説明

フラックス入り溶接ワイヤの製造方法

【課題】 フラックス入り溶接ワイヤのワイヤ表面に存在する潤滑剤成分から発生する拡散性水素量を格段に低減させることができる、フラックス入り溶接ワイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】 揮発性液体潤滑剤に、固体潤滑剤を、質量%で5〜40%含有させた混合液体を、フラックス入り溶接ワイヤ製造工程における伸線工程の一部または全部対して潤滑剤として用い、伸線工程終了後、混合液体の揮発性液体潤滑剤成分を揮発させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス入り溶接ワイヤの製造方法に関するもので、より詳しくは、溶接部に発生する低温割れの主原因である拡散性水素量の低減を有利に達成できるフラックス入り溶接ワイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接構造物の信頼性は、溶接継手の信頼性で決定されているといっても過言ではない。そのため、溶接部に欠陥が存在する場合は、構造物全体の信頼性に多大な影響を与えるため、その発生防止には、多くの注意が払われてきた。
【0003】
溶接部に発生する代表的欠陥の1つとして低温割れがある。そして、低温割れの主原因の1つに、溶接時に導入される拡散性水素がある。その拡散性水素量の発生源として、溶接ワイヤの表面に存在する潤滑剤がある。そのため、低温割れを防止する観点からは、この潤滑剤をできるだけ少なくすることが望ましい。しかし、溶接ワイヤの潤滑剤を完全に除去してしまうと、溶接時のワイヤ送給性に問題が発生し、これが原因となって、低温割れ以外の欠陥を生じさせてしまう危険性がある。そのため、ワイヤ送給性を犠牲にせずに、拡散性水素量を低減できる方法が望まれている。
【0004】
拡散性水素量の低減は、特に、高張力鋼の溶接において重要な意味を持ってくる。一般に、高張力鋼は、軟鋼と比べて低温割れを起こしやすい鋼材で、低温割れを防止するために、予熱を実施する場合が多い。しかし、予熱は作業負荷が大きく、溶接構造物の製造コストを増加させるため、予熱をできるだけ低減する方法が望まれている。このような背景から、高張力鋼の溶接においては拡散性水素量を低減しやすいソリッドワイヤが多く用いられている。それに対して、水素低減対策が取りにくいフラックス入り溶接ワイヤは、高張力鋼の溶接に関しては、ソリッドワイヤほど適用されているわけではない。
【0005】
一方、フラックス入り溶接ワイヤには、ソリッドワイヤにない特徴、例えば、溶接作業性が良好で、全姿勢溶接などが容易に達成できるなどの特徴がある。このような溶接作業性は、ワイヤにフラックスを充填しているという、フラックス入り溶接ワイヤの構造的特徴からくるものである。フラックスそのものは水素源を含有しているが、ソリッドワイヤに対するフラックス入りワイヤのメリットは、フラックスの配設場所により確保されているため、フラックス以外の水素源であるワイヤ表面に存在する潤滑剤に着目することは、溶接構造物が高張力鋼化の方向に進んでいる現在では、当然の流れと考えられる。
【0006】
フラックス入りワイヤの水素低減技術としては、特許文献1に示されているような、硫黄系固体潤滑剤をワイヤ伸線工程に用い、かつ、インラインにて、塗布された潤滑剤を物理的に除去する工程を必須条件とした技術が開示されている。この技術によれば、塗布された潤滑剤を物理的に除去する工程を設定しているため、水素量低減が達成されるが、ワイヤ製造工程がより多くなることによるワイヤ製造コスト増、かつ、潤滑剤として硫黄系固体潤滑剤に限定しているため、ワイヤ製造時における潤滑剤の流動性に問題が生じる、などの問題がある。
【0007】
固体潤滑剤と液体潤滑剤の併用技術に関しては、特許文献2に、固体潤滑剤の上に液体潤滑剤を塗布する技術が、特許文献3に、大径域で固体潤滑剤を用い、細径域で液体潤滑剤を用い、中間径域で固体または液体潤滑剤を任意に選択する技術が開示されている。しかし、特許文献2および3の技術では、低水素化がどの程度達成されるかの記載は一切ない。
