説明

フッ酸の回収方法

【課題】 ガラス基板のエッチング工程などから排出されたフッ酸廃液からフッ酸を回収する方法であって、スケーリングの発生がなく、不純物の一層少ない精製フッ酸を高い収率で回収できるフッ酸の回収方法を提供する。
【解決手段】 フッ酸の回収方法は、金属成分含有のフッ酸廃液から蒸留法によりフッ酸を回収するフッ酸の回収方法であり、蒸発釜(1)にフッ酸廃液を供給して加熱し、蒸気として粗フッ酸を回収すると共に濃縮廃液を分離する粗フッ酸蒸発工程と、第1の蒸留塔(21)で粗フッ酸を蒸留し、濃縮フッ酸と回収水とに分離する第1蒸留工程と、第2の蒸留塔(22)で濃縮フッ酸を更に蒸留し、精製された精製フッ酸と廃液とに分離する第2蒸留工程とを備えている。そして、粗フッ酸蒸発工程のフッ酸廃液に金属成分の析出を抑制するに足る量の硫酸を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ酸の回収方法に関するものであり、詳しくは、ガラス基板のエッチング工程などから排出されたシリカ成分および金属成分含有のフッ酸廃液から蒸留法によりフッ酸を回収するフッ酸の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスやガラス基板のエッチングには、例えば濃度15重量%程度のフッ化水素酸(以下、「フッ酸」と言う。)が使用され、斯かるフッ酸は、通常、約50重量%の高濃度のフッ酸を純水で希釈することによりオンサイトで調製される。そして、上記のエッチング等のフッ酸利用工程においては、シリカ成分および金属成分を含むフッ酸の廃液が排出されるが、斯かる廃液は、反応に利用されなかったフッ酸を多量に含有しているため、これを回収して再利用するのが望ましい。
【0003】
フッ酸利用工程において、フッ酸廃液から簡便にフッ酸を回収する方法としては、拡散透析膜を使用した回収方法が挙げられる。斯かるフッ酸の回収方法では、先ず、フィルター又は遠心分離装置を使用し、フッ酸廃液からスラッジを分離した精製原料としてのフッ酸廃液を回収し、次いで、陰イオン交換膜フィルターを利用した拡散透析法により、溶解成分である金属イオンや珪フッ酸などの不純物をフッ酸廃液から除去して精製フッ酸を得る。上記の拡散透析法による回収方法は、設備を小型化でき、オンサイトでフッ酸を再生し得る点で優れている。
【特許文献1】特開2003−12305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フッ酸廃液からのフッ酸の回収においては、不純物の一層少ないフッ酸をより高い収率で回収すると言う観点からすると、フッ酸を製造する場合と同様に、蒸留法を利用してフッ酸を回収するのが望ましい。しかしながら、上記の様なフッ酸廃液にはSi,B,Al,Ca,Zr等の金属が溶存しており、蒸留法によって回収しようとすると、濃縮液(分離濃縮されるフッ酸廃液)中に金属成分が析出するため、蒸留塔を含む系内でスケーリングが発生し、設備を稼働できなくなる。また、一般的なフッ酸の製造の様に、蒸留法によって一旦フッ化水素を製造しようとすると、設備が大掛かりとなるため、経済的な観点から、オンサイトで実施するのは困難である。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ガラス基板のエッチング工程などから排出されたフッ酸廃液から蒸留法によりフッ酸を回収する方法であって、スケーリングの発生がなく、不純物の一層少ない精製フッ酸を高い収率で回収できるフッ酸の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係るフッ酸の回収方法は、金属成分含有のフッ酸廃液から蒸留法によりフッ酸を回収するフッ酸の回収方法であって、蒸発釜にフッ酸廃液を一定流量で供給して加熱し、蒸気として粗フッ酸を回収すると共に濃縮廃液を分離する粗フッ酸蒸発工程と、第1の蒸留塔で粗フッ酸を蒸留し、粗フッ酸よりも高濃度の濃縮フッ酸と回収水とに分離する第1蒸留工程と、第2の蒸留塔で濃縮フッ酸を更に蒸留し、精製された精製フッ酸と廃液とに分離する第2蒸留工程とを備え、前記粗フッ酸蒸発工程のフッ酸廃液に金属成分の析出を抑制するに足る量の硫酸を添加することを特徴とする。
