説明

フッ素樹脂製気管切開カニューレ用曲管の製造方法

【課題】フッ素樹脂製気管切開カニューレの曲管の成形方法の提供。
【構成】フッ素樹脂製気管切開カニューレの曲管製造において、フッ素樹脂の融点より低い温度に設定した熱媒体中に所望の長さに切断された直管状フッ素樹脂製チューブ全体を入れ曲げた後にフッ素樹脂の融点より高い温度に設定した熱媒体中に入れることを特徴とするフッ素樹脂製気管切開カニューレ用曲管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂製気管切開カニューレに用いる曲管の製造方法に関する。具体的には所望の長さに切断された直管状フッ素樹脂製チューブを気管切開カニューレ用に曲げた気管切開カニューレ用曲管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気管切開カニューレの歴史は古く、その中でも長い期間金属製気管切開カニューレが使われてきた。しかし、金属製カニューレは使用者が硬い、冷たいという不快な使用感を持つことから、プラスチックを材料とした製品の開発がなされてきた。通常、プラスチックの成型品は射出成形等の方法により、気管切開カニューレで必要となる曲げチューブ(曲管)を製造が可能である。一方フッ素樹脂は耐熱性に富み、撥水性に優れ、自己潤滑性を持ち、低い摩擦係数で軽いために気管切開カニューレの材料としては最適である。しかし耐熱性高分子であるフッ素樹脂は、低融点プラスチックのように通常の方法によって曲管を作ることは困難である。
フッ素樹脂を気管切開カニューレに適した曲率半径を持つチューブに成形するためには、原料粉末の圧縮成形あるいは低融点フッ素樹脂の射出成形によって可能とは考えられるが、装置が大型になる、コストが掛かる、正確な成形が難しい等の問題があり気管切開カニューレ用曲管に適応することは困難である。
【0003】
そこで直管状のフッ素樹脂を所望の曲率半径に曲げることによって成形することが考えられる。従来の熱可塑性樹脂製チューブを含めた曲げ方法として次のような技術が開示されている。例えば、特許文献1では、内腔に曲げるチューブよりやや小さい内径を持ち、可撓性を有した加熱手段を挿入し、熱可塑性樹脂を曲げる方法が開示されており、特許文献2では曲げ加工を施す部分の外周並びに内腔より、加熱を施す工程を有する曲げ処理によってチューブ外観品質が向上した曲げ方法が開示されている。更に、文献3では、曲げ加工を施す箇所を局所的に加熱し、かつ加熱した部分を曲げ加工型にて曲げ加工を施す方法が開示されており、特許文献4では、曲げ加工を施す部分の外周に、曲げ加工を行うチューブの外径よりわずかに大きな内径を持つ金属管片を装着した後に、その装着部分を曲げ治具により曲げる方法が開示されている。
【特許文献1】特願2002-114881号
【特許文献2】特願平9-223251号
【特許文献3】特願平5-265725号
【特許文献4】特願昭63-183173号
【0004】
しかしいずれの方法とも耐熱性高分子であるフッ素樹脂に適応することは困難であった。すなわち局所的な加熱の後に曲げ加工を行った場合には気管切開カニューレに求められる、広い内腔、なめらかな管壁等の要件を達成することが出来ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、気管切開カニューレとして最適な材料であるフッ素樹脂を、所望の曲率半径で内腔を潰すことなく直管状のフッ素樹脂チューブを気管切開用に低コストで確実に曲げる方法について、鋭意研究を重ねた結果、直管状チューブ全体を該材料の融点より少し低い温度に加熱し曲げた後に、融点より高い温度に晒すという極めて簡単な操作によってフッ素樹脂よりなる直管状のチューブを気管切開カニューレ用の曲管とすることが出来ることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨はフッ素樹脂製気管切開カニューレの曲管製造において、フッ素樹脂の融点より10〜60℃低い温度に設定した熱媒体中に所望の長さに切断された直管状フッ素樹脂製チューブ全体を入れ曲げた後にフッ素樹脂の融点より10〜20℃高い温度に設定した熱媒体中に入れることを特徴とするフッ素樹脂製気管切開カニューレ用曲管の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、気管切開カニューレとして最適な材料であるフッ素樹脂を、所望の曲率半径で内腔を潰すことなく気管切開用に曲げる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について更に詳細に説明する。
