説明

フッ素化合物含有排水の処理方法及びその処理装置

【課題】作業が容易で、コスト高とならずに、6フッ化リン酸リチウムなどのフッ素化合物及び有機物を含有するフッ素化合物含有排水の処理方法及びその処理装置を提供する。
【解決手段】少なくともフッ素化合物と有機物とを含有する排水に光触媒の存在下で紫外線を照射して有機物を分解する有機物分解工程と、該有機物分離工程によって処理された排水を分離膜で処理することによって、前記フッ素化合物を除去するフッ素化合物除去工程とを備えたことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池製造工程などにおいて発生する洗浄排水中の6フッ化リン酸リチウムなどフッ素化合物及び有機物が含有されたフッ素化合物含有排水の処理方法及びその処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水質汚濁防止法において、排水中に含まれるフッ素濃度を8mg/L(海への放流の場合15mg/L)未満にするよう義務づけされている。ところで、リチウムイオン電池を製造する過程において、電解液充填後の洗浄工程や、リチウムイオン電解液を電解液製造工場から電池製造工場へ輸送する為のケースの洗浄工程において排出される洗浄排水には、6フッ化リン酸リチウムなどのフッ素化合物が多く含まれており、そのフッ素濃度を水質汚濁防止法に定められている基準値未満にするのは容易ではない。
【0003】
フッ素化合物含有排水の一般的な処理方法として、フッ酸とカルシウムを反応させて生成したフッ化カルシウムが沈殿物として分離除去する方法があるが、フッ化カルシウムは難溶解性とはいえ、水中に15mg/L(フッ素濃度にして8mg/L)溶解するという問題がある。また、この方法においては、添加したカルシウムとフッ素が反応しなくてはならず、例えば6フッ化リン酸リチウムの溶解した水溶液は、カルシウムと反応しないため、沈殿物が生成せず除去が不可能である。
【0004】
このような問題を解決する方法として、塩基性陰イオン交換樹脂を用いて、6フッ化リン酸リチウムを含有する水溶液中の6フッ化リン酸リチウムを吸着させることにより、その水溶液から6フッ化リン酸リチウムを分離回収する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−207630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、水中のすべてのイオンを吸着する必要があるため、イオン交換樹脂を頻繁に交換しなければならず、作業が繁雑になり、コスト高になるという問題がある。そこで、本発明は、作業が容易で、コスト高とならずに、6フッ化リン酸リチウムなどのフッ素化合物及び有機物を含有するフッ素化合物含有排水の処理方法及びその処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、少なくともフッ素化合物と有機物とを含有する排水に光触媒の存在下で紫外線を照射して有機物を分解した後に、分離膜でフッ素化合物を除去することによって、作業が容易で、コスト高とならずに、6フッ化リン酸リチウムなどのフッ素化合物と有機物とを含有する排水を処理することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくともフッ素化合物と有機物とを含有する排水に光触媒の存在下で紫外線を照射して有機物を分解する有機物分解工程と、該有機物分離工程によって処理された排水を分離膜で処理することによって、前記フッ素化合物を除去するフッ素化合物除去工程とを備えたことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理方法、及び光触媒及び紫外線照射部を有し、少なくともフッ素化合物と有機物とを含有する排水に光触媒の存在下で紫外線を照射して有機物を分解する有機物分解部と、前記フッ素化合物を除去可能な分離膜を有し、前記有機物分離槽において処理された排水を分離膜で処理することによって、前記フッ素化合物を除去するフッ素化合物除去部とを備えたことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理装置である。
【0009】
本発明に係る排水の処理方法及びその処理装置によれば、有機物を分解処理した後に、分離膜によってフッ素化合物を除去しているので、分離膜が有機物によって膨潤することはなく、フッ素化合物の分離を問題なく行なうことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、作業が容易で、コスト高とならずに、6フッ化リン酸リチウムなどのフッ素化合物と有機物とを含有する排水を処理するフッ素化合物含有排水の処理方法及びその処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るフッ素化合物含有排水の処理装置の実施形態が含まれた処理工程を示す概念図である。
【図2】本実施形態に係るフッ素化合物含有排水の処理装置に用いられる有機物分解部の平面断面概念図である。
【図3】本実施形態に係るフッ素化合物含有排水の処理装置に用いられる光触媒カートリッジの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る排水処理装置の実施形態について説明する。本実施形態に係る排水処理装置は、リチウムイオン電池を製造する工程において発生する電池製造工程の洗浄排水を処理するものであり、その洗浄排水に含まれる有機物を分解し、6フッ化リン酸リチウムなどのフッ素化合物を除去するものである。リチウムイオン電池製造工程にて発生する洗浄水に含まれる有機溶媒としては、炭酸エステルが好ましく、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸プロピレン等が挙げられる。