【0007】
すなわち、本発明においては、粗フッ酸蒸発工程において、蒸発釜でフッ酸廃液から粗フッ酸を蒸発させる際、フッ酸廃液に硫酸を添加することにより、蒸発釜で濃縮されるフッ酸廃液(濃縮廃液)中に析出せんとする金属成分を硫酸によって溶解させ、これにより、蒸発釜でのスケーリングを防止し、伝熱効率の低下を防止する。そして、後段の第1及び第2蒸留工程において、不純物の極めて少ない粗フッ酸および濃縮フッ酸を蒸留し、精製された精製フッ酸を得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の係るフッ酸の回収方法によれば、最初の粗フッ酸蒸発工程において、蒸発釜のフッ酸廃液に硫酸を添加し、濃縮されるフッ酸廃液(濃縮廃液)中に金属成分を溶解させるため、蒸発釜におけるスケーリングを防止でき且つ伝熱効率の低下を防止でき、その結果、不純物の一層少ない精製フッ酸を高い収率で回収できる。そして、従来のフッ酸の製造の様にフッ化水素を製造することなく、粗フッ酸蒸発工程においてフッ酸廃液から直接フッ酸を回収し、第1及び第2蒸留工程で濃縮、精製するため、設備を簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るフッ酸の回収方法(以下、「回収方法」と言う。)の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の回収方法は、ガラスやガラス基板のエッチング等に使用された少なくとも金属成分含有のフッ酸廃液から蒸留法によりフッ酸を回収する回収方法であり、図1に示す様なフッ酸回収装置を使用し、主に連続処理方式で実施される。図1は、本発明の回収方法および当該回収方法の実施に好適なフッ酸回収装置の主要部の構成例を示すフロー図である。図2〜図4は、フッ酸回収装置における蒸発釜の加熱手段の例を示す縦断面図である。図中、流体を制御するための切替弁や流量調整弁は省略している。なお、以下の説明においては、フッ酸廃液、粗フッ酸、濃縮フッ酸および精製フッ酸の各フッ化水素濃度を「濃度」と言う。
【0010】
先ず、本発明の回収方法を実施するためのフッ酸回収装置について説明する。本発明に適用されるフッ酸回収装置は、図1に示す様に、処理すべきフッ酸廃液から粗フッ酸を蒸気として回収し且つ濃縮廃液を分離する蒸発釜(1)と、得られた粗フッ酸を濃縮フッ酸と回収水とに分離する第1の蒸留塔(21)と、濃縮フッ酸を更に精製して精製フッ酸と廃液(図1中の「塔底液」)とに分離する第2の蒸留塔(22)とを備えている。なお、上記の蒸発釜(1)、第1の蒸留塔(21)、第2の蒸留塔(22)及び後述する容器や各流路(配管)等の機器類には、耐食性を有するもの、通常はフッ素樹脂製のもの、または、フッ素樹脂でコーティング若しくはライニングされたものが使用される。
【0011】
蒸発釜(1)は、フッ酸廃液を加熱して粗フッ酸を蒸気の状態で回収するための炊き上げ装置である。蒸発釜(1)の上部には、処理すべきフッ酸廃液を導入する原料流路(71)、蒸発させた粗フッ酸を取り出す粗フッ酸流路(73)、および、後述する様に硫酸を添加する硫酸供給流路(72)、ならびに、第2の蒸留塔(22)で分離された廃液である塔底液を当該蒸発釜に戻す塔底液返流流路(93)が接続される。また、蒸発釜(1)の底部には、濃縮廃液、すなわち、濃縮されたフッ酸廃液を抜き出す廃液抜出し流路(74)が設けられる。
