説明

フルオロポリマー発泡体、その作製方法およびその適用

独立気泡フルオロポリマー発泡体は、フルオロポリマー樹脂を不活性ガスに、高圧力かつ樹脂の軟化点より上の温度で供し、温度を樹脂の軟化点より上に維持しながら圧力を低下させて、樹脂の発泡をもたらすことにより調製される。低密度、高品質の製品がもたらされるように、樹脂を、発泡前に架橋する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリマー発泡体、その作製方法およびその適用に関する。
【背景技術】
【0002】
高品質発泡体が、フルオロポリマー樹脂に不活性ガスを高圧で含浸させ、次いで、圧力を低下させて該材料を発泡させることにより作製される。含浸および発泡が通常の軟化点より上の温度で良好に起こるのを可能にするため、樹脂を架橋する。得られる発泡体は、任意の所望の形状、例えば、パイプ、シート、テープ、ブロックおよび棒状に、切断、溶接、熱成形および接着などの手法を用いて加工し得る。あるいはまた、フルオロポリマー樹脂を、例えば、含浸されたフルオロポリマー樹脂を金型内で発泡させることにより直接所望の形状に発泡させてもよい。これらは、低密度または電気絶縁もしくは断熱が要求される場合の適用用途に有用である。これらは、高純度、低抽出率、高放射線およびUV抵抗性、耐薬品性、耐熱性ならびに低可燃性というさらなる利点を有する。
【0003】
独立気泡発泡体は、軽量、浮遊選別、断熱、電気絶縁およびクッション効果が要求される場合の適用用途に使用される材料である。種々の密度のポリエチレン、ポリスチレンおよびポリウレタンから作製された独立気泡発泡体は広く知られている。しかしながら、上記の材料から作製される発泡体は、一般論として、耐熱性、耐薬品性、耐候性および熟成特性(ageing property)が制限される。さらにまた、標準的な型のかかる発泡体は、非常に可燃性であり、臨界的適用用途、例えば、航空宇宙産業、大量輸送、船舶用、建設用、電気的(例えば、ケーブル、電子工学的、ミクロ電子工学的および半導体など)ならびに化学的(例えば、石油化学および医薬品産業におけるもの)における発泡体であって、高純度であり、かつ耐薬品性、耐候性および良好な耐火性を有する発泡体の必要性がある。フルオロポリマーから作製される発泡体は、これらの要件を満たし得る。
【0004】
US 5,885,494(du Pont)には、第1フルオロポリマーの層および前記層と接触している基材を備える複合管状構造が開示されており、ここで、第1フルオロポリマーは、該基材があまり発泡可能でないか、または全く発泡可能でないかのいずれかである温度で発泡可能である。開示されたこの方法の意図は、第1フルオロポリマー層と比べて基材の発泡を抑制することであり、そうするための方法の1つは、基材材料を架橋することである。しかしながら、第1フルオロポリマー層を架橋するという開示はない。
【0005】
WO 00/43193(Tan)には、微細気泡ポリマー発泡体の作製方法が開示されている。この方法では、ポリマーをその軟化点より上の温度まで高圧力で加熱し、次いで、圧力を完全に、または一部解放し、温度を軟化点未満に急冷(quench)する。圧力を周囲圧まで低下させた後、温度を速やかに急冷させ得るか、または圧力を一部低下させ、温度を軟化点未満に冷却し、次いで圧力を周囲圧まで低下させ得るかのいずれかである。ポリマーの架橋は開示されていない。
【0006】
US5,837,173(Ausimont)は、高誘電特性を有するエチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー系の発泡させた物品の作製方法に関する。この方法では、窒素を直接溶融ポリマーブレンド内に、連続的プロセスにて注入し、ポリマーの発泡をもたらす。ポリマーの架橋は開示されていない。
【0007】
US 4,843,123(Lee)には、液状フルオロポリマー成分を混合し、混合
物を耐圧チャンバ内でガスと接触した状態でゲル化させることにより、熱硬化性フルオロポリマー発泡体を形成する方法が開示されている。ゲル化したフルオロポリマーを、次いで、チャンバから取り出し、次いで、比較的低温で加熱し、フルオロポリマーの硬化と発泡を同時に行なう。
【0008】
特許US4615850およびUS4675345には、PVDFホモポリマーおよびコポリマーならびにその混合物の発泡体を作製するための、可塑化剤および核生成剤との組合せでの化学発泡剤の使用が記載されている。しかしながら、これらの発泡体は純度に欠け、気泡径があまり均質でない。さらに、特許US4425443には、ある種の化学発泡剤の使用の制限、特に、起こり得る樹脂の熱分解が記載されている。特許US5883197およびUS6506809には、より良好な品質の発泡体を得るための、特定の核生成添加剤の使用が記載されている。特許EP223155およびJP06047857Aには、溶媒の使用、優先的には、フルオロポリマー発泡体用の発泡剤としてのジクロロジフルオロメタンの使用が記載されている。これらの方法は、耐薬品性および/または純度を劣化させないために注意深く除去されなければならない高価な溶媒を使用するという不都合を有する。