説明

フッ素樹脂製造装置、フッ素樹脂製造方法、及びフッ素樹脂

【課題】ポリテトラフルオロエチレンからフッ素樹脂を製造できるフッ素樹脂製造装置を提供する。
【解決手段】電圧を発生させる電圧生成器6と、電圧生成器6に接続され、表面が接地された、(CFCF)の繰り返し単位により構成されているポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射するカソード1と、を備え、ポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射することによって3次元の立体的な架橋構造を有するフッ素樹脂を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射することによってフッ素樹脂を製造するフッ素樹脂製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、低摩擦特性、非粘着性、難燃性、電気絶縁性、耐候性、低温特性、純粋性等の特徴を有する素材として、広く使用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"フッ素樹脂"、[online]、2010年9月26日、[2010年10月5日検索]、ウィキペディア、インターネット<URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%83%E7%B4%A0%E6%A8%B9%E8%84%82>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のポリテトラフルオロエチレンには、柔らかく傷つきやすいという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ポリテトラフルオロエチレンよりも優れた硬度を有するフッ素樹脂を製造することができるフッ素樹脂製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によるフッ素樹脂製造装置は、電圧を発生させる電圧生成器と、電圧生成器に接続され、表面が接地された、(CFCF)の繰り返し単位により構成されているポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射するカソードと、を備え、ポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射することによって下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているフッ素樹脂を製造するものである。
【化1】

〔式中、mは1以上の整数であり、n1,n2,n3はそれぞれ1以上の整数である。m,n1,n2,n3はそれぞれ繰り返し単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。〕
【0007】
このような構成により、フッ素樹脂が3次元の立体的な架橋構造を有することとなり、従来のポリテトラフルオロエチレンと比較して、硬度に優れ、耐クリープ性を有するフッ素樹脂を製造することができるようになる。
【0008】
また、本発明によるフッ素樹脂製造装置では、電圧生成器は、負電圧を周期的に発生させ、カソードは、ポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームインパルスを照射してもよい。
このような構成により、電子ビームインパルスではない電子ビームをポリテトラフルオロエチレンに照射する場合よりも、効率よくフッ素樹脂を製造することができる。
【0009】
また、本発明によるフッ素樹脂製造装置では、カソードとポリテトラフルオロエチレンとを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備えてもよい。
このような構成により、真空チャンバ中で、フッ素樹脂を製造することができる。
【0010】
また、本発明によるフッ素樹脂製造装置では、カソードを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備え、真空チャンバは、カソードから出射された電子ビームインパルスを外部に通過可能な、金属薄膜である窓を有し、ポリテトラフルオロエチレンは、真空チャンバの外部に存在し、カソードは、窓を介して電子ビームインパルスをポリテトラフルオロエチレンに照射してもよい。
【0011】
このような構成により、真空中ではない大気中において、電子ビームインパルスをポリテトラフルオロエチレンに照射することによって、フッ素樹脂を製造することができる。この場合には、真空チャンバ内にポリテトラフルオロエチレンを入れなくてもよいため、そのポリテトラフルオロエチレンの形状等に関する自由度が高くなる。
【0012】
