説明

フェントン反応による有機化合物の処理方法

【課題】有機物化合物を効率的かつ持続的に分解する有機化合物の処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明の有機化合物の処理方法は、有機化合物を含む汚水に、過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加し、フェントン反応により生成するラジカルにより前記有機化合物を酸化分解する有機化合物の処理方法であって、前記汚水に、前記過酸化水素と金属イオン(I1)との反応で生じた金属イオン(I2)が金属塩を形成して沈殿する際に化合するカウンターアニオンとは異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加し、前記汚水中に、前記汚水に添加した前記化合物(A)における金属イオン(I1)に対して、前記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、前記金属イオン(I1)および/または金属イオン(I2)から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェントン反応による有機化合物の処理方法に関する。より詳しくは、本発明は、有機化合物を含む汚水に、過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオンを生成し得る化合物とを添加し、フェントン反応により生成するラジカルにより上記有機化合物を酸化分解する有機化合物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の水資源利用に対する関心の高まりを受け、生活排水や工業廃水、畜産排水等に含まれる有機化合物の処理は重要度を増してきている[特許文献1、非特許文献1、2など]。たとえば、アトラジンや1,4−ジオキサンなどの有機化合物は、除草剤や洗剤として一般に用いられているが、このような難分解性の有機化合物は、従来の生物処理やオゾン酸化法、活性炭吸着法等では分解が困難であり、水環境汚染の原因になることが指摘されている[特許文献2、非特許文献3など]。
【0003】
一方、過酸化水素と金属イオン触媒を原料として反応性の高いラジカルを生成するフェントン反応は、前記ラジカルが強い酸化力を有するため、難分解性の有機化合物を酸化分解する方法として注目されている。同法は、低温で、かつ簡便な設備で実行可能であること、分解の過程でNOxやSOx等の有害ガスを放出しないことなど、従来の方法に比べ多数の利点がある[非特許文献4〜8など]。また、先述したアトラジンや1,4−ジオキサンはもとより、各種アルコール、アルデヒド、芳香族化合物、アミン類、ケトン類など、様々な種類の有機化合物を酸化分解することが可能である[非特許文献9など]。
【0004】
しかしながら、フェントン反応を用いた酸化分解法は、過酸化水素からラジカルを生成するための触媒として添加した金属イオンが金属塩として沈殿し、結果的に廃棄物量の増大に繋がることが問題視されていた[非特許文献10、11など]。たとえば、特許文献3、4には、フェントン反応の触媒である金属イオンを沈殿・除去する中和槽と沈殿槽とにより廃棄物を処理することが記載されている。このように、フェントン反応を用いた酸化分解法に関する技術では、フェントン反応の触媒である金属イオンを沈殿除去する方法や、沈殿した触媒の再利用方法など、酸化分解後の処理にスポットが当てられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−229450号公報
【特許文献2】特開2005−58854号公報
【特許文献3】特開2003−300083号公報
【特許文献4】特開平6−182362号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. F. Bishop, G. Stern, M. Fleischman and L. S. Marshall, Hydrogen peroxide catalytic oxidation of refractory organics in municipal wastewaters, Ind. Eng. Process Des. Dev.,1968,7(1),110−117
【非特許文献2】M. Muruganandham and M. Swaminathan, Decolourisation of Reactive Orange 4 by Fenton and photo−Fenton oxidation technology, Dyes Pigm.,2004,63,315−321
【非特許文献3】A. Ventura, G. Jacquet, A. Bermond and V. Camel, Electrochemical generation of the Fenton’s reagent: application to atrazine degradation, Water Res.,2002,36,3517−3522
【非特許文献4】X. Jian, T. Wu and G. Yun, A study of wet catalytic oxidation of radioactive spent ion exchange resin by hydrogen peroxide, Nucl. Safety,1996,37(2),149−157
【非特許文献5】J. P. Wilks and N. S. Holt, Wet oxidation of mixed organic and inorganic radioactive sludge wastes from a water reactor, Waste Manage., 1990,10,197−203
【非特許文献6】M. Vilve, A. Hirvonen and M. Sillanpaa, Effects of reaction conditions on nuclear laundry water treatment in Fenton process, J. Hazard. Mater.,2009,164,1468−1473
【非特許文献7】出水 丈志, 萩原 正弘, 大津 孝, 稲川 博文, 荒井 正幸, 放射性使用済イオン交換樹脂処理方法の開発, エバラ時報,2008,218,29−34
【非特許文献8】C. Srinivas, G. Sugilal and P. K. Wattal, Management of spent organic ion−exchange resins by photochemical oxidation, Proc. Waste Management ’03 Conf., Feb. 23−27,2003
【非特許文献9】R. J. Bigda, Consider Fenton’s chemistry for wastewater treatment, Chem. Eng. Prog., 1995 Dec,62−66
【非特許文献10】G.−m. Cao, M. Sheng, W.−f. Niu, Y.−l. Fei and D. Li, Regeneration and reuse of iron catalyst for Fenton−like reactions, J. Hazard. Mater., 2009,172,1446−1449
