フォトニック結晶を含む発光構造体
本発明は、能動発光体(111、121、141)と、その発光体を取り囲む受動フォトニック結晶構造体(114、134、144、154)とを含む発光構造体(110、120、130、140、150)に関する。受動フォトニック結晶構造体は、電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である。また、本発明は、そのような発光構造体を含む白熱電球(110、200)も開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、白熱電球で利用するためのフォトニック結晶を含む発光構造体に関する。より詳細には、本発明は、スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である受動フォトニック結晶構造体によって取り囲まれている能動発光体を含む発光構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
従来の白熱電球では、2つの電気的接点間にフィラメントが設けられ、そのフィラメントを介して接点間に電流が流れる。フィラメント材料の電気抵抗が、フィラメントに熱を発生させる。白熱電球内の典型的なフィラメントは、約2500 K〜約3000 Kの間で機能する。加熱されたフィラメントは、ある波長範囲にわたる電磁放射を放射し、その波長の一部が電磁スペクトルの可視領域内にある。所与の温度における従来のフィラメントの発散度は、黒体放射の場合のプランクの式によって近似することができる。
【0003】
従来の白熱電球は、高品質で、安価な照明を提供するが、極めて非効率的である。フィラメントに供給されるエネルギーの約5〜10 %しか、スペクトルの可視領域(すなわち、約380 nm〜約780 nm)内の波長の電磁放射に変換されない。大部分のエネルギーは、スペクトルの赤外線領域内(すなわち、約780 nm〜約3000 nm)の放射線に変換され、熱として空費される。
【0004】
トーマス・エジソンによって最初に白熱電球が発明されたときから、新たな方法、材料及び構造体を見つけて、スペクトルの可視領域において放射される電磁放射の量を増大し、かつ可視領域以外において放射される放射量を最小限に抑え、それによって電球の効率を改善するための、かなりの研究が行われてきた。
【0005】
1911年に白熱フィラメントとして最初に使用されてから、その放射特性の結果として、タングステンは依然として最適な材料であり続けている。真の黒体は自然には存在しない。しかしながら、材料の放射特性は、黒体放射に関するプランクの式の中に材料の放射率に対する係数又は変数を導入することによって表すことができる。放射率は、真の黒体の理論的なスペクトル放射発散度に対する材料のスペクトル放射発散度(すなわち、単位面積当たり、単位波長当たりの放射出力)の比である。所与の材料に対する放射率は一定ではなく、波長、観測角度及び材料の温度とともに変化することがある。タングステンの放射率は、波長とともに変化し、赤外線領域においてよりも、電磁スペクトルの可視領域において高くなり(すなわち、真の黒体よりも可視領域において、より多くの電磁放射を放射し)、それによって、白熱電球において使用するための最適な材料となる。
【0006】
白熱電球の効率を高めることを対象とする他の発明は、フィラメントをコイル状に巻いてコイル構造体にすること、及び電球のバルブをハロゲンガスで満たすことを含む。さらに、可視領域内の放射線に対して透明であるが、赤外線領域内の放射線に対して反射性である材料の被覆を白熱電球のバルブに適用し、フィラメントによって放射される赤外線放射を反射してフィラメントそのものに戻し、それによって、フィラメントをさらに加熱することができる。
【0007】
最近になって、白熱発光体としてフォトニック結晶を利用することが研究されている。フォトニック結晶は、構造体全体にわたって周期的に散在し、誘電率が異なる少なくとも2つの材料を含む構造体である。フォトニック結晶は、古典的な黒体とは異なり、結晶が加熱されると、ある波長範囲にわたって連続して放射線を放射しないことがある。フォトニック結晶は、ある特定の周波数において強く放射するが、その結晶が古典的な黒体であったなら放射するであろうことが予想される波長範囲においてはたとえあったにしても、放射は弱い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
白熱電球の効率は時間をかけて改善されてきたが、相変わらず、大量のエネルギーが、スペクトルの可視領域以外の電磁放射として放射されている。このエネルギーは無駄にされ、従来の白熱電球が非効率的であることの一因になっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[発明の概要]
本発明は、いくつかの実施形態において、能動発光体と、その発光体を取り囲む受動フォトニック結晶構造体とを含む、発光構造体を含む。受動フォトニック結晶構造体は、電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である。本発明は、本明細書において開示する本発明による発光構造体を含む白熱電球も含む。
【0010】
本発明の特徴、利点及び代替の態様は、添付の図面とあわせて以下の詳細な説明を検討することから当業者には明らかになるであろう。
【0011】
本明細書には特許請求の範囲が添付されており、その特許請求の範囲は、本発明と見なされるものを特に指摘し、かつ明確に特許請求しているが、本発明の利点は、添付の図面とあわせて読むときに、本発明の以下の説明から、さらに容易に確かめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[発明の詳細な説明]
本発明は、いくつかの実施形態において、白熱電球において使用するための発光構造体と、そのような構造体を含む白熱電球とを含む。本明細書において開示する発光構造体は、電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である受動フォトニック結晶構造体によって取り囲まれている能動発光体を含む。
【0013】
本明細書において開示する本発明の例示的な実施形態は、スペクトルの可視領域以外の電磁放射として白熱電球から放射される、空費されるエネルギーの量を減らす。
【0014】
1つの例示的な白熱電球100を図2に示し、それには、ガラス球102と、従来の導電性のねじ式基部104と、ねじ式基部104と電気的に接続されている電気的接点106と、電気的接点106間に延在する1つの例示的な発光構造体110とが備えられている。代替的には、白熱電球100は、白熱電球のための任意の他の既知の設計として構成することができることに留意されたい。
【0015】
例示的な発光構造体110の概略的な断面図を図3Aに示す。発光構造体110は能動発光体111を含む。能動発光体111は、たとえば、タングステン、タングステン合金、炭素、又は加熱されることにより、スペクトルの可視領域において放射線を放射し、かつ材料の高い動作温度において構造的完全性を示す任意の他の材料から形成される従来の細長いフィラメントを含む。
【0016】
また、発光構造体110は受動フォトニック結晶構造体114を含み、それは、能動発光体111を周方向において取り囲む赤外線反射体として機能する。
【0017】
フォトニック結晶は、構造体の1つの方向において誘電率が周期性を示すように、第1の誘電率を有する材料を、異なる第2の誘電率を有する基材の中に周期的に散在させることによって形成されている。1次元のフォトニック結晶は、1つの方向においてのみ誘電率の周期性を示す3次元構造体である。ブラッグ反射鏡(分布ブラッグ反射鏡)は1次元のフォトニック結晶の既知の例である。ブラッグ反射鏡の交互に配置されている薄い層は異なる誘電率を有する。いくつかの薄い層を組み合わせたものが、それらの薄い層の平面に対して直交する方向において誘電率の周期性を示す3次元構造体を形成する。それらの層の平面に対して平行な方向では、周期性は示されない。
【0018】
2次元のフォトニック結晶は、第1の誘電率を有する第1の材料のロッド、カラム又はファイバを、異なる第2の誘電率を有する基材の中に周期的に散在させることによって形成することができる。2次元のフォトニック結晶は、ロッド、カラム又はファイバの長軸に対して垂直な方向において誘電率の周期性を示すが、長軸に対して平行な方向では示さない。
【0019】
最後に、3次元のフォトニック結晶は、第1の誘電率を有する第1の材料からなる小さな球体又は他の空間的に閉じ込められた領域を、異なる第2の誘電率を有する第2の材料の基材の中に周期的に散在させることによって形成することができる。3次元のフォトニック結晶は、その結晶の全ての方向において誘電率の周期性を示す。
【0020】
フォトニック結晶構造体は、入射する放射線が周期的な誘電体界面においてブラッグ散乱を受けることに起因して、フォトニックバンドギャップ、すなわち、構造体の内部において放射が存在することを禁止される波長範囲を示す。言い換えると、結晶が誘電率の周期性を示す方向において、放射線が結晶に入射すると、その結晶によって、ある波長範囲の放射線が反射される。
【0021】
有限差分時間領域法を利用して、結晶の造作寸法と、その造作内の対応する誘電率とを含む計算格子上で、フルベクトル時間依存マクスウエル方程式を解いて、任意の所与の結晶の内部においてどの波長が存在することを禁止されるかを求めることができる。
【0022】
発光構造体110の受動フォトニック結晶構造体114は、能動発光体111の長軸に対して平行な基材116を介して延在する細長い受動ファイバ115を設けることによって形成されている2次元のフォトニック結晶構造体を含む。受動ファイバ115を、たとえば、炭素、炭化シリコン、シリカ、アルミナ、チタニアのような誘電体材料、又は細長いフィラメントとして形成されている任意の他の誘電体材料から形成することができる。代替的には、受動ファイバ115を、たとえば、銀、金、タングステン、銅のような金属、又は任意の他の金属又は合金から形成することができる。金属材料を含むフォトニック結晶構造体は、誘電体材料から形成されている構造体よりも広いバンドギャップを示すことがある。しかしながら、金属結晶構造体は、結果として、誘電体材料から形成されている結晶構造体に対して可視放射線の減衰が大きくなることがある。受動ファイバ115は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の直径を有する。基材116は、たとえば、空気、シリカ、炭化シリコン、窒化シリコン、アルミナ、又は受動ファイバ115の材料の誘電率とは異なる誘電率を有し、かつ必要とされる動作温度において構造的完全性を示す任意の他の材料を含む。受動ファイバ115は、基材116全体を通して周期的に散在し、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いから離隔されている。
