説明

フグ毒の検出方法

【課題】フグ毒を簡便でありながら、微量でも確実に検出できる検出方法を提供すること。
【解決手段】固体高分解能核磁気共鳴(NMR)法又は磁気共鳴映像(Magnetic Resonance Imaging:MRI)法を用い、3テスラ以上の静磁場で、1msec以上のパルス幅を有するパルスを被検体に照射してフグ毒を含む被検体の1Hスペクトルを測定する工程、及び、前記1Hのスペクトルにおいて、水のピークトップから0.5±0.2ppm低い位置に現れるピークトップをフグ毒として検出する工程を有することを特徴とするフグ毒の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フグ毒の検出方法に関する。さらに詳しくは、フグ、イモリ、又は微生物、特にフグの全身又はその一部におけるフグ毒の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フグは、日本人にとって大変人気のある高級魚であり、刺身、から揚げ、鍋など様々な料理の食材に用いられている。フグは骨以外の全体を食材とすることが、その中でも、フグの卵巣や肝臓は珍味であると考えられている。しかし、卵巣や肝臓には、天然フグの場合、致死量以上のフグ毒(テトロドトキシン)が含まれていて、食べることができない。
このテトロドトキシンの卵巣や肝臓への蓄積は、天然フグの生態研究の結果、微生物及び海底の沈殿物の中から猛毒のテトロドトキシンを体内に取り込んで蓄積していることが原因と考えられている。
【0003】
これに対して、微生物及び海底の沈殿物を取り込まないように養殖環境を調整した養殖フグの場合、その肝臓、卵巣にはテトロドトキシンが蓄積されていないため、安全であると考えられている。
【0004】
しかしながら、養殖環境、養殖場から加工処理場への搬送途中、さらには加工処理場内で、養殖フグに天然フグが紛れ込み、養殖フグであってもテトロドトキシンを蓄積したものが存在している可能性は否定できない。
【0005】
そこで、フグが有毒種であるか無毒種であるかを判別する方法がいくつか提案されている。
例えば、フグ頭部後方の背側の棘が背鰭まで達しているか否かと尾鰭の形状に重点を置いて目視で判別する方法が一般に採用されている(特許文献1、2)
また、複数のフグから採りだしたフグの肝臓を攪拌混合し、抽出した混合物を油層と水層とに分離し、分離した水層についてテトロドトキシンの毒性検査を行う化学的な検出方法が知られている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、前記のように目視で判別する方法では熟練した経験が必要であり、また無毒と判定したフグが完全に無毒であるとは必ずしもいえない。また、前記の化学的に検査する方法は、目視の場合より判定の確実性は高いものの、肝臓を取り出すなどのフグを処理する手間が必要である。したがって、より簡便で確実性の高いフグ毒の検出方法が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−296308号公報、段落0004
【特許文献2】特開2003−299436号公報、段落0002
【特許文献3】特開2006−214742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、フグ毒の検出方法について、種々検討したところ、特定の測定条件下で高性能NMR法又はMRI法を用いることで、被検体中のフグ毒を検出可能であることを見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明の課題は、フグ毒を簡便でありながら、微量でも確実に検出できる検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 固体高分解能核磁気共鳴(NMR)法又は磁気共鳴映像(Magnetic Resonance Imaging:MRI)法を用い、3テスラ以上の静磁場で、1msec以上のパルス幅を有するパルスを被検体に照射してフグ毒を含む被検体の1Hスペクトルを測定する工程、及び、
前記1Hのスペクトルにおいて、水のピークトップから0.5±0.2ppm低い位置に現れるピークトップをフグ毒として検出する工程
を有することを特徴とするフグ毒の検出方法、ならびに
〔2〕 前記静磁場を4.7テスラ以上に調整する前記〔1〕記載のフグ毒の検出方法
