フリーピストンエンジン駆動リニア発電装置
【課題】より効率的なフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置を提供する。
【解決手段】フリーピストンエンジン駆動リニア発電装置10は、エンジンユニット14と発電ユニットを備えたリニア発電機12を1以上備えている。エンジンユニット14は、シリンダ30内に往復運動自在に配されたピストン32と、ピストン32の両側に設けられ、ピストン32の往復運動に伴い体積変化する燃焼室36および空気室34と、を備えている。発電ユニットは、ピストン32と、当該ピストン32の外周囲に固定されたコイル22と、を備え、ピストン32の往復運動に伴い発電するリニア発電機である。ピストン32は、燃焼室36での混合気の燃焼時に生じる燃焼圧力および当該燃焼圧力により圧縮された空気室内ガスの反発力によりシリンダ30内で往復運動する。
【解決手段】フリーピストンエンジン駆動リニア発電装置10は、エンジンユニット14と発電ユニットを備えたリニア発電機12を1以上備えている。エンジンユニット14は、シリンダ30内に往復運動自在に配されたピストン32と、ピストン32の両側に設けられ、ピストン32の往復運動に伴い体積変化する燃焼室36および空気室34と、を備えている。発電ユニットは、ピストン32と、当該ピストン32の外周囲に固定されたコイル22と、を備え、ピストン32の往復運動に伴い発電するリニア発電機である。ピストン32は、燃焼室36での混合気の燃焼時に生じる燃焼圧力および当該燃焼圧力により圧縮された空気室内ガスの反発力によりシリンダ30内で往復運動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク機構を用いることなく、シリンダ内でピストンを往復運動させるフリーピストンエンジンの動きを利用して発電するフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クランク機構を用いることなく、シリンダ内でピストンを往復運動させるフリーピストンエンジンが広く知られている。また、一部においては、このフリーピストンエンジンを備えた発電装置も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フリーピストンエンジンの動きを利用して発電するフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置が開示されている。この発電装置は、同一直線状に対向して配置し、行程をずらして運転される左右一対のフリーピストンエンジンと、当該エンジンのピストン同士を連結して往復運動する磁石部を備えたシャフト部と、磁石部の周囲に磁界を生じさせる機構と、を備えており、シャフト部の往復運動により発電する。
【0004】
また、特許文献2には、シリンダ内に対向配置された二つのピストンの間に燃焼室を、各ピストンの燃焼室とは反対側に空気室を、設けたフリーピストンエンジンが開示されている。このフリーピストンエンジンでは、燃焼室で燃料燃焼させた際の燃焼圧力、および、当該燃焼圧力を受けて移動するピストンにより圧縮された空気室の圧縮反力によりピストンを往復運動させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−241302号公報
【特許文献2】実開昭58−139532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうしたフリーピストンエンジンは、小型化に有利な内燃機関として期待されている。しかし、従来のフリーピストンエンジンは、過大な振動が生じやすかったり、効率が悪かったり、といった問題があった。例えば、特許文献1記載のフリーピストンエンジンでは、二つのピストンが左右非対称の動きをするため、駆動時に大きな振動が生じやすかった。この問題を避けるためには、左右対称になるように、二つまたは四つのフリーピストンエンジンを配置することが考えられる。しかし、この場合、燃焼室(気筒に相当)が四つまたは八つになるため、気筒数の増加とサイズ大型化という新たな問題が生じる。
【0007】
また、特許文献2に記載のフリーピストンエンジンは、二つのピストンが左右対称に動くため、振動の発生を抑制・低減できるものの、燃焼圧力で押された空気室が、高温・高圧となって、熱の損失を生じ、効率が低下するという問題があった。また、この特許文献2では、ピストンの動きを直接利用した発電はなされておらず、必ずしも効率的とはいえなかった。
【0008】
そこで、本発明では、より効率的なフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置は、シリンダ内でピストンを往復運動させるエンジンユニットと、前記ピストンの往復運動に応じて発電する発電ユニットと、からなるリニア発電機を1以上備えたフリーピストン駆動リニア発電装置であって、前記エンジンユニットは、シリンダ内に往復運動自在に配されたピストンと、前記ピストンの両側に設けられ、前記ピストンの往復運動に伴い体積変化する燃焼室および空気室と、を備え、前記発電ユニットは、前記ピストンと、当該ピストンの外周囲に固定されたコイルと、を備え、前記ピストンの往復運動に伴い発電するリニア発電機であり、前記ピストンは、前記燃焼室での燃料および空気の混合気の燃焼時に生じる燃焼圧力および前記燃焼圧力により圧縮された空気室内ガスの反発力によりシリンダ内で往復運動する、ことを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、前記ピストンには、永久磁石が埋め込まれており、前記発電ユニットは、前記ピストンの往復運動に伴い、前記永久磁石と前記コイルとの相対位置関係が変化することで発電する。
【0011】
他の好適な態様では、同一線上に左右対称になるように配置された二個のリニア発電機を備え、前記二つのリニア発電機に設けられた二つのエンジンユニットそれぞれのピストンが左右対称に往復運動するべく、二つのエンジンユニットが同期して動作する。この場合、前記二つのリニア発電機に設けられた二つのエンジンユニットは、一つの空気室を共有する、ことが望ましい。
【0012】
他の好適な態様では、前記エンジンユニットは、さらに、前記空気室の内圧を、一定範囲内に保つべく当該内圧を調整する内圧調整手段を備える。他の好適な態様では、前記シリンダの内側面のうち、往復運動するピストンとの接触部分の少なくとも一部には、セラミックコーティングが施されている。他の好適な態様では、前記燃焼室には、前記シリンダ内のピストンの位置に応じて開口面積が変化する掃気孔と、前記燃焼室からの既燃ガス排出を制御する排気弁と、が設けられている。
【0013】
他の好適な態様では、前記ピストンは、内部が空洞の中空構造であり、前記ピストンおよびシリンダには、前記ピストンの内部への空気流入および前記ピストン内部から外部への空気流出を許容する連通孔が設けられている。他の好適な態様では、前記エンジンユニットは、さらに、前記ピストンの位置を検出する位置検出手段を備える。他の好適な態様では、前記シリンダの少なくとも一部は、電磁鋼板からなる。
【0014】
他の好適な態様では、前記空気室は、空気室内ガスと外部との熱交換を阻害する遮熱構造を有する。この場合、前記遮熱構造は、前記空気室の内壁の少なくとも一部に形成され、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が前記空気室を形成する母材よりも低い遮熱膜である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ピストンの動きを直接利用して発電しているため、効率をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態であるリニア発電装置の概略構成図である。
【図2】リニア発電装置の他の一例を示す図である。
【図3】リニア発電装置の他の一例を示す図である。
【図4】エンジンユニットにおけるピストンの変位を示すグラフである。
【図5】エンジンユニットにおけるピストンの速度変化を示すグラフである。
【図6】燃焼室および空気室の圧力変化を示すグラフである。
【図7】シミュレーションで用いる各パラメータを示す図である。
【図8】シミュレーションで用いた発電効率マップである。
【図9】本発明の他の実施形態であるリニア発電装置の概略構成図である。
【図10】本発明の他の実施形態であるリニア発電装置の概略構成図である。
【図11】従来のフリーピストンエンジンの概略構成図である。
【図12】従来の他のフリーピストンエンジンの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第一実施形態であるフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置(以下「リニア発電装置」と略す)10の概略構成図である。
