説明

フラン化合物の製造方法

【課題】フルフラール化合物からフラン化合物を製造するにあたり、触媒の活性が経時的に低下することを抑制し、安定的にフルフラール化合物を転化せしめて、高効率にフラン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】フラン化合物の製造方法を、フルフラール化合物原料を、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素、および、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒の存在下で脱カルボニル反応させる工程を備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルフラール化合物からフラン化合物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フランはテトラヒドロフランやピロール、チオフェン等の製造原料に用いることができる有用な中間体化学品であり、フルフラールの脱カルボニル反応により製造される。フルフラールは通常は石油由来の原料ではなく、植物に含まれるヘミセルロース分であるペントザンより製造されるため、誘導されるフランも石油原料由来ではなく植物原料由来の化学品に分類される。
【0003】
フルフラールからフランを製造する方法は古くから知られているが(特許文献1など)、植物由来の原料から効率的に化学品を得る方法として、特に触媒を用いた脱カルボニル反応によるフランの製造方法についての研究開発が行われている(特許文献2、非特許文献1)。フルフラールから脱カルボニル反応によりフランを製造する方法は大きく分けて二つの方法が知られている。一つは、Zn−Cr−Mn、Zn−Cr−Fe複合酸化物のような酸化物触媒を用いる方法(特許文献3など)であり、もう一つは、担持貴金属触媒を用いる方法である。後者の方法は、触媒が比較的低い反応温度でも活性を示すことから、この後者の方法を採用した液相反応(特許文献4、非特許文献2)によるフランの製造方法が提案されている。また、前者の方法と同様に後者の方法において、気相流通反応(特許文献2、非特許文献1、特許文献5)によるフランの製造方法も提案されている。
【特許文献1】米国特許第2,337,027号公報
【特許文献2】米国特許第4,780,552号公報
【特許文献3】米国特許第2,374,149号公報
【特許文献4】米国特許第3,257,417号公報
【特許文献5】米国特許第3,223,714号公報
【非特許文献1】Tianranqi Huagong 2002,27,9
【非特許文献2】Biomass, 16(1988),89
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒の存在下でフルフラールの脱カルボニル反応によってフランを一段で製造する方法の問題点は、連続的に反応を実施した場合に触媒の活性が経時的に大きく低下することである。触媒の活性が経時的に低下する理由については、必ずしも明らかではない。触媒活性が経時的に低下すれば、フルフラールの転化率が低下し単位時間あたりに製造されるフランの量が減少することで工業プロセスの効率が低下する。また、反応しなかったフルフラールの分離回収や廃棄、あるいはリサイクル使用などの課題も生じる。
【0005】
触媒の活性が経時的に大きく低下する場合、フルフラール転化率を維持してフランを安定的に製造するためには、触媒の量を暫時増量するかあるいは反応温度を暫時上昇させることによって補わなくてはならない。触媒の入れ替えや再生処理の頻度が多くなれば工業プロセスの操業は難しくなる。このような理由から、安定的かつ高効率にフランを製造するために、より活性低下が少ない触媒が求められていた。
【0006】
従来、活性低下が抑制された触媒や失活した触媒の再生に関する多くの技術が提案されてきた。例えば液相反応においては、従来PdやPtといった金属をカーボンに担持させた触媒、また気相流通反応においては、PdやPtといった金属をアルミナ担体に担持した触媒を用いることにより反応を行っている。しかし、未だに触媒寿命は十分ではなく、工業的に実施するには経済性の面で必ずしも満足し得るものではなかった。また触媒の活性が低下した際、焼成処理等による再生をはかることがある。フルフラール化合物の脱カルボニル化反応を液相で行う場合において提案されている活性炭、シリカ等の担体では、焼成処理による再生を施す場合に再生処理条件において担体が燃焼する、あるいは担持金属のシンタリングや担体の細孔閉塞をおこすといった課題があり、元の活性を得ることが困難である。
【0007】
そこで、本発明は、フルフラール化合物からフラン化合物を製造するにあたり、安定的にフルフラール化合物を転化せしめて、高効率にフラン化合物を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはフルフラール化合物の脱カルボニル反応によりフラン化合物を製造するための触媒を鋭意検討した結果、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素、および、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒の存在下で、フルフラール化合物の脱カルボニル反応を行うと、長時間にわたり高効率かつ安定的にフラン化合物が得られることを見出し、以下の本発明に到達した。
【0009】
本発明は、フルフラール化合物原料を、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素、および、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒の存在下で脱カルボニル反応させる工程を備えた、フラン化合物の製造方法である。ここで、フルフラール化合物原料とは、原料全体を基準(100質量%)として、フルフラール化合物を、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは、98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上含有することをいう。このような触媒を使用してフルフラール化合物原料の脱カルボニル反応を行うことにより、触媒活性の経時的な低下が小さく、長時間にわたり高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造することが可能となる。また、触媒に付着するコークの量が減少するので、長期間連続して触媒が使用可能となり、触媒の再生や入れ替えの頻度を低減させることができる。
【0010】
本発明において、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素は、PdまたはPtであることが好ましく、Pdであることが特に好ましい。このような好ましい形態の金属元素を含有する触媒を使用することで、より効率的に脱カルボニル反応を行うことができる。
【0011】
本発明において、脱カルボニル反応させる工程は、あらかじめ気化させたフルフラール化合物のガス状原料を、前記触媒に接触させて脱カルボニル反応を行う工程(以下、「気相流通反応」という場合がある。)を含むものであることが好ましい。気化したフルフラール化合物原料を触媒に接触させることにより、より効率的に脱カルボニル反応を行うことができる。
【0012】
本発明において、触媒中には、触媒全体の質量を100質量%としたとき、1、2、6、13族元素から選ばれる少なくとも1種類の元素を0.01質量%以上50質量%以下含まれることが好ましい。このような元素を含有させることで、触媒の性能や安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、特定の触媒を使用してフルフラール化合物原料の脱カルボニル反応を行うことにより、触媒活性の経時的な低下が小さく、長時間にわたり高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造することが可能となる。また、触媒に付着するコークの量が減少するので、長期間連続して触媒が使用可能となり、触媒の再生や入れ替えの頻度を低減するとともに、焼成による触媒再生において、活性成分のシンタリングや 細孔閉塞による触媒の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明は、フルフラール化合物原料を、特定の触媒の存在下で脱カルボニル反応させる工程を備えた、フラン化合物の製造方法である。以下、まず、フルフラール化合物とフラン化合物について説明する。
【0015】
<フルフラール化合物>
本発明のフラン化合物の製造方法で使用される原料のフルフラール化合物としては、特に制限されず、公知のフルフラール化合物を使用することができる。フルフラール化合物とは下記一般式(1)で示される化合物をいう。
【0016】
【化1】

【0017】
上記一般式(1)において、R、R、Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、例えば、水素、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、官能基を有していてもよい芳香族炭化水素基、水酸基、アルデヒド基等の種々の官能基が挙げられ、具体的には、−H、−CHOH、−CH、−CHO等が挙げられる。フルフラール化合物の具体例としては、ヒドロキシメチルフルフラール、2−メチルフルフラール、3−メチルフルフラール、フルフリルジアルデヒド、フルフラールが好ましい例として挙げられ、中でも特にフルフラールが好適である。
【0018】
