説明

フォトレジスト用樹脂の製造方法

【課題】濾過速度が速く、フォトレジスト用樹脂を含むスラリー溶液からフォトレジスト用樹脂を効率的に分離することができるフォトレジスト用樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】本フォトレジスト用樹脂の製造方法は、溶剤の存在下で重合性化合物を重合させることによりフォトレジスト用樹脂を製造する方法であって、(1)フォトレジスト用樹脂を含有する樹脂溶液を調製する樹脂溶液調製工程と、(2)再沈殿により精製する精製工程と、(3)精製後のフォトレジスト用樹脂を含有するスラリー溶液を冷却する冷却工程と、(4)冷却された前記スラリー溶液を濾過することによりフォトレジスト用樹脂を分離する濾過工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトレジスト用樹脂の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、濾過速度が速く、フォトレジスト用樹脂を含むスラリー溶液からフォトレジスト用樹脂を効率的に分離することができるフォトレジスト用樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路素子の製造に代表される微細加工の分野においては、より高い集積度を得るために、より微細な加工が可能なリソグラフィー技術が必要とされている。しかし、従来のリソグラフィープロセスでは、一般に放射線としてi線等の近紫外線が用いられているが、この近紫外線では、サブクオーターミクロンレベルの微細加工が極めて困難であると言われている。そこで、例えば、0.10μm以下のレベルでの微細加工を可能とするために、より波長の短い放射線の利用が検討されている。このような短波長の放射線としては、例えば、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、X線、電子線等を挙げることができるが、これらのうち、特にKrFエキシマレーザー(波長248nm)或いはArFエキシマレーザー(波長193nm)が注目されている。
そして、このような放射線による照射に適した、レジスト形成用の感放射線性樹脂組成物、多層レジストにおける上層膜や下層膜(反射防止膜等)を形成するための樹脂組成物等のフォトリソグラフィーに使用される樹脂組成物が数多く提案されている。
【0003】
そして、前記フォトリソグラフィーに使用される樹脂組成物に含まれる樹脂には、レジスト膜や反射防止膜に求められる光学的性質、化学的性質、塗布性や基板或いは下層膜に対する密着性等の物理的な性質に加え、微細なパターン形成を妨げる異物がないこと等の塗膜形成用樹脂としての基本的な性質が求められている。この樹脂組成物に含まれる樹脂に、未反応モノマー、重合開始剤及び連鎖移動剤や、これらのカップリング生成物等、重合反応時に添加又は生成される不純物が残存していると、リソグラフィーにおいて揮発して露光装置を傷めたり、樹脂若しくはリソグラフィー用樹脂組成物として保存中に重合が進行する等してパターン欠陥の原因となる物質が生成したりする可能性がある。
従って、前記樹脂を製造する際には、これらの不純物を除去する精製工程が必要であり、従来より、再沈殿による樹脂の精製工程を備える樹脂の製造方法や精製方法が各種知られている(例えば、特許文献1〜3等参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−201210号公報
【特許文献2】特開2002−229220号公報
【特許文献3】特開2005−132974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の樹脂の製造方法においては、樹脂を分離する際における濾過効率が十分であるとは言えず、生産性を向上させるために、濾過速度の向上、濾過装置の小型化等による濾過効率の更なる向上が求められているのが現状である。
【0006】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、フォトレジスト用樹脂を含有するスラリー溶液を冷却する工程を濾過工程前に設けることにより、従来よりも濾過速度を向上させることができ、フォトレジスト用樹脂を含むスラリー溶液からフォトレジスト用樹脂を効率的に分離することができるフォトレジスト用樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
[1]溶剤の存在下で重合性化合物を重合させることにより、フォトレジスト用樹脂を製造するフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、(1)フォトレジスト用樹脂を含有する樹脂溶液を調製する樹脂溶液調製工程と、(2)再沈殿により精製する精製工程と、(3)精製後のフォトレジスト用樹脂を含有するスラリー溶液を冷却する冷却工程と、(4)冷却された前記スラリー溶液を濾過することにより、フォトレジスト用樹脂を分離する濾過工程と、を備えることを特徴とするフォトレジスト用樹脂の製造方法。
[2]前記冷却工程における前記スラリー溶液の冷却前後の温度差が、5〜20℃である前記[1]に記載のフォトレジスト用樹脂の製造方法。
