説明

フッ素樹脂製モノフィラメントおよびその製造方法ならびに保護スリーブ

【課題】従来からある熱可塑性樹脂製モノフィラメントを用いた産業資材製品に比較し、極めて良好な耐候性や耐薬品性を有し、長期間の紫外線を受けるような屋外環境でも使用を可能とせしめるフッ素樹脂製モノフィラメントおよびこれを円筒状に製紐してなる保護スリーブならびにこれらに利用可能なフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法の提供。
【解決手段】フッ素樹脂からなるモノフィラメントであって、引張強度0.5cN/dtex以上、サンシャインウェザーメーター400時間照射後の引張強度保持率が70%以上、かつ、JIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下であることを特徴とするフッ素樹脂製モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂製モノフィラメントおよびその製造方法、ならびにこれを用いた電気配線ケーブルや車両ケーブルなどの保護スリーブに関するものである。さらに詳しくは、従来からある熱可塑性樹脂製モノフィラメントを用いた保護スリーブに比較し、極めて良好な耐候性や耐薬品性を有し、長期間の紫外線を受けるような屋外環境でも使用を可能とせしめるフッ素樹脂製モノフィラメントおよびこれを円筒状に製紐してなる保護スリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から保護スリーブは、ポリエステルやポリアミド、さらにはポリフェニレンサルファイド(以降、PPSという)よりなるモノフィラメントを含む繊維製品を用いて製造されており、これら各種熱可塑性樹脂製繊維からなる保護スリーブの使用環境から、耐熱性、耐薬品性、難燃性や電気特性などを考慮した素材が適宜用いられてきた。
【0003】
近年、これら熱可塑性樹脂製保護スリーブとしては、経済性を考慮する用途ではポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステル製保護スリーブが好適に用いられ、また、極めて高い耐熱性や優れた耐薬品性が求められる用途では、PPS製保護スリーブが好ましく用いられている。
【0004】
これらポリアミド、ポリエステルおよびPPSからなる保護スリーブに関する技術としては、溶融粘度指数が25〜300g/10分であるPPSを溶融紡糸、強度5g/d以上、タフネスが25[g/d×(%)1/2]以上であり、繊維中の6量体オリゴマーの含有量0.5%以下、不溶解異物が1.0個/m以下かつ気泡が1.0個/m以下である電気絶縁用PPS繊維(例えば、特許文献1参照)や、融点280℃以上の合成繊維製マルチフィラメント及びモノフィラメント糸を混用して、円筒状の24打ち以上の組紐に製紐され、5重量%の水と95重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中で、150℃×1000時間処理した後の高温耐油性能(高温耐油性能(%)=(T‘/T)×100)が50%以上であるモーター部品用保護スリーブ(例えば、特許文献2参照)、さらには、短繊維の繊度が30〜100dtex、組紐の1編組単位を構成するヤーンまたはコード1本に含まれる短繊維本数が4〜50本である合成繊維フィラメント糸を構成要素とした円筒状の組紐構造からなる保護スリーブ(例えば、特許文献3)、さらに、融点または熱軟化温度が270℃以上の合成繊維フィラメントを用いて製紐され、合成繊維フィラメントが、断面において長径/短径で表わされる扁平度が2〜6である扁平モノフィラメントであり、前記製紐が、円筒状の24打ち以上の組紐であり、前記合成繊維フィラメントの長径部が、円筒形に沿って配列され、高温耐油性能が50%以上であるモーター部品用保護スリーブ(例えば、特許文献4参照)などが提案されている。
【0005】
一方、本発明者らも、200℃で100時間の乾熱処理を行なった後のPPSモノフィラメントの引張強力保持率が90%以上、200℃で400時間の乾熱処理を行なった後のモノフィラメントの引張強力保持率が80%以上であるPPSモノフィラメント製保護スリーブ(例えば、特許文献5参照)を提案してきた。
【0006】
これら技術で得られる保護スリーブは、いずれも優れた耐熱性や耐薬品性を兼ね備えるものであるが、長期間の屋外使用を想定した場合の紫外線による耐候劣化については言及されておらず、紫外線が直接保護スリーブに照射されるような環境下で使用される場合においては、いずれも不十分な技術と言えるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−273825号公報
【特許文献2】特許第3705596号公報
【特許文献3】特開2007−63730号公報
【特許文献4】特開2009−155775号公報