また、本発明によるフッ素樹脂製造方法は、電圧を発生させる工程と、発生された電圧によってカソードから電子ビームを、表面が接地された、(CFCF)の繰り返し単位により構成されているポリテトラフルオロエチレンに対して照射する工程と、を備え、下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているフッ素樹脂を製造するフッ素樹脂製造方法である。
【化2】

〔式中、mは1以上の整数であり、n1,n2,n3はそれぞれ1以上の整数である。m,n1,n2,n3はそれぞれ繰り返し単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。〕
このような構成により、ポリテトラフルオロエチレンから3次元の立体的な架橋構造を有するフッ素樹脂を製造することができる。
【0013】
また、本発明によるフッ素樹脂製造方法では、電子ビームの照射されるポリテトラフルオロエチレンは、基材にコーティングされたポリテトラフルオロエチレンであってもよい。
このような構成により、例えば、従来のポリテトラフルオロエチレンに対する焼成処理に代えて電子ビームの照射を行う場合には、その電子ビームの照射に応じた表面温度の上昇が焼成処理と比較して高くないため、その基材として、高い耐熱性を有しない素材を用いることもできるようになる。
【0014】
また、本発明によるフッ素樹脂は、下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているフッ素樹脂である。
【化3】

〔式中、mは1以上の整数であり、n1,n2,n3はそれぞれ1以上の整数である。m,n1,n2,n3はそれぞれ繰り返し単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。〕
このような3次元の立体的な架橋構造を有するフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンよりも硬度に優れ、耐クリープ性を有することになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるフッ素樹脂製造装置等によれば、ポリテトラフルオロエチレンから、ポリテトラフルオロエチレンよりも優れた特性を有するフッ素樹脂を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1によるフッ素樹脂製造装置の構成を示す図
【図2】同実施の形態によるフッ素樹脂製造装置の構成の他の一例を示す図
【図3】本発明の実施の形態2によるフッ素樹脂製造装置の構成を示す図
【図4】同実施の形態によるフッ素樹脂製造装置の構成の他の一例を示す図
【図5】同実施の形態によるフッ素樹脂製造装置の構成の他の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明によるフッ素樹脂製造装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。
【0018】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1によるフッ素樹脂製造装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置は、ポリテトラフルオロエチレンに電子ビームを照射することによって、新たなフッ素樹脂を製造するものである。
【0019】
図1は、本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置100の構成を示すブロック図である。本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置100は、カソード1と、電圧生成器6と、真空チャンバ50とを備える。
【0020】
電圧生成器6は、電圧を発生する。その発生された電圧は、カソード1に供給される。カソード1は、電圧生成器6に接続され、電圧生成器6から受け取った電圧によって、処理対象2に対して電子ビーム3を照射する。処理対象2は、表面が接地されている。真空チャンバ50は、カソード1と処理対象2とを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能である。真空チャンバ50内は真空に保たれるため、本実施の形態では、真空中で電子ビーム3が照射されることになる。
【0021】
なお、電子ビーム3は、電子ビームインパルスであることが好適である。そのほうが、処理対象2からフッ素樹脂を製造する効率が高いからである。したがって、電圧生成器6は、負電圧を周期的に発生するインパルス生成器であってもよい。また、カソード1は、その発生された負電圧が供給され、その負電圧によって、処理対象2に対して電子ビームインパルスを照射してもよい。本実施の形態及び実施の形態2では、主に、電子ビーム3が電子ビームインパルスであり、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について説明する。なお、図1では、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について図示しているが、電圧生成器6がインパルス以外の電圧を生成してもよいことは前述の通りである。