【0023】
図3Aに示すように、中間材料層117を、能動発光体111と受動フォトニック結晶構造体114との間に配置することができる。中間材料層117は、絶縁性であり、かつスペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明でなければならない。中間材料層117は、たとえば、シリカ、又は任意の他の適切な材料から形成される。代替的には、図3Bに示すように、中間材料層117を省くことができ、能動発光体111の外側表面の直ぐ隣に受動フォトニック結晶構造体114を設けることができる。
【0024】
図3Aを参照すると、受動フォトニック結晶構造体114は、図に示す横断面の平面に対して平行な方向において、誘電率の周期性を示している。受動フォトニック結晶構造体114を、スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明とすることができる。しかしながら、受動フォトニック結晶構造体114は、赤外線領域内のような、可視領域以外の波長範囲にわたってフォトニックバンドギャップを示す。たとえば、受動フォトニック結晶構造体114は、約700 nmと約1000 nmの間のフォトニックバンドギャップを示す。
【0025】
能動発光体111は、白熱電球100を電源に接続し、能動発光体111に電流を流すことによって加熱される。能動発光体111の電気抵抗が熱を発生させることになる。能動発光体111が熱くなる(たとえば、概ね1500 Kよりも高くなる)と、スペクトルの可視領域内の波長を含む、ある波長範囲にわたって放射線が放射される。しかしながら、その放射線の大部分は、スペクトルの可視領域以外の波長、典型的には赤外線領域内の波長において放射される。たとえば、能動発光体111が2500 Kの温度にあるとき、図1において2500 Kに対応する線によって概ね示されるような放射線が放射され、図1は、ある波長範囲にわたる黒体の理論的な放射出力を示している。
【0026】
したがって、受動フォトニック結晶構造体114のフォトニックバンドギャップ内(すなわち、約700 nmと約10000 nmの間)の波長において能動発光体111によって放射される電磁放射は内部反射されることがある。図3Aは、赤外線放射118が内部反射するように示し、可視放射119が受動フォトニック結晶構造体114を透過するように示す。反射される赤外線放射118は、能動発光体111によって吸収され、それによって、能動発光体111がさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。発光構造体110の結果として生成される近似的なスペクトル発散度の1つの例示的なグラフを、全体として図9に示す。
【0027】
受動フォトニック結晶構造体114は、複数の同心状の管状の領域(図示せず)を含み、各管状領域は、異なる直径と、その間に異なる間隔とを有する受動ファイバ115を含む。そのような構成では、各領域は、他の領域のバンドギャップとは異なる波長範囲に及ぶフォトニックバンドギャップを示す。複数の領域を含むことによって、複数の領域のバンドギャップが重なり合い、それによって、受動フォトニック結晶構造体114の実効的なバンドギャップを広くし、かつ発光構造体110の効率を改善することができる。
【0028】
1つの例示的な発光構造体120の概略的な断面図を図4に示し、それは、図2の例示的な白熱電球100において使用することができる。発光構造体120は、能動フォトニック結晶発光体121と、能動フォトニック結晶発光体121を取り囲む受動フォトニック結晶構造体114(発光構造体110に関連して先に説明した)とを含む。また、発光構造体120は、中間材料層117(発光構造体110に関連して先に説明した)を含む。
【0029】
能動フォトニック結晶発光体121は、基材123の中に延在する細長い能動ファイバ122を設けることによって形成される2次元のフォトニック結晶構造体を含む。能動ファイバ122は、たとえば、タングステン、タングステン合金、炭素、炭化シリコン、又はファイバとして形成することができかつ加熱されると可視領域において放射線を放射することになる任意の他の材料から形成することができる。能動ファイバ122は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の直径を有する。基材123は、空気、シリカ、窒化シリコン、又は能動ファイバ122の材料の誘電率とは異なる誘電率を有する任意の他の材料を含む。能動ファイバ122は、基材123全体を通して周期的に散在し、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いから離隔されている。代替的には、基材123は、たとえば、タングステン又はタングステン合金を含み、能動ファイバは、たとえば、空気、シリカ又は窒化シリコンの細長いカラムを含む。
【0030】
加熱される場合に、フォトニック結晶構造体は、そのフォトニックバンドギャップ内の波長において放射線を放射しないことがある。フォトニック結晶が黒体であるならば、これらの波長において放射線が放射されるであろう。たとえば、能動フォトニック結晶発光体は、図10のグラフにおいて示すような、スペクトル放射発散度を示す。したがって、赤外線領域内の波長に及ぶバンドギャップを有するフォトニック結晶は、従来の白熱フィラメントに対して改善された白熱発光体として使用される。能動フォトニック結晶発光体は、図1と図10のグラフを比較することによって明らかなように、スペクトルの赤外線領域において放射する放射線が少ないので、黒体に近い従来のフィラメント発光体(たとえば、発光体110)よりも効率的である。
【0031】
しかしながら、能動フォトニック結晶発光体であっても、赤外線領域内のような、スペクトルの可視領域以外の波長においてある量の放射線を放射することがある。たとえば、能動フォトニック結晶発光体のフォトニックバンドギャップは、スペクトルの赤外線領域の全範囲に及ばないことがある。さらに、放射される放射線が結晶の少なくとも2つの層を通過しない場合、誘電率の周期性を受けないので、能動フォトニック結晶発光体の最も外側にある層は、黒体によって放射される放射線に近い放射線を放射することがある。したがって、全体として能動フォトニック結晶発光体によって示されるフォトニックバンドギャップ内の波長において、能動フォトニック結晶発光体の最も外側にある層によって放射線が放射されることがある。受動フォトニック結晶構造体114は、発光構造体120の能動フォトニック結晶発光体121によって放射されるスペクトルの可視領域以外の波長において、この放射線のうちの少なくともある量を反射する。
【0032】
能動フォトニック結晶発光体121を、それを取り囲み、赤外線反射体として機能する受動フォトニック結晶構造体114と組み合わせることによって、能動フォトニック結晶発光体単体、及び受動フォトニック結晶構造体114によって取り囲まれている従来の発光体のいずれよりも効率が改善される。図4において、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は、受動フォトニック結晶構造体114を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体121によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体121はさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0033】
例示的な白熱電球100において使用される1つの例示的な発光構造体130の概略的な断面図を図5に示す。発光構造体130は、能動フォトニック結晶発光体121(図4の発光構造体120に関連して先に説明した)と、能動フォトニック結晶発光体121を周方向において取り囲む受動フォトニック結晶構造体134とを含む。また、発光構造体130は、中間材料層117(図3Aの発光構造体110に関連して先に説明した)も含む。
【0034】
受動フォトニック結晶構造体134は、第1の材料層135と第2の材料層136とが交互に配置されている円筒形のブラッグ反射鏡(すなわち、分布ブラッグ反射鏡)を含む。第1の材料層135の誘電率は、第2の材料層136の誘電率と異なっていなければならない。第1の材料層135を、たとえば、炭化シリコン、炭素、チタニア、銀、金、タングステン、銅、任意の他の金属又は合金、あるいは任意の他の適切な材料から形成することができる。第2の材料層136を、たとえば、シリカ、窒化シリコン、又は第1の材料層135の誘電率とは異なる誘電率を有する任意の他の適切な材料から形成することができる。第1の材料層135及び第2の材料層136は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の厚みを有する。
【0035】
受動フォトニック結晶構造体134は、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114と同じように赤外線反射体として機能する1次元のフォトニック結晶構造体であり、発光構造体130内の放射線を内部反射する。図5において、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は、受動フォトニック結晶構造体134を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体121によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体121はさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0036】