<フラン化合物>
本発明のフラン化合物の製造方法で得られるフラン化合物は、特に制限されず、公知のフラン化合物である。フラン化合物とは下記一般式(2)〜(6)で示される化合物をいう。
【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
、R、Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、例えば、水素、官能基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、官能基を有していてもよい芳香族炭化水素基、水酸基等の種々の官能基が挙げられ、具体的には、−H、−CHOH、−CH、−CHO等が挙げられる。フラン化合物の具体例としては、2−メチルフラン、3−メチルフラン、フラン、ジヒドロフラン、フルフリルアルコール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフルフリルアルコールが挙げられ、特にフランが好適である。
【0025】
<フルフラール化合物原料>
本発明では、フルフラール化合物原料を、特定の触媒の存在下で脱カルボニル反応させる。ここで、フルフラール化合物原料とは、原料全体を基準(100質量%)として、フルフラール化合物が、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは、98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上含まれていることをいう。
【0026】
原料の製造法は特に限定されないが、植物由来原料の水熱処理や酸による加水分解によって得ることができる。
【0027】
本発明においては、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素および8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒の存在下でフルフラール化合物原料の脱カルボニル反応を行いフラン化合物を得る。このような触媒を用いることによって、フルフラール化合物からフラン化合物を製造するにあたり、触媒活性の経時的な低下が抑制され、長時間にわたり高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造することが可能となる。
【0028】
フルフラール化合物の純度は、上記フルフラール化合物原料の定義に記載した通りであるが、フルフラール化合物原料に含まれる不純物を除去することによって、本発明の触媒の経時的な活性低下はさらに抑制されるため、より安定的かつ高効率にフラン化合物を製造することができる。フルフラール化合物原料に含まれる不純物のうち、硫黄もしくは硫黄化合物、窒素化合物、および各種の酸を低減すると高い効果が得られる。特に気相流通反応においては、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素、および、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒を使用した場合に、フルフラール化合物やフラン化合物が触媒上でコークとなることが少ないので、これらの不純物が直接触媒に蓄積あるいは、反応サイトをブロックする可能性があるため、これらの不純物を減らすことにより、より長時間、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造することができる。
【0029】
フルフラール化合物原料に含まれる硫黄もしくは硫黄化合物の形態は特に限定されないが、価数としてはS、S2−あるいはS6+(SOx)の硫黄成分が挙げられる。より具体的には、システイン等のアミノ酸、該アミノ酸を含むたんぱく質、チオール基、スルフヒドリル基、スルフィド基、ジスルフィド基を有する化合物、Sを骨格に持つ芳香環化合物、硫酸、スルホン酸およびそれらの塩、亜硫酸および亜硫酸塩、あるいは錯塩が挙げられる。フルフラール化合物原料に含まれる硫黄、もしくは硫黄化合物の量は、硫黄の濃度として、通常50ppm以下、好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下、特に好ましくは6.0ppm以下である。これらの硫黄含有成分が硫黄の濃度として 50ppm以下に制御されたフルフラール化合物原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、本発明の触媒の経時的な活性低下はさらに小さくなる。フルフラール化合物原料中に含まれる硫黄もしくは硫黄化合物の量の分析法は、特に限定されないが、例えば、燃焼−吸収−イオンクロマト法により硫黄元素濃度として定量できる。
【0030】
フルフラール化合物原料に含まれる窒素化合物の形態は特に限定されないが、価数としては、N3−あるいはN5+、N3+の窒素成分が挙げられる。より具体的にはアンモニア、アミン類およびその塩類、種々のアミノ酸、たんぱく質、Nを骨格に持つ芳香環化合物、硝酸および硝酸塩、亜硝酸および亜硝酸塩、あるいは錯塩である。フルフラール化合物原料に含まれる窒素化合物の量は、窒素原子の濃度として、通常50ppm以下、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは4.0ppm以下である。これらの窒素含有成分が窒素の濃度として50ppm以下に制御されたフルフラール原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、本発明の触媒の経時的な活性低下はさらに小さくなる。フルフラール化合物原料中に含まれる窒素化合物の量の分析法は、特に限定されないが、例えば、燃焼分解−化学発光法によって窒素元素濃度として定量できる。
【0031】
フルフラール化合物原料に含まれる酸成分の形態は特に限定されないが、硫酸、スルホン酸、硝酸等の無機酸、および、スルホン基、カルボキシル基を有する有機酸、例えば、フランスルホン酸、フランカルボン酸が挙げられる。フルフラール化合物原料に含まれる酸成分の量は酸価として、通常2mgKOH/g以下、好ましくは1mgKOH/g以下、より好ましくは0.50mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.25mgKOH/g以下、特に好ましくは0.10mgKOH/g以下である。これらの酸成分が2mgKOH/g以下に制御されたフルフラール化合物原料を脱カルボニル反応工程に供することによって、本発明の触媒の経時的な活性低下はさらに小さくなる。酸価の測定法は、特に限定されないが、中和滴定法を用いることができる。具体的には、フルフラールをエタノールで希釈した後に0.01Nの水酸化カリウム水溶液を用いて滴定することによって、酸価を測定することができる。
【0032】
これらのフルフラール化合物は通常無色透明である。したがって、フルフラール化合物原料の色調は、APHI(American Public Healty Association)標準色溶液のYI(Yellowness Index:黄色度)値を基準とした番号で算出すれば、通常500以下、好ましくは300以下、さらに好ましくは100以下、特に好ましくは50以下である。これらの色調は色差計を用いた透過測定等によって分析、算出することができる。
【0033】
フルフラール化合物原料から不純物を取り除く方法は特にこだわらないが、蒸留精製や不純物の吸着除去等によって取り除くことができる。減圧蒸留によってフルフラール原料約400gを精製する場合の条件を例示する。精留塔として内径18mm高さ245mmのヴィグリュウ管を用い、フルフラール原料を1Lフラスコに装填後、系内を窒素置換し、オイルバスによりフラスコ内のフルフラール原料を加熱し、次いで系内を減圧して蒸留を行う。フルフラール原料の温度を75℃、蒸気温度を55℃、系内の圧力を1.2×10Paとして、全量の約13質量%を初留として、全量の約25質量%を釜残として除去して、約250gの精製したフルフラールを得ることができる。
【0034】
吸着によって不純物を分離除去することも可能である。その際の吸着剤は、特に限定されないが、活性炭やイオン交換樹脂、イオン交換ゼオライトやシリカ等の多孔性物質、あるいは金属、貴金属、または、該金属、貴金属をシリカ、アルミナ、ゼオライトあるいは活性炭といった担体に担持したものが好適に用いられる。吸着剤は、複数を同時に用いてもよい。吸着除去の方法としては、原料に吸着剤を入れ、一定の処理時間の後に濾過等で分離してもよいし、あらかじめ吸着剤をカラム等につめ、原料を流通させてもよい。また、蒸留精製の際に原料と吸着剤とを装填し、不純物を吸着除去しつつ蒸留によって精製した原料を得ることも好ましい方法として挙げられる。その際の吸着剤としては、上記に挙げた物質のほか、酸成分の除去に効果的なNaOH等のアルカリ水酸化物、NaCO等のアルカリ炭酸塩等も好適に用いられる。さらには、吸着剤を用いて不純物を除去した後にさらに蒸留精製を行って、吸着によって取り除けなかった不純物や、吸着剤由来の不純物を除去することも好適に行われる。また、蒸留精製の後に、吸着除去を行ってもよい。
【0035】
精製等によって不純物の低減がなされたフルフラール化合物原料を保存する場合の条件は、特に限定されないが、酸素や光を遮断した雰囲気で保存するのが好ましい。保存雰囲気中の酸素の濃度は、通常20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0036】
<脱カルボニル反応触媒>
本発明においては、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素、および、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒の存在下でフルフラール化合物原料の脱カルボニル反応を行いフラン化合物を得る。