【非特許文献11】林 寛一, 中島 陽一, 太田 清久, 酸化鉄を用いる環境中有機化合物分解法の開発, 大阪府立産業技術総合研究所報告, 2007,21,79−83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、フェントン反応に用いる金属イオン触媒の沈殿を防ぎ、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解する有機化合物の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機化合物の処理方法は、有機化合物を含む汚水に、過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加し、フェントン反応により生成するラジカルにより上記有機化合物を酸化分解する有機化合物の処理方法であって、上記汚水に、上記過酸化水素と金属イオン(I1)との反応で生じた金属イオン(I2)が金属塩を形成して沈殿する際に化合するカウンターアニオンとは異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加し、上記汚水中に、上記汚水に添加した上記金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)における金属イオン(I1)に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、上記金属イオン(I1)および/または金属イオン(I2)から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機化合物の処理方法によれば、金属イオン触媒の沈殿を非常に効果的に抑制することができる。そのため、フェントン試薬として用いる金属イオン触媒の添加量を低減し、かつ、フェントン反応による有機化合物の分解処理においてしばしば発生するスラッジ等の沈殿物の量を劇的に低減することが可能である。
【0010】
また、本発明は、染色排水の脱色、難分解性有機物を含む廃水の分解処理、原子力施設での使用済みイオン交換樹脂の分解処理など、多様な種類の有機化合物の酸化分解処理に対して充分に効果を発揮する。
【0011】
さらに、本発明は、従来法においてフェントン反応による分解工程としばしば併用されているスラッジ等の沈殿物の除去工程の負荷を低減し、経済性の大幅な向上に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例2−1〜2−5および比較例2−1の結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の有機化合物の処理方法は、有機化合物を含む汚水に、過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加し、フェントン反応により生成するラジカルにより上記有機化合物を酸化分解する有機化合物の処理方法である。
【0014】
フェントン反応により酸化分解できる有機化合物としては、ギ酸、グルコン酸、乳酸等の有機酸;ベンジルアルコール、ターシャルブチルアルコール、グリセロール等のアルコール;アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ホルムアルデヒド等のアルデヒド;ベンゼン、クロロベンゼン、クロロフェノール等の芳香族化合物;アニリン、環状アミン、ジエチルアミン等のアミン;アントラキノン、ジアゾ、モノアゾ等の染料;テトラヒドロフラン等のエーテル;ジヒドロキシアセトン、メチルエチルケトン等のケトン;カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂等のイオン交換樹脂などが挙げられる。有機化合物は汚水中に1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0015】
上記汚水としては、上記有機化合物を含む生活排水、工業廃水が挙げられ、該工業廃水としては、具体的には染色排水、畜産排水、原子力施設等での水処理に用いたイオン交換樹脂を含む廃水などが挙げられる。
【0016】
上記化合物(A)としては、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)が好適に用いられる。以下、化合物(A)の例としてFe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)を用いて説明する。Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)としては、硫酸第一鉄(FeSO4)、フマル酸第一鉄、シュウ酸第一鉄、塩化第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、オロチン酸第一鉄、酢酸第一鉄、これらの水和物などが挙げられる。Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
この場合、フェントン反応により生成するラジカルはヒドロキシラジカル(・OH)である。すなわち、フェントン反応とは、下記式(1)のように、過酸化水素と、鉄(II)塩(a1)由来のFe2+とから強い酸化力を有するヒドロキシラジカルが生成する反応である。
【0018】
22 + Fe2+ → Fe3+ + OH- + ・OH (1)
このヒドロキシラジカルは、有機化合物が最終的に炭酸ガス(CO2)となるまで分解できる。
【0019】
本発明の有機化合物の処理方法は、上記汚水に、過酸化水素と金属イオン(I1)との反応で生じた金属イオン(I2)が金属塩を形成して沈殿する際に化合するカウンターアニオンとは異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加し、上記汚水中に、汚水に添加した上記化合物(A)における金属イオン(I1)に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量(化学当量)以上の量で存在させて、金属イオン(I1)および/または金属イオン(I2)から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含む。具体的には、上記有機化合物の処理方法は、上記汚水に、過酸化水素とFe2+との反応で生じたFe3+が金属塩Fe(OH)3を形成して沈殿する際に化合するカウンターアニオンであるヒドロキシアニオン(OH-)とは異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加し、上記汚水中に、汚水に添加した上記鉄(II)塩(a1)におけるFe2+に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、Fe2+および/またはFe3+から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含む。
【0020】
従来のフェントン反応を利用した有機化合物の処理方法では、たとえば下記式(2)のように、過酸化水素とFe2+との反応で生じたFe3+が金属塩Fe(OH)3を形成して沈殿するという問題があった。
【0021】
Fe3+ + 3OH- → Fe(OH)3↓ (2)
また、上記式(1)で表されるフェントン反応に続いていろいろな反応が起こると考えられている。それらの反応によりFe2+および/またはFe3+が酸化鉄を形成して沈殿するという問題もあった。このようにFe(OH)3および酸化鉄の沈殿物(スラッジ)が生じ始めると酸化分解が進まなくなるため、処理を続けるには、さらに過酸化水素および鉄(II)塩(a1)を加える必要が生ずる。結果として大量の沈殿物が発生し、効率よく有機化合物を処理することは困難であった。
【0022】
