説明

フライス加工の加工制御方法

【課題】
従来のフライス加工の加工制御方法では、回転するフライス工具を用いてディンプルを形成するために、フライス工具を被工作物表面に近付けてディンプルを形成し、被工作物表面から離して工作物と干渉を回避し、次のディンプルを形成する位置に移動していた。そのため、工具の移動距離が増加してしまい、総加工時間が増加してしまっていた。

【解決手段】
フライス工具の切れ刃の1回の形成であり、切り込み方向には移動せず、目標とするディンプルの間隔およびディンプルの寸法を形成するための、フライス工具の切れ刃形状、工具回転軸線の傾斜、切り込み深さ、1刃当たりの送りを決定し、その切削条件のもと、フライス工具を被工作物表面と平行に移動させることで、ディンプルを高速に形成することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライス加工の加工制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフライス加工の加工制御方法として、特開2002−361510号公報に開示されている。このフライス加工の加工制御方法では、回転するフライス工具を用いて被工作物表面にディンプルを形成するために、フライス工具を被工作物表面に近付けてディンプルを形成し、被工作物表面から離して工作物と干渉を回避し、次のディンプルを形成する位置に移動していた。
【0003】
また、フライス加工の加工制御方法としては、特開2001−198718号公報に開示されている。このフライス工具を用いた加工方法は、切刃回転軌跡が円形をなすフライス工具を、その回転軸線を各切削点における加工面の法線に対して傾斜させる状態で、所定の工具送り方向に移動させることにより切刃回転軌跡の工具送り方向側領域を通過する切刃によって被加工物の表面を切削加工するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2002−361510号公報
【特許文献2】特開2001−198718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のフライス加工の加工制御方法では、ディンプルを形成するために、図7に図示するように、「フライス工具を被工作物表面に近付ける→離す→次のディンプルの位置に移動する」を繰り返していたので、非切削工程に要する工具の移動距離が増加してしまい、総加工時間が増加してしまっていた。
【0006】
また、フライス工具の切れ刃の1回の形成で、形成されるディンプルの寸法を制御できるものではなかった。
【0007】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、目標とする間隔および寸法を持つディンプルを、フライス工具の切れ刃の1回の形成で、高速に形成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被工作物表面にディンプルを形成するフライス工具を用いたディンプル形成加工方法において、前記フライス工具を前記被工作物表面に対し平行移動させながら、前記フライス工具を切削条件決定工程で算出された切削条件に応じて制御することを特徴とする。
【0009】
また、前記切削条件決定工程は、予め設定された目標とする上記ディンプルの間隔と寸法とその許容値を設定する工程と、フライス工具の切れ刃の1刃あたりの送りを決定する工程と、上記被工作物表面の形状を設定する工程と、前記フライス工具の切れ刃形状を設定する工程と、前記フライス工具の回転軸線の傾斜角と切り込み深さを設定後、前記フライス工具の切れ刃の軌跡面形状を導出して、形成される前記ディンプル寸法の予測を行い、目標とする寸法許容値を満たすディンプル形状でなければ、前記工具回転軸線の傾斜角と切り込み深さを再設定することを繰り返し、目標とする寸法許容値を満たすディンプル形状を創成する工具回転軸線の傾斜角と切り込み深さを決定する切り込み深さ・傾斜角決定工程とからなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、フライス工具の動きは、フライス工具を被工作物表面に近付け、フライス工具を被工作物表面に対し平行移動させるのみであり、フライス工具の切れ刃の1回の形成で、被工作物の表面に目標とするディンプル形状を形成することができるようになったので、非切削工程に要する工具の移動距離が低減し、総加工時間が大幅に短縮可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施例を具体的に説明する。図1は本発明によるフライス工具を用いたディンプル形成加工方法の一実施例の全体構成図である。図2は、本発明による、フライス工具の切れ刃の1回の形成で、被工作物表面にディンプルを形成する動作を示す説明図である。
【実施例1】
【0012】
本実施例では、図1に図示するように、コンピュータ1を用いて切削条件決定工程を行い、楕円エンドミル(フライス工具)4と工作機械2を用いて被工作物表面3にディンプル7を形成した。このとき、図2に図示するように、切れ刃の軌跡6を制御して、切れ刃5の1回の形成で、ディンプル7を形成した。以下、目標とするディンプル形状を設定して、楕円エンドミル(フライス工具)の切れ刃形状5、工具回転軸線の傾斜角、切り込み深さ、1刃当たりの送りを決定する方法について、本発明による切削条件決定工程を示す図3のフローチャートと、ディンプル形状を予測する方法を示す図4の説明図を参照し説明する。
【0013】
(ステップ イ)
目標とするディンプル形状として、フィード方向のディンプルの間隔,切れ刃の進行方向のディンプルの寸法とその許容値,切れ刃の進行方向と直交する方向のディンプルの寸法とその許容値を設定する。
(ステップ ロ)
1刃当たりの送りは、フィード方向のディンプルの間隔と等しくなる。
(ステップ ハ)