【0037】
Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素は、好ましくは8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持する担体に添加あるいは担持されるか、あるいは該担体成分の一部分あるいは全てを構成する。好ましくは、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持する担体として、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含む物質が用いられる。
【0038】
Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素の形態は、特に限定されないが、リン酸塩、硫酸塩や水酸化物、含水酸化物、酸化物、複合酸化物の形態が挙げられる。リン酸塩、硫酸塩としては、Zr(PO、ZrP、Zr(SO・4HO等が挙げられる。水酸化物、含水酸化物、酸化物としては、ZrO(OH)、ZrO、HfOが挙げられる。その他、ZrSiO、ZrO−SiO、ZrO−TiO、ZrO−Al等の複合酸化物が挙げられる。このうち、好ましくは、ZrSiO等の複酸化物、ZrO−SiO、ZrO−TiO、ZrO−Al等の複合酸化物およびZrO、HfO等の単独酸化物が挙げられ、さらに好ましくは、ZrO、HfO等の単独酸化物が挙げられ、特に好ましくはZrOが挙げられる。ZrOの結晶形について特に制限はないが、通常、単斜晶系、準安定正方晶系、正方
晶系または非晶質であり、好ましくは、単斜晶系、準安定正方晶系または正方晶系であり、さらに好ましくは、単斜晶系または準安定正方晶系であり、特に好ましくは単斜晶系である。
【0039】
Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する担体の表面酸塩基性については、ハメット関数Hで表せば通常その最高酸強度は、−3以上、 好ましくは、1.5以上、より好ましくは3.3以上さらに好ましくは4.0以上、特に好ましくは6.8以上であり、最強点H,maxは通常、0以上15以下、好ましくは5以上10以下である。
【0040】
Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素、および、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒は液相反応において使用するより、気相流通反応において効果を発揮する。Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒は 弱いながら表面酸塩基性を有するため、高濃度のフルフラール化合物が存在する液相反応においては、カルボニル基と反応し、Tishchenko反応や、Cannizzaro反応を起こしてエステル2量体等の副生成物が生じる。また、高濃度のフルフラール化合物を長時間加熱することによって触媒反応とはかかわりなく生成するスラッジ状の重合物等が物理的に触媒に付着して、触媒の分散や目的とする脱カルボニル化反応を阻害することがあり、その程度はカーボン等の無極性の担体からなる触媒に比べて、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒のように極性のある担体からなる触媒において甚だしい。
【0041】
したがって、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒の表面酸塩基特性を上記のようにすることは、特に気相流通反応において長時間に安定的かつ効率的にフラン化合物を製造する観点から好ましい。
【0042】
8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持する担体としては、上記のZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含むリン酸塩、硫酸塩や水酸化物、含水酸化物、酸化物、複合酸化物のほか、SiO、TiO、Al、MgO、SiO−Al、MgO−Al等の単独酸化物や複合酸化物、ゼオライト等の多孔性酸化物、メソ細孔を有する酸化物や活性炭が挙げられる。これらの担体がZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含まない場合は、これらの担体とZr、Hf元素を含む化合物とを物理混合したり、これらの担体にZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を添加あるいは担持した後に、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持する担体として用いることができる。
【0043】
担体の表面積は、特に限定されないが、通常1m/g以上1000m/g以下、好ましくは10m/g以上500m/g以下、さらに好ましくは20m/g以上200m/g以下である。担体の細孔容積は、特に限定されないが、通常0.1ml/g以上5ml/g以下、好ましくは0.2ml/g以上3ml/g以下である。担体の表面積や細孔容積が小さいとフルフラール化合物が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。担体の表面積や細孔容積が大きすぎるとZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素が触媒の経時的な活性低下を抑制する効果が小さくなるため好ましくない。
【0044】
Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を担体に添加、あるいは担持する方法としては8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持する際に、同時にZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素の化合物が溶解した液を添加する方法が好適に用いられる。また、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担体に担持した後に、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素の化合物が溶解した液を添加してもかまわない。また、8,9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素やそれらが担持された物質に、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素が含まれる物質を添加あるいは担持したり、物理混合等の手段により混合したりして目的とする触媒を得てもよい。
【0045】
Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を添加する際に用いる化合物として金属アルコキシド、オキシ硝酸塩やオキシ硫酸塩が挙げられ、好ましくはオキシ硝酸塩が挙げられる。Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を添加した後は、それに引き続き、水分や液成分の除去、乾燥や酸素を含むガス中での焼成を行ってもよい。
【0046】
これらのZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含む触媒が好ましい理由は、これらの成分がフルフラール化合物やフラン化合物に対して不活性であり、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素によるフルフラール化合物のフラン化合物への転化において副反応が起こりにくいためである。これらのZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含む触媒のフラン化合物の選択性は通常90%以上であり、フラン化合物の収率が最大限に得られる。
【0047】
また、これらのZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素を含む物質の表面は適度な酸塩基性質、あるいは酸塩基2元機能を有しているため、フルフラール化合物やフラン化合物の過度な吸着や反応が回避される。また、同様な理由により、これらの化合物が重合する等の望ましくない反応を回避することができるため、重合等により触媒表面にコークが蓄積する事態を防ぐことができる。結果として、フルフラール化合物の脱カルボニル反応に対して有効な触媒活性点が長時間にわたって作用し続ける。10時間の気相流通連続反応を例にすればフルフラール化合物の転化率は初期の9割以上を維持するため、高効率かつ安定的にフラン化合物を製造することが可能になる。
【0048】
触媒におけるZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素の量は、触媒全体の質量を基準(100質量%)として、通常0.001質量%以上90質量%以下、好ましくは1質量%以上85質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上85質量%以下、特に好ましくは10質量%以上75質量%以下である。
【0049】
Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素の量が少なすぎると触媒の経時的な活性低下を抑制する効果が小さくなるため好ましくない。また、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素の量が多すぎると、フルフラール化合物が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。
【0050】
8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素は、特に限定されないが、好ましくは、Ni、Ru、Ir、Pd、Pt挙げられ、より好ましくはRu、Ir、Pd、Ptが挙げられ、さらに好ましくはPd、Ptが挙げられ、特に好ましくはPdが挙げられる。これらの8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を触媒成分として用いることによって、高い選択性をもってフルフラール化合物をフラン化合物に転化することが可能となり、効率的にフラン化合物を製造することができる。これらの金属元素は通常上記のような担体に担持されることによって担持金属触媒として用いられる。
【0051】
8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素の含有量は金属や担体の種類にもよるので一概にはいえないが、触媒全体の質量を基準(100質量%)として、通常0.01質量%以上100質量%以下、好ましくは0.05質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素の含有量が少ないと、フルフラール化合物原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でないのみならず、使用が終了した触媒から金属を回収する上で効率が低下する。一方、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素の含有量が多すぎると、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素が触媒の経時的な活性低下を抑制する効果が小さくなるため好ましくない。
【0052】
これらの8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持した触媒は、触媒の性能や安定性を向上させるための成分(以下、修飾助剤という)を含有することができる。修飾助剤としては、1族金属やそれらのイオン、2族金属やそれらのイオン、6族金属やそれらのイオン、13族金属やそれらのイオン、が挙げられる。好ましくは1族金属やそれらのイオン、2族金属やそれらのイオン、6族金属やそれらのイオン、特に好ましくは1族金属やそれらのイオン、である。具体的には、Cs、Rb、K、Na、Liの金属やイオン、特に好ましくは K、Naの金属やイオンである。これらの金属やイオンは、複数を組み合わせて用いてもかまわない。8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素の種類によっては、これらの修飾助剤を触媒に含有させることによって触媒の寿命がさらに向上し、より効率的にフラン化合物を製造することが可能になる。
【0053】
これらの修飾助剤を用いるに際して大きな効果が得られる8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素は、Ni、Ru、Ir、Pd、Pt、さらに好ましくはPd、Pt、特に好ましくはPdである。
【0054】
これらの修飾助剤の触媒における形態は、特に限定されないが、金属メタル、カルボン酸塩、炭酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩や水酸化物、酸化物、複合酸化物が挙げられ、好ましくは炭酸塩、硝酸塩や水酸化物、酸化物、複合酸化物が挙げられる。これらの修飾助剤はあらかじめ上記の担体に加えて複合化したり、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担体に担持した後に加えることができる。また、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素と複合化、あるいは合金化するなどしても良い。好ましくは、上記の担体に8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持する際に、同時にこれらの修飾助剤を添加して複合化する。
【0055】
8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担持する際に、同時に添加する修飾助剤としては、具体的にはCs(CHCOO)、Rb(CHCOO)、K(CHCOO)、Na(CHCOO)、Li(CHCOO)、CsNO、RbNO、KNO、NaNO、LiNO、CsCO、RbCO、KCO、NaCO、LiCO、CsOH、RbOH、KOH、NaOH、LiOH、より好ましくはCsNO、KNO、NaNO、LiNO、CsCO、KCO、NaCO、LiCO、CsOH、KOH、NaOH、LiOH、さらに好ましくはKNO、NaNO、KCO、NaCO、KOH、NaOHである。
【0056】
これらの修飾助剤の含有量は金属や担体の種類にもよるので一概にはいえないが、触媒全体の質量を基準(100質量%)として、通常0.01質量%以上50質量%以下、好ましくは0.05質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0057】
修飾助剤の含有量が少なすぎると触媒の経時的な活性低下を抑制する効果が小さくなるため好ましくない。また、修飾助剤の量が多すぎるとフルフラール化合物が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。
【0058】
8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を担体に担持する方法は特に限定されないが、イオン交換法や含浸担持法、ポアフィリング法、incipient−wetness法、スプレー担持法等が挙げられる。担体はあらかじめ酸素を含むガス雰囲気下で焼成してもよい。焼成温度は、通常200℃以上1200℃以下、好ましくは300℃以上1000℃以下、さらに好ましくは400℃以上800℃以下、特に好ましくは500℃以上700℃以下である。
【0059】
8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素をイオン交換法や含浸担持等で担体に担持するにあたり、用いる金属原料としては、通常、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素の塩化物や硝酸塩等の水溶性の塩、あるいはそれらの酸性溶液が用いられる。好ましくは硝酸塩やアンミン錯体硝酸塩、アンミンニトロ化合物等のハロゲン元素を含まない水溶性原料が好ましい。
【0060】
イオン交換法や含浸担持法によって8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属成分を担体に担持した後、濾過や遠心脱液、乾燥により水分や液分を除去する。その後、空気中等で焼成することも好適に行われる。焼成温度は、通常200℃以上1000℃以下、好ましくは250℃以上800℃以下、さらに好ましくは300℃以上600℃以下である。管に装填して酸素を含むガスを流通させながら焼成することも好適に行われる。
【0061】
さらに、触媒を液相中で還元剤と反応させたり、管に装填して水素やアルコールを含むガスを流通させ還元性ガス気流下で処理することにより、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属成分を還元し、触媒を活性化することができる。液相での還元に用いる還元剤としては、ホルマリン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアセトン、エタノール、ギ酸、シュウ酸、水素が挙げられ、好ましくはホルマリン、ヒドラジンが挙げられる。還元性ガスとしては、水素、アンモニア、一酸化炭素、一酸化窒素が挙げられ、好ましくは水素が挙げられる。還元性ガスで処理する際の温度は、通常100℃以上900℃以下、好ましくは150℃以上570℃以下、特に好ましくは200℃以上500℃以下である。これらの還元処理はフルフラール化合物の脱カルボニル反応に供する直前に行ってもかまわない。また、フルフラール化合物の脱カルボニル反応を行う反応器と同一の反応器で行ってもかまわない。
【0062】
<脱カルボニル反応>
本発明における脱カルボニル反応の反応形式は、特に限定されるものではなく、回分反応、連続流通反応のいずれでも実施することができるが、工業的には連続流通反応形式を用いるのが好ましい。また、脱カルボニル反応の反応形式は液相反応、気相流通反応のいずれにおいても実施できるが、気相流通反応において気体のフルフラール化合物原料と固体触媒等とを接触させて反応を実施するのが好ましい。その理由は、単位体積あたりのフルフラール化合物の濃度が小さくなるため、フルフラール化合物の縮合や重合やフラン化合物の収率に悪影響を及ぼす副反応等が抑制されるためである。また、気相流通反応は反応器を工夫することにより触媒の入れ替えや再生が容易となる長所も有する。たとえば、反応器を固定床タイプとすることにより反応器から触媒を抜き出すことなく焼成等により再生することが可能であり、あらかじめ並列に固定床反応器を複数設けておくことで、ひとつの反応器の触媒を再生あるいは交換する間も別の反応器でフルフラール化合物の脱カルボニル化反応を行うことができるため、連続してフラン化合物を製造することができる。
【0063】
