説明

フォンビルブランド因子特異的切断酵素に対する抗体の認識領域からなる構成物

フォンビルブラント因子(von WillebrandFactor:以下、vWFと称することがある)の特異的切断酵素(以下、ADAMTS−13と称することがある)に対する抗体(以下、本抗体を抗ADAMTS−13抗体と称することがある)が認識するエピトープ及び当該エピトープ領域を含むポリペプチドを提供する。 抗ADAMTS−13抗体が認識するADAMTS−13を構成するアミノ酸配列の449位から687位領域に存在するポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本願発明は、医療用医薬品の分野に関する。詳細には、血液凝固に関与するフォンビルブラント因子(von Willebrand Factor:以下、vWFと称することがある)の特異的切断酵素(以下、ADAMTS−13と称することがある)に対する抗体(以下、本抗体を抗ADAMTS−13抗体と称することがある)が認識するエピトープ及び当該エピトープ領域を含むポリペプチドならびに当該ポリペプチドを認識する抗体に関する。
本願発明で提供されるADAMTS−13に対する抗体の認識するエピトープ領域を含むポリペプチドあるいはペプチド断片により、ADAMTS−13に対する自己抗体の有無の診断あるいは自己抗体の吸収剤あるいは自己抗体陽性にともなう疾病患者へのADAMTS−13の補充療法の可能性が拓かれる。
【背景技術】
vWFは、血管内皮細胞や骨髄巨核球で産生され、2050アミノ酸残基(モノマー約250kDa)からなる単一サブユニットがS−S結合にて結ばれたマルチマー構造(分子量500〜20,000kDa)を持って存在している止血因子である。血中濃度は約10μg/mlで、一般に高分子量のものほど比活性が高い。
vWFには2つの大きな止血因子としての機能があり、1つは血液凝固第VIII因子と結合し、これを安定化させるキャリアー蛋白質としての働き、もう1つは傷害血管壁の血管内皮細胞下組織に血小板を粘着・凝集させ、血小板血栓を形成する機能である。
血栓性血小板減少性紫斑病(以下、TTPと称することがある)は、全身の体組織細動脈と毛細血管に血小板血栓を生じる疾患であり、今日の医療技術の進歩にもかかわらず、当該疾患での関連死亡率は1971〜1991年にかけて約3倍に増加している。病理学的に、TTPは血管内皮細胞障害や血管内血小板凝集によって惹き起こされると考えられており、免疫組織学的には生じた血小板血栓中に多量のvWFの存在が認められ、vWFがこの成因に大きな役割を果たしていると考えられている。TTPには遺伝的素因を有すると考えられる家族性(先天性)のものと特に成人において発症する後天性(特発性)のものなどに大別される。TTP患者のvWFのマルチマー構造は正常もしくは高分子量が優位となっており、特に通常では見られない超高分子量のvWF(unusually large vWF multimer:ULvWFM)や高分子量vWF重合体(large vWF multimer:LvWFM)が、高ずり応力下での血小板凝集の促進と微小血栓形成に大きな役割を果たしていることが推察される。一方で、vWFは健常人の循環血液中で高ずり応力下、vWF切断酵素(vWF−cleaving protease)の作用により842Tyr−843Metの位置で分解を受けることが知られていた。したがって、TTPは血漿中の当該酵素活性が何らかの原因で低下して、ULvWFMないしLvWFMが増加して血小板凝集が亢進し、血管内に血小板血栓が形成されるためというシナリオが描かれている。
2001年、前記酵素活性を有する活性本体であるvWF切断酵素、別名ADAMTS−13をコードする遺伝子が本願発明者等によりクローニングされた(特開2003−284570号公報)。以下に、ADAMTS−13の分子構造に関する知見を整理する。括弧内におおよその目安となる開始コドン(ATG)のメチオニンからの残基番号の位置を示す(配列番号1参照)。
ADAMTS−13のドメイン構成はSignal peptideに続いてPropeptideが存在し、次いで、Furinの切断モチーフのRQRR配列が存在し、HEXXHXXGXXHDのコンセンサス配列からなるReprolysinタイプの亜鉛キレート領域を含むMetalloprotease domainが続く(アミノ酸残基番号284位(P285X)まで)。そして、蛇毒メタロプロテアーゼで見出されるようなDisintegrin−like domainを経て(アミノ酸残基番号386位(W387X)まで)、一般的に分子認識に重要と考えられているおよそ50〜60残基からなる最初のTsp1 motif(Tsp1−1)(アミノ酸残基番号448位(Q449X)まで)へとつながり、さらに、細胞接着モチーフの1つであるRGDS配列が含まれるCys−rich region(アミノ酸残基番号580位(T581X)まで)へと続く。次いで、システイン残基を全く含まない約130アミノ酸残基からなるSpacer domain(アミノ酸残基番号687位(W688X)まで)を経て、再びTsp1 motifの繰り返し(Tsp1−2〜8)の後、補体成分C1rあるいはC1sの中に最初に見つかったとされるCUB domain−1,2が続く。
ところで、ADAMTS−13に対する主要な中和エピトープ領域に関しての知見はこれまでのところ全く得られていない。また、当該酵素に対する自己抗体陽性患者の簡便な診断法も確立されていない。
斯かる状況に鑑み、本願発明の第一の課題は、ADAMTS−13上に存在する中和エピトープの同定とそれにより発案される自己抗体を主たる対象とする抗体の中和・吸収材に係る発明である。