さらに、受動フォトニック結晶構造体134は、複数の同心状の管状の領域(図示せず)を含み、各同心状の管状の領域内の第1の材料層135及び第2の材料層136の厚みは、他の領域内の層の厚みとは異なる。そのような構成では、各領域は、他の領域のバンドギャップとは異なる波長領域に及ぶフォトニックバンドギャップを示す。複数の領域を含むことによって、複数の領域のバンドギャップが重なり合い、それによって、受動フォトニック結晶構造体114の実効的なバンドギャップが広がり、白熱電球100の効率が改善する。
【0037】
発光構造体110、120及び130は最初に、最終的な製造物によって要求される寸法よりも大きな断面寸法を有するが、同じ寸法比率を有する、発光体及びそれを取り囲む受動フォトニック結晶構造体を含むフィラメントの束として形成される。その後、そのフィラメントの束は、既知のファイバ又はフィラメント延伸技法によって引き伸ばされ、その構造体の全体寸法を要求される仕様まで低減される。そのような技法は、当該技術分野において知られており、たとえば、米国特許第5,802,236号(「‘236号特許」)及び米国特許第6,522,820号(「‘820号特許」)において説明され、これらの内容は、参照することにより本明細書に全て取り入れることとする。
【0038】
たとえば、‘236号特許において説明されているように、中央のシリカガラスロッドの周囲に複数の中空のシリカ毛管を束ねていき、それらを物理的に、最終的な所望のパターンを拡大した形状物として確実に配列することによって、プリフォームを形成することができる。その後、1つ又はそれ以上のシリカ外装被覆管がその束全体の周囲に配置され、その束の周囲において溶融されて、所望のプリフォームが形成される。その後、そのプリフォームは、従来の技法を利用して延伸されて、光ファイバが形成される。その工程をわずかに変更して、発光構造体110、120及び130を形成することができる。たとえば、発光構造体110を形成するために、第1の中空のシリカ円筒体を、周期的なアレイとして配列されるより小さな中空のシリカ毛管によって取り囲むことができる。この構造体を、より直径が大きな第2の薄いシリカ管内に配置することができ、毛管が適所に保持される。その後、この構造体を焼結して、ともにシリカ構造体を結合することができる。適切な寸法比率の最終的なプリフォームを形成するために、それまでは中空であった第1の中空のシリカ円筒体の内部をタングステン材料で満たすことができる。その後、そのプリフォームは、‘236号特許に開示されているように延伸される。延伸すると、タングステン材料は能動発光体111となり、第1の中空シリカ円筒体は中間材料層117となり、毛管のアレイは受動フォトニック結晶構造体114となる。発光構造体120及び130も同じようにして形成することができる。
【0039】
‘820号特許は、発光構造体110、120及び130を形成するために利用することができる代替的な方法を開示する。その明細書において開示されているように、第1のシリカプリフォームを製造し、薄切りにして、ウェーハとすることができる。既知のリソグラフィ技法を利用して、薄い各ウェーハの内部に、そしてウェーハを貫通して複数の造作を形成することができる。その後、薄いウェーハを位置合わせし、ともに接合して、第2のプリフォームが形成され、その後、既知の技法によって細長いフィラメントに延伸され、発光構造体が製造される。たとえば、発光構造体120を形成するために、薄切りにされたシリカウェーハをエッチングして、各シリカウェーハの中央に穴及び空所を形成し、後に、そこをタングステン材料で充填し、延伸後に能動フォトニック結晶発光体121となるものを形成することができる。穴及び空所を、各シリカウェーハの外側周辺端近くに形成して、延伸後に受動フォトニック結晶構造体114となるものを形成することもできる。発光構造体110及び130も同じようにして形成することができる。
【0040】
図6に示すように、別の例示的な白熱電球200は、ガラス管202と、電源に接続するためにガラス管202の両端にある電気的端子204と、電気的端子204と電気的に通じている電気的接点206とを含む。電球200は、発光構造体110、120及び130のいずれか1つを含むことがある。発光構造体110、120及び130を、細長いフィラメントとして設けることができ、それは、従来の白熱フィラメントと同じようにして、巻き線又は二重巻き線とすることができる。発光構造体110、120及び130は、図6の電球200においてコイル構成で示されている。コイル構成を利用して、非コイル構造体よりも高い効率を有する、本発明による発光構造体を提供することができる。さらに、ガラス管202の内部を、当業界において公知のようにハロゲンガスで満たし、発光構造体の寿命を長くし、かつその動作特性を改善することができる。
【0041】
図7A〜図7Cに示す例示的な発光構造体140を、例示的な白熱電球100及び200のいずれかにおいて利用することができる。発光構造体140は、能動フォトニック結晶発光体141と、その能動フォトニック結晶発光体141を取り囲む受動フォトニック結晶構造体144とを含む。また、発光構造体140は、中間材料層117(図3Aの発光構造体110に関連して先に説明した)も含む。
【0042】
能動フォトニック結晶発光体141(図7B及び図7C)は、誘電率の周期性が3次元格子構造体を示す。能動フォトニック結晶発光体141は、基材143の中に交互に配置されている層149として周期的に配列されている能動ロッド142を含む。各層において、能動ロッド142は、互いに平行に配列され、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いに離隔されている。各能動ロッド142は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の厚みを有し、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の幅を有する。能動ロッド142の長さは特に重要ではない。各層の能動ロッド142は、真上及び真下にある層149の能動ロッド142に対して垂直に向けられる。能動ロッド142を、たとえば、タングステン、タングステン合金、炭素、炭化シリコン、又は加熱されると可視放射を放射する任意の他の適切な材料から形成することができる。この構成は一般的に、「リンカーンログ」タイプのフォトニック結晶構造体と呼ばれる。能動フォトニック結晶発光体141の基材143を、たとえば、空気、シリカ、窒化シリコン、炭化シリコン、炭素、アルミナ又はチタニアとすることができる。
【0043】
発光構造体140は、能動フォトニック結晶発光体141を取り囲む受動フォトニック結晶構造体144を含む。また、受動フォトニック結晶構造体144を、能動フォトニック結晶発光体141と同じ3次元格子構造体を有するように形成することができる。受動フォトニック結晶構造体144は、基材146の中に交互の層149として周期的に配列されている受動ロッド145を含む。各層149において、受動ロッド145は、互いに平行に配列され、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いに離隔されている。各受動ロッド145は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の厚みを有し、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の幅を有する。受動ロッド145の長さは特に重要ではない。能動ロッド142を、たとえば、銀、金、シリカ、窒化シリコン、炭化シリコン、炭素、チタニア、又は任意の他の適切な材料から形成することができる。受動フォトニック結晶構造体144の基材146を、空気、シリカ、窒化シリコン、炭化シリコン、炭素又はチタニアとすることができる。しかしながら、受動ロッド145の材料は、基材146の材料の誘電率とは異なる誘電率を有さなければならない。代替的には、発光構造体140は、受動フォトニック結晶構造体144の代わりに、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114を含むこともできる。
【0044】
能動フォトニック結晶発光体141と電気的に連続している電気的接点147(図7A及び図7C)を、白熱電球100(図2)の電気的接点106と、又は白熱電球200(図6)の電気的接点206と電気的に通じるように、発光構造体140の両端に設けることができる。受動フォトニック結晶構造体144を、中間材料層117によって電気的接点147から電気的に絶縁して、動作中に受動フォトニック結晶構造体144を介して電流が流れるのを防ぐ。
【0045】
受動フォトニック結晶構造体144は、発光構造体140内の放射線を内部反射するために、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114と同じように赤外線反射体として機能する3次元のフォトニック結晶構造体である。図7Bにおいて、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は受動フォトニック結晶構造体144を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体141によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体141がさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0046】
図8A〜図8Cには、例示的な白熱電球100及び200のいずれかにおいて利用することができる例示的な発光構造体150を示す。発光構造体150は、能動フォトニック結晶発光体141(図8B及び図8C)(図7A〜図7Cの発光構造体140に関連して説明した)と、能動フォトニック結晶発光体141を取り囲む受動フォトニック結晶構造体154とを含む。また、発光構造体150は、中間材料層117も含む(図3Aの発光構造体110に関連して先に説明した)。
【0047】
受動フォトニック結晶構造体154は、基材156の中に交互層159として周期的に配列されている受動ロッド155を含む受動フォトニック結晶構造体144(図7A〜図7Cの発光構造体140に関連して先に説明した)と同じ3次元格子構造体を有する。しかしながら、受動フォトニック結晶構造体154は、第1の領域157及び第2の領域158を含む(図8C)。第1の領域157の受動ロッド155を、第2の領域158の受動ロッド155よりも小さくすることができる。さらに、第1の領域157内の隣接する受動ロッド155間の距離を、第2の領域158内の隣接する受動ロッド155間の距離よりも小さくすることができる。これらの差により、結果として、第1の領域が第1の波長範囲に及ぶ第1のフォトニックバンドギャップを示し、第2の領域158が第2の異なる波長範囲に及ぶ第2のフォトニックバンドギャップを示す(第1の波長範囲は第2の波長範囲と重なることがある)。したがって、全体的な受動フォトニック結晶構造体154の実効的なバンドギャップを、1つだけの領域を有し、対応するバンドギャップを有する構造体に比べて広くすることができる。
