説明

フッ素不溶化剤及びその製造方法

【課題】フッ素を短時間で充分に不溶化することができるフッ素不溶化剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸水素カルシウム二水和物を95〜40質量%及び水酸化アパタイトを5〜60質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものをフッ素不溶化剤とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素不溶化剤及びその製造方法に関する。環境保全の観点から、土壌や排水中のフッ素、更には廃棄物、例えば廃石膏中のフッ素を、フッ素不溶化剤を用いて不溶化することが行なわれる。本発明は、かかるフッ素不溶化剤及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のようなフッ素不溶化剤として、各種のアルミニウム化合物やカルシウム化合物の他に、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)、水酸化アパタイト(水酸アパタイトやヒドロキシアパタイトともいう、Ca(POOH)等、各種のリン酸化合物が知られている(例えば、特許文献1〜4、非特許文献1及び2参照)。
【0003】
しかし、これら従来のフッ素不溶化剤には、もともとフッ素の不溶化が不充分であったり、とりわけフッ素の不溶化に時間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−305387号公報
【特許文献2】特開2006−341196号公報
【特許文献3】特開2007−216156号公報
【特許文献4】特開2010−53266号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ジャーナル オブ ザ ヨーロピアン セラミック ソサエティ(Journal of the European Ceramic Society)26(2006) 767〜770
【非特許文献2】分析化学 34(1985) 732−735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、フッ素を短時間で充分に不溶化することができるフッ素不溶化剤及びその製造方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決する本発明は、リン酸水素カルシウム二水和物を95〜40質量%及び水酸化アパタイトを5〜60質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とするフッ素不溶化剤に係る。また本発明は、かかるフッ素不溶化剤の製造方法であって、消石灰の水分散液に、撹拌しながら、リン酸の水溶液を、5分以上を要して、且つリン酸/消石灰=1/1〜1/1.5(モル比)の割合となるよう、徐々に加えて反応させ、その反応系から固形分を分離することを特徴とするフッ素不溶化剤の製造方法に係る。
【0008】
先ず、本発明に係るフッ素不溶化剤について説明する。本発明に係るフッ素不溶化剤は、リン酸水素カルシウム二水和物(以下、単にDCPDと略記する)と水酸化アパタイト(以下、単にHAPと略記する)とから成るものである。
【0009】
本発明に係るフッ素不溶化剤において、DCPDとしては、工業用の他に、化粧品用、食品添加物用、医薬品用等、各種のグレードのものが市販されているので、それらを使用することができるが、別に製造したものを使用することもできる。DCPDは、工業的には一般に、消石灰の水分散液とリン酸とを、pH4〜5に調整した水系媒体中で反応させることにより製造され、かかる反応に際して各種の添加剤を用いる方法も知られているので(特開昭63−215505号公報、特開平6−191808号公報、特開平6−298505号公報、特開平7−2504号公報、特開平7−10511号公報、特開平8−165108号公報等)、これらの従来法により製造したものを使用することもできるのである。
【0010】
また本発明に係るフッ素不溶化剤において、HAPとしては、これも天然由来のものや化学的に合成したもの等、各種のグレードのものが市販されているので、それらを使用することができるが、別に製造したものを使用することもできる。HAPは、工業的には一般に、カルシウム塩の水溶液、例えば硝酸カルシウムの水溶液とリン酸の水溶液とを混合し、pHを8〜9程度に調整することにより製造されているので、かかる従来法により製造したものを使用することもできるのである。