本願発明の第二の課題は、斯かる中和・吸収材の製造方法を提供することにある。
本願発明の第三の課題は、斯かる中和・吸収材の用途を提供することにある。
本願発明の第四の課題は、斯かるエピトープを改変することにより得られるvWF特異的切断酵素全長もしくは部分改変分子の製造方法を提供することにある。
本願発明の第五の課題は、斯かるエピトープを改変することにより得られるvWF特異的切断酵素全長もしくは部分改変分子の用途を提供することにある。
vWF特異的切断酵素の先天的欠損患者及び後天性の当該酵素に対する抗体陽性患者の治療法として、現在までプラズマ交換療法が施されており、当該酵素の精製品または遺伝子組換え体等純品による補充療法の確立が望まれる。家族性TTP患者は、先天的にvWF特異的切断酵素が欠損しており、非家族性では後天的に当該酵素に対する自己抗体の産生が原因と報告されている。したがって、家族性TTP患者には、当該酵素の補充療法が望ましく(現実には血漿投与が行われている)、非家族性では、血漿交換による自己抗体の除去と当該酵素の補充が必要である。
しかし、自己抗体陽性患者へのADAMTS−13の補充投与においては患者血液中に存在する当該酵素に対する抗体、すなわち自己抗体によって中和されることにより、投与された酵素は酵素活性を失い実質的には濃度が減ぜられる。しかし、先の出願(特願2002−279924)のADAMTS−13に対する抗体のエピトープの決定方法、あるいは本願発明において同定された中和領域の利用ならびに本願発明において用いられた競合阻害法のウェスタンブロッティングを行うことにより新たに同定されうる中和エピトープ領域を部分改変した分子を調製することで、当該酵素に対する抗体陽性患者への投与が可能になる。あるいは本願発明によって提供される中和領域を含むポリペプチド等による抗体の吸収が可能になる。
【発明の開示】
上述の状況の下、本願発明者等は先の出願(特開2003−284570号公報)においてvWF切断酵素の単離同定を達成するべく、鋭意研究を重ねた結果、従来報告のなかった所望のvWF切断酵素の精製単離に成功し、その成熟型蛋白質のアミノ酸配列及び当該アミノ酸配列をコードする遺伝子を同定するに至った。
そして、先の出願(特開2003−284570号公報)記載の遺伝子組換え技術を利用して得られた知見に基づき、活性発現に必須と考えられる領域を特定した(特願2002−279924)。この知見に基づいて調製された変異体分子を利用した本願発明の後天性TTP患者の抗ADAMTS−13に対する自己抗体の認識する主要中和領域解析の結果、該自己抗体の認識領域は前記の活性発現に必須と考えられる領域と一致して、Cys−rich領域(499位程度)からSpacer領域(687位程度)に存在することが明らかとなった。よって、本願発明で提供される抗ADAMTS−13抗体に関する主要な中和エピトープ領域の主たる要件は、ADAMTS−13を構成するポリペプチド中のCys−rich領域(499位程度)からSpacer領域(687位程度)の領域または同等のアミノ酸配列を有するペプチド断片である。すなわち、本発明はフォンビルブランド因子特異的切断酵素(以下、vWFCPもしくはADAMTS−13と称することがある)に対する抗体が認識する、当該酵素の中和エピトープ領域を包含するポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片であり、前記中和エピトープ領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の449位から687位領域に存在するものである請求項1記載のポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片である。さらに、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の449位から687位のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片であり、配列番号1に示されるアミノ酸配列の449位から687位のアミノ酸配列において1個または数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフォンビルブランド因子特異的切断酵素に対する抗体が認識するポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片である。ここで、1個または数個とは1個から5個、好ましくは1個から3個さらに好ましくは1個もしくは2個をいう。
そして、この知見から得られるADAMTS−13のアミノ酸配列を基に調製される中和エピトープ領域のポリペプチド等を抗原にして、通常の免疫方法(Current Protocols in Molecular Biology,Edited by F.M.Ausbel et al.(1987)、Antibody Engineering:A PRACTICAL APPROACH Edited by J.McCAFFERTY et al.(1996)、Antibodies:A Laboratory Mannual,Edited by Harlow David Lane(1988)あるいはANTIBODY ENGINEERING second edition Edited by Carl A.K.BORREBAECK(1995))によってモノクローナル及びポリクローナル抗体等の作製が可能である。