【0048】
能動フォトニック結晶発光体141と電気的に通じている電気的接点147を、白熱電球100(図2)の電気的接点106と、又は白熱電球200(図6)の電気的接点206と接続するために、発光構造体150の両端に設けることができる。受動フォトニック結晶構造体154を、中間材料層117によって電気的接点147から電気的に絶縁して、動作中に受動フォトニック結晶構造体154を介して電流が流れるのを防ぐ。
【0049】
受動フォトニック結晶構造体154は、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114と同じように赤外線反射体として機能する3次元のフォトニック結晶構造体であり、発光構造体150内で放射線を内部反射することができる。図8Bにおいて、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は受動フォトニック結晶構造体154を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体141によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体141がさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0050】
発光構造体140及び発光構造体150を、たとえば、シリコンウェーハ、ウェーハの一部、又はガラス基板のような支持基板上に従来のマイクロエレクトロニクス製造技法によって形成することができる。材料層を堆積するための技法の例は、限定はしないが、分子線エピタキシ(MBE)、原子層堆積(ALD)、化学気相成長(CVD)、物理気相成長(PVD)、スパッタ堆積及び他の既知のマイクロエレクトロニクス層堆積技法を含む。さらに、個々の層内に複数の構造体を形成するために、フォトリソグラフィを利用することができる。加えて、発光構造体を構成するために、ホログラフィックリソグラフィを利用することができる。層の複数の部分を選択的に除去するために利用することができる技法の例は、限定はしないが、ウエットエッチング、ドライエッチング、プラズマエッチング、及び他の既知のマイクロエレクトロニクスエッチング技法を含む。そのような技法は当該技術分野において公知であり、たとえば、米国特許第6,611,085号(‘085号特許)において説明されており、この特許の内容は全て、参照することにより本明細書に取り入れることとする。
【0051】
‘085号特許は、フォトニック工学技術による白熱発光体を形成するための方法を開示する。その発光体は、層毎に複数の誘電体薄膜を繰返し堆積し、エッチングする方法によって形成される。発光構造体140及び150を形成するために、中間材料層117を形成する必要がある場合、‘085号特許に開示されている方法を変更して、フォトニック結晶構造体を有する層内にシリカの層、又はシリカの領域を堆積するステップを含むようにすることができる。最後のステップとして、能動フォトニック結晶発光体144の両端に電気的接点147を形成することができる。
【0052】
本発明の代替的な実施形態(図示せず)では、能動フォトニック発光体141のような発光体を、球形状の材料によって封入することができ、その材料は、中間材料層117に類似の層を形成する。さらに、球形状の材料の外側表面の周囲にフィラメントを巻きつけ、受動フォトニック結晶構造体114と同じようにして電磁スペクトルの可視領域以外の電磁放射に対するフィルタとして機能する外側の2次元受動フォトニック結晶構造体を製造することができる。フィラメントを、炭素、炭化シリコン、シリカ、アルミナ、チタニアのような誘電体材料から、又はたとえば、銀、金、タングステン、銅、任意の他の金属もしくは合金のような金属から形成することができる。
【0053】
本明細書に開示する本発明を具現する発光構造体を含む電球は、既知の白熱電球及びフィラメントよりも高い効率をもたらす。
【0054】
上記の説明は、数多くの詳細を含むが、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではなく、単にある特定の例示的な実施形態を提供するものと解釈されるべきである。同様に、本発明の精神又は範囲から逸脱しない本発明の他の実施形態を考案することもできる。したがって、本発明の範囲は、上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲及びその法的な均等物によってのみ指示され、制限される。特許請求の範囲の意味及び範囲内に入る、本明細書に開示されるような、本発明に対する全ての追加、削除及び変更が本発明によって包含される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】種々の温度における波長の関数としての黒体のスペクトル放射発散度のグラフである。
【図2】1つの例示的な発光構造体を含む白熱電球の斜視図である。
【図3A】図2の白熱電球において利用することができる1つの例示的な発光構造体の断面図である。
【図3B】中間材料層を使用しない場合の、図3Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図4】能動フォトニック結晶発光体を含む、図2の白熱電球において使用することができる1つの例示的な発光構造体の断面図である。
【図5】能動フォトニック結晶発光体を含む、図2の白熱電球において使用することができる1つの例示的な発光構造体の断面図である。
【図6】1つの例示的な発光構造体を含む白熱電球の斜視図である。
【図7A】1つの例示的な発光構造体の斜視図である。
【図7B】断面線7B−7Bに沿って見た、図7Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図7C】断面線7C−7Cに沿って見た、図7Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図8A】1つの例示的な発光構造体の斜視図である。
【図8B】断面線8B−8Bに沿って見た、図8Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図8C】断面線8C−8Cに沿って見た、図8Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図9】波長の関数としての、本発明による発光構造体の近似的なスペクトル放射発散度の例示的なグラフである。
【図10】波長の関数としての能動フォトニック結晶発光体の近似的なスペクトル放射発散度の例示的なグラフである。
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、白熱電球で利用するためのフォトニック結晶を含む発光構造体に関する。より詳細には、本発明は、スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である受動フォトニック結晶構造体によって取り囲まれている能動発光体を含む発光構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
従来の白熱電球では、2つの電気的接点間にフィラメントが設けられ、そのフィラメントを介して接点間に電流が流れる。フィラメント材料の電気抵抗が、フィラメントに熱を発生させる。白熱電球内の典型的なフィラメントは、約2500 K〜約3000 Kの間で機能する。加熱されたフィラメントは、ある波長範囲にわたる電磁放射を放射し、その波長の一部が電磁スペクトルの可視領域内にある。所与の温度における従来のフィラメントの発散度は、黒体放射の場合のプランクの式によって近似することができる。
【0003】
従来の白熱電球は、高品質で、安価な照明を提供するが、極めて非効率的である。フィラメントに供給されるエネルギーの約5〜10 %しか、スペクトルの可視領域(すなわち、約380 nm〜約780 nm)内の波長の電磁放射に変換されない。大部分のエネルギーは、スペクトルの赤外線領域内(すなわち、約780 nm〜約3000 nm)の放射線に変換され、熱として空費される。
【0004】
トーマス・エジソンによって最初に白熱電球が発明されたときから、新たな方法、材料及び構造体を見つけて、スペクトルの可視領域において放射される電磁放射の量を増大し、かつ可視領域以外において放射される放射量を最小限に抑え、それによって電球の効率を改善するための、かなりの研究が行われてきた。
【0005】
1911年に白熱フィラメントとして最初に使用されてから、その放射特性の結果として、タングステンは依然として最適な材料であり続けている。真の黒体は自然には存在しない。しかしながら、材料の放射特性は、黒体放射に関するプランクの式の中に材料の放射率に対する係数又は変数を導入することによって表すことができる。放射率は、真の黒体の理論的なスペクトル放射発散度に対する材料のスペクトル放射発散度(すなわち、単位面積当たり、単位波長当たりの放射出力)の比である。所与の材料に対する放射率は一定ではなく、波長、観測角度及び材料の温度とともに変化することがある。タングステンの放射率は、波長とともに変化し、赤外線領域においてよりも、電磁スペクトルの可視領域において高くなり(すなわち、真の黒体よりも可視領域において、より多くの電磁放射を放射し)、それによって、白熱電球において使用するための最適な材料となる。
【0006】
白熱電球の効率を高めることを対象とする他の発明は、フィラメントをコイル状に巻いてコイル構造体にすること、及び電球のバルブをハロゲンガスで満たすことを含む。さらに、可視領域内の放射線に対して透明であるが、赤外線領域内の放射線に対して反射性である材料の被覆を白熱電球のバルブに適用し、フィラメントによって放射される赤外線放射を反射してフィラメントそのものに戻し、それによって、フィラメントをさらに加熱することができる。
【0007】