本発明では、上述のように上記汚水に化合物(B)を添加し、上記汚水中に上記異種のアニオンを特定の量以上で存在させる工程により、この問題を解決している。具体的には、上記汚水に化合物(B)を添加し、ヒドロキシアニオン(OH-)とは異種のアニオンを生成させる。そして、上記汚水中に、汚水に添加した上記鉄(II)塩(a1)におけるFe2+に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、Fe(OH)3等の沈殿を防止できる。なお、Fe(OH)3等の沈殿が防止できるのは、いわゆる異種イオン効果により、Fe(OH)3の溶解度が上昇するためと考えられる。
【0023】
また、上記式(1)でFe3+が生成した後、汚水中ではFe3+からFe2+への変換が起こると考えられる。なお、この変換は、以下の式(1−1)〜(1−5)で表わされる汚水中での反応によると考えられる。
【0024】
Fe3+ + H22 → FeOOH2+ + H+ (1−1)
FeOOH2+ → Fe2+ + ・OH2 (1−2)
22 + ・OH → ・OH2 + H2O (1−3)
Fe2+ + ・OH2 → Fe3+ + HO2c (1−4)
Fe3+ + ・OH2 → Fe2+ + O2 + H+ (1−5)
そして、Fe3+から変換されたFe2+と過酸化水素とからヒドロキシラジカルが新たに生成すると考えられる。このように、本発明では、上記工程を採用したことにより、沈殿物の発生が抑制でき、Fe3+からFe2+への変換が起こるため、従来の有機化合物の処理方法よりも、長時間処理を続けられる。結果として、鉄(II)塩(a1)の添加量が少なくて済み、効率よく有機化合物を処理できる。
【0025】
沈殿を効果的に防止させるためには、上記異種のアニオンを好ましくは1.5〜20倍当量の量で存在させることが望ましい。
【0026】
また、上記工程では、上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)は、汚水に対して、有機化合物の酸化分解を開始する前に、過酸化水素と、上記鉄(II)塩(a1)とともに添加してもよく、あるいは、より具体的には過酸化水素または上記鉄(II)塩(a1)よりも先に添加しておいてもよい。また、上記沈殿物の生成が有機化合物の酸化分解に対して問題とならない状態を維持できるのであれば、化合物(B)は、有機化合物の酸化分解を開始してから添加してもよい。さらに、上記異種のアニオンは、有機化合物の酸化分解を行っている間に生成すればよく、有機化合物の酸化分解を行っている間に上記の量で存在すればよい。すなわち、上記沈殿物の生成が有機化合物の酸化分解に対して問題とならない状態を維持できていればよい。
【0027】
また、本発明において、過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加した有機化合物を含む汚水のpHは、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3に調整し、フェントン反応により生成するラジカルにより有機化合物を酸化分解することが望ましい。pHが上記範囲にあると、ヒドロキシラジカルの発生を促進できる。また、有機化合物の酸化分解を行っている間中、pHを上記範囲にしておくことが好ましい。
【0028】
上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)は、好ましくは硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩および炭酸塩の少なくとも1種を含む。化合物(B)は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの化合物(B)を用いた場合、生成する異種のアニオンは、硫酸イオン(SO42-)、硝酸イオン(NO3-)、塩化物イオン(Cl-)、炭酸イオン(CO32-)である。
【0029】
具体的には、硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。硝酸塩としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウムが挙げられる。塩化物塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0030】
また、上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)は、スルホ基、ニトロ基、クロロ基およびカルボキシル基の少なくとも1種を有する有機化合物を含むことも好ましい。
【0031】
このような化合物(B)を用いると、化合物(B)の添加によって異種アニオンが速やかに生成し、沈殿物の生成が抑制されて、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できる利点がある。
【0032】
また、上記工程において、汚水のpHを上記範囲に調整するために、硫酸、硝酸、塩酸、苛性ソーダ等のpH調整剤を添加してもよい。なお、上記汚水中に存在させる上記異種のアニオンの量には、pH調整剤に由来するアニオンの量は含めない。いいかえると、上記汚水中に存在させる上記異種のアニオンの量は、化合物(A)および化合物(B)に由来するアニオンの合計量を意味する。
【0033】
さらに、上記工程において、Fe2+および/またはFe3+から形成される化合物の沈殿を防止する効果に影響を及ぼさない範囲で、汚水にオイル系、シリコン系、ポリマー系の消泡剤等を添加してもよい。
【0034】
以下に、本発明のさらに具体的な実施態様について説明する。
【0035】
<実施態様1>
本発明の実施態様1では、上記有機化合物を含む汚水が、染料を含む染色排水であり、上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)が、硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩および炭酸塩の少なくとも1種を含む。すなわち、本発明の実施態様1は、染料を含む染色排水に、過酸化水素と、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)とを添加し、フェントン反応により生成するヒドロキシラジカルにより上記染料を酸化分解する有機化合物の処理方法であって、上記染色排水に、上記過酸化水素とFe2+との反応で生じたFe3+が金属塩Fe(OH)3を形成して沈殿する際に化合するヒドロキシラジカルとは異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加し、上記排水中に、上記排水に添加した上記鉄(II)塩(a1)におけるFe2+に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、上記Fe2+および/またはFe3+から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含む。
【0036】
染料を含む染色排水としては、使用済みのアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系などの染料を含む排水が挙げられる。
【0037】
鉄(II)塩(a1)としては、排水に添加したときにFe2+を生成し得る化合物であればよく、化合物(B)としては、排水に添加したときにヒドロキシラジカルとは異種のアニオンを生成し得る化合物であればよいが、具体的には上述した化合物が挙げられる。
【0038】
本発明の実施形態1では、より詳細には、反応槽に排水を供給し、さらに過酸化水素と、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)と、異種のアニオンを生成し得る化合物(B)とを添加する。これにより、排水中で、鉄(II)塩(a1)からFe2+が生成し、次いでヒドロキシラジカルが発生し、染料の酸化分解が開始する。
【0039】