あるいは、ファージディスプレイ技術を利用した抗体作製技術(Phage Display of Peptides and Proteins:A Laboratory Manual Edited by Brian K.Kay et al.(1996)、Antibody Engineering:A PRACTICAL APPROACH Edited by J.McCAFFERTY et al.(1996)、あるいはANTIBODY ENGINEERING second edition edited by Carl A.K.BORREBAECK(1995))により当該蛋白質(ADAMTS−13)と結合する抗体の作出が可能である。あるいは、これらの技術に基づき、本酵素に対する自己抗体陽性であるTTP患者検体からの本酵素活性の中和抗体もしくは単なる結合抗体の単離も可能である。そして、これらの抗体を用いることで、本酵素量の変動を伴う疾病、例えばTTPなどの疾患の診断及び治療への応用が可能となる。本発明はこれらの抗体をも含有する。
一実施態様において、本発明は、TTP様の疾患またはvWF依存性の血栓症の恐れのある患者を診断する方法に関し、該方法は、以下の工程を含む:
本酵素量の変動を伴う疾病に関する診断的アッセイは、患者からの生物学的試料を用いて行われる。これらの試料は、直接的に用いられることができ、またはいくつかの事例においては、アッセイを行う前に処置、例えば干渉する可能性のある試料中の物質を除去することなどを必要とすることができる。適した生物学的試料の例は、血液、尿、汗、組織または血清である。該方法は、上記生物学的試料中のvWF切断酵素に対する自己抗体を検出することを含む。
(a)患者から得られた生物学的試料を、ADAMTS−13もしくはその部分ペプチド断片を固定化した固型支持物と接触させること;
(b)固型支持物を、現像剤標識化抗ヒト免疫グロブリン抗体と接触させること;
及び、(c)試料中における抗ADAMTS−13抗体の濃度に相応する値を得るために、工程(b)において特異的に結合している現像剤の標識を検出すること。
上記診断は、公知のイムノアッセイ方法により行うことができ、固形支持物としてはポリスチレン等の樹脂製のビーズ、プレート等を用いることができ、現像剤としては、放射性同位元素、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等の酵素、蛍光物質等を用いることができる。
本願発明の他の実施態様として、本発明のポリペプチドは、抗ADAMTS−13抗体陽性患者への投与による自己抗体の中和剤としてまたは、自己抗体除去剤としても有用である。この場合、自己抗体の中和とは、自己抗体に結合し自己抗体がvWF切断酵素に結合することを阻害することをいう。この方法において、ポリペプチドは、場合によっては適した支持物等、当該分野に公知の方法を用いて固定化される。次いで、除去すべき抗ADAMTS−13抗体を含む試料、たとえば患者血液と固定化したポリペプチドを接触させることで患者試料中から自己抗体を除去する。この際、抗ADATS−13抗体に特異的なリガンドが結合した担体と患者の血液または血漿を接触させ、血液または血漿中の抗ADATS−13抗体を前記リガンドに結合させることにより血液または血漿から該抗体を除去し、次いで抗体を除去した血液または血漿を患者に再注入すればよい。ここで、抗ADATS−13抗体に特異的なリガンドとしては、前記ポリペプチドまたはポリペプチド由来のペプチド断片を用いることができる。また、接触は例えば患者血液または血漿を上記リガンドが結合した担体に通過させればよい。さらに、本発明は上記のポリペプチドもしくは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片が結合した担体と抗ADAMTS−13抗体陽性患者の血液または血漿を接触させ、血液または血漿中の抗ADATS−13抗体を前記リガンドに結合させ血液または血漿から該抗体を除去することにより抗ADAMTS−13抗体を含まない血液または血漿を製造する方法を包含する。
抗ADAMTS−13抗体陽性患者への投与する自己抗体の中和剤は、上記のポリペプチドもしくは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片を有効成分として含む抗ADAMTS−13抗体陽性患者処置用医薬組成物である。さらに、ポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片が分子置換・欠失・挿入などの改変により抗ADAMTS−13抗体との反応性が消失したポリペプチドもしくは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片を有効成分として含む抗ADAMTS−13抗体陽性患者処置用医薬組成物である。ここで、分子置換・欠失・挿入などの改変とは、例えば上記ポリペプチドまたは該ポリペプチド由来のペプチド断片のアミノ酸配列において、1個または複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されることをいう。このような改変により、例えばポリペプチドまたはペプチド断片の構造が変化し、エピトープを喪失することにより、抗ADAMTS−13抗体との反応性が消失する。例えば、抗ADAMTS−13抗体陽性患者への投与による自己抗体の中和剤として本発明の抗ADAMTS−13抗体の認識するポリペプチドを使用する場合、生理食塩水、緩衝液等で希釈して製剤化し、医薬組成物を得ることもできる。製剤のpHは体液のpHに近い弱酸性〜中性域のpHが望ましく、その下限は5.0〜6.4が望ましく、その上限はpH6.4〜7.4が望ましい。