[3]前記冷却工程における前記スラリー溶液の冷却後の温度が、−10〜30℃である前記[1]又は[2]に記載のフォトレジスト用樹脂の製造方法。
[4]前記精製工程において用いられる貧溶媒が、アルコール系溶媒及び炭化水素系溶媒のうちの少なくとも一方である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載のフォトレジスト用樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフォトレジスト用樹脂の製造方法によれば、再沈殿による精製工程と、スラリー溶液から樹脂(共重合体)を分離する濾過工程との間に、精製後の樹脂を含有するスラリー溶液を冷却する冷却工程を備えているため、濾過によって樹脂を分離する際における濾過速度を従来よりも大幅に向上させることができる。そのため、濾過時間の短縮や濾過装置の小型化を図ることができ、フォトレジスト用樹脂の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフォトレジスト用樹脂の製造方法は、溶剤の存在下で重合性化合物を重合させることにより、フォトレジスト用樹脂を製造する方法であって、(1)フォトレジスト用樹脂を含有する樹脂溶液を調製する樹脂溶液調製工程と、(2)再沈殿により精製する精製工程と、(3)精製後のフォトレジスト用樹脂を含有するスラリー溶液を冷却する冷却工程と、(4)冷却された前記スラリー溶液を濾過することにより、フォトレジスト用樹脂を分離する濾過工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
[1]樹脂溶液調製工程
前記樹脂溶液調製工程では、重合性化合物を溶剤の存在下で重合させることによりフォトレジスト用樹脂を含有する樹脂溶液が調製される。
前記重合性化合物としては、通常、レジスト形成用の感放射線性樹脂組成物、多層レジストにおける上層膜や下層膜(反射防止膜等)を形成するための樹脂組成物等のフォトリソグラフィーに使用される樹脂組成物に含まれるフォトレジスト用樹脂の製造に用いられるエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(単量体)を挙げることができる。
【0011】
ここで、例えば、レジスト形成用のポジ型感放射線性樹脂組成物に含まれる樹脂は、少なくとも、酸によって分解してアルカリ現像液に可溶となる化学構造を有する繰り返し単位、より具体的には、非極性置換基が酸によって解離してアルカリ現像液に可溶な極性基が発現する化学構造を有する繰り返し単位(1)と、半導体基板等の基板に対する密着性を高めるための極性基を有する繰り返し単位(2)とを必須成分としており、必要に応じて、溶剤やアルカリ現像液への溶解性を調節するための非極性の置換基を有する繰り返し単位(3)を含んで構成されている。
【0012】
前記酸によって分解してアルカリ可溶性となる繰り返し単位(1)は、従来レジストとして一般的に用いられている化学構造を意味し、酸によって分解してアルカリ可溶性になる化学構造を有する単量体を重合させるか、或いは、アルカリ可溶性の化学構造を有する単量体を重合させた後、アルカリ可溶性の化学構造におけるアルカリ可溶性基を有する置換基(アルカリ可溶性基)を、アルカリに溶解せず酸によって解離する基(酸解離性保護基)で保護することにより得ることができる。
【0013】
酸によって分解してアルカリ可溶性になる化学構造を有する単量体としては、アルカリ可溶性置換基を含有する重合性化合物に、酸解離性保護基が結合した化合物を挙げることができ、例えば、非極性の酸解離性保護基で保護されたフェノール性水酸基、カルボキシル基やヒドロキシフルオロアルキル基を有する化合物等が挙げられる。具体的には、例えば、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン等のヒドロキシスチレン類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、α−トリフルオロメチルアクリル酸、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、2−トリフルオロメチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸、カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシルメタクリレート等のエチレン性二重結合を有するカルボン酸類;p−(2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)スチレン、2−(4−(2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)シクロヘキシル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルアクリレート、2−(4−(2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)シクロヘキシル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルトリフルオロメチルアクリレート、5−(2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)メチル−2−ノルボルネン等のヒドロキシフルオロアルキル基を有する重合性化合物等が挙げられる。