ここで、効率よく染料を酸化分解させるため、反応槽中の排水を攪拌することも好ましい。また、染料の酸化分解処理は、10〜40℃で行うことが好ましく、20〜30℃で行うことがより好ましい。
【0040】
染色排水のCOD(化学的酸素要求量)は、通常、0.1〜10g/Lである。
【0041】
Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)は、排水1Lに対して0.1〜10gの量で添加することが好ましい。
【0042】
過酸化水素は、排水の量に応じて適宜好ましい量で添加すればよいが、2〜70w/v%の過酸化水素水として添加することが好ましく、30〜70w/v%の過酸化水素水として添加することがより好ましい。
【0043】
また、フェントン反応の効率を高めるため、排水のpHは、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3に調整することが望ましい。pHを調整するため、たとえば硫酸、硝酸、塩酸などを添加する。また、染料の酸化分解処理を行っている間中、pHを上記範囲になるよう調整することが好ましい。さらに、排水を予めpH調整してから反応槽に供給してもよい。
【0044】
化合物(B)は、鉄(II)塩(a1)におけるFe2+に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で、好ましくは2〜100倍当量、より好ましくは2〜20倍当量の量で異種のアニオンが存在できるような量で添加する。なお、化合物(B)の添加により、排水中で異種のアニオンが速やかに生成するが、この異種アニオンには、鉄(II)塩(a1)から生成する異種アニオンも含まれる(ただし、pHを調整するために添加した硫酸などから生成するアニオンは含めない)。したがって、排水中にこれらの異種アニオンの合計量が上記範囲で存在するように、化合物(B)を添加することが好ましい。
【0045】
実施形態1では、排水中に異種アニオンが存在し、Fe2+および/またはFe3+から形成される化合物、すなわちFe(OH)3および酸化鉄の沈殿が防止できるため、染料の酸化処理を長時間持続できる。上記濃度で染料を含む排水であれば、通常1〜2時間処理を行うと充分に染料が分解できるが、実施形態1によれば、この間スラッジの沈殿が抑えられるため、効率よく廃水処理が行える。
【0046】
なお、排水、過酸化水素およびFe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)は、上述のように反応槽に一度に供給してもよいが、複数回に分けて供給したり、連続的に供給したりしてもよい。この場合も、染料、過酸化水素およびFe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)それぞれの合計量が上述した量となるように供給されることが好ましい。
【0047】
また、異種のアニオンを生成し得る化合物(B)は、上述のように、染料の酸化処理を開始する前に、過酸化水素およびFe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)とともに反応槽に添加してもよいが、上記沈殿物の生成が染料の酸化分解に対して問題とならない状態を維持できるのであれば、染料の酸化処理を開始してから添加してもよい。また、異種のアニオンを生成し得る化合物(B)は、上述のように反応槽に一度に供給してもよいが、上記沈殿物の生成が染料の酸化分解に対して問題とならない状態を維持できるのであれば、複数回に分けて供給したり、連続的に供給したりしてもよい。いいかえると、少なくとも染料の酸化処理を終了する前に、上記異種のアニオンが上記の量で存在するように添加されればよい。
【0048】
<実施形態2>
本発明の実施態様2では、上記有機化合物を含む廃水が、酸性基を有するカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含む廃水であり、上記有機化合物である上記酸性基を有するカチオン交換樹脂が、上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)と同一であり、ヒドロキシラジカルにより酸化分解されて、上記異種のアニオンとして酸性基由来のアニオンを生成し得るカチオン交換樹脂である。すなわち、本発明の実施態様2は、酸性基を有するカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含む廃水に、過酸化水素と、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)とを添加し、フェントン反応により生成するヒドロキシラジカルにより上記カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を酸化分解する有機化合物の処理方法である。ここで、上記廃水中に、上記過酸化水素とFe2+との反応で生じたFe3+が金属塩Fe(OH)3を形成して沈殿する際に化合するヒドロキシラジカルとは異種のアニオンであって、かつカチオン交換樹脂が有する酸性基由来のアニオンを生成させ、上記廃水中に、上記廃水に添加した上記鉄(II)塩(a1)におけるFe2+に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、上記Fe2+および/またはFe3+から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含む。
【0049】
廃水は、使用済みの酸性基を有するカチオン交換樹脂および塩基性基を有するアニオン交換樹脂を含む。これらのイオン交換樹脂基体は、たとえばスチレンとジビニルベンゼンとの共重合体である。カチオン交換樹脂が有する酸性基としては、たとえばスルホン酸基(−SO3-)である。なお、原子力施設では、水処理などに使用したカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を同じ貯蔵槽に貯めておくことが多い。実施形態2によれば、このように両者が混合して貯蔵されている交換樹脂を効率よく処理できる。また、貯蔵されている交換樹脂は難分解性であるため、従来、焼却などにより処理されているが、焼却法では窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)等の有害ガスが発生する問題があった。一方、フェントン反応による酸化分解では、これら有害ガスを発生させることなく交換樹脂を処理することができる。
【0050】
鉄(II)塩(a1)としては、廃水に添加したときにFe2+を生成し得る化合物であればよく、具体的には上述した化合物が挙げられる。
【0051】
本発明の実施形態2では、より詳細には、反応槽に使用済みのカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含む廃水を供給し、さらに過酸化水素と、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)とを添加する。これにより、汚水中で、鉄(II)塩(a1)からFe2+が生成し、次いでヒドロキシラジカルが発生し、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の酸化分解が開始する。このカチオン交換樹脂の酸化分解により、廃水中に、酸性基由来の異種アニオン、たとえばスルホン酸基(−SO3-)由来の硫酸イオンが生成する。
【0052】
ここで、効率よくカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を酸化分解させるため、反応槽中の廃水を攪拌することも好ましい。また、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の酸化分解処理は、90〜110℃で行うことが好ましい。