〔3〕 被検体がフグ、イモリ、又は微生物である前記〔1〕又は〔2〕記載の検出方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフグ毒の検出方法を使用することにより、検出用の試薬を使用するなどのように、フグ、イモリ、微生物などの被検体に加工処理を施すことなく、テトロドトキシンなどのフグ毒の有無を簡便に、しかも微量でも検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のフグ毒の検出方法は、高分解能核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)法又は磁気共鳴映像(Magnetic Resonance Imaging:MRI)法を用いることを特徴とする。
【0012】
NMR法は、測定する試料(被測定試料)を均一な静磁場空間に置き、被測定試料に電磁波を照射し、このとき生じる核磁気共鳴現象を利用して試料の物理的、化学的性質を評価解析する方法であり、高分解能NMR法とは、複雑な分子構造をもつタンパク質などの有機化合物を原子レベルで効率よく構造解析することが可能なNMR法をいう。
中でも、本発明で用いられる高分解能NMR法は、強力な超電導磁石を用いて中心磁場(静磁場)を3.0テスラ(T)以上、好ましくは4.7テスラ以上に調整し、かつ1msec以上のパルス幅を有するパルスを被検体に照射する方法をいう。
【0013】
また、前記MRI法は、有機化合物の構造を決める分析法である前記高分解能NMR法を可視化技術として発展させたものであり、高分解能NMR法が均一な静磁場下で行う測定であるのに対して、MRI法では均一な静磁場にさらに傾斜磁場を重ね合わせた測定が行われる。中でも、本発明で用いられる高分解能NMR法は、強力な超電導磁石を用いて中心磁場(静磁場)を3.0テスラ(T)以上、好ましくは4.7テスラ以上に調整し、かつ1msec以上のパルス幅を有するパルスを被検体に照射する方法をいう。中でも、MRI法を用いる場合、サンプル中におけるフグ毒のおおよその分布や量も測定することができるという利点がある。
【0014】
本発明で用いる高分解能NMR法又はMRI法では、1Hのスペクトルにおいて、水のピークトップとフグ毒のピークトップが分離可能な静磁場で行うことを一つの特徴とする。この特徴を有することで、被検体を加工処理することなく、しかもMRI法では被検体中における3次元的なフグ毒の存在位置とその濃度分布まで画像で確認することができる。前記静磁場は3.0テスラ以上であり、前記の分離状態が顕著となるという観点から4.7テスラ以上であることが好ましい。
なお、前記ピークトップは、1Hのスペクトルに見られるピークの頂点をいう。
【0015】
また、高分解能NMR法又はMRI法で照射する電磁波のパルス幅としては、フグ毒であるテトロドトキシンの検出が行えるという観点から、1msec以上、好ましくは10msec以上、より好ましくは20msec以上である。
【0016】
また、高分解能NMR法又はMRI法では、フグ毒であるテトロドトキシンの検出を効率よく行うことができる観点から、128.0MHz以上、好ましくは130.0MHz以上の帯域幅を有するパルスを用いることが望ましい。
【0017】
また、本発明で用いる高性能NMR法又はMRI法で測定する核種は、1Hであるが、設定条件を変えることにより、13C、17O、19F、31P、23Naなどの核種も使用できる。
【0018】
本発明者らは、前記核種を1Hとした場合、前記のように水のピークトップとフグ毒のピークトップが分離可能な静磁場下で、高性能NMR法又はMRI法を用いることで、水のピークから0.5±0.2ppm低い位置のピークをテトロドトキシンとして検出できることを初めて見出した。さらに、この水のピークに対するテトロドトキシンとのピークの出現位置の関係が、上記の測定条件下であれば、ほとんど変化しないことを見出した。
したがって、本発明のフグ毒の検出方法は、フグ毒の検出をより確実に行える観点から、高性能NMR法又はMRI法を用いて得られた核種が1Hであるスペクトルにおいて、水のピークトップから0.5±0.2ppm低いピークトップをテトロドトキシンのピークトップとして測定する。
【0019】
なお、前記高分解能NMR法又はMRI法で得られたピークの位置は、そのままの周波数の値で表すと磁場の強度に依存してしまうため、基準物質からの周波数差を磁場の強度で割った、化学シフトδで表す(δ=(吸収のあった電磁波の周波数−基準物質の吸収周波数)/(磁場の強度))。化学シフトは普通数〜数百ヘルツであるのに対し、一般的なNMR装置の磁場強度は数百メガヘルツなので、δの値はppmで表わされる。
【0020】