【0018】
このリニア発電装置10は、一つのリニア発電機12により構成されている。また、リニア発電機12は、燃焼圧力によりシリンダ30内でピストン32を往復運動させるエンジンユニット14(フリーピストンエンジン)と、当該ピストン32の動きを利用して発電を行う発電ユニットと、を備えている。発電ユニットは、固定子として機能するシリンダ30と、可動子として機能するピストン32と、から構成される。ピストン32の外側面には永久磁石20が埋め込まれており、シリンダ30の内壁(永久磁石20の外周囲)には発電コイル22が固定設置されている。エンジンユニット14の駆動によりピストン32がシリンダ30内で往復移動すると、この永久磁石20と発電コイル22との相対位置関係が変化し、これにより、永久磁石20周囲の磁界が変化する。そして、この磁界の変化に応じて発電コイル22に誘導起電力が発生する。この誘導起電力によって発電が行われ、発電により得られた電力は、図示しない制御装置を介してバッテリなどに送電される。
【0019】
エンジンユニット14は、ピストン32をシリンダ30内で往復運動させるユニットである。このエンジンユニット14には、発電ユニットの固定子としても機能するシリンダ30と、発電ユニットの可動子としても機能するピストン32と、シリンダ30内においてピストン32の両側に設けられた燃焼室36および空気室34と、を備えている。つまり、ピストン32は、燃焼室36および空気室34に挟まれている。そして、このピストン32の往復運動に伴い、燃焼室36および空気室34の体積が変化する。
【0020】
燃焼室36は、燃料と新気(空気)との混合気が燃焼させられるチャンバである。この燃焼室36には、燃料噴射弁40、点火プラグ(図示せず)、排気弁38、掃気孔42などが設けられている。燃料噴射弁40は、燃焼室36の端面(シリンダ30の閉端面)に取り付けられた弁体で、燃焼室36内に燃料を供給する。点火プラグは、燃料と新気とが混合された混合気に点火し、燃焼(爆発)を生じさせる。排気弁38は、燃焼室36の端面(シリンダ30の閉端面)に取り付けられており、燃焼後に生じる既燃ガスを外部に排出する。
【0021】
掃気孔42は、燃焼室36内に新気を取り込むためにシリンダ30の中間部分に設けられた孔である。この掃気孔42は、ピストン32の変位に応じて開口量が変化する。すなわち、ピストン32が燃焼室36側(図面左側)の端部付近に位置し、燃焼室36が圧縮された状態では、掃気孔42は、ピストン32により遮蔽された状態となる。この場合、燃焼室36への新気導入は阻害される。一方で、燃焼圧力によりピストン32が空気室34側(図面右側)へと移動すると、掃気孔が徐々に開口されていき、新気の導入が促されるようになっている。このように、空気室34寄りの位置にピストン32の変位に応じて開口量が可変となる掃気孔42を設け、反対側端部に排気弁38を設けることにより、新気の導入と、既燃ガスの排出を一方向に行うことができる。そして、これにより、既燃ガスの排出および新気の吸入を、より効率的に行うことができる。
【0022】
空気室34は、燃焼室36とは反対側に設けられ、シリンダ30とピストン32の端面により囲まれたチャンバである。この空気室34の内部に存在する空気室内ガス(空気など)は、混合気の燃焼により空気室34側に移動してきたピストン32を、燃焼室36側に押し戻す空気バネとして機能する。すなわち、燃焼室内の燃焼圧力によりピストン32が空気室34側に移動すると、空気室34が圧縮されることになる。圧縮された空気室34は、圧縮された反動で、再度、膨張するべく、ピストン32を燃焼室36側へと押し戻す。
【0023】
ここで、この空気室34の圧縮・膨張(燃焼室36の膨張・圧縮)によるピストン32の往復運動を適切に行い、エンジンユニット14の損傷などを効果的に防止するためには、空気室34の圧力が一定範囲内に収まっていることが必要となる。そこで、本実施形態では、この空気室34の圧力が一定範囲内に収まるように、空気室34に圧力を調整する調圧弁46を設けている。この調圧弁46は、空気室34の圧力が上限値を超えた場合には、空気室34の内気を外部に流出させ、空気室34の圧力が下限値を下回った場合には外気を空気室34に流入させ、圧力を一定範囲内に保つ。この調圧弁46としては、例えば、圧力センサ(図示せず)と、当該圧力センサの検出値に応じて開閉する電磁弁と、を組み合わせたものでもよいし、一定圧力で機械的に開閉する機械式バルブ、例えば、ダックビルバルブなどであってもよい。
【0024】
ここで、燃焼圧力により圧縮された空気室34の内部は、空気室内ガス(空気)の圧縮により高圧・高温になり、熱損失が増加して、効率が低下するという問題があった。本実施形態では、空気室34での熱損失を低減し、発電効率を向上させるために、空気室34に、空気室内ガスと外部との熱交換を阻害する遮熱構造を設けている。
【0025】
この遮熱構造としては、種々の形態が考えられるが、例えば、当該空気室34の内壁の少なくとも一部を熱伝導率の低い材料で構成することで遮熱構造を実現してもよい。熱伝導率の低い材料としては、例えば、セラミックが挙げられる。こうした材料で、空気室34を構成するシリンダ30の内壁面およびピストン32の端部を構成することにより、外部との熱交換が妨げられ、熱損失を低減できる。
【0026】
また、別の形態として、空気室34の内壁の少なくとも一部に遮熱膜を形成してもよい。遮熱膜は、熱伝導率・熱容量が十分に小さい膜体である。こうした遮熱膜としては、例えば、空気室34を形成する母材(シリンダ30およびピストン32)よりも低い熱伝導率を有した膜状の第一断熱材の内部に、単位体積あたりの熱容量および熱伝導率が母材および第一断熱材のいずれよりも低い第二断熱材を混入させた膜体を用いることが望ましい。ここで第一断熱材としては、ジルコニアやシリコン、チタン、ジルコニウム等のセラミックなどを用いることができる。また、第二断熱材としては、中空のセラミックビーズ、中空のガラスビーズ、シリカを主成分とする微細多孔構造の断熱材などを用いることができる。また、例えば、特開2009−243352号公報や、国際公開WO09/020206号パンフレットに開示されているような遮熱膜を用いてもよい。
【0027】
こうした遮熱膜は、熱容量および熱伝導率が十分に小さいため、空気室内ガスの温度変化に追従しやすく、熱損失を低減しやすい。すなわち、通常、熱損失Qは、空気室34内の圧力やガス流に起因する熱伝達係数をh、空気室34内の表面積をA、空気室34内のガス温度をTg、空気室内ガスと接触する壁面温度をTwallとした場合、Q=A・h・(Tg−Twall)の式で表される。この式から明らかなとおり、空気室内ガスの温度Tgと、空気室34の壁面温度Twallとの差が小さくなるほど、熱損失Qも小さくなる。したがって、熱損失を低減するためには、空気室34の壁面温度Twallを空気室内ガスの温度Tgに追従させることが望まれる。そして、こうした温度追従性の高さは、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が十分に低い材料を用いることで実現される。また、単に熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が低いだけでは足りず、機械的、熱的強度が十分にあることも望まれる。遮熱膜は、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が十分に低い第二断熱材を、機械的強度が高い第一断熱材内に混合することで、機械的強度を保ちつつ、十分に低い熱伝導率および単位体積あたりの熱容量を有することができる。そして、かかる遮熱膜を空気室34の内壁に設けることにより、熱損失を効果的に低減できる。
【0028】
また、この遮熱膜を用いた場合には、空気室34の内表面温度は、空気室34が圧縮されたとき(空気室内ガスが温度上昇したとき)にのみ上昇し、定常的には上昇しにくくなる。そのため、熱伝導率の低い材料で壁面を構成する場合に比して、遮熱膜を用いた場合には、磁石の温度上昇も緩和できる。なお、効率向上のためには、燃焼室36の熱損失を低減することも望ましい。そのため、燃焼室36の内表面にも、上述したような遮熱膜を設けることが望ましい。
【0029】
シリンダ30には、ピストン32の位置を検出するセンサ44が1以上、より望ましくは複数設けられている。このセンサ44は、ピストン32の先端が横切ったことを検知するもので、例えば、光学式、渦電流式のセンサを用いることができる。図示しない制御部は、このセンサ44の検出信号から時刻ごとのピストン32の位置と速度を推定する。そして、制御部は、この推定結果に基づいて、各種バルブの開閉タイミングや、プラグ点火タイミング、燃料の供給量や供給タイミングなどを制御する。
