説明

フライ用油脂組成物

【課題】フライ中に生成する極性化合物や劣化臭等が抑制された安定性の良いフライ用油脂組成物を提供する。
【解決手段】総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロール、L−アスコルビン酸脂肪酸エステル、クエン酸及び/又はその誘導体並びにリン脂質を含有することを特徴とするフライ用油脂組成物、並びに食用油脂に、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロールを総トコフェロール量として100ppm以上、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを5ppm以上、クエン酸及び/又はその誘導体を10ppm以上、及びリン脂質を5ppm以上添加することを特徴とするフライ用油脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ油は高温で加熱して使用されることから品質劣化が進み易く、加熱による変色、加水分解による酸価の上昇、酸化による過酸化脂質の生成などが問題となっている。とりわけ油脂の酸化により生成する過酸化脂質は人体に悪影響を及ぼすと考えられており、わが国を含めた各国ではフライ油の使用基準に関する法規制が整備されている。
【0003】
例えば、わが国では食品衛生法の衛生規範にフライ製品(弁当及び惣菜類等)の酸価上限値を2.5と定めており、またEU主要国ではフライ油の極性化合物量を概ね25%以下とする法規制が実施されている。
【0004】
一方、近年の外食・中食市場の拡大や消費者の健康意識の高まりなどから、フライ製品に一層の品質向上が求められており、フライ油の加熱による発煙や劣化臭の発生といった官能的な現象は従来よりも忌避される傾向にある。
【0005】
このような背景から、酸価や極性化合物量の上昇及び劣化臭などが抑制されたフライ油が種々提案されている。
【0006】
例えば、食用油脂に、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3質量%以下である抽出トコフェロールを総トコフェロール量として800〜10000ppm添加することを特徴とするフライ用油脂組成物の製造方法(特許文献1参照)、多価不飽和脂肪酸量に対する1価不飽和脂肪酸量の重量比が2.0以上、かつヨウ素価50−110の油脂を、酸価0.03以下、かつγ−トコフェノール含量300ppm以上に精製することを特徴とするフライ安定性の良い油脂(特許文献2参照)などが知られている。
【0007】
しかし、上記技術は、特に極性化合物及び劣化臭の抑制の点でフライ油のユーザーが必ずしも満足できるものではなく、より安定性の良いフライ用油脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−54669号公報
【特許文献2】特開2001−31985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、フライ中に生成する極性化合物や劣化臭等が抑制された安定性の良いフライ用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、食用油脂に対して、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロール、L−アスコルビン酸脂肪酸エステル、クエン酸及び/又はその誘導体並びにリン脂質を添加すると目的に叶うフライ用油脂組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロール、L−アスコルビン酸脂肪酸エステル、クエン酸及び/又はその誘導体並びにリン脂質を含有することを特徴とするフライ用油脂組成物、
(2)食用油脂に、総トコフェロール中のd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロールを総トコフェロール量として100ppm以上、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを5ppm以上、クエン酸及び/又はその誘導体を10ppm以上、及びリン脂質を5ppm以上添加することを特徴とするフライ用油脂組成物の製造方法、
から成っている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフライ用油脂組成物は、特にフライ中に生成する極性化合物や劣化臭が抑制されており、従来のフライ油に比べて長時間使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフライ用油脂組成物は、食用油脂中に、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロール、L−アスコルビン酸脂肪酸エステル、クエン酸及び/又はその誘導体並びにリン脂質を含有するものである。
【0014】
本発明で用いられる食用油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えば、オリーブ油、ごま油、こめ油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ひまわり油、ぶどう油、綿実油、やし油、落花生油などの植物油脂、牛脂、ラード、乳脂及び魚油などの動物油脂、さらに、これら動植物油脂を分別、水素添加またはエステル交換したもの等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられる抽出トコフェロールとしては、植物油が精製される過程で副生する脱臭留出物(例えば脱臭スカム、脱臭スラッジ又はホットウエル油など)から回収されるトコフェロールであれば特に制限はなく、例えば、キャノーラ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、ひまわり油、綿実油及び落花生油等の脱臭留出物から分離・精製して得られる、d−α−、d−β−、d−γ−及びd−δ−トコフェロール並びにトコフェロールの同族体であるd−α−、d−β−、d−γ−及びd−δ−トコトリエノール等を含む混合物が挙げられる。
