説明

フェライト磁性粉

【課題】ゴム系ボンド磁石の特徴である変形性を損なうことのないフェライト磁性粉を得る。
【解決手段】アルカリ土類金属を構成成分とするフェライト磁性粉であって,塩素含有量が0.05重量%以下で,粉体pHが6未満であり,ゴム系樹脂をバイダーとして固定されるボンド磁石用のフェライト磁性粉である。この磁性粉を製造するには,アルカリ土類金属を構成成分とするフェライト組成の焼成品を粉砕したあと結晶歪みを除去するためのアニール処理を行い,このアニールを経た粉体を水系媒体中に分散させて鉱酸で中和処理し,次いで分散剤を添加したあと固液分離し減圧乾燥して,塩素含有量が0.05重量%以下で粉体pHが6未満のフェライト磁性粉を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ゴム系樹脂バインダーで固定されるボンド磁石用のフェライト磁性粉およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
バインダーとしてゴム系樹脂を用いるゴム系ボンド磁石では,使用する磁性粉の特性はもとより,ゴム系バインダーへの磁性粉の充填率の多寡が磁気特性に大きく影響する。ゴム系バインダー中での磁性粉の充填率は,磁性粉の粒径や粒度分布,粒子の形状や表面形態,ゴム系バインダーの種類等の様々な因子に影響されるが,基本的には,ゴム系バインダーの本来の性質を変質させることなく且つゴム系バインダーとのなじみが良い磁性粉であることが肝要である。本明細書において,ゴム系バインダーの本来の性質を劣化させないような磁性粉の性質を「磁性粉の非反応性」と呼び,ゴム系バインダーとのなじみ性を「磁性粉の親和性」と呼ぶ。
【0003】
磁性粉の非反応性・親和性が良くないと,ゴム系バインダーとの混練時或いは混練物(コンパウンド)の成形時に粘性が高くなって流動性が低下し,このために機械的ストレスが磁性粒子に加わることになる。機械的ストレスが磁性粒子に加わると歪みが発生し,保磁力を低下させる。
【0004】
フェライト磁性粉の非反応性・親和性は,例えば混練物の粘度やせん断応力の測定によって評価することができる。粘度やせん断応力が小さいほど,樹脂との非反応性・親和性(相溶性)が良好であると言える。
【0005】
特許文献1には,フェライト組成の焼成品を粉砕したあと,アニール処理して得たpH9以上のフェライト磁性粉を水中に懸濁させ,この懸濁液に炭酸ガスを吹き込むことにより,炭素含有量が0.010〜0.040重量%でpHが6〜9未満のフェライト磁性粉が得られると教えており,このものは,樹脂系バインダーとの非反応性・親和性に優れると記載されている。さらに,特許文献1は,炭酸ガス吹き込みに代えて鉱酸を添加する中和処理では,その乾燥品には凝集が起こり,かなり強度のある解砕処理を必要とし,この場合には内部歪みの発生を皆無にすることは困難であると教示している(段落〔0013〕参照)。
【0006】
特許文献2には,同じくアニールを経たフェライト磁性粉をCO2源と攪拌下に接触させることにより,炭素含有量が0.015〜0.080重量%でpHが7〜10未満のフェライト磁性粉が得られると教えており,このものは,樹脂系バインダーとの非反応性・親和性に優れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−160506号公報
【特許文献2】特許第3294507号公報
【特許文献3】特開2002−353019号公報
【特許文献4】特開平4−93002号公報
【特許文献5】特開昭63−293806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ゴム系ボンド磁石は可撓性である点で機器への装着に柔軟に対応できるという特徴があり,例えばシート状のゴム系ボンド磁石であれば,曲面のある箇所でもその曲面に沿って当該シートを装着できる。このようなボンド磁石の弾性的(靭性的)な性質が磁性粉の性質に由来して劣化することがある。ゴム系ボンド磁石のこのような成形品特性の劣化性を磁性粉側からの因子としての報告された例はない。
【0009】
ゴム系ボンド磁石において,所定の形状に成形されたあとの成形品が,その靭性が劣化したり形状が変化すると,一般に磁気特性の劣化を引き起こす。例えばゴム系ボンド磁石の特性を生かして,シート状成形品を曲面形状に沿って曲げ変形しながら装着した場合,ひび割れが発生したりすると,ボンド磁石のそのものの機能が低下することがある。これまで,ボンド磁石成形後の長寿命化における磁性粉側からの対策は,これまで具体化されていない。
【0010】