前記テトロドトキシンのピークを測定する場合、高分解能NMR装置又はMRI装置に装備されているコンピュータ処理を行えば、テトロドトキシン濃度、分布量を概算することができる。
【0021】
なお、高性能NRM法又はMRI法を行うための他の条件、例えば、パルス系列、時間(例えば、緩和時間(スピン−格子緩和時間:T1、スピン−スピン緩和時間:T2)、測定時間、繰り返し時間)、磁石の種類、測定時のスライス厚、積算回数、温度条件については、使用する測定装置のマニュアルにしがたって適宜、設定・調節すればよい。
【0022】
本発明のフグ毒の検出方法は、前記条件に設定した高分解能NMR装置又はMRI装置に被検体を設置し、所定の条件で測定することでフグ毒の検出を行うことができる。
市販の高分解能NMR装置を用いる場合、例えば、フグから所定の大きさのサンプルを切り出し、それを容器内に入れ、この容器を所定の位置において測定することができる。また、MRI装置を用いた場合、フグ全体であっても処理を加えることなく、それらの画像化を行うことで、フグ毒のある部位を画像で確認することができる。
【0023】
また、本発明において、フグ毒は、フグなどの被検体の生死に関わらず確認することができる。また、フグの肝臓、卵巣を取りだすなど加工した後のフグやその切り身などにおいて、毒が付着していないかどうかも本発明の検出方法を用いることで簡単に確認することができる。
【0024】
前記高分解能NMR分析装置としては、静磁場及びパルスを前記の条件に調整できるものであれば特に限定はない。その基本的構成としては、例えば、静磁場を発生する超電導磁石と、試料への電磁波の照射及び試料から発せられる自由誘導減衰信号を受信するプローブと、プローブに高周波電流を供給する高周波電源と、自由誘導減衰信号を増幅する増幅器と、信号を検波する検波器と、検波器によって検出した信号を解析する解析装置と、を少なくとも有して構成される。プローブは主に鞍型あるいは鳥籠型のプローブコイルであり、電磁波を試料に照射する機能と試料から発せられる信号を受信する機能とを併せ持つものが好ましい。また超電導磁石には多層空芯ソレノイドコイルが用いられ、鉛直方向の磁場を発生させる機能を持つものが好ましい。前記超電導磁石は、液体ヘリウムなどで冷却する必要があるため、クライオスタットと呼ばれる低温容器内に収納されていることが好ましい。被検体などの測定試料はクライオスタットに設けられる上下に貫通した室温空間の上から、プローブはその下から挿入されることとなる。
【0025】
また、MRI装置としては、例えば、前記高分解能NMR装置のように、強い静磁場を発生させるための超伝導磁石、電磁波(RFパルス)発信機及び送受信コイル、フーリエ変換システムを有し、さらに傾斜磁場コイルを有するものが挙げられるが、静磁場及びパルスを前記の条件に調整可能なものであれば特に限定はなく、市販のものを使用することができる。
【0026】
また、前記MRI装置を、ベルトコンベアなどの自動的に被検体を運搬できる装置と組み合わせることで、より簡便にフグ毒の検出が可能になる。例えば、フグなどの被検体をベルトコンベアで移動しながら、MRI装置の測定部まで運搬したのち、ベルトコンベアを停止してフグ毒の検出を行い、その後、ベルトコンベアを再び作動させて前記測定部から搬出することで、フグ毒の検出を自動的に行うことができる。
【0027】
前記高分解能NMR装置やMRI装置でフグ毒を測定する被検体としては、NMR法又はMRI法で検出可能な状態のものであれば特に限定はなく、フグ毒を有するフグ、イモリ、微生物などが挙げられる。例えば、フグであれば、その一部だけでなく、個体全体を測定することもできる。フグ全体を測定する場合、フグは動かないように処理されていればよく、生死は問わない。また、冷凍、さらには解凍などの処理されたフグも使用することができる。
【0028】
以上のような構成を有する本発明の検出方法を用いることで、検出用の試薬を使用したり、フグに加工処理を施すことなく、テトロドトキシンなどのフグ毒の有無を簡便に、微量でも確実に検査することができる。
また、フグ全体、特に肝臓、卵巣などのフグ毒の蓄積がされやすい部位のフグ毒の検査も、より確実に行うことができ、これらの食材を安全に消費者に提供することが可能になる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
被験物質としてテトロドトキシン(和光純薬工業(株)製、Lot NO.SDF6421)を用い、テトロドトキシンの有無をバリアン社製 INOVA UNITY 4.7T アクティブシールド型グラディエントコイル(6.5 gauss/cm)クアドラチャー型ボリュームコイルを用い、下記条件にて調べた。
