説明

フレキシブルディスクシステムおよびフレキシブルディスクの製造方法

【課題】可撓性を有するフレキシブルディスクを湾曲した安定化部材の空気力学的な作用で安定化させ、高速回転時にも面振れを小さく抑えて、良好な記録および再生特性を得る。
【解決手段】光ディスク20の厚さおよびヤング率と、湾曲した安定化部材30の曲率が、次の条件「0.000117≦(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)/安定化部材の曲率(mm)≦0.00771」を満足する光ディスク20と安定化部材30を用いる。これにより、光ディスク20の面振れを小さく抑え、安定させることができ、良好な記録および再生特性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有するフレキシブルディスクに対して記録および/または再生処理を行う記録/再生装置において、前記フレキシブルディスクを回転軸に固定し回転させる回転機構、フレキシブルディスクに対して記録および/または再生処理を行う手段を有するフレキシブルディスクシステム、および可撓性を構成要素として含むフレキシブルディスクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビ放送においてデジタル化が開始されるなど、大容量のデジタルデータを記録することが情報記録媒体に求められている。例えば、光ディスクの分野においては、記録および再生のために光ディスクに集光される光スポット径を小さくすることが、高密度化のための基本的な方法の一つに挙げられる(以下、光ディスクを代表として説明するが、本発明が対象とする記録/再生装置に用いられるディスク状の媒体は、相変化メモリ,光磁気メモリ,ホログラムメモリなどのディスク状の媒体すべてを対象にし、特に限定するものではない)。
【0003】
記録/再生装置において、レーザ光を絞り込んで高密度の記録および再生を行う上では、ディスク回転時におけるディスク面の振れ、すなわち面振れが小さいことが重要である。この対策のため、可撓性を有するディスク媒体を空気力学的な安定化手段を用いて面振れを安定化させる手法等が提案されている。空気力学的な安定化手段を用いる方法としては、例えば、特許文献1,2に記載がある。これら特許文献1,2に記載されているように、可撓性の媒体を記録ディスクとして用い、安定化部材の空気力学的な作用を活用することにより、安定したディスク面上での情報の記録および再生が実現可能となる。そして特許文献3ではこのような可撓性ディスクを空気安定化させる際のディスクの剛性をパラメータとし、面振れを安定化できる範囲について述べられている。
【0004】
一方で、大容量化に伴いデータ転送レートの高速化が求められている。例えば、放送用HDTVの映像録画における転送レート250Mbpsが、一つの目安となる。この転送レートをディスク全面での実現する上では、内周での高速性能を確保するために15000rpm近傍での高速駆動が必要となる。この駆動においても、記録および再生時のディスク面へのフォーカスサーボ追従の観点から、ディスク面の振れを小さくすることが肝要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では平面円板状の安定化部材を、特許文献2では円板形状で一面が凹み鞍状に湾曲した安定化部材を用いて、記録ディスク全面に作用させる形態により、安定化部材と記録ディスクの間の距離を例えば0.05〜0.30mmに調整することによって(10000rpmを超える高速回転時においても)記録ディスクの回転駆動を安定化することができる。
【0006】
これらの方法においては、記録ディスクが可撓性を有し、かつ安定化部材によるディスク振動の抑制効果が得られることから、これまでの剛体を用いたCD,DVD,BD,HD−DVD等の記録ディスクでは実用化が困難であった10000rpm以上の高速回転域で駆動できるポテンシャルを有し、特に特許文献2では実際に15000rpm付近までの高速駆動についての記述がなされている。
【0007】
しかしながら、可撓性を有する記録ディスクで、かつ15000rpmを超える高速回転での駆動となると、世の中でこれまでに前例がなく、実用上の課題は未知の領域にあった。発明者らは、特許文献2の構成をベースに、高速駆動における実用化課題について鋭意検討した結果、湾曲した安定化部材の曲率、フレキシブルディスクの材質および厚さが変化すると、同条件での安定化は困難であることがわかった。