本発明に用いられるフッ素樹脂原料としてはPTFE=ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、PFA=テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、FEP=テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)、ETFE=テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、PVDF=ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)、PCTFE=ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)等のフッ素樹脂のいずれでも良い。
フッ素樹脂チューブの直径が、3mm〜15mmで、厚みは0.1mm〜2mmの範囲のチューブに適応することが出来る。
フッ素樹脂チューブの長さとしては4cm〜10cm、曲率半径としてはチューブ中心で2cm〜5cmであることが望ましい。
【0009】
本発明では気管切開カニューレ用曲管を原料フッ素樹脂直管を曲げることによって製造されるが、その基本的な製造プロセスは原料フッ素樹脂の融点より低い温度で管を曲げた後に、その曲げを固定したまま融点より高い温度にすることであって、このプロセスによって曲げが戻ることがない曲管を製造することができる。
本発明に使用するフッ素樹脂の融点はフッ素樹脂原料の種類によって異なるが、製造プロセスの最初の工程である原料の融点より低い温度としては、融点より10〜60℃低い温度を設定することが望ましい。またその温度に保持する時間としては30秒〜5分が望ましい。当然、融点より低い温度であるためにチューブを曲げることは少々困難であるが、融点より10〜60℃低い温度であれば大凡の所望の曲率半径にチューブを曲げることが可能となる。次の工程として融点以下の温度で曲げたチューブの曲げを維持したまま、次に融点より高い温度、具体的には各原料の融点より10〜20℃高い温度に設定する。これ以上の場合ではフッ素樹脂原料が熱分解を起こす、熱媒体に気泡を生じると言った問題が有るために望ましくなく、当然これらの温度より低い場合には後から所望の曲げを完全に維持することが困難である。
【0010】
加熱にあたってはチューブ腔の内外からチューブ全体を均一に加熱することが求められる。そのためにはチューブに熱媒体を用いて密着した加熱が必要となる。
本発明は気管切開カニューレ、すなわち切開し体内の挿入される医療用器具に使用するための材料となる曲げチューブの製造方法であるため、当然熱媒体に毒性等生体に対して問題を持つ熱媒体を使用する事は出来ない。特に液体熱媒体の場合、水による洗浄が可能な熱媒体、具体的には水溶性の液体熱媒体を用いることが望ましい。
本発明に使用される熱媒体としては、粒状の固体、液体、あるいはこれら混合物を用いることが出来る。固体の熱媒体としては均一に熱を伝えるために小粒子の様に広い表面積を持つ物が望ましく、具体的にはサンドバス等を挙げることが出来る。液体の熱媒体としては設定される温度以上の沸点を持つ液体が望ましいが、それ以下の沸点を持つ液体であっても用いることが出来、例えばプロピレングリコール(bp 187℃)、ジメチルスルホオキシド(DMSO:bp 189℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(bp 194℃)、メチルカルビートール(bp 194℃)、エチレングリコール(bp197℃)、N-メチル-2-ピロリドン(bp 204℃)、1,3−ブタンジオール(bp 208℃)ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(bp 217℃)、1,4−ブタンジオール(bp 228℃)、ジエチレングリコール(bp 244℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(bp 256℃)、トリエチレングリコール(bp 287℃)、グリセリン(bp、290℃)、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を用いることが出来る。