最近になって、白熱発光体としてフォトニック結晶を利用することが研究されている。フォトニック結晶は、構造体全体にわたって周期的に散在し、誘電率が異なる少なくとも2つの材料を含む構造体である。フォトニック結晶は、古典的な黒体とは異なり、結晶が加熱されると、ある波長範囲にわたって連続して放射線を放射しないことがある。フォトニック結晶は、ある特定の周波数において強く放射するが、その結晶が古典的な黒体であったなら放射するであろうことが予想される波長範囲においてはたとえあったにしても、放射は弱い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
白熱電球の効率は時間をかけて改善されてきたが、相変わらず、大量のエネルギーが、スペクトルの可視領域以外の電磁放射として放射されている。このエネルギーは無駄にされ、従来の白熱電球が非効率的であることの一因になっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[発明の概要]
本発明は、いくつかの実施形態において、能動発光体と、その発光体を取り囲む受動フォトニック結晶構造体とを含む、発光構造体を含む。受動フォトニック結晶構造体は、電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である。本発明は、本明細書において開示する本発明による発光構造体を含む白熱電球も含む。
【0010】
本発明の特徴、利点及び代替の態様は、添付の図面とあわせて以下の詳細な説明を検討することから当業者には明らかになるであろう。
【0011】
本明細書には特許請求の範囲が添付されており、その特許請求の範囲は、本発明と見なされるものを特に指摘し、かつ明確に特許請求しているが、本発明の利点は、添付の図面とあわせて読むときに、本発明の以下の説明から、さらに容易に確かめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[発明の詳細な説明]
本発明は、いくつかの実施形態において、白熱電球において使用するための発光構造体と、そのような構造体を含む白熱電球とを含む。本明細書において開示する発光構造体は、電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である受動フォトニック結晶構造体によって取り囲まれている能動発光体を含む。
【0013】
本明細書において開示する本発明の例示的な実施形態は、スペクトルの可視領域以外の電磁放射として白熱電球から放射される、空費されるエネルギーの量を減らす。
【0014】
1つの例示的な白熱電球100を図2に示し、それには、ガラス球102と、従来の導電性のねじ式基部104と、ねじ式基部104と電気的に接続されている電気的接点106と、電気的接点106間に延在する1つの例示的な発光構造体110とが備えられている。代替的には、白熱電球100は、白熱電球のための任意の他の既知の設計として構成することができることに留意されたい。
【0015】
例示的な発光構造体110の概略的な断面図を図3Aに示す。発光構造体110は能動発光体111を含む。能動発光体111は、たとえば、タングステン、タングステン合金、炭素、又は加熱されることにより、スペクトルの可視領域において放射線を放射し、かつ材料の高い動作温度において構造的完全性を示す任意の他の材料から形成される従来の細長いフィラメントを含む。
【0016】
また、発光構造体110は受動フォトニック結晶構造体114を含み、それは、能動発光体111を周方向において取り囲む赤外線反射体として機能する。
【0017】
フォトニック結晶は、構造体の1つの方向において誘電率が周期性を示すように、第1の誘電率を有する材料を、異なる第2の誘電率を有する基材の中に周期的に散在させることによって形成されている。1次元のフォトニック結晶は、1つの方向においてのみ誘電率の周期性を示す3次元構造体である。ブラッグ反射鏡(分布ブラッグ反射鏡)は1次元のフォトニック結晶の既知の例である。ブラッグ反射鏡の交互に配置されている薄い層は異なる誘電率を有する。いくつかの薄い層を組み合わせたものが、それらの薄い層の平面に対して直交する方向において誘電率の周期性を示す3次元構造体を形成する。それらの層の平面に対して平行な方向では、周期性は示されない。
【0018】
2次元のフォトニック結晶は、第1の誘電率を有する第1の材料のロッド、カラム又はファイバを、異なる第2の誘電率を有する基材の中に周期的に散在させることによって形成することができる。2次元のフォトニック結晶は、ロッド、カラム又はファイバの長軸に対して垂直な方向において誘電率の周期性を示すが、長軸に対して平行な方向では示さない。
【0019】
最後に、3次元のフォトニック結晶は、第1の誘電率を有する第1の材料からなる小さな球体又は他の空間的に閉じ込められた領域を、異なる第2の誘電率を有する第2の材料の基材の中に周期的に散在させることによって形成することができる。3次元のフォトニック結晶は、その結晶の全ての方向において誘電率の周期性を示す。
【0020】
フォトニック結晶構造体は、入射する放射線が周期的な誘電体界面においてブラッグ散乱を受けることに起因して、フォトニックバンドギャップ、すなわち、構造体の内部において放射が存在することを禁止される波長範囲を示す。言い換えると、結晶が誘電率の周期性を示す方向において、放射線が結晶に入射すると、その結晶によって、ある波長範囲の放射線が反射される。
【0021】
有限差分時間領域法を利用して、結晶の造作寸法と、その造作内の対応する誘電率とを含む計算格子上で、フルベクトル時間依存マクスウエル方程式を解いて、任意の所与の結晶の内部においてどの波長が存在することを禁止されるかを求めることができる。
【0022】
発光構造体110の受動フォトニック結晶構造体114は、能動発光体111の長軸に対して平行な基材116を介して延在する細長い受動ファイバ115を設けることによって形成されている2次元のフォトニック結晶構造体を含む。受動ファイバ115を、たとえば、炭素、炭化シリコン、シリカ、アルミナ、チタニアのような誘電体材料、又は細長いフィラメントとして形成されている任意の他の誘電体材料から形成することができる。代替的には、受動ファイバ115を、たとえば、銀、金、タングステン、銅のような金属、又は任意の他の金属又は合金から形成することができる。金属材料を含むフォトニック結晶構造体は、誘電体材料から形成されている構造体よりも広いバンドギャップを示すことがある。しかしながら、金属結晶構造体は、結果として、誘電体材料から形成されている結晶構造体に対して可視放射線の減衰が大きくなることがある。受動ファイバ115は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の直径を有する。基材116は、たとえば、空気、シリカ、炭化シリコン、窒化シリコン、アルミナ、又は受動ファイバ115の材料の誘電率とは異なる誘電率を有し、かつ必要とされる動作温度において構造的完全性を示す任意の他の材料を含む。受動ファイバ115は、基材116全体を通して周期的に散在し、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いから離隔されている。
【0023】
図3Aに示すように、中間材料層117を、能動発光体111と受動フォトニック結晶構造体114との間に配置することができる。中間材料層117は、絶縁性であり、かつスペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明でなければならない。中間材料層117は、たとえば、シリカ、又は任意の他の適切な材料から形成される。代替的には、図3Bに示すように、中間材料層117を省くことができ、能動発光体111の外側表面の直ぐ隣に受動フォトニック結晶構造体114を設けることができる。
【0024】
図3Aを参照すると、受動フォトニック結晶構造体114は、図に示す横断面の平面に対して平行な方向において、誘電率の周期性を示している。受動フォトニック結晶構造体114を、スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明とすることができる。しかしながら、受動フォトニック結晶構造体114は、赤外線領域内のような、可視領域以外の波長範囲にわたってフォトニックバンドギャップを示す。たとえば、受動フォトニック結晶構造体114は、約700 nmと約1000 nmの間のフォトニックバンドギャップを示す。
【0025】
能動発光体111は、白熱電球100を電源に接続し、能動発光体111に電流を流すことによって加熱される。能動発光体111の電気抵抗が熱を発生させることになる。能動発光体111が熱くなる(たとえば、概ね1500 Kよりも高くなる)と、スペクトルの可視領域内の波長を含む、ある波長範囲にわたって放射線が放射される。しかしながら、その放射線の大部分は、スペクトルの可視領域以外の波長、典型的には赤外線領域内の波長において放射される。たとえば、能動発光体111が2500 Kの温度にあるとき、図1において2500 Kに対応する線によって概ね示されるような放射線が放射され、図1は、ある波長範囲にわたる黒体の理論的な放射出力を示している。
【0026】
したがって、受動フォトニック結晶構造体114のフォトニックバンドギャップ内(すなわち、約700 nmと約10000 nmの間)の波長において能動発光体111によって放射される電磁放射は内部反射されることがある。図3Aは、赤外線放射118が内部反射するように示し、可視放射119が受動フォトニック結晶構造体114を透過するように示す。反射される赤外線放射118は、能動発光体111によって吸収され、それによって、能動発光体111がさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。発光構造体110の結果として生成される近似的なスペクトル発散度の1つの例示的なグラフを、全体として図9に示す。
【0027】
受動フォトニック結晶構造体114は、複数の同心状の管状の領域(図示せず)を含み、各管状領域は、異なる直径と、その間に異なる間隔とを有する受動ファイバ115を含む。そのような構成では、各領域は、他の領域のバンドギャップとは異なる波長範囲に及ぶフォトニックバンドギャップを示す。複数の領域を含むことによって、複数の領域のバンドギャップが重なり合い、それによって、受動フォトニック結晶構造体114の実効的なバンドギャップを広くし、かつ発光構造体110の効率を改善することができる。
【0028】