【0022】
カソード1の形状、特に、カソード1が電子ビーム3を照射する面の形状は問わない。カソード1は、例えば、平面形状であってもよく、あるいは、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状であってもよい。後者の場合には、例えば、シリンダ形状であってもよく、あるいは、パラボラ形状や、球形状であってもよい。シリンダ形状とは、円筒を、その円筒の長さ方向の2個の直線で切り取った形状である。すなわち、シリンダ形状のカソード1の電子ビーム3を照射する面は、円弧を、その円弧を含む円に垂直な方向に延ばした形状となる。なお、そのシリンダ形状のカソード1の長さ(すなわち、そのシリンダ形状の長さ方向における長さ)は、処理対象2の大きさ等に応じて、適宜、所望の長さにすることができる。また、そのシリンダ形状のカソード1から照射される電子ビーム3は、そのシリンダ形状の中心線(シリンダ形状が完全な円筒であった場合におけるその円筒の中心軸)に向けられることになる。したがって、処理対象2は、そのシリンダ形状の中心線の位置に配置されることが好適である。また、カソード1の電子ビーム3の照射面がパラボラ形状である場合には、そのカソード1が照射する電子ビーム3は、そのパラボラ形状の焦点に向けられることになる。したがって、処理対象2は、その焦点の位置に配置されることが好適である。また、カソード1の電子ビーム3を照射する面が球形状であるとは、その面が全球に近い形状であってもよく、半球の形状であってもよく、半球と全球の間の形状であってもよく、球に占める範囲が半球よりも狭い形状であってもよい。また、カソード1の電子ビーム3の照射面が球形状である場合には、そのカソード1が照射する電子ビーム3は、その球形状の中心に向けられることになる。したがって、処理対象2は、その中心の位置に配置されることが好適である。このカソード1は、比較的大きいものである。そのカソード1の大きさは、例えば、球状の直径以上のサイズであってもよい。
【0023】
また、カソード1の種類は問わない。カソード1は、例えば、熱カソードであってもよく、酸化物カソードであってもよく、エクスプローディング(Exploding)カソードと呼ばれる冷カソードであってもよく、またはタンクカソードであってもよい。また、これらの例示した以外の種類のカソード1を用いてもよい。これらのカソードの種類については、すでに公知であり、詳細な説明を省略する。
【0024】
電圧生成器6は、電圧を発生してカソード1に供給する。なお、本実施の形態では、電圧生成器6がインパルス生成器であり、負電圧を周期的に発生して、カソード1に供給する場合について説明する。その電圧生成器6は、例えば、インダクションアダー(Induction Adder:誘導演算回路)タイプであってもよい。その場合には、電圧生成器6は、200kVから4MVの負電圧であって、20から300nsのインパルスを生成する。誘導演算回路とは、入力信号の振幅の和に比例する出力信号振幅を発生する演算回路である。また、その電圧生成器6がインパルスを生成する周期は、例えば、1000Hzであってもよい。その周期は、通常、200〜8000Hzである。また、電圧生成器6に供給される電力は、直流であってもよく、あるいは、交流であってもよい。なお、交流の高周波電源を使用した場合に、最も効率よく電子ビーム3を生成することができるようになる。なお、電圧生成器6に供給される電源電圧は、例えば、200Vであってもよく、400Vであってもよく、あるいは、その他の電圧であってもよい。
【0025】
処理対象2は、次の化学式によって示される、(CFCF)の繰り返し単位により構成されているポリテトラフルオロエチレンである。ポリテトラフルオロエチレンは、いわゆるテフロン(登録商標)である。そのポリテトラフルオロエチレンは、焼成処理の行われる前のものであってもよく、あるいは、焼成処理の行われたものであってもよい。
【化4】

〔式中、nは1以上の整数である。〕
【0026】
また、図1で示されるように、処理対象2の表面は、接地されている。すなわち、処理対象2の表面はアースに接続されていることになる。なお、フッ素樹脂製造装置100は、処理対象2の表面を接地させるための、アースに接続されている端子を備えていてもよい。そして、そのアースに接続されている端子を処理対象2の表面に接続することによって、処理対象2の表面を接地してもよい。
【0027】
このようにして、カソード1は、表面が接地された、ポリテトラフルオロエチレンに対して、電子ビームインパルスを照射することになる。その電子ビームインパルス(あるいは、インパルスではない電子ビーム)の照射によって、後述する化学式で示されるフッ素樹脂が製造されることになる。
【0028】