特許JP07011037Aには、微細で均質な気泡構造、ならびに優れた難燃性、柔軟性、成形加工性およびメルトフロー特性が要求される適用用途において、架橋されたPVDFコポリマーを3〜50倍の発泡比で使用することが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、一般的に、添加剤を全く使用しない高品質フルオロポリマー発泡体の作製を可能にする方法およびこの方法によって作製される製品に関する。フルオロポリマー樹脂は、不活性ガスに高温圧力で供されると、ある一定量のこれらのガスを吸収する。樹脂の軟化点より上の温度での圧力の低下は、これらの樹脂が発泡し、非常に均質な気泡径分布および高割合の独立気泡を有する独立気泡フルオロポリマー発泡体を生成するのを可能にする。発泡段階は、ガスを樹脂内に吸収させるために使用される高圧槽内、または第2の低圧槽内で行なわれ得る。第2の槽が使用される場合、樹脂は、第1の槽内に起こる発泡を制限するために圧力下で冷却しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様において、
(a) ガスをフルオロポリマー樹脂内に推進するために、該樹脂を好ましくは大気より高い圧力の少なくとも1種類の不活性ガスに供する工程、
(a1) 該樹脂の温度をその軟化点以上に上昇させる工程、
ここで、工程(a)および(a1)は任意の順序または同時に行ない得る、および
(b) 該樹脂を発泡させて独立気泡フルオロポリマー発泡体をもたらすために、該樹脂の軟化点以上の温度を維持しながら圧力を低下させる工程
を含み、
該樹脂は好ましくは発泡前に架橋させたものである、
独立気泡フルオロポリマー発泡体の作製方法が提供される。
【0011】
驚いたことに、樹脂を発泡前に架橋することは、低密度、高品質、独立気泡発泡体製品が作製されるのを補助することがわかった。これは、分子量を増加させるため、および基層の発泡を抑制するために架橋を用いる前記のUS 5,885,494における架橋の使用とは対照的である。
【0012】
発泡前の架橋により、該方法を、材料がひどく流動することなく、半結晶性樹脂の融点より上の温度で行なうこと可能になる。該融点より上の温度で行なうことにより、ガスが
シート内に拡散する時間が縮小され、所与の圧力におけるシート内のガスの量が増加する。該方法はまた、架橋なしで行ない得るが、これは、該方法の自由度を制限する。架橋は、トリアリルシアヌレートなどの架橋剤および電子ビームまたはγ線照射の使用により得られ得る。優先的には、浸出または抽出の可能性を生じさせる化学架橋剤も架橋促進剤も使用せず、直接放射線照射架橋のみを用いる。直接的な放射線架橋のための典型的な線量は5〜200kGyの範囲であるが、優先的な範囲は25〜100kGyである。架橋後、発泡された材料は、動的損失弾性率の動的保存(storage)弾性率に対する比(タンデルタ)が、融点より10〜100℃上の温度で0.24〜0.9である。
【0013】
工程(a)での圧力は大気圧より高いことが好ましいが、理論上、必要なことは、ガスを樹脂内に推進するための圧力差だけである。
【0014】
工程(a)の時間の長さは、樹脂が何であるか、その厚さならびにガスの温度および圧力などの要素に依存する。一般的にいうと、樹脂は、ガスで飽和状態になるまで(これは、反復重量測定法を用いて経験的に決定され得る)処理する。
【0015】
工程(b)において、温度は、好ましくは、所望の発泡が達成される時間まで軟化点より上に維持する。これは、工程(b)での圧力の低下を制御することにより制御される。
【0016】
好都合には、工程(a)の前に、フルオロポリマー樹脂を所望の形状に(典型的には、厚いシートだが、他の形状も想定され得る)、当業者に知られた任意の手法、例えば、押出、射出成形または圧縮成形を用いて成形する。工程(b)は、ガスを樹脂内に吸収させるために使用される高圧槽内で行なわれ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
一実施形態では、工程(a)を高圧槽内で行ない、発泡工程(b)を第2の低圧槽内で行なう。より好ましくは、工程(b)の前に:
(a2) 圧力を、大気圧より高いが工程(a)の圧力よりも低い圧力まで低下させ、該樹脂をその軟化点未満まで冷却し、部分発泡フルオロポリマー樹脂をもたらす工程、
(a3) 部分発泡フルオロポリマー樹脂をその軟化点より上の温度まで、好ましくは空気または不活性ガスの加圧下で加熱する工程
を含む。
【0018】
工程(a2)で得られる部分発泡させた樹脂の温度は、予測される樹脂からのガスの損失を遅滞させるために周囲温度に維持され得るか、または好都合には、周囲温度未満に低下させ得る。このことは、工程(a2)と(a3)の間で利用可能な時間が、次いで工程(a3)と(b)を、より後の時点および/またはリモート位置で行ない得るように延長できるという利点を有する。
【0019】
当業者には、この目的のために、肉類および他の食料品などの傷みやすい商品の取り扱いおよび長距離移動に使用される保存および搬送用容器を使用することが認識されよう。かかる容器は、典型的には、容器の内容物を周囲温度以下(sub−ambient)の温度環境に維持する。−40℃(−40°F)まで下げた温度が用いられている。
【0020】
工程(a2)の部分発泡フルオロポリマー樹脂は、金型内で加熱してもよく、このとき、加熱は、フルオロポリマー樹脂の軟化および金型内での発泡を引き起こす。その結果、規定の形状の独立気泡フルオロポリマー発泡体加工品となる。この方法は、あらかじめ発泡させた発泡体を加熱し、次いで、所望の形状に成形する熱成形方法とは異なる。