【0053】
原子力発電所の実際の廃棄物は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂およびクラッド等の固体と液体とが混在した状態で貯蔵タンクに入っている。廃水処理時、固体の濃度は通常10〜200g/Lに調整され、反応槽に供給される。また、通常カチオン交換樹脂は30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%の量で、アニオン交換樹脂は30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%の量で含まれる。ここで、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の合計量を100質量%とする。アニオン交換樹脂の比率が高くなるにつれて本発明によるFe(OH)3の沈殿防止の効果が得られる。
【0054】
Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)は、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含む廃水1Lに対して0.001〜0.1molの量で添加することが好ましく、0.005〜0.02molの量で添加することがより好ましい。
【0055】
過酸化水素は、廃水に含まれるイオン交換樹脂の量に応じて適宜好ましい量で添加すればよいが、2〜70w/v%の過酸化水素水として添加することが好ましく、30〜70w/v%の過酸化水素水として添加することがより好ましい。
【0056】
また、フェントン反応の効率を高めるため、汚水のpHは、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3に調整することが望ましい。pHを調整するため、たとえば硫酸、硝酸、塩酸などを添加する。また、上記イオン交換樹脂の酸化分解処理を行っている間中、pHを上記範囲になるよう調整することが好ましい。さらに、廃水を予めpH調整してから反応槽に供給してもよい。
【0057】
実施形態2では、廃水中に、鉄(II)塩(a1)におけるFe2+に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で、好ましくは2〜100倍当量、より好ましくは2〜50倍当量の量で異種のアニオンを存在させる。なお、この異種アニオンとしては、カチオン交換樹脂の酸化分解により生成する酸性基由来のアニオンのほか、鉄(II)塩(a1)から生成する異種アニオンも含まれる(ただし、pHを調整するために添加した硫酸などから生成するアニオンは含めない)。ここで、廃水中の固体の濃度、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の割合、鉄(II)塩(a1)の量が上記範囲内となっていることにより、廃水中でのこれらの異種アニオンの合計量も上記範囲内に調整できる。
【0058】
実施形態2では、廃水中に異種アニオンが存在し、Fe2+および/またはFe3+から形成される化合物、すなわちFe(OH)3の沈殿が防止できるため、上記イオン交換樹脂の酸化処理を長時間持続できる。上記濃度でイオン交換樹脂を含む廃水であれば、通常5〜10時間処理を行うと充分にイオン交換樹脂が分解できるが、実施形態2によれば、この間スラッジの沈殿が抑えられるため、効率よく廃水処理が行える。また、実施形態2によれば、酸化分解したいカチオン交換樹脂が、異種イオンの供給源ともなる利点がある。なお、実施形態2では、上記イオン交換樹脂の酸化分解開始時には、廃水中に異種のアニオンとしての酸性基由来のアニオンは生成していないが、フェントン反応によりカチオン交換樹脂が酸化分解するにつれて速やかに酸性基由来のアニオンが生成する。このように酸性基由来のアニオンがある程度の量で生成するときまでは、Fe(OH)3および酸化鉄の沈殿は、イオン交換樹脂の酸化分解に問題となるほどには通常起こらない。
【0059】
なお、廃水、過酸化水素およびFe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)は、上述のように反応槽に一度に供給してもよいが、複数回に分けて供給したり、連続的に供給したりしてもよい。この場合も、イオン交換樹脂、過酸化水素およびFe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)それぞれの合計量が上記の量となるように供給されることが好ましい。
【0060】
ところで、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の割合や、廃水中のカチオン交換樹脂が有する酸性基の量などによっては、廃水中に異種アニオンを上記範囲の量で存在させることができない場合もあり得る。この場合は、反応槽に使用済みのカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含む廃水を供給し、さらに過酸化水素と、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)とを添加するとともに、実施形態1で用いた異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加してもよい。このようにして、汚水中での異種アニオンの量を調整してもよい。
【0061】
また、異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を併用する場合は、上記オン交換樹脂の酸化処理を開始する前に、過酸化水素およびFe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)とともに反応槽に添加してもよいが、上記沈殿物の生成がイオン交換樹脂の酸化分解に対して問題とならない状態を維持できるのであれば、上記イオン交換樹脂の酸化処理を開始してから添加してもよい。また、異種のアニオンを生成し得る化合物(B)は、上述のように反応槽に一度に供給してもよいが、上記沈殿物の生成がイオン交換樹脂の酸化分解に対して問題とならない状態を維持できるのであれば、複数回に分けて供給したり、連続的に供給したりしてもよい。いいかえると、少なくとも上記オン交換樹脂の酸化処理を終了する前に、上記異種のアニオンが上記の量で存在するように添加されればよい。
【0062】
<その他の実施形態>
実施形態1、2において、鉄(II)塩(a1)の代わりに銅(I)塩(a2)を用いてもよい。この場合のフェントン反応は、下記式(3)で表わされる。
【0063】
22 + Cu+ → Cu2+ + OH- + ・OH
また、実施形態1、2において、有機化合物を酸化分解処理した後の廃水に、さらに、Fe2+および/またはFe3+を除去するための処理を行ってもよい。
【0064】
実施形態1において、染料を含む染色排水の代わりに、難分解性の有機化合物を含む畜産廃水や、窒素やリンを有する有機化合物を含む生活排水を用いてもよく、また、ベンゼン、トルエン、ホルムアルデヒド等の健康を害する恐れのある揮発性有機化合物(VOC)を含む地下水などを用いてもよい。いずれの場合も、フェントン反応に用いる金属イオン触媒の沈殿を防ぎ、このような有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できる。
【0065】
本発明は、以下に関する。
【0066】
