説明

フック装置

【課題】ロック解除の作業性を向上することのできるフック装置を提供する。
【解決手段】フック装置10は、基体16、フック部材18、ロック部材20、保持部材22およびコイルバネ24を備えている。ロック部材20は、ロック部64と、取付部66と、係合部68と、アーム部72とを有している。ロック部材20をコイルバネ24の付勢に抗してロック解除位置P2へ移動させると、保持部材22がコイルバネ24の付勢によって係合部68に係止され、ロック解除位置P2においてロック部材20が保持される。一方、保持部材22をコイルバネ24の付勢に抗して保持解除位置P4へ移動させると、ロック部材20がコイルバネ24の付勢によってロック位置P1へ移動され、フック部材18の回動が禁止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン等に設けられた巻取装置から繰り出されるワイヤの端部に取り付けられ、鉄板等の吊下対象物を吊り下げる、フック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフック装置の一例が特許文献1に開示されている。このフック装置1は、図13に示すように、ワイヤ固定部2aと脱落防止部2bとを有する「く字状」のフック支持体2に「U字状」のフック3を回動自在に取り付けたものである。このフック装置1を使用する際には、まず、ワイヤ固定部2aにワイヤ4の端部を固定し、フック3を回動させることによって脱落防止部2bによるロック状態を解除する。そして、フック3を吊下対象物5に形成された孔5aに引っ掛けた後、ワイヤ4を巻き取っていく。すると、フック3が吊下対象物5の自重にて回動されることによって、その先端部が徐々に脱落防止部2bに近づいていき、吊下対象物5を完全に吊り下げた状態では、フック3の先端部と脱落防止部2bとの間隔はわずかとなり、かつ、ロック1aがフック3の係合段部3aに係止され、これにより吊下対象物5の脱落が防止される。
【0003】
このフック装置1では、吊下対象物5を完全に吊り下げた状態において吊下対象物5の脱落を防止できるが、巻取装置による吊下動作の初期段階では、フック3の先端部と脱落防止部2bとの間隔が広くなっているため、吊下対象物5の孔5aに引っ掛けられたフック3の先端部が滑り易く、吊下対象物5が脱落するおそれがあった。
【0004】
そこで考えられたのが、非特許文献1のフック装置6である。このフック装置6は、図14に示すように、基体6aに対して、フック部材7a、ロック部材7b、保持部材7cおよび離脱防止部材7dを取り付けたものである。このフック装置6では、吊下対象物5にフック部材7aを引っ掛けると同時に、フック部材7aの回動がロック部材7bによって禁止され、保持部材7cによってロック部材7bが保持される。この状態において、フック部材7aの先端部は離脱防止部材7dに近接して配置され、吊下対象物5の脱落を防止し得る完全なフック状態Fが構成される。したがって、このフック装置6によれば、吊下動作の初期段階から吊下対象物5の脱落を確実に防止することができる。
【特許文献1】特開平4−272087号
【非特許文献1】株式会社広田製作所「HR−3TPロックフック」のカタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のフック装置6(非特許文献1)では、フック部材7aの回動がロック部材7bによって禁止され、保持部材7cによってロック部材7bが保持される。したがって、ロック部材7bを単に押しただけでは、これをロック解除位置まで移動させることができず、ロック解除の作業性が悪いという問題があった。
【0006】
つまり、ロック部材7bをロック解除位置まで移動させるためには、図15に示すように、まず、(a)保持部材7cを押すことによってロック部材7bの保持状態を解除し、その後、(b)ロック部材7bを押すことによってこれをロック解除位置まで移動させる必要があり、ロック解除を1つの動作で行うことができなかった。
【0007】
特に、ビルの工事現場のような雑然とした場所において、「ロック」および「ロック解除」の動作をワンタッチで確実に行うことは、必須不可欠なことであるが、従来のフック装置6では、これらの要求を満足することができなかった。
【0008】