【0021】
あるいはまた、工程(a2)の部分発泡させた樹脂を、さらなる発泡の必要性のない高
密度独立気泡フルオロポリマー発泡体の形態で保持してもよい。
【0022】
したがって、本発明の第2の態様において、
(a) ガスを樹脂内に推進するために、フルオロポリマー樹脂を少なくとも1種類の不活性ガスに供する工程、
(a1) 該樹脂の温度をその軟化点以上に上昇させる工程、
ここで、工程(a)および(a1)は任意の順序または同時に行ない得る、および
(a2) 圧力を、大気圧より高いが工程(a)の圧力よりも低い圧力まで低下させ、該樹脂をその軟化点未満まで冷却し、部分発泡フルオロポリマー樹脂をもたらす工程
を含む、独立気泡フルオロポリマー発泡体の作製方法が提供される。
【0023】
特に好ましい実施形態では、独立気泡フルオロポリマー発泡体は実質的に均質である。該方法は、好ましくは、フルオロポリマー樹脂においてのみ行ない、前記樹脂と同時に任意の他の材料においては行なわない。しかしながら、該方法の実施中に第2の樹脂が存在する場合、発泡前に架橋した樹脂が非架橋樹脂よりも多く発泡することが好ましい。
【0024】
本発明は、連続的プロセスではなくバッチプロセスに関することが、特に好ましい。換言すると、潜在的に無限の長さの樹脂が連続的プロセスにて、例えば押出機内で処理されるのではなく、別々のバッチの樹脂が圧力槽内で個々に処理される。
【0025】
本発明はまた、開示した方法によって作製されるフルオロポリマー発泡体に関し、好ましくは、VDF(ビニリデンジフルオリド)系ポリマーとその熱可塑性コポリマーのものである。
【0026】
本発明はまた、
溶接、接着、切断、ルータ加工、打抜き、スタンピング、積層および熱成形による、
任意の所望の形状、例えば、パイプ、棒状、鞘、容器、球、シート、ロールおよびテープなどへの前記フルオロポリマー発泡体の変形
浮遊選別装置における前記フルオロポリマー発泡体の使用、
断熱剤および/もしくは防音材における任意の所望の形状の前記フルオロポリマー発泡体の使用、
前記フルオロポリマー発泡体を、シート、フィルム、発泡体、織布、強化材もしくは当業者に知られた任意の他の天然もしくは合成の材料(例えば、織物もしくは皮革など)とともに、積層、接着、縫製および他の永続的もしくは一時的固定手法によって複合構造体に一体化すること、
電気絶縁における任意の所望の形状の前記フルオロポリマー発泡体の使用、
パッキング材料もしくは容器における前記フルオロポリマー発泡体の使用、
クリーンルームパネル、封止材、絶縁材および設備機器における高純度適用用途における前記フルオロポリマー発泡体の使用、
ガスケットもしくは封止材における前記フルオロポリマー発泡体の使用、
感知装置における前記フルオロポリマー発泡体の使用、
自己消火性火炎遮断材における前記フルオロポリマー発泡体の使用、または
前記使用の任意の組合せ
に関する。
【0027】
フルオロポリマーに関し、発泡可能なフルオロポリマーは、押出、射出成形、圧縮成形または当業者に知られた他の成形技術によって変形され得る型のものである。フルオロポリマーは、半結晶性または非晶質であり得、好ましくは半結晶性である。好ましくは、フルオロポリマーは、放射線架橋されたものであり得る。
【0028】
好ましくは、フルオロポリマーは、PVDF、またはPVDFとコモノマー:ヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはクロロ−トリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、かかるポリマーの2種類以上の混合物、またはECTFE(エチレンクロロトリフルオロエチレン)コポリマー、またはETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン)コポリマーである。
【0029】
フルオロポリマーおよびVDFのコポリマー、例えばKYNAR(登録商標)(Atofina)などの、VDF部分がコモノマーの総分子の割合よりも多い集合的にVDF系ポリマーは、よく知られており、広く使用されている。テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよび他の特殊な(specialty)フッ素含有モノマー系の多様なフルオロポリマーの中で、VDF系ポリマーは特異であり、改善された耐薬品性および表面特性と関連する有益な特質を有する物品を得るのに、最も広い範囲の方法の選択肢の可能性を提供する。したがって、現在使用されている広範なフルオロポリマーの中で、VDF系ポリマーは、熱可塑性樹脂を押出もしくは成形または組合せ(例えば、押出発泡フィルムおよび成形)のための典型的な加工用設備機器において溶融され得る。
【0030】
VDF系ポリマーは、VDFとHFPの共重合によって、および/または1種類以上の他のフルオロモノマー、例えば、限定されないが、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)、フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)を、ヘキサフルオロプロピレンの一部または全部と置換または付加することによって作製され得る。また、溶融加工可能で、任意の他の手段(例えば、フリーラジカル架橋)による架橋が可能な任意の他のポリマーも想定される。