【0030】
ピストン32は、既述したとおり、燃焼圧力および空気室34の圧縮反発力に応じて、シリンダ30内を往復運動する部材である。このピストン32の外周面には永久磁石20が埋め込まれており、発電ユニットの可動子としても機能する。
【0031】
また、本実施形態では、このピストン32の冷却効率を向上させるために、ピストン32を中空構造にするとともに、当該ピストン32およびシリンダ30に連通孔48,50を形成している。すなわち、図1に示すように、本実施形態では、ピストン32として、内部が空洞になっている中空体を用いている。そして、このピストン32およびシリンダ30のそれぞれに、連通孔48,50を形成している。ピストン32の変位に伴い、ピストン32の連通孔48とシリンダ30の連通孔50が重なると、ピストン32内部への空気流入およびピストン32内部から外部への空気流出が許容されることになる。この流入出する空気により、ピストン32が内部から冷却される。また、一部の空気は、ピストン32の外周囲にも回り込み、ピストン32を外周囲からも冷却できる。なお、この連通孔48,50の数は特に限定されず、図1に示すように二つであってもよいし、図2に示すように、より多数であってもよい。図2に示すように、ピストン32に多数の連通孔48を設けることにより、空気の通る位置が次々に変わり、より効率的にピストン32を冷却できる。
【0032】
このピストン32は、繰り返し述べてきたように、シリンダ30内で往復運動する。本実施形態では、シリンダ30とピストン32との摺動部(接触部)の少なくとも一部に、無潤滑で摺動させるためのコーティングを施している。このコーティングとしては、無潤滑でピストン32を往復運動させることができるものなら特に限定されないが、例えば、セラミックコーティングなどを採用することができる。かかるコーティングを施すことで、潤滑剤を供給することなく、ピストン32を往復運動させることができ、エンジンユニット14の構成をより簡易化できる。なお、このシリンダ30は、発電効率を高めるために、図3に示すように、電磁鋼板から構成されてもよい。そして、この電磁鋼板に、既述の掃気孔42や、冷却水を流すための冷却水路52を設けてもよい。
【0033】
次に、このエンジンユニット14の動作について説明する。まず、燃焼室36の内部に燃料−空気の混合気がある状態で、ピストン32が燃焼室36側(図面左側)に移動し、燃焼室36が十分に圧縮されると、点火プラグにより混合気への点火がなされる。この点火により混合気が燃焼(爆発)し、その燃焼圧力(ガス膨張力)により、ピストン32が空気室34側へと移動し、燃焼室36の膨張、空気室34の圧縮が行われる。このとき、燃焼室36では、排気バルブが開放され、燃焼室36内における既燃ガスの排気が行われる。また、ピストン32が、空気室34側へと移動することで、ピストン32により閉鎖されていた掃気孔42が徐々に開放されていき、燃焼室36への新気の取り込みが行われる。
【0034】
一方、空気室34は、燃焼圧力により移動するピストン32により圧縮されていく。この圧縮により、空気室内ガスが高温・高圧へと変化していく。ただし、空気室34には遮熱構造が設けられているため、当該高温化に伴う熱損失は大幅に抑えられている。特に、遮熱構造として、遮熱膜が用いられている場合、空気室内ガスの温度上昇に追従して、空気室34の内表面(遮熱膜の表面)も温度上昇するため、熱損失が効果的に抑えられる。また、空気室内ガスの圧縮に伴い、空気室34の内圧が過大になった場合には、調圧弁46により、内圧が上限値以下になるように調整される。これにより、エンジンユニット14の破損等が効果的に防止される。
【0035】
ピストン32が、空気室34を十分に圧縮すると、今度は、当該空気室34の圧縮空気の膨張力(反発力)により、ピストン32が燃焼室36側へと押し戻される。これにより、空気室34の膨張・燃焼室36の圧縮が開始される。ピストン32が燃焼室36側へと移動することで掃気孔42が閉鎖される。また、排気弁38の閉鎖も行われ、燃焼室36が密閉された状態となる。その状態で燃料の噴射が行われ、燃焼室36内に新気と燃料の混合気が充填される。
【0036】
このとき、空気室34は、急激に膨張しており、空気室内ガスの温度低下が生じる。遮熱構造として、遮熱膜を採用した場合には、この空気室内ガスの温度低下に追従して、空気室34の内表面温度も低下する。そして、その結果、磁石の温度上昇を効果的に緩和することができる。また、空気室34の膨張に伴い、空気室34内の圧力が過度に低下した場合には、調圧弁46により、内圧が下限値以上になるように調整される。
【0037】
ピストン32が燃焼室36を十分に圧縮すると、点火プラグにより混合気に点火がなされる。そして、再び、ピストン32が空気室34側へ移動し、空気室34の圧縮が行われる。以降は、同様のサイクル、すなわち、燃焼室36の圧縮・空気室34の膨張、混合気燃焼、燃焼室36の膨張・空気室34の圧縮のサイクルを繰り返す。そして、このサイクルの過程で、ピストン32に埋め込まれた永久磁石20周囲の磁界が変化し、当該磁界の変化に応じて発電コイル22に、誘導起電力が発生することで、発電が行われる。なお、上述の説明では、火花点火について例示したが、圧縮着火燃焼(ディーゼル燃焼)を用いてもよいし、後述のように予混合圧縮自着火燃焼を用いてもよい。また、上述の説明では、永久磁石を用いた発電ユニットを示したが、永久磁石を用いないリラクタンス同期モータを応用して、発電ユニットを永久磁石を使わない構成としてもよい。
【0038】
次に、このエンジンユニット14の特性について図4〜図6を参照して説明する。図4は、このエンジンユニット14を駆動した際のピストン32の変位を示すグラフである。図4において、横軸は時刻を、縦軸はピストン32の変位を示している。また、図5はピストン32の速度を示すグラフであり、横軸は時刻を、縦軸はピストン32の速度を示している。さらに、図6は、燃焼室36と空気室34の圧力履歴を示すグラフである。図6において横軸は時刻を、縦軸は圧力を示しており、実線は燃焼室36の、破線は空気室34の圧力を示している。
【0039】
図4から明らかなとおり、本エンジンユニット14によれば、クランク機構を有したエンジンと比べ、ピストン32が上死点および下死点に留まる時間が短い。また、通常のクランク機構を持つエンジンでは、予混合圧縮自着火燃焼を用いると、ピストン上死点からピストン32が離れたタイミングでの着火(すなわち着火タイミングのズレ)が生じてしまい、等容度の低下、ひいては、燃焼効率の低下が生じる恐れがあった。一方で、フリーピストンエンジンでは、クランク機構を持たないために、ピストン上死点の位置は機構的には決まらず、予混合圧縮自着火が生じれば、その後、ピストンの慣性力のために生じる遅れ時間のあと、速やかに圧縮から膨張に転じる。その結果、等容度を高く保つことができ、結果として、効率を向上させることができる。
【0040】
次に、このリニア発電装置10による効率を、シミュレーションにより検証した結果について説明する。はじめに、シミュレーションの前提条件について説明する。燃料と新気との混合気の温度、圧力、濃度に応じて変化する着火・燃焼過程をモデル化するために、着火過程ではマルチステップShellモデルを、燃焼過程ではKongモデルを用いた。また、本シミュレーションでは、低NOx特性を実現できる予混合圧縮自着火を前提としている。
【0041】
ガス交換に関しては、一般の2ストロークエンジンと同様に、掃気孔高さDがピストンストロークLの約1/3(D=L/3)と仮定している(図7参照)。そして、燃焼室36と掃気孔42が連通すると、燃焼室36内の既燃ガスが全て0.2Mpa、330Kの空気に置換されると仮定している。冷却水への放熱に関しては、燃焼室36から冷却水への放熱、空気室34から冷却水への放熱をWoschniの式を用いてモデル化している。
【0042】
発電ユニットの発電効率については、図8のマップを用いた。これは、回転数と負荷トルクで決まる市販発電機(25KW)の発電効率をもとに作成したマップで、市販発電機の回転子回転数を、本リニア発電装置において永久磁石20が発電コイル22を横切る速度に、負荷トルクを負荷に変換したものである。発電負荷Fは、下記の式1に基づいて算出したもので、これに上述の発電効率を乗じることで、リニア発電装置10での発電量を算出した。なお、式1において、cは電磁気力係数、xはピストン32の変位を意味している。
F=c・(dx/dt) ・・・ 式1
【0043】
そして、以上のモデルと下記式2の運動方程式を組み合わせ、リニア発電装置10の動作を計算している。なお、式2において、mはピストン32質量、ΔPは燃焼室36と空気室34との圧力差、Kはピストン32断面積を示している。
m・(d2x/dt2)=ΔP・K−F ・・・ 式2
【0044】