【0012】
蒸発釜(1)は、収容したフッ酸廃液を加熱手段によって加熱可能に構成される。蒸発釜(1)に使用される加熱手段としては、処理すべき量のフッ酸廃液から粗フッ酸を十分に蒸発させ得る限り、各種の加熱手段を使用できるが、例えば、図2〜図4に示す様に、ジャケット(11)、チューブ式熱交換器(12)、コイル式熱交換器(13)等が挙げられる。
【0013】
すなわち、図2に示す蒸発釜(1)は、水蒸気室を構成するジャケット(11)が釜本体の外周に設けられたものであり、前記の水蒸気室に水蒸気を供給して釜内部のフッ酸廃液を加熱する様になされている。図3に示す蒸発釜(1)は、多数の伝熱管を束ねて成るチューブ式熱交換器(12)が釜の内部に挿通されたものであり、前記の各伝熱管に水蒸気を供給することにより、釜内部のフッ酸廃液を加熱する様になされている。また、図4に示す蒸発釜(1)は、伝熱管をコイル状に巻回積層して成るコイル式熱交換器(13)が釜の内部に配置されたものであり、前記の伝熱管に水蒸気を供給することにより、釜内部のフッ酸廃液を加熱する様になされている。各図中の符号(14)及び(15)は、各々、水蒸気供給管および水蒸気排出管を示す。
【0014】
また、図示しないが、上記の蒸発釜(1)は、熱交換能力を高めるため、図2に示す様なジャケット(11)が釜本体の外周に設けられ且つ図3に示すチューブ式熱交換器(12)又は図4に示すコイル式熱交換器(13)が釜内部に配置され、ジャケット(11)の水蒸気室に水蒸気を供給すると共に、チューブ式熱交換器(12)又はコイル式熱交換器(13)の伝熱管に水蒸気を供給することにより、釜の内外からフッ酸廃液を加熱する様になされていてもよい。なお、図3に示す様なチューブ式熱交換器(12)としては、例えば淀川ヒューテック社製の「PFAシェル&チューブ式熱交換器」(商品名)を利用することが出来、図4に示す様なコイル式熱交換器(13)としては、例えば同社製の「PFAコイル式熱交換器」(商品名)を利用することが出来る。
【0015】
第1の蒸留塔(21)及び第2の蒸留塔(22)は、蒸発釜(1)で回収された粗フッ酸を蒸留精製するための蒸留塔であり、第1の蒸留塔(21)は、粗フッ酸から水を回収水として分離し且つ濃度の高められた濃縮フッ酸を得るために設けられ、第2の蒸留塔(22)は、濃縮フッ酸を更に精製して不純物の極めて少ない精製フッ酸を得るために設けられる。第1の蒸留塔(21)及び第2の蒸留塔(22)は、従来周知の蒸留塔、すなわち、多孔板トレイ等の気液接触用のトレイ(棚段)が空塔内に多数設置された段塔、不規則または規則充填物が空塔内に装填された充填塔などによって構成される。
【0016】
第1の蒸留塔(21)は、処理すべき粗フッ酸が蒸発釜(1)から上記の粗フッ酸流路(73)を通じて塔底部に供給される様になされている。そして、第1の蒸留塔(21)の塔底部には、粗フッ酸を加熱蒸発させるため、蒸発缶、場合によっては、図1に示す様なリボイラー(51)を含む炊上げ機構が付設される。斯かる炊上げ機構は、第1の蒸留塔(21)の塔底部の粗フッ酸を炊き上げる機構であり、第1の蒸留塔(21)に供給された粗フッ酸を当該第1の蒸留塔の塔底から抜き出す塔底液抜出し流路(81)と、抜き出された粗フッ酸を水蒸気などの熱媒体との熱交換により加熱蒸発させるリボイラー(51)と、蒸気化された粗フッ酸を再び塔底部に戻す循環流路(82)とを備えている。
【0017】
リボイラー(51)としては、複数の伝熱管によって多数の流路が形成された多管式熱交換器を備えたもの等が使用できる。そして、リボイラー(51)よりも上流側には、第1の蒸留塔(21)の塔底部の循環する塔底液の一部、すなわち、第1の蒸留塔(21)で濃縮された濃縮フッ酸を第2の蒸留塔(22)へ供給する濃縮フッ酸流路(83)(缶出液流路)が塔底液抜出し流路(81)から分岐して設けられる。