次に、本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置100の使用方法、すなわち、フッ素樹脂の製造方法について説明する。真空チャンバ50の内部に処理対象2を配置し、その処理対象2の処理を行いたい表面を接地する。そして、真空チャンバ50の内部雰囲気を真空にする。そのために用いられる真空ポンプを真空チャンバ50が有してもよい。その後に、電圧生成器6を動作させて、カソード1に対して周期的に負電圧を供給する。すると、カソード1から処理対象2の表面に対して、電子ビーム3が照射される。その電子ビーム3の照射によって、処理対象2であるポリテトラフルオロエチレンから、次の化学式で表される繰り返し単位により構成されているフッ素樹脂を生成することができる。なお、次の化学式において、(CFCFn1の末端は、(CFCFn2の末端、または、(CFCFn3の末端と結合することになってもよく、あるいは、その他の結合であってもよい。
【化5】

〔式中、mは1以上の整数であり、n1,n2,n3はそれぞれ1以上の整数である。m,n1,n2,n3はそれぞれ繰り返し単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。〕
【0029】
このフッ素樹脂における(CFCF)の繰り返し単位の部分において、(CFCF)と同様の分岐をさらに有してもよいことは言うまでもない。また、上記のように、mは1以上の値をとるものであるが、通常は「1」である。ポリテトラフルオロエチレンは、(CFCF)の繰り返し単位を有するフッ素樹脂であるが、電子ビームが照射されることによって、一部が切断され、再架橋されることによって、上記のような3次元の立体的な架橋構造を有するフッ素樹脂となる。そのような3次元の立体的な架橋構造を有することによって、ポリテトラフルオロエチレンと比較して、硬度が向上することになる。
【0030】
なお、上記のようなフッ素樹脂を製造する際の電子ビームとしては、次のような条件のものを用いてもよい。
供給電圧:1MeV
電流:1000A
電子ビームインパルスの照射時間:200〜300ns(ナノ秒)
周波数:1000Hz
電子ビームインパルスの照射エネルギー:300J
【0031】
図2は、アノード5をさらに備えたフッ素樹脂製造装置100の一例を示す図である。図2において、電子ビーム3の照射の際に、カソード1と処理対象2との間にアノード5が配置されている。そのアノード5は、電子ビーム3が通過可能な孔を有するものとする。電子ビーム3は、アノード5の孔を通過して処理対象2に照射されるため、アノード5の孔を所望の形状にすることによって、電子ビーム3を所望の範囲に照射することが可能となる。
【0032】
ここで、本実施の形態のフッ素樹脂製造装置100による電子ビーム3の照射について、説明する。ダイオード放射の特徴は、電子の加速は非常に短時間tの間にしか起こらない、と言うことである。そして、これはインパルスと呼ばれ、ある特定の反復周波Nを周期的に作り出す。もしカソード1にマイナス電圧をかけたなら、アースに接続された処理対象2やアノード5は、電圧Vに等しく、電流をI、電子ビーム3の平均パワー(出力)をPとすると、そのPの式は、
P=N・I・V・t
となる。Nは、200〜8000Hzである。
【0033】
冷カソードを使用した場合、インパルスは300nsを超すことはできず、ミニマムは20ns程度である。熱カソードを使用した場合は、電子を数マイクロ秒の間、加速することができる。
【0034】
また、電子ビーム3の強さは、空間チャージ現象によってコントロールされ、チャイルド・ラングミュアー(Child?Langmuir)の法則によって値が定まる。この値は、数kAにも達することがある。なお、チャイルド・ラングミュアーの式は、真空中の電極間における電子・イオンの空間電荷制限電流iが、V3/2/dに比例することを示す式である。Vは電極間電圧であり、dは電極の距離である。
【0035】
その電圧Vは、200kVから4MVであり、処理する表面の厚さや、希望する処理スピード等によって異なる値に設定する。アースに接続されたアノードを持ったカソードにおいて、マイナス電極を選択する理由は、実験を通した経験から得られたものであり、一般には、アースに接続された処理表面を操作する方が容易である。
【0036】
電圧Vは、電子エネルギーをコントロールするものであり、電子が処理対象2の表面に食い込む深さをp(cm)とすると、次の関係式が得られる。
p=0.33E/d
【0037】
ここで、Eはエネルギー(MeV)であり、dは処理対象2の密度(g/cm)である。物質の中に電子エネルギーが取り込まれるには圧力波が作用するが、そのためには、「コンスタントな温度量」という条件がある。言い換えれば、物質が膨張しない程度に、より迅速に物質を温めることが必要となる。これはこの膨張を音速のスピードで行うことで可能になる。すなわち、わりあいに遅いスピードで行うことである。これを実現するためには、
t<p/2C