【0008】
特許文献1,2では、厚さ約100μmのポリカーボネートを用いた光ディスクについてのみ実験されており、他の厚さ、他の材料については記述がなかった。また、特許文献3においては、安定化部材の形状が大きく異なるため、規定された範囲内のディスクを用いても安定化させることができなかった。
【0009】
本発明は、前記従来技術の問題を解決するものであり、可撓性を有するフレキシブルディスクを湾曲した安定化部材によって、空気力学的な作用で安定化させて回転駆動させるフレキシブルディスクシステムにおいて、高速回転時においても面振れを小さく抑えて安定させ、これにより、良好な記録および再生特性を得られる回転機構と、記録/再生装置を備えたフレキシブルディスクシステムおよびフレキシブルディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載したフレキシブルディスクシステムは、情報の記録および再生の少なくとも一方を行う可撓性を有するフレキシブルディスクと、フレキシブルディスクを保持して回転させるターンテーブルと、ターンテーブルとともにフレキシブルディスクを挟んで固定するためのクランパーと、フレキシブルディスクをターンテーブルとクランパーとともに回転させるスピンドルモータと、フレキシブルディスクを空気力学的な作用により安定して回転させるための円板形状で一面が凹み鞍状に湾曲した安定化部材とを具備したフレキシブルディスク駆動手段と、情報の記録/再生手段とからなるフレキシブルディスクシステムであって、フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率と、湾曲した安定化部材の曲率の関係が、「0.000117≦(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)/(安定化部材の曲率(mm))≦0.00771」の範囲であることを特徴とする。
【0011】
フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率と、湾曲した安定化部材の曲率を規定したことにより、高速回転時においても面振れを小さく抑え、安定させることができ、これにより良好な記録および再生特性を得ることができる。
【0012】
また、請求項2に記載した発明は、請求項1のフレキシブルディスクシステムにおいて、ターンテーブルに装填、保持されて回転するフレキシブルディスクを少なくとも1枚または複数枚を収納するとともに、フレキシブルディスクシステムの装置本体に着脱可能なディスクカートリッジと、フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率と、湾曲した安定化部材の曲率の関係を示す、少なくともフレキシブルディスクのヤング率および厚さ情報をあらかじめ記録しているディスクカートリッジに付属の固体メモリとを備えたことを特徴とする。
【0013】
フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率に由来する値を記録した固体メモリの情報と、湾曲した安定化部材の曲率とから規定したことにより、高速回転時においても面振れを小さく抑え、安定させることができ、これにより良好な記録および再生特性を得ることができる。
【0014】
また、請求項3に記載した発明は、請求項2のフレキシブルディスクシステムにおいて、固体メモリにあらかじめ記録しているフレキシブルディスクのヤング率および厚さ情報を読み出し、ディスクカートリッジから取り出したフレキシブルディスクと安定化部材との距離を設定することを特徴とする。
【0015】
フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率を記録した固体メモリの情報と、湾曲した安定化部材の曲率からフレキシブルディスク毎に規定でき、高速回転時においても面振れを小さく抑え、安定させることができ、これにより良好な記録および再生特性を得ることができる。
【0016】
また、請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のフレキシブルディスクシステムにおいて、安定化部材の直径がフレキシブルディスクの直径よりも大きく、フレキシブルディスクの全面を覆うことを特徴とする。
【0017】
これによりフレキシブルディスクの端部においても安定化部材の空気力学的な作用を及ぼすことができ、面振れを小さく抑え、安定させることができる。
【0018】