【0018】
また、第1の蒸留塔(21)の塔頂には、蒸留分離された回収水蒸気を抜き出して冷却凝縮器(61)に供給する蒸気流路(84)が設けられる。冷却凝縮器(61)としては、通常、多数の流路を形成する複数の伝熱管の管内に冷媒が流れ且つ管外に凝縮性蒸気(蒸留分離された蒸気)を通すことにより前記の凝縮性蒸気を液化する多管式の凝縮器が使用される。冷却凝縮器(61)の底部には、凝縮した回収水を回収水容器(41)に送液する凝縮液流路(85)が設けられ、冷却凝縮器(61)の上部には、不凝縮ガスを除害装置へ排気する排気流路(89)が設けられる。
【0019】
上記の回収水容器(41)は、第1の蒸留塔(21)で蒸留分離され且つ冷却凝縮器(61)で冷却して得られた回収水を貯留する容器である。斯かる回収水容器(41)は、蒸留操作の際に回収水の一部を還流として第1の蒸留塔(21)に戻すため、還流流路(86)を介して第1の蒸留塔(21)の塔頂側に接続される。また、最終的に得られる精製フッ酸の希釈に回収水容器(41)の回収水を使用したり、フッ酸利用工程などに回収水容器(41)の回収水を供給するため、上記の還流流路(86)には、回収水を取り出す回収水取出流路(87)(留出液流路)が分岐して設けられる。
【0020】
一方、第2の蒸留塔(22)は、第1の蒸留塔(21)で濃度の高められた被処理液である濃縮フッ酸が上記の濃縮フッ酸流路(83)によって塔底部に供給される様になされている。第2の蒸留塔(22)の塔底部には、濃縮フッ酸を更に加熱蒸発させるため、蒸発缶、場合によっては、図1に示す様なリボイラー(52)を含む炊上げ機構が付設される。
【0021】
上記の炊上げ機構は、第1の蒸留塔(1)におけるのと同様に、第2の蒸留塔(22)の塔底部の濃縮フッ酸を炊き上げる機構であり、第2の蒸留塔(22))に供給された濃縮フッ酸を当該第2の蒸留塔の塔底から抜き出す塔底液抜出し流路(91)と、抜き出された濃縮フッ酸を水蒸気などの熱媒体との熱交換により加熱蒸発させるリボイラー(52)と、蒸気化された濃縮フッ酸を再び塔底部に戻す循環流路(92)とを備えている。
【0022】
リボイラー(52)としては、前述のリボイラー(51)と同様のものが使用される。そして、リボイラー(51)よりも上流側には、第2の蒸留塔(22)の塔底部の循環する濃縮フッ酸の一部、すなわち、第2の蒸留塔(22)に残留し且つ僅かに不純物を含んだ塔底液を再び蒸発釜(1)に戻す塔底液返流流路(93)(缶出液流路)が塔底液抜出し流路(91)から分岐して設けられる。
【0023】
また、第2の蒸留塔(22)の塔頂には、蒸留分離された精製フッ酸を冷却凝縮器(62)に供給する蒸気流路(94)が設けられる。冷却凝縮器(62)としては、前述の冷却凝縮器(61)と同様のものが使用される。冷却凝縮器(62)の底部には、凝縮した精製フッ酸を精製フッ酸容器(42)に送液する凝縮液流路(95)が設けられ、冷却凝縮器(62)の上部には、不凝縮ガスを除害装置へ排気するため、前述の排気流路(89)へ通じる流路が設けられる。
【0024】
上記の精製フッ酸容器(42)は、第2の蒸留塔(22)で蒸留分離され且つ冷却凝縮器(62)で冷却して得られた精製フッ酸を貯留する容器である。斯かる精製フッ酸容器(42)は、蒸留操作の際に精製フッ酸の一部を還流として第2の蒸留塔(22)に戻すため、還流流路(96)を介して第2の蒸留塔(22)の塔頂側に接続される。また、精製フッ酸容器(42)の精製フッ酸をフッ酸利用工程などに供給するため、上記の還流流路(96)には、精製フッ酸を取り出す精製フッ酸取出流路(97)(留出液流路)が分岐して設けられる。
【0025】