【特許文献5】特開2001−123324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような状況を鑑み、本発明は、従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、産業資材用途、特にその中でも保護スリーブ用途に用いるモノフィラメントの課題であった、紫外線による耐候劣化を来たすことなく好適に使用が可能であり、保護スリーブ製紐時の工程通過性をも改善せしめるフッ素樹脂製モノフィラメントおよびその製造方法ならびにフッ素樹脂製モノフィラメントからなる保護スリーブの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明によれば、フッ素樹脂からなるモノフィラメントであって、引張強度0.5cN/dtex以上、サンシャインウェザーメーター400時間照射後の引張強力保持率が70%以上、かつ、JIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下である、フッ素樹脂製モノフィラメントが提供される。
【0010】
ここで、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントにおいては、前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(以降ETFEという)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以降、PFAという)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以降、FEPという)およびポリフッ化ビニリデン(以降、PVdFという)のいずれかのフッ素樹脂からなることが、好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することによって、より一層の優れた効果の発揮が期待でき、これらフッ素樹脂製モノフィラメントは、極めて優れた耐候性、耐薬品性および耐熱性を兼ね備えることから、極めて好適に利用し得るフッ素樹脂製モノフィラメントからなる保護スリーブの取得を可能とする。
【0011】
また、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法は、フッ素樹脂を溶融紡糸するに際し、紡糸口金ノズルから溶融フッ素樹脂を押出後、引続き冷却を行い引取りローラーなどで引取りを行う工程において、口金ノズルから押出す溶融ポリマの口金吐出線速度を0.15〜5.0m/分、口金吐出線速度と引取りを行う速度の比で示されるドラフト比を1.0〜30とし、口金ノズルから押出した後の溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップ中に少なくとも口金直下から3cm〜30cmまでの雰囲気温度を100℃〜300℃とすることを特徴とし、これら要件を満足した製造方法を採用することによって、線径変動率が極めて少ないフッ素樹脂製モノフィラメントを効率的に製造することが可能となる。
【0012】
そして、本発明の保護スリーブは、上記のフッ素樹脂製モノフィラメントからなることを特徴とし、特に上記のフッ素樹脂製モノフィラメントを複数本引き揃え製紐してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明する通り、従来から用いられている熱可塑性樹脂からなる保護スリーブに利用可能なモノフィラメントに比較して、より一層の優れた耐候性を備えることから、屋外環境やそれに近似するような紫外線を長期間に亘って照射されるような環境下においても極めて好適に利用できるフッ素樹脂製モノフィラメントおよびフッ素樹脂製モノフィラメントからなる保護スリーブの取得を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のフッ素樹脂製モノフィラメント(以降、フッ素樹脂モノフィラメントということもある)は、引張強度0.5cN/dtex以上、サンシャインウェザーメーター400時間照射後の引張強力保持率が70%以上、かつ、JIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下であることを特徴とする。
【0016】
ここで、本発明のフッ素樹脂モノフィラメントを構成するフッ素樹脂は、モノフィラメントへの加工が可能なフッ素樹脂であれば如何なるものでも良いが、産業資材用途、中でも保護スリーブ用途のフッ素樹脂製モノフィラメントとして必要な引張強度を得やすいこと、さらには、その生産性の良好さから、ETFE、PFA、FEPおよびPVdFが好適に利用できる。
【0017】