【0011】
本発明者らの試験によれば、DCPDには不充分とはいうものの相応のフッ素不溶化能が認められるが、HAPのフッ素不溶化能は、かかるDCPDのフッ素不溶化能よりも低い。しかし、DCPDとHAPとを特定の割合で併用すると、DCPDやいうまでもなくHAPのフッ素不溶化能からは到底予測できない高レベルのフッ素不溶化能が認められる。DCPDとHAPとを特定の割合で併用すると、双方がフッ素の不溶化に対して相乗的に作用し、フッ素を短時間で充分にフッ素アパタイトとして不溶化することができるのである。
【0012】
本発明に係るフッ素不溶化剤は、DCPDを95〜40質量%及びHAPを5〜60質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである。DCPDとHAPとをかかる範囲内の割合で併用すると、フッ素を短時間で充分にフッ素アパタイトとして不溶化することができる。同様の意味で、本発明に係るフッ素不溶化剤としては、DCPDを90〜60質量%及びHAPを10〜40質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましく、DCPDを90〜80質量%及びHAPを10〜20質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものがより好ましい。いずれの場合も、DCPDやHAPを製造する上で不可避的に含まれてくる他の成分が混在していても特に支障はない。
【0013】
本発明に係るフッ素不溶化剤において、DCPDは結晶質のものであるが、HAPには結晶質のものと非晶質のものとがある。かかる結晶性については、X線回析(XRD)、熱天秤/示差熱分析(TG/DTA)、走査型電子顕微鏡観察(SEM観察)等により確認することができる。本発明に係るフッ素不溶化剤において、HAPとしては、非晶質のものが好ましい。結晶質のHAPを使用する場合よりも高性能のフッ素不溶化剤となるからである。
【0014】
次に、本発明に係るフッ素不溶化剤の製造方法(以下、単に本発明の製造方法という)について説明する。本発明に係るフッ素不溶化剤は、例えば市販のDCPDと市販のHAPとを前記したような特定の割合で混合することに製造することもできるが、次のように製造するのが好ましい。より高性能のフッ素不溶化剤が得られるからである。本発明の製造方法では、消石灰(Ca(OH))と、リン酸(HPO)とを、水系媒体中にて反応させる。本発明の製造方法では、常時安定して高性能のフッ素不溶化剤を得るため、消石灰を限定して用いる。リン酸としては、所謂試薬級や食品添加物用のものの他に、純度の低い工業用リン酸や廃リン酸を用いることもできる。
【0015】
本発明の製造方法では、前記したように消石灰とリン酸とを水系媒体中にて反応させるが、消石灰の水分散液(水懸濁液)に、撹拌しながら、リン酸の水溶液を、5分以上を要して、徐々に加えて反応させる。双方を反応させるときの加える順序と時間が重要であり、リン酸の水溶液に消石灰の水分散液を加えたのでは、高性能のフッ素不溶化剤を得ることができない。また、消石灰の水分散液にリン酸の水溶液を加えるときも、リン酸の水溶液の全量を一度に加えたのでは、高性能のフッ素不溶化剤を得ることができない。本発明の製造方法では、前記したように、消石灰の水分散液に、撹拌しながら、リン酸の水溶液を、5分以上を要して、徐々に加えるのであり、好ましくはリン酸の水溶液を20〜60分を要して徐々に加えるのである。
【0016】
また本発明の製造方法では、消石灰の水分散液に、撹拌しながら、リン酸の水溶液を、5分以上を要して、且つリン酸/消石灰=1/1〜1/1.5(モル比)の割合となるよう、徐々に加えて反応させる。消石灰の水分散液に、リン酸の水溶液を、リン酸/消石灰=1/1〜1/1.5(モル比)の割合となるよう、好ましくはリン酸/消石灰=1/1.1〜1/1.2(モル比)の割合となるよう徐々に加えることにより、高性能のフッ素不溶化剤を得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法において、用いる消石灰の水分散液の濃度やリン酸の水溶液の濃度は特に制限されないが、消石灰の水分散液は0.3〜3モル/dmのモル濃度のものを用い、リン酸の水溶液は0.5〜10モル/dmのモル濃度のものを用いるのが好ましい。また双方を反応させるときの温度は、通常70℃以下とするが、10〜40℃とするのが好ましい。高性能のフッ素不溶化剤を常時安定して効率的に得るためである。