また、図1に示すフッ酸回収装置は、蒸留における缶出液および留出液の流量ならびに還流比を制御するため、図示しないが、例えば、第1の蒸留塔(21)の塔頂側の冷却凝縮器(61)の下流側、および、第2の蒸留塔(22)の塔頂側の冷却凝縮器(62)の下流側に濃縮フッ酸および精製フッ酸の濃度をそれぞれ測定するフッ化水素濃度計が設置される。そして、蒸留プログラムが搭載された制御装置により、予め入力された処理条件および上記のフッ化水素濃度計の検出データに基づき、炊上げ機構の作動、各流路の開閉、切替、流量調整などを制御する様に構成される。
【0026】
なお、上記のフッ化水素濃度計としては、フッ酸における電気伝導率(導電率)を電磁誘導方式で連続測定し、これをフッ化水素濃度に換算する導電率型濃度計、または、フッ酸における超音波伝播速度を計測し、予め作成された所定温度・濃度における超音波伝播速度の関係に基づき、フッ化水素濃度を検出する超音波型濃度計、もしくは、フッ酸における超音波伝播速度および電磁導電率を計測し、予め作成された所定温度・濃度における超音波伝播速度と電磁導電率との関係(マトリックス)に基づき、フッ化水素濃度およびHSiF等の不純物濃度を検出する超音波型多成分濃度計が使用される。
【0027】
特に、上記の超音波型多成分濃度計は、一定温度の溶液中の超音波伝播速度および電磁導電率を測定することにより、3成分系溶液の2成分の濃度を同時にリアルタイムで測定できる。すなわち、多成分濃度計は、溶液の温度が一定ならば、各成分の濃度に応じて液中の超音波の伝播速度および電磁導電率が一義的に特定されると言う原理に基づくものであり、フッ酸の濃度測定に適用する場合、例えば、フッ化水素およびHSiFの各濃度毎に一定温度条件下で予め計測された超音波伝播速度と電磁導電率の関係をマトリックスとして予め準備することにより、前記のマトリックスに基づき、測定値からフッ化水素濃度およびHSiF濃度を正確に演算できる。
【0028】
例えば、上記の様な導電率型濃度計としては、東亜ディーケーケー社製の「電磁誘導式濃度変換器 MBM−102A型」(商品名)が使用でき、超音波型濃度計としては、富士工業社製の「超音波液体濃度計 FUD−1 Model−12」(商品名)が使用でき、また、超音波型多成分濃度計としては、富士工業社製の商品名「FUD−1 Model−52」が使用できる。
【0029】
次に、上記のフッ酸回収装置を使用した本発明の回収方法について説明する。本発明に適用されるフッ酸廃液としては、例えば、ガラスやガラス基板にエッチングや洗浄を施したり或いは鋳物のスチール落としを行うフッ酸利用工程から排出される廃液が挙げられる。斯かるフッ酸廃液は、シリカ成分および金属成分、すなわち、被エッチング材などの被処理物の成分との反応により、各種フッ化物として溶解または結晶化した成分、あるいは、生成した反応生成物を含有している。具体的には、Si、B,Al,Ca,Fe,Sr,Zr,K,Na,Mg等の成分を含有する。また、通常、例えばエッチング液として使用されたフッ酸廃液の濃度は0.1〜20重量%程度である。
【0030】
本発明の回収方法は、上記の様なフッ酸廃液を一定流量で蒸発釜(1)に供給して加熱し、蒸気として粗フッ酸を回収すると共に濃縮廃液を分離する粗フッ酸蒸発工程と、第1の蒸留塔(21)で粗フッ酸を蒸留し、粗フッ酸よりも高濃度の濃縮フッ酸と回収水とに分離する第1蒸留工程と、第2の蒸留塔(22)で濃縮フッ酸を更に蒸留し、精製された精製フッ酸と廃液とに分離する第2蒸留工程とを備えている。
【0031】
粗フッ酸蒸発工程では、シリカ成分および金属成分を殆ど含まないフッ酸だけをフッ酸廃液から蒸気の状態で粗フッ酸として分離する。具体的には、処理すべきフッ酸廃液を原料流路(71)を通じて蒸発釜(1)に一定流量で供給すると共に、図2〜図4に示す様な加熱手段またはそれらの組合わせにより、蒸発釜(1)内のフッ酸廃液を加熱し、粗フッ酸としてフッ酸を蒸発分離させる。その際、本発明においては、蒸発釜(1)内のフッ酸廃液の濃縮に伴う当該フッ酸廃液(濃縮廃液)中の金属成分の析出を防止するため、フッ酸廃液に金属成分の析出を抑制するに足る量の硫酸を添加する。