被工作物表面形状3を設定する。
(ステップ ニ)
楕円エンドミル4の半径と軸方向の半径、および切れ刃のねじれを設定し、切れ刃の形状5を導出する。今回、楕円エンドミル4の半径は、5.0mm、楕円エンドミル(フライス工具)4の軸方向の半径は、1.5mmとした。
(工程 ホ)
まず、経路8、現在の切り込み深さ、現在の工具回転軸線の傾斜角9を設定し、現在の切れ刃の軌跡13を導出する。
次に、現在の切れ刃の軌跡13と被工作物表面3の形状から現在のディンプルの形状12を算出する。
このとき、現在の切れ刃の進行方向のディンプルの寸法10が、目標とする切れ刃の進行方向のディンプルの寸法の許容値内であるか判定し、現在の切れ刃の進行方向のディンプルの寸法10が小さいときは切り込み深さを大きくし,現在の切れ刃の進行方向のディンプルの寸法10が大きいときは切り込み深さを小さくする。
また、現在の切れ刃の進行方向と直交する方向のディンプルの寸法11が、目標とする切れ刃の進行方向と直交する方向のディンプルの寸法の許容値であるか判定し、現在の切れ刃の進行方向と直交する方向のディンプルの寸法11が大きいときは現在の工具回転軸線の傾斜角9を大きくし,現在の切れ刃の進行方向と直交する方向のディンプルの寸法が小さいときは現在の工具回転軸線の傾斜角9を小さくする。
以上のように、目標とする寸法を持つディンプル7となるまで、工具回転軸線の傾斜、切り込み深さを再設定して、現在の工具回転軸線の傾斜9、現在の切り込み深さの修正を行う。
【0014】
実際に、目標とするフィード方向のディンプルの間隔を5.0mm,切れ刃の進行方向のディンプルの寸法を2.0mm、切れ刃の進行方向と直交する方向のディンプルの寸法を2.0mmとし,上記の方法を用いて切削条件を決定した。その結果、切り込み深さは0.070mmとなり、工具回転軸線の傾斜角は15°となった。なお、工具回転軸線の傾斜方向はダウンカットする側であり、工具の進行方向に対し90°旋回した方向としている。図5は、真鍮にディンプル7を形成した例である。
【0015】
図6は、上記の手法を用いて、真鍮に装飾を施した例である。
【0016】
ところで上記の説明では、この発明を楕円エンドミル4でディンプル7の形成する場合について述べたが、その他のフライス工具でディンプル7を形成する場合にも利用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の切削加工される表面の凹凸形状を形成するものとして次のものがあり、本発明はその製品の切削加工方法に有用である。
(1)摩擦力の制御のために、微細な凹凸形状を制御する。
(2)摺動部での潤滑油確保のために、微細な凹凸を設ける。
(3)反射、回折、見栄え、光沢といった表面に求められる光学機能を制御するために、微細な凹凸を制御する。
(4)熱伝達特性の向上や境界層流れの制御のために、表面に微細な凹凸を設ける。
(5)表面に装飾用の凹凸を設ける。
(6)離型特性の向上のため、金型に微細な凹凸を設ける。
(7)強い撥水性を持たせるとともに、ゴミなど固体粒子付着しにくいといった浄化作用を持つ微細凹凸を設ける。
(8)表面の接着現象の制御のために、微細凹凸を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る一実施例を示す全体構成図である。
【図2】フライス工具の切れ刃の1回の形成で、工作物表面にディンプルを形成する動作を示す説明図である。
【図3】本発明による切削条件決定工程を示すフローチャートである。
【図4】ディンプル形状を予測する方法を示すための説明図である。
【図5】ディンプルを形成した例を示す写真である。
【図6】ディンプルを形成した例を示す写真である。
【図7】従来のディンプルを形成する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 コンピュータ
2 工作機械
3 被工作物表面
4 楕円エンドミル(フライス工具)
5 切れ刃
6 切れ刃の軌跡
7 ディンプル
8 経路
9 現在の工具回転軸線の傾斜角
10現在の切れ刃の進行方向のディンプルの寸法
11現在の切れ刃の進行方向と直交する方向のディンプルの寸法
12現在のディンプル
13現在の切れ刃の軌跡

イ〜ホ ソフトのステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被工作物表面にディンプルを形成するフライス工具を用いたディンプル形成加工方法において、前記フライス工具を前記被工作物表面に対し平行移動させながら、前記フライス工具を切削条件決定工程で算出された切削条件に応じて制御することを特徴とするフライス加工の加工制御方法。
【請求項2】
上記切削条件決定工程は、予め設定された目標とする上記ディンプルの間隔と寸法とその許容値を設定する工程と、フライス工具の切れ刃の1刃あたりの送りを決定する工程と、上記被工作物表面の形状を設定する工程と、前記フライス工具の切れ刃形状を設定する工程と、前記フライス工具の回転軸線の傾斜角と切り込み深さを設定後、前記フライス工具の切れ刃の軌跡面形状を導出して、形成される前記ディンプル寸法の予測を行い、目標とする寸法許容値を満たすディンプル形状でなければ、前記工具回転軸線の傾斜角と切り込み深さを再設定することを繰り返し、目標とする寸法許容値を満たすディンプル形状を創成する工具回転軸線の傾斜角と切り込み深さを決定する切り込み深さ・傾斜角決定工程とからなることを特徴とする請求項1記載のフライス加工の加工制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−246587(P2008−246587A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87711(P2007−87711)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】