1つの例示的な発光構造体120の概略的な断面図を図4に示し、それは、図2の例示的な白熱電球100において使用することができる。発光構造体120は、能動フォトニック結晶発光体121と、能動フォトニック結晶発光体121を取り囲む受動フォトニック結晶構造体114(発光構造体110に関連して先に説明した)とを含む。また、発光構造体120は、中間材料層117(発光構造体110に関連して先に説明した)を含む。
【0029】
能動フォトニック結晶発光体121は、基材123の中に延在する細長い能動ファイバ122を設けることによって形成される2次元のフォトニック結晶構造体を含む。能動ファイバ122は、たとえば、タングステン、タングステン合金、炭素、炭化シリコン、又はファイバとして形成することができかつ加熱されると可視領域において放射線を放射することになる任意の他の材料から形成することができる。能動ファイバ122は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の直径を有する。基材123は、空気、シリカ、窒化シリコン、又は能動ファイバ122の材料の誘電率とは異なる誘電率を有する任意の他の材料を含む。能動ファイバ122は、基材123全体を通して周期的に散在し、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いから離隔されている。代替的には、基材123は、たとえば、タングステン又はタングステン合金を含み、能動ファイバは、たとえば、空気、シリカ又は窒化シリコンの細長いカラムを含む。
【0030】
加熱される場合に、フォトニック結晶構造体は、そのフォトニックバンドギャップ内の波長において放射線を放射しないことがある。フォトニック結晶が黒体であるならば、これらの波長において放射線が放射されるであろう。たとえば、能動フォトニック結晶発光体は、図10のグラフにおいて示すような、スペクトル放射発散度を示す。したがって、赤外線領域内の波長に及ぶバンドギャップを有するフォトニック結晶は、従来の白熱フィラメントに対して改善された白熱発光体として使用される。能動フォトニック結晶発光体は、図1と図10のグラフを比較することによって明らかなように、スペクトルの赤外線領域において放射する放射線が少ないので、黒体に近い従来のフィラメント発光体(たとえば、発光体110)よりも効率的である。
【0031】
しかしながら、能動フォトニック結晶発光体であっても、赤外線領域内のような、スペクトルの可視領域以外の波長においてある量の放射線を放射することがある。たとえば、能動フォトニック結晶発光体のフォトニックバンドギャップは、スペクトルの赤外線領域の全範囲に及ばないことがある。さらに、放射される放射線が結晶の少なくとも2つの層を通過しない場合、誘電率の周期性を受けないので、能動フォトニック結晶発光体の最も外側にある層は、黒体によって放射される放射線に近い放射線を放射することがある。したがって、全体として能動フォトニック結晶発光体によって示されるフォトニックバンドギャップ内の波長において、能動フォトニック結晶発光体の最も外側にある層によって放射線が放射されることがある。受動フォトニック結晶構造体114は、発光構造体120の能動フォトニック結晶発光体121によって放射されるスペクトルの可視領域以外の波長において、この放射線のうちの少なくともある量を反射する。
【0032】
能動フォトニック結晶発光体121を、それを取り囲み、赤外線反射体として機能する受動フォトニック結晶構造体114と組み合わせることによって、能動フォトニック結晶発光体単体、及び受動フォトニック結晶構造体114によって取り囲まれている従来の発光体のいずれよりも効率が改善される。図4において、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は、受動フォトニック結晶構造体114を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体121によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体121はさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0033】
例示的な白熱電球100において使用される1つの例示的な発光構造体130の概略的な断面図を図5に示す。発光構造体130は、能動フォトニック結晶発光体121(図4の発光構造体120に関連して先に説明した)と、能動フォトニック結晶発光体121を周方向において取り囲む受動フォトニック結晶構造体134とを含む。また、発光構造体130は、中間材料層117(図3Aの発光構造体110に関連して先に説明した)も含む。
【0034】
受動フォトニック結晶構造体134は、第1の材料層135と第2の材料層136とが交互に配置されている円筒形のブラッグ反射鏡(すなわち、分布ブラッグ反射鏡)を含む。第1の材料層135の誘電率は、第2の材料層136の誘電率と異なっていなければならない。第1の材料層135を、たとえば、炭化シリコン、炭素、チタニア、銀、金、タングステン、銅、任意の他の金属又は合金、あるいは任意の他の適切な材料から形成することができる。第2の材料層136を、たとえば、シリカ、窒化シリコン、又は第1の材料層135の誘電率とは異なる誘電率を有する任意の他の適切な材料から形成することができる。第1の材料層135及び第2の材料層136は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の厚みを有する。
【0035】
受動フォトニック結晶構造体134は、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114と同じように赤外線反射体として機能する1次元のフォトニック結晶構造体であり、発光構造体130内の放射線を内部反射する。図5において、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は、受動フォトニック結晶構造体134を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体121によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体121はさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0036】
さらに、受動フォトニック結晶構造体134は、複数の同心状の管状の領域(図示せず)を含み、各同心状の管状の領域内の第1の材料層135及び第2の材料層136の厚みは、他の領域内の層の厚みとは異なる。そのような構成では、各領域は、他の領域のバンドギャップとは異なる波長領域に及ぶフォトニックバンドギャップを示す。複数の領域を含むことによって、複数の領域のバンドギャップが重なり合い、それによって、受動フォトニック結晶構造体114の実効的なバンドギャップが広がり、白熱電球100の効率が改善する。
【0037】
発光構造体110、120及び130は最初に、最終的な製造物によって要求される寸法よりも大きな断面寸法を有するが、同じ寸法比率を有する、発光体及びそれを取り囲む受動フォトニック結晶構造体を含むフィラメントの束として形成される。その後、そのフィラメントの束は、既知のファイバ又はフィラメント延伸技法によって引き伸ばされ、その構造体の全体寸法を要求される仕様まで低減される。そのような技法は、当該技術分野において知られており、たとえば、米国特許第5,802,236号(「‘236号特許」)及び米国特許第6,522,820号(「‘820号特許」)において説明され、これらの内容は、参照することにより本明細書に全て取り入れることとする。
【0038】
たとえば、‘236号特許において説明されているように、中央のシリカガラスロッドの周囲に複数の中空のシリカ毛管を束ねていき、それらを物理的に、最終的な所望のパターンを拡大した形状物として確実に配列することによって、プリフォームを形成することができる。その後、1つ又はそれ以上のシリカ外装被覆管がその束全体の周囲に配置され、その束の周囲において溶融されて、所望のプリフォームが形成される。その後、そのプリフォームは、従来の技法を利用して延伸されて、光ファイバが形成される。その工程をわずかに変更して、発光構造体110、120及び130を形成することができる。たとえば、発光構造体110を形成するために、第1の中空のシリカ円筒体を、周期的なアレイとして配列されるより小さな中空のシリカ毛管によって取り囲むことができる。この構造体を、より直径が大きな第2の薄いシリカ管内に配置することができ、毛管が適所に保持される。その後、この構造体を焼結して、ともにシリカ構造体を結合することができる。適切な寸法比率の最終的なプリフォームを形成するために、それまでは中空であった第1の中空のシリカ円筒体の内部をタングステン材料で満たすことができる。その後、そのプリフォームは、‘236号特許に開示されているように延伸される。延伸すると、タングステン材料は能動発光体111となり、第1の中空シリカ円筒体は中間材料層117となり、毛管のアレイは受動フォトニック結晶構造体114となる。発光構造体120及び130も同じようにして形成することができる。
【0039】
‘820号特許は、発光構造体110、120及び130を形成するために利用することができる代替的な方法を開示する。その明細書において開示されているように、第1のシリカプリフォームを製造し、薄切りにして、ウェーハとすることができる。既知のリソグラフィ技法を利用して、薄い各ウェーハの内部に、そしてウェーハを貫通して複数の造作を形成することができる。その後、薄いウェーハを位置合わせし、ともに接合して、第2のプリフォームが形成され、その後、既知の技法によって細長いフィラメントに延伸され、発光構造体が製造される。たとえば、発光構造体120を形成するために、薄切りにされたシリカウェーハをエッチングして、各シリカウェーハの中央に穴及び空所を形成し、後に、そこをタングステン材料で充填し、延伸後に能動フォトニック結晶発光体121となるものを形成することができる。穴及び空所を、各シリカウェーハの外側周辺端近くに形成して、延伸後に受動フォトニック結晶構造体114となるものを形成することもできる。発光構造体110及び130も同じようにして形成することができる。
【0040】