【0032】
硫酸は、硫酸供給流路(72)を通じて蒸発釜(1)に供給されるが、蒸発釜(1)のフッ酸廃液に対し、含有する金属成分およびその濃度に応じて、少なくとも、フッ酸廃液中の金属成分を溶解するに足る量だけ添加される。硫酸の添加方法としては、一定濃度の硫酸を一定流量で連続して添加してもよいし、高濃度の硫酸を間欠的に添加してもよい。上記の様に、粗フッ酸蒸発工程においては、フッ酸の蒸発によって蒸発釜(1)のフッ酸廃液を濃縮する際、硫酸を添加することにより、フッ酸廃液(濃縮廃液)中で金属成分を溶解状態に維持できるため、蒸発釜(1)におけるスケールの付着や加熱手段の伝熱効率の低下を防止できる。
【0033】
蒸気として分離された粗フッ酸は、粗フッ酸流路(73)を通じて第1の蒸留塔(21)に供給する。また、分離された濃縮廃液は、廃液抜出し流路(74)を通じて蒸発釜(1)の底部から抜き出し、最初の原料であるフッ酸廃液の貯槽(図示省略)などに戻すか、あるいは、除外装置に送液して無害化処理する。なお、粗フッ酸蒸発工程において、例えば、濃度5〜10重量%程度のフッ酸廃液を処理する場合は、フッ酸を蒸発させることにより、蒸発釜(1)内のフッ酸廃液を濃度30〜35%程度に濃縮する。
【0034】
第1蒸留工程では、蒸発釜(1)から供給される粗フッ酸を第1の蒸留塔(21)で蒸留し、粗フッ酸中の主に水を回収水として回収する。第1の蒸留塔(21)での蒸留操作は、通常、系内の圧力を大気圧以下の所定圧力に保持して行われる。具体的には、蒸発釜(1)から粗フッ酸流路(73)を通じて第1の蒸留塔(21)に粗フッ酸を一定流量で供給する。第1の蒸留塔(21)においては、塔底液抜出し流路(81)を通じ、当該第1の蒸留塔の塔底部の粗フッ酸をリボイラー(51)に供給して加熱蒸発させ、蒸気の状態で循環流路(82)を通じて塔底部に戻す。すなわち、第1の蒸留塔(21)においては、炊上げ機構により、塔底側の粗フッ酸を蒸気にして蒸留操作を行い、多量の水分を分離する。
【0035】
第1の蒸留塔(1)で蒸留分離された水蒸気は、塔頂から一定流量で取り出し、蒸気流路(84)を通じて冷却凝縮器(61)に供給し、当該冷却凝縮器で液化した後、凝縮液流路(85)を通じて回収水容器(41)に送液し、当該回収水容器に回収水として貯留する。また、上記の蒸留を行う際、回収水容器(41)に貯留された回収水の一部は、還流流路(86)を通じて還流として第1の蒸留塔(21)に一定流量で戻す。
【0036】
上記の様な第1の蒸留塔(21)における蒸留操作は、分離される濃縮フッ酸が粗フッ酸よりも高濃度で且つフッ酸の共沸濃度未満の濃度となる様に行う。換言すれば、水だけが蒸留分離される条件下で行う。例えば、斯かる蒸留操作により、当初の濃度が0.5〜20重量%の粗フッ酸から、回収水と共に、濃度10〜30重量%程度の濃縮フッ酸を回収する。そして、第1の蒸留塔(21)の塔底側に得られる濃縮フッ酸の一部は、塔底液抜出し流路(81)から一定流量で抜き出し、濃縮フッ酸流路(83)を通じて第2の蒸留塔(22)に供給する。なお、回収された回収水容器(41)の回収水の一部は、回収水取出流路(87)を通じ、必要に応じてフッ酸利用工程などへ濃度調整水として供給する。
【0037】