[1] 有機化合物を含む汚水に、過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加し、フェントン反応により生成するラジカルにより上記有機化合物を酸化分解する有機化合物の処理方法であって、上記汚水に、上記過酸化水素と金属イオン(I1)との反応で生じた金属イオン(I2)が金属塩を形成して沈殿する際に化合するカウンターアニオンとは異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加し、上記汚水中に、上記汚水に添加した上記化合物(A)における金属イオン(I1)に対して、上記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、上記金属イオン(I1)および/または金属イオン(I2)から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含むことを特徴とする有機化合物の処理方法。
【0067】
上記化合物の沈殿を防止する工程を含むため、沈殿物の生成が抑制されて、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できる。
【0068】
[2] 上記フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)が、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)であり、上記フェントン反応により生成するラジカルがヒドロキシラジカルであることを特徴とする[1]に記載の処理方法。
【0069】
Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)を用いたフェントン反応により、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できる。
【0070】
[3] 上記過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加した有機化合物を含む汚水のpHを1〜5に調整し、フェントン反応により生成するラジカルにより上記有機化合物を酸化分解することを特徴とする[1]または[2]に記載の処理方法。
【0071】
汚水のpHを上記範囲にすることにより、ヒドロキシラジカルを効率よく発生できる。
【0072】
[4] 上記有機化合物を含む汚水が、酸性基を有するカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含む廃水であり、上記有機化合物である上記酸性基を有するカチオン交換樹脂が、上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)と同一であり、ヒドロキシラジカルにより酸化分解されて、上記異種のアニオンとして酸性基由来のアニオンを生成し得るカチオン交換樹脂であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載の有機化合物の処理方法。
【0073】
酸性基を有するカチオン交換樹脂が酸化分解するにつれて生成する異種アニオンにより、沈殿物の生成が抑制されて、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できる。
【0074】
[5] 上記有機化合物を含む汚水が、染料を含む染色排水であり、上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)が、硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩および炭酸塩の少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載の有機化合物の処理方法。
【0075】
化合物(B)が生成する異種アニオンにより、沈殿物の生成が抑制されて、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できる。
【0076】
[6] 上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)が、硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩および炭酸塩の少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載の処理方法。
【0077】
[7] 上記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)が、スルホ基、ニトロ基、クロロ基およびカルボキシル基の少なくとも1種を有する有機化合物を含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載の処理方法。
【0078】
これらの化合物(B)によれば、異種アニオンが速やかに生成し、沈殿物の生成が抑制されて、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できる。
【0079】
[実施例]
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液(COD約900mg/L)に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gと、異種アニオンの供給剤として硫酸ナトリウム10gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.3の条件で1時間の分解試験を行った。前記の分解試験の実施の前後において、廃液の透過率の変化と廃液中の鉄イオン濃度の変化を測定した。ただし、原液の透過率は0%である。透過率は、ベックマンコールター社製紫外・可視分光光度計DU 730により、波長625nmで測定し、鉄イオン濃度は、エスアイアイナノテクノロジー社製ICP発光分光分析装置SPS5520で測定した。
【0081】
なお、pHの調整は、0.5mol/L硫酸水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、実施例1では、硫酸第一鉄七水和物塩および硫酸ナトリウムに由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、4.5倍当量の量で存在していた。
【0082】
[比較例1](従来法)
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.3の条件で1時間の分解試験を行った。ただし、原液の透過率は0%である。透過率および鉄イオン濃度の変化は、実施例1と同様の方法で測定した。
【0083】
なお、pHの調整は、0.5mol/L硫酸水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、比較例1では、硫酸第一鉄七水和物塩に由来する異種アニオン(硫酸イオン)が、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、1倍当量の量で存在していた。
【0084】
以上のようにして得られた実施例1および比較例1における透過率および鉄イオン濃度の測定結果は、表1に示す通りである。
【0085】
【表1】

【0086】
[実施例2−1]
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gと、異種アニオンの供給剤として硫酸ナトリウム1.5gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.0の条件で1時間の分解試験を行った。前記の分解試験の実施の前後において、廃液の透過率の変化と廃液中の鉄イオン濃度の変化を測定した。ただし、原液の透過率は0%である。透過率は、ベックマンコールター社製紫外・可視分光光度計DU 730により、波長625nmで測定し、鉄イオン濃度は、エスアイアイナノテクノロジー社製ICP発光分光分析装置SPS5520で測定した。