となる。なお、Cは、電子ビーム3が吸収される物質の中を通る音速である。
【0038】
以上のように、本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置100によれば、処理対象2であるポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビーム3を照射することによって、ポリテトラフルオロエチレンに化学反応を起こし、上記した化学式で示されるフッ素樹脂を製造することができる。そのフッ素樹脂は、3次元の立体的な架橋構造を有することから、硬度や耐クリープ性がポリテトラフルオロエチレンよりも高いことになる。したがって、ポリテトラフルオロエチレンから、ポリテトラフルオロエチレンよりも優れた特性を有するフッ素樹脂を製造できたことになる。
【0039】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2によるフッ素樹脂製造装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置は、大気中に存在する処理対象に対して電子ビームを照射するものである。
【0040】
図3は、本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置200の構成を示すブロック図である。本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置200は、カソード1と、電圧生成器6と、カソード1を内部に収容可能な真空チャンバ50とを備える。なお、真空チャンバ50が、接地された窓4を備えており、その窓4を介して放出された電子ビーム3を、真空チャンバ50の外部に存在する処理対象2に対して照射する以外は、実施の形態1と同様であり、その説明を省略することがある。また、処理対象2は、前述のように、ポリテトラフルオロエチレンである。
【0041】
カソード1は、窓4を介して電子ビーム3を処理対象2に照射する。そのカソード1が、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状であってもよいことや、カソード1が、熱カソード、酸化物カソード、またはタンクカソードであってもよいこと、カソード1が、エクスプローディングカソード、または冷カソードであってもよいことは、実施の形態1と同様である。また、カソード1は、プラズマカソードや、酸化熱カソード、ディスペンサー(dispenser)タイプのカソードであってもよい。また、電圧生成器6も、実施の形態1と同様のものである。すなわち、電圧生成器6は、電圧を発生してカソード1に供給するものである。本実施の形態でも、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について主に説明する。
【0042】
真空チャンバ50は、電子ビーム3が通過可能な窓4を有する以外、実施の形態1の真空チャンバ50と同様のものである。窓4は、カソード1から出射された電子ビーム3を外部に通過可能な金属薄膜である。その金属薄膜は、例えば、チタンの薄膜であることが好適である。その金属薄膜は、例えば、アルミニウムや、チタンルテニウム(チタンとルテニウムの合金)等のチタン以外の薄膜であってもよいが、アルミニウムの場合には性能が落ちることになる。なお、金属薄膜がチタンの薄膜である場合に、その厚さは、10〜30μmであることが好適である。また、その窓4によって、照射される電子ビーム3のエネルギーの分散を最小限(5〜10%)に抑えることが可能となりうる。また、窓4は、単一素材であってもよく、複合層を有する積層素材であってもよいが、接地するための導電性の層を少なくとも有するものである。なお、図3では、真空チャンバ50の窓4と、それ以外の部分とを区別するために、窓4を他の部分よりも厚く描いているが、これは説明の便宜上であって、通常、窓4のほうが、他の部分よりも薄くなる。後述する図4においても同様である。
【0043】
本実施の形態では、処理対象2は、真空チャンバ50の外部に存在することになる。したがって、実施の形態1の場合のように、処理対象2を真空チャンバ50の中に置いてから、真空チャンバ50の内部雰囲気を真空にする、という処理が必要なくなり、真空チャンバ50の内部雰囲気をはじめから真空にすることができる。その結果、処理対象2に電子ビーム3を照射するまでの時間を短縮することができる。なお、処理対象2は、実施の形態1の場合と同様に、処理の行われる表面が接地されているものとする。また、窓4は、接地されている。
【0044】
図4は、フッ素樹脂製造装置200の構成の他の一例を示す図である。より高いパワー密度が要求される場合には、図4で示されるように、処理対象2にエネルギーが集中されるように、カソード1の形状を、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状にしてもよい。なお、そのカソード1の形状(厳密には、カソード1における電子ビーム3を出射する面の形状)に合わせて、窓4の形状も変形させてもよい。すなわち、カソード1の電子ビーム3を出射する面と、窓4の面とが相似形であってもよい。具体的には、カソード1の電子ビーム3を出射する面と、窓4との距離が均一になるように、窓4の形状を設定してもよい。