【0031】
当業者には、VDFと共重合性であることがわかっている少量の第3のモノマー(HFPレベルの約10重量%まで)を、上記の樹脂内に含めてもよいことが認識されよう。かかる公知の共重合性モノマーは、例えば、少なくとも1個のフッ素原子を含有するC(3〜8)アルケン、少なくとも1個のフッ素原子を含有するアルキルビニルエーテル、フッ素結合α−α’位置を有する脂肪族または環状C(3−6)ケトン、およびフッ素無含有C(2〜4)アルケン、C(3〜6)アルキルビニルエーテルまたはC(4〜6)ビニルエステルの中から選択され得る。熱可塑性ターポリマーの一例はDyneon THVであり、これは、VDF、HFPおよびTFEのポリマーである。
【0032】
PVDFコポリマーに関し、VDFの割合は、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも85重量%である。コモノマーは、好都合には、HFP、CTFE、TFEおよびTrFEから選択される。フルオロポリマー樹脂は着色された(pigmented)ものであってもよく、他の添加剤、改質剤または強化材を含むものであってもよい。本発明の好ましい一実施形態では、該ポリマーは、機能性添加剤、例えば、火炎抑制剤および煙抑制剤または静電気防止添加剤などを含有するものであり得る。
【0033】
工程(a)の前に、フルオロポリマー樹脂を、好都合には、厚いシートの形態に押出し成形するが、任意の適当な成形プロセス、例えば、圧縮成形または射出成形が使用され得る。
【0034】
不活性ガスに関し、不活性な低沸点ガス(例えば、アルゴン、二酸化炭素および窒素ならびにかかるガスの組合せ)のみが発泡剤として使用される。不活性ガスをフルオロポリマー内に、特定の温度および圧力で拡散させると、発泡時に所定の密度が達成される。
【0035】
一実施形態では、窒素が発泡剤として使用される。これは、発泡(foaming/e
xpansion)および発泡後の段階において、より大きな制御および安定性を可能にする。
【0036】
該方法に関し、工程(a)において温度は、好ましくは、含浸中、フルオロポリマー樹脂のガラス転移より上であり、好都合には、フルオロポリマーが半結晶性である場合は融点以上である。好ましい実施形態では、融点の15〜135℃上である。当業者には、ガラス転移温度および融点は、どちらも、該方法が行なわれる圧力によって影響されることが認識されよう。
【0037】
工程(b)において温度は、フルオロポリマー樹脂の軟化点より上であり、該樹脂が充分に軟化して圧力の解放時に発泡が起こるのを可能にするようなものである。該温度は、好都合には、フルオロポリマーが半結晶性である場合は融点以上である。好ましい実施形態では、融点の15〜135℃上である。圧力を低下させると、これらの樹脂が発泡され、独立気泡フルオロポリマー発泡体が生成される。
【0038】
上記の工程(a3)において、部分発泡させたフルオロポリマー樹脂を第2の低圧槽に移し、樹脂が充分に軟化して発泡が起こる温度まで再加熱してもよい。この温度は、工程(b)で用いられるものと同じ範囲であり得る。該圧力は、好ましくは、5〜200バール、より好ましくは5〜40バール、最も好ましくは10〜20バールである。
【0039】
工程(a2)の部分発泡フルオロポリマー樹脂は、金型内で大気圧下にて加熱してもよい。加熱は、フルオロポリマー樹脂の軟化および金型内での発泡を引き起こし、所望の形状の独立気泡フルオロポリマー発泡体加工品がもたらされる。
【0040】
あるいはまた、工程(a2)の部分発泡フルオロポリマー樹脂を、高密度独立気泡フルオロポリマー発泡体の形態で保持してもよい。
【0041】
該方法の自由度のある性質の結果、2:1未満〜75:1を超える発泡比が達成され得(すなわち、発泡体密度は>1000kg/m〜<20kg/mの範囲である)、気泡径は、厳密に制御され得る。平均発泡体気泡径は、光学顕微鏡検査により、許容され得る統計的重みがもたらされる最低250気泡を測定および計測することにより測定され得る。該発泡体は非常に均質である。平均気泡径は10〜5000ミクロンの間で異なり得、標準偏差は、平均気泡径の50%未満、優先的には30%未満の値を有する。
【0042】
発泡体の使用に関し、発泡体は、通常、シートの形態で作製される。シートは、帯のこ、ウォータジェットカッター、ルータまたは当業者に知られた任意の他の手法を用いて切断され得る。発泡体は、任意の所望の厚さを有する積層体を形成するために、標準的な手法によって熱溶接され得る。シートを、任意の厚さの細片に切断してもよい。フルオロポリマー発泡体は、加熱可能な金型の使用によって多くの形状に熱成形され得る。例えば、リング、カップ、ハーフ(half)パイプ、ボウル、バケツ、球または楕円形状の物体が得られ得る。表面は、最外気泡壁のヒール(healing)効果により、緻密な表皮層(skin)を有する。シートを熱成形および固定(fix)し、配管系、船舶(vessel)および容器用の断熱層または遮音層を形成し得る。その固有の耐薬品性および放射線抵抗性ならびに耐火性が低火炎および煙発生および固有の高純度と合わさる結果、フルオロポリマー発泡体は、化学、電子工学、ミクロ電子工学的、医薬品、石油・ガス探査および産出、石油・ガス精製、建築および建設ならびに原子力産業における絶縁材の目的に、特に興味深いものである。シートは、封止材およびガスケットを形成するために、切断および/または熱成形され得る。シートは、高火炎抵抗性および低絶縁耐力を有するケーブルおよびワイヤ電気絶縁材を得るために、切断および/または熱成形され得る。フルオロポリマー発泡体から作製される物体は、耐薬品性および放射線抵抗性の浮遊物(f
