコントロール動物は10日目にアミラーゼの濃度も実質的増加を示し、腎臓および膵臓の損傷の可能性を示唆していた。
【0048】
処置後におけるそれらの血清学的応答プロファイルで示されるように、VSVΔG/MARVGPベクターで処置された全5匹の動物は6日目までに低〜中量のIgM(終点希釈力価1:32〜1:100)を示した(図6)、処置動物5匹のうち4匹は10日目までに中量のIgG(1:100以上)を示した(図6)。プラーク減少中和試験では、VSVΔG/MARVGPで処置された全5匹の動物の血漿において、6〜37日目に低量の中和抗体(1:10〜1:80)を示した(図7)。
【0049】
Tリンパ球がMARV感染に対する防御をどのように媒介するかについて良く理解するために、FACS解析を用いた。末梢血単核細胞のフラクションの細胞内染色では全動物においてインターフェロンγおよび腫瘍壊死因子α誘導の非存在を示し、Tリンパ球活性化の非存在を示唆していた。細胞性免疫応答を検出できないことは、予防ワクチンとしてVSVΔG/MARVGPベクターに関する以前の研究と一致している。
【0050】
MARV出血熱に対する対抗策としてrVSVベースベクター系の使用は、有効な予防ワクチンおよび有効な暴露後治療法の双方として、二重の効果を示している。この実施例は、MARVの糖タンパク質を発現するrVSVベースベクターが非ヒト霊長類で同種MARV攻撃に対する暴露後防御を媒介しうることを示している。MARV攻撃と処置との間隔は20〜30分間であり、これは研究者または医療従事者で生じうる偶発的な針刺し暴露の処置と一致する時間の現実量を表わすとして選択されたものである。
【0051】
この実施例の結果は、おそらく糖タンパク質特異的抗体の刺激による、表面糖タンパク質への応答を介して、VSVΔG/MARVGPベクターが防御を誘導することを示唆している。特に、低濃度の中和抗体およびIgMが攻撃後6日目に血清サンプルで検出され、一方増加量の抗MARV IgGが10〜37日後に生じていた。これらのデータは、中和抗体が暴露後防御に関与しえたことを示唆しているが、非中和抗体の関与と、抗体媒介エフェクターメカニズムの治療活性とが防御上でより重要な役割を果たしている可能性がある。
【0052】
他の態様
この明細書で記載されたすべての文献および特許出願は、各々の独立した文献または特許出願が、引用することにより本発明の開示の範囲とされるために具体的かつ個別的にあたかも示されているように、同程度に引用することにより本発明の開示の範囲とされる。
【0053】
本発明はその具体的態様と関連させて記載されてきたが、それは更なる修正も可能であって、この出願は、一般的に、本発明の原理に従う、本発明が属する業界内で公知または慣行の実施内に入りかつ前記された本質的特徴に当てはまる本開示からのこのような離脱も含めて、本発明のいかなるバリエーション、適用、または応用も包含するべきである、と理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エボラウイルスのザイール種(ZEBOV)、エボラウイルスのスーダン種(SEBOV)、マールブルグウイルス(MARV)、またはラッサウイルスからの少なくとも一種の遺伝子をコードする組換えウイルスベクターを含んでなる、医薬組成物。
【請求項2】
前記MARVがMusoke株である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ラッサウイルスがJosiah株である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
薬学上許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはアジュバントを更に含んでなる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ウイルスベクターが糖タンパク質遺伝子またはその断片をコードする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組換えウイルスベクターが水疱性口内炎ウイルス(rVSV)ベクターである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物がワクチンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ワクチンがフィロウイルスまたはアレナウイルスに対する感染を抑制する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記フィロウイルスがZEBOV、SEBOV、アイボリーコーストエボラウイルス(ICEBOV)、またはMARVである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記アレナウイルスがラッサウイルスである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物がフィロウイルスまたはアレナウイルス感染に伴う症状を軽減するものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記症状が出血熱である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記フィロウイルスが、ZEBOV、SEBOV、ICEBOV、またはMARVである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記アレナウイルスがラッサウイルスである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物が、フィロウイルスまたはアレナウイルスに感染したまたは暴露された対象へ投与されるものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物が1×10〜1×10pfuのウイルスベクターを含んでなるものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物が少なくとも1×10pfuのウイルスベクターを含んでなるものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項18】
対象においてフィロウイルスまたはアレナウイルス感染症を抑制または治療する方法であって、
該感染症を抑制または治療するための十分な量により、請求項1に記載の組成物を該対象へ投与することを含んでなる、方法。
【請求項19】
前記フィロウイルスが、エボラウイルスのザイール種(ZEBOV)、エボラウイルスのスーダン種(SEBOV)、アイボリーコーストエボラウイルス(ICEBOV)、またはマールブルグウイルス(MARV)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アレナウイルスがラッサウイルスである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記対象がフィロウイルスまたはアレナウイルスに感染していない、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記対象がフィロウイルスまたはアレナウイルスに感染している、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記対象がヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記投与が注射によるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が1×10〜1×10pfuのウイルスベクターを含んでなるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が少なくとも1×10pfuのウイルスベクターを含んでなるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が2回以上投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
対象においてフィロウイルスまたはアレナウイルス感染症に対する免疫応答を誘導する方法であって、
該感染症を抑制または治療するための十分な量により、請求項1に記載の組成物を該対象へ投与することを含んでなる、方法。
【請求項29】
前記フィロウイルスが、エボラウイルスのザイール種(ZEBOV)、エボラウイルスのスーダン種(SEBOV)、アイボリーコーストエボラウイルス(ICEBOV)、またはマールブルグウイルス(MARV)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アレナウイルスがラッサウイルスである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記対象がフィロウイルスまたはアレナウイルスによる感染を有していないが、罹患するリスクがあるものである、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記対象がフィロウイルスまたはアレナウイルスに感染している、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記対象がヒトである、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記投与が注射による、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物が1×10〜1×10pfuのウイルスベクターを含んでなるものである、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物が少なくとも1×10pfuのウイルスベクターを含んでなるものである、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物が2回以上投与される、請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−506606(P2011−506606A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539467(P2010−539467)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/013787
【国際公開番号】WO2009/116982
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(595094600)トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ (37)
【出願人】(510169273)ボストン、メディカル、センター、コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON MEDICAL CENTER CORPORATION
【Fターム(参考)】