したがって,本発明は,ボンド磁石成形後における磁気特性の劣化を起こす磁性粉側からの原因を明らかにし,その原因を除去したゴム系ボンド磁石用のフェライト系磁性粉を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題は,アルカリ土類金属を構成成分とするフェライト磁性粉であって,塩素含有量が0.05重量%以下であり,粉体pHが6未満であるフェライト磁性粉によって達成できることがわかった。このような磁性粉を得るには,アルカリ土類金属を構成成分とするフェライト組成の焼成品を粉砕したあと結晶歪みを除去するためのアニール処理を行い,このアニールを経た粉体を水に分散させて鉱酸で中和処理し,次いで分散剤を添加したあと固液分離し減圧乾燥するのがよい。分散剤を添加した場合に減圧乾燥すると,減圧しない場合に比べて凝集防止の効果が高まることがわかった。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると,ゴム系バイダーにたいして,非反応性・親和性に優れたフェライト磁性粉が得られ,この磁性粉を用いたゴム系ボンド磁石は,成形品の靭性に優れており,曲げ変形を受けた状態でもひび割れなどが発生しないので,ゴム系ボンド磁石の特徴である変形性を損なうことがないという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に従うフェライト磁性粉をゴム系バインダーと混練したコンパウンドについては,ずり速度を変えた場合の粘性とせん断応力の変化を,対照例や比較例のものと対比して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
フェライト磁性粉は,その成分組成や粒子形態には種々のものがあるが,その製法は,乾式法の場合には,一般に,原料配合→造粒→焼成→粉砕→水洗・脱水→乾燥→解砕→アニール→製品の諸工程からなる。最終工程の「アニール」は焼成後の粉砕時(さらには乾燥後の解砕時)に発生した結晶歪みを除去するためのものである。粉砕時や解砕時に発生した結晶歪みは磁気特性とくに保磁力を低下させるからである。このアニール工程を経ると,フェライト磁性粉の pHは10〜12程度となり,強アルカリを呈するようになる。この pH値の上昇は,アルカリ土類金属を含有するフェライト磁性粉の場合に特に顕著となる。
【0015】
フェライト磁性粉がこのように強アルカリを呈すると,ゴム系バインダーを変質させ,コンパウンドの粘性や流動性に大きな悪影響を及ぼす。また,このアニール工程を経たフェライト磁性粉は,添加物ならびに原料の不純物成分等からの残留成分が検出される。その残留成分が混練・成形後にゴム系ボンド磁石の劣化に寄与する要因となることがあるが,そのうち,塩素が特に悪い影響を与えることがわかった。
【0016】
本発明によれば,アニールされたフェライト磁性粉を先ず水中に懸濁させ,好ましくはよく攪拌し,これに鉱酸を添加する。この処理によって,当該磁性粉に同伴する塩素は殆ど無害の水準にまで低下させることができ,しかも粉体pHを6未満にまで下げることによって,ゴム系ボンド磁石の成形品の品質劣化を防止できることがわかった。鉱酸としては,硫酸の使用が好ましい。
【0017】
鉱酸を用いてアニール粉の懸濁液を中和すると,固液分離したあとの乾燥時に凝集しやすくなるが,適切な凝集防止処理を施すと,乾燥時の凝集を回避できることがわかった。凝集防止処理は,一般的には,吸着水の少ない無機物の添加,脂肪酸アミド系やフッ素化脂肪酸などの固着防止剤の添加,さらにはシリカ系表面処理剤や界面活性剤による表面処理などが考えられるが,本発明による凝集防止処理は,乾燥工程前に分散剤(界面活性剤)を添加し,固液分離後の乾燥工程を減圧下で行なうことで凝集の発生を防ぐことを内容とする。
【0018】
このようにして,アニール後のフェライト磁性粉に対して,水中で湿式処理されたあとの乾燥品は塩素含有量が0.05重量%以下,好ましくは0.02重量%以下で粉体pHが6未満となり,このものは,ゴム系バイダーとの非反応性・親和性が良好で,且つその成形品の折り曲げ強度を向上させることができる。この結果,ゴム系ボンド磁石の特徴を経年持続して維持することができる。
【0019】
ここで,フェライト磁性粉のpH値はJIS K 5101の測定法に従って得られるものを意味する。本発明が対象とするフェライト磁性粉は,その成分組成が限定されるものではないが,アルカリ土類金属を構成成分とするフェライト磁性粉に対して特に有益である。このフェライト磁性粉を固定するためのゴム系バインダーについても,ゴム系のものであれば特に制限はないが,加硫可能なゴム例えばNBR(アクリロニトリル・ブタジエン系ゴム),EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム)や,ゴム弾性を有する熱可塑性樹脂例えばCPE(塩素化ポリエチレン),可塑化PVC(可塑化塩化ビニール樹脂),EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)等が適用可能であり,さらにクロルスルホン化ポリエチレン,シリコンゴムなども使用可能である。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