loat)に成形され得る。フルオロポリマー発泡体の成形された物体は、接着剤、例えば感圧接着剤または溶媒系接着剤(例えば、5%Kynar(登録商標)721(PVDFホモポリマー、粉末形態、Atofina製、10cm/10分のMVI(melt
volume index)(230℃/5kg)を有する)をDMA(ジメチルアセタミド)に溶解した溶液)で接着することにより、または積層技術を用いることにより、他の材料とユニット化(assemble)し得る。
【実施例】
【0043】
以下のフルオロポリマーを使用した:
【0044】
【表1】

【0045】
実施例1
Kynarflex 2850−00のスラブに電子ビームを50kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を670バールの圧力まで導入した。温度を210℃まで上昇させ、スラブが窒素で飽和するまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、210℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、88kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0046】
実施例2
Kynar 460のスラブに電子ビームを50kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を670バールの圧力まで導入した。温度を185
℃まで上昇させ、スラブが窒素で飽和するまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、185℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、94kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0047】
実施例3
Kynarflex 2800−00のスラブに電子ビームを50kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を670バールの圧力まで導入した。温度を185℃まで上昇させ、スラブが窒素で部分飽和されるまで圧力を維持し、次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、185℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、81kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0048】
実施例4
Kynarflex 2850−00のスラブに電子ビームを50kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を670バールの圧力まで導入した。温度を185℃まで上昇させ、スラブが窒素で部分飽和されるまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、185℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、123kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0049】
実施例5
Kynarflex 3120−50のスラブに電子ビームを50kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を670バールの圧力まで導入した。温度を210℃まで上昇させ、スラブが窒素で飽和するまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、185℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、110kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0050】
実施例6
Kynarflex 2500−20のスラブに電子ビームを25kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を300バールの圧力まで導入した。温度を185℃まで上昇させ、スラブが窒素で飽和するまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、185℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、64kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0051】
実施例7