【0018】
更に本発明の製造方法において、前記したように消石灰とリン酸とを水系媒体中にて反応させるときのpHは特に制限されないが、双方を反応させた後、反応系のpHを4.50〜8.00に調整するのが好ましく、5.00〜7.50に調整するのがより好ましく、5.50〜7.00に調整するのが特に好ましい。双方を反応させた後の反応系のpHが4.50〜8.00になっているときは、改めてpH調整することもないが、そうでないときは、アルカリ性剤の水溶液、例えば水酸化ナトリウムの水溶液を加えて前記のようにpH調整すると、高性能のフッ素不溶化剤を常時安定して効率的に得ることができる。
【0019】
本発明の製造方法では、以上説明したように、消石灰の水分散液に撹拌しながらリン酸の水溶液を徐々に加えて反応させ、その反応系から固形分を濾過や遠心分離で分離して、分離した固形分を必要に応じて洗浄及び乾燥し、フッ素不溶化剤を得る。
【0020】
本発明の製造方法によって得られるフッ素不溶化剤はフッ素不溶化能が高く、土壌中、排水中及び廃棄物中等、例えば廃石膏中のフッ素を短時間で充分にフッ素アパタイトとして不溶化する。本発明の製造方法によって得られるフッ素不溶化剤の性能が高い理由は、複雑微細な表面構造のDCPDと非晶質のHAPとが前記した本発明に係るフッ素不溶化剤の割合で同時に生成し、双方がフッ素の不溶化に対して相乗的に作用するためと推察される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のフッ素不溶化剤によると、土壌中、排水中及び廃棄物中等のフッ素を短時間で充分に不溶化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のフッ素不溶化剤等の性能を例示するグラフ。
【図2】本発明の他のフッ素不溶化剤等の性能を例示するグラフ。
【図3】本発明の他のフッ素不溶化剤等の性能を例示するグラフ。
【図4】本発明の他のフッ素不溶化剤等の性能を例示するグラフ。
【図5】本発明の他のフッ素不溶化剤等の性能を例示するグラフ。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等で、%は質量%であり、部は質量部である。
【0024】
試験区分1
比較例1
市販の工業用DCPD(日本化学工業社製の商品名第二リン酸カルシウム)をフッ素不溶化剤とした。
【0025】
実施例1〜6及び比較例2
比較例1と同じ工業用DCPD/合成した非晶質のHAP=95/5、90/10、80/20、70/30、60/40、40/60及び20/80(いずれも%)の割合となるよう混合し、その混合物をフッ素不溶化剤とした。合成した非晶質のHAPは次のようにして得た。反応容器に消石灰の水分散液(消石灰として0.835モル)を入れ、撹拌しながら、リン酸の水溶液(リン酸として0.50モル)を、定量ポンプを用い、30分間を要して、徐々に加えた後、更に30分間撹拌を続けた。反応系の温度は30℃、pHは7.00、用いたリン酸/消石灰=1/1.67(モル比)の割合であった。反応系を濾過し、濾過により分離した固形分を乾燥した。乾燥物をX線回析及び熱天秤/示差熱分析に供したところ、この乾燥物は非晶質のHAPであった。
【0026】
比較例3
実施例1〜6及び比較例2と同じ合成した非晶質のHAPをフッ素不溶化剤とした。
【0027】
評価1
市販のフッ素液を用いて調製したフッ素濃度20.0mg/Lの水溶液500mlに、試験区分1の各例で得たフッ素不溶化剤を0.5g入れ、25℃の温度下で1時間又は6時間混合した。混合物を吸引濾過し、濾液をイオンクロマトグラフに供して、フッ素濃度を求めた。各例のフッ素不溶化剤の内容及び試験結果を表1にまとめて示し、試験結果を図1に示した。図1中、横軸の組成(HAP/DCPDの各質量%)が100/0は比較例3に相当し、0/100は比較例1に相当する。
【0028】
【表1】

【0029】
表1において、
◎:フッ素濃度が、1時間後に5.0mg/L未満且つ6時間後に3.0mg/L未満
○:フッ素濃度が、1時間後に10.0mg/L未満且つ6時間後に5.0mg/L未満
×:フッ素濃度が、1時間後に10.0mg/L以上
【0030】
試験区分2
比較例4
市販の食品添加物用DCPD(太平化学産業社製の商品名リン酸−水素カルシウム)をフッ素不溶化剤とした。
【0031】
実施例7〜12及び比較例5