【0030】
なお、テトロドトキシンは、以下のように溶媒に溶解させた溶解物をポリプロピレン容器(1.5mL容)に入れ、この容器を前記高分解能NMR装置の所定の位置に設置して測定した。なお、水のプロトンの影響を少なくするため、重水での測定と通常の蒸留水での測定を行った。
1)テトロドトキシン/重水(和光純薬工業(株)製、NMR用、Lot NO.EWF0192)2mg/0.5mL
2)テトロドトキシン/蒸留水(大塚製薬(株)「大塚蒸留水」 Lot NO.5K91)3mg/0.1mL
【0031】
(高分解能NMR装置)
バリアン社製 INOVA UNITY 4.7T アクティブシールド型グラディエントコイル(6.5 gauss/cm)クアドラチャー型ボリュームコイルを使用した。
【0032】
(測定条件)
パルス系列:One Pulse (4.7テスラ(T))
TR=4sec
TE=2msec
【0033】
上記の結果を図1に示す。図1では、4.6ppm付近に水のピークが見られ、水のピークから約0.5ppm低い位置にテトロドトキシンのピークがあることがわかる。
【0034】
次いで、天然フグ(株式会社関門海より入手)から肝臓を取り出し、フグ毒の有無を上記と同じ条件で調べた。ただし、肝臓はそのままビニ−ル袋に入れたものを用いた。
結果を図2に示す。図2中、4.9ppm付近に水のピークのほか、A、B、C、Dなどの複数のピークも見られた。水のピークから約0.5ppm低い位置にあるAはテトロドトキシンのピークであることから、サンプリングしたフグの肝臓にはテトロドトキシンが含まれることがわかる。
なお、BのピークはC=C−CH2R、C=C−CHR2、CH3−NR2又はRCH2−NR2、CのピークはCH3−XあるいはC=C−CHR2のもの、Dのピークは脂肪類と考えられる。
【0035】
(実施例2)
天然フグの肝臓の断層イメージをMRI装置で観察した。その結果を図3に示す。
【0036】
(MRI装置)
バリアン社製「INOVA UNITY 4.7T」
アクティブシールド型グラディエントコイル(6.5gauss/cm)
クアドラチャー型ボリュームコイル
【0037】
(測定条件)
<NMR測定法>
パルス系列:One Pulse (4.7テスラ)
TR=4sec
TE=2msec
【0038】
<選択領域励起プロトン密度強調画像法>
パルス系列:スピンエコー
TR/TE = 2.0 /0.03 sec
スライス厚= 3 mm
積算回数 = 4 times
FOV=7 x 7 cm (512x256)
スライス数=1枚
【0039】
図3に示された結果より、天然フグの肝臓の全域にテトロドトキシン(図中、明るい部分)が分布していることがわかる。また、バックグラウンドの明度と対比することでテトロドトキシンが分布している部分の濃度も測定することができる。(別途:画像処理ソフトを要する)
また、同じ測定条件にて、養殖フグの肝臓をMRI装置で観察したところ、肝臓のイメージ像は全面真っ黒になり、バックグラウンドの明度も同じとなり、テトロドトキシンが検出されないことがわかる。
【0040】
(比較例1)〔テトロドトキシンと水ピ−クの分離確認実験〕
試料として、テトロドトキシンを65μg/mlの濃度に調整した水溶液を作製した。それを、90MHz(静磁場2.1T)のNMR(日立製作所社製,「R-90H」)にて90度パルス,緩和測定時間5秒の測定条件にて、プロトンを測定し、水とテトロドトキシンとのピ−ク分離について確認をした。
その結果、水のピークと同一に重なってしまうことから、静磁場2.1T程度では、テトロドトキシンと水のプロトンピークを分離することは困難であった。
【0041】
(実験例1)〔天然肝と養殖肝中のテトロドトキシン存在確認実験〕
実施例2で用いた天然又は養殖フグの肝臓10gを30mlの0.1%酢酸溶液にてホモジナイズし、10分間加熱攪拌した後に、遠心分離(7500rpm, 30min,4℃)にて、沈殿物と上清(1)に分けた。その後、沈殿物は、再度0.1%酢酸溶液にて洗い、遠心分離にて上清(2)と沈殿物を得た。
上清(1)と上清(2)をあわせて50mlに定容したものを試料とし、試料中のテトロドトキシン含量を下記の条件にて測定した。6個の試料の平均値を測定したところ、天然肝149.0±143.0 μg/ml、養殖肝0.0±0.0μg/mlであった。
したがって、実施例2で確認された結果を支持するものであった。
【0042】
