説明

フッ素含有水を処理するための処理剤の製造方法およびこれを用いたフッ素含有水の処理方法

【課題】アルミニウム処理工程から排出された廃液を原料として用い、アルミニウム化合物とともにカルシウム化合物を予め含み、フッ素含有水のフッ素濃度低減に適した処理剤を提供する。
【解決手段】アルミニウム処理工程から排出された、アルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液31に、少なくともカルシウム化合物32を供給して廃液のpHを5以上8以下に調整することにより、廃液中に少なくとも水酸化アルミニウムおよび硫酸カルシウムを析出させる工程と、廃液から当該廃液中の析出物35を分離する工程と、を含む処理剤の製造方法とする。この処理剤は、フッ素含有水に供給され、フッ素含有水中のフッ素濃度を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有水中のフッ素濃度を低減させる処理剤に関し、また、この処理剤を用いたフッ素含有水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムを用いた工業製品の製造工程では酸性水溶液が使用されることが多い。例えば、アルミニウム電解コンデンサは、アルミニウム金属箔をエッチングしてその表面積を拡大するエッチング工程を経て製造されるが、このエッチング工程では、一般に、塩酸と、硫酸、硝酸、リン酸等の酸を含むエッチング液が用いられる。エッチング工程の後には、アルミニウム金属箔に付着した塩化物イオン、硫酸イオン等を洗い流す洗浄工程が実施される。この洗浄工程では、通常、水やリン酸、硫酸等の無機酸の水溶液が洗浄液として用いられる。洗浄工程の後には、電気化学的にアルミニウム金属箔の表面に酸化アルミニウム層を誘電体として形成する化成工程が実施される。この化成工程では、一般に、リン酸、ホウ酸等のアンモニウム水溶液が化成液として用いられる。化成工程の後にも、箔表面の不純物を洗浄する洗浄工程が実施される。化成後の洗浄工程では、エッチングの場合と同様、例えばリン酸、硫酸等の無機酸の水溶液が用いられる。上記各工程に代表されるアルミニウム処理工程から排出される酸性廃液には、その濃度は様々ではあるものの、アルミニウムイオンが含まれている。
【0003】
上記酸性廃液に含まれるアルミニウムイオンは、廃液の中和処理により、水酸化アルミニウム汚泥として廃液から分離される。廃液から分離された水酸化アルミニウム汚泥は、産業廃棄物として処分されることもあるが、セメントリサイクルに供されたり、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)の原料に用いられたりして、その再資源化が図られている。
【0004】
ところで、半導体素子や太陽電池の製造工程等から排出される廃液に代表されるフッ素含有水は、フッ素濃度を所定の基準値以下にまで低減した後でなければ、放流することができない。このため、フッ素濃度を低減するために、フッ素含有水には処理剤が添加される。
【0005】
フッ素含有水の処理剤としては、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH)2)、塩化カルシウム等のカルシウム化合物、さらには硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物が用いられている。フッ素含有水にカルシウム化合物を添加すると、フッ化カルシウムが沈殿してフッ素含有水のフッ素濃度が低下する。フッ素含有水にアルミニウム化合物を添加してpHを適切に調整すると、水酸化アルミニウムが沈殿し、この沈殿物にフッ素(詳しくはフッ化物イオン)が吸着してフッ素含有水のフッ素濃度が低下する。この機構は、水酸化アルミニウムの表面水酸基が中性pHでプラスに荷電し、アニオンとして存在する液相のフッ化物イオンを静電的に引き寄せる(外圏錯体の形成)、もしくは引き寄せた後に酸素原子を配位して吸着する(内圏錯体の形成)ものによるとされている。フッ素含有水にカルシウム化合物を添加し、次いでアルミニウム化合物を添加する二段処理法が、フッ素含有水のフッ素濃度を効果的に低下させる処理法として知られている。
【0006】
特許文献1(特開2003-62582号公報)には、カルシウム化合物およびアルミニウム化合物を、硫酸根を含む物質とともに、フッ素含有水に一度に添加してフッ素濃度を低下させる処理方法が開示されている(請求項2)。この処理方法では、エトリンガイトまたはモノサルフェート中にフッ素が固定され、フッ素含有水中のフッ化物イオン濃度が低下する(段落0018)。
【0007】
特許文献1には、アルミニウム化合物として、「アルミニウム加工過程で副生するアルミニウム化合物」および「アルミニウムスラッジ」が例示されている(段落0020)。しかし、特許文献1の処理方法では、アルミニウム化合物は、これとは別に準備したカルシウム化合物および硫酸根を含む物質とともにフッ素含有水に添加される。例えば、特許文献1の実施例の欄には、水溶性硫酸アルミニウムとともに、0.1mm以下に粉砕された酸化カルシウムと、同じく0.1mm以下に粉砕された石膏(硫酸カルシウム)とをフッ素含有水に添加する処理方法が記載されている(段落0052等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-62582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルミニウム化合物とともにカルシウム化合物を予め含んでおり、フッ素含有水のフッ素濃度の低減に適した処理剤を、アルミニウム処理工程から排出された廃液を原料として用いて製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フッ素含有水におけるフッ素濃度を低下させる処理剤の製造方法として、アルミニウム処理工程から排出された、アルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液に、少なくともカルシウム化合物を供給して前記廃液のpHを5以上8以下に調整することにより、前記廃液中に少なくとも水酸化アルミニウムおよび硫酸カルシウムを析出させる工程と、前記廃液から当該廃液中の析出物を分離する工程と、を含む、フッ素含有水を処理するための処理剤の製造方法、を提供する。