第2蒸留工程では、第1蒸留工程で得られた濃縮フッ酸を第2の蒸留塔(22)で更に蒸留し、第1蒸留工程よりも更に精製された精製フッ酸を回収する。第2の蒸留塔(22)での蒸留操作も、通常は系内の圧力を大気圧以下の所定圧力に保持して行われる。具体的には、濃縮フッ酸流路(83)によって第2の蒸留塔(22)に供給された濃縮フッ酸を前述の蒸留操作と同様に炊上げ機構により蒸気化する。すなわち、第2の蒸留塔(22)に供給された濃縮フッ酸を当該第2の蒸留塔の塔底から塔底液抜出し流路(91)を通じて抜き出し、リボイラー(52)に供給して加熱蒸発させ、蒸気の状態で循環流路(92)を通じて塔底部に戻し、第2の蒸留塔(22)において蒸留する。
【0038】
上記の様な第2の蒸留塔(22)における蒸留操作により、一層精製された精製フッ酸を得る。第2の蒸留塔(22)で蒸留分離された精製フッ酸は、当該第2の蒸留塔の塔頂から蒸気として一定流量で取り出し、蒸気流路(94)を通じて冷却凝縮器(62)に供給し、当該冷却凝縮器で液化した後、凝縮液流路(95)を通じて精製フッ酸容器(42)に送液して当該精製フッ酸容器に一旦貯留する。また、上記の蒸留を行う際、精製フッ酸容器(42)に貯留された精製フッ酸の一部は、還流流路(96)を通じて還流として第2の蒸留塔(22)に戻す。
【0039】
第2蒸留工程では、上記の蒸留操作により、第2の蒸留塔(22)へ供給される濃縮フッ酸と略同様の濃度であって且つ前記の濃縮フッ酸に比べて不純物の一層少ない精製フッ酸、例えば濃度15〜30重量%の精製フッ酸を回収することが出来る。そして、得られた精製フッ酸は、上記の様に精製フッ酸容器(42)に一旦貯留された後、精製フッ酸取出流路(97)を通じて例えばフッ酸利用工程などへ供給される。
【0040】
また、第2蒸留工程で回収された精製フッ酸を利用するにあたり、第1蒸留工程で得られた回収水、すなわち、回収水取出流路(87)を通じて取り出される回収水によって精製フッ酸を所定濃度に希釈することにより、回収水を有効利用することが出来る。なお、第2の蒸留塔(22)の塔底部に残留する塔底液の一部、すなわち、濃縮フッ酸の一部は、上記の様な蒸留によって僅かに不純物が蓄積する場合があるため、塔底液抜出し流路(91)から一定流量で抜き出し、塔底液返流流路(93)を通じて再び蒸発釜(1)へ戻す。
【0041】
上記の様に、本発明の回収方法では、粗フッ酸蒸発工程において、蒸発釜(1)でフッ酸廃液から粗フッ酸を蒸発させる際、フッ酸廃液に硫酸を添加することにより、蒸発釜(1)で濃縮されるフッ酸廃液(濃縮廃液)中に析出せんとする金属成分を硫酸によって溶解させ、これにより、蒸発釜(1)のフッ酸廃液における金属成分の析出を防止する。そして、後段の第1蒸留工程および第2蒸留工程において、不純物の極めて少ない粗フッ酸および濃縮フッ酸を蒸留し、より精製された精製フッ酸を得る。
【0042】
従って、本発明の回収方法によれば、粗フッ酸蒸発工程で蒸発釜(1)におけるスケーリングを防止でき、且つ、蒸発釜(1)の加熱手段における伝熱効率の低下を防止でき、その結果、不純物の一層少ないフッ酸を精製フッ酸として高い収率で回収することが出来る。そして、従来のフッ酸の製造の様にフッ化水素を製造することなく、粗フッ酸蒸発工程においてフッ酸廃から直接フッ酸を回収し、第1蒸留工程および第2蒸留工程で濃縮、精製するため、設備を簡素化することが出来る。これにより、ガラス基板のエッチング等のフッ酸利用工程においてオンサイトでフッ酸を回収できる。
【実施例】
【0043】
本発明の回収方法により、ガラス基板のエッチング工程から排出されたフッ酸廃液からフッ酸を回収した。処理するフッ酸廃液として、濃度が10重量%、Si,B,Al,Ca,Zt等の金属成分濃度が1重量%の廃液を準備した。粗フッ酸蒸発工程においては、蒸発釜(1)にフッ酸廃液を300cc/時の流量で供給し、フッ酸廃液を100Torrの圧力条件下で74℃に加熱して粗フッ酸を蒸気として回収し、第1の蒸留塔(21)に供給した。その際、蒸発釜(1)に98%硫酸を3cc/時の流量で添加した。なお、粗フッ酸の製造により、蒸発釜(1)においてフッ酸廃液を濃度30重量%に濃縮した。