【0014】
また、前記酸解離性の保護基としては、例えば、tert−ブチル基、tert−アミル基、1−メチル−1−シクロペンチル基、1−エチル−1−シクロペンチル基、1−メチル−1−シクロヘキシル基、1−エチル−1−シクロヘキシル基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基、2−プロピル−2−アダマンチル基、2−(1−アダマンチル)−2−プロピル基、8−メチル−8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、8−エチル−8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、8−メチル−8−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカニル基、8−エチル−8−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカニル基等の飽和炭化水素基;1−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、1−iso−プロポキシエチル基、1−n−ブトキシエチル基、1−tert−ブトキシエチル基、1−シクロペンチルオキシエチル基、1−シクロヘキシルオキシエチル基、1−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルオキシエチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、iso−プロポキシメチル基、n−ブトキシメチル基、tert−ブトキシメチル基、シクロペンチルオキシメチル基、シクロヘキシルオキシメチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルオキシメチル基、tert−ブトキシカルボニル基等の含酸素炭化水素基等が挙げられる。
【0015】
アルカリ可溶性の化学構造を有する単量体を重合させた後、アルカリ可溶性の化学構造におけるアルカリ可溶性基を、酸解離性保護基で保護する場合は、前記のアルカリ可溶性基を有する化合物をそのまま重合反応に用い、その後、酸触媒のもとでビニルエーテルやハロゲン化アルキルエーテル等のアルカリに溶解しない置換基を与える化合物と反応させることにより、酸解離性保護基を導入することができる。反応に用いる酸触媒としては、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、強酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0016】
また、基板に対する密着性を高めるための極性基を有する繰り返し単位(2)を与える単量体としては、例えば、極性基としてフェノール性水酸基、カルボキシル基やヒドロキシフルオロアルキル基を有する化合物等を挙げることができ、具体的には、例えば、アルカリ可溶性基を含有する重合性化合物として前記説明したヒドロキシスチレン類やエチレン性二重結合を有するカルボン酸類、ヒドロキシフルオロアルキル基を有する重合性化合物、及び、これらに更に極性基が置換した単量体のほか、ノルボルネン環、テトラシクロドデセン環等の脂環構造に極性基が結合した単量体等を挙げることができる。
【0017】
置換基として繰り返し単位(2)に導入される前記極性基としては、ラクトン構造を含むものが特に好ましく、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、1,3−シクロヘキサンカルボラクトン、2,6−ノルボルナンカルボラクトン、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オン、メバロン酸δ−ラクトン等のラクトン構造を含む置換基が挙げられる。
また、ラクトン構造以外の極性基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシ−1−アダマンチル基等のヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
【0018】
更に、必要に応じて含有される、レジスト溶剤やアルカリ現像液への溶解性を調節するための非極性の置換基を有する繰り返し単位(3)を与える単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、インデン等のエチレン性二重結合を有する芳香族化合物;アクリル酸、メタクリル酸、トリフルオロメチルアクリル酸、ノルボルネンカルボン酸、2−トリフルオロメチルノルボルネンカルボン酸、カルボキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシルメタクリレート等のエチレン性二重結合を有するカルボン酸に酸安定性非極性基が置換したエステル化合物;ノルボルネン、テトラシクロドデセン等のエチレン性二重結合を有する脂環式炭化水素化合物等が挙げられる。