熱媒体の使用量は、曲げるチューブ全体が全て埋まる状態になる量で有れば問題ないが、必要以上に熱媒体を用いることは、加温のために多くの熱が必要となり無駄になる。また熱媒体の量が少ない場合には、材料を熱媒体に入れた際、設定した温度の変化が激しく望ましくない。具体的には曲げるためのチューブを熱媒体に入れた際、設定温度の±10℃に温度が維持されることが必要であって、そのような温度低下をもたらさない熱媒体の量が必要となる。
【0011】
本発明によりチューブを曲げる際には、最終目的製品である気管切開カニューレの目的より、できる限り広い内腔を保持することが求められる。このことは当然流通する空気の量を確保することの他に、2重管構造の気管切開カニューレの場合には内筒をスムーズに出し入れするために必要となる要件である。さらにスムースな管壁を持つことが本気管切開カニューレの使用者のQOLを高めるために必要となる。つまりはスムーズな管壁を持つ気管切開カニューレの使用者はフッ素樹脂の特性として痰等の分泌物が付くことが少ない等、スムーズな管壁であればほとんど分泌液の付着が問題となることはない。
スムーズな管壁を達成しチューブを曲げるためには、熱媒体にチューブを入れる前に、内腔にフレキシブルな挿入部材を入れ曲げることが望ましい。挿入部材は該チューブの内径と同径あるいは若干小さい外径を有する筒状で、フレキシブルな曲げ可能な材料、部材であることが望ましい。また熱媒体中での加熱に対して安定であることが必要であって具体的には鉄、ステンレス鋼、フッ素樹脂、ポリイミド等の高融点合成高分子等が望ましい。なお、曲げるチューブの内径と同径の挿入部材を使用しても、曲げ工程の最初の工程で若干のチューブの膨張があるために挿入が可能となる。また挿入部材の長さはフッ素樹脂直管より若干短いか、若干長い物が望ましい。短すぎる場合には所望の曲率を達成することが困難となり、反対に長すぎる場合には次に述べる型に装着した際、曲率半径の一周以上の長さとなり、フラットな曲管を作ることが困難となる。
挿入あるいは融点以下の温度に晒すことによって挿入された挿入部材は、所望の曲率半径を持つ型に沿ってチューブといっしょに曲げられ、その挿入部材の両端をもって型に固定できることが望ましい。この型に固定用のピンを設け、そこに挿入部材に設けられたフック等によって固定される。
【0012】
述べてきたようにチューブ内腔にフレキシブルな挿入部材を入れた後に、融点より低い熱媒体にチューブを入れチューブを軟化、曲げ、次に融点より高い温度の熱媒体にチューブ両端を保持し曲げを固定したチューブを移し替え所望の曲率にチューブを固定することが出来る。
曲げたチューブは直ちに室温以下の水に入れ急冷を行う。急冷することでフッ素樹脂内の結晶が大きく成長することが無く、フッ素樹脂の特性である透明性を残し、かつ最終製品である気管切開用カニューレに滅菌等のために熱を加えた場合にも、曲げることにより得られた曲率半径が変化することはない。
【0013】
本発明を図をもって説明する。図1は直管状のフッ素樹脂製チューブ1の内径にほぼ均しいフレキシブルなコイル状の挿入部材2をチューブ1の内腔内に挿入する。これを内腔内に挿入部材を挿入したチューブを円筒形の型3に巻き付ける。図2はその際に使用する型3の斜視図である。型3は所望の曲率を有する円筒体でその外周には多数の溝4を有する。図1で示したチューブ1の内腔内に挿入した挿入部材を有するチューブ1を型3の外周の溝4に巻き付け(図3参照)、これをフッ素樹脂製チューブの融点以下の例えば約200℃程度のグリセリン浴に約2〜10分程度漬ける。その後、再び先のグリセリン浴の温度より高い温度例えば260℃に約1〜5分程度浸漬した後急冷すると、図4に示すような曲管を得、これより挿入部材を取り除いて製品とする。
【実施例】
【0014】
本発明の理解を深めるために、以下に実施例および実験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるまでもないことが明らかである。
実施例1
内径8mmのETFE(融点270℃)チューブを150mmに切断、洗浄した後に、チューブ内腔にステンレス製コイルを挿入する。コイルを挿入したチューブを210℃に加熱したトリエチレングリコールに3分間浸漬しチューブを軟化させ型に巻きつけ固定した後に、280℃に加熱したトリエチレングリコールに2分間浸漬しする。浸漬後直ちに20℃の水に入れ冷却する。冷却された曲げの終了したチューブを十分に水洗し気管切開カニューレとして組み立てる。