また、ここでは、表1に示す3種類のリニア発電装置A〜Cを、シミュレーション対象とする。表1に示すとおり、リニア発電装置A〜Cは、いずれも、ボア(シリンダ30内径)が56mm、掃気孔高さが50mm、ピストン質量が1700g、燃料噴射量が10.0mg/stである。一方で、この三つのリニア発電装置A〜Cは互いに空気室の遮熱率が異なっている。すなわち、リニア発電装置Aは遮熱構造を有しておらず、リニア発電装置Bは空気室の遮熱率20%、リニア発電装置Cは空気室の遮熱率50%となっている。
【0045】
【表1】
【0046】
以上の条件でシミュレーションした結果を、表2に示す。表2に示すとおり、遮熱率が高いほど、冷損が低下し、図示熱効率、発電効率、総合効率、比出力が向上することが分かる。
【0047】
【表2】
【0048】
次に、第二実施形態のリニア発電装置10について図9を参照して説明する。このリニア発電装置10は、第一実施形態で説明したリニア発電機12を、空気室34が中央に位置するべく、同一直線上、かつ、左右対称に二つ配置したものである。つまり、このリニア発電装置10は、同一直線上に左右対称になるように配置された二つのエンジンユニット14、および、同一直線上に左右対称になるように配置された二つの発電ユニットを備えている。このリニア発電装置10においては、第一リニア発電機12aおよび第二リニア発電機12bは、そのピストン32が左右対称に動くように同期して駆動させられる。すなわち、第一リニア発電機12aのピストン32が右方向に移動して燃焼室36を圧縮開始するタイミングで、第二リニア発電機12bのピストン32も左方向に移動して燃焼室36の圧縮を開始し、第一リニア発電機12aの燃焼室36で混合気に点火するタイミングで、第二リニア発電機12bの燃焼室36でも混合気に点火する。
【0049】
このように、第一リニア発電機12aおよび第二リニア発電機12bの両方で、同一行程を同一タイミングで実行することで、二つのピストン32が左右対称に動くことになる。そして、これにより、第一リニア発電機12aおよび第二リニア発電機12bで生じる起振力を相殺することができ、エンジンの振動を低減することができる。
【0050】
ここで、これまでの説明で明らかなとおり、本実施形態のエンジンユニット14は、空気室34と燃焼室36とを有したフリーピストンエンジンであるため、従来に比して、振動を低減しつつも、気筒数の減少と小型化が可能となる。
【0051】
これについて、従来技術と比較して説明する。図11は、特許文献1等に記載されている従来のフリーピストンエンジン100の概略構成図である。図11に示すとおり、従来のフリーピストンエンジン100は、一つのピストン132の両側に燃焼室136が設けられている。そして、片側の燃焼室136で生じた燃焼圧力により押されたピストン132を、反対側の燃焼室136で生じた燃焼圧力で押し戻す動作を繰り返すことでピストン132を往復運動させていた。すなわち、従来のフリーピストンエンジン100は、二つの燃焼室136を有した二気筒構成に相当する。かかる構成の場合、起振力を打ち消すためには、図11に示すように、二つのフリーピストンエンジン100を直列に配置するか、図12に示すように四つのフリーピストンエンジン100を上下前後に並列に配置する必要がある。図11に示す構成によれば、ピストン132の動きが左右対称になり、振動を打ち消すことができる。ただし、この図11の構成は、四つの燃焼室136を有した四気筒に相当するものであり、本実施形態に比して、気筒数増加とサイズ増加を招く。また、図12の構成でも、ピストン132の動きが左右・上下対称になるため、往復方向起振力および回転モーメントの打ち消しが可能であるが、八つの燃焼室136を有した八気筒に相当するため、図11の構成以上に気筒数およびサイズが増加する。
【0052】
一方、本実施形態では、空気室34を圧縮した反動によりピストン32を押し戻す構成であり、各燃焼室36ごとに、対応するピストン32が一つ存在している。そのため、二つの燃焼室36に対応する二つのピストン32を左右対称に駆動することが容易であり、結果として、燃焼室36が二つだけ存在する二気筒構成(すなわち図9に示す構成)であっても、往復方向(気筒軸方向)起振力を打ち消すことができる。さらに、同一直線上の配置のため回転モーメントも発生しない。その結果、より少ない気筒かつ小さいサイズで、振動が低減されたリニア発電装置10が得られる。
【0053】
なお、図9では、二つのピストン32の間に介在する空気室34が二つに分離された構成となっている。換言すれば、二つのエンジンユニット14が互いに別々の空気室34を用いる構成となっている。しかし、図10に示すように、二つのピストン32の間に介在する壁を取り除いて、二つのエンジンユニット14で、一つの空気室34を共有するようにしてもよい。かかる構成であっても、ピストン32は左右対称に動くことができ、往復方向起振力を打ち消すことができ、回転モーメントも発生しない。
【符号の説明】
【0054】
10 リニア発電装置、12 リニア発電機、14 エンジンユニット、20 永久磁石、22 発電コイル、30 シリンダ、32 ピストン、34 空気室、36 燃焼室、38 排気弁、40 燃料噴射弁、42 掃気孔、44 センサ、46 調圧弁、48,50 連通孔、52 冷却水路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク機構を用いることなく、シリンダ内でピストンを往復運動させるフリーピストンエンジンの動きを利用して発電するフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クランク機構を用いることなく、シリンダ内でピストンを往復運動させるフリーピストンエンジンが広く知られている。また、一部においては、このフリーピストンエンジンを備えた発電装置も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フリーピストンエンジンの動きを利用して発電するフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置が開示されている。この発電装置は、同一直線状に対向して配置し、行程をずらして運転される左右一対のフリーピストンエンジンと、当該エンジンのピストン同士を連結して往復運動する磁石部を備えたシャフト部と、磁石部の周囲に磁界を生じさせる機構と、を備えており、シャフト部の往復運動により発電する。
【0004】
また、特許文献2には、シリンダ内に対向配置された二つのピストンの間に燃焼室を、各ピストンの燃焼室とは反対側に空気室を、設けたフリーピストンエンジンが開示されている。このフリーピストンエンジンでは、燃焼室で燃料燃焼させた際の燃焼圧力、および、当該燃焼圧力を受けて移動するピストンにより圧縮された空気室の圧縮反力によりピストンを往復運動させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−241302号公報
【特許文献2】実開昭58−139532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうしたフリーピストンエンジンは、小型化に有利な内燃機関として期待されている。しかし、従来のフリーピストンエンジンは、過大な振動が生じやすかったり、効率が悪かったり、といった問題があった。例えば、特許文献1記載のフリーピストンエンジンでは、二つのピストンが左右非対称の動きをするため、駆動時に大きな振動が生じやすかった。この問題を避けるためには、左右対称になるように、二つまたは四つのフリーピストンエンジンを配置することが考えられる。しかし、この場合、燃焼室(気筒に相当)が四つまたは八つになるため、気筒数の増加とサイズ大型化という新たな問題が生じる。
【0007】
また、特許文献2に記載のフリーピストンエンジンは、二つのピストンが左右対称に動くため、振動の発生を抑制・低減できるものの、燃焼圧力で押された空気室が、高温・高圧となって、熱の損失を生じ、効率が低下するという問題があった。また、この特許文献2では、ピストンの動きを直接利用した発電はなされておらず、必ずしも効率的とはいえなかった。
【0008】