それゆえに、本発明の主たる課題は、「ロック」および「ロック解除」の動作をワンタッチで確実に行うことができる、フック装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載した発明は、「ワイヤ12の端部が固定されるワイヤ固定部40を有する基体16、前記基体16に回動自在に取り付けられ、回動が禁止された状態で吊下対象物14を吊り下げるフック部材18、前記基体16に回動自在に取り付けられ、ロック位置P1において前記フック部材18の回動を禁止し、ロック解除位置P2においてその禁止状態を解除するロック部材20、前記基体16に回動自在に取り付けられ、保持位置P3において前記ロック部材20の回動を禁止し、保持解除位置P4においてその禁止状態を解除する保持部材22、前記ロック部材20に対してロック解除位置P2からロック位置P1へ向かう力を付勢するロック用弾性部材24a、および前記保持部材22に対して保持解除位置P4から保持位置P3へ向かう力を付勢する保持用弾性部材24bを備える、フック装置10であって、前記ロック部材20は、ロック位置P1において前記フック部材18に係止されるロック部64と、ロック解除位置P2において前記保持部材22に係止される係合部68とを有しており、前記ロック部材20を前記ロック用弾性部材24aの付勢に抗してロック解除位置P2へ移動させたときに、前記保持部材22が前記保持用弾性部材24bの付勢によって前記係合部68に係止され、前記保持部材22を前記保持用弾性部材24bの付勢に抗して保持解除位置P4へ移動させたときに、前記ロック部材20が前記ロック用弾性部材24aの付勢によって前記ロック位置P1へ移動される、フック装置」である。
【0010】
本発明において、ロック部材20のロック状態を解除する際には、ロック部材20を手で押すことによってロック解除位置P2へ移動させる。すると、保持部材22が保持用弾性部材24bの付勢によって係合部68に係止され、ロック解除状態が保持される。一方、ロック部材20をロック状態にする際には、保持部材22を手で押すことによって保持解除位置P4へ移動させる。すると、保持部材22の係合部68に対する係止状態が解除され、ロック部材20がロック用弾性部材24aの付勢によってロック位置P1へ移動される。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した「フック装置10」において、「前記ロック部材20は、前記基体16に取り付けられた回動軸42bが挿通される軸受け孔76を有する筒状の取付部66と、前記ロック部64と前記取付部66とを連結するアーム部72とを有しており、前記係合部68は、前記取付部66の外周部に形成されている」ことを特徴とする。
【0012】
本発明では、アーム部72が「梃子の腕」として機能するため、「梃子の原理」を用いてロック部材20を簡単に回動させることができる。
【0013】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した「フック装置10」において、「前記ロック用弾性部材24aと前記保持用弾性部材24bとは1つのコイルバネ24によって連続して形成されており、前記コイルバネ24の一端24cが前記ロック部材20に固定され、他端24dが前記保持部材22に固定される」ことを特徴とする。
【0014】
本発明では、ロック用弾性部材24aと保持用弾性部材24bとが1つのコイルバネ24によって連続して形成されているので、「部品点数」や「取付け作業工程数」を減らすことができ、ひいては「製造コスト」を大幅に低減することができる。
【0015】
請求項4に記載した発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載した「フック装置10」において、「前記ロック部材20における前記ロック部64の上面には、凹部94または突部96が形成されており、前記フック部材18には、突部96または凹部94が形成されており、前記ロック部材20がロック位置P1にあるとき、前記ロック部材20の凹部94または突部96に前記フック部材18の突部96または凹部94が嵌合される」ことを特徴とする。
【0016】
本発明では、凹部94と突部96とが嵌合されることによって、吊下対象物14の吊り上げ時において、フック部材18の開方向への回動がより確実に禁止される。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜3に記載した発明において、ロック部材20をロック解除位置P2へ移動させると、保持部材22が保持用弾性部材24bの付勢によってロック部材20の係合部68に係止され、それによってロック部材20のロック解除状態が保持される。つまり、保持部材22でロック部材20を保持する動作は、保持用弾性部材24bの付勢によって自動的に行われる。したがって、ロック部材20をロック解除位置P2へ移動させるだけで、フック部材18の開方向への回動禁止を解除できるとともに、その状態を保持できる。