【0008】
このように、従来技術では、効率よくフラックス入りワイヤの低水素化を実現できるワイヤ製造方法は、まだ実現できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−074438号公報
【特許文献2】特開2001−179481号公報
【特許文献3】特開平06−015485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
拡散性水素の低減は、高張力鋼への適用を考える上で、大変重要な問題であるため、本発明者らは、フラックス入り溶接ワイヤの拡散性水素量を低減する方法を鋭意研究してきた。本発明は、ワイヤ中のフラックス(作業性確保に必須)が含有している拡散性水素量ではなく、ワイヤ表面の潤滑剤に着目し、これによる拡散性水素量の増加分を減らす方法に着目した。フラックス入り溶接ワイヤが含有しているフラックスの量を低減させれば、拡散性水素量を少なくすることができるが、この方法では、作業性を犠牲にすることをも意味する。ワイヤ表面に存在する潤滑剤に着目したのは、このような理由による。
【0011】
そこで、本発明は、ワイヤ送給性およびワイヤ製造効率を犠牲にすることなしに、ワイヤ潤滑剤が発生原因となる拡散性水素量を格段に低減できるフラックス入り溶接ワイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、以上の観点から、ワイヤ潤滑剤と拡散性水素量の関係に関して鋭意研究してきた。そして、ワイヤ潤滑剤が発生原因となる拡散性水素量を格段に低減し、かつ、ワイヤ送給性およびワイヤ製造効率を犠牲にしない、フラックス入り溶接ワイヤの製造方法を見出すに至った。本発明は、このような研究によってなされたものであり、その発明の要旨は以下のとおりである。
【0013】
(1) 鋼製外皮にフラックスを充填した溶接用フラックス入り溶接ワイヤの製造方法において、伸線工程でワイヤ径まで伸線を実施するに際し、伸線工程の一部または全部に対して揮発性液体潤滑剤に固体潤滑剤を質量%で5〜40%混合させた潤滑溶液を、また、残りの伸線工程がある場合はその伸線工程に対して揮発性液体潤滑剤を、ワイヤに塗布して伸線工程を終了させ、その後、揮発性液体潤滑剤成分のみワイヤ表面から揮発させ、ワイヤ表面に固体潤滑剤を残留させることを特徴とする、フラックス入り溶接ワイヤの製造方法。
【0014】
(2) 前記伸線工程のうち、少なくとも1回のローラーダイスを用いる伸線工程が含まれることを特徴とする、上記(1)に記載のフラックス入り溶接ワイヤの製造方法。
【0015】
(3) 前記固体潤滑剤として、二硫化モリブデン、グラファイトのうちの1種または2種を混合させたものを用いることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のフラックス入り溶接ワイヤの製造方法。
【0016】
(4) 揮発性液体潤滑剤と固体潤滑剤を混合させた前記潤滑溶液を塗布する前のワイヤは、Cuめっきが施されていることを特徴とする、上記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載のフラックス入り溶接ワイヤの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フラックス入り溶接ワイヤの拡散性水素量を格段に低減でき、これまで適用が難しかった高張力鋼用のフラックス入り溶接ワイヤを実現できるため、産業上の意義はきわめて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0019】
フラックス入り溶接ワイヤに塗布される潤滑剤の働きは、大きく2種類に区分される。すなわち、ワイヤ製造時のワイヤ線引き抵抗の低減と、溶接時のワイヤ送給するときに発生する送給抵抗の低減である。
【0020】