【0044】
第1蒸留工程においては、第1の蒸留塔(21)による蒸留により、回収水容器(41)に280cc/時の流量で回収水を回収し、また、濃縮フッ酸流路(83)を通じて濃度25重量%の濃縮フッ酸を120cc/時の流量で回収し、そして、斯かる濃縮フッ酸を第2の蒸留塔(22)に供給した。第2蒸留工程においては、濃縮フッ酸を第2の蒸留塔(22)で更に蒸留し、精製フッ酸容器(42)に100cc/時の流量で精製フッ酸を回収した。精製フッ酸容器(42)に回収された精製フッ酸の濃度は20重量%であり、塔底液返流流路(93)から排出された塔底液の濃度は35重量%であった。
【0045】
そして、上記の一連の操作を1週間続けた後、蒸発釜(1)、第1の蒸留塔(21)、第2の蒸留塔(22)及び配管類を検査したところ、スケーリングの発生は確認されなかった。また、精製フッ酸容器(42)に回収された精製フッ酸の不純物濃度を測定したところ、金属成分濃度が0.1ppm以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るフッ酸の回収方法および当該回収方法の実施に好適なフッ酸回収装置の主要部の構成例を示すフロー図である。
【図2】フッ酸回収装置における蒸発釜の加熱手段の一例を示す縦断面図である。
【図3】フッ酸回収装置における蒸発釜の加熱手段の他の例を示す縦断面図である。
【図4】フッ酸回収装置における蒸発釜の加熱手段の更に他の例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 :蒸発釜
11:ジャケット
12:チューブ式熱交換器
13:コイル式熱交換器
14:水蒸気供給管
15:水蒸気排出管
21:第1の蒸留塔
22:第2の蒸留塔
41:回収水容器
42:精製フッ酸容器
51:リボイラー
52:リボイラー
61:冷却凝縮器
62:冷却凝縮器
71:原料流路
72:硫酸供給流路
73:粗フッ酸流路
74:廃液抜出し流路
81:塔底液抜出し流路
82:循環流路
83:濃縮フッ酸流路
84:蒸気流路
85:凝縮液流路
86:還流流路
87:回収水取出流路
89:排気流路
91:塔底液抜出し流路
92:循環流路
93:塔底液返流流路
94:蒸気流路
95:凝縮液流路
96:還流流路
97:精製フッ酸取出流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分含有のフッ酸廃液から蒸留法によりフッ酸を回収するフッ酸の回収方法であって、蒸発釜にフッ酸廃液を一定流量で供給して加熱し、蒸気として粗フッ酸を回収すると共に濃縮廃液を分離する粗フッ酸蒸発工程と、第1の蒸留塔で粗フッ酸を蒸留し、粗フッ酸よりも高濃度の濃縮フッ酸と回収水とに分離する第1蒸留工程と、第2の蒸留塔で濃縮フッ酸を更に蒸留し、精製された精製フッ酸と廃液とに分離する第2蒸留工程とを備え、前記粗フッ酸蒸発工程のフッ酸廃液に金属成分の析出を抑制するに足る量の硫酸を添加することを特徴とするフッ酸の回収方法。
【請求項2】
第2蒸留工程で得られた精製フッ酸を第1蒸留工程で得られた回収水によって所定濃度に希釈する請求項1に記載のフッ酸の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−76811(P2006−76811A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260516(P2004−260516)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【出願人】(501148920)菱化フォワード株式会社 (2)
【出願人】(593053335)日本リファイン株式会社 (15)