【0018】
一方、保持部材22を保持解除位置P4へ移動させると、保持部材22とロック部材20の係合部68との係合状態が解除され、ロック用弾性部材24aの付勢によってロック部材20がロック位置P1へ自動的に移動される。したがって、保持部材22を保持解除位置P4へ移動させるだけで、フック部材18の開方向への回動を禁止できるとともに、その状態を保持できる。
【0019】
換言すると、「ロック」および「ロック解除」の動作をワンタッチで確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明が適用されたフック装置10を示す平面図であり、図2は、フック装置10を示す正面図である。また、図3は、図1におけるIII-III線断面図である。
【0021】
このフック装置10は、図6に示すように、クレーン等に設けられた巻取装置から繰り出されるワイヤ12の端部に取り付けられ、鉄板等の吊下対象物14を吊り下げるものである。ここで、吊下対象物14の種類は、特に限定されるものではないが、吊下対象物14には、フック装置10を引っ掛けるための孔14aが形成されている必要がある。
【0022】
フック装置10(図1〜3)は、基体16と、フック部材18と、ロック部材20と、保持部材22と、コイルバネ24と、離脱防止機構26とを備えている。なお、コイルバネ24は、「ロック用弾性部材24a」および「保持用弾性部材24b」の両機能を併有するものであるが、この点については後述する。
【0023】
基体16は、鉄等の金属からなる2枚の板材30と、板材30間に配設されたスペーサ32とを接合ピン34等で接合することによって構成されている。スペーサ32(図1)は、基体16の長手方向一方端部(図2、図3における右側の端部)にだけ配設されている。したがって、基体16の長手方向他方端部(図2、図3における左側の端部)および中央部には、空間36が確保されており、この空間36内に、フック部材18、ロック部材20、保持部材22、コイルバネ24および離脱防止機構26等が収容されている。
【0024】
基体16の形状は、完全な吊下げ状態において、鉛直方向へ長くなるように設定されており、基体16の長手方向一方端部および他方端部は、略半円状に丸みをおびて形成されている。また、基体16の幅方向一方側端(図2、図3における上側の側端)には、ロック部材20が当接する当接部16aが凹状に形成されており、ロック部材20の移動範囲に相当する部分(以下、「移動範囲部分」という。)16bの側縁は、略円弧状に丸みをおびて形成されている。また、当接部16aに近接する部分には、ロック位置P1にあるロック部材20のロック部64を保護するカバー部16cが形成されている。さらに、基体16の幅方向他方側端(図2、図3における下側の側端)には、フック部材18と協働してフックFを構成するフック構成部16dが直線状に形成されている。
【0025】
そして、基体16の長手方向一方端部、すなわちスペーサ32が配設された側の端部には、ワイヤ12の端部が係止される貫通孔38を有するワイヤ固定部40が形成されており、基体16の長手方向他方端部、すなわち空間36が確保された側の端部には、フック部材18を取り付けるためのボルト42aが挿通される貫通孔44aが形成されている。さらに、基体16の長手方向中央部よりもやや一方端部側には、ボルト42b,42c,42d,42eが挿通される貫通孔44b,44c,44d,44eが所定位置に形成されている。
【0026】
フック部材18は、図3に示すように、鉄等の金属からなる「フック状」の部材であり、「フック状」の底部を構成するフック部材本体50と、「フック状」の先端部を構成する爪部52と、「フック状」の後端部を構成する係止突起部54と、爪部52とは反対の方向へ向けてフック部材本体50から突出して設けられた突起部56とによって一体的に構成されている。
【0027】