また、前記カルボン酸にエステル置換する酸安定性非極性置換基の例としては、メチル基、エチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、2−アダマンチル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基等が挙げられる。
【0019】
これらの単量体は、繰り返し単位(1)、(2)及び(3)のそれぞれにおいて、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
レジスト形成用のポジ型感放射線性樹脂組成物に含まれる樹脂中の各繰り返し単位の組成比は、レジストとしての基本性能を損なわない範囲で選択することができる。即ち、一般に、繰り返し単位(1)は10〜70モル%であることが好ましく、より好ましくは10〜60モル%である。また、繰り返し単位(2)の組成比は30〜90モル%であることが好ましく、より好ましくは40〜90モル%であるが、同一の極性基を有する単量体単位については、70モル%以下とすることが好ましい。更に、繰り返し単位(3)の組成比は、50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは40モル%以下である。
【0020】
一方、多層レジストにおける上層膜や下層膜(反射防止膜等)を形成するための樹脂組成物に含まれる樹脂は、前述のレジスト形成用のポジ型感放射線性樹脂組成物に含まれる樹脂の化学構造から、酸で分解してアルカリ可溶性になる繰り返し単位(1)を除いた化学構造のポリマーが使用される。樹脂中の各繰り返し単位の組成比は特に限定されず、塗膜の使用目的により適宜調整される。一般には、繰り返し単位(2)の組成比は10〜100モル%の範囲から選択され、繰り返し単位(3)の組成比は0〜90モル%の範囲から選択される。
【0021】
更に、前記多層レジストにおける上層膜や下層膜を反射防止膜として使用する場合には、前記樹脂は、架橋点と、フォトリソグラフィーにおいて照射される放射線を吸収する化学構造とを含む必要があり、架橋点としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等の、エステル結合やウレタン結合等により架橋可能な反応性の置換基が挙げられる。架橋点となる反応性置換基を含有する単量体としては、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類の他、これまで例示してきた重合性化合物に前記水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等の反応性置換基が置換した単量体を適宜用いることができる。
【0022】
放射線を吸収する化学構造は、使用する放射線の波長により異なるが、例えばArFエキシマレーザー光に対しては、ベンゼン環及びその類縁体を含む化学構造が好適に用いられる。この様な化学構造を含む単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン等のスチレン類及びその誘導体;置換又は非置換のフェニル(メタ)アクリレート、置換又は非置換のナフタレン(メタ)アクリレート、置換又は非置換のアントラセンメチル(メタ)アクリレート等のエチレン性二重結合を有する芳香族含有エステル類等が挙げられる。この放射線を吸収する化学構造を有する単量体は、極性基の有無により前記繰り返し単位(2)又は(3)のどちらとして導入されてもよいが、放射線を吸収する化学構造を有する単量体としての組成比は10〜100モル%の範囲から選択されることが好ましい。尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。
【0023】
また、前記重合性化合物の重合方法は特に限定されず、溶液重合等の公知の方法を用いることができる。
前記フォトレジスト用樹脂を含有する樹脂溶液は、例えば、重合開始剤を使用し、更には必要に応じて連鎖移動剤を使用し、前述の重合性化合物(即ち、重合性不飽和単量体)を適当な溶媒中で重合させることにより得ることができる。
【0024】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ化合物、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート等の有機過酸化物等のラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
前記連鎖移動剤としては、例えば、ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、4,4−ビス(トリフルオロメチル)−4−ヒドロキシ−1−メルカプトブタン等のチオール化合物を挙げることができる。これらの連鎖移動剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
前記重合開始剤及び連鎖移動剤の使用量は、重合反応に用いる原料モノマー(重合性化合物)や重合開始剤、連鎖移動剤の種類、重合温度、重合溶剤、重合方法、精製条件等の製造条件により適宜調整することができる。