図6に示すように、別の例示的な白熱電球200は、ガラス管202と、電源に接続するためにガラス管202の両端にある電気的端子204と、電気的端子204と電気的に通じている電気的接点206とを含む。電球200は、発光構造体110、120及び130のいずれか1つを含むことがある。発光構造体110、120及び130を、細長いフィラメントとして設けることができ、それは、従来の白熱フィラメントと同じようにして、巻き線又は二重巻き線とすることができる。発光構造体110、120及び130は、図6の電球200においてコイル構成で示されている。コイル構成を利用して、非コイル構造体よりも高い効率を有する、本発明による発光構造体を提供することができる。さらに、ガラス管202の内部を、当業界において公知のようにハロゲンガスで満たし、発光構造体の寿命を長くし、かつその動作特性を改善することができる。
【0041】
図7A〜図7Cに示す例示的な発光構造体140を、例示的な白熱電球100及び200のいずれかにおいて利用することができる。発光構造体140は、能動フォトニック結晶発光体141と、その能動フォトニック結晶発光体141を取り囲む受動フォトニック結晶構造体144とを含む。また、発光構造体140は、中間材料層117(図3Aの発光構造体110に関連して先に説明した)も含む。
【0042】
能動フォトニック結晶発光体141(図7B及び図7C)は、誘電率の周期性が3次元格子構造体を示す。能動フォトニック結晶発光体141は、基材143の中に交互に配置されている層149として周期的に配列されている能動ロッド142を含む。各層において、能動ロッド142は、互いに平行に配列され、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いに離隔されている。各能動ロッド142は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の厚みを有し、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の幅を有する。能動ロッド142の長さは特に重要ではない。各層の能動ロッド142は、真上及び真下にある層149の能動ロッド142に対して垂直に向けられる。能動ロッド142を、たとえば、タングステン、タングステン合金、炭素、炭化シリコン、又は加熱されると可視放射を放射する任意の他の適切な材料から形成することができる。この構成は一般的に、「リンカーンログ」タイプのフォトニック結晶構造体と呼ばれる。能動フォトニック結晶発光体141の基材143を、たとえば、空気、シリカ、窒化シリコン、炭化シリコン、炭素、アルミナ又はチタニアとすることができる。
【0043】
発光構造体140は、能動フォトニック結晶発光体141を取り囲む受動フォトニック結晶構造体144を含む。また、受動フォトニック結晶構造体144を、能動フォトニック結晶発光体141と同じ3次元格子構造体を有するように形成することができる。受動フォトニック結晶構造体144は、基材146の中に交互の層149として周期的に配列されている受動ロッド145を含む。各層149において、受動ロッド145は、互いに平行に配列され、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の平均距離だけ互いに離隔されている。各受動ロッド145は、約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の厚みを有し、かつ約0.05ミクロンと約8ミクロンの間の幅を有する。受動ロッド145の長さは特に重要ではない。能動ロッド142を、たとえば、銀、金、シリカ、窒化シリコン、炭化シリコン、炭素、チタニア、又は任意の他の適切な材料から形成することができる。受動フォトニック結晶構造体144の基材146を、空気、シリカ、窒化シリコン、炭化シリコン、炭素又はチタニアとすることができる。しかしながら、受動ロッド145の材料は、基材146の材料の誘電率とは異なる誘電率を有さなければならない。代替的には、発光構造体140は、受動フォトニック結晶構造体144の代わりに、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114を含むこともできる。
【0044】
能動フォトニック結晶発光体141と電気的に連続している電気的接点147(図7A及び図7C)を、白熱電球100(図2)の電気的接点106と、又は白熱電球200(図6)の電気的接点206と電気的に通じるように、発光構造体140の両端に設けることができる。受動フォトニック結晶構造体144を、中間材料層117によって電気的接点147から電気的に絶縁して、動作中に受動フォトニック結晶構造体144を介して電流が流れるのを防ぐ。
【0045】
受動フォトニック結晶構造体144は、発光構造体140内の放射線を内部反射するために、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114と同じように赤外線反射体として機能する3次元のフォトニック結晶構造体である。図7Bにおいて、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は受動フォトニック結晶構造体144を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体141によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体141がさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0046】
図8A〜図8Cには、例示的な白熱電球100及び200のいずれかにおいて利用することができる例示的な発光構造体150を示す。発光構造体150は、能動フォトニック結晶発光体141(図8B及び図8C)(図7A〜図7Cの発光構造体140に関連して説明した)と、能動フォトニック結晶発光体141を取り囲む受動フォトニック結晶構造体154とを含む。また、発光構造体150は、中間材料層117も含む(図3Aの発光構造体110に関連して先に説明した)。
【0047】
受動フォトニック結晶構造体154は、基材156の中に交互層159として周期的に配列されている受動ロッド155を含む受動フォトニック結晶構造体144(図7A〜図7Cの発光構造体140に関連して先に説明した)と同じ3次元格子構造体を有する。しかしながら、受動フォトニック結晶構造体154は、第1の領域157及び第2の領域158を含む(図8C)。第1の領域157の受動ロッド155を、第2の領域158の受動ロッド155よりも小さくすることができる。さらに、第1の領域157内の隣接する受動ロッド155間の距離を、第2の領域158内の隣接する受動ロッド155間の距離よりも小さくすることができる。これらの差により、結果として、第1の領域が第1の波長範囲に及ぶ第1のフォトニックバンドギャップを示し、第2の領域158が第2の異なる波長範囲に及ぶ第2のフォトニックバンドギャップを示す(第1の波長範囲は第2の波長範囲と重なることがある)。したがって、全体的な受動フォトニック結晶構造体154の実効的なバンドギャップを、1つだけの領域を有し、対応するバンドギャップを有する構造体に比べて広くすることができる。
【0048】
能動フォトニック結晶発光体141と電気的に通じている電気的接点147を、白熱電球100(図2)の電気的接点106と、又は白熱電球200(図6)の電気的接点206と接続するために、発光構造体150の両端に設けることができる。受動フォトニック結晶構造体154を、中間材料層117によって電気的接点147から電気的に絶縁して、動作中に受動フォトニック結晶構造体154を介して電流が流れるのを防ぐ。
【0049】
受動フォトニック結晶構造体154は、図3及び図4の受動フォトニック結晶構造体114と同じように赤外線反射体として機能する3次元のフォトニック結晶構造体であり、発光構造体150内で放射線を内部反射することができる。図8Bにおいて、赤外線放射118は内部反射するように示され、可視放射119は受動フォトニック結晶構造体154を透過するように示されている。反射される赤外線放射118は、能動フォトニック結晶発光体141によって吸収され、それによって、能動フォトニック結晶発光体141がさらに加熱され、スペクトルの可視領域内の電磁放射の放射に寄与する。
【0050】
発光構造体140及び発光構造体150を、たとえば、シリコンウェーハ、ウェーハの一部、又はガラス基板のような支持基板上に従来のマイクロエレクトロニクス製造技法によって形成することができる。材料層を堆積するための技法の例は、限定はしないが、分子線エピタキシ(MBE)、原子層堆積(ALD)、化学気相成長(CVD)、物理気相成長(PVD)、スパッタ堆積及び他の既知のマイクロエレクトロニクス層堆積技法を含む。さらに、個々の層内に複数の構造体を形成するために、フォトリソグラフィを利用することができる。加えて、発光構造体を構成するために、ホログラフィックリソグラフィを利用することができる。層の複数の部分を選択的に除去するために利用することができる技法の例は、限定はしないが、ウエットエッチング、ドライエッチング、プラズマエッチング、及び他の既知のマイクロエレクトロニクスエッチング技法を含む。そのような技法は当該技術分野において公知であり、たとえば、米国特許第6,611,085号(‘085号特許)において説明されており、この特許の内容は全て、参照することにより本明細書に取り入れることとする。
【0051】
‘085号特許は、フォトニック工学技術による白熱発光体を形成するための方法を開示する。その発光体は、層毎に複数の誘電体薄膜を繰返し堆積し、エッチングする方法によって形成される。発光構造体140及び150を形成するために、中間材料層117を形成する必要がある場合、‘085号特許に開示されている方法を変更して、フォトニック結晶構造体を有する層内にシリカの層、又はシリカの領域を堆積するステップを含むようにすることができる。最後のステップとして、能動フォトニック結晶発光体144の両端に電気的接点147を形成することができる。
【0052】
本発明の代替的な実施形態(図示せず)では、能動フォトニック発光体141のような発光体を、球形状の材料によって封入することができ、その材料は、中間材料層117に類似の層を形成する。さらに、球形状の材料の外側表面の周囲にフィラメントを巻きつけ、受動フォトニック結晶構造体114と同じようにして電磁スペクトルの可視領域以外の電磁放射に対するフィルタとして機能する外側の2次元受動フォトニック結晶構造体を製造することができる。フィラメントを、炭素、炭化シリコン、シリカ、アルミナ、チタニアのような誘電体材料から、又はたとえば、銀、金、タングステン、銅、任意の他の金属もしくは合金のような金属から形成することができる。
【0053】