そこで、本発明では、より効率的なフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置は、シリンダ内でピストンを往復運動させるエンジンユニットと、前記ピストンの往復運動に応じて発電する発電ユニットと、からなるリニア発電機を1以上備えたフリーピストン駆動リニア発電装置であって、前記エンジンユニットは、シリンダ内に往復運動自在に配されたピストンと、前記ピストンの両側に設けられ、前記ピストンの往復運動に伴い体積変化する燃焼室および空気室と、を備え、前記発電ユニットは、前記ピストンと、当該ピストンの外周囲に固定されたコイルと、を備え、前記ピストンの往復運動に伴い発電するリニア発電機であり、前記ピストンは、前記燃焼室での燃料および空気の混合気の燃焼時に生じる燃焼圧力および前記燃焼圧力により圧縮された空気室内ガスの反発力によりシリンダ内で往復運動する、ことを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、前記ピストンには、永久磁石が埋め込まれており、前記発電ユニットは、前記ピストンの往復運動に伴い、前記永久磁石と前記コイルとの相対位置関係が変化することで発電する。
【0011】
他の好適な態様では、同一線上に左右対称になるように配置された二個のリニア発電機を備え、前記二つのリニア発電機に設けられた二つのエンジンユニットそれぞれのピストンが左右対称に往復運動するべく、二つのエンジンユニットが同期して動作する。この場合、前記二つのリニア発電機に設けられた二つのエンジンユニットは、一つの空気室を共有する、ことが望ましい。
【0012】
他の好適な態様では、前記エンジンユニットは、さらに、前記空気室の内圧を、一定範囲内に保つべく当該内圧を調整する内圧調整手段を備える。他の好適な態様では、前記シリンダの内側面のうち、往復運動するピストンとの接触部分の少なくとも一部には、セラミックコーティングが施されている。他の好適な態様では、前記燃焼室には、前記シリンダ内のピストンの位置に応じて開口面積が変化する掃気孔と、前記燃焼室からの既燃ガス排出を制御する排気弁と、が設けられている。
【0013】
他の好適な態様では、前記ピストンは、内部が空洞の中空構造であり、前記ピストンおよびシリンダには、前記ピストンの内部への空気流入および前記ピストン内部から外部への空気流出を許容する連通孔が設けられている。他の好適な態様では、前記エンジンユニットは、さらに、前記ピストンの位置を検出する位置検出手段を備える。他の好適な態様では、前記シリンダの少なくとも一部は、電磁鋼板からなる。
【0014】
他の好適な態様では、前記空気室は、空気室内ガスと外部との熱交換を阻害する遮熱構造を有する。この場合、前記遮熱構造は、前記空気室の内壁の少なくとも一部に形成され、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が前記空気室を形成する母材よりも低い遮熱膜である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ピストンの動きを直接利用して発電しているため、効率をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態であるリニア発電装置の概略構成図である。
【図2】リニア発電装置の他の一例を示す図である。
【図3】リニア発電装置の他の一例を示す図である。
【図4】エンジンユニットにおけるピストンの変位を示すグラフである。
【図5】エンジンユニットにおけるピストンの速度変化を示すグラフである。
【図6】燃焼室および空気室の圧力変化を示すグラフである。
【図7】シミュレーションで用いる各パラメータを示す図である。
【図8】シミュレーションで用いた発電効率マップである。
【図9】本発明の他の実施形態であるリニア発電装置の概略構成図である。
【図10】本発明の他の実施形態であるリニア発電装置の概略構成図である。
【図11】従来のフリーピストンエンジンの概略構成図である。
【図12】従来の他のフリーピストンエンジンの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第一実施形態であるフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置(以下「リニア発電装置」と略す)10の概略構成図である。
【0018】
このリニア発電装置10は、一つのリニア発電機12により構成されている。また、リニア発電機12は、燃焼圧力によりシリンダ30内でピストン32を往復運動させるエンジンユニット14(フリーピストンエンジン)と、当該ピストン32の動きを利用して発電を行う発電ユニットと、を備えている。発電ユニットは、固定子として機能するシリンダ30と、可動子として機能するピストン32と、から構成される。ピストン32の外側面には永久磁石20が埋め込まれており、シリンダ30の内壁(永久磁石20の外周囲)には発電コイル22が固定設置されている。エンジンユニット14の駆動によりピストン32がシリンダ30内で往復移動すると、この永久磁石20と発電コイル22との相対位置関係が変化し、これにより、永久磁石20周囲の磁界が変化する。そして、この磁界の変化に応じて発電コイル22に誘導起電力が発生する。この誘導起電力によって発電が行われ、発電により得られた電力は、図示しない制御装置を介してバッテリなどに送電される。
【0019】
エンジンユニット14は、ピストン32をシリンダ30内で往復運動させるユニットである。このエンジンユニット14には、発電ユニットの固定子としても機能するシリンダ30と、発電ユニットの可動子としても機能するピストン32と、シリンダ30内においてピストン32の両側に設けられた燃焼室36および空気室34と、を備えている。つまり、ピストン32は、燃焼室36および空気室34に挟まれている。そして、このピストン32の往復運動に伴い、燃焼室36および空気室34の体積が変化する。
【0020】
燃焼室36は、燃料と新気(空気)との混合気が燃焼させられるチャンバである。この燃焼室36には、燃料噴射弁40、点火プラグ(図示せず)、排気弁38、掃気孔42などが設けられている。燃料噴射弁40は、燃焼室36の端面(シリンダ30の閉端面)に取り付けられた弁体で、燃焼室36内に燃料を供給する。点火プラグは、燃料と新気とが混合された混合気に点火し、燃焼(爆発)を生じさせる。排気弁38は、燃焼室36の端面(シリンダ30の閉端面)に取り付けられており、燃焼後に生じる既燃ガスを外部に排出する。
【0021】
掃気孔42は、燃焼室36内に新気を取り込むためにシリンダ30の中間部分に設けられた孔である。この掃気孔42は、ピストン32の変位に応じて開口量が変化する。すなわち、ピストン32が燃焼室36側(図面左側)の端部付近に位置し、燃焼室36が圧縮された状態では、掃気孔42は、ピストン32により遮蔽された状態となる。この場合、燃焼室36への新気導入は阻害される。一方で、燃焼圧力によりピストン32が空気室34側(図面右側)へと移動すると、掃気孔が徐々に開口されていき、新気の導入が促されるようになっている。このように、空気室34寄りの位置にピストン32の変位に応じて開口量が可変となる掃気孔42を設け、反対側端部に排気弁38を設けることにより、新気の導入と、既燃ガスの排出を一方向に行うことができる。そして、これにより、既燃ガスの排出および新気の吸入を、より効率的に行うことができる。
【0022】
空気室34は、燃焼室36とは反対側に設けられ、シリンダ30とピストン32の端面により囲まれたチャンバである。この空気室34の内部に存在する空気室内ガス(空気など)は、混合気の燃焼により空気室34側に移動してきたピストン32を、燃焼室36側に押し戻す空気バネとして機能する。すなわち、燃焼室内の燃焼圧力によりピストン32が空気室34側に移動すると、空気室34が圧縮されることになる。圧縮された空気室34は、圧縮された反動で、再度、膨張するべく、ピストン32を燃焼室36側へと押し戻す。
【0023】
ここで、この空気室34の圧縮・膨張(燃焼室36の膨張・圧縮)によるピストン32の往復運動を適切に行い、エンジンユニット14の損傷などを効果的に防止するためには、空気室34の圧力が一定範囲内に収まっていることが必要となる。そこで、本実施形態では、この空気室34の圧力が一定範囲内に収まるように、空気室34に圧力を調整する調圧弁46を設けている。この調圧弁46は、空気室34の圧力が上限値を超えた場合には、空気室34の内気を外部に流出させ、空気室34の圧力が下限値を下回った場合には外気を空気室34に流入させ、圧力を一定範囲内に保つ。この調圧弁46としては、例えば、圧力センサ(図示せず)と、当該圧力センサの検出値に応じて開閉する電磁弁と、を組み合わせたものでもよいし、一定圧力で機械的に開閉する機械式バルブ、例えば、ダックビルバルブなどであってもよい。
【0024】
ここで、燃焼圧力により圧縮された空気室34の内部は、空気室内ガス(空気)の圧縮により高圧・高温になり、熱損失が増加して、効率が低下するという問題があった。本実施形態では、空気室34での熱損失を低減し、発電効率を向上させるために、空気室34に、空気室内ガスと外部との熱交換を阻害する遮熱構造を設けている。
【0025】