【0013】
本実施形態に係る排水処理装置は、図1に示すように、洗浄排水中の有機物の分解処理を行なう有機物分解部10と、有機物分解部10において有機物が分解された一次処理排水中のフッ素化合物を除去するフッ素化合物除去部12とを備えている。図1に示すように、本実施形態に係る排水処理装置において、洗浄排水は、リチウムイオン電池の製造工場Aから排出された洗浄排水が貯蔵された洗浄排水タンクBから有機物分解部10に供給され、有機物分解部10によって処理された一次処理排水は、一旦一次処理排水タンクCに貯蔵され、その一次処理排水タンクCからフッ素化合物除去部12に供給されるよう配置されている。
【0014】
フッ素化合物除去部12には、6フッ化リン酸リチウムなどのフッ素化合物を分離除去可能な分離膜が設けられており、フッ素化合物が除去された洗浄排水を排出するよう構成されている。このような分離膜としては、逆浸透(RO)膜、ナノフィルトレーション(NF)膜などがある。
【0015】
有機物分解部10は、図2に示すように洗浄排水を流動可能な流動槽14と、流動槽14内を流動する洗浄排水が通過可能に配置され、光触媒機能を有する繊維からなる光触媒カートリッジ16と、流動槽14内の流動する洗浄排水に紫外線を照射可能な紫外線照射ランプ18と、を備えている。
【0016】
流動槽14は、内部を前後2つの領域に二分する仕切り板20が設けられており、この仕切り板20の左側辺と流動槽14の左側面との間には間隔が空いており、この間隔によって前後2つの領域が連通可能に構成されている。また、流動槽14内の正面右側には、洗浄排水が流入可能な流入口14Aが形成され、後面右側には、洗浄排水が流出可能な流出口14Bが形成されている。さらに、流動槽14の前側領域の右側面には、流動槽14内の洗浄排水を循環させるための循環用流入口14Cが形成され、後側領域の右側面には、循環用流出口14Dが形成されている。これら循環用流入口14C及び循環用流出口14Dには循環路22が接続されており、循環路22に設けられたポンプ24によって流動槽14内の洗浄排水が循環されるよう構成されている。また、流動槽14には、空気供給装置15が接続されており、流動槽14内に空気を供給可能に構成されている。循環槽14は、このように構成されることによって、流入口14Aから前側領域に流入された洗浄排水を左方向に流動させ、左側の間隔から後側領域に流動させ、次いで循環用流出口14D→循環路22→循環用流入口14Cと循環させ、有機物分解処理が終了した後、後側領域の流出口14Bから流出させることができる。
【0017】
光触媒カートリッジ16は、洗浄排水の流動方向に対して垂直に交わる面の全域に亘って、前側領域の流入口14Aより下流側(左側)、仕切り板20の左側辺に当接する位置、及び後側領域の流出口14Bより上流側(左側)の3カ所に設置されている。各光触媒カートリッジ16は、図3に示すように平板状不織布16Aと一対の金網16B、16Bとからなり、平板状不織布16Aが一対のステンレス製の金網16B、16Bに狭持されている。このように金網16B、16Bをサポート材として用いてカートリッジ状にすることにより、光触媒機能が劣化した平板状不織布16Aを容易に取り換えることができる。多段の光触媒カートリッジを枠体等を用いて連結構造とすることにより、脱着を容易にすることができる。本実施形態において、光触媒カートリッジを3個としたが、求められる水質等に応じて、任意にその数を決定することができ、例えば1〜50個とすることができる。また、本実施形態においては、光触媒カートリッジ16として平板状不織布16Aを流動槽14に固定したが、他の手段により設置してもよい。さらに、本実施形態において、各光触媒カートリッジ16は、その面が水の流動方向に垂直に交わるように設置したが、流動する水が効率良く平板状不織布16Aを通過すれば良く、例えば流動方向に対して10°前後、好ましくは5°前後、傾いて設置されても良い。
【0018】
紫外線照射ランプ18は、円柱状に形成されており、その外表面には、円筒状のカバー部材(図示省略)が設けられている。このカバー部材は、250〜260nmだけでなく、180から190nmのピーク波長を透過する材質、例えば、合成石英からなる。一般的な低圧水銀ランプは、本来、185nmと254nmの2つの波長を有するが、通常のカバー部材の素材であるガラスが短波長の紫外線を透過しないため、254nmの波長のみを照射する。本実施形態に係る紫外線酸化装置において、紫外線照射ランプ18は、上述のようにカバー部材の素材を特殊なものにすることによって、180〜190nmと250〜260nmにピーク波長を有する紫外線を照射可能に構成されている。紫外線照射ランプ11から照射される紫外線は、180〜190nm、好ましくは185nmにピーク波長を有し、かつ、250〜260nm、好ましくは254nmにピーク波長を有する。この紫外線照射ランプ18は、光触媒カートリッジ16の間に2本、後側領域及び前側領域に亘って設けられており、その長手方向が光触媒カートリッジ16に対して平行な状態に設けられている。
【0019】