気相流通反応の場合、通常、触媒を装填した固定床管型反応器にフルフラール化合物原料を含むガスが連続的に供給され、反応器内の触媒に通ずることによって反応を進行させフラン化合物が得られる。フルフラール化合物原料はあらかじめ設けた気化器においてガスとすることが好ましい。気化の方法は特にこだわらないが、液状態のフルフラール化合物原料に水素や不活性ガス等をガスバブリングする方法やスプレー気化による方法等が挙げられる。必要に応じて不活性ガス等をガスバブリングや同伴ガスとして用いる場合、用いる不活性ガス等の同伴ガスの純度は、通常95vol%以上、好ましくは99vol%以上、さらに好ましくは99.9vol%以上、特に好ましくは99.99vol%以上である。
【0064】
本発明の、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素および8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒を用いたフルフラール化合物の脱カルボニル反応においては、反応開始剤として水素を共存させることが好適に用いられる。同伴させる水素の量は特にこだわらないが、フルフラール化合物とのモル比において、通常0.01以上4以下、好ましくは0.02以上2以下、さらに好ましくは0.04以上1以下、特に好ましくは0.06以上0.5以下である。水素の量が少ないとフルフラール化合物原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。水素の量が多すぎるとフルフラール化合物の水素化分解の生成物が増大し、また生成したフラン化合物が逐次的に好ましくない反応を引き起こし、結果としてフラン化合物の収率が低下するため好ましくない。その際用いる水素ガスの純度は、通常99%以上、好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上、特に好ましくは99.999%以上である。また、触媒によっては水蒸気も同伴させることができる。
【0065】
フルフラール化合物の供給量は触媒活性を担う貴金属1molに対し、通常0.0001mol/h以上50000mol/h以下、好ましくは0.001mol/h以上、10000mol/h以下、さらに好ましくは0.01mol/h以上5000mol/h以下である。フルフラール化合物の供給量は、触媒重量1gに対し、通常1mmol/h以上3000mmol/h以下、好ましくは10mmol/h以上1500mmol/h以下、さらに好ましくは20mmol/h以上500mmol/h以下である。
【0066】
滞留時間は通常0.001秒以上10秒以下、好ましくは0.01秒以上5秒以下、さらに好ましくは0.05秒以上2秒以下、特に好ましくは0.1秒以上1秒以下である。フルフラール化合物の供給量に対する触媒金属量や触媒量が少ない場合や、滞留時間が短い場合にはフルフラール化合物原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。また、フルフラール化合物の供給量に対する触媒金属量や触媒量が多い場合や滞留時間が長い場合には、生成したフラン化合物が逐次的な反応を引き起こし、結果としてフラン化合物の収率が低下することがある。ただし、長時間に及ぶ連続反応を行う場合、触媒の活性低下を予測してあらかじめ過剰量の触媒を装填することが行われることがある。反応温度は、通常170℃以上450℃以下、好ましくは180℃以上380℃以下、さらに好ましくは200℃以上340℃以下、特に好ましくは230℃以上300℃以下である。反応温度が低いとフルフラール化合物原料が十分に転化せず、未反応のフルフラール化合物の回収等が必要になるため効率的でない。また、反応温度が高すぎると、生成したフラン化合物が逐次的な反応を引き起こし、結果としてフラン化合物の収率が低下するため好ましくない。反応圧力は絶対圧で表記すると、通常0.01MPa以上3MPa以下、好ましくは0.05MPa以上2MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以上1MPa以下である。反応圧力が低いと生成したフラン化合物の分離に際してフラン化合物の損失が生じることがある。
【0067】
液相反応の場合には、フルフラール化合物原料とZr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素および8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒を反応器に仕込み撹拌下適切な温度にて反応させ、生成したフラン化合物の沸点が低い場合は気相よりフラン化合物を捕集することができる。反応温度は、通常120℃以上250℃以下、好ましくは140℃以上230℃以下、特に好ましくは155℃以上220℃以下で行われる。反応圧力は絶対圧で表記すると、通常0.1MPa以上1MPa以下、好ましくは0.15MPa以上0.6MPa以下、さらに好ましくは0.2MPa以上0.3MPa以下である。ガンマブチルラクトンやN−メチルピロリドン、トリグライム、テトラグライム等の高沸点極性溶媒を用いても、水等の液体の添加剤を用いても良い。炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸カルシウム等の塩基性添加剤を用いることも好適に行われる。必要に応じて副生成物のパージ除去や、触媒の添加や入れ替えを行うことができる。また、連続的にフルフラール化合物原料を供給することも好適に用いられる。
【0068】
不純物を低減したフルフラール化合物原料を連続的に脱カルボニル反応器に供給する場合、不純物低減のための精製装置と脱カルボニル反応器を連結させ、フルフラール化合物原料を蒸留精製あるいは吸着除去精製して、連続的に脱カルボニル反応器に供給することが好適に行われる。蒸留精製の場合には、高沸点の不純物を排除するだけではなく、低沸点の不純物も除去して脱カルボニル反応器に供給することが効果的である。
【0069】
得られたフラン化合物は、副生する一酸化炭素や副生成物、および反応開始剤として導入した水素と分離した後、蒸留等の操作によって精製される。分離された水素はリサイクルして再度用いることも可能であり、また一酸化炭素とともに他の用途に有効利用することもできる。
【0070】
また、本発明の方法においては、特にPt等の特定の金属を含む触媒を用いた場合、水素を共存下におけるフルフラール化合物のフラン化合物への変換反応において、フルフラール化合物あるいは生成したフラン化合物が水素化、水素化分解され、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、2メチルフラン、2メチルテトラヒドロフランが生成する。したがって、本発明の方法はフルフラール化合物よりこれらのエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、2メチルフラン、2メチルテトラヒドロフランを製造する方法としても有用である。
【0071】
本発明の触媒を用いることにより極めて選択率よく不純物の含有量が少ないフラン化合物が得られる。得られるフラン化合物の純度は通常99%以上である。本発明の触媒では、触媒表面における重合反応等が回避されるため、得られるフラン化合物に含まれる重合反応等による副生成物の割合も極めて低くなる。得られるフラン化合物は無色透明であり、APHI(American Public Healty Association)標準色溶液のYI(Yellowness Index:黄色度)値を基準とした番号で算出すれば50以下である。
【0072】
本発明によって得られるフラン化合物は極めて不純物含有量が少ないため、各種の樹脂原料や添加剤として有用である。また、同様な理由により誘導品合成の中間体として有用であり、フラン化合物を原料とする合成反応を効率よく実施することができる。例えば、得られたフラン化合物が、一般式(2)のフラン化合物であれば、触媒を用いた水素化反応により一般式(6)のフラン化合物に変換することができるし、部分水素化反応により 一般式(3)〜(5)のフラン化合物に変換することができる。また、水和等を組み合わせて、1,4−ブタンジオール等のジオール類、ガンマブチロラクトン等のラクトン類に変換することができる。
【0073】
本発明の触媒を用いることによって、フルフラール化合物からフラン化合物を製造するにあたり、触媒に付着するコークの量が低減し、長期連続して触媒が使用可能となるため、触媒の再生や入れ替えの頻度が低減する。触媒が失活した場合の触媒の再生法や再生処理は特に限定されない。例えば、酸素を含むガスによる高温での処理を施し、触媒表面に付着した不純物やコークを除去することにより触媒性能を復活させることが可能である。また、アルコール等の有機溶媒による洗浄で触媒表面に付着した不純物やコークを除去、乾燥することにより触媒性能を復活させることができる。不純物やコークを除去した後、再びフルフラール化合物の脱カルボニル反応に供される前に、触媒調製時と同様な還元処理が施される。すなわち液相中で還元剤と反応させたり、管に装填して水素やアルコールを含むガスを流通させ還元性ガス気流中下で処理したりすることにより、触媒活性を担う金属を還元することが好適に行われる。これらの一連の再生処理は、脱カルボニル反応を行う反応器に触媒を装填したまま行ってもかまわない。この場合、あらかじめ脱カルボニル反応を行う反応器を複数設けることが好ましい。一つの反応器に装填された触媒を再生する間は別の反応器に装填された触媒でフルフラール化合物の脱カルボニル反応を行うことによって、連続的にフラン化合物を製造することが可能となる。
【実施例】
【0074】