【0016】
本発明で言うところの総トコフェロールとは、d−α−、d−β−、d−γ−及びd−δ−トコフェロールの4種類のトコフェロールを指す。また、抽出トコフェロール中の総トコフェロールの含有量は、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「d−α−トコフェロール」の純度試験に記載された定量法に準じて測定される。
【0017】
本発明で用いられる抽出トコフェロール中の総トコフェロールの含有量に特に制限はないが、約40%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明で用いられる抽出トコフェロールは、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が約3%以下であることが好ましい。この比率は、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「d−α−トコフェロール」の純度試験に記載された定量法に準じて測定される。総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が約3%以下の抽出トコフェロールとしては、例えば、理研Eオイルスーパー60、理研Eオイルスーパー80、理研Eオイルゴールド80−5(商品名;理研ビタミン社製)等の市販の製品を用いることができる。
【0019】
また、本発明のフライ用油脂組成物に添加された抽出トコフェロールが「総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下」のものであるか否かは、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「d−α−トコフェロール」の純度試験に記載された定量法に準じて「総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率」を算出することにより判断することができる。
【0020】
本発明のフライ用油脂組成物中の上記抽出トコフェロールの含有量は、総トコフェロール量として通常約100〜5000ppm、好ましくは約200〜3000ppm、より好ましくは約200〜700ppmである。総トコフェロール量として100ppm未満であると、高温加熱下での油脂の劣化の抑制が不十分であり好ましくなく、5000ppmを越えると、高温加熱時に油脂の色調が変化しやすく好ましくない。
【0021】
なお、本発明のフライ用油脂組成物中の抽出トコフェロールの含有量は、「基準油脂分析試験法」(社団法人 日本油化学会編)の[2.4.10−2003 トコフェロール(蛍光検出器−高速液体クロマトグラフ法)]に基づき測定される。
【0022】
本発明で用いられるL−アスコルビン酸脂肪酸エステルは、L−アスコルビン酸に脂肪酸をエステル結合させたものであり、例えばL−アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル等が挙げられ、相対的に融点が低く油脂への添加・溶解が容易であり、またフライ用油脂組成物に安定性を付与する効果が比較的高いため、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステルが好ましく用いられる。L−アスコルビン酸パルミチン酸エステルとして、例えば、理研EC−100V(商品名;理研ビタミン社製)、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル(商品名;DSMニュートリションジャパン社製)等の市販の製品を用いることができる。
【0023】
また、上記総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が約3%以下の抽出トコフェロール及びL−アスコルビン酸脂肪酸エステルとして、これらが一剤化したものを用いることができ、例えば、理研EオイルCP−3(商品名;理研ビタミン社製)等の市販の製品を用いることができる。ここで、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルは比較的融点が高いため、本発明のフライ用油脂組成物の製造においてL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを食用油脂に添加するには、通常、予め食用油脂を100℃以上に加熱する必要がある。しかし、このような一剤化した製品であれば、約60〜80℃の加熱温度でも食用油脂に対して容易に均一に溶解するためL−アスコルビン酸脂肪酸エステルの添加が可能となる。
【0024】
本発明のフライ用油脂組成物中のL−アスコルビン酸脂肪酸エステルの含有量は、通常約5〜1000ppm、好ましくは約10〜500ppmである。5ppm未満であると、高温加熱下での油脂の劣化の抑制が不十分であり好ましくなく、1000ppmを越えると、高温加熱時に油脂の色調が変化しやすく好ましくない。
【0025】
なお、本発明のフライ用油脂組成物中のL−アスコルビン酸脂肪酸エステルの含有量は、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル」または「L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル」の定量法の記載に基づき測定される。
【0026】