酸化鉄と炭酸ストロンチウムをモル比5.75になるように秤量して混合し,これを水で造粒し,乾燥後,炉中1290℃で4時間焼成した。この焼成品を粗砕し,さらにウェットミルで湿式粉砕して,平均粒子径が1.4μmのストロンチウムフェライト磁性粉を得た。この磁性粉を炉中980℃で1時間アニールした。得られたアニール品は,塩素を0.055重量%含有しており,JIS K 5101の測定法によるpHが10.22であった。
【0021】
この磁性粉12000gを水と混合してパルプ濃度25重量%の懸濁液とし,この懸濁液を攪拌しながら, 懸濁液に対する硫酸濃度が0.10%となるように硫酸を添加し,さらに15分間攪拌した。その後,デカンテーションにより水洗を行い,分散剤としてサーフィノールCT151(日信株式会社製の商品名)を,フェライト磁性粉に対して0.25%となる量で添加し,さらに10分間攪拌した。ついで,脱水し,得られたケーキを減圧下で乾燥したあと,高速攪拌式解砕機で解砕して,平均粒子径が1.4μmのストロンチウムフェライト磁性粉を得た。得られた磁性粉を化学分析したところ0.01重量%を超える塩素は検出できなかった。またpHを測定したところpH=4.9であった。
【0022】
得られた磁性粉136.1gとNBR13.5gを,ラボプラストミル(東洋精機製作所製)に装填し,80℃の温度で10分間混練し,いったん排出したあと再び同じ条件で混練を行った。得られた混練物を6インチのロールで圧延してシート化し,これを裁断して,厚さ3mmで幅2mm×長さ50mmのサンプルを数枚(親和性評価用)と,厚さ3mmで幅20mm×長さ50mmのサンプル(成形品の劣化性評価用)を作成した。
【0023】
親和性評価は,ずり速度(SR:Share rate),粘度(Viscosity ),せん断応力(Share stress)をキャピログラフ(東洋精機製作所製)で測定することによって行った。測定結果を図1に示した。図1は,横軸にずり速度(sec-1) をとり,縦軸に粘度(PaS) およびせん断応力(Pa)をとって,ずり速度を変えたときの粘度とせん断応力の変化を示したものである。図1には,対比のために,アニールされた段階の磁性粉(前記のように,塩素含有量が0.055重量%でpHが10.22の磁性粉について(これを「対照例」と記す),同様の親和性評価を行った結果も併記した。
【0024】
図1の結果から,対照例のものに比べ,本例の磁性粉は,ゴムとのコンパウンド混練物において,粘度およびせん断応力がともに低い値を示しており,ゴム系バインダーとの親和性が良好であることがわかる。
【0025】
成形品の劣化性評価は,シートを100℃で5日間保持したあと室温に冷却したうえ,そのシートを22mmΦの筒に巻き付ける折り曲げ強度試験を行ない,シート曲面の亀裂具合を,次の3段階評価を行ったところ,本例の劣化性評価はランクAであった。これに対し,対照例のアニールされた段階の磁性粉のものではランクCであった。
A:亀裂が全く観察されない。
B:長さ3mm未満の亀裂が観察される。
C:長さ3mm以上で幅0.1mm以上の亀裂が観察される。
【0026】
〔参考例〕
硫酸の添加のさいに,硫酸濃度が0.10%から0.05%となるように変更した以外は,実施例1を繰り返した。 得られた磁性粉を化学分析したところ,0.01重量%を超える塩素は検出されず,粉体のpHは6.6であった。
【0027】
この参考例の粉体を実施例1と同じ親和性評価試験に供し,その結果を図1に併記した。また,この粉体を実施例1と同じ成形品の劣化性評価試験に供したところ,ランクBであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属を構成成分とするフェライト磁性粉であって,塩素含有量が0.05重量%以下で且つ粉体pHが6未満で分散剤が添加されてなり,ゴム系樹脂をバインダーとして固定されるボンド磁石用のフェライト磁性粉。
【請求項2】
塩素含有量が0.05重量%以下で且つ粉体pHが6未満で分散剤が添加されてなるアルカリ土類金属を構成成分とするフェライト磁性粉をゴム系樹脂で固めたボンド磁石。

【図1】
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【公開番号】特開2010−166064(P2010−166064A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32091(P2010−32091)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【分割の表示】特願2003−37158(P2003−37158)の分割
【原出願日】平成15年2月14日(2003.2.14)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(595156333)DOWAエフテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】