比較例4と同じ食品添加物用DCPD/合成した非晶質のHAP=95/5、90/10、80/20、70/30、60/40、40/60及び20/80(いずれも%)の割合となるよう混合し、その混合物をフッ素不溶化剤とした。合成した非晶質のHAPは次のようにして得た。反応容器に消石灰の水分散液(消石灰として0.835モル)を入れ、撹拌しながら、リン酸の水溶液(リン酸として0.50モル)を、定量ポンプを用い、30分間を要して、徐々に加えた後、更に30分間撹拌を続けた。反応系の温度は30℃、pHは7.00、用いたリン酸/消石灰=1/1.67(モル比)の割合であった。反応系を濾過し、濾過により分離した固形分を乾燥した。乾燥物をX線回析及び熱天秤/示差熱分析に供したところ、この乾燥物は非晶質のHAPであった。
【0032】
比較例6
実施例7〜12及び比較例5と同じ合成した非晶質のHAPをフッ素不溶化剤とした。
【0033】
評価2
試験区分2の各例で得たフッ素不溶化剤について、試験区分1と同様に試験し、評価した。各例のフッ素不溶化剤の内容及び試験結果を表2にまとめて示し、試験結果を図2に示した。図2中、横軸の組成(HAP/DCPDの各質量%)が100/0は比較例6に相当し、0/100は比較例4に相当する。
【0034】
【表2】

【0035】
試験区分3
比較例7
市販の工業用DCPD(日本化学工業社製の商品名第二リン酸カルシウム)をフッ素不溶化剤とした。
【0036】
実施例13〜18及び比較例8
比較例7と同じ工業用DCPD/市販の結晶質のHAP=95/5、90/10、80/20、70/30、60/40、40/60及び20/80(いずれも%)の割合となるよう混合し、その混合物をフッ素不溶化剤とした。結晶質のHAPとしては、太平化学産業社製の商品名HAP−100を用いた
【0037】
比較例9
実施例13〜18及び比較例8と同じ市販の結晶質のHAPをフッ素不溶化剤とした。
【0038】
評価3
試験区分3の各例で得たフッ素不溶化剤について、試験区分1と同様に試験し、評価した。各例のフッ素不溶化剤の内容及び試験結果を表2にまとめて示し、試験結果を図3に示した。図3中、横軸の組成(HAP/DCPDの各質量%)が100/0は比較例9に相当し、0/100は比較例7に相当する。
【0039】
【表3】

【0040】
試験区分4
比較例10
市販の食品添加物用DCPD(太平化学産業社製の商品名リン酸−水素カルシウム)をフッ素不溶化剤とした。
【0041】
実施例19〜24及び比較例11
比較例10と同じ食品添加物用DCPD/市販の結晶質のHAP=95/5、90/10、80/20、70/30、60/40、40/60及び20/80(いずれも%)の割合となるよう混合し、その混合物をフッ素不溶化剤とした。市販の結晶質のHAPとしては、太平化学産業社製の商品名HAP−100を用いた。
【0042】
比較例12
実施例19〜24及び比較例11と同じ市販の結晶質のHAPをフッ素不溶化剤とした。
【0043】
評価4
試験区分4の各例で得たフッ素不溶化剤について、試験区分1と同様に試験し、評価した。各例のフッ素不溶化剤の内容及び試験結果を表4にまとめて示し、試験結果を図4に示した。図4中、横軸の組成(HAP/DCPDの各質量%)が100/0は比較例12に相当し、0/100は比較例10に相当する。
【0044】
【表4】

【0045】
試験区分5
比較例13
反応容器に消石灰の水分散液(消石灰として0.60モル)を入れ、撹拌しながら、リン酸の水溶液(リン酸として1.0モル)を、定量ポンプを用い、30分間を要して、徐々に加えた後、更に30分間撹拌を続けた。反応系の温度は30℃、pHは4.87、用いたリン酸/消石灰=1/0.60(モル比)の割合であった。反応系を濾過し、濾過により分離した固形分を乾燥した。乾燥物をX線回析及び熱天秤/示差熱分析に供したところ、この乾燥物は、DCPD及び非晶質のHAPを合計で95.5%含有し且つDCPD/非晶質のHAP=100/0(質量比)の割合で含有するものであった。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0046】
比較例14、実施例25〜30及び比較例15
用いたリン酸/消石灰の割合(モル比)を表5記載のように変えたこと以外は比較例13と同様にして、消石灰の水分散液にリン酸の水溶液を徐々に加えて反応させ、反応系から固形分を分離して乾燥し、乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0047】
評価5