本発明のフッ素樹脂モノフィラメントの引張強度は0.5cN/dtex以上であることを必須とするが、好ましくは0.7cN/dtex以上、より好ましくは0.9cN/dtex以上である場合には、これを保護スリーブへ適用した場合には、保護スリーブ製品の強度が増し、極めて利用価値の高い保護スリーブとすることが可能となる。
【0018】
また、本発明のフッ素樹脂モノフィラメントは、JIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下であること、さらには15%以下であることが好ましい。
【0019】
すなわち、本発明で規定した線径精度を満たさないフッ素樹脂製モノフィラメントを用い保護スリーブとした場合には、保護スリーブを製作する工程で、複数本のフッ素樹脂製モノフィラメントを引き揃えて小巻ボビンへ巻き返し製紐を行う工程で、線径精度の低さから、引き揃えが上手くいかなかったり、引き揃えが不十分であったことに起因する保護スリーブ表面へのモノフィラメントの不均一な飛出しにより、表面平滑性が損なわれた保護スリーブとなったりするなどの好ましくない結果に繋がる。一方で、これら線径変動率の特性を満たすフッ素樹脂製モノフィラメントを保護スリーブへ用いることによって、保護スリーブへの加工時の工程通過性の向上、スリーブ製品としての表面平滑性に富む品位に優れたスリーブの製作が可能となるなど好適な効果の発現が期待できる。
【0020】
さらに、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントは、サンシャインウェザーメーター400時間照射後の引張強力保持率が70%以上であること、さらには80%以上であることがより好ましい要件として挙げられ、斯かる特性を満足することで、従来の熱可塑性樹脂製モノフィラメントでは実現が困難であった、屋外など、極めて長期間に亘り強い紫外線を受けるような環境下であっても、1年以上に亘り耐候劣化することなく連続使用が可能となることから、これを保護スリーブへ適応した場合、保護スリーブの耐用年数を飛躍的に延長可能とできるなどの好ましい効果を発揮する。
【0021】
以上のように、本発明の特性を有するフッ素樹脂製モノフィラメントは、産業資材用途に用いるフッ素樹脂製モノフィラメントとして十分な強度特性を有するとともに、従来のフッ素樹脂製モノフィラメントに比較し極めて優れた線径精度を有することから、特に保護スリーブ用途に好適に用いることができ、さらには極めて優れた耐候性をも兼ね備えていることから、強い紫外線を長時間に亘り受けてしまう屋外環境で使用される場合においても、モノフィラメントが耐候劣化によって強度低下や樹脂の硬化などの好ましくない変化を来たすことが無いことから、耐候性の求められる保護スリーブとして極めて優れた効果を発揮することに繋がる。
【0022】
本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントは、その使用用途や求められる特性を満足させるため、繊維軸方向に垂直な断面の形状を円形、楕円形、扁平、正多角形および不定形な形状を含む多角形といかなる形状をも取り得るものであり、必要に応じて複合繊維であってもよい。
【0023】
なお、ここでいう扁平とは楕円もしくは長方形のことを意味するが、数学的に定義される正確な楕円、長方形以外に概ね楕円、長方形またはこれに類似した形状を含み、正多角形とは数学的に定義される正多角形以外に、概ねこれに類似した形状を含むものである。
【0024】
また、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの直径は、その使用用途に合わせ適宜選択することができるが、通常は0.05〜0.8mm程度の範囲のものが好適に使用される。
【0025】
次に、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法について説明する。
【0026】
本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントは、フッ素樹脂を溶融紡糸するに際し、紡糸口金ノズルから溶融フッ素樹脂を押出後、引続き冷却を行い引取りローラーなどで引取りを行う工程において、口金ノズルから押出す溶融ポリマの口金吐出線速度を0.15〜5.0m/分、口金吐出線速度と引取りを行う速度の比で示されるドラフト比を1.0〜30とし、口金ノズルから押出した後の溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップ中に少なくとも口金直下から3cm〜30cmまでのエアーギャップの雰囲気温度を100℃〜300℃とすることを特徴とし、この製造方法を採用することによって、JIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下のフッ素樹脂製モノフィラメントの取得が可能となる。
【0027】