一般に、樹脂の重量平均分子量が高すぎると、塗膜形成時に使用される溶媒やアルカリ現像液への溶解性が低くなる傾向にある。一方、重量平均分子量が低すぎると、塗膜性能が悪くなる傾向にある。そのため、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう。)は、2000〜40000の範囲になるよう調整することが好ましく、より好ましくは3000〜30000である。
【0027】
また、重合反応に用いられる前記溶剤(重合溶剤)としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、グライム、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類;プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記溶剤の使用量は特に限定されないが、通常、単量体1質量部に対して0.5〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。溶剤の使用量が少なすぎる場合には、単量体が析出したり高粘度になりすぎて重合系を均一に保てなくなったりするおそれがある。一方、溶剤の使用量が多すぎる場合には、原料モノマーの転化率が不十分であったり、得られる樹脂の分子量を所望の値まで高めることができないおそれがある。
【0029】
また、前記重合における反応条件は特に限定されないが、反応温度は、通常40〜120℃、好ましくは50〜100℃である。また、反応時間は、通常1〜48時間、好ましくは1〜24時間である。
【0030】
また、この樹脂溶液調製工程において得られる樹脂溶液の樹脂濃度(固形分濃度)は、1〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜50質量%、更に好ましくは10〜50質量%である。
【0031】
[2]精製工程
前記精製工程では、再沈殿により、不純物(特に、残存モノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー等の低分子成分)が除去されて、共重合体(フォトレジスト用樹脂)の精製が行われる。尚、前記低分子成分の分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。
【0032】
再沈殿による精製方法は特に限定されず、従来の方法に従って行うことができる。具体的には、例えば、貧溶媒中に、前記樹脂溶液調製工程で得られた樹脂溶液を滴下することにより精製を行うことができる。尚、前記樹脂溶液は、必要に応じて良溶媒を用いることにより所定の樹脂濃度に希釈されていてもよい。また、この再沈殿による精製は、1回のみ行ってもよいし、良溶媒を再沈殿溶媒として用いて2回以上行ってもよい。
【0033】
前記良溶媒としては、前述の重合溶剤と同様のものが挙げられる。この良溶媒は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、この精製工程で用いられる良溶媒は、樹脂溶液調製工程で用いられる重合溶剤と同一のものであってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
また、前記貧溶媒は、共重合体を析出させるものであれば特に限定されないが、例えば、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、水、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。これらのなかでも、アルコール系溶媒及び炭化水素系溶媒のうちの少なくとも一方であることが好ましい。
前記アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。これらのアルコール系溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの炭化水素系溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
前記貧溶媒の使用量は特に限定されず、貧溶媒の種類、樹脂溶液中における溶媒の種類やその含有量によって適宜調整される。具体的には、例えば、貧溶媒と接触させる樹脂溶液の全量に対して、質量換算で、0.5〜50倍であることが好ましく、より好ましくは1〜30倍、更に好ましくは2〜20倍である。
【0036】
また、前記精製工程により得られるフォトレジスト用樹脂を含有するスラリー溶液の温度は、10〜35℃であることが好ましく、より好ましくは15〜35℃、更に好ましくは20〜35℃である。尚、このスラリー溶液の温度は、精製装置に備えられた温度制御装置、使用する貧溶媒の温度等により制御することができる。
【0037】
[3]冷却工程
前記冷却工程では、精製処理されたフォトレジスト用樹脂を含有するスラリー溶液が冷却される。
この冷却工程においては、前記スラリー溶液の冷却前後の温度差が5〜20℃(より好ましくは8〜15℃、更に好ましくは10〜15℃)となるように冷却することが好ましい。この冷却前後の温度差が5〜20℃である場合には、後述の濾過工程における濾過速度を十分に向上させることができる。尚、この温度差が5℃未満の場合には、濾過速度を十分に向上させることができないおそれがある。一方、20℃を超える場合には、冷却に要する時間が長くなり工程時間短縮を達成できないおそれがある。更に、精製工程において分離した不純物が析出することにより、精製が不十分になるおそれがある。