フック部材本体50は、基体16に回動自在に取り付けられる部分であり、フック部材本体50における回動中心位置には、基体16に取り付けられた「回動軸」としてのボルト42aが挿通される軸受け孔58が形成されている。また、フック部材本体50の表裏両面には、軽量化のために凹部60が形成されている。爪部52は、吊下対象物14に形成された孔14a(図6)に挿通される部分であり、爪部52の厚さおよび幅は、「吊下対象物14の重量」や「孔14aの大きさ」等を考慮して設定されている。また、爪部52の表裏両面には、フック部材本体50と同様に凹部60が形成されている。係止突起部54は、フック部材18の回動を禁止する際に、ロック部材20が係止される部分であり(図9)、係止突起部54の形状や大きさは、ロック部材20に対する係止角度や係止面積等を考慮して設定されている。フック部材本体50から延びる突起部56は、フック部材18を回動させて爪部52を孔14aに引っ掛ける際に、作業者M(図8、図9)から力を受ける部分であり、突起部56の形状や大きさは、作業者Mが踏み易いように設定されている。
【0028】
フック部材18を基体16に取り付ける際には、フック部材18を基体16の空間36内に収容し、フック部材18の軸受け孔58と基体16の貫通孔44aとを連通させた状態でこれらにボルト42aを挿通し、このボルト42aの先端部にナット46aを螺合する。そして、ナット46aの側壁に形成された孔にロックピン62(図1)を挿通し、これによりナット46aの脱落を防止する。
【0029】
ロック部材20は、図4に示すように、所定のロック位置P1(二点鎖線の位置)においてフック部材18の開方向への回動を禁止し、所定のロック解除位置P2(実線の位置)においてその禁止状態を解除するものであり、図5に示すように、ロック部64と、取付部66と、係合部68と、バネ固定部70と、アーム部72とを有している。
【0030】
ロック部64は、ロック位置P1においてフック部材18に係止される部分であり、ロック部64の上面は、図5(A)に示すように、左右側端部から中央部へ向かって徐々に低くなるように「V字状」に形成されており、この上面においてフック部材18の係止突起部54が受けられる。また、ロック部64の上面後端部には、滑り止めの溝(または突条)74aをその表裏両面に有する操作部74が突出するように形成されており、この操作部74が作業者Mの手によって操作される。ロック部64の左右方向幅は、図1に示すように、基体16の厚さとほぼ同じに設定されている。したがって、ロック部材20がロック位置P1に移動した際には、ロック部64の下面または前側面が当接部16aに当接され、かつ、ロック部64の上面がカバー部16cによって覆われることになる。
【0031】
取付部66は、「回動軸」となるボルト42bが挿通される軸受け孔76を有する筒状の部分であり、取付部66の外周部には、係合部68とバネ固定部70とが形成されている。
【0032】
係合部68は、保持部材22に係止される段状の部分であり、取付部66の外周部における「後部」に形成されている。なお、係合部68の形状は、特に限定されるものではなく、本実施例のような「段状」の他、「突起状」または「溝状」であってもよい。また、ここで言う「後部」とは、ロック位置P1へ向いた部分(すなわち「前部」)の反対側に位置する部分を意味するものとする。
【0033】
バネ固定部70は、コイルバネ24の一端が固定される部分であり、取付部66とアーム部72との継目付近の「前部」、すなわちアーム部72の「根元部分」に形成されており、バネ固定部70には、コイルバネ24の一端の環状部24cが係止されるバネ係止ピン78が取り付けられている。
【0034】
アーム部72は、ロック部64と取付部66とを連結する棒状の部分である。フック部材18のロック状態を解除する際には、コイルバネ24の付勢に抗してロック部材20をロック解除位置P2まで回動させる必要があるが、この際、アーム部72が「梃子」の「腕」として機能するため、「梃子の原理」を用いて簡単に回動させることができる。つまり、アーム部72を「腕」とする「梃子」においては、ロック部64の操作部74が「力点」となり、取付部66が「支点」となり、バネ固定部70が「作用点」となるため、ロック部材20を回動させる際には、バネ固定部70に接続されたコイルバネ24の付勢に対してわずかな力で対抗することができる。
【0035】
ロック部材20を基体16に取り付ける際には、ロック部材20のロック部64を基体16の移動範囲部分16bの側縁から突出させた状態でフック部材18を基体16の空間36内に収容する。そして、ロック部材20の軸受け孔76と基体16の貫通孔44bとを連通させた状態でこれらにボルト42bを挿通し、このボルト42bの先端部にナット46bを螺合する。
【0036】