本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法における第1の特徴は、口金ノズルから押出す溶融フッ素樹脂ポリマの口金吐出線速度を0.15〜5.0m/分に調節し、さらに口金吐出線速度と溶融フッ素樹脂ポリマを引き取る際の引取り速度との比(引取り速度(m/分)÷口金吐出線速度(m/分))で示されるドラフト比を1.0〜30の範囲とすることにある。
【0028】
ここで、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法において、口金吐出線速度は0.15〜5.0m/分であれば良いが、特に0.20〜2.5m/分である場合には、吐出安定性の向上などが期待できるため好ましい。また、ドラフト比は1.0〜30の範囲であれば問題はないが、特に2〜25である場合には、製糸安定性の向上などが期待できるためより望ましい。
【0029】
溶融フッ素樹脂ポリマは、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂の溶融ポリマと比較して、溶融ポリマの曳糸性が劣るために、ドラフト比を30よりも高くした場合、口金ノズルから吐出させた溶融ポリマが曳糸性の不足から引き千切れてしまい、引取りができなくなる状況となるため好ましくない。また、ドラフト比が1.0未満では、口金ノズルから吐出させた溶融フッ素樹脂ポリマの冷却を行う工程で、ドラフト比の不足から押出糸条の走行状態が不安定となる好ましくない状況となる。
【0030】
また、口金吐出線速度を速くする、すなわち、口金ノズルの単孔から多量の溶融フッ素樹脂ポリマを押出す場合には、口金ノズルから押出した溶融フッ素樹脂ポリマの表面状態が鮫肌状となるメルトフラクチャーを来たし易いため、多量の溶融フッ素樹脂を口金孔から押出す際は、孔径の大きな口金ノズルを用いる必要がある。
【0031】
ここで、大きな口金孔から多量の溶融フッ素樹脂ポリマを押出し引取る場合には、溶融フッ素樹脂ポリマがゴム状の粘弾性を有することに起因して、口金ノズルの口金孔直下で太細状態の不安定な押出し状態となるなど好ましくない状況となるため、口金ノズルから溶融フッ素樹脂ポリマを押出す際の口金吐出線速度は0.15m/分以上にする必要があり、また逆に、口金吐出線速度を5.0m/分より速くした場合では、口金ノズル孔から溶融フッ素樹脂ポリマを押出し、冷却工程を介して引取りを行う工程での走行糸の安定性は向上するものの、メルトフラクチャーが発生し易くなる問題が生じ好ましくない。
【0032】
本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法における第2の特徴は、口金ノズル孔から押出した後の溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップ中に、少なくとも口金直下から3cm〜30cmまでの雰囲気温度を100℃〜300℃とすることにある。
【0033】
本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法は、前記口金吐出線速度およびドラフト比を適正な範囲に規制することが挙げられるが、これのみでは、本発明の優れた線径精度を有するフッ素樹脂製モノフィラメントの取得は困難であり、口金ノズル孔から押出した溶融フッ素樹脂ポリマが冷却槽へ導かれる間に通過するエアーギャップ中に、少なくとも口金直下から3〜30cm、好ましくは7〜20cmの雰囲気温度を100〜300℃、さらには180〜280℃に調節した保温エアーギャップゾーンを設置することが好ましい。
【0034】
すなわち、本発明のフッ素樹脂モノフィラメントの要件である優れた線径精度を得るには、口金ノズル孔から吐出させる溶融フッ素樹脂ポリマの吐出安定性と引取速度とのバランスであるドラフト比を規制するだけでは不十分であり、口金ノズル孔から吐出した直後に、外気との接触によって冷却固化を始める溶融フッ素樹脂ポリマの冷却状態を口金直下から冷却槽に至るまでのエアーギャップの雰囲気温度100〜300℃の範囲に調節することで、徐々に冷却固化(以降、徐冷という)させることによって実現可能となる。
【0035】
これは、口金ノズル孔から押出した溶融フッ素樹脂ポリマが、温度調節をしていない外気と接触した場合に、溶融状態の高温のフッ素樹脂ポリマが、低温の温度環境に晒され、急激な温度変化を受け溶融ポリマが外周部から急激な冷却固化を始めるため、溶融ポリマの固化した外周部と溶融状態の線状ポリマ内部での密度差によって、押出ポリマの真円度の低下や固化状態のばらつきが生じることで線径精度の大幅な悪化を招くことに繋がる。一方、口金ノズル孔から押出した溶融フッ素樹脂ポリマが、口金直下の雰囲気温度を100〜300℃に調整した保温エアーギャップゾーンを通過する場合においては、押出された溶融ポリマが徐冷されることで、溶融ポリマが外周部から急激に冷やされ冷却固化することが抑制され、線径精度の優れたフッ素樹脂製モノフィラメントの取得が可能となる。