一方、ワイヤ表面の潤滑剤は、潤滑油に代表されるような液体潤滑剤のものと、二硫化モリブデンに代表される固体潤滑剤に区別される。固体潤滑剤は、水素が含有されていないものがあり、拡散性水素量低減の観点からは好ましい。しかし、固体潤滑剤は、液体ではないため、ワイヤに塗布することが難しい、流動性が液体潤滑剤ほど高くはないためにワイヤ線引き中のダイス引きの際に潤滑剤が効率よくダイスとワイヤの間に入っていかない、などの問題があり、ワイヤ製造時には液体潤滑剤を用いたほうが効率よい場合が多い。しかし、液体潤滑剤がワイヤ表面に残存してしまうと、拡散性水素量の低減が達成できないという問題が生じる。
【0021】
そこで、本発明では、揮発性の液体潤滑剤に固体潤滑剤を混入させた混合溶液をフラックス入り溶接ワイヤに塗布することとした。これにより、ワイヤ伸線工程後には、液体潤滑剤成分のみ揮発するため、固体潤滑剤がワイヤ表面に残存し、この固体潤滑剤で、溶接時のワイヤ送給性を確保することができる。また、揮発性液体潤滑剤を用いることで、ワイヤ伸線後に、低拡散性水素を達成させるために、ワイヤ脱脂を必ずしも行う必要がなく、ワイヤ製造効率向上の観点からも好ましい。また、固体潤滑剤を単独に用いる場合より流動性が高くなるため、伸線工程において、効率よくワイヤとダイスの間に潤滑剤を導入することができるため、ワイヤ製造中の断線問題も解決することができる。なお、本発明における揮発性液体潤滑剤は、その用途から特に潤滑剤として選択すべき物質を限定するものではない。また、本発明における揮発性とは、室温環境下で保持する条件下で残存せず、ワイヤ表面から散逸してしまうものをいう。揮発性液体潤滑剤としては、常温または低温加熱で散逸する揮発性液体潤滑剤であれば良く、多数の企業から市販されている揮発性液体潤滑剤を用いることができる。
【0022】
一方、単に伸線工程の効率を確保するためには、固体潤滑剤を含有しない揮発性液体潤滑剤を用い、伸線工程終了後に、その混合液体を塗布すればよいことになる。しかし、本発明は、一部または全部のワイヤ伸線工程に対して、揮発性の液体潤滑剤に固体潤滑剤を混入させた混合溶液を使用することを特徴としている。その理由は、伸線工程における圧延効果により、固体潤滑剤がワイヤ表面に埋め込まれる効果を利用する点にある。これにより、液体潤滑剤を揮発させた後でも、固体潤滑剤がワイヤ表面に定着し、溶接時のワイヤ送給性を確保することができる。この圧延効果がない場合は、液体潤滑剤が揮発した後には、固体潤滑剤をワイヤ表面に固着させる力がなくなることになる。この場合、ワイヤから固体潤滑剤が剥がれ落ちる場合もあり、ワイヤ送給性確保の観点から問題が発生する。
【0023】
本発明では、固体潤滑剤の割合を質量%で5〜40%と設定している。下限の5%は、これを下回る量の添加では、液体潤滑剤を単独で用いた場合と大差なく、ワイヤ送給性が確保できないことからこの値を設定した。上限の40%を設定した理由は2つある。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデンやグラファイトなど、溶接金属に導入されると溶接割れや靭性値の問題が発生する成分を多く含有しているものが多い。そのため、固体潤滑剤の使用量としては、これら問題が発生しない程度の量とする必要がある。2つ目の問題は、固体潤滑剤の含有比率が高くなりすぎると、混合溶液の流動性が充分ではなくなり、伸線工程でダイスとワイヤの隙間に潤滑剤が充分入り込まないという問題が生じる。上限の40%は、このような問題を回避できる最大値として設定した。
【0024】
本発明では、伸線工程に用いるダイスは、ローラーダイスとすることが望ましい。この理由は、ローラーダイスを用いることにより、通常の伸線ダイスより効率よく固体潤滑剤を含有する潤滑溶液をワイヤとダイスの隙間に導入することができ、ワイヤ表面に効率よく固体潤滑剤を残存させることができるためである。
【0025】
本発明では、固体潤滑剤として、二硫化モリブデン、グラファイトのいずれか一方、またはその両方を混合させたものを用いることが望ましい。一般に、固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイトのほかに、二硫化タングステン、窒化ホウ素などの粉末などが知られている。しかし、これら固体潤滑剤は高価なものが多く、かつ、本発明における固体潤滑剤の働きは、ワイヤ送給性の確保だけであるため、二硫化モリブデン、グラファイトのいずれか一方、またはその両方を混合させたものを用いることが望ましい。