この遮熱構造としては、種々の形態が考えられるが、例えば、当該空気室34の内壁の少なくとも一部を熱伝導率の低い材料で構成することで遮熱構造を実現してもよい。熱伝導率の低い材料としては、例えば、セラミックが挙げられる。こうした材料で、空気室34を構成するシリンダ30の内壁面およびピストン32の端部を構成することにより、外部との熱交換が妨げられ、熱損失を低減できる。
【0026】
また、別の形態として、空気室34の内壁の少なくとも一部に遮熱膜を形成してもよい。遮熱膜は、熱伝導率・熱容量が十分に小さい膜体である。こうした遮熱膜としては、例えば、空気室34を形成する母材(シリンダ30およびピストン32)よりも低い熱伝導率を有した膜状の第一断熱材の内部に、単位体積あたりの熱容量および熱伝導率が母材および第一断熱材のいずれよりも低い第二断熱材を混入させた膜体を用いることが望ましい。ここで第一断熱材としては、ジルコニアやシリコン、チタン、ジルコニウム等のセラミックなどを用いることができる。また、第二断熱材としては、中空のセラミックビーズ、中空のガラスビーズ、シリカを主成分とする微細多孔構造の断熱材などを用いることができる。また、例えば、特開2009−243352号公報や、国際公開WO09/020206号パンフレットに開示されているような遮熱膜を用いてもよい。
【0027】
こうした遮熱膜は、熱容量および熱伝導率が十分に小さいため、空気室内ガスの温度変化に追従しやすく、熱損失を低減しやすい。すなわち、通常、熱損失Qは、空気室34内の圧力やガス流に起因する熱伝達係数をh、空気室34内の表面積をA、空気室34内のガス温度をTg、空気室内ガスと接触する壁面温度をTwallとした場合、Q=A・h・(Tg−Twall)の式で表される。この式から明らかなとおり、空気室内ガスの温度Tgと、空気室34の壁面温度Twallとの差が小さくなるほど、熱損失Qも小さくなる。したがって、熱損失を低減するためには、空気室34の壁面温度Twallを空気室内ガスの温度Tgに追従させることが望まれる。そして、こうした温度追従性の高さは、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が十分に低い材料を用いることで実現される。また、単に熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が低いだけでは足りず、機械的、熱的強度が十分にあることも望まれる。遮熱膜は、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が十分に低い第二断熱材を、機械的強度が高い第一断熱材内に混合することで、機械的強度を保ちつつ、十分に低い熱伝導率および単位体積あたりの熱容量を有することができる。そして、かかる遮熱膜を空気室34の内壁に設けることにより、熱損失を効果的に低減できる。
【0028】
また、この遮熱膜を用いた場合には、空気室34の内表面温度は、空気室34が圧縮されたとき(空気室内ガスが温度上昇したとき)にのみ上昇し、定常的には上昇しにくくなる。そのため、熱伝導率の低い材料で壁面を構成する場合に比して、遮熱膜を用いた場合には、磁石の温度上昇も緩和できる。なお、効率向上のためには、燃焼室36の熱損失を低減することも望ましい。そのため、燃焼室36の内表面にも、上述したような遮熱膜を設けることが望ましい。
【0029】
シリンダ30には、ピストン32の位置を検出するセンサ44が1以上、より望ましくは複数設けられている。このセンサ44は、ピストン32の先端が横切ったことを検知するもので、例えば、光学式、渦電流式のセンサを用いることができる。図示しない制御部は、このセンサ44の検出信号から時刻ごとのピストン32の位置と速度を推定する。そして、制御部は、この推定結果に基づいて、各種バルブの開閉タイミングや、プラグ点火タイミング、燃料の供給量や供給タイミングなどを制御する。
【0030】
ピストン32は、既述したとおり、燃焼圧力および空気室34の圧縮反発力に応じて、シリンダ30内を往復運動する部材である。このピストン32の外周面には永久磁石20が埋め込まれており、発電ユニットの可動子としても機能する。
【0031】
また、本実施形態では、このピストン32の冷却効率を向上させるために、ピストン32を中空構造にするとともに、当該ピストン32およびシリンダ30に連通孔48,50を形成している。すなわち、図1に示すように、本実施形態では、ピストン32として、内部が空洞になっている中空体を用いている。そして、このピストン32およびシリンダ30のそれぞれに、連通孔48,50を形成している。ピストン32の変位に伴い、ピストン32の連通孔48とシリンダ30の連通孔50が重なると、ピストン32内部への空気流入およびピストン32内部から外部への空気流出が許容されることになる。この流入出する空気により、ピストン32が内部から冷却される。また、一部の空気は、ピストン32の外周囲にも回り込み、ピストン32を外周囲からも冷却できる。なお、この連通孔48,50の数は特に限定されず、図1に示すように二つであってもよいし、図2に示すように、より多数であってもよい。図2に示すように、ピストン32に多数の連通孔48を設けることにより、空気の通る位置が次々に変わり、より効率的にピストン32を冷却できる。
【0032】
このピストン32は、繰り返し述べてきたように、シリンダ30内で往復運動する。本実施形態では、シリンダ30とピストン32との摺動部(接触部)の少なくとも一部に、無潤滑で摺動させるためのコーティングを施している。このコーティングとしては、無潤滑でピストン32を往復運動させることができるものなら特に限定されないが、例えば、セラミックコーティングなどを採用することができる。かかるコーティングを施すことで、潤滑剤を供給することなく、ピストン32を往復運動させることができ、エンジンユニット14の構成をより簡易化できる。なお、このシリンダ30は、発電効率を高めるために、図3に示すように、電磁鋼板から構成されてもよい。そして、この電磁鋼板に、既述の掃気孔42や、冷却水を流すための冷却水路52を設けてもよい。
【0033】
次に、このエンジンユニット14の動作について説明する。まず、燃焼室36の内部に燃料−空気の混合気がある状態で、ピストン32が燃焼室36側(図面左側)に移動し、燃焼室36が十分に圧縮されると、点火プラグにより混合気への点火がなされる。この点火により混合気が燃焼(爆発)し、その燃焼圧力(ガス膨張力)により、ピストン32が空気室34側へと移動し、燃焼室36の膨張、空気室34の圧縮が行われる。このとき、燃焼室36では、排気バルブが開放され、燃焼室36内における既燃ガスの排気が行われる。また、ピストン32が、空気室34側へと移動することで、ピストン32により閉鎖されていた掃気孔42が徐々に開放されていき、燃焼室36への新気の取り込みが行われる。
【0034】
一方、空気室34は、燃焼圧力により移動するピストン32により圧縮されていく。この圧縮により、空気室内ガスが高温・高圧へと変化していく。ただし、空気室34には遮熱構造が設けられているため、当該高温化に伴う熱損失は大幅に抑えられている。特に、遮熱構造として、遮熱膜が用いられている場合、空気室内ガスの温度上昇に追従して、空気室34の内表面(遮熱膜の表面)も温度上昇するため、熱損失が効果的に抑えられる。また、空気室内ガスの圧縮に伴い、空気室34の内圧が過大になった場合には、調圧弁46により、内圧が上限値以下になるように調整される。これにより、エンジンユニット14の破損等が効果的に防止される。
【0035】
ピストン32が、空気室34を十分に圧縮すると、今度は、当該空気室34の圧縮空気の膨張力(反発力)により、ピストン32が燃焼室36側へと押し戻される。これにより、空気室34の膨張・燃焼室36の圧縮が開始される。ピストン32が燃焼室36側へと移動することで掃気孔42が閉鎖される。また、排気弁38の閉鎖も行われ、燃焼室36が密閉された状態となる。その状態で燃料の噴射が行われ、燃焼室36内に新気と燃料の混合気が充填される。
【0036】
このとき、空気室34は、急激に膨張しており、空気室内ガスの温度低下が生じる。遮熱構造として、遮熱膜を採用した場合には、この空気室内ガスの温度低下に追従して、空気室34の内表面温度も低下する。そして、その結果、磁石の温度上昇を効果的に緩和することができる。また、空気室34の膨張に伴い、空気室34内の圧力が過度に低下した場合には、調圧弁46により、内圧が下限値以上になるように調整される。
【0037】
ピストン32が燃焼室36を十分に圧縮すると、点火プラグにより混合気に点火がなされる。そして、再び、ピストン32が空気室34側へ移動し、空気室34の圧縮が行われる。以降は、同様のサイクル、すなわち、燃焼室36の圧縮・空気室34の膨張、混合気燃焼、燃焼室36の膨張・空気室34の圧縮のサイクルを繰り返す。そして、このサイクルの過程で、ピストン32に埋め込まれた永久磁石20周囲の磁界が変化し、当該磁界の変化に応じて発電コイル22に、誘導起電力が発生することで、発電が行われる。なお、上述の説明では、火花点火について例示したが、圧縮着火燃焼(ディーゼル燃焼)を用いてもよいし、後述のように予混合圧縮自着火燃焼を用いてもよい。また、上述の説明では、永久磁石を用いた発電ユニットを示したが、永久磁石を用いないリラクタンス同期モータを応用して、発電ユニットを永久磁石を使わない構成としてもよい。