【0011】
本発明は、その別の側面から、本発明の製造方法により得た処理剤をフッ素含有水に供給することにより、当該フッ素含有水中にフッ素を含む析出物を析出させる工程と、前記フッ素含有水から前記析出物を分離して当該フッ素含有水におけるフッ素濃度を低下させる工程と、を含む、フッ素含有水の処理方法、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
アルミニウム処理工程からの廃液の多くには、アルミニウムイオンとともに硫酸イオンが含まれている。したがって、この廃液にカルシウム化合物を添加してpHを適切に調整すれば、廃液からは水酸化アルミニウムとともに硫酸カルシウムを含むフッ素含有水の処理剤を得ることができる。この処理剤は、硫酸カルシウムを既に含んでいるために、特許文献1に開示されている処理方法の如くフッ素含有水の処理のためにカルシウム化合物および硫酸根を含む物質を別途準備する必要はない。
【0013】
本発明は、アルミニウム処理工程から排出される廃液を用い、そのままでは放流できないフッ素含有水のフッ素濃度を低減するための処理剤を得ることとしたものであって、いわば廃液を用いて廃液を処理することを可能にするものであるから、環境保護上の意義は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法を実施するための装置の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の処理方法を実施するための装置の構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の処理方法を実施するための装置の構成の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、濃度を示す%およびppmは、すべて質量基準である。
【0016】
[処理剤の製造方法]
本発明の製造方法では、アルミニウム処理工程から排出された、アルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液が処理剤の原料として用いられる。
【0017】
アルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液が得られるアルミニウム処理工程は、典型的には、アルミニウムの表面を加工するためのエッチング工程、アルミニウムの表面から不純物を除去するための洗浄工程である。エッチング液および洗浄液には硫酸イオンが含まれていることが多い。したがって、多くの場合、これらの工程から排出される廃液には、処理されるアルミニウムに由来するアルミニウムイオンとともに、硫酸イオンが含まれている。エッチング工程の後に行われる洗浄工程から排出される廃液には、洗浄液が硫酸を含まないものであったとしても、エッチング後のアルミニウムの表面に付着した硫酸塩に由来する硫酸イオンが含まれていることがある。
【0018】
アルミニウム処理工程から排出される廃液によっては、アルミニウムイオンを含むものの硫酸イオンは含有しないものがある。しかし、このような廃液であっても、硫酸を用いる工程からのアルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液と混合すれば、処理剤の原料の一部として使用できる。
【0019】
処理剤の原料とする廃液は、アルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含んでいる限り、その他のイオンを含んでいてもよい。アルミニウム処理工程から排出される廃液に含まれているアルミニウムイオンおよび硫酸イオン以外のイオンとしては、塩化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等の無機酸を構成するアニオンが挙げられる。上記廃液には、アルミニウムの化成処理に用いた廃液におけるアンモニウムイオンのような、アルミニウムイオン以外のカチオンが含まれていてもよい。廃液から処理剤を製造するに際し、これらのイオンを除去する必要はない。アルミニウム処理工程から排出される廃液は、通常、酸性の水溶液であって、例えば0〜4のpHを示す。
【0020】
本発明において処理剤の原料とするのは廃液であるから、通常の工業的製造とは異なり、原料の精製度を厳しく管理することには制約が伴う。しかし、処理剤の原料とする廃液には、アルミニウムイオンが50ppm以上、硫酸イオンがS元素換算で10ppm以上含まれていることが望ましい。
【0021】
アルミニウム処理工程は、アルミニウム電極を含む電子部品(例えばアルミニウム電解コンデンサ)、アルミニウム建材の製造工場等で実施されており、これらの工場からはアルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液(工場廃水)が多量に排出されている。例えば、上述したとおり、アルミニウム電解コンデンサの製造工場では、アルミニウム金属箔をエッチングしてその表面積を拡大するエッチング工程が実施され、この工程では、一般に、塩酸と、硫酸、硝酸、リン酸等を含むエッチング液が用いられている。エッチング工程の後には、アルミニウム金属箔に付着した塩化物イオン、硫酸イオン等を洗い流す洗浄工程が実施され、この工程では、通常、水やリン酸、硫酸等の無機酸の水溶液が洗浄液として用いられる。洗浄工程の後には、電気化学的にアルミニウム金属箔の表面に酸化アルミニウム膜を誘電体として形成する化成工程が実施され、この工程では、一般に、リン酸、ホウ酸等のアンモニウム水溶液が化成液として用いられる。化成工程の後にも、箔表面の不純物を洗浄する洗浄工程が実施される。化成後の洗浄工程では、化成後の洗浄工程では、エッチングの場合と同様、例えばリン酸、硫酸等の無機酸の水溶液が用いられる。