試験区分5の各例で得たフッ素不溶化剤について、試験区分1と同様に試験し、評価した。各例のフッ素不溶化剤の内容及び試験結果を表5にまとめて示し、試験結果を図5に示した。図5中、横軸の組成(HAP+DCPD中のHAP/DCPDの各質量%)が91.5/8.5に相当する部分は比較例15に相当し、0/100は比較例13に相当する。












【0048】
【表5】

【0049】
試験区分6
実施例31
消石灰55.5g(消石灰として0.75モル)を純水300gに分散させ、消石灰の水分散液とし、反応容器に入れた。この反応容器に、反応容器内の消石灰の水分散液を撹拌しながら、純度75%の工業用リン酸の水溶液65.3g(リン酸として0.50モル)を、定量ポンプを用い、5分間を要して、徐々に加えた後、更に60分間撹拌を続けた。反応系の温度は30℃、pHは5.90、用いたリン酸/消石灰=1/1.5(モル比)であった。反応系を濾過し、濾過して分離した固形分を40℃で乾燥して、乾燥物を得た。乾燥物をX線回析及び熱天秤/示差熱分析に供したところ、DCPD及び非晶質のHAPを合計で88.0%含有し且つDCPD/非晶質のHAP=51.4/36.6(質量%)の割合で含有するものであった。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0050】
実施例32〜35
消石灰の水分散液に、工業用リン酸の水溶液を加える時間を、5分間から、10分間、20分間、30分間、45分間に代えたこと以外は実施例31と同様にして、乾燥物を得た。これらの乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0051】
比較例16
消石灰55.5g(消石灰として0.75モル)を純水300gに分散させ、消石灰の水分散液とし、反応容器に入れた。この反応容器に、反応容器内の消石灰の水分散液を撹拌しながら、純度75%の工業用リン酸の水溶液65.3g(リン酸として0.50モル)を、一度に加えた後、更に60分間撹拌を続けた。反応系の温度は30℃、pHは6.10、用いたリン酸/消石灰=1/1.5(モル比)であった。反応系を濾過し、濾過して分離した固形分を40℃で乾燥して、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0052】
比較例17
消石灰55.5g(消石灰として0.75モル)に代えて炭酸カルシウム75.1g(炭酸カルシウムとして0.75モル)を用いたこと以外は実施例31と同様にして、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0053】
比較例18
消石灰55.5g(消石灰として0.75モル)に代えて炭酸カルシウム75.1g(炭酸カルシウムとして0.75モル)を用いたこと以外は比較例16と同様にして、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0054】
比較例19
消石灰55.5g(消石灰として0.75モル)を純水300gに分散させ、消石灰の水分散液とした。反応容器に、純度75%の工業用リン酸の水溶液65.3g(リン酸として0.50モル)を入れ、これを撹拌しながら、前記の消石灰の水分散液を、定量ポンプを用い、10分間を要して、徐々に加えた後、更に60分間撹拌を続けた。反応系の温度は30℃、pHは5.90、用いたリン酸/消石灰=1/1.5(モル比)であった。反応系を濾過し、濾過して分離した固形分を乾燥して、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0055】
比較例20
リン酸の水溶液に、消石灰の水分散液を加える時間を、10分間から、20分間に変えたこと以外は比較例19と同様にして、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0056】
評価6
試験区分6の各例で得たフッ素不溶化剤について、試験区分1と同様に試験し、評価した。各例のフッ素不溶化剤の内容及び試験結果を表6にまとめて示した。
【0057】
【表6】

【0058】
試験区分7
実施例36