以下に本発明の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、フルフラール化合物原料のフルフラール化合物の純度はGCのピーク面積割合から見積もり、硫黄濃度、窒素濃度の測定はそれぞれ、燃焼−吸収−イオンクロマト法(燃焼装置:三菱化学社製、試料燃焼装置、QF−02、分析装置:日本ダイオネクス社製、イオンクロマトDX−500)、燃焼分解−化学発光法で行った(三菱化学社製、微量窒素分析装置、TN−10)。また、フルフラール化合物原料の酸価の測定は、フルフラール化合物原料をエタノールで希釈した後に0.01Nの水酸化カリウム水溶液を用いて滴定することによって測定した。
【0075】
(実施例1)
<フルフラール転化率の経時変化:ジルコニア担持1質量%Pd触媒>
市販のペレット状ジルコニア(表面積:99m/g、PV:0.35ml/g)を500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分し、約100ml/minの空気気流下で600℃で6時間焼成した。この焼成したジルコニア5.00gに、硝酸Pd溶液([Pd(NO2−)(Pd:9.98質量%、HNO:18.8質量%)0.50gを蒸留水で希釈した溶液を用いて、incipient−wetness法によりPdを含浸させた。湯浴で水分を除去した後、約30ml/minの窒素気流下120℃で6時間乾燥させた。さらに約50ml/minの空気気流下500℃で4時間焼成してジルコニア担持1質量%Pd触媒(1質量%Pd/ZrO)を得た。
【0076】
脱カルボニル反応の原料として、市販試薬フルフラールAを特に精製せずに使用した。このとき、フルフラール原料のフルフラールの純度は99%以上であり、不純物濃度は、硫黄濃度23.1ppm、窒素濃度4.9ppmであった。上述の方法で得たジルコニア担持1質量%Pd触媒1.00gを内径8mmのガラス製反応管に充填し、水素10Nml/min流通下で13℃/minで昇温した。触媒層の温度が260℃に達した後、約10分間同温度において水素気流中下で保持した。その後、流通させるガスの組成を水素0.84Nml/min、窒素32.0Nml/minに変更した。原料フルフラールを170℃に加熱した気化器を通して気化させ、36.22mmol/hの流速で供給して反応を開始した。このとき、W/Fは28gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは4molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.06であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。反応管出口からの留出ガスの一部をGCに導入し、フラン、一酸化炭素およびその他の生成物について定量的に分析した。以下の式よりフルフラール転化率とフラン選択率を求めた。
【0077】
フルフラール転化率(%)
=[1−{反応後フルフラール残量(mol)/フルフラール供給量(mol)}]×100
【0078】
フラン選択率(%)
={フラン収率(%)/フルフラール転化率(%)}×100
=[{フラン生成量(mol)/フルフラールフィード量(mol)}×100(%)/フルフラール転化率(%)]×100
【0079】
ジルコニア担持1質量%Pd触媒を用いた場合は、反応開始から1.1時間後のフルフラール転化率は99%であり、反応開始から6.3時間後のフルフラール転化率は93%であった。6.3時間の反応におけるフラン選択率の平均値は98%であった。6.3時間反応後、フルフラールの供給を止め、水素0.84Nml/min、窒素32.0Nml/minのガス気流下で温度を室温まで降下させた。反応管から触媒を取り出して重量を測定したところ、フルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着により0.04gの重量増加がみられた。
【0080】
(比較例1)
<フルフラール転化率の経時変化:アルミナ担持1質量%Pd触媒>
触媒としてアルミナ担持1質量%Pd触媒(1質量%Pd/Al)を用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。アルミナ担持1質量%Pd触媒は、アルミナ担体として市販のペレット状γ−Al(表面積:174m/g、PV:0.37ml/g)を500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分したものを用いた以外は、実施例1のジルコニア担持1質量%Pd触媒と同様に調製した。
【0081】
アルミナ担持1質量%Pd触媒を用いた場合には、反応開始から1.1時間後のフルフラール転化率は91%であり、反応開始から6.3時間後のフルフラール転化率は65%に低下した。6.3時間の反応におけるフラン選択率の平均値は98%であった。また、6.3時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着による触媒の重量増加は0.17gであった。
【0082】
(実施例2)
<フルフラール転化率の経時変化:ジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒>
市販のペレット状ジルコニア(表面積:99m/g、PV:0.35ml/g)を500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分し、約100ml/hの空気気流下で600℃で6時間焼成した。この焼成したジルコニア5.00gに、硝酸Pd溶液([Pd(NO2−)(Pd:9.98質量%、HNO:18.8質量%)0.50gとKNO0.13gを蒸留水で希釈、溶解した溶液を用いてincipient−wetness法によりPd、Kを含浸させた。湯浴で水分を除去した後、約30ml/minの窒素気流下、120℃で6時間乾燥させた。さらに約50ml/minの空気気流下500℃で4時間焼成し、その後、450℃で2時間、約75ml/minの水素気流下による還元を行ってジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒(1質量%Pd−1質量%K/ZrO)を得た。
【0083】
触媒として0.75gの上記ジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒を用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。このとき、W/Fは21gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは5molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.06であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0084】
ジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒を用いた場合には、反応開始から1.1時間後のフルフラール転化率は100%であり、反応開始から6.3時間後のフルフラール転化率は96%であった。6.3時間の反応におけるフラン選択率の平均値は99%であった。6.3時間反応後、フルフラールの供給を止め、水素0.84Nml/min、窒素32.0Nml/minのガス気流下で温度を室温まで降下させた。反応管から触媒を取り出して重量を測定したところ、フルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着により0.03gの重量増加がみられた。
【0085】
(比較例2)
<フルフラール転化率の経時変化:アルミナ担持1質量%Pd−1質量%K触媒>
触媒として1.00gのアルミナ担持1質量%Pd−1質量%K触媒(1質量%Pd−1質量%K/Al)を用いた以外は実施例2と同様に反応を行った。アルミナ担持1質量%Pd−1質量%K触媒は、アルミナ担体として市販のペレット状γ−Al(表面積:174m/g、PV:0.37ml/g)を500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分したものを用いた以外は、実施例2のジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒と同様に調製した。このとき、W/Fは28gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは4 molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.06であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0086】
アルミナ担持1質量%Pd−1質量%K触媒を用いた場合、反応開始から1.1時間後のフルフラール転化率は100%であり、反応開始から6.3時間後のフルフラール転化率は89%に低下した。6.3時間の反応におけるフラン選択率の平均値は98%であった。また、6.3時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着による触媒の重量増加は0.11gであった。
【0087】
(比較例3)
<フルフラール転化率の経時変化:シリカ担持1質量%Pd−1質量%K触媒>