【0045】
また、高出力になると、窓4の温度が高くなる。したがって、それを冷却するために、図4で示されるように、フッ素樹脂製造装置200は、窓4に送風を行う送風部14をさらに備えてもよい。送風部14は、窓4に送風することによって、窓4の温度を下げるものである。送風部14は、高速エアーを窓4に送風してもよい。送風部14は、図4で示されるように、窓4の外側に対して送風することによって、窓4を空冷するものである。
【0046】
図5は、フッ素樹脂製造装置200の構成の他の一例を示す図である。図5のフッ素樹脂製造装置200において、処理対象2の表面は、金属ブラシ18によって、アースに接続されている。また、電子ビーム3は、窓4を介して照射される。また、送風部14からは、超高速(例えば、200m/s)のエアーインジェクション(送風)がなされ、窓4を冷却する。本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置200のように、大気圧状況に処理対象2が存在する場合には、電圧生成器6としては、Induction Adderタイプのものが好適である。その電圧生成器6において、カソード1に接続された支柱13は、金属管であり、カソード1と反対側の先端はアースに接続される。また、絶縁チューブ20は、例えば、ガラスやセラミック製のものであり、真空チャンバ50内の真空雰囲気の気密性を保つために用いられる。なお、真空チャンバ50は、アースに接続されている。絶縁チューブ20の中心軸に沿って、複数のインダクター(電磁石)11が並べて設置されている。各インダクター11において、積層状の磁気コア12に銅線が巻かれている。その積層状の磁気コア12は、例えば、アモルファス(非結晶質の薄層)が積層されたものであってもよい。各インダクター11への給電は、インパルスジェネレータ10から同軸ケーブル9を介して行われる。例えば、図5では、12個のインダクター11から構成されているため、もし1.2MVの出力を望むのであれば、インパルスジェネレータ10は、インパルスの振幅が100kVであり、電流がカソード1から照射される電流と等しいインパルスを生成する。例えば、その電流は2kAであってもよい。また、同軸ケーブル9のインピーダンスは50Ωであり、インパルスジェネレータ10も同じく50Ωであってもよい。
【0047】
窓4を空冷する送風部14は、フィルターにかけられた圧縮空気や、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガスなどのガス23を、窓4に接するように超高速で循環させてもよい。また、カソード1を取り付けた支柱13は、底の金属板22に接続されている。また、その金属板22と、真空チャンバ50の筐体とをつなぐトラス棒21を介して、戻り電流が流れることになる。カソード1は、熱カソードであり、その熱カソードを温める方法は、ヒータケーブルを、カソード1を支える支柱13の中に通し、アースの電極と、カソード1がインパルスする高電圧で簡単に行うことができる。窓4は、前述のように、10〜30μmのチタンの薄膜を使用し、2〜4cm幅の湾曲したシリンダ形状であってもよい。
【0048】
[実験例]
本実験では、フッ素樹脂加工されたフライパンの表面に電子ビームインパルスを1気圧の空気中で照射した。すなわち、本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置200によって、電子ビームインパルスの照射を行った。本実験で使用した電子ビームインパルスは、次の条件ものである。
供給電圧:1〜3MeV
電流:1000〜2000A
電子ビームインパルスの照射時間:200〜300ns(ナノ秒)
周波数:1000Hz
【0049】
本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置200によって、370〜380℃で焼成処理されたフライパン表面のフッ素樹脂に対して、上記の条件内で電流、電子ビームインパルスの照射時間を調整しながら電子ビームインパルスの照射を行った。ビームの形状は、3mm×100mmに調整した。フライパンは、前述のように、1気圧の室内に配置した。本実験において、フライパンの表面温度は、電子ビームインパルスの照射により、室温(30℃)から30℃程度上昇して60℃になったが、その後はその温度を維持していた。
【0050】