【0036】
なお、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法は、上述した製造方法に拠るところ以外に特に制限は無く、従来公知の溶融紡糸方法や延伸方法が採用でき、これら製造方法によって、各種産業資材用途、中でも保護スリーブ用途に好適に利用可能なフッ素樹脂製モノフィラメントを効率的に得ることができる。
【0037】
かくしてなる、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントは、優れた線径精度および耐候性を有し、且つ各種産業資材用途に利用可能なフッ素樹脂製モノフィラメントとして十分な強度特性をも兼ね備えることから、これを用いた保護スリーブ、なかでも本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントを複数本引き揃え製紐してなる保護スリーブは、特に強い紫外線の影響を受けるような環境下で用いられる保護スリーブとして極めて優れた効果を発揮する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントおよびこのフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法の実施例に関しさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
また、上記および下記に記載の本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントの物性などは、上記および下記に記載の方法により測定した値である。
【0040】
[引張強度(cN/dtex)]
JIS(2008)−L1013−8.5項に準じて測定した。すなわち、フッ素樹脂製モノフィラメント25mを綛状に取り、試料長50cmにカット(50本)したサンプルから任意に10本を取りだし、これを20℃、65%RHの温湿度調整室内で、(株)オリエンテック社製”テンシロン”UTM−4−100型引張試験機を用い、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で、引張強力(N)の平均値を測定し、引張強度(cN/dtex)を算出した。
【0041】
[サンシャインウェザーメーター400時間照射後の引張強力保持率(%)]
フッ素樹脂製モノフィラメントをスガ試験機株式会社製サンシャインロングライフウェザーメーター(WEL−SUN−HCH型)に設置し、全運転時間400時間、周期設定時間60分(降雨時間12分/60分)、ブラックパネル温度63℃の条件で、400時間の連続処理を行った。サンシャインウェザーメーターでの400時間連続処理した後のモノフィラメントサンプルおよび非処理(処理前)のモノフィラメントサンプルについて、各々10サンプルの引張強力を上記の引張強度に準じた測定方法により求め、処理前後のモノフィラメントの強力保持率を算出し、耐候性の尺度とした。なお、算式は強力保持率(%)=(処理後モノフィラメントの強力÷処理前モノフィラメントの強力)×100であり、強力保持率が高いほど耐候性が優れることを示す。
【0042】
[線径変動率(%)]
アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用して、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で外径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した値を線径変動率とした。
【0043】
[口金吐出線速度(m/分)]
単位時間当たりの溶融ポリマの吐出体積を口金孔吐出断面積で除した値であり、以下(I)式で算出した。
【0044】
口金吐出線速度(m/分)=4×P/(ρ×π×D)・・・(I)
なおここで、(I)式中の記号は、P:口金ノズル単孔当り吐出量(g/分)、ρ:溶融ポリマ密度(g/cm)、π:円周率、D:口金ノズル孔径(mm)を示す。
【0045】
[メルトフローレイト(g/10min)]
ASTMのメルトフローレイト測定方法に準拠し、孔径:2.095mm、管長:8.00mmのオリフィスを用い、荷重:5kgの条件で測定した。なお、加熱温度は使用する樹脂の融点を考慮し各々異なる条件で設定した。
[実施例1]
ETFE樹脂として、孔径:2.095mm、管長:8.00mmのオリフィスを用い、加熱温度:297℃、荷重:5kgの条件で測定したメルトフローレイトが35g/10minの旭硝子(株)製・フルオンETFE−C88AXMPを使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給、紡糸温度を320℃で溶融し、溶融ETFEポリマを紡糸口金ノズル孔より口金吐出線速度1.67m/分で押出した。