保持部材22は、図4に示すように、所定の保持位置P3(実線の位置)においてロック部材20のロック位置P1方向(ロック方向)への回動を禁止し、所定の保持解除位置P4(二点鎖線の位置)においてその禁止状態を解除するものであり、操作部80と、係止部82と、アーム部84とを有している。
【0037】
操作部80は、作業者Mの手によって操作される部分であり、操作部80には、滑り止めの溝(または突条)80aがその表裏両面に形成されている。係止部82は、保持位置P3においてロック部材20の係合部68に係止される部分であり、本実施例では、係合部68の形状に合致する突起状に形成されている。アーム部84は、操作部80と係止部82とを連結する棒状の部分であり、アーム部84の中央部には、「回動軸」となるボルト42cが挿通される軸受け孔86が形成されている。また、アーム部84における軸受け孔86と操作部80との間に位置する部分には、コイルバネ24の他端の環状部24dが係止されるバネ係止ピン88が取り付けられている。
【0038】
保持部材22を基体16に取り付ける際には、操作部80を基体16の側縁から突出させた状態で保持部材22を基体16の空間36内に収容し、保持部材22の軸受け孔86と基体16の貫通孔44cとを連通させた状態でこれらにボルト42cを挿通し、このボルト42cの先端部にナット46cを螺合する。
【0039】
コイルバネ24は、図4に示すように、一般的な螺旋状のバネ部材であり、一端に環状部24cを有し、かつ、他端に環状部24dを有している。そして、このコイルバネ24がロック部材20における取付部66の下方を通って「U字状」に配設されており、コイルバネ24の一端(環状部24c)がロック部材20のバネ係止ピン78に固定(係止)されており、他端(環状部24d)が保持部材22のバネ係止ピン88に固定(係止)されている。
【0040】
したがって、このコイルバネ24は、ロック部材20に対してロック解除位置P2からロック位置P1へ向かう力を付勢する「ロック用弾性部材24a」としての機能と、保持部材22に対して保持解除位置P4から保持位置P3へ向かう力を付勢する「保持用弾性部材24b」としての機能とを併有することになる。
【0041】
離脱防止機構26は、フックFに係止された吊下対象物14の脱落を防止するものであり、図3に示すように、基体16に対して出没自在に設けられた棒状の出没係止部材90と、出没係止部材90に対して突出方向へ付勢するコイルバネ92と、出没係止部材90の出没方向の動きをガイドする2つのボルト42d,42eと、スペーサ32に設けられたバネ係止部32aとによって構成されている。
【0042】
出没係止部材90の幅方向一方側端(図3における右側の側端)には、段状のバネ係止部90aが形成されており、このバネ係止部90aとスペーサ32のバネ係止部32aとの間にコイルバネ92が圧縮状態で配設されている。したがって、出没係止部材90は、通常状態においてコイルバネ92の付勢によって基体16から突出されており、外力が作用した際には、コイルバネ92の付勢に抗して基体16の空間36内へ没入される。また、出没係止部材90の幅方向他方側端(図3における左側の側端)には、突起状のストッパ部90bが形成されており、このストッパ部90bが2つのボルト42d,42eの間に配設されている。したがって、ストッパ部90bが一方のボルト42dに当接されることによって、出没係止部材90の脱落が防止される。
【0043】
フック装置10を用いて吊下対象物14の運搬作業を行う際には、基体16のワイヤ固定部40に形成された貫通孔38に巻取装置から繰り出されたワイヤ12(図6)の端部を係止する。続いて、ロック部材20をロック解除位置P2(図4)に位置決めした状態でフック装置10を吊り下げる。すると、図6に示すように、フック部材18が自重によって回動され、フック部材18の爪部52が最下位置に配置される。
【0044】
フック部材18を最下位置に配置した後は、フック部材18の爪部52を吊下対象物14の孔14aに挿通するとともに、図6中の二点鎖線で示すように、ロック部材20をロック解除位置P2からロック位置P1へ移動させることによって、フック部材18の開方向への回動を禁止する準備を整える。
【0045】
ロック部材20をロック位置P1へ移動させる際には、保持部材22をコイルバネ(保持用弾性部材24b)24の付勢に抗して保持位置P3から保持解除位置P4へ移動させる。すると、保持部材22の係止部82がロック部材20の係合部68から離脱され(図4)、ロック部材20がコイルバネ(ロック用弾性部材24a)24の付勢によってロック解除位置P2からロック位置P1へ自動的に移動される。