【0022】
これらの工程から排出される廃液のうち、エッチング工程からの廃液には、高い濃度のアルミニウムイオンが含まれているが廃液量は少ない。一方、エッチング工程後の洗浄工程からの廃液のアルミニウムイオンは低濃度であるが、廃液量は多い。上記廃液は、いずれも処理剤の原料として使用可能である。本発明では、廃液の一部または全部を、アルミニウムのエッチング工程および同工程後の洗浄工程から選ばれる少なくとも1つの工程から排出された廃液とすることが好ましい。
【0023】
本発明の製造工程において、アルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液には、少なくともカルシウム化合物が供給される。廃液に添加するカルシウム化合物としては、廃液のpHを上昇させるpH調整機能を有する生石灰または消石灰、特に消石灰、が好適である。廃液に投入するカルシウム化合物がpH調整機能を有さない場合、あるいはこの調整機能が十分でない場合には、カルシウム化合物とは別に、廃液にpH調整剤を添加するとよい。pH調整剤は、酸性の水溶液に溶解してそのpHを中性に近づけることができる塩基性化合物を含む限り、その種類に制限はない。使用できるpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムに代表されるアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属の水酸化物、これら水酸化物のアルカリ性水溶液、アンモニウム水に代表されるその他のアルカリ性水溶液が挙げられる。単独で添加するのではなくpH調整剤とともに添加することが望ましいカルシウム化合物としては、塩化カルシウム、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0024】
廃液には、カルシウム化合物、またはカルシウム化合物およびpH調整剤を投入し、廃液の酸性を弱め、場合によっては弱塩基性にまでpHを上昇させ、廃液に、少なくとも水酸化アルミニウム(Al(OH)3)および硫酸カルシウム(CaSO4)を析出させる。硫酸カルシウムは、典型的には二水石膏(CaSO4・2H2O)として析出する。廃液のpHは、具体的には5〜8、好ましくは6〜7に調整する。
【0025】
廃液中にリン酸イオンが存在する場合、水酸化アルミニウムおよび硫酸カルシウムとともに、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸アルミニウム等のリン含有化合物が析出することがある。ただし、リン酸カルシウムは、アルミニウムイオン共存下では非常に析出しにくい。リン酸イオンは、アルミニウムと反応してリン酸アルミニウムとして析出、または水酸化アルミニウムの表面水酸基に吸着するからである。これらの化合物が析出するか否かは、廃液に存在するイオンの種類や量、中和時のpH、添加するカルシウム化合物の種類や量に依存する。また、投入するカルシウム化合物に由来する不純物が析出した固形物とともに廃液中に存在する場合もある。この種の不純物としては、溶け残った消石灰等のカルシウム化合物、消石灰に含まれる炭酸カルシウムが挙げられる。
【0026】
次いで、固液分離工程により、廃液中の析出物を廃液から分離する。固液分離工程は、例えば、比重差を利用して、析出物を槽(タンク)内で沈降させて槽の下部から引き抜く工程により実施することができる。分離を促進するために渦流を利用する固液分離機を用いてもよい。遠心分離機や分離膜を用いて固液分離を実施してもよいことは勿論である。
【0027】
固液分離に際しては、廃液に凝集剤を添加して、析出物の凝集を促進してもよい。凝集剤としては、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム等の無機凝集剤が知られているが、中和により析出する水酸化アルミニウムがこの役割を十分果たす。ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等の高分子凝集剤、デンプン等の天然有機物凝集剤を適宜使用してもよい。高分子凝集剤は、アニオン系ポリマー、カチオン系ポリマー、ノニオン系ポリマーのいずれであってもよい。
【0028】
固液分離工程では、析出物は、例えば、スラリーまたは固形物(例えば脱水ケーキ)として廃液から分離される。本明細書において、スラリーとは、微小な固形粒子が水に懸濁した状態にあって全体形状の自己保持性を失った泥状のものをいう。固形物とは、全体形状の自己保持性を有するものをいう。固形物の一種である脱水ケーキは、微小な固形粒子と水とが共存しながらも、全体形状の自己保持性を有する。
【0029】
本発明では、析出物をスラリーとして分離し、スラリー状の処理剤を得ることとしてもよく、この場合はスラリー状態のまま処理剤としてフッ素含有水に投入してもよい。スラリー状の処理剤はフッ素含有水への分散性に優れている。
【0030】
スラリー中に含まれる水分が少なすぎると、フッ素含有水に投入したときの分散性が低くなる。水分が多すぎると、処理剤の単位質量あたりの有効成分(析出した固体)の質量が小さくなってフッ素含有水の処理のために投入するべき処理剤の量が過大となる。廃液から分離したスラリーにおける水分が多すぎる場合は、操作性を高めるべく、スラリーから水の一部を除去してもよい。水の除去は、遠心分離等によって行うことができる。水分が多すぎる場合には、スラリーを単に放置し風乾することにより、水を蒸発させて水の比率を調整してもよい。
【0031】
このように、本発明では、処理剤中の水分量を調整するために、分離した析出物を乾燥させる乾燥工程をさらに実施してもよい。乾燥工程は、風乾により行ってもよいが、温風乾燥、熱乾燥等の加熱を伴う工程により促進することもできる。処理剤をスラリーとして分離した場合、スラリー状の処理剤が固形物となる程度にまで乾燥させてもよい。乾燥した固形物処理剤は、分散性を高めるために細かく粉砕してからフッ素含有水に投入する必要があるが、輸送性に優れており、有効成分の含有率においてもスラリーに優る。