【0046】
口金から溶融押出ししたポリマを口金直下に設けた、長さ8cm、雰囲気温度280℃に調節した筒状の保温エアーギャップゾーンを通過させた後、直ちに70℃の温水浴中に導きつつ、ドラフト比7.35にて引き取り未延伸糸を得た。
【0047】
次いで、該未延伸糸を1段目延伸温度90℃、延伸倍率4.0倍で延伸し、引き続き2段目延伸温度160℃で総延伸倍率を5.3倍となるように延伸後、連続して熱セット処理を行ない、直径0.199mmのETFE製モノフィラメントを得た。得られたETFE製モノフィラメントの引張強度、線径変動率およびウェザーメーター400時間照射後強力保持率(以降、単に強力保持率ともいう)などを評価した結果を表1に示す。
[実施例2〜3および比較例5〜8]
実施例1と同一のETFE樹脂と製造工程を用い、口金吐出線速度およびドラフト比を表1および表2に示すように変更し、各々概略直径0.2mmのETFE製モノフィラメントを得た。
【0048】
得られた各ETFE製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表1および表2に示す。
[実施例4〜6および比較例1〜4]
実施例1と同一のETFE樹脂と製造工程を用い、口金直下エアーギャップ雰囲気温度およびエアーギャップ長さを表1および表2に示すように変更し、各々概略直径0.2mmのETFE製モノフィラメントを得た。
【0049】
得られた各ETFE製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表1および表2に示す。
[実施例7]
実施例1と同一の製造工程を用い、使用するフッ素樹脂をPVdF(メルトフローレイト:6g/min(加熱温度:230℃)、SolvaySolexis製・SOLEF1010)へ変更し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給、紡糸温度を240℃で溶融した。溶融PVdFポリマを紡糸口金ノズル孔より口金吐出線速度0.23m/分で押出し、引き続いて押出したポリマを口金直下に設けた、長さ15cm、雰囲気温度250℃に調節した筒状の保温エアーギャップゾーンを通過させた後、直ちに70℃の温水浴中に導きつつ、ドラフト比11.27にて引き取った未延伸糸を1段目延伸温度90℃、延伸倍率4.3倍で延伸し、引き続き2段目延伸温度170℃で総延伸倍率を5.8倍となるように延伸後、連続して熱セット処理を行ない、直径0.202mmのPVdF製モノフィラメントを得た。得られたPVdF製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
[実施例8および比較例9]
実施例7と同一のPVdF樹脂と製造工程を用い、口金直下エアーギャップの条件を表1および表2に示すように変更し、各々概略直径0.2mmのPVdF製モノフィラメントを得た。得られた各PVdF製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表1および表2に示す。
[実施例9]
実施例1と同一の製造工程を用い、使用するフッ素樹脂をPFA(メルトフローレイト:31g/min(加熱温度:372℃)、旭硝子(株)製・Fluon P−62XPT)へ変更し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給、紡糸温度を380℃で溶融した。溶融PFAポリマを紡糸口金ノズル孔より口金吐出線速度0.62m/分で押出し、引き続き押出したポリマを口金直下に設けた、長さ10cm、雰囲気温度290℃に調節した筒状の保温エアーギャップゾーンを通過させた後、直ちに70℃の温水浴中に導きつつ、ドラフト比21.04にて引き取った未延伸糸を1段目延伸温度95℃、延伸倍率1.1倍で延伸し、引き続き2段目延伸温度190℃で総延伸倍率を4.4倍となるように延伸後、連続して熱セット処理を行ない、直径0.201mmのPFA製モノフィラメントを得た。得られたPFA製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
[比較例10]
実施例9と同一のPFA樹脂と製造工程を用い、口金直下エアーギャップの条件を表2に示すように変更し、直径0.209mmのPFA製モノフィラメントを得た。得られたPFA製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表2に示す。
[実施例10]