【0087】
なお、pHの調整は、0.5mol/L硫酸水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、実施例2では、硫酸第一鉄七水和物塩および硫酸ナトリウムに由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、1.5倍当量の量で存在していた。
【0088】
[実施例2−2〜2−5]
実施例2−2〜2−5は、染色廃液1Lに対して、異種アニオンの供給剤として硫酸ナトリウム1.5gを用いる変わりに、硫酸ナトリウム3.0g、6.0g、12gまたは18gを用いた以外は、実施例2−1と同様に行った。
【0089】
実施例2−2〜2−5では、硫酸第一鉄七水和物塩および硫酸ナトリウムに由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、2、3、5または7倍当量の量で存在していた。
【0090】
また、実施例2−1〜2−5では、分解試験の実施後において、廃液の透過率は、99%であった。
【0091】
[比較例2](従来法)
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.3の条件で1時間の分解試験を行った。ただし、原液の透過率は0%である。透過率および鉄イオン濃度の変化は、実施例2−1と同様の方法で測定した。
【0092】
比較例2では、硫酸第一鉄七水和物塩に由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、1倍当量の量で存在していた。
【0093】
以上のようにして得られた実施例2−1〜2−5および比較例2における鉄イオン濃度の測定結果は、図1に示す通りである。なお、図1におけるプロットは、左から順に、比較例2、実施例2−1〜2−5の結果を表している。
【0094】
[実施例3]
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gと、異種アニオンの供給剤として硝酸ナトリウム17gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.3の条件で2時間の分解試験を行った。前記の分解試験の実施の前後において、廃液の透過率の変化と廃液中の鉄イオン濃度の変化を測定した。ただし、原液の透過率は0%である。透過率は、ベックマンコールター社製紫外・可視分光光度計DU 730により、波長625nmで測定し、鉄イオン濃度は、エスアイアイナノテクノロジー社製ICP発光分光分析装置SPS5520で測定した。
【0095】
なお、pHの調整は、0.5mol/L硫酸水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、実施例3では、硫酸第一鉄七水和物塩および硝酸ナトリウムに由来する異種アニオン(硫酸イオンおよび硝酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、11倍当量の量で存在していた。
【0096】
[比較例3](従来法)
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.3の条件で2時間の分解試験を行った。ただし、原液の透過率は0%である。透過率および鉄イオン濃度の変化は、実施例3と同様の方法で測定した。
【0097】
なお、pHの調整は、0.5mol/L硫酸水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、比較例3では、硫酸第一鉄七水和物塩に由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、1倍当量の量で存在していた。
【0098】
以上のようにして得られた実施例3および比較例3における透過率および鉄イオン濃度の測定結果は、表2に示す通りである。
【0099】
【表2】

【0100】
[実施例4]
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gと、異種アニオンの供給剤として硫酸マグネシウム七水和物25gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.3の条件で2時間の分解試験を行った。前記の分解試験の実施の前後において、廃液の透過率の変化と廃液中の鉄イオン濃度の変化を測定した。ただし、原液の透過率は0%である。透過率は、ベックマンコールター社製紫外・可視分光光度計DU 730により、波長625nmで測定し、鉄イオン濃度は、エスアイアイナノテクノロジー社製ICP発光分光分析装置SPS5520で測定した。
【0101】
なお、pHの調整は、0.5mol/L硫酸水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、実施例4では、硫酸第一鉄七水和物塩および硫酸マグネシウム七水和物に由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、6倍当量の量で存在していた。
【0102】
[比較例4](従来法)
染料として、ダイスター社製のレバフィックスターコイズブルー E−BA(Levafix Turquoise Blue E−BA)を1.6g/L含有する染色廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、フェントン試薬として硫酸第一鉄七水和物塩6.0gと、35%過酸化水素水18gとを添加し、温度25〜30℃、pH=2.3の条件で2時間の分解試験を行った。ただし、原液の透過率は0%である。透過率および鉄イオン濃度の変化は、実施例4と同様の方法で測定した。
【0103】
なお、pHの調整は、0.5mol/L硫酸水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、比較例4では、硫酸第一鉄七水和物塩に由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、1倍当量の量で存在していた。
【0104】
以上のようにして得られた実施例4および比較例4における透過率および鉄イオン濃度の測定結果は、表3に示す通りである。
【0105】
【表3】

【0106】
[実施例5]
難分解性有機物であるアニオン交換樹脂(C1218NOH)65g/Lおよびカチオン交換樹脂(C87SO3H)55g/Lを含有する廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、硫酸第一鉄七水和物塩5.6gを添加し、35%過酸化水素水を150ml/hで連続供給しながら、温度95〜105℃、pH=1〜3の条件で8時間の分解試験を行った。前記の分解試験の実施の前後において、廃液中の有機炭素の分解率と鉄イオン濃度の変化を測定した。有機炭素の分解率は、島津製全有機体炭素計TOC−500Aで測定し、鉄イオン濃度は、エスアイアイナノテクノロジー社製ICP発光分光分析装置SPS5520で測定した。また、硫酸イオン濃度は、ダイオネクス社製イオンクロマトグラフICS−3000で測定した。
【0107】
なお、pHの調整は、64%硫酸水溶液および25%苛性ソーダ水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、実施例5では、硫酸第一鉄七水和物塩、カチオン交換樹脂に由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、試験前は1倍当量の量で存在しており、試験終了時は8倍当量の量で存在していた。このように、試験中に、カチオン交換樹脂の酸化分解により、スルホン酸基(−SO3-)由来の硫酸イオンが生成したと考えられる。