【0032】
本発明では、脱水ケーキ等の固形物として析出物を分離することにより、またはスラリーとして分離した析出物を乾燥させて固形物とすることにより、固形物である処理剤を得ることができる。
【0033】
処理剤には、リン含有化合物および/またはリン酸イオンが含まれていてもよい。処理剤にリン供給源が存在すると、処理剤を投入したフッ素含有水からハイドロキシアパタイト(Ca5(PO43(OH))、フルオロアパタイト(Ca5(PO43F)等のアパタイトが析出し、アパタイトによるフッ素濃度の低減も期待できるためである。なお、ハイドロキシアパタイトの析出は、中性〜アルカリ性の条件下ではイオン交換反応により、フッ素イオンを固定化し、溶液中のフッ素濃度の低減をもたらす。
【0034】
図1に示す処理剤製造装置71は、アルミニウム処理工程から排出された廃液31を貯留する貯留槽21と、廃液31のpHを調整する処理槽25と、廃液31から析出した固形物を分離する沈殿槽27とを備えている。
【0035】
廃液31は、貯留槽21において一時的に貯留され、必要に応じて、pH、含有イオンの濃度等についての測定を受ける。廃液31は、少なくともアルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含んでいる。廃液31には、塩化物イオン等その他のイオンが存在しているのが通常であり、アルミニウム処理工程から排出された微粒子状の分散質が混在していることもある。しかし、これらその他イオンや分散質は、フッ素含有水処理剤の製造に支障がなければ除去する必要はない。
【0036】
貯留槽21内の廃液31は、配管を経由して処理槽25へと送られる。処理槽25では、受け入れた廃液31に、カルシウム供給槽22からカルシウム化合物32が供給され、そのpHが5〜8へと調整される。カルシウム化合物32によるpH調整能力が十分でない場合には、カルシウム化合物32とともに、pH調整剤供給槽23からpH調整剤33が廃液31へと供給される。カルシウム化合物32およびpH調整剤33は、固形状態、スラリー状態、または水溶液として供給するとよい。処理槽25では、図示を省略する撹拌手段により廃液31が適宜撹拌される。処理槽25内において、廃液31には、少なくとも水酸化アルミニウムおよび硫酸カルシウムが析出し、析出物35が生成する。
【0037】
処理槽25内の廃液31のpHは、pH測定器により連続的または断続的に測定され、その測定結果に応じて、カルシウム化合物32およびpH調整剤33の投入量、あるいは貯留槽21から導入する廃液31の量が制御される。
【0038】
処理槽25内で処理された廃液31は、析出物35とともに、配管を経由して沈殿槽27へと送られる。沈殿槽27では、必要に応じ、受け入れた廃液31に、凝集剤供給槽26から凝集剤36が供給される。沈殿槽27において、析出物35は凝集しながら沈降し、槽27の底部に沈殿する。沈殿した凝集物37はスラリーとして槽27の底部から引き抜かれ、凝集物37を除去した後の廃液38は槽27の上部から排出される。
【0039】
沈殿槽27は、廃液31を受け入れる廃液導入口27aと、導入口27aから受け入れた廃液31を下方へと導く第1液路27bと、第1液路27b内で凝集した凝集物37を槽27の下部から導出するスラリー排出口27cと、仕切り板27fによりその上部が第1液路27bと分離され、凝集物37を除去した廃液38を上方へと導く第2液路27dと、上方に導かれた廃液38を導出する廃液導出口27eと、を備えており、スラリー状の凝集物37を廃液31から分離する工程を長期間にわたって連続運転する観点からは適した装置である。
【0040】
図1に示した装置71を用いれば、廃液31を受け入れ、廃液31に析出物35を生成させ、これを凝集物37として分離する、フッ素含有水の処理剤の製造方法の各工程を連続して実施し、廃液31を処理しながら凝集物37を連続して得ることができる。
【0041】
ただし、図1に示した装置71は、本発明の製造方法を実施するための装置の一例に過ぎない。例えば、図1に示した沈殿槽27以外にも各種の固液分離手段を用いることは可能である。また、凝集剤36を沈殿槽27にではなく処理槽25に投入する構成としてもよい。この場合は、以下に説明する装置51の処理槽12のように、複数の反応槽を備えた処理槽を用いるとよい。
【0042】
[処理剤によるフッ素含有水の処理方法]
本発明の処理方法では、処理剤がフッ素含有水に添加される。この処理方法の好ましい一例を以下に説明する。
【0043】
本発明の処理方法は、フッ素含有水に処理剤を添加して当該フッ素含有水のpHを10を超え12以下とする第1工程と、第1工程を得たフッ素含有水のpHを6以上8以下とする第2工程と、第2工程を得た水を固液分離する第3工程と、を含むことが好ましい。この好ましい例によれば、水中のフッ素を効率よく除去することが可能となり、高いフッ素濃度を有するフッ素含有水に対してもフッ素濃度を図ることができる。
【0044】
この処理方法を実施するための装置の一例を図2に示す。図2に示す処理装置51は、フッ素含有水1を処理前に一時的に貯留する貯留槽11と、第1および第2工程が実施される処理槽12と、第3工程が実施される沈殿槽18とを備える。沈殿槽18では、処理槽12において生成したフッ素を含む析出物5,7を、凝集物9として沈殿させる。処理槽12の内部は、区画壁によって、第1反応槽12a、第2反応槽12bおよび凝集槽12cに仕切られている。貯留槽11と第1反応槽12aと、凝集槽12cと沈殿槽18と、は、それぞれ配管で接続されており、フッ素含有水1は、貯留槽11から沈殿槽18へ、順次流れ込むことができる。第1反応槽12aには、当該槽12aの内部に、本発明の製造方法により得た処理剤2を供給する処理剤供給槽13、およびpH調整剤4を供給するpH調整剤供給槽15が接続されている。第2反応槽12bには、当該槽12bの内部にpH調整剤6を供給するpH調整剤槽16が接続されている。凝集槽12cには、当該槽12cの内部に凝集剤8を供給する凝集剤供給槽17が接続されている。第1反応槽12a、第2反応槽12bおよび凝集槽12cを仕切る区画壁の高さは、処理槽12におけるフッ素含有水1の液面以下であり、貯留槽11から第1反応槽12aに送られたフッ素含有水1は、順次、第2反応槽12bおよび凝集槽12cに流れ込むことができる。