消石灰46.3g(消石灰として0.62モル)を純水300gに分散させ、消石灰の水分散液とし、反応容器に入れた。この反応容器に、反応容器内の消石灰の水分散液を撹拌しながら、純度75%の工業用リン酸の水溶液65.3g(リン酸として0.50モル)を、定量ポンプを用い、20分間を要して、徐々に加えた後、更に60分間撹拌を続けた。反応系の温度は30℃、pHは5.20、用いたリン酸/消石灰=1/1.24(モル比)であった。反応系に水酸化ナトリウムの水溶液を加えて、pHを6.50に調整した後、反応系を濾過し、濾過して分離した固形分を40℃で乾燥して、乾燥物を得た。乾燥物をX線回析及び熱天秤/示差熱分析に供したところ、DCPD及び非晶質のHAPを合計で91.0%含有し且つDCPD/非晶質のHAP=55.2/35.8(質量%)の割合で含有するものであった。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0059】
実施例37
消石灰46.3g(消石灰として0.62モル)に代えて、消石灰55.5g(0.75モル)を用いたこと以外は実施例36と同様にして、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0060】
実施例38〜40
反応系のpH調整値6.50を、5.50、7.00又は8.00に変えたこと以外は実施例37と同様にして、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0061】
比較例21
消石灰46.3g(消石灰として0.62モル)に代えて、消石灰28.1g(消石灰として0.38モル)を用いたこと以外は実施例36と同様にして、乾燥物を得た。この乾燥物をフッ素不溶化剤とした。
【0062】
試験区分7
試験区分7の各例で得たフッ素不溶化剤について、試験区分1と同様に試験し、評価した。各例のフッ素不溶化剤の内容及び試験結果を表7にまとめて示した。
【0063】
【表7】

【0064】
表1〜7の結果からも明らかなように、本発明に係る各実施例のフッ素不溶化剤は、1時間という短時間でフッ素の溶出濃度を10mg/L未満にまで、好ましくは5mg/L未満にまで不溶化できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸水素カルシウム二水和物を95〜40質量%及び水酸化アパタイトを5〜60質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とするフッ素不溶化剤。
【請求項2】
リン酸水素カルシウム二水和物を90〜60質量%及び水酸化アパタイトを10〜40質量(合計100質量%)の割合で含有する請求項1記載のフッ素不溶化剤。
【請求項3】
リン酸水素カルシウム二水和物を90〜80質量%及び水酸化アパタイトを10〜20質量%の割合で含有する請求項1記載のフッ素不溶化剤。
【請求項4】
水酸化アパタイトが非晶質のものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載のフッ素不溶化剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの項記載のフッ素不溶化剤の製造方法であって、消石灰の水分散液に、撹拌しながら、リン酸の水溶液を、5分以上を要して、且つリン酸/消石灰=1/1〜1/1.5(モル比)の割合となるよう、徐々に加えて反応させ、その反応系から固形分を分離することを特徴とするフッ素不溶化剤の製造方法。
【請求項6】
リン酸の水溶液を、20〜60分を要して、徐々に加える請求項5記載のフッ素不溶化剤の製造方法。
【請求項7】
リン酸の水溶液を、リン酸/消石灰=1/1.1〜1/1.2(モル比)の割合となるよう、徐々に加える請求項5又は6記載のフッ素不溶化剤の製造方法。
【請求項8】
消石灰の水分散液として0.3〜3モル/dmのモル濃度のものを用い、またリン酸の水溶液として0.5〜10モル/dmのモル濃度のものを用いる請求項5〜7のいずれか一つの項記載のフッ素不溶化剤の製造方法。
【請求項9】
消石灰の水分散液に、リン酸の水溶液を加えて反応させた後、反応系のpHを4.50〜8.00に調整する請求項5〜8のいずれか一つの項記載のフッ素不溶化剤の製造方法。
【請求項10】
10〜40℃の温度下にて反応させる請求項5〜9のいずれか一つの項記載のフッ素不溶化剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256356(P2011−256356A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199480(P2010−199480)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000199245)チヨダウーテ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】