触媒として0.75gのシリカ担持1質量%Pd−1質量%K触媒(1質量%Pd−1質量%K/SiO)を用いた以外は実施例2と同様に反応を行った。シリカ担持1質量%Pd−1質量%K触媒は、シリカ担体としてCariact Q−50(表面積:79m/g、PV:1.01ml/g、粒子径:0.85mm〜1.70mm)を用いた以外は、実施例2のジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒と同様に調製した。このとき、W/Fは21gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは5molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.06であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0088】
シリカ担持1質量%Pd−1質量%K触媒を用いた場合、反応開始から1.1時間後のフルフラール転化率は85%であり、反応開始から6.3時間後のフルフラール転化率は52%に低下した。6.3時間の反応におけるフラン選択率の平均値は98%であった。また、6.3時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着による触媒の重量増加は0.05gであった。
【0089】
(実施例3)
<フルフラール転化率の経時変化:ジルコニア担持1質量%Pd触媒>
実施例1と同様に調整した触媒について、450℃で2時間、約75ml/minの水素気流下による還元を行ってジルコニア担持1質量%Pd触媒(1質量%Pd/ZrO)を得た。
【0090】
脱カルボニル反応の原料として、市販試薬フルフラールBを蒸留精製したものを使用した。このとき、フルフラール原料のフルフラール純度は99%以上であり、不純物濃度は、硫黄濃度1.3ppm、窒素濃度1.5ppm、酸価0.072mgKOH/gであった。上述のジルコニア担持1質量%Pd触媒0.75gを内径8mmのガラス製反応管に充填し、水素10Nml/min流通下で14℃/minで昇温した。触媒層の温度が275℃に達した後、約10分間同温度において水素気流下で保持した。その後、流通させるガスの組成を水素6.6Nml/min、窒素26.3Nml/minに変更した。原料フルフラールを170℃に加熱した気化器を通して気化させ、36.22mmol/hの流速で供給して反応を開始した。このとき、W/Fは21gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは5molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0091】
ジルコニア担持1質量%Pd触媒上でフルフラール原料を連続的に反応させ、脱カルボニル化を行った場合には、反応開始から2時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は96%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は62%、フラン選択率は97%であった。64時間反応後、フルフラールの供給を止め、水素6.6Nml/min、窒素26.3Nml/minのガス気流下で温度を室温まで降下させた。反応管から触媒を取り出して重量を測定したところ、フルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着により0.04gの重量増加がみられた。
【0092】
(比較例4)
<フルフラール転化率の経時変化:アルミナ担持1質量%Pd触媒>
触媒として1.00gのアルミナ担持1質量%Pd触媒(1質量%Pd/Al)を用いた以外は実施例3と同様に反応を行った。アルミナ担持1質量%Pd触媒は次の方法により調製した。
【0093】
市販の球状γ−アルミナ(表面積:231m/g、PV:0.55ml/g)を空気気流下で300℃で3時間焼成した。この焼成したアルミナ約10gを水を張ったデシケーター中で約1週間吸湿させた。吸湿したアルミナ約13g(乾燥時は約10g)を、テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩([Pd(NH](NO)0.3gを蒸留水10gに溶解させた溶液を用いて、含浸法によりPdを含浸させた。ロータリーエバポレーターで水分を除去した後、約100ml/minの空気気流下120℃で3時間乾燥させた。さらに約100ml/minの空気気流下520℃で2時間焼成してアルミナ担持1質量%Pd触媒を得た。
【0094】
この反応において、W/Fは28gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは4molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0095】
アルミナ担持1質量%Pd触媒上でフルフラール原料を連続的に反応させ、脱カルボニル化を行った場合には、反応開始から2時間後のフルフラール転化率は93%、フラン選択率は97%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は44%まで低下し、フラン選択率は97%であった。また、63時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着による触媒の重量増加は0.25gであった。
【0096】
(実施例4)
<フルフラール転化率の経時変化:ジルコニア担持2質量%Pt触媒>
市販のペレット状ジルコニア(表面積:99m/g、PV:0.35ml/g)を500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分し、約100ml/minの空気気流下で600℃で6時間焼成した。この焼成したジルコニア5.00gに、硝酸Pt溶液([Pt(NO2−)(Pt:5.17質量%)1.93gを蒸留水で希釈した溶液を用いて、incipient−wetness法によりPtを含浸させた。湯浴で水分を除去した後、約30ml/minの窒素気流下120℃で6時間乾燥させた。さらに約50ml/minの空気気流下500℃で4時間焼成し、その後、450℃で2時間、約75ml/minの水素気流下による還元を行ってジルコニア担持2質量%Pt触媒(2質量%Pt/ZrO)を得た。
【0097】
上述のジルコニア担持2質量%Pt触媒1.00gを用いた以外は実施例3と同様に反応を行った。このとき、W/Fは28gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは2molフルフラール/h・gPt、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0098】
ジルコニア担持2質量%Pt触媒上でフルフラール原料を連続的に反応させ、脱カルボニル化を行った場合には、反応開始から2時間後のフルフラール転化率は73%、フラン選択率は85%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で11%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は79%、フラン選択率は94%、であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で4%であった。64時間反応後、フルフラールの供給を止め、水素6.6Nml/min、窒素26.3Nml/minのガス気流下で温度を室温まで降下させた。反応管から触媒を取り出して重量を測定したところ、フルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着により0.05gの重量増加がみられた。
【0099】
(比較例5)
<フルフラール転化率の経時変化:アルミナ担持2質量%Pt触媒>
触媒として1.00gのアルミナ担持2質量%Pt触媒(2質量%Pt/Al)を用いた以外は実施例3と同様に反応を行った。アルミナ担持2質量%Pt触媒は、アルミナ担体として市販のペレット状γ−Al(表面積:174m/g、PV:0.37ml/g)を、500μm〜1000μmの粒径に粉砕・篩分したものを用いた以外は、実施例4のジルコニア担持2質量%Pt触媒と同様に調製した。このとき、W/Fは28gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは2molフルフラール/h・gPt、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0100】
アルミナ担持2質量%Pt触媒上でフルフラール原料を連続的に反応させ、脱カルボニル化を行った場合には、反応開始から2時間後のフルフラール転化率は99%、フラン選択率は95%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で4%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は92%まで低下し、フラン選択率は96%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で3%であった。また、50時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着による触媒の重量増加は0.18gであった。
【0101】
(実施例5)
<耐久試験:ジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒>