【0038】
次に、このエンジンユニット14の特性について図4〜図6を参照して説明する。図4は、このエンジンユニット14を駆動した際のピストン32の変位を示すグラフである。図4において、横軸は時刻を、縦軸はピストン32の変位を示している。また、図5はピストン32の速度を示すグラフであり、横軸は時刻を、縦軸はピストン32の速度を示している。さらに、図6は、燃焼室36と空気室34の圧力履歴を示すグラフである。図6において横軸は時刻を、縦軸は圧力を示しており、実線は燃焼室36の、破線は空気室34の圧力を示している。
【0039】
図4から明らかなとおり、本エンジンユニット14によれば、クランク機構を有したエンジンと比べ、ピストン32が上死点および下死点に留まる時間が短い。また、通常のクランク機構を持つエンジンでは、予混合圧縮自着火燃焼を用いると、ピストン上死点からピストン32が離れたタイミングでの着火(すなわち着火タイミングのズレ)が生じてしまい、等容度の低下、ひいては、燃焼効率の低下が生じる恐れがあった。一方で、フリーピストンエンジンでは、クランク機構を持たないために、ピストン上死点の位置は機構的には決まらず、予混合圧縮自着火が生じれば、その後、ピストンの慣性力のために生じる遅れ時間のあと、速やかに圧縮から膨張に転じる。その結果、等容度を高く保つことができ、結果として、効率を向上させることができる。
【0040】
次に、このリニア発電装置10による効率を、シミュレーションにより検証した結果について説明する。はじめに、シミュレーションの前提条件について説明する。燃料と新気との混合気の温度、圧力、濃度に応じて変化する着火・燃焼過程をモデル化するために、着火過程ではマルチステップShellモデルを、燃焼過程ではKongモデルを用いた。また、本シミュレーションでは、低NOx特性を実現できる予混合圧縮自着火を前提としている。
【0041】
ガス交換に関しては、一般の2ストロークエンジンと同様に、掃気孔高さDがピストンストロークLの約1/3(D=L/3)と仮定している(図7参照)。そして、燃焼室36と掃気孔42が連通すると、燃焼室36内の既燃ガスが全て0.2Mpa、330Kの空気に置換されると仮定している。冷却水への放熱に関しては、燃焼室36から冷却水への放熱、空気室34から冷却水への放熱をWoschniの式を用いてモデル化している。
【0042】
発電ユニットの発電効率については、図8のマップを用いた。これは、回転数と負荷トルクで決まる市販発電機(25KW)の発電効率をもとに作成したマップで、市販発電機の回転子回転数を、本リニア発電装置において永久磁石20が発電コイル22を横切る速度に、負荷トルクを負荷に変換したものである。発電負荷Fは、下記の式1に基づいて算出したもので、これに上述の発電効率を乗じることで、リニア発電装置10での発電量を算出した。なお、式1において、cは電磁気力係数、xはピストン32の変位を意味している。
F=c・(dx/dt) ・・・ 式1
【0043】
そして、以上のモデルと下記式2の運動方程式を組み合わせ、リニア発電装置10の動作を計算している。なお、式2において、mはピストン32質量、ΔPは燃焼室36と空気室34との圧力差、Kはピストン32断面積を示している。
m・(d2x/dt2)=ΔP・K−F ・・・ 式2
【0044】
また、ここでは、表1に示す3種類のリニア発電装置A〜Cを、シミュレーション対象とする。表1に示すとおり、リニア発電装置A〜Cは、いずれも、ボア(シリンダ30内径)が56mm、掃気孔高さが50mm、ピストン質量が1700g、燃料噴射量が10.0mg/stである。一方で、この三つのリニア発電装置A〜Cは互いに空気室の遮熱率が異なっている。すなわち、リニア発電装置Aは遮熱構造を有しておらず、リニア発電装置Bは空気室の遮熱率20%、リニア発電装置Cは空気室の遮熱率50%となっている。
【0045】
【表1】
【0046】
以上の条件でシミュレーションした結果を、表2に示す。表2に示すとおり、遮熱率が高いほど、冷損が低下し、図示熱効率、発電効率、総合効率、比出力が向上することが分かる。
【0047】
【表2】
【0048】
次に、第二実施形態のリニア発電装置10について図9を参照して説明する。このリニア発電装置10は、第一実施形態で説明したリニア発電機12を、空気室34が中央に位置するべく、同一直線上、かつ、左右対称に二つ配置したものである。つまり、このリニア発電装置10は、同一直線上に左右対称になるように配置された二つのエンジンユニット14、および、同一直線上に左右対称になるように配置された二つの発電ユニットを備えている。このリニア発電装置10においては、第一リニア発電機12aおよび第二リニア発電機12bは、そのピストン32が左右対称に動くように同期して駆動させられる。すなわち、第一リニア発電機12aのピストン32が右方向に移動して燃焼室36を圧縮開始するタイミングで、第二リニア発電機12bのピストン32も左方向に移動して燃焼室36の圧縮を開始し、第一リニア発電機12aの燃焼室36で混合気に点火するタイミングで、第二リニア発電機12bの燃焼室36でも混合気に点火する。
【0049】
このように、第一リニア発電機12aおよび第二リニア発電機12bの両方で、同一行程を同一タイミングで実行することで、二つのピストン32が左右対称に動くことになる。そして、これにより、第一リニア発電機12aおよび第二リニア発電機12bで生じる起振力を相殺することができ、エンジンの振動を低減することができる。
【0050】
ここで、これまでの説明で明らかなとおり、本実施形態のエンジンユニット14は、空気室34と燃焼室36とを有したフリーピストンエンジンであるため、従来に比して、振動を低減しつつも、気筒数の減少と小型化が可能となる。
【0051】
これについて、従来技術と比較して説明する。図11は、特許文献1等に記載されている従来のフリーピストンエンジン100の概略構成図である。図11に示すとおり、従来のフリーピストンエンジン100は、一つのピストン132の両側に燃焼室136が設けられている。そして、片側の燃焼室136で生じた燃焼圧力により押されたピストン132を、反対側の燃焼室136で生じた燃焼圧力で押し戻す動作を繰り返すことでピストン132を往復運動させていた。すなわち、従来のフリーピストンエンジン100は、二つの燃焼室136を有した二気筒構成に相当する。かかる構成の場合、起振力を打ち消すためには、図11に示すように、二つのフリーピストンエンジン100を直列に配置するか、図12に示すように四つのフリーピストンエンジン100を上下前後に並列に配置する必要がある。図11に示す構成によれば、ピストン132の動きが左右対称になり、振動を打ち消すことができる。ただし、この図11の構成は、四つの燃焼室136を有した四気筒に相当するものであり、本実施形態に比して、気筒数増加とサイズ増加を招く。また、図12の構成でも、ピストン132の動きが左右・上下対称になるため、往復方向起振力および回転モーメントの打ち消しが可能であるが、八つの燃焼室136を有した八気筒に相当するため、図11の構成以上に気筒数およびサイズが増加する。
【0052】
一方、本実施形態では、空気室34を圧縮した反動によりピストン32を押し戻す構成であり、各燃焼室36ごとに、対応するピストン32が一つ存在している。そのため、二つの燃焼室36に対応する二つのピストン32を左右対称に駆動することが容易であり、結果として、燃焼室36が二つだけ存在する二気筒構成(すなわち図9に示す構成)であっても、往復方向(気筒軸方向)起振力を打ち消すことができる。さらに、同一直線上の配置のため回転モーメントも発生しない。その結果、より少ない気筒かつ小さいサイズで、振動が低減されたリニア発電装置10が得られる。
【0053】
なお、図9では、二つのピストン32の間に介在する空気室34が二つに分離された構成となっている。換言すれば、二つのエンジンユニット14が互いに別々の空気室34を用いる構成となっている。しかし、図10に示すように、二つのピストン32の間に介在する壁を取り除いて、二つのエンジンユニット14で、一つの空気室34を共有するようにしてもよい。かかる構成であっても、ピストン32は左右対称に動くことができ、往復方向起振力を打ち消すことができ、回転モーメントも発生しない。
【符号の説明】
【0054】