実施例1と同一の製造工程を用い、使用するフッ素樹脂をFEP(メルトフローレイト:7g/min(加熱温度:372℃)、ダイキン工業(株)製・ネオフロン FEP NP−20)へ変更し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給、紡糸温度を380℃で溶融した。溶融PFAポリマを紡糸口金ノズル孔より口金吐出線速度0.70m/分で押出し、引き続き押出したポリマを口金直下に設けた、長さ10cm、雰囲気温度290℃に調節した筒状の保温エアーギャップゾーンを通過させた後、直ちに70℃の温水浴中に導きつつ、ドラフト比18.77にて引き取った未延伸糸を1段目延伸温度95℃、延伸倍率1.1倍で延伸し、引き続き2段目延伸温度190℃で総延伸倍率を4.2倍となるように延伸後、連続して熱セット処理を行ない、直径0.200mmのFEP製モノフィラメントを得た。得られたFEP製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
[比較例11]
実施例1と同一の製造工程を用い、使用する樹脂をPPS(メルトフローレイト:90g/10min(加熱温度:312℃)、東レ(株)製・PPSペレットE2080)へ変更し、このPPS原料を150℃、真空条件下で15時間の乾燥を行なった後、エクストルーダー型紡糸機に供給、紡糸温度を330℃で溶融した。溶融PPSポリマを紡糸口金ノズル孔より口金吐出線速度4.52m/分で押出し、引き続いて押出したポリマを口金直下に設けた、長さ10cm、雰囲気温度280℃に調節した筒状の保温エアーギャップゾーンを通過させた後、直ちに85℃の温水浴中に導きつつ、ドラフト比6.85にて引き取った未延伸糸を1段目延伸温度90℃、延伸倍率3.5倍で延伸し、引き続き2段目延伸温度160℃で総延伸倍率を4.5倍となるように延伸後、連続して熱セット処理を行ない、直径0.203mmのPPS製モノフィラメントを得た。得られたPPS製モノフィラメントの引張強度、線径変動率および強力保持率などを評価した結果を表2に示す。
[実施例11]
実施例1で得たETFE製モノフィラメントを2本1組で引き揃えて、管巻機にて小巻ボビンに巻き返しを行った。この巻き返し糸条を巻取った小巻ボビンを24本準備し、製紐機に掛け24打ちのスリーブを製紐した。得られたETFE製保護スリーブの表面状態を観察した結果、スリーブ表面には、モノフィラメントの引き揃え不良による表面状態の不具合、また製紐時の不具合によって生じた保護スリーブの表面欠点も無く、極めて良好な表面状態を有する保護スリーブが得られた。さらに、得られたETFE製保護スリーブの耐候性を確認するため、サンシャインウェザーメーター400時間照射後の保護スリーブの引張強力保持率を測定したが、ウェザーメーター処理後のETFE製保護スリーブの強力保持率は83.1%であった。
[比較例12]
比較例1で得たETFE製モノフィラメントを2本1組で引き揃えて、管巻機にて小巻ボビンに巻き返しを行った。この巻き返し糸条を巻取った小巻ボビンを24本準備し、製紐機に掛け24打ちのスリーブを製紐した。得られたETFE製保護スリーブの表面状態を観察した結果、スリーブ表面に、モノフィラメントの線径精度の低さに起因する保護スリーブの目付けの不揃いが生じており、さらにはETFEモノフィラメントの直径斑が散見され、製品品位に欠ける表面状態の悪い保護スリーブとなった。
[比較例13]
比較例11で得たPPS製モノフィラメントを2本1組で引き揃えて、管巻機にて小巻ボビンに巻き返しを行った。この巻き返し糸条を巻取った小巻ボビンを24本準備し、製紐機に掛け24打ちのスリーブを製紐した。得られたPPS製保護スリーブの耐候性を確認するため、サンシャインウェザーメーター400時間照射後の保護スリーブの引張強力保持率を測定したが、ウェザーメーター処理後のPPS製保護スリーブの強力保持率は61.7%と低いものであった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1および実施例1の結果から明らかなように、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントは、各種産業資材用途、中でも保護スリーブ用途のフッ素樹脂製モノフィラメントとして必要十分な引張強度を有し、保護スリーブ製品の表面平滑性などの製品品位や加工時の工程通過性に影響する線径変動率が低い、極めて線径精度に優れるフッ素樹脂製モノフィラメントであり、さらには非常に良好な耐候性をも兼ね備えることから、屋外など、特に強い紫外線の影響を受けるような環境下であっても、長期に亘る製品品質安定性を有する保護スリーブとして、極めて好適に利用できるものであることがわかる。
【0053】
一方、表2ならびに比較例12および比較例13の結果から明らかなように、本発明の規定を満たさないモノフィラメントでは、保護スリーブの表面平滑性などの製品品位に欠ける製品しか得られず、保護スリーブに用いるモノフィラメントとしては好ましくないものであることが明らかである。
【0054】