平板状不織布16Aに使用する光触媒としては、一般的に酸化チタンが用いられ、その中でも好ましくはアナターゼ型の酸化チタンである。光触媒の形状は、粉末、繊維、薄膜、厚膜の形態をとることができる。繊維形態の場合、大別して3種類の光触媒繊維が存在する。酸化チタンで構成される繊維、表面が酸化チタンで内部が高強度のシリカの傾斜構造を有する繊維、またはガラス繊維等を基材とし、表面に酸化チタンをコーティングしたものである。酸化チタンで構成されている場合、繊維自体の強度低く、流水圧による破断が生じやすく、またコーティングの場合、コーティング相が流水により剥がれ落ちるという問題がある。本発明者らは、すでに特許3465699号に示すように、繊維同士のブリッジングが全くなく、1本1本の繊維表面に酸化チタンをはじめとする光触媒成分が緻密に析出した構造の光触媒繊維を開発している。この光触媒繊維は、従来のコーティングという手法によらないために繊維表面の光触媒成分が脱落するという問題点も解決されている。この不織布の成型物は、繊維1本1本がある程度の空隙を有して分散した構造となっているために、処理流体は、繊維1本1本の隙間を通るために、処理流体と光触媒との接触面積が非常に大きいことが特徴である。
【0020】
次に、本実施態様に係る排水処理装置に用いられる平板状不織布16Aの好ましい例について詳細に説明する。平板状不織布16Aは、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している光触媒繊維からなることが好ましい。
【0021】
光触媒繊維の表面は、必要に応じて白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうちの1以上が担持されていてもよい。担持方法は、特に限定されないが、前記担持される金属イオンが含まれる液と光触媒繊維とを接触させながら、第2相を構成する金属酸化物のバンドギャップに相当するエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することによって、担持させることができる。
【0022】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0023】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0024】
一方、第2相は、チタンを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、チタンが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもいいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でも良いが、チタニアであることが好ましい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0025】
第2相に含まれる金属酸化物のチタンの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の重量%を示している。
【0026】
排水処理装置において、平板状不織布上の平均紫外線強度は、1〜10mW/cmであることが好ましく、さらに2〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。平板状不織布表面での紫外線強度が1〜10mW/cmであると、2つの紫外線成分による水処理を高効率に行うことができる。このような範囲にするには、紫外線照射手段と平板状不織布との距離等を適当な範囲になるようにすればよい。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の中央部から端部までの複数個所の紫外線強度を測定し、これらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0027】
上記のような傾斜構造を有する光触媒繊維は、既知の方法によって製造することができ、例えばWO2009/63737号公報に記載の方法に基づいて製造することができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る排水処理装置を用いて排水処理する方法について説明する。先ず、洗浄排水タンクBから有機物分解部10の流入口10Aに供給された洗浄排水は、光触媒カートリッジ16を通りながら、流動槽14内を流動する。平板状不織布16Aは、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、水が通過する際、光触媒との接触面積が非常に大きい。このため、光触媒機能を有する平板状不織布16Aによって効率的にラジカルが発生し、炭酸ジメチルなどの有機物を分解する。
【0029】
通常、チタニア光触媒を利用した排水処理装置においては、紫外線照射ランプは、波長351nmのブラックライト蛍光ランプ又は波長254nmの殺菌ランプが用いられる。チタニア光触媒は、387nm以下の波長であれば励起することができ、又これらのランプは製品として入手しやすいためである。本実施形態に係る排水処理装置においては、従来用いられなかった紫外線を利用し、かつ光触媒を所定の配置構造にすることにより、高い分解効率を得ることができる。すなわち、本発明に係る排水処理装置においては、光触媒繊維からなる平板状不織布と、この平板状不織布と平行になるように設置され、180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射する紫外線照ランプとを有するので、上記光触媒への光照射効率と処理流体との接触効率を維持しながら、180〜190nmの紫外線が光触媒によって遮断されることはない。
【0030】
本実施形態に係る排水処理装置は、有機物分解部14において、洗浄排水を循環させて、炭酸ジメチルなどの有機物をほぼ完全に分解した後に、フッ素化合物除去部12に供給する。フッ素化合物除去部12は、分離膜によって供給された一次処理水中の6フッ化リン酸リチウムを除去するが、一次処理水には有機物が含まれていないため、分離膜が膨潤することはない。