また、請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のフレキシブルディスクシステムにおいて、安定化部材の中心部の稜線部分に平坦部があり、平坦部の幅が5〜45mmの範囲であることを特徴とする。
【0019】
この平坦部に沿って移動することにより、フレキシブルディスクのチルトがない状態で記録および再生ができ、またフレキシブルディスクの最内周においても安定した記録および再生ができる。
【0020】
また、請求項6に記載した発明は、請求項1〜5のフレキシブルディスクシステムにおいて、安定化部材の中心部にスピンドルモータの軸を通すための孔があり、孔の内径と軸の外径の間に0.5〜45mmの空隙があることを特徴とする。
【0021】
孔の内径と軸の外径の間に異物などを摺動することなく、またフレキシブルディスク最内周においても安定した記録および再生ができる。
【0022】
また、請求項7に記載した発明は、請求項1〜6のフレキシブルディスクシステムにおいて、フレキシブルディスクの基板がポリカーボネートシートであることを特徴とする。
【0023】
これにより安価に製造した高品質なフレキシブルディスクを用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率と、湾曲した安定化部材の曲率を規定することにより、高速回転時においてもフレキシブルディスクの面振れを小さく抑え、安定させることができ、これにより良好な記録および再生特性を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態におけるフレキシブルディスクシステムの装置本体の概略構成を示す(a)は安定回転時の断面図、(b)はディスクカートリッジから取り出したフレキシブルディスクを装填する断面図、(c)は透過斜視図
【図2】本実施の形態における光ディスクを説明する図
【図3】本実施の形態における安定化部材の作用面で平坦部を説明する図
【図4】本実施の形態における各実施例の数値Mと最大面振れの関係を示す図
【図5】光ディスクの(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)と3乗)と空気力学的に安定化する最大ギャップ値との関係を示す図
【図6】ギャップ値により空気力学的に安定化する変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
図1は本発明の実施の形態におけるフレキシブルディスクシステムの装置本体の概略構成を示す(a)はフレキシブルディスクの安定回転時の断面図、(b)はディスクカートリッジから取り出したフレキシブルディスクを装填する断面図、(c)は透過斜視図である。
【0028】
本実施の形態に係る装置本体10は、可撓性のあるフレキシブルディスク(以下、光ディスクという)20に対し情報の記録および再生を行うことが可能な装置である。そして装置本体10は、図1(a)に示されるように、光ディスク駆動手段を構成するZ軸に平行な回転軸22aを有するスピンドルモータ(以下、モータという)22、このモータ22の回転軸22aの+Z側端部に固定されたスピンドルシャフト24、光ディスク20の回転を安定させる安定化部材30、記録/再生手段(図示せず)に接続され光ディスク20に対し情報の記録および再生の少なくとも一方を行うピックアップ26、およびピックアップ26並びにモータ22を制御する不図示の制御部などを備えている。
【0029】
図1(b)は光ディスク駆動手段およびディスクカートリッジ11を示すものである。ディスクカートリッジ11は光ディスク20を収納(図では5枚)しており、外側には固体メモリ12が貼付されている。装置本体にディスクカートリッジ11が装填されると、光ディスクがディスクカートリッジ11から取り出され、回転駆動するスピンドルシャフト24にチャックされることで光ディスク20が回転し情報の記録、再生を行う。
【0030】
また、図1(c)に示すように装置本体10にはディスクカートリッジ11の固体メモリ12にアクセスする電極板13が設けられている。ディスクカートリッジ11を装置本体10に装填すると、電極板13が固体メモリ12に接触し、固体メモリ12から光ディスクの厚さや材質に関わる情報を読み取って、これに対応した光ディスク20と安定化部材30の距離の設定を行う。
【0031】