すなわち、口金直下のエアーギャップの条件が本発明の規定外である比較例1〜4、および比較例9〜10では、引張強度や耐候性の指標であるウェザーメーター照射後のモノフィラメントの強力保持率は満たすものの、線径変動率が本発明の規定外となってしまい、比較例12の結果からも明らかなように、スリーブ製品の表面平滑性が損なわれ、製品品位の極めて低い保護スリーブとなるなど非常に好ましくない結果を招いた。
【0055】
また、ドラフト比が本発明の規定外である比較例5および比較例6では、ドラフト比が高すぎた比較例5では、口金ノズル孔から押出した溶融ポリマが、高すぎるドラフト比のために太細状態になるなど好ましくない状況となり線径変動率の悪化を招いた。一方、ドラフト比が低すぎた比較例6では、冷却工程での引取り糸条が大きく蛇行をする状況となり、線径変動率が悪化するばかりか、冷却工程での走行糸の蛇行によって、冷却工程に設置している冷却ガイド類に走行糸が引っ掛かり、冷却切れを起こす好ましくない結果となった。
【0056】
さらに、口金吐出線速度が本発明の規定外である比較例7および比較例8では、得られたフッ素樹脂製モノフィラメントは、いずれも線径変動率が本発明の規定外の線径精度の劣るモノフィラメントとなった。特に、口金吐出線速度が本発明の規定範囲より速い比較例7では、吐出線速度を速くしすぎたために、口金ノズル単孔から多量の溶融フッ素樹脂ポリマを押出す状況となり、口金ノズルから押出した溶融フッ素樹脂ポリマの表面状態が鮫肌状となるメルトフラクチャーを来たしてしまった結果、製造時の延伸切れも発生し、また、得られたモノフィラメントの表面状態も鮫肌状となり、表面状態の悪化のためモノフィラメントの引張強度も本発明外となるなど、保護スリーブ用途のモノフィラメントとしては使用に耐えない製品となった。
【0057】
使用するフッ素樹脂をPVdFとした比較例9およびPFAとした比較例10も、口金直下の保温エアーギャップゾーンの条件が本発明の要件を満たしていないため、いずれの場合も線径変動率が本発明の規定外となる好ましくない結果を招いた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明のフッ素樹脂製モノフィラメントは、従来の産業資材用途のモノフィラメントにはない、極めて優れた耐候性を有するとともに、優れた線径精度をも兼ね備えていることから、これを保護スリーブの構成素材として利用した場合には、スリーブ製品の表面平滑性など製品品位の向上を可能とし、さらに長期に亘り強い紫外線の影響を受けるような環境下で使用するための保護スリーブとして極めて優れた効果の発現が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなるモノフィラメントであって、引張強度0.5cN/dtex以上、サンシャインウェザーメーター400時間照射後の引張強度保持率が70%以上、かつ、JIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が20%以下であることを特徴とするフッ素樹脂製モノフィラメント。
【請求項2】
前記フッ素樹脂製モノフィラメントが、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体およびポリフッ化ビニリデンのいずれかのフッ素樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂製モノフィラメント。
【請求項3】
フッ素樹脂を溶融紡糸するに際し、紡糸口金ノズルから溶融フッ素樹脂を押出後、引続き冷却を行い引取りローラーなどで引取りを行う工程において、口金ノズルから押出す溶融ポリマの口金吐出線速度を0.15〜5.0m/分、口金吐出線速度と引取りを行う速度の比で示されるドラフト比を1.0〜30とし、口金ノズルから押出した後の溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップ中に少なくとも口金直下から3cm〜30cmまでのエアーギャップの雰囲気温度を100℃〜300℃とすることを特徴とするフッ素樹脂製モノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のフッ素樹脂製モノフィラメントを少なくとも一部に用いてなることを特徴とする保護スリーブ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のフッ素樹脂製モノフィラメントを複数本引き揃え製紐してなることを特徴とする保護スリーブ。

【公開番号】特開2012−193486(P2012−193486A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−41075(P2012−41075)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】