【0046】
そして、図7に示すように、巻取装置からワイヤ12を繰り出すことによって、フック装置10の基体16を地面Gに対して平行になるように寝かせていき、基体16に対してフック部材18をロック部材20によるロック(回動禁止)が可能な位置まで回動させる。このとき、吊下対象物14が地面Gに敷かれている場合(図6〜図9)には、爪部52が地面Gに接触するため、爪部52を孔14aへ引っ掛ける動作が阻害されることになるが、フック部材18の突起部56を踏むようにすると、フック部材18に大きな回動力を付与して地面Gを掘り起こすことができるので、フック部材18を容易に回動させることができ、爪部52の引っ掛け動作を楽に行うことができる。
【0047】
フック部材18を回動させていくと、まず、図8に示すように、フック部材18における係止突起部54の外側端54aがロック部材20のロック部64に接触し、外側端54aがロック部64をロック解除位置P2の側へ押し戻しつつ、ロック部64を乗り越えていく。そして、外側端54aがロック部64を乗り越えると、係止突起部54の突出側端54bがロック部64に接触する。その後、フック部材18をさらに回動させていくと、突出側端54bがロック部64を乗り越え、図9に示すように、ロック部材20がコイルバネ(ロック用弾性部材24a)24の付勢によって再びロック位置P1へ移動される。したがって、その後にフック部材18が開方向へ回動しようとすると、係止突起部54の内側端54cがロック部材20に当接することとなり、フック部材18の開方向への回動が禁止される。
【0048】
また、図8および図9の状態において、離脱防止機構26を構成する出没係止部材90が地面G等に当接すると、コイルバネ92の付勢に抗して出没係止部材90が基体16の空間36内へ没入される。
【0049】
以上の作業により吊下対象物14に対するフック装置10の取り付けが完了すると、図10に示すように、ワイヤ12を巻き上げて吊下対象物14を吊り上げ(すなわち吊下状態で持ち上げ)、この吊下対象物14を目的位置まで運搬し、目的位置においてフック装置10を吊下対象物14から取り外す。
【0050】
吊下対象物14の運搬中には、離脱防止機構26の出没係止部材90がコイルバネ92の付勢によって基体16から突出されており、フック部材18の先端部と出没係止部材90との隙間が閉じた状態になっている。したがって、吊下対象物14が構造物に接触してもフック装置10から脱落することはなく、出没係止部材90による離脱防止機能が有効に発揮されることになる。
【0051】
フック装置10を吊下対象物14から取り外す際には、吊下対象物14を地面Gに寝かせた状態でフック部材18の回動禁止状態(ロック状態)を解除し、その後、フック部材18の爪部52を吊下対象物14の孔14aから離脱させる。
【0052】
フック部材18の回動禁止状態を解除する際には、図11に示すように、ロック部材20の操作部74を手で押すことによって、ロック部材20をコイルバネ(ロック用弾性部材24a)24の付勢に抗してロック位置P1からロック解除位置P2まで移動させる。すると、保持部材22がコイルバネ(保持用弾性部材24b)24の付勢によってロック部材20の係合部68(図4)に係止され、フック部材18がロック解除位置P2において保持される。これにより、フック部材18の回動禁止状態が解除されるとともに、その解除状態が保持される。
【0053】
フック部材18の爪部52を吊下対象物14の孔14aから離脱させる際には、フック部材18の回動禁止状態を解除した状態でワイヤ12を巻き上げていく。すると、フック部材18が自重によって回動され、図6の状態と同様に、フック部材18の爪部52が最下位置に配置される。その状態からワイヤ12をさらに巻き上げていくと、フック装置10の全体が吊り上げられ、フック部材18の爪部52が吊下対象物14の孔14aから離脱される。
【0054】
なお、上述の実施例では、1つのコイルバネ24に「ロック用弾性部材24a」としての機能と「保持用弾性部材24b」としての機能とを併有させているが、コイルバネ24を2つにして、機能ごとに異なるコイルバネを用いるようにしてもよい。また、「ロック用弾性部材24a」および「保持用弾性部材24b」としては、「コイルバネ」の他に、「板バネ」または「ゴム」等の他の「弾性部材」を用いるようにしてもよい。
【0055】