【0045】
装置51では、貯留槽11からのフッ素含有水1が第1反応槽12aに送られ、当該槽12aにおいて第1工程が実施される。第1工程を経た水1は、次に、第2反応槽12bに送られ、第1反応槽12aとは異なる当該槽12bにおいて第2工程が実施される。第2工程を経た水1は、次に、凝集槽12cに送られた後、沈殿槽18に送られ、当該槽18において第3工程が実施される。
【0046】
装置51では、第2工程が処理槽12内で実施される。このような装置51の構成により、本発明の処理方法によるフッ素除去の効果(フッ素濃度低減の効果)がさらに高くなる。
【0047】
より具体的には、装置51では、第1および第2の各工程が、同一の処理槽12内において区分される互いに異なる反応槽12a,12b内で実施される。このような装置51の構成により、フッ素含有水1の連続的な処理がより容易となる。
【0048】
以下、図2を参照しながら、第1〜第3の各工程について説明する。
【0049】
[第1工程]
第1反応槽12aにおいて、フッ素含有水1に処理剤2およびpH調整剤4を添加する。これにより、フッ素含有水1に対する、カルシウム化合物(硫酸カルシウム)およびアルミニウム化合物(水酸化アルミニウム)の添加と、フッ素含有水1のpH調整とが行われる。
【0050】
処理剤2およびpH調整剤4の添加のタイミングは限定されない。第1反応槽12aでは、フッ素含有水1が、pHにして10を超え12以下の塩基性の状態となることが重要である。したがって、第1の反応槽12aにおけるフッ素含有水1のpHを10を超え12以下に調整した後に、処理剤2を添加してもよい。第1の反応槽12aにおけるフッ素含有水1に処理剤2を添加した後に、フッ素含有水1のpHを10を超え12以下に調整してもよい。
【0051】
当該塩基性の状態では、処理剤中の水酸化アルミニウムが溶解し、アルミニウムはアルミン酸イオン(Al(OH)4-)として存在することになる。このとき、カルシウムイオンとフッ素イオンとが同時に存在すると、カルシウムアルミネート化合物(xCaO・yAl23・zH2O)が析出するとともに、当該化合物にフッ素が固定される。すなわち、フッ素含有水1に含まれるフッ素は、カルシウムアルミネート化合物を含む析出物に固定される。これとともに、カルシウムイオンとフッ素イオンとが反応してフッ化カルシウム(CaF2)が生成することによるフッ素の固定も進行する。つまり、第1工程では、カルシウムアルミネート化合物およびフッ化カルシウムを析出させ、これによりフッ素含有水1中のフッ素を固定し、フッ素含有水1のフッ素濃度を低減させる。第1工程で生成する析出物5は、カルシウムアルミネート化合物およびフッ化カルシウムの双方を含む。
【0052】
第1工程において析出するカルシウムアルミネート化合物は、例えば、モノサルフェート(3CaO・Al23・CaSO4・12H2O)、フリーデル氏塩(3CaO・Al23・CaCl2・10H2O)、エトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・12H2O)である。これら化合物の中では、エトリンガイトがフッ素を固溶する能力が最も高いことが知られている。析出するカルシウムアルミネート化合物の種類は、第1工程において、カルシウムイオンおよびアルミニウムイオン以外にどのようなイオンがフッ素含有水1中に存在するか等に依存する。
【0053】
本発明による処理剤2を用いると、カルシウム化合物として硫酸カルシウムが投入される。この場合、硫酸カルシウムに由来する硫酸イオンの存在によって、フッ素を固定する能力に特に優れるエトリンガイトの析出が促進され、フッ素濃度低減の効果がより高くなる。
【0054】
本発明による処理剤2を用いると、アルミニウム化合物として水酸化アルミニウムが投入される。水酸化アルミニウムは、pHが10を超え12以下の領域における溶解度が高いため、第1工程におけるカルシウムアルミネート化合物の析出が促進される。
【0055】
処理剤2は、スラリー状態のままフッ素含有水1に供給される。スラリーとして添加することによりフッ素含有水1に素早く分散し、フッ素含有水1におけるフッ素濃度の低減が速やかに開始される。
【0056】
処理剤の添加量は、処理すべきフッ素含有水に含まれているフッ素の濃度にもよるが、通常、処理剤中の固形分が、フッ素含有水に対し、0.01〜2%となるように添加することが好ましい。
【0057】
pH調整剤4は、第1工程においてフッ素含有水1のpHを10を超え12以下に調整できる限り限定されない。pH調整剤4としては上記に例示した物質を用いることができる。pH調整剤4は、処理剤2にカルシウム化合物が不足している場合には、生石灰または消石灰を用いてカルシウムを補うとよい。この場合、pH調整剤4はカルシウム供給源ともなる。
【0058】
pH調整剤4の添加量は、例えば、第1反応槽12aにおけるフッ素含有水1のpHをpH測定器により連続してあるいは断続的に測定し、その測定結果に応じて制御する。
【0059】
pH調整剤4は、任意の形態で第1反応槽12aに供給できる。pH調整剤4が水溶性の場合、水溶液として供給してもよいし、固体として供給し、第1反応槽12a内で溶解させてもよい。当該化合物が難溶性である場合、スラリーとして供給してもよい。分散性の観点から、pH調整剤4は、水溶液またはスラリーとして供給することが好ましい。
【0060】
第1工程は、処理剤2を添加したフッ素含有水1を撹拌しながら実施することが好ましい。これは、第一反応槽12aの内部のpHを均一化するための手段であり、このために装置51は、例えば、第1反応槽12aに撹拌装置を備える。
【0061】
[第2工程]