【0038】
また、冷却後の前記スラリー溶液の温度は、−10〜30℃であることが好ましく、より好ましくは0〜27℃、更に好ましくは5〜25℃である。
尚、前記スラリー溶液を冷却するための冷却手段は特に限定されないが、例えば、容器の外部及び/又は内部に、温度制御用ジャケット等の温度制御が可能な設備が配設された容器等を用いたり、外部の冷却装置にスラリー溶液を送り、循環させることにより、スラリー溶液を冷却することができる。
【0039】
[4]濾過工程
前記濾過工程では、冷却処理されたスラリー溶液が濾過され、フォトレジスト用樹脂が分離される。
この濾過工程における濾過方法は特に限定されず、従来の樹脂の製造方法において、樹脂を含有するスラリー溶液を固液分離する際に用いられている濾過装置等により濾過を行うことができる。尚、この濾過工程は、大気圧下で行ってもよいし、窒素ガス等を用いて加圧下若しくは減圧下で行ってもよい。
【0040】
前記濾過工程に用いる濾過フィルターとしては、例えば、ポリエステル、ポリエステル、ナイロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、アラミド、アクリル、テフロン(登録商標)、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド等の合成繊維若しくはガラス繊維からなるろ布や、焼結金属等が好ましく用いられる。
【0041】
前記濾過フィルターの通気量は、所望の固形分が分離可能な限り特に限定されないが、例えば、0.1〜300cm/cm・secであることが好ましく、より好ましくは0.5〜100cm/cm・secである。
【0042】
また、本発明においては、前記濾過工程後に、得られた濾上物を貧溶媒等により洗浄することで、フォトレジスト用樹脂の更なる精製を行ってもよい。更には、樹脂分を粉体として得るための乾燥工程を設けてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0044】
(実施例1)
500mLのジムロート管のある三口フラスコに、重合溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)86.5gをいれて十分に窒素置換した後、スリーワンモーターで攪拌しながら80℃まで昇温した。その後、5−メタクリロイルオキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトン(NLM)35.5g、及び2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート(MAdMA)47gをMEK168gに溶かした溶液と、アゾビスイソブチロニトリル1.48gをMEK7.4gに溶かした溶液と、をそれぞれ滴下漏斗により3時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間熟成した後、室温まで冷却して樹脂溶液を調製した。尚、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、モノマーの転化率は90%であり、樹脂100質量%に対する残存モノマー量は約11質量%であった。また、得られた樹脂について、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した結果、分子量分布(分散度Mw/Mn)は1.73であった。
【0045】
その後、得られた樹脂溶液(樹脂濃度:約25質量%)100gを25℃に設定された500gのメタノール液中に12.5g/minの滴下速度で滴下し、再沈殿を実施することにより白色のスラリー溶液(溶液温度;25.7℃)を得た。
次いで、得られたスラリー溶液を、温度制御可能なタンクに移し、溶液温度が15℃となるまで冷却した。
その後、容器底部にテフロン製のろ布(通気量;3.0cm/cm・sec、濾過面積:9.62cm)を張った加圧濾過器を用い、0.2MPaで窒素加圧された条件にて、冷却されたスラリー溶液(600g)を濾過することで白色固体を得た。尚、この際の濾過時間は12分であった。
次いで、得られた白色固体を100gのメタノールを用いて洗浄する作業を2回繰り返すことで樹脂溶液の更なる精製を行った。そして、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、樹脂100質量%に対する残存モノマー量は0.08質量%であった。更に、分子量分布は1.47であった。
【0046】
尚、前記Mw及びMnは、以下のように測定した値である。
東ソー(株)製のGPCカラム(商品名「G2000HXL」2本、商品名「G3000HXL」1本、商品名「G4000HXL」1本)を使用し、流量:1.0ml/分、溶出溶剤:テトラヒドロフラン、カラム温度:40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。
【0047】
(実施例2)