また、上述の実施例では、ロック部材20におけるロック部64の上面を「V字状」に形成し、この上面でフック部材18の係止突起部54を受けるようにしているが、これに代えて、図12に示すような「嵌合構造」を採用してもよい。つまり、ロック部材20におけるロック部64の上面に凹部(溝または穴等)94を形成し、フック部材18に凹部94と嵌合可能な突部96を形成してもよい。また、これとは逆に、ロック部64の上面に突部96を形成し、フック部材18に突部96と嵌合可能な凹部(溝または穴等)94を形成してもよい(図示省略)。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】フック装置を示す平面図
【図2】フック装置を示す正面図
【図3】図1におけるIII-III線断面図
【図4】ロック部材および保持部材の動作を示す部分拡大図
【図5】ロック部材を示す正面図および側面図
【図6】フック部材の爪部が最下位置に配置された状態を示す図
【図7】フック部材を回動させる状態を示す図
【図8】係止突起部がロック部を乗り越える過程を示す図
【図9】ロック部材がロック位置へ移動された状態を示す図
【図10】吊下対象物を吊り下げた状態を示す図
【図11】ロック部材をロック解除位置へ移動させる過程を示す図
【図12】フック部材およびロック部材の変形例を示す図
【図13】従来技術を示す図
【図14】他の従来技術を示す図
【図15】他の従来技術の動作を示す図
【符号の説明】
【0057】
10… フック装置
12… ワイヤ
14… 吊下対象物
16… 基体
18… フック部材
20… ロック部材
22… 保持部材
24… コイルバネ
26… 離脱防止機構
36… 空間
40… ワイヤ固定部
42a,42b,42c,42d,42e… ボルト
44a,44b,44c,44d,44e… 貫通孔
46a,46b,46c,46d,46e… ナット
52… 爪部
54… 係止突起部
56… 突起部
64… ロック部
66… 取付部
68… 係合部
70… バネ固定部
72… アーム部
90… 出没係止部材
94… 凹部
96… 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤの端部が固定されるワイヤ固定部を有する基体、
前記基体に回動自在に取り付けられ、回動が禁止された状態で吊下対象物を吊り下げるフック部材、
前記基体に回動自在に取り付けられ、ロック位置において前記フック部材の回動を禁止し、ロック解除位置においてその禁止状態を解除するロック部材、
前記基体に回動自在に取り付けられ、保持位置において前記ロック部材の回動を禁止し、保持解除位置においてその禁止状態を解除する保持部材、
前記ロック部材に対してロック解除位置からロック位置へ向かう力を付勢するロック用弾性部材、および
前記保持部材に対して保持解除位置から保持位置へ向かう力を付勢する保持用弾性部材を備える、フック装置であって、
前記ロック部材は、ロック位置において前記フック部材に係止されるロック部と、ロック解除位置において前記保持部材に係止される係合部とを有しており、
前記ロック部材を前記ロック用弾性部材の付勢に抗してロック解除位置へ移動させたときに、前記保持部材が前記保持用弾性部材の付勢によって前記係合部に係止され、前記保持部材を前記保持用弾性部材の付勢に抗して保持解除位置へ移動させたときに、前記ロック部材が前記ロック用弾性部材の付勢によって前記ロック位置へ移動される、フック装置。
【請求項2】
前記ロック部材は、前記基体に取り付けられた回動軸が挿通される軸受け孔を有する筒状の取付部と、前記ロック部と前記取付部とを連結するアーム部とを有しており、前記係合部は、前記取付部の外周部に形成されている、請求項1に記載のフック装置。
【請求項3】
前記ロック用弾性部材と前記保持用弾性部材とは1つのコイルバネによって連続して形成されており、前記コイルバネの一端が前記ロック部材に固定され、他端が前記保持部材に固定される、請求項1または2に記載のフック装置。
【請求項4】
前記ロック部材における前記ロック部の上面には、凹部または突部が形成されており、前記フック部材には、突部または凹部が形成されており、前記ロック部材がロック位置にあるとき、前記ロック部材の凹部または突部に前記フック部材の突部または凹部が嵌合される、請求項1ないし3のいずれかに記載のフック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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