フルフラールの脱カルボニル反応の原料として、市販試薬フルフラールBを蒸留精製したものを使用した。このとき、フルフラール原料のフルフラール純度は99%以上であり、不純物濃度は、硫黄濃度1.3ppm、窒素濃度1.5ppm、酸価0.072mgKOH/gであった。実施例2の方法で調製したジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒0.30gを内径8mmのガラス製反応管に充填し、水素10Nml/min流通下で14℃/minで昇温した。触媒層の温度が285℃に達した後、約10分間同温度において水素気流中下で保持した。その後、流通させるガスの組成を水素2.2Nml/min、窒素39.6Nml/minに変更した。原料フルフラールを170℃に加熱した気化器を通して気化させ、12.07mmol/hの流速で供給して反応を開始した。このとき、W/Fは25gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは4molフルフラール/h・gPd、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0102】
ジルコニア担持1質量%Pd−1質量%K触媒上でフルフラール原料を連続的に反応させ、脱カルボニル化を行った場合には、反応開始から10時間後のフルフラール転化率は100%、フラン選択率は98%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は96%、フラン選択率は98%であった。反応開始から100時間後のフルフラール転化率は94%、フラン選択率は98%であった。反応開始から150時間後のフルフラール転化率は94%、フラン選択率は98%であった。反応開始から200時間後のフルフラール転化率は94%、フラン選択率は98%であった。反応開始後70時間以降ではフルフラール転化率の経時変化、フラン選択率の経時変化はみられなかった。200時間反応後、フルフラールの供給を止め、水素2.2Nml/min、窒素39.6Nml/minのガス気流下で温度を室温まで降下させた。反応管から触媒を取り出して重量を測定したところ、フルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着により0.02gの重量増加がみられた。
【0103】
(実施例6)
<耐久試験:ジルコニア担持2質量%Pt触媒>
フルフラールの脱カルボニル反応の原料として、市販試薬フルフラールBを蒸留精製したものを使用した。このとき、フルフラール原料のフルフラール純度は99%以上であり、不純物濃度は、硫黄濃度1.3ppm、窒素濃度1.5ppm、酸価0.072mgKOH/gであった。触媒として、実施例4の方法で調製したジルコニア担持2質量%Pt触媒(2質量%Pt/ZrO)0.50gを用いた以外は実施例5と同様に反応を行った。このとき、W/Fは41gCat・h/molフルフラール、担持金属量あたりの供給フルフラールは1.2molフルフラール/h・gPt、水素/フルフラ−ルの比は0.5であった。反応圧は絶対圧で0.1MPaであった。
【0104】
ジルコニア担持2質量%Pt触媒上でフルフラール原料を連続的に反応させ、脱カルボニル化を行った場合には、反応開始から10時間後のフルフラール転化率は81%、フラン選択率は89%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で9%であった。反応開始から50時間後のフルフラール転化率は80%、フラン選択率は92%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で7%であった。反応開始から98時間後のフルフラール転化率は84%、フラン選択率は93%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で5%であった。反応開始から150時間後のフルフラール転化率は86%、フラン選択率は94%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で5%であった。反応開始から200時間後のフルフラール転化率は83%、フラン選択率は94%であった。主な副生成物はプロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等であり、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが生成物中に占める割合は合計で5%であった。反応開始後120時間まではフルフラール転化率は時間とともに向上し、反応時間の経過とともに副生成物の割合は減少し、フラン選択率は上昇した。反応開始後120時間以降ではフルフラール転化率の経時変化、フラン選択率の経時変化はほとんどみられなかった。200時間反応後、フルフラールの供給を止め、水素2.2Nml/min、窒素39.6Nml/minのガス気流下で温度を室温まで降下させた。反応管から触媒を取り出して重量を測定したところ、フルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着により0.03gの重量増加がみられた。
【0105】
(比較例6)
200mlのフラスコに実施例1で用いたのと同じ触媒1.00g、実施例1で用いたのと同じフルフラール60.0gを装填し、フラスコ内に窒素ガス32.0Nmlを流通させた。オイルバスを用いてフラスコを加熱し、液相温度を150℃に制御してフルフラールの液相脱カルボニル化反応を開始した。窒素ガスに同伴されてくるフランの濃度を経時的に定量してフランの生成速度を求めたところ、フランの生成速度は10mmol/h以下であった。反応開始から6.3時間後のフラン濃度は反応開始から1.1時間後のフラン濃度の9割以下であり、触媒活性が経時的に低下していることが分かった。
【0106】
【表1】

【0107】
実施例1と比較例1との比較より、Zrを含む触媒を用いた場合、Zrを含まない触媒を用いた場合に比べ触媒活性の経時低下が小さく、高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造できることが分かった。またZrを含む触媒ではZrを含まない触媒に比べて一定時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着が少ないことが分かった。
【0108】
実施例2と比較例2、3との比較より、Zrを含む触媒を用いた場合、Zrを含まない触媒を用いた場合に比べ触媒活性の経時低下が小さく、高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造できることが分かった。またZrを含む触媒ではZrを含まない触媒に比べて一定時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着が少ないことが分かった。
【0109】
【表2】

【0110】
実施例3と比較例4との比較より、Zrを含む触媒を用いた場合、Zrを含まない触媒を用いた場合に比べ触媒活性の経時低下が小さく、高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造できることが分かった。またZrを含む触媒ではZrを含まない触媒に比べて一定時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着が少ないことが分かった。
【0111】
実施例4と比較例5の比較より、Zrを含む触媒を用いた場合、Zrを含まない触媒を用いた場合に比べ触媒活性の経時低下が小さく、高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造できることが分かった。またZrを含む触媒ではZrを含まない触媒に比べて一定時間反応を実施した後のフルフラール原料由来の不純物や反応によって生じるコークの付着が少ないことが分かった。
【0112】
実施例5と実施例6との結果から、Zrを含む触媒を用いた場合、触媒活性の経時低下が小さく、高いフルフラール転化率と高いフラン選択率が長期間にわたって維持されるため、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造できることが分かる。
【0113】
実施例1と比較例6の比較より、ジルコニア担持1質量%Pd触媒を用いた場合、液相で反応を行うより、気相流通方式で反応を行ったほうが反応効率が高いことが分かる。また、触媒の経時的な活性低下も小さく、安定的かつ高効率にフラン化合物を製造することができる。
【0114】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うフラン化合物の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルフラール化合物原料を、Zr、Hfから選ばれる少なくとも1種の元素、および、8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する触媒の存在下で脱カルボニル反応させる工程を備えた、フラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記8、9、10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素が、PdまたはPtである、請求項1に記載のフラン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記脱カルボニル反応させる工程が、あらかじめ気化させたフルフラール化合物のガス状原料を、前記触媒に接触させて脱カルボニル反応を行う工程である、請求項1または2に記載のフラン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記触媒中に、該触媒全体の質量を100質量%としたとき、1、2、6、13族元素から選ばれる少なくとも1種類の元素を0.01質量%以上50質量%以下含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフラン化合物の製造方法。