装置:「HPLC-LC10ADvp」 島津製作所社製
「MS/MS-API3000」 アプライドバイオシステムズ社製
【0043】
〔HPLC条件〕
移動相: 0.1%ギ酸-5mmol/L IPCC-MS7(GLサイエンス)(1:1)
カラム: ODS-80Ts(2.1mm i.d. ×15cm 流径5μm)
カラム温度: 40℃
注入量: 10μL
流速 : 0.2mL/min
【0044】
〔MS/MS条件〕
イオン化モード:ESI
測定モード :ポジティブ測定
プレカーサーイオン: m/z 320
プロダクトイオン: m/z 162
Turbo gas tempurature : 750℃
Ion-spray voltage : 5500V
【0045】
(実験例2)〔養殖肝中のテトロドトキシン存在確認実験〕
選択領域励起プロトン密度強調画像法にてテトロドトキシンの4.0ppmを励起させて、肝中のテトロドトキシンを本当に検出しているかを検証する実験を行った。
方法は、実施例2において養殖肝の画像を取得した後に、最も毒性の強いTTX(テトロドトキシン 生化学用 Lot SDF6421和光純薬工業株式会社 )を1mg/mlの濃度で肝に1mlを投与し、投与後の再度、養殖肝の画像を取得することで、TTXを検出するかどうか行った。
MRIは、4.7Tを用いて、選択領域励起プロトン密度強調画像法パルス系列:スピンエコー, TR/TE=1.0/0.03sec、スライス厚=3mm、積算回数=4times、FOV=7×7cm(512×256),スライス数=5枚にて画像を得た。
その結果、投与前では肝臓のイメージ像が全面バックグラウンドと差がなかったのに対して、投与後では、投与した部分が白くなり、TTXを画面上に検出できていることが明らかとなった。したがって、実施例2の図3に示された天然フグの肝臓に見られる明るい部分はテトロドトキシンであることが確認された。
【0046】
(実験例3)〔TTXの検出濃度の検証〕
次に、TTXの溶液濃度を650、65、6.5、0.65、0.065、0.0065 ppmの濃度に調整した溶液を試験管に入れ、実験例2で行った選択領域励起プロトン密度強調画像法で直接測定してTTXの検出限界の測定を行った。その結果、TTXは0.65ppmまで検出可能であった。
【0047】
本明細書に包含される本発明の多くの利点を上記に述べたが、この開示は、多くの点で例示に過ぎないことが理解される。また、本発明の範囲を逸脱しなければ、細部にわたり、様々な変更を行うことが可能である。また、本発明を用いれば、NMR、MRIの測定条件を調整することで、フグ毒として、サキシトキシンやその類縁体も検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、実施例1においてテトロドトキシンをNMR装置で測定した場合に得られた結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1において天然フグの肝臓のサンプルをMRI装置で測定した場合に得られた結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例2においてテトロドトキシン特有の3.95ppmのみに照射した天然フグの肝臓をMRI装置で測定した場合に得られた結果を示すイメージ像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分解能核磁気共鳴(NMR)法又は磁気共鳴映像(Magnetic Resonance Imaging:MRI)法を用い、3テスラ以上の静磁場で、1msec以上のパルス幅を有するパルスを被検体に照射してフグ毒を含む被検体の1Hスペクトルを測定する工程、及び、
前記1Hのスペクトルにおいて、水のピークトップから0.5±0.2ppm低い位置に現れるピークトップをフグ毒として検出する工程
を有することを特徴とするフグ毒の検出方法。
【請求項2】
前記静磁場を4.7テスラ以上に調整する請求項1記載のフグ毒の検出方法。
【請求項3】
被検体がフグ、イモリ、又は微生物である請求項1記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−241423(P2008−241423A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81509(P2007−81509)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(501110134)株式会社関門海 (14)