10 リニア発電装置、12 リニア発電機、14 エンジンユニット、20 永久磁石、22 発電コイル、30 シリンダ、32 ピストン、34 空気室、36 燃焼室、38 排気弁、40 燃料噴射弁、42 掃気孔、44 センサ、46 調圧弁、48,50 連通孔、52 冷却水路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内でピストンを往復運動させるエンジンユニットと、前記ピストンの往復運動に応じて発電する発電ユニットと、からなるリニア発電機を1以上備えたフリーピストン駆動リニア発電装置であって、
前記エンジンユニットは、
シリンダ内に往復運動自在に配されたピストンと、
前記ピストンの両側に設けられ、前記ピストンの往復運動に伴い体積変化する燃焼室および空気室と、
を備え、
前記発電ユニットは、前記ピストンと、当該ピストンの外周囲に固定されたコイルと、を備え、前記ピストンの往復運動に伴い発電するリニア発電機であり、
前記ピストンは、前記燃焼室での燃料および空気の混合気の燃焼時に生じる燃焼圧力および前記燃焼圧力により圧縮された空気室内ガスの反発力によりシリンダ内で往復運動する、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記ピストンには、永久磁石が埋め込まれており、
前記発電ユニットは、前記ピストンの往復運動に伴い、前記永久磁石と前記コイルとの相対位置関係が変化することで発電する、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
同一線上に左右対称になるように配置された二個のリニア発電機を備え、
前記二つのリニア発電機に設けられた二つのエンジンユニットそれぞれのピストンが左右対称に往復運動するべく、二つのエンジンユニットが同期して動作する、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項4】
請求項3に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記二つのエンジンユニットは、一つの空気室を共有する、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記エンジンユニットは、さらに、前記空気室の内圧を、一定範囲内に保つべく当該内圧を調整する内圧調整手段を備える、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記シリンダの内側面のうち、往復運動するピストンとの接触部分の少なくとも一部には、セラミックコーティングが施されている、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記燃焼室には、前記シリンダ内のピストンの位置に応じて開口面積が変化する掃気孔と、前記燃焼室からの既燃ガス排出を制御する排気弁と、が設けられている、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記ピストンは、内部が空洞の中空構造であり、
前記ピストンおよびシリンダには、前記ピストンの内部への空気流入および前記ピストン内部から外部への空気流出を許容する連通孔が設けられている、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記エンジンユニットは、さらに、前記ピストンの位置を検出する位置検出手段を備える、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記シリンダの少なくとも一部は、電磁鋼板からなる、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記空気室は、空気室内ガスと外部との熱交換を阻害する遮熱構造を有する、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項12】
請求項11に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記遮熱構造は、前記空気室の内壁の少なくとも一部に形成され、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が前記空気室を形成する母材よりも低い遮熱膜である、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項1】
シリンダ内でピストンを往復運動させるエンジンユニットと、前記ピストンの往復運動に応じて発電する発電ユニットと、からなるリニア発電機を1以上備えたフリーピストン駆動リニア発電装置であって、
前記エンジンユニットは、
シリンダ内に往復運動自在に配されたピストンと、
前記ピストンの両側に設けられ、前記ピストンの往復運動に伴い体積変化する燃焼室および空気室と、
を備え、
前記発電ユニットは、前記ピストンと、当該ピストンの外周囲に固定されたコイルと、を備え、前記ピストンの往復運動に伴い発電するリニア発電機であり、
前記ピストンは、前記燃焼室での燃料および空気の混合気の燃焼時に生じる燃焼圧力および前記燃焼圧力により圧縮された空気室内ガスの反発力によりシリンダ内で往復運動する、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記ピストンには、永久磁石が埋め込まれており、
前記発電ユニットは、前記ピストンの往復運動に伴い、前記永久磁石と前記コイルとの相対位置関係が変化することで発電する、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
同一線上に左右対称になるように配置された二個のリニア発電機を備え、
前記二つのリニア発電機に設けられた二つのエンジンユニットそれぞれのピストンが左右対称に往復運動するべく、二つのエンジンユニットが同期して動作する、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項4】
請求項3に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記二つのエンジンユニットは、一つの空気室を共有する、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記エンジンユニットは、さらに、前記空気室の内圧を、一定範囲内に保つべく当該内圧を調整する内圧調整手段を備える、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記シリンダの内側面のうち、往復運動するピストンとの接触部分の少なくとも一部には、セラミックコーティングが施されている、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記燃焼室には、前記シリンダ内のピストンの位置に応じて開口面積が変化する掃気孔と、前記燃焼室からの既燃ガス排出を制御する排気弁と、が設けられている、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記ピストンは、内部が空洞の中空構造であり、
前記ピストンおよびシリンダには、前記ピストンの内部への空気流入および前記ピストン内部から外部への空気流出を許容する連通孔が設けられている、
ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記エンジンユニットは、さらに、前記ピストンの位置を検出する位置検出手段を備える、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記シリンダの少なくとも一部は、電磁鋼板からなる、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記空気室は、空気室内ガスと外部との熱交換を阻害する遮熱構造を有する、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【請求項12】
請求項11に記載のフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置であって、
前記遮熱構造は、前記空気室の内壁の少なくとも一部に形成され、熱伝導率および単位体積あたりの熱容量が前記空気室を形成する母材よりも低い遮熱膜である、ことを特徴とするフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−21461(P2012−21461A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159890(P2010−159890)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
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