本発明で用いられるクエン酸及びその誘導体としては、クエン酸、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル及びそれらの塩が挙げられ、油脂に対する溶解性の点でグリセリンクエン酸脂肪酸エステルが好ましく用いられる。グリセリンクエン酸脂肪酸エステルとしては、グリセリン1分子に対して脂肪酸1分子とクエン酸1分子がエステル結合したクエン酸モノグリセライド、グリセリン1分子に対して脂肪酸2分子とクエン酸1分子がエステル結合したクエン酸ジグリセライドまたはこれらの混合物等が挙げられる。
【0027】
また、グリセリンクエン酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数8〜20の脂肪酸、より好ましくは、炭素数16〜18の飽和または不飽和脂肪酸が挙げられ、具体的には、パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、α−リノレン酸などが好ましく挙げられる。これらの脂肪酸は、単独でもよく混合物であってもよい。上記グリセリンクエン酸脂肪酸エステルとしては、例えばグリセリンクエン酸オレイン酸エステル(商品名:ポエムK−37V;理研ビタミン社製)、グリセリンクエン酸ステアリン酸エステル(商品名:ポエムK−30;理研ビタミン社製)等の市販の製品を用いることができる。
【0028】
本発明のフライ用油脂組成物中のクエン酸及びその誘導体の含有量は、通常約10〜1000ppm、好ましくは約10〜500ppmである。10ppm未満であると、高温加熱下での油脂の劣化の抑制が不十分であり好ましくなく、1000ppmを越えると、逆に油脂の劣化を促進させるため好ましくない。
【0029】
なお、本明細書においてフライ用油脂組成物中のクエン酸及びその誘導体の含有量は、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「クエン酸」の定量法および/または「グリセリン脂肪酸エステル」の純度試験に記載に基づき測定される。
【0030】
本発明で用いられるリン脂質としては、油糧種子または動物原料から得られたもので、リン脂質を主成分とするものであれば特に制限はなく、例えば大豆レシチンおよび卵黄レシチンなど油分を含む液状又はペースト状レシチン、液状又はペースト状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン並びにレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチンまたは酵素処理レシチンなどが挙げられる。上記リン脂質としては、例えばフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸、リゾレシチンまたはリゾフォスファチジン酸などが挙げられる。レシチンは、1種類で用いてもよいし、2種類以上の混合物を用いてもよい。
【0031】
上記レシチンとしては、例えば、レシオンP、LP−1(商品名;理研ビタミン社製)、SLP−ペースト、SLP−ホワイト、SLP−ペーストリゾ、SLP−ホワイトリゾ、SLP−PC35、SLP−PC55、SLP−ペーストRD(商品名;辻製油社製)、ベイシスLP−20B、レシチンDX(商品名;日清オイリオグループ社製)、サンレシチンS(商品名;太陽化学社製)、エルキン、レシグラン、ボレック(商品名;光洋商会社製)等の市販の製品を利用することができる。
【0032】
本発明のフライ用油脂組成物中のリン脂質の含有量は、通常約5〜200ppm、好ましくは約6〜100ppmである。5ppm未満であると、高温加熱下での油脂の劣化の抑制が不十分であり好ましくなく、200ppmを越えると、高温加熱時に焦げやすく油脂の色調が変化しやすいため好ましくない。
【0033】
なお、本明細書においてフライ用油脂組成物中のリン脂質の含有量は、「基準油脂分析試験法」(社団法人 日本油化学会編)の「4.3.3.2−1996 リン脂質組成(高速液体クロマトグラフ法)」に基づき測定される値を意味する。
【0034】
本発明のフライ用油脂組成物は、食用油脂に、抽出トコフェロールを総トコフェロール量として100ppm以上、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを5ppm以上、クエン酸及び/又はその誘導体を10ppm以上、並びにリン脂質を5ppm以上添加し、約60〜120℃に加熱して混合溶解することより容易に製造することができる。
【0035】
なお、上記製造方法において、抽出トコフェロール及びL−アスコルビン酸脂肪酸エステルとして、これらが一剤化したものを添加する場合には、上記加熱温度は約60〜80℃でよいが、抽出トコフェロールとL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを別個に添加する場合には、該温度を約110〜120℃とすることが好ましい。
【0036】
また、本発明のフライ用油脂組成物には、所望により、カテキンおよび没食子酸等の酸化防止剤、シリコーン樹脂等を併用しても良い。
【0037】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
[キャノーラ油を用いたフライ用油脂組成物の製造]
(1)原材料
1)キャノーラ油(商品名:日清キャノーラ油;日清オイリオグループ社製)
2)抽出トコフェロールA(商品名:理研Eオイルスーパー60;総トコフェロール含有量54%;総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率2%;理研ビタミン社製)
3)抽出トコフェロールB(商品名:理研Eオイル600;総トコフェロール含有量58%、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率10%;理研ビタミン社製)
4)L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル(商品名:L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル;DSMニュートリションジャパン社製)