【0015】
実施例2
実施例1においてトリエチレングリコールの代わりにトリメチロールプロパンを用い、実施例1と同様の工程によって気管切開用カニューレ用のチューブを製造することが出来る。
【0016】
実施例3
内径8mmのPFA(融点302〜310℃)チューブを150mmに切断、洗浄した後に、チューブ内腔にステンレス製コイルを挿入する。コイルを挿入したチューブを270℃に加熱したトリメチロールプロパン1に3分間浸漬しチューブを軟化させ型に巻きつけ固定した後に、320℃に加熱したトリメチロールプロパンに2分間浸漬しする。浸漬後直ちに20℃の水に入れ冷却する。冷却された曲げの終了したチューブを十分に水洗し気管切開カニューレとして組み立てる。
【0017】
実施例4
内径8mmのFEPチューブを150mmに切断、洗浄した後に、チューブ内腔にステンレス製コイルを挿入する。コイルを挿入したチューブを200℃に加熱したトリエチレングリコールに3分間浸漬しチューブを軟化させ型に巻きつけ固定した後に、270℃に加熱したトリエチレングリコールに2分間浸漬しする。浸漬後直ちに20℃の水に入れ冷却する。冷却された曲げの終了したチューブを十分に水洗し気管切開カニューレとして組み立てる。
【0018】
実施例5
実施例4においてトリエチレングリコールの代わりにトリメチロールプロパンを用い、実施例4と同様の工程によって気管切開用カニューレ用のチューブを製造することが出来る。
実施例6
実施例4においてトリエチレングリコールの代わりにグリセリンを用い、実施例4と同様の工程によって気管切開用カニューレ用のチューブを製造することが出来る。
【0019】
実施例6
内径8mmのPCTFE(融点210〜220℃)チューブを150mmに切断、洗浄した後に、チューブ内腔にステンレス製コイルを挿入する。コイルを挿入したチューブを150℃に加熱したトリエチレングリコールに3分間浸漬しチューブを軟化させ型に巻きつけ固定した後に、230℃に加熱したトリエチレングリコールに2分間浸漬しする。浸漬後直ちに20℃の水に入れ冷却する。冷却された曲げの終了したチューブを十分に水洗し気管切開カニューレとして組み立てる。
実施例6
実施例6においてトリエチレングリコールの代わりにグリセリンを用い、実施例6と同様の工程によって気管切開用カニューレ用のチューブを製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】フッ素樹脂チューブ内腔に挿入部材を挿入した状態を示す説明図
【図2】本発明で使用する型の斜視図
【図3】図1で示したフッ素樹脂チューブを図2の型に巻き付けた状態を示す説明図
【図4】型より取り外した状態を示す説明図
【符号の説明】
【0021】
1 直管状フッ素樹脂チューブ 2 挿入部材 3 型 4 溝
5 曲管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂製気管切開カニューレの曲管製造において、フッ素樹脂の融点より10〜60℃低い温度に設定した熱媒体中に所望の長さに切断された直管状フッ素樹脂製チューブ全体を入れ曲げた後にフッ素樹脂の融点より10〜20℃高い温度に設定した熱媒体中に入れることを特徴とするフッ素樹脂製気管切開カニューレ用曲管の製造方法。
【請求項2】
熱媒体が粒状の固体あるいは液体またはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のフッ素樹脂製気管切開カニューレ用曲管の製造方法。
【請求項3】
熱媒体が水溶性熱媒体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフッ素樹脂製気管切開カニューレ用曲管の製造方法。
【請求項4】
熱媒体に入れるに際して直管状フッ素樹脂製チューブの内腔内にフレキシブルな挿入部材を挿入することを特徴とする請求項1ないし3の何れかの項に記載のフッ素樹脂製気管切開カニューレ用曲管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−130224(P2006−130224A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325265(P2004−325265)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)