また、凍結乾燥形態等の長期間保存可能な形態で提供することもでき、この場合使用時に水、生理食塩水、緩衝液等で所望の濃度になるように溶解して使用することができる。本発明の製剤は、通常医薬品に用いられる薬理学的に許容される添加剤(例えば担体、賦形剤、希釈剤等)、安定化剤または製薬上必要な成分を含有していてもよい。安定化剤としては、グルコース等の単糖類、サッカロース、マルトース等の二糖類、マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール、塩化ナトリウム等の中性塩、グリシン等のアミノ酸、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体(プルロニック)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(トゥイーン)等の非イオン系界面活性剤、ヒトアルブミン等が例示され、1〜10w/v%程度が添加されていることが好ましい。
本発明の医薬組成物は、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射等により有効量で投与することができ、1回または数回に分けて投与される。その投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、1回あたり、0.001mg〜100mgが好ましい。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−071979号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、抗体のエピトープを決定するためのC末欠失変異体作製法を示す図である。
図2は、調製されたC末欠失変異体の発現を抗FLAG抗体を用いて非還元下ウェスタンブロットにてその存在量を確認した写真である。
図3は、後天性TTP患者003に由来する精製IgGによる非還元下ウェスタンブロットによる認識領域の確認を行った写真である。
図4は、後天性TTP患者004に由来する精製IgGによる非還元下ウェスタンブロットによる認識領域の確認を行った写真である。
図5は、後天性TTP患者009に由来する精製IgGによる非還元下ウェスタンブロットによる認識領域の確認を行った写真である。
図6は、後天性TTP患者に由来する精製IgGのより詳細な認識領域の確認を行った写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、実施例に従って本願発明を詳説するが、本願発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。
【実施例】
調製例1
(ADAMTS−13C末欠失変異体の作製)
先の特許出願(特願2002−279924)記載の全長及びC末端より逐次ドメインを欠失させた変異体(Full1427、T1135X、W1016X、W897X、W808X、W746X、W688X、T581X、Q449X、W387X、P285X、:それぞれの数字は開始コドンATGのコードするMetから終結コドンまでのアミノ酸の残基数を示し、Xはstopコドンを表す。)遺伝子発現ベクターを利用して、Hela細胞を用いて、以下の手順でトランスフェクトした。図1に各変異体の全長配列中における位置を示す。
まず初めに、トランスフェクションの24時間前に1−3×10個/35mm dishで細胞を捲き、その翌日に上記発現ベクターを2μg当たり10μlのPolyamine Transfection ReagentであるTransIT(TAKARA社製)をとり、Opti−MEM等の無血清培地200μlに添加して、試薬添付文書に従い、DNAとのコンプレックスを調製後、準備しておいた前記各種細胞へ滴下し、6時間インキュベーションし、その72時間後、培地を回収した。それぞれの変異体を適宜濃縮したものの検出は抗FLAG−M2抗体(コダック社製)を用いたウエスタンブロット法により、抗マウスIgG−アルカリフォスファターゼ酵素標識抗体系で染色して行った(図2に発現の様子を確認した結果を示す。)。
【実施例1】
(ウェスタンブロットを利用した後天性TTP患者抗体のエピトープの解析)
常法により、プロテインAカラムを用いて後天性患者血漿よりIgG画分を調製し(抗体濃度約2−5mg/ml)、それを200倍希釈してウェスタンブロットを行った。フィルターは二次抗体に抗ヒトIgGアルカリフォスファターゼ標識抗体を用いてBCIP/NBT基質により染色し可視化した(図3〜5)。これらにより決定された抗体の認識領域は3者の抗体画分いずれにおいてもW688Xまで反応しQ449Xで反応しないことからQ449XよりもC末端側に存在することが確認された。
【実施例2】
(競合阻害の原理に基づくウェスタンブロットを利用した後天性TTP患者抗体の詳細なエピトープの解析)
次にさらに詳細な本中和抗体の認識エピトープを絞り込むために、W688X及びFull−length wild typeの上清を電気泳動しPVDF膜へトランスファーしたものを、前述の患者抗体を予め大過剰のQ449X、W688X、あるいはFull−length wild typeの発現上清の濃縮物とプレインキュベーションしたものを一次抗体反応液として用いることで競合阻害の系により、W688Xによりいずれの検体もFull−length wild typeの陽性バンドが消失することを確認した(図6)。
このことからこの3者の抗体はいずれもW688XよりもN末側を認識していることが示唆された。