5)グリセリンクエン酸オレイン酸エステル(商品名:ポエムK−37V;理研ビタミン社製)
6)レシチン(商品名:レシチンDX;ペースト状;日清オイリオグループ社製)
7)製剤A(商品名:理研EオイルCP−3;総トコフェロール含有量60%;総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率2%;L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル含有量3.1%;理研ビタミン社製)
【0039】
(2)配合組成
上記原材料を用いて製造したフライ用油脂組成物(試料1〜11)の配合組成を表1に示す。この内、試料1〜3は本発明に係る実施例、試料4〜10はそれらに対する比較例であり、試料11は対照(抽出トコフェロール無添加)である。
【0040】
【表1】

【0041】
(3)製造方法
表1の配合組成に従い、全ての原材料を20L容アルミ製バケツに入れ、加熱して溶解しフライ用油脂組成物(試料1〜11)20kgを各々製造した。なお、試料3、7、9〜11の製造では加熱温度は60℃とし、それ以外の試料の製造では加熱温度を110℃とした。得られたフライ用油脂組成物について、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率、総トコフェロールの含有量、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステルの含有量、グリセリンクエン酸オレイン酸エステルの含有量及びレシチンの含有量を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
[フライ用油脂組成物の評価]
(1)フライテストの実施
20L容温度コントロール付ガス式フライヤー(型式:MXF−118TF;マルゼン社製)にフライ用油脂組成物(試料1〜11)20kgを入れ、市販の鶏もも唐揚(商品名;ニチレイ社製)500gを180〜190℃で7分間フライした。以後この作業を1時間毎に実施し、計8回のフライを1日目に行った。その翌日以降も1日目と同じ作業を行い、連続して7日間のフライテストを実施した。
【0044】
(2)酸価の測定
フライテストに使用した油脂組成物(試料1〜11)の各々について、加熱前並びに3日目、5日目及び7日目のフライ終了後に25gサンプリングして自然ろ過した後、「基準油脂分析試験法」(社団法人 日本油化学会編)の「2.3.1−1996 酸価」に基づき酸価を測定した。
【0045】
(3)極性化合物量の測定
フライテストに使用した油脂組成物(試料1〜11)の各々について、加熱前並びに3日目、5日目及び7日目のフライ終了後に25gサンプリングして自然ろ過した後、フライ油劣化測定器(商品名:PCテスター;住友スリーエム社製)を用いて極性化合物量(%)を測定した。
【0046】
(4)総トコフェロール残存率の算出
フライテストに使用した油脂組成物(試料1〜11)の各々について、加熱前及び7日目のフライ終了後に25gサンプリングして自然ろ過した後、「基準油脂分析試験法」(社団法人 日本油化学会編)の[2.4.10−2003 トコフェロール(蛍光検出器−高速液体クロマトグラフ法)]に基づき総トコフェロール含有量を測定し、下式により総トコフェロール残存率を算出した。
【0047】
【数1】

【0048】
(5)結果
上記(2)の酸価の測定、(3)の極性化合物量の測定及び(4)の総トコフェロール残存率の算出について結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3から明らかなように、実施例のフライ用油脂組成物(試料1〜3)は、7日目のフライテストが経過しても比較例及び対照のフライ用油脂組成物(試料4〜11)に比べて、酸価、極性化合物量及び総トコフェロール残存率が低く、また総トコフェロール残存率が高いものであった。
【実施例2】
【0051】
[パーム油を用いたフライ用油脂組成物の製造]
(1)原材料
1)パーム油(商品名:食用パーム油;ミヨシ油脂社製)
2)抽出トコフェロールA(商品名:理研Eオイルスーパー60;総トコフェロール含有量54%;総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率2%;理研ビタミン社製)
3)抽出トコフェロールB(商品名:理研Eオイル600;総トコフェロール含有量58%、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率10%;理研ビタミン社製)
4)L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル(商品名:L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル;DSMニュートリションジャパン社製)
5)グリセリンクエン酸オレイン酸エステル(商品名:ポエムK−37V;理研ビタミン社製)
6)レシチン(商品名:レシチンDX;ペースト状;日清オイリオグループ社製)
7)製剤A(商品名:理研EオイルCP−3;総トコフェロール含有量60%;総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率2%;L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル含有量3.1%;理研ビタミン社製)
【0052】
(2)配合組成
上記原材料を用いて作製したフライ用油脂組成物(試料12〜22)の配合組成を表4に示す。この内、試料12〜14は本発明に係る実施例、試料15〜21はそれらに対する比較例であり、試料22は対照(抽出トコフェロール無添加)である。
【0053】
【表4】

【0054】
(3)製造方法