その後、電子ビームインパルスを照射したフライパンを435℃に熱し、その状態を20分間維持する耐熱テストを行った。その耐熱テストにおいては、表面のフッ素樹脂に全く変質が認められなかった。従来の焼成処理されたフッ素樹脂の場合には、連続使用可能温度は260℃であり、260℃以上で極めてゆっくりとフッ素樹脂の分解が始まり、390℃以上で分解速度が速くなる。一方、電子ビームインパルスを照射したフッ素樹脂の場合には、それ以上の温度であっても変化は見られなかった。したがって、電子ビームインパルスの照射によって、従来のフッ素樹脂から、異なる構造を有するフッ素樹脂が製造されたと考えることができる。また、構造解析により、電子ビームインパルスを照射したフッ素樹脂において、3次元の立体的な架橋構造が確認された。そのため、電子ビームインパルスの照射によって製造されたフッ素樹脂は、3次元の立体的な架橋構造を有する上記化学式で示されるものであると考えられる。
【0051】
以上のように、本実施の形態によるフッ素樹脂製造装置200によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。さらに、実施の形態1のように、処理対象2を真空中に置かなくてもよいため、処理を開始するまでの作業が簡易なものとなり、作業性が向上することになる。また、実施の形態1の場合であれば、真空チャンバ50に入る大きさの処理対象2に対してのみ処理を行うことができたが、実施の形態2の場合には、そのような制限もなくなる。
【0052】
なお、上記各実施の形態において、電子ビームの照射される処理対象2としてのポリテトラフルオロエチレンは、焼成処理前のものであってもよく、あるいは、焼成処理後のものであってもよい。従来、焼成処理を行う場合には、ポリテトラフルオロエチレンへの充填剤や、ポリテトラフルオロエチレンがコーティングされる基材は、その焼成処理において変性しないことが求められるため、360〜390℃程度の耐熱性が要求された。一方、焼成処理前のポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射することによって3次元の立体的な架橋構造を有するフッ素樹脂を製造する場合には、その照射による温度上昇は、通常30度程度であり、高くても100度程度であるため、ポリテトラフルオロエチレンへの充填剤や、ポリテトラフルオロエチレンがコーティングされる基材の耐熱性は、それほど要求されないことになる。したがって、耐熱温度が100℃程度の素材などのように、従来であればポリテトラフルオロエチレンの充填剤として、あるいは、ポリテトラフルオロエチレンがコーティングされる基材として用いることができなかった素材を、充填剤や基材として用いることができるようになる。例えば、ポリエステル、ポリカーボネイト、アクリル、スチロール、ABS樹脂、布、紙等を基材として用いることもできる。より具体的には、携帯電話やパソコン、ATMや切符券売機の操作部分等に、本実施の形態によるフッ素樹脂のコーティングを行うこともできるようになる。また、その電子ビームの照射によって、焼成処理前のポリテトラフルオロエチレンから、3次元の立体的な架橋構造を有するフッ素樹脂を製造することができるため、焼成処理を行わなくても、焼成処理を行った場合と同様に、機械的強度を向上させることができる。なお、基材等が高い耐熱性を有する場合には、電子ビームの照射の照射後に焼成処理を行ってもよく、あるいは、行わなくてもよい。また、焼成処理後のポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射する場合には、その照射によって、ポリテトラフルオロエチレンを3次元の立体的な架橋構造のフッ素樹脂に変化させることができ、そのポリテトラフルオロエチレンの表面を硬化させることができるようになる。例えば、ポリテトラフルオロエチレンがコーティングされ、焼成処理がなされたフライパンに対して電子ビームを照射することによって、その表面を3次元の立体的な架橋構造を有するフッ素樹脂とした場合には、表面が硬化することになり、傷つきやすいという欠点を改良することができる。
【0053】
また、上記各実施の形態において、処理対象2としてのポリテトラフルオロエチレンの形状は問わない。例えば、シート状であってもよく、ブロック状であってもよく、顆粒状であってもよく、その他の形状であってもよい。また、処理対象2としてのポリテトラフルオロエチレンは、何らかの基材にコーティングされたものであってもよい。
【0054】
また、上記各実施の形態では、真空チャンバ50の内部に電圧生成器6も含まれる場合について主に説明したが、電圧生成器6の全部または一部は、真空チャンバ50の外に存在してもよいことは言うまでもない。
【0055】
また、上記各実施の形態において、電子ビーム3が、電子ビームインパルスであってもよく、あるいは、電子ビームインパルスではない電子ビームであってもよいことは前述の通りである。なお、電子ビーム3が電子ビームインパルスであるほうが、より好適な効果が得られることも前述の通りである。
【0056】