本明細書に開示する本発明を具現する発光構造体を含む電球は、既知の白熱電球及びフィラメントよりも高い効率をもたらす。
【0054】
上記の説明は、数多くの詳細を含むが、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではなく、単にある特定の例示的な実施形態を提供するものと解釈されるべきである。同様に、本発明の精神又は範囲から逸脱しない本発明の他の実施形態を考案することもできる。したがって、本発明の範囲は、上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲及びその法的な均等物によってのみ指示され、制限される。特許請求の範囲の意味及び範囲内に入る、本明細書に開示されるような、本発明に対する全ての追加、削除及び変更が本発明によって包含される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】種々の温度における波長の関数としての黒体のスペクトル放射発散度のグラフである。
【図2】1つの例示的な発光構造体を含む白熱電球の斜視図である。
【図3A】図2の白熱電球において利用することができる1つの例示的な発光構造体の断面図である。
【図3B】中間材料層を使用しない場合の、図3Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図4】能動フォトニック結晶発光体を含む、図2の白熱電球において使用することができる1つの例示的な発光構造体の断面図である。
【図5】能動フォトニック結晶発光体を含む、図2の白熱電球において使用することができる1つの例示的な発光構造体の断面図である。
【図6】1つの例示的な発光構造体を含む白熱電球の斜視図である。
【図7A】1つの例示的な発光構造体の斜視図である。
【図7B】断面線7B−7Bに沿って見た、図7Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図7C】断面線7C−7Cに沿って見た、図7Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図8A】1つの例示的な発光構造体の斜視図である。
【図8B】断面線8B−8Bに沿って見た、図8Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図8C】断面線8C−8Cに沿って見た、図8Aの例示的な発光構造体の断面図である。
【図9】波長の関数としての、本発明による発光構造体の近似的なスペクトル放射発散度の例示的なグラフである。
【図10】波長の関数としての能動フォトニック結晶発光体の近似的なスペクトル放射発散度の例示的なグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光構造体(110、120、130、140、150)であって、
能動発光体(111、121、141)と、
前記発光体を取り囲み、電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である受動フォトニック結晶構造体(114、134、144、154)とを備えている発光構造体。
【請求項2】
前記受動フォトニック結晶構造体が、ある電磁波長範囲にわたってフォトニックバンドギャップを示し、当該電磁波長範囲が、前記発光体が加熱されると、当該発光体によって放射される電磁スペクトルの可視領域以外の波長を含む請求項1に記載の発光構造体。
【請求項3】
前記受動フォトニック結晶構造体が誘電体材料を含む請求項1又は2に記載の発光構造体。
【請求項4】
前記受動フォトニック結晶構造体が金属を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項5】
前記受動フォトニック結晶構造体が、1次元の誘電率の周期性を示す請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項6】
前記受動フォトニック結晶構造体がブラッグ反射鏡(134)を含む請求項5に記載の発光構造体。
【請求項7】
前記受動フォトニック結晶構造体が、2次元の誘電率の周期性を示す請求項1〜6のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項8】
前記受動フォトニック結晶構造体が、3次元の誘電率の周期性を示し、
前記受動フォトニック結晶構造体が3次元格子構造体(144、154)を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項9】
前記受動フォトニック結晶構造体が複数の領域(157、158)を含み、該複数の領域の各領域が、ある電磁波長範囲にわたってフォトニックバンドギャップを示し、当該電磁波長範囲が、前記発光体が加熱されると、該発光体によって放射される電磁スペクトルの可視領域以外の波長を含み、前記複数の領域の各領域の前記フォトニックバンドギャップの範囲が別の領域の範囲とは異なる請求項1〜8のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項10】
前記発光体が能動フィラメント(111、122)を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項11】
前記発光体が能動フォトニック結晶発光体(121、141)を含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項12】
前記受動フォトニック結晶と前記発光体との間に、前記電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射に対して透明である中間材料層(117)をさらに備えている請求項1〜11のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項13】
前記中間材料層が電気的に絶縁性である請求項12に記載の発光構造体。
【請求項14】
白熱電球(100、200)であって、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の発光構造体(110、120、130、140、150)を含む白熱電球。
【請求項1】
発光構造体(110、120、130、140、150)であって、
能動発光体(111、121、141)と、
前記発光体を取り囲み、電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射の波長に対して透明である受動フォトニック結晶構造体(114、134、144、154)とを備えている発光構造体。
【請求項2】
前記受動フォトニック結晶構造体が、ある電磁波長範囲にわたってフォトニックバンドギャップを示し、当該電磁波長範囲が、前記発光体が加熱されると、当該発光体によって放射される電磁スペクトルの可視領域以外の波長を含む請求項1に記載の発光構造体。
【請求項3】
前記受動フォトニック結晶構造体が誘電体材料を含む請求項1又は2に記載の発光構造体。
【請求項4】
前記受動フォトニック結晶構造体が金属を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項5】
前記受動フォトニック結晶構造体が、1次元の誘電率の周期性を示す請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項6】
前記受動フォトニック結晶構造体がブラッグ反射鏡(134)を含む請求項5に記載の発光構造体。
【請求項7】
前記受動フォトニック結晶構造体が、2次元の誘電率の周期性を示す請求項1〜6のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項8】
前記受動フォトニック結晶構造体が、3次元の誘電率の周期性を示し、
前記受動フォトニック結晶構造体が3次元格子構造体(144、154)を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項9】
前記受動フォトニック結晶構造体が複数の領域(157、158)を含み、該複数の領域の各領域が、ある電磁波長範囲にわたってフォトニックバンドギャップを示し、当該電磁波長範囲が、前記発光体が加熱されると、該発光体によって放射される電磁スペクトルの可視領域以外の波長を含み、前記複数の領域の各領域の前記フォトニックバンドギャップの範囲が別の領域の範囲とは異なる請求項1〜8のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項10】
前記発光体が能動フィラメント(111、122)を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項11】
前記発光体が能動フォトニック結晶発光体(121、141)を含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項12】
前記受動フォトニック結晶と前記発光体との間に、前記電磁スペクトルの可視領域内の電磁放射に対して透明である中間材料層(117)をさらに備えている請求項1〜11のいずれか一項に記載の発光構造体。
【請求項13】
前記中間材料層が電気的に絶縁性である請求項12に記載の発光構造体。
【請求項14】
白熱電球(100、200)であって、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の発光構造体(110、120、130、140、150)を含む白熱電球。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2008−516397(P2008−516397A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535721(P2007−535721)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/035328
【国際公開番号】WO2006/041737
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/035328
【国際公開番号】WO2006/041737
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】
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