【0026】
本発明では、揮発性液体潤滑剤に固体潤滑剤を含有させた混合溶液をワイヤに塗布する前に、ワイヤ表面にCuめっきが施されていることが望ましい。この理由は、拡散性水素量を低減させるために、ワイヤ表面の液体潤滑剤成分を揮発させるため、ワイヤがさびる可能性があるためである。さびが発生する前に溶接を完了させれば、拡散性水素量が増加する心配はない。しかし、溶接構造物の製造スケジュールによっては、溶接を実施するタイミングが、必ずしもワイヤのさび防止の観点から決定されるものではない。また、さびが発生しないようにワイヤ保管管理を厳しくすればこの問題を解決することも可能であるが、保管管理を厳しくすることは、溶接構造物の製造コスト増加につながる。これらの点を解決する手段として、ワイヤにCuめっきをすることが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0028】
フラックス入り溶接ワイヤの製造プロセスは以下の通りである。
【0029】
板厚1.0mm、幅15mmの薄鋼板を用意し、これを圧延ローラーで順次平板からU形に成型していく。U形の状態になった時点で、フラックスを充填した。このときのフラックスは、汎用570MPa級鋼用のフラックスであり、JIS Z3313のYFW−C60FRに準拠するものである。なお、フラックスは、事前に750℃で熱処理を施したもので、フラックス中の湿度等はできるだけ排除し、潤滑剤の影響が精度よく比較できるようにした。その後、さらに圧延ローラーで成型していき、チューブ状態になったところで、合わせ面をTIG溶接にて接合した。その後、直径が3.6mmになるまで伸線を実施した。3.6mmになった時点で、Cuめっきを行った。その後、さらに直径が1.2mmになるまで伸線工程を実施した。同様の工程で、Cuめっきを省いた製造プロセスでもフラックス入り溶接ワイヤを作製した。
【0030】
フラックス入り溶接ワイヤの作製時に用いた潤滑剤は、市販の揮発性液体潤滑剤に市販の固体潤滑剤を含有させたもので、潤滑剤の種類とその混合割合については、表1に記載した。表1における、揮発性液体潤滑剤はスギムラ化学工業株式会社製S−106J を用いており、また、不揮発性潤滑剤としてはジャパンエナジー社製、JOMOシリコングリースを用いた。なお、本発明における混合割合とは、混合溶液全体に対する固体潤滑剤の質量%である。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の混合溶液を用いて、JIS Z3118に記載されている拡散性水素量測定方法に従って、ガスクロマトグラフ法で測定した結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2では、ワイヤ製造時の、全伸線工程に対して表1に示す混合溶液を潤滑剤として使用した場合を丸1とした。また、直径3.6mmまでの伸線工程に対して固体潤滑剤を混合させる前の液体潤滑剤、すなわち100%液体潤滑剤のものを使用し、その後、表1の混合割合に従って固体潤滑剤を混ぜた混合溶液を使用した場合を丸2としている。この理由は、固体潤滑剤をワイヤ表面に残存させる目的は、ワイヤ製造後の送給性確保のためであり、必ずしもワイヤ製造工程の効率向上ではないことからくる。すなわち、最終的に固体潤滑剤を残す製造工程は、必ずしも最初から混合潤滑剤を用いる必要性があるわけではないことからくる。また、ワイヤ製造後に、揮発性液体潤滑剤のみ散逸させる方法としては、1日程度放置すれば特段な対策をとる必要はないが、加速的に散逸させる場合は、50℃程度に保てばよい。本実施例では、1日放置した。
【0035】