また、図1(b)に示すように光ディスク20は、装置本体10にディスクカートリッジ11を装填した後、ディスク搬送機構(図示せず)が個々の光ディスク20をディスクカートリッジ11から取り出して、図1(a)の大径部24a(ターンテーブル)に載置する。いわゆる、ディスクチェンジャのような動作により、ディスクカートリッジ11内部から取り出された光ディスク20を回転させる構成であって、光ディスク20の回転中は、安定化部材30に近接しているが、ディスクカートリッジ11からは離れている。
【0032】
図2は光ディスクを説明する図であり、(表1)に示すディスク基板を用いた光ディスク20について詳細に説明する。光ディスク20としては、図2に示されるように、樹脂シートを外径120mmで中央に丸孔が形成された円形板状にカットしたものをディスク基板とし、このシート20aの−Z側の内周直径50mmから外周直径116mmまでの領域20b(図2に示す着色部分)に記録層が成膜された可撓性を有する光ディスク20が用いられる。
【0033】
【表1】

【0034】
光ディスク20はスピンディスクに装着したスタンパを高速回転させて、紫外線光硬化樹脂を延展することにより転写層を形成し、転写層上にシート部材(ディスク基板)を積層し、転写層に紫外線を照射してこれを硬化させ、その後にスタンパと剥離させ、さらに、スパッタリングにより順次厚さ120nmのAg反射層、厚さ7nmの(ZrO−Y)−SiO層、厚さ10nmのAgInSbTeGe層、厚さ25nmのZnS−SiO層、厚さ10nmのSi層を成膜することにより形成されている。
【0035】
なお、薄型の光ディスクの使い方として記録再生に用いる光を、ディスク基板を透過させて使う方法と、記録膜面に直接光を入射させてディスク基板には光を透過させずに使う方法がある。この観点から、ポリカーボネートは複屈折が小さい等の光学特性に優れており、前述のどちらの方法にも対応することができるが、ポリエチレンテレフタレートは複屈折が大きく、記録膜面への直接光入射の方法しか対応できない。このため、(表1)にはディスク基板として、ポリカーボネートとポリエチレンテレフタレートを例示しているが、光ディスクとして要求される光学特性の点で提供範囲が広くより好ましくは、ポリカーボネートのシート部材をディスク基板として用いることで、安価で高品質の光ディスクを製造することができる。
【0036】
また、光ディスク20の表裏面には、記録層やディスク基板の保護のために、スピンコートしたUV樹脂に紫外線を照射して硬化することにより厚さ10μmの透明保護膜が形成され、中央部には、例えば、厚さ0.1mm、外径30mmで中心部に内径15mmの丸孔が形成された円形プレート20cが、その中心がシート20aの中心と一致するように取り付けられている。ここで、説明の便宜上図2に示されるように、光ディスク20の中心oを原点とするXY座標系を定義する。
【0037】
安定化部材30は、図1,図3に示すように、中央に直径32mmの円形開口が形成された外径125mmの高さの低い円柱状部材(円板形状)であり、+Z側の面がハウジング10の天井面に固定され、−Z側の面は光ディスク20に対向する裏面が鞍状に一方向のみ湾曲した凹形状の湾曲面(以下、作用面ともいう)となっている。安定化部材30の作用面は曲率半径900mmで湾曲させた単純湾曲面である。
【0038】
なお、安定化部材30の外径を光ディスク20の外径よりも大きくし、光ディスク20の全面を覆うことにより、光ディスク20の端部にも安定化部材30の空気力学的作用を及ぼすことができ、面振れを小さく抑えることができる。
【0039】
図1(a)に戻り、スピンドルシャフト24は、円柱状の大径部24a(ターンテーブル)と、この大径部24aの上端に設けられた小径部24b(クランパー)とを有する段付き円柱状の部材である。光ディスク20は、図2に示す円形プレート20cの丸孔にスピンドルシャフト24の回転軸22aが挿入され、大径部24a(ターンテーブル)の上面によって下方から支持され、小径部24b(クランパー)により挟むことで固定保持される。さらに、光ディスク20は記録層を下面とし、その中心が安定化部材30の作用面の中心に一致した状態でスピンドルシャフト24に装着される。また、一例として光ディスク20は、この光ディスク20が平坦と仮定したときの光入射面と逆側の面と、安定化部材30の作用面平坦部との距離が150μmとなるようにスピンドルシャフト24に装着されているものとする。
【0040】
モータ22は、回転軸22aを駆動することによりスピンドルシャフト24を介して、光ディスク20を例えば約4000〜20000rpmの範囲内で回転させる。また、光ディスク20の回転数などは、不図示の制御部により制御される。