実施例1と同様にして樹脂溶液(樹脂濃度;約25質量%)を調製し、得られた樹脂溶液100gを25℃に設定された500gのメタノール液中に12.5g/minの滴下速度で滴下し、再沈殿を実施することにより白色のスラリー溶液(溶液温度;25.5℃)を得た。
次いで、得られたスラリー溶液を、温度制御可能なタンクに移し、溶液温度が15℃となるまで冷却した。
その後、容器底部にテフロン製のろ布(通気量;1.0cm/cm・sec、濾過面積:9.62cm)を張った加圧濾過器を用い、0.2MPaで窒素加圧された条件にて、冷却されたスラリー溶液(600g)を濾過することで白色固体を得た。尚、この際の濾過時間は13分であった。
次いで、得られた白色固体を100gのメタノールを用いて洗浄する作業を2回繰り返すことで樹脂溶液の更なる精製を行った。そして、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、樹脂100質量%に対する残存モノマー量は0.09質量%であった。更に、分子量分布は1.49であった。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同様にして樹脂溶液(樹脂濃度;約25質量%)を調製し、得られた樹脂溶液100gを25℃に設定された500gのメタノール液中に12.5g/minの滴下速度で滴下し、再沈殿を実施することにより白色のスラリー溶液(溶液温度;25.3℃)を得た。
その後、得られたスラリー溶液(600g)を冷却せず、容器底部にテフロン製のろ布(通気量;3.0cm/cm・sec、濾過面積:9.62cm)を張った加圧濾過器を用い、0.2MPaで窒素加圧された条件にて濾過することで白色固体を得た。尚、この際の濾過時間は30分であった。
次いで、得られた白色固体を100gのメタノールを用いて洗浄する作業を2回繰り返すことで樹脂溶液の更なる精製を行った。そして、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、樹脂100質量%に対する残存モノマー量は0.08質量%であった。更に、分子量分布は1.48であった。
【0049】
(比較例2)
実施例1と同様にして樹脂溶液(樹脂濃度;約25質量%)を調製し、得られた樹脂溶液100gを25℃に設定された500gのメタノール液中に12.5g/minの滴下速度で滴下し、再沈殿を実施することにより白色のスラリー溶液(溶液温度;25.6℃)を得た。
その後、得られたスラリー溶液(600g)を冷却せず、容器底部にテフロン製のろ布(通気量;1.0cm/cm・sec、濾過面積:9.62cm)を張った加圧濾過器を用い、0.2MPaで窒素加圧された条件にて濾過することで白色固体を得た。尚、この際の濾過時間は32分であった。
次いで、得られた白色固体を100gのメタノールを用いて洗浄する作業を2回繰り返すことで樹脂溶液の更なる精製を行った。そして、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、樹脂100質量%に対する残存モノマー量は0.09質量%であった。更に、分子量分布は1.49であった。
【0050】
以上の結果から、再沈殿による精製工程と、樹脂を分離する濾過工程との間に、スラリー溶液を冷却する冷却工程を設けることで、濾過速度を十分に向上させられることが分かった。更に、濾過工程における濾過速度への影響は、ろ布の通気量変化よりも、冷却工程の有無の方が大幅に大きいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤の存在下で重合性化合物を重合させることにより、フォトレジスト用樹脂を製造するフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、
(1)フォトレジスト用樹脂を含有する樹脂溶液を調製する樹脂溶液調製工程と、
(2)再沈殿により精製する精製工程と、
(3)精製後のフォトレジスト用樹脂を含有するスラリー溶液を冷却する冷却工程と、
(4)冷却された前記スラリー溶液を濾過することにより、フォトレジスト用樹脂を分離する濾過工程と、を備えることを特徴とするフォトレジスト用樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程における前記スラリー溶液の冷却前後の温度差が、5〜20℃である請求項1に記載のフォトレジスト用樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程における前記スラリー溶液の冷却後の温度が、−10〜30℃である請求項1又は2に記載のフォトレジスト用樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記精製工程において用いられる貧溶媒が、アルコール系溶媒及び炭化水素系溶媒のうちの少なくとも一方である請求項1乃至3のいずれかに記載のフォトレジスト用樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2009−138083(P2009−138083A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315213(P2007−315213)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】