拡散性水素量を測定するときには、コンジットケーブルの長さを6mと一定にし、かつ、コンジットケーブルを直径50cmの柱に1回巻きつけた状態で溶接を実施し、そのときの拡散性水素量を測定した。コンジットケーブルを柱に巻きつけた理由は、コンジットケーブル内のワイヤとコンジットケーブルとの間の摩擦をわざと大きくして、ワイヤ送給性が良好であるかどうかを観察しやすくするためである。ワイヤ送給性が不良の場合は、溶接条件に対して、適切なワイヤ送給ができなくなるため、溶接ビードが乱れてくる。これにより、ワイヤ送給性を評価した。
【0036】
表2の試験結果からわかるように、本発明例では、拡散性水素量が全て2ml/100gを下回っていることが理解できる。それに対して試験No.1は、固体潤滑剤の混合割合が本発明の範囲より下回っており、液体潤滑剤を揮発させた後の、ワイヤ表面に存在する固体潤滑剤の量が不十分であったため、ワイヤ送給性に問題が生じ、ビードが乱れた場合である。試験No.11、およびNo.12は、混合割合が本発明の範囲を上回った場合で、混合液体の流動性に問題が発生したものである。試験No.11では、ワイヤの伸線工程は通過できたが、流動性が悪い固体潤滑剤成分がワイヤとダイスの間を効率よく入り込まなかったため、ワイヤ表面に固体潤滑剤が充分付着せず、ワイヤ送給性に問題が生じた。試験No.12では、ワイヤ伸線時に断線が生じた。試験No.13〜19に関しては、ワイヤ製造時の伸線工程、溶接時のワイヤ送給性、共に良好であったが、液体潤滑剤が不揮発性であったため、拡散性水素量は全て3ml/100gを上回っており本発明例よりはるかに高い値になっている。試験No.23およびNo.26は、固体潤滑剤をMoSからグラファイトおよびWS2に換えたときの不揮発性液体潤滑剤を用いた時の実施例であるが、試験No.13〜19と同じように、拡散性水素量は本発明例の場合より高い。なお、固体潤滑剤の範囲としては、その下限は、揮発性潤滑剤を揮発させた後の潤滑性をより確保するために、好ましくは10%以上とし、また、その上限は、ワイヤ製造上の効率を考慮し好ましくは30%以下とすることが望ましい。
【0037】
以上のように、本発明のワイヤ製造方法によれば、拡散性水素量は従来の製造方法より低くできることができ、溶接部の低温割れ感受性防止にきわめて影響の大きい、拡散性水素量を低減することができる。これにより、本発明は、産業上のメリットが極めて大きいことが明白となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製外皮にフラックスを充填した溶接用フラックス入り溶接ワイヤの製造方法において、伸線工程で所定のワイヤ径まで伸線を実施するに際し、伸線工程の一部または全部に対して揮発性液体潤滑剤に固体潤滑剤を質量%で5〜40%混合させた潤滑溶液を、また、残りの伸線工程がある場合はその伸線工程に対して揮発性液体潤滑剤を、ワイヤに塗布して伸線工程を終了させ、その後、揮発性液体潤滑剤成分のみワイヤ表面から揮発させ、ワイヤ表面に固体潤滑剤を残留させることを特徴とする、フラックス入り溶接ワイヤの製造方法。
【請求項2】
前記伸線工程のうち、少なくとも1回のローラーダイスを用いる伸線工程が含まれることを特徴とする、請求項1に記載のフラックス入り溶接ワイヤの製造方法。
【請求項3】
前記固体潤滑剤として、二硫化モリブデン、グラファイトのうちの1種または2種を混合させたものを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のフラックス入り溶接ワイヤの製造方法。
【請求項4】
揮発性液体潤滑剤と固体潤滑剤を混合させた前記潤滑溶液を塗布する前のワイヤは、Cuめっきが施されていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフラックス入り溶接ワイヤの製造方法。

【公開番号】特開2011−152571(P2011−152571A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15942(P2010−15942)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)