また、上記各実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、電圧の値や、周波数の値等がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していない場合であっても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、あるいは、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0057】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上より、本発明によるフッ素樹脂の製造装置や製造方法等によれば、ポリテトラフルオロエチレンから、よりすぐれた特性を有するフッ素樹脂を製造できるという効果が得られ、フッ素樹脂を製造する装置や方法等として有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 カソード
2 処理対象
3 電子ビーム
4 窓
5 アノード
6 電圧生成器
9 同軸ケーブル
10 インパルスジェネレータ
11 インダクター
12 磁気コア
13 支柱
14 送風部
18 金属ブラシ
20 絶縁チューブ
21 トラス棒
22 金属板
23 ガス
50 真空チャンバ
100、200 フッ素樹脂製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を発生させる電圧生成器と、
前記電圧生成器に接続され、表面が接地された、(CFCF)の繰り返し単位により構成されているポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射するカソードと、を備え、
前記ポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームを照射することによって下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているフッ素樹脂を製造するフッ素樹脂製造装置。
【化1】

〔式中、mは1以上の整数であり、n1,n2,n3はそれぞれ1以上の整数である。m,n1,n2,n3はそれぞれ繰り返し単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。〕
【請求項2】
前記電圧生成器は、負電圧を周期的に発生させ、
前記カソードは、前記ポリテトラフルオロエチレンに対して電子ビームインパルスを照射する、請求項1記載のフッ素樹脂製造装置。
【請求項3】
前記カソードと前記ポリテトラフルオロエチレンとを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備えた、請求項2記載のフッ素樹脂製造装置。
【請求項4】
前記カソードを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備え、
前記真空チャンバは、前記カソードから出射された電子ビームインパルスを外部に通過可能な、金属薄膜である窓を有し、
前記ポリテトラフルオロエチレンは、前記真空チャンバの外部に存在し、
前記カソードは、前記窓を介して電子ビームインパルスを前記ポリテトラフルオロエチレンに照射する、請求項2記載のフッ素樹脂製造装置。
【請求項5】
電圧を発生させる工程と、
発生された電圧によってカソードから電子ビームを、表面が接地された、(CFCF)の繰り返し単位により構成されているポリテトラフルオロエチレンに対して照射する工程と、を備え、
下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているフッ素樹脂を製造するフッ素樹脂製造方法。
【化2】

〔式中、mは1以上の整数であり、n1,n2,n3はそれぞれ1以上の整数である。m,n1,n2,n3はそれぞれ繰り返し単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。〕
【請求項6】
電子ビームの照射されるポリテトラフルオロエチレンは、基材にコーティングされたポリテトラフルオロエチレンである、請求項5記載のフッ素樹脂製造方法。
【請求項7】
下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているフッ素樹脂。
【化3】

〔式中、mは1以上の整数であり、n1,n2,n3はそれぞれ1以上の整数である。m,n1,n2,n3はそれぞれ繰り返し単位ごとに同一であっても異なっていてもよい。〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−149106(P2012−149106A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6580(P2011−6580)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(510194220)
【出願人】(510194231)
【出願人】(510193979)
【出願人】(510193980)
【Fターム(参考)】