第1工程を経たフッ素含有水1は、析出物5とともに、第1反応槽12aから第2反応槽12bに流れ込む。第2反応槽12bにおいて、フッ素含有水1にpH調整剤6が添加される。これにより、フッ素含有水1のpHが6以上8以下に調整される。
【0062】
第1工程で析出したカルシウムアルミネート化合物は、pHが10を超え12以下の領域において、水中のアルミン酸イオン(Al(OH)4-;濃度数十ppm)と平衡状態にある。これを中和してpH6以上8以下とすると、アルミン酸イオンは水酸化アルミニウム(Al(OH)3)として析出し、その際、析出物にフッ素が吸着され、フッ素含有水1からさらにフッ素が除去される。すなわち、第2工程においては、フッ素が吸着した水酸化アルミニウムが析出する。第2工程で生成する析出物7は、水酸化アルミニウムを含む。なお、フッ素含有水1のpHを6以上8以下とすることによって、第1工程で析出したカルシウムアルミネート化合物の一部が溶解し、当該化合物に固定されていたフッ素の一部が再放出される。しかし、再放出されたフッ素は、水酸化アルミニウムへの吸着により再び水中から除去される。
【0063】
pH調整剤6は、第2工程におけるフッ素含有水1のpHを6以上8以下に調整できる限り限定されない。pH調整剤6は、第1工程におけるフッ素含有水1のpHが10を超え12以下であることから、酸性物質である。pH調整剤6は、塩酸、硫酸および硝酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。この場合、フッ素含有水1中に残留するカルシウムイオンとの間で塩が形成されたとしても当該塩は水溶性であり、反応槽12にスケールが付着しにくい。すなわち、第2工程において、塩酸、硫酸および硝酸から選ばれる少なくとも1種を含む酸性物質を用いて、第1工程を経たフッ素含有水1のpHを6以上8以下とすることが好ましい。
【0064】
pH調整剤6の添加量および添加のタイミングは、例えば、第2反応槽12bにおけるフッ素含有水1のpHを連続してあるいは断続的に測定し、測定結果に応じて制御する。
【0065】
pH調整剤6は、任意の形態で第2反応槽12bに供給できる。pH調整剤6が水溶性の場合、水溶液として供給してもよいし、固体として供給し、第1反応槽12a内で溶解させてもよい。当該化合物が難溶性である場合、例えば、スラリーとしての供給が考えられる。第一反応槽12aの内部のpHを均一に調整するためには、水溶液またはスラリーとしての供給が好ましい。
【0066】
第2工程は、フッ素含有水1を撹拌しながら実施することが好ましい。これは、反応槽12bの内部のpHを均一化するための手段であり、このために装置51は、例えば、反応槽12bに撹拌装置を備える。
【0067】
第2工程を経たフッ素含有水1は、第1工程における析出物5および第2工程における析出物7とともに、第2反応槽12bから凝集槽12cに流れ込む。凝集槽12cでは、フッ素含有水1に凝集剤8が添加される。これにより、析出物5,7が凝集して凝集物9となる。
【0068】
凝集剤8を添加して凝集物9とすることにより、後の第3工程における析出物5,7の水中からの除去が容易となる。要求されるレベルの固液分離が第3工程において実現できるのであれば、凝集剤8の添加は省略できる。
【0069】
凝集剤8としては、無機凝集剤等を用いてもよいが、高分子凝集剤が好ましい。高分子凝集剤としては、例えば、アクリル酸、アクリルアミド等からなるアニオン系ポリマー、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アミジン等からなるカチオン系ポリマー、およびアニオン系ポリマーとカチオン系ポリマーを任意の比で混合したノニオン系ポリマーを用いることができる。凝集剤8は、現場で適用性試験を行って使用すべき種類を決定することが好ましい。
【0070】
[第3工程]
凝集槽12cにおいて凝集物9が生成したフッ素含有水1は、処理槽12から沈殿槽18に送られ、沈殿槽18において凝集物9が沈殿する。このようにして、第1および第2工程で生成したフッ素を含む析出物がフッ素含有水1から除去され、フッ素含有水1のフッ素除去処理が終了する。フッ素を含む析出物は、フッ素化合物、フッ素を固溶した化合物、およびフッ素を吸着した化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0071】
装置51では、第3工程において、第2工程で析出させた水酸化アルミニウムを、沈殿槽18内で沈殿させてフッ素含有水1から分離している。このような装置51の構成により、フッ素濃度低減の効果がさらに高くなる。
【0072】
図2に示す装置における第3工程は、析出物5,7(凝集物9)の沈殿を利用している。本発明の処理方法では、処理槽12において生成したフッ素を含む析出物5,7を除去するために、図2に示す以外の固液分離方法を採用できる。このような方法としては、膜分離法、遠心分離法を例示できる。
【0073】
図2に示す装置51では、沈殿による析出物の除去回数を一回のみとすることができるため、フッ素含有水1の処理を連続的に実施できる。そのためには、例えば、各反応槽においてフッ素含有水1に所定の工程が実施されるように、フッ素含有水1を貯留槽11から処理槽12へ連続的に送り出せばよい。もちろん装置51では、断続的にフッ素含有水1の処理を行うことも可能である。
【0074】
[第4工程をさらに含む処理方法]
上記で説明した処理方法は、第1工程および第2工程の間に、第1工程を経たフッ素含有水を固液分離する第4工程をさらに含んでもよい。この場合、水中のフッ素を除去する効率がさらに高くなる。第4工程をさらに含む本発明の処理方法は、高いフッ素濃度を有するフッ素含有水を処理する場合に、特に効果的である。
【0075】