Kynarflex 2500−20のスラブに電子ビームを25kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を150バールの圧力まで導入した。温度を185℃まで上昇させ、スラブが窒素で飽和するまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、185℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、131kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0052】
実施例8
Kynarflex 2500−20のスラブに電子ビームを36kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を670バールの圧力まで導入した。温度を185℃まで上昇させ、スラブが窒素で飽和するまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、155℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、30kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0053】
実施例9
Kynarflex 2500−25のスラブに電子ビームを36kGyの線量まで照射した。次いで、スラブを圧力槽内に入れ、これに窒素を670バールの圧力まで導入した。温度を185℃まで上昇させ、スラブが窒素で飽和するまで圧力を維持した。次いで、圧力を下げ、圧力槽を冷却した。いったん冷却されたら、残留圧力を大気圧に解放した。部分発泡スラブを第2の槽内に入れ、17バールの窒素圧下、155℃まで再加熱した。次いで、冷却前に圧力を大気に解放し、30kg/mの密度を有する微細気泡発泡体を得た。
【0054】
これらの実施例の特性の一部を、以下に表1に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
気泡径分布を実施例番号5および8について、光学顕微鏡検査手法を用いて測定し、結果を表2に収集した。
【0057】
【表3】

【0058】
実施例番号8の発泡体に関するさらなる物性測定値は、これをISO 8067に従って試験したとき、1015N.m−1の引裂強度を有することを示す。フルオロポリマー発泡体の弾性特性は、ASTM D 3575に規定される圧縮永久ひずみ試験を用いて示され得る。23℃にて25%の圧縮を22時間での測定値は、1/2および24時間の回復で、それぞれ、6%および3%の永久ひずみが得られる。50%圧縮での同じ実験では、1/2時間および24時間の回復で、11.5%および7.5%の永久ひずみが得られる。
【0059】
実施例番号8の熱伝導性は、ISO 8301に従って0℃、40℃および80℃で測定したとき、それぞれ、0.033、0.038および0.046Wm−1−1である。
【0060】
表3は、実施例番号8の発泡体の火炎特性および発煙特性を示す。
【0061】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ガスをフルオロポリマー樹脂内に推進(drive)するために、該樹脂を大気より高い圧力の少なくとも1種類の不活性ガスに供する工程、
(a1) 該樹脂の温度をその軟化点以上に上昇させる工程、
ここで、工程(a)および(a1)は任意の順序または同時に行ない得る、および
(b) 該樹脂を発泡させて独立気泡フルオロポリマー発泡体をもたらすために、該樹脂の軟化点以上の温度を維持しながら圧力を低下させる工程
を含み、
該樹脂は発泡前に架橋させたものである、
独立気泡フルオロポリマー発泡体の作製方法。
【請求項2】
工程(b)の前に、以下の工程:
(a2) 圧力を、大気圧より高いが工程(a)の圧力よりも低い圧力まで低下させ、該樹脂をその軟化点未満まで冷却し、部分発泡フルオロポリマー樹脂をもたらす工程、
(a3) 部分発泡フルオロポリマー樹脂をその軟化点より上の温度まで、不活性ガスまたは空気の加圧下で加熱する工程
を行なう、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)を、第1の槽内の樹脂で開始し、工程(a3)の前に行ない、部分発泡させた樹脂を第2の槽に移す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a2)由来の部分発泡させた樹脂の温度を下げて該樹脂からのガスの損失を遅滞させる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
該樹脂が、電子ビームまたはガンマ放射線を照射することにより架橋されたものである、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
放射線量が5〜200kGyである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
独立気泡フルオロポリマー発泡体が実質的に均質である、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記フルオロポリマー樹脂においてのみ行ない、前記樹脂と同時に任意の他の材料においては行なわない、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