【0041】
ピックアップ26は、光ディスク20の下方(−Z側)に配置され、光源、対物レンズを含む光学系、受光素子などを含む周知の構成のものが用いられている。ピックアップ26は、モータ22により回転される光ディスク20の記録面にレーザ光を集光するとともに、記録面からの反射光を受光することで光ディスク20からの情報の読み取り(再生)、および光ディスク20に対する情報の書き込み(記録)などを行う。そして、図2の矢印a,a’に示されるように、光ディスク20の中心を通り、図2中のY軸に対し、反時計回り方向を正方向とした場合、+10度の角度をなす直線に沿って、不図示のピックアップ駆動装置によって駆動される。上面から見てこのときの光ディスクの回転方向は時計回りである。
【0042】
次に、前述のように構成された装置本体10により、光ディスク20に対し情報の記録および再生を行った場合の安定化部材30の作用について説明する。光ディスク20が回転すると、光ディスク20にはその回転により発生する遠心力により水平な状態になろうとする復元力と、その回転と面形状の作用により生じる空気流の差に基づく圧力変化による反発力が発生する。その際に安定化部材30は、光ディスク20に対し空気力学的な力を作用させ、光ディスク20に生じる復元力と反発力の釣り合いをとることにより、いわゆる光ディスク20の面振れ(光ディスク20の回転方向の振れ)を低減する。
【0043】
この原理に基づけば、光ディスク20の可撓性と光ディスク20に働く遠心力、そして空気の力は相互に関連することは明らかである。
【0044】
光ディスク20の厚みは光ディスク20の質量に影響し、遠心力を左右する。また厚さは光ディスク20自身のヤング率とともに光ディスク20の曲がりにくさを左右する。湾曲した安定化部材30の曲率は空気の流れ場に影響するので、空気による力を左右する。また、回転中の光ディスク20の曲げの曲率をも左右するので、光ディスク20の曲げからの復元力にも影響する。
【0045】
このように光ディスク20の厚さ、光ディスク20のヤング率、安定化部材30の曲率は相互に影響しあっている。本発明ではこれらの影響を整理し、15000rpmの高速駆動に対して安定駆動できる条件を見いだした。
【0046】
以下に、具体的に述べる。
【0047】
(実施例1)
発明者等は、前述した中央に直径32mmの円形開口が形成された外径125mmの高さの低い円柱状部材であり、作用面が曲率半径900mmで湾曲し、中心から−X方向および+X方向へ距離(ここでは10mm)の平坦部を有する安定化部材30を用いて光ディスク20の安定化実験を行った。この安定化実験は、光ディスク20の回転数を4000rpmから16000rpmまで2000rpmずつ段階的に変化させて、光ディスク20の中心から25,40,58mm隔てた位置にある点での光ディスク20の面振れにより生じるZ軸方向の振幅(μm)をレーザ変位計で計測するものである。
【0048】
(表2)は実験結果で、各ディスクの各回転数における面振れの最大値(3点計測したうちの最も大きな値)と数値Mを示している。数値Mは、
M=光ディスクのヤング率(Kg/mm)×(厚さ(mm)の3乗)/安定化部材(スタビライザー)の曲率(mm)
で定義される値である。
【0049】
【表2】

【0050】
(表2)から表中の最大面振れの値は10μm以下もしくは30μm以上の値をとっており、2極化していることがわかる。最大面振れの値は10μm以下のものが安定化部材30を用いて光ディスク20を安定化できた場合であり、30μm以上のものが安定化できなかったものである。
【0051】
次に、最大面振れと数値Mとの関係をみてみるとこの実験では数値Mが0.000158以上、0.00295以下の場合、面振れの最大値は10μm以下で安定化できていることがわかる。よって、光ディスク20の厚さおよびヤング率と、湾曲した安定化部材の曲率から求められる数値Mを、以上未満に規定することにより、光ディスク20の面振れを小さく抑え、安定させることができることとなる。これにより良好な記録および再生特性を得ることができる。
【0052】
(実施例2)
本実施例2は、安定化部材30として以下のものを用いた以外は前述した実施例1と同じである。安定化部材30は、中央に直径30mmの円形開口が形成された外径125mmの高さの低い円柱状部材(円板形状)であり、+Z側の面が本体10の天井面に固定され、−Z側の面は光ディスク20に対向する裏面が鞍状に一方向のみ湾曲した凹形状の湾