【実施例】
【0031】
以下、本発明に係るフッ素化合物含有排水の処理装置の実施例を説明する。
【0032】
(製造例)
先ず、実施例に用いられる平板状不織布としてチタニア/シリカ繊維を製造した。すなわち、5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0033】
ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0034】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、チタニア/シリカ繊維を得た。
【0035】
(実施例1)
製造例で得られたチタニア/シリカ繊維を用いて、図3に示される平板状不織布を含む光触媒パネルを作成し、図2に示される水浄化装置を作製した。用いた紫外線照射ランプは、ヘレウス社製NIQ60/35XL(出力:65W)を4本使用した。紫外線照射ランプは、波長254nmにピークをもつ250〜260nmと180〜190nmの紫外線を放射するものである。紫外線照射ランプと光触媒カートリッジの距離は、最短部で30mmとし、平板状不織布表面の平均紫外線強度は5mW/cmであった。紫外線強度は浜松ホトニクス社製C9536紫外線照度計を用いて測定し、平板状不織布表面の中央部から端部まで9箇所を測定し、この平均値を平均紫外線強度とした。
【0036】
処理水は、炭酸エチレン450ppmと6フッ化リン酸リチウムを250ppmの濃度に調整したものを試料水とした。
【0037】
試料水500Lを1000L/hrの流量で前記試験装置を用いて試験を行った。処理方法は循環処理である。一定時間毎にサンプリングを行い、TOC濃度と全フッ素濃度を測定した。その結果運転開始から16時間後にはTOC濃度を0.2ppmまで低下させることが出来た。その時点のフッ素濃度は200ppmのままであった。
【0038】
上記光触媒で処理が終了した一次処理水について、RO分離膜を用いて6フッ化リン酸リチウムの分離を試みた。RO分離膜には日東電工社製SWC5を用いた。濃縮液は原水に戻し透過液を一定時間毎にサンプリングして全フッ素濃度を測定した。その結果濃縮倍率25倍状態での透過液中の全フッ素濃度は5ppm未満となった。
【0039】
(実施例2)
図2に示される水浄化装置へマイクロバブルを用いて試料液中に空気を送り込み酸素を溶存させた。一般的に光触媒における分解工程において溶液中に酸素が高濃度で溶存することで分解率が向上することが知られている。マイクロバブルによって酸素を溶解させること以外は実施例1と同じように試験を行った。その結果、6時間経過後のTOC濃度は20ppmに低下し、全フッ素濃度は200ppmのままであった。
【0040】
上記処理終了した試料水を実施例1と同じように膜分離を試みた結果濃縮倍率25倍状態での透過液中の全フッ素濃度は5ppm未満となった。
【0041】
(比較例1)
試料水100Lを図2に示される水浄化装置を用いずにRO膜を用いて6フッ化リン酸の分離を試みたが、徐々に圧力が上昇し透過液が出なくなった。その時点での濃縮倍率は4倍で透過液の全フッ素濃度は190ppmであった。
【0042】
(比較例2)
試料水100Lに粉末状の炭酸カルシウムを添加して沈殿物を濾過にて除去した水溶液中の全フッ素濃度を測定したが200ppmのままであった。
【0043】
これら実施例1及び2、並びに比較例1及び2の結果を表1に示す。実施例1及び2の方が比較例1及び2に比べて、全フッ素濃度が低いのは明らかである。
【0044】
【表1】

【符号の説明】
【0045】
10 有機物分解部
12 フッ素化合物除去部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ素化合物と有機物とを含有する排水に光触媒の存在下で紫外線を照射して有機物を分解する有機物分解工程と、
該有機物分離工程によって処理された排水を分離膜で処理することによって、前記フッ素化合物を除去するフッ素化合物除去工程とを備えたことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記排水がリチウムイオン電池を製造する工程において発生する電池製造工程の洗浄排水であることを特徴とする請求項1記載のフッ素化合物含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記フッ素化合物が6フッ化リン酸リチウムであることを特徴とする請求項1又は2記載のフッ素化合物含有排水の処理方法。
【請求項4】
前記有機物が炭酸エステルであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のフッ素化合物含有排水の処理方法。
【請求項5】
光触媒及び紫外線照射部を有し、少なくともフッ素化合物と有機物とを含有する排水に光触媒の存在下で紫外線を照射して有機物を分解する有機物分解部と、
前記フッ素化合物を除去可能な分離膜を有し、前記有機物分離槽において処理された排水を分離膜で処理することによって、前記フッ素化合物を除去するフッ素化合物除去部とを備えたことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−212570(P2011−212570A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82428(P2010−82428)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】