実施中に第2の樹脂が存在する場合、発泡前に架橋した樹脂が非架橋樹脂よりも多く発泡する、請求項1〜7いずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
連続的ではなくバッチプロセスである、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
フルオロポリマー樹脂が核生成体(nucleant)を実質的に含まない、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
フルオロポリマー樹脂が、工程(a)の前に、シートの形態に押出される、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
フルオロポリマー樹脂がPVDFホモポリマーである、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
フルオロポリマー樹脂がPVDFコポリマーであり、VDFの割合が少なくとも60重量%である、請求項1〜12いずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
フルオロポリマー樹脂がPVDFコポリマーであり、VDFの割合が少なくとも85重量%である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(a)において、温度が融点の15〜135℃上である、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程(a)において圧力が20〜1000バールである、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程(a)において圧力が20〜800バールである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(a3)において圧力が5〜200である、請求項2〜18いずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記圧力が5〜40バールである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程(b)において温度が融点の15〜135℃上である、前記請求項いずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記請求項いずれか1項に記載の方法によって得られ得るフルオロポリマー発泡体。
【請求項23】
浮遊選別装置における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項24】
任意の所望の形状の断熱材または防音材における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項25】
積層、接着、縫製および永続的または一時的固定手法による複合構造における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項26】
該構造が、シート、フィルム、発泡体、織布、強化材またはその任意の組合せを含む、請求項25に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項27】
任意の所望の形状の電気絶縁における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項28】
パッキング材料または容器における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項29】
クリーンルームパネル、封止材、絶縁材または設備機器(equipment)における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項30】
ガスケットまたは封止材における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項31】
自己消火性火炎遮断材における、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の使用。
【請求項32】
任意の所望の形状への溶接、接着(gluing)、切断、ルータ加工(routin
g)、打抜き、スタンピング、積層または熱成形による、請求項22に記載のフルオロポリマー発泡体の変形。
【請求項33】
任意の所望の厚さの連続もしくは半連続シート、ロールまたはテープへの請求項32に記載のフルオロポリマー発泡体の変形。

【公表番号】特表2007−534823(P2007−534823A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510113(P2007−510113)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001626
【国際公開番号】WO2005/105907
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(504395903)ゾートフォームズ、パブリック、リミテッド、カンパニー (2)
【氏名又は名称原語表記】ZOTEFOAMS PLC
【Fターム(参考)】