この処理方法では、最初に、フッ素含有水に対して、上述した第1工程が実施される。次に、第1工程を経たフッ素含有水を固液分離する(第4工程)。第1工程を経たフッ素含有水には、フッ素を含む物質(上述の析出物5)が析出している。第4工程では、当該析出物がフッ素含有水から除去される。次に、第4工程を経たフッ素含有水1に対して、上述した第2工程が実施される。次に、第2工程を経たフッ素含有水1を固液分離する(第3工程)。第2工程を経たフッ素含有水には、フッ素を含む物質(上述の析出物7)が析出している。第3工程では、当該析出物がフッ素含有水から除去される。これら各工程により、第1工程に供給されたフッ素含有水のフッ素濃度が低減し、フッ素含有水に対するフッ素除去処理が終了する。
【0076】
図3に、第4工程をさらに含む処理方法を実施するための装置(フッ素含有水の処理装置)の一例を示す。図3に示す装置61は、フッ素含有水1を処理前に一時的に貯留する貯留槽11と、第1工程が実施される第1処理槽12Aと、第1処理槽12Aにおいて生成した、フッ素を含む析出物5の凝集物9Aを沈殿させる(第4工程が実施される)第1沈殿槽18Aと、第2工程が実施される第2処理槽12Bと、第2処理槽12Bにおいて生成した、フッ素を含む析出物7の凝集物9Bを沈殿させる(第3工程が実施される)第2沈殿槽18Bと、を備える。第1処理槽12Aの内部は、区画壁によって、第1反応槽12aおよび第1凝集槽12dに仕切られている。第2処理槽12Bの内部は、区画壁によって、第2反応槽12bおよび第2凝集槽12eに仕切られている。貯留槽11と第1反応槽12aと、第1凝集槽12dと第1沈殿槽18Aと、第1沈殿槽18Aと第2反応槽12bと、第2凝集槽12eと第2沈殿槽18Bと、は、それぞれ配管で接続されており、フッ素含有水1は、貯留槽11から第2沈殿槽18Bへ、順次流れ込むことができる。第1反応槽12aには、当該槽12aの内部に、本発明による処理剤2を供給する処理剤供給槽13、およびpH調整剤4を供給するpH調整剤供給槽15が接続されている。第2反応槽12bには、当該槽12bの内部にpH調整剤6を供給するpH調整剤槽16が接続されている。第1凝集槽12dおよび第2凝集槽12eには、それぞれ、当該槽12d,12eの内部に凝集剤8を供給する凝集剤供給槽17A,17Bが接続されている。第1反応槽12aおよび第1凝集槽12dを仕切る区画壁、ならびに第2反応槽12bおよび第2凝集槽12eを仕切る区画壁の高さは、それぞれ、第1および第2処理槽12A,12Bにおけるフッ素含有水1の液面以下であり、貯留槽11から第1反応槽12aに送られたフッ素含有水1は第1凝集槽12dに流れ込むことができ、第1沈殿槽18Aから第2反応槽12bに送られたフッ素含有水1は第2凝集槽12eに流れ込むことができる。
【0077】
装置61では、貯留槽11からのフッ素含有水1が第1反応槽12aに送られ、当該槽12aにおいて第1工程が実施される。第1工程を経た水1は、次に、第1凝集槽12dに送られた後、第1沈殿槽18Aに送られ、当該槽18Aにおいて第4工程が実施される。第4工程を経た水1は、次に、第2反応槽12bに送られ、当該槽12bにおいて第2工程が実施される。第2工程を経た水1は、次に、第2凝集槽12eに送られた後、第2沈殿槽18Bに送られ、当該槽18Bにおいて第3工程が実施される。
【0078】
装置61では、第2工程が第2処理槽12B内で実施される。このような装置61の構成により、本発明の処理方法によるフッ素濃度低減の効果がさらに高くなる。
【0079】
より具体的には、装置61では、第1および第2の各工程が、第4工程を挟み、互いに異なる処理槽12A,12B内で実施される。このような装置61の構成により、本発明の処理方法によるフッ素濃度低減の効果がさらに高くなる。
【0080】
以下、図3を参照しながら、装置61における第1〜第4の各工程について説明する。
【0081】
第1反応槽12aでは、図2に示す装置51の第1反応槽12aと同じ工程(第1工程)が実施される。すなわち、フッ素含有水1への処理剤2の添加ならびにフッ素含有水1のpH調整によって、カルシウムアルミネート化合物およびフッ化カルシウムにフッ素が固定され、双方の化合物を含む析出物5が生成する。第1工程の詳細は、上述したとおりである。
【0082】
第1工程を経たフッ素含有水1は、析出物5とともに、第1反応槽12aから第1凝集槽12dに流れ込む。第1凝集槽12dにおいて、フッ素含有水1に凝集剤8が添加される。これにより、析出物5が凝集して凝集物9Aとなる。凝集物9Aが生成したフッ素含有水1は、第1処理槽12Aから第1沈殿槽18Aに送られ、第1沈殿槽18Aにおいて凝集物9Aが沈殿する。凝集剤8の添加は、要求されるレベルの固液分離が後の第4工程において実現できるのであれば、省略可能である。
【0083】
第4工程は、上述した第3工程と同様に実施すればよい。装置61では、第4工程において、第1工程で析出させたカルシウムアルミネート化合物およびフッ化カルシウムを、沈殿槽18A内で沈殿させてフッ素含有水1から除去している。このような装置61の構成により、本発明の処理方法によるフッ素濃度低減の効果がさらに高くなる。
【0084】
第4工程を経たフッ素含有水1は、第1沈殿槽18Aから、第2処理槽12Bの第2反応槽12bに流れ込む。第2反応槽12bでは、図2に示す装置51の第2反応槽12bと同じ工程(第2工程)が実施される。すなわち、フッ素含有水のpHを6以上8以下に調整することによって、フッ素が吸着した、水酸化アルミニウムを含む析出物7が生成する。第2工程の詳細は、上述したとおりである。ただし、装置51における第2工程とは異なり、第4工程において析出物5が既に分離されているため、第1工程で固定されたフッ素の再放出量が大幅に減少している。これにより、第4工程をさらに含む本発明の処理方法において、さらなるフッ素濃度の低減が実現される。
【0085】
第2工程を経たフッ素含有水1は、析出物7とともに、第2反応槽12bから第2凝集槽12eに流れ込む。第2凝集槽12eにおいて、フッ素含有水1に凝集剤8が添加される。これにより、析出物7が凝集して凝集物9Bとなる。凝集物9Bが生成したフッ素含有水1は、第2処理槽12Bから第2沈殿槽18Bに流れ込み、第2沈殿槽18Bにおいて凝集物9Bが沈殿する。このようにして、フッ素を含む析出物がフッ素含有水1から除去され、当該水1のフッ素除去処理が終了する。