表4の配合組成に従い、全ての原材料を2L容ステンレス製ビーカーに入れ、加熱して溶解しフライ用油脂組成物(試料12〜22)1.2kgを各々製造した。なお、試料14、18、20〜22の製造では加熱温度は60℃とし、それ以外の試料の製造では加熱温度を110℃とした。得られたフライ用油脂組成物について、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率、総トコフェロールの含有量、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステルの含有量、グリセリンクエン酸オレイン酸エステルの含有量及びレシチンの含有量を表5に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
[フライ用油脂組成物の評価]
(1)フライテストの実施
電気フライヤー(型式:EP−D692S;ツインバード工業社製)にフライ用油脂組成物(試料12〜22)1kgを入れ、市販の冷凍フライドポテト(商品名:シューストリング;ハインツ日本社製)50gを180〜190℃で3分間フライした。最初のフライ終了後、油温の回復を待って2回目以降のフライを行い、計8回のフライを1時間目に実施した。2時間目以降も同じ作業を行い、連続して8時間のフライテストを実施した。
【0057】
(2)酸価の測定
フライテストに使用した油脂組成物(試料12〜22)の各々について、加熱前並びに3時間目、5時間目及び8時間目のフライ終了後に25gサンプリングして自然ろ過した後、「基準油脂分析試験法」(社団法人 日本油化学会編)の「2.3.1−1996 酸価」に基づき酸価を測定した。
【0058】
(3)極性化合物量の測定
フライテストに使用した油脂組成物(試料12〜22)の各々について、加熱前並びに3時間目、5時間目及び8時目のフライ終了後に25gサンプリングして自然ろ過した後、フライ油劣化測定器(商品名:PCテスター;住友スリーエム社製)を用いて極性化合物量(%)を測定した。
【0059】
(4)臭気成分の測定
フライテストに使用した油脂組成物(試料12〜22)の各々について、8時間目のフライ終了後に、フライ油の劣化により生じた臭気成分を「ヘッドスペースソープティブエクストラクション法」により測定した。
先ず、20mLヘッドスペースバイアル(GLScience社製)にサンプル2gを入れ、その中にTwister(GERSTEL社製;100%ポリジメチルシロキサン(PDMS)をコーティングさせた攪拌子;膜厚0.5mm;長さ10mm)を1本入れてシリコンマグネティックキャップ(GLScience社製)で蓋をし、30℃で12時間放置して臭気成分を吸着させた。
次いで、このTwisterをバイアルから取り出し、加熱脱着装置(形式:TDU;GERSTEL社製)にセットしてGC/MS装置による分析に供した。GC/MS分析条件を以下に示す。
【0060】
[GC/MS分析条件]
測定機器:GC装置(形式:6890;Agilent Technologies社製)
MS装置(形式:5975;Agilent Technologies社製)
カラム:DB−WAXETR(J&W社製、30m×0.25mmI.D.×0.25μmdf)
温度プログラム:40℃で5分間保持後、5℃/分の速度で220℃まで昇温
注入モード:ソルベントベントモード
キャリアガス:ヘリウム、流速1.7mL/分
スキャンモード:EI 70eV
【0061】
上記GC/MS分析後、データ処理装置によりクロマトグラム上に記録された各臭気成分に対応するピークについて、積分計を用いてピーク面積を測定した。対照のフライ用油脂組成物(試料22)の臭気成分のピーク面積を基準として、実施例および比較例のフライ用油脂組成物(試料12〜21)の臭気成分の各々ついて下式によりピーク面積相対値(%)を求めた。
【0062】
【数2】

【0063】
(5)結果
上記(2)酸価の測定および(3)の極性化合物量の測定結果を表6に、上記(4)の臭気成分の測定結果を表7に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
表6から明らかなように、実施例のフライ用油脂組成物(試料12〜14)は、8時間のフライテストが経過しても比較例及び対照のフライ用油脂組成物(試料15〜22)に比べて、酸価、極性化合物量が低いものであった。
【0066】
【表7】

【0067】
表7から明らかなように、実施例のフライ用油脂組成物(試料12〜14)は、フライテスト開始から8時間が経過しても比較例のフライ用油脂組成物(試料15〜21)に比べて臭気成分のピーク面積相対値(%)は小さく、劣化臭の発生が抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のフライ用油脂組成物は、即席油揚げ麺、スナック菓子、ドーナツ、揚げパン、油揚げ、厚揚げ、がんもどき、さつま揚げ、はんぺん、とんかつ、コロッケ、鶏の唐揚げ、フライドポテト、天ぷら等の揚げ油として好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロール、L−アスコルビン酸脂肪酸エステル、クエン酸及び/又はその誘導体並びにリン脂質を含有することを特徴とするフライ用油脂組成物。
【請求項2】
食用油脂に、総トコフェロールに対するd−α−トコフェロールの比率が3%以下である抽出トコフェロールを総トコフェロール量として100ppm以上、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを5ppm以上、クエン酸及び/又はその誘導体を10ppm以上、及びリン脂質を5ppm以上添加することを特徴とするフライ用油脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−139175(P2012−139175A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294383(P2010−294383)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】