【0108】
[実施例6]
難分解性有機物であるアニオン交換樹脂(C1218NOH)60g/Lおよびカチオン交換樹脂(C87SO3H)60g/Lを含有する廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、硫酸第一鉄七水和物塩5.6gを添加し、35%過酸化水素水を150ml/hで連続供給しながら、温度95〜105℃、pH=1〜3の条件で8時間の分解試験を行った。前記の分解試験の実施の前後において、廃液中の有機炭素の分解率と鉄イオン濃度の変化を測定した。有機炭素の分解率は、島津製全有機体炭素計TOC−500Aで測定し、鉄イオン濃度は、エスアイアイナノテクノロジー社製ICP発光分光分析装置SPS5520で測定した。また、硫酸イオン濃度は、ダイオネクス社製イオンクロマトグラフICS−3000で測定した。
【0109】
なお、pHの調整は、64%硫酸水溶液および25%苛性ソーダ水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、実施例6では、硫酸第一鉄七水和物塩、カチオン交換樹脂に由来する異種アニオン(硫酸イオン)は、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、試験前は1倍当量の量で存在しており、試験終了時は8.5倍当量の量で存在していた。このように、試験中に、カチオン交換樹脂の酸化分解により、スルホン酸基(−SO3-)由来の硫酸イオンが生成したと考えられる。
【0110】
[比較例5](従来法)
難分解性有機物であるアニオン交換樹脂(C1218NOH)130g/Lを含有する廃液に対して、以下の条件でフェントン反応による分解試験を行った。即ち、染色廃液1Lに対して、硫酸第一鉄七水和物塩5.6gを添加し、35%過酸化水素水を180ml/hで連続供給しながら、温度95〜105℃、pH=1〜3の条件で8時間の分解試験を行った。廃液中の有機炭素分解率および鉄イオン濃度の変化は、実施例5と同様の方法で測定した。
【0111】
なお、pHの調整は、64%硫酸水溶液および25%苛性ソーダ水溶液により行い、廃液のpHは、堀場製作所製pHメータF−51を用いて測定した。また、比較例5では、試験前および試験終了時ともに、硫酸第一鉄七水和物塩に由来する異種アニオン(硫酸イオン)が、廃液中に硫酸第一鉄七水和物塩のFe2+に対して、1倍当量の量で存在していた。
【0112】
以上のようにして得られた実施例5、6および比較例5における有機炭素分解率および鉄イオン濃度の測定結果は、表4に示す通りである。
【0113】
【表4】

【0114】
上記実施例の結果から明らかなように、本発明では、有機化合物の分解を行った後でも、鉄イオン濃度があまり減少せず、沈殿物の生成が抑えられているため、有機物化合物を効率的かつ持続的に分解できることが分かる。
【0115】
なお、実施例で測定した鉄イオン濃度はFe2+のほかFe3+を合計した濃度である。このため、本発明の実施例では、Fe2+ではなくFe3+の状態であっても沈殿せずに汚水中に存在していることが分かる。このFe3+は上記式(1−1)〜(1−5)により再びFe2+に変換され、さらに上記式(1)により新たなヒドロキシラジカルを発生できると考えられる。したがって、本発明の実施例では、さらに汚水を追加して、その中の有機物化合物を持続的に分解することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、生活排水および工業廃水に含まれる有機物化合物を酸化分解し無害化することができる。また、本発明は、繊維・染物産業の染色排水および畜産排水の酸化分解による脱色処理や、使用済みイオン交換樹脂等の難分解性有機物の酸化分解による処理にも適用できる。さらに、揮発性有機化合物(VOC)を酸化分解し無害化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を含む汚水に、過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加し、フェントン反応により生成するラジカルにより前記有機化合物を酸化分解する有機化合物の処理方法であって、
前記汚水に、前記過酸化水素と金属イオン(I1)との反応で生じた金属イオン(I2)が金属塩を形成して沈殿する際に化合するカウンターアニオンとは異種のアニオンを生成し得る化合物(B)を添加し、
前記汚水中に、前記汚水に添加した前記化合物(A)における金属イオン(I1)に対して、前記異種のアニオンを1.5倍当量以上の量で存在させて、前記金属イオン(I1)および/または金属イオン(I2)から形成される化合物の沈殿を防止する工程を含むことを特徴とする有機化合物の処理方法。
【請求項2】
前記フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)が、Fe2+を生成し得る鉄(II)塩(a1)であり、前記フェントン反応により生成するラジカルがヒドロキシラジカルであることを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記過酸化水素と、フェントン反応を起こすための金属イオン(I1)を生成し得る化合物(A)とを添加した有機化合物を含む汚水のpHを1〜5に調整し、フェントン反応により生成するラジカルにより前記有機化合物を酸化分解することを特徴とする請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記有機化合物を含む汚水が、酸性基を有するカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を含む廃水であり、
前記有機化合物である前記酸性基を有するカチオン交換樹脂が、前記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)と同一であり、ヒドロキシラジカルにより酸化分解されて、前記異種のアニオンとして酸性基由来のアニオンを生成し得るカチオン交換樹脂である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機化合物の処理方法。
【請求項5】
前記有機化合物を含む汚水が、染料を含む染色排水であり、
前記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)が、硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩および炭酸塩の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機化合物の処理方法。
【請求項6】
前記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)が、硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩および炭酸塩の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記異種のアニオンを生成し得る化合物(B)が、スルホ基、ニトロ基、クロロ基およびカルボキシル基の少なくとも1種を有する有機化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−5996(P2012−5996A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146359(P2010−146359)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】