【0086】
図3に示す装置61では、沈殿による析出物の除去が二回行われる。しかし、第3および第4工程において実施される固液分離の方法を適切に選択することによって、第4工程をさらに含む処理方法を連続的に実施することも可能である。
【0087】
本発明の処理方法によってフッ素濃度を低減可能なフッ素含有水の種類は限定されない。フッ素含有水は、典型的には、太陽電池の製造、半導体素子の製造におけるシリコンのエッチング工程、製鋼および各種の表面処理工程等から排出される排水である。当該排水がpH1〜3程度の強酸性である場合にも、本発明の処理方法を適用できる。
【0088】
本発明の処理方法では、処理剤の添加量および当該方法が実施される具体的な装置の構成等にもよるが、数百ppmのフッ素濃度を有するフッ素含有水を、数ppmのフッ素濃度の水に処理できる。さらに、このような処理を、連続的に実施することが可能である。
【0089】
以上の説明から明らかになった上記処理方法における好ましい形態を以下にまとめて記載する。
【0090】
第2工程においては、フッ素が吸着した水酸化アルミニウムを析出させることが好ましい。この場合は、第3工程において、第2工程で析出させた水酸化アルミニウムを、沈殿槽内で沈殿させてフッ素含有水から分離するとよい。
【0091】
第1および第2の各工程は、同一の処理槽内において区分される互いに異なる反応槽内で実施することが好ましい。
【0092】
第1工程と第2工程との間に、第1工程を経たフッ素含有水を固液分離する第4工程をさらに含むことが好ましい。この場合は、第1および第2の各工程を、互いに異なる処理槽内で実施するとよい。
【0093】
第2工程においては、塩酸、硫酸および硝酸から選ばれる少なくとも1種を含む酸性物質を用いてフッ素含有水のpHを6以上8以下とすることが好ましい。
【0094】
上記の処理方法は、半導体素子の製造工程、製鋼工程および各種の表面処理工程などから排出された、フッ素を含有する排水の処理に好適である。本発明の処理方法をこれらの排水処理に適用することによって、当該排水のフッ素濃度が高い場合においても、従来の処理方法に比べてフッ素濃度を低減できる。
【0095】
本発明による処理剤は、上記で説明した形態で使用することが望ましいが、これに限らずフッ素含有水のフッ素濃度低減のために使用できる。すなわち、本発明による処理剤を用いたフッ素含有水の処理方法が、上記のようにpHを順次適切な範囲に調整する形態に限られるわけではない。本発明の処理剤は、従来から知られている処理方法にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、アルミニウム処理工程から排出された廃液を、半導体素子の製造工程等から排出されるフッ素を含む廃液(フッ素含有水)の処理に用いることを可能にするものであって、特に環境保護の観点から、高い利用価値を有するものである。
【符号の説明】
【0097】
1 フッ素含有水
2 (スラリー状)処理剤
4、6 pH調整剤
5、7 析出物
8 凝集剤
9、9A、9B 凝集物
11 貯留槽
12 処理槽
12A 第1処理槽
12B 第2処理槽
12a 第1反応槽
12b 第2反応槽
12c 凝集槽
12d 第1凝集槽
12e 第2凝集槽
13 処理剤供給槽
15、16 pH調整剤供給槽
17、17A、17B 凝集剤供給槽
18 沈殿槽
18A 第1沈殿槽
18B 第2沈殿槽
21 貯留槽
22 カルシウム供給槽
23 pH調整剤供給槽
25 処理槽
26 凝集剤供給槽
27 沈殿槽
31、38 廃液
32 カルシウム化合物
33 pH調整剤
35 析出物
36 凝集剤
37 凝集物
51、61 処理装置
71 処理剤製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有水におけるフッ素濃度を低下させる処理剤の製造方法であって、
アルミニウム処理工程から排出された、アルミニウムイオンおよび硫酸イオンを含む廃液に、少なくともカルシウム化合物を供給して前記廃液のpHを5以上8以下に調整することにより、前記廃液中に少なくとも水酸化アルミニウムおよび硫酸カルシウムを析出させる工程と、
前記廃液から当該廃液中の析出物を分離する工程と、
を含む、フッ素含有水を処理するための処理剤の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム処理工程から排出された前記廃液のpHが0以上4以下である、請求項1に記載の処理剤の製造方法。
【請求項3】
前記カルシウム化合物が消石灰である、請求項1または2に記載の処理剤の製造方法。
【請求項4】
前記析出物をスラリーとして分離することにより、スラリー状の処理剤を得る、請求項1〜3のいずれかに記載の処理剤の製造方法。
【請求項5】
分離した前記析出物を乾燥させる工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の処理剤の製造方法。
【請求項6】
前記析出物を固形物として分離することにより、またはスラリーとして分離した前記析出物を乾燥させて固形物とすることにより、固形物の処理剤を得る、請求項1〜3のいずれかに記載の処理剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得た処理剤を、フッ素含有水に供給することにより、当該フッ素含有水中にフッ素を含む析出物を析出させる工程と、
前記フッ素含有水から前記析出物を分離して当該フッ素含有水におけるフッ素濃度を低下させる工程と、を含むフッ素含有水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−241124(P2011−241124A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116290(P2010−116290)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】