以上、実施例1,2に示す結果により、用いた3者の自己抗体は、Q449X末側でW688XよりもN末側すなわちQ449XとW688Xの間であるCys−rich領域からSpacer領域が主要な中和領域であることが確認された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用の可能性】
本願発明によりもたらされた知見により、この発明のポリペプチドは、抗ADAMTS−13抗体に対して特異的に免疫反応性を示す。したがって抗ADAMTS−13抗体量の迅速な検出、本酵素変動に伴う疾病の診断あるいは抗ADAMTS−13抗体の結合あるいは阻害活性の中和が可能となる。このように、本願発明で提供されるポリペプチドは、抗ADAMTS−13抗体の検出をはじめとする多種多様の用途を提供するものでもある。
本願発明は、斯くも顕著な作用効果を発揮するものであり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発明であると云える。
【配列表】













【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォンビルブランド因子特異的切断酵素(以下、vWFCPもしくはADAMTS−13と称することがある)に対する抗体が認識する、当該酵素の中和エピトープ領域を包含するポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片。
【請求項2】
前記中和エピトープ領域が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の449位から687位領域に存在するものである請求項1記載のポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片。
【請求項3】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の449位から687位のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片。
【請求項4】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の449位から687位のアミノ酸配列において1個または数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフォンビルブランド因子特異的切断酵素に対する抗体が認識するポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片に結合性を有する抗体。
【請求項6】
抗ADAMTS−13抗体陽性患者血液中に存在する請求項5の抗体。
【請求項7】
非家族性血小板減少性紫斑病(以下、当該疾病をTTPと称することがある)患者血液中に存在する請求項5または6に記載の抗体。
【請求項8】
ADAMTS−13を構成するポリペプチドの全配列または請求項1から4のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片を含む抗体測定試薬。
【請求項9】
TTP患者の自己抗体を検出対象とする請求項8記載の抗体測定試薬。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリペプチドもしくは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片を有効成分として含む抗ADAMTS−13抗体腸性患者処置用医薬組成物。
【請求項11】
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片が分子置換・欠失・挿入などの改変により抗ADAMTS−13抗体との反応性が消失したポリペプチドもしくは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片を有効成分として含む請求項10記載の抗ADAMTS−13抗体陽性患者処置用医薬組成物。
【請求項12】
抗ADAMTS−13抗体陽性患者の処置のための、患者への投与による抗体の中和に用いられる請求項10または11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
抗ADAMTS−13抗体陽性患者を処置するための抗ADAMTS−13抗体に特異的なリガンドを含む組成物であって、担体に結合させ前記患者の血漿と接触させ抗ADAMTS−13抗体を患者の血漿から除去するための用いられる請求項1から4のいずれか1項に記載のポリペプチドもしくは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片を有効成分として含む組成物。
【請求項14】
請求項1から4のいずれか1項に記載のポリペプチドもしくは当該ポリペプチドに由来するペプチド断片が結合した担体と抗ADAMTS−13抗体陽性患者の血液または血漿を接触させ、血液または血漿中の抗ADATS−13抗体を前記リガンドに結合させ血液または血漿から該抗体を除去することにより抗ADAMTS−13抗体を含まない血液または血漿を製造する方法。

【国際公開番号】WO2004/083250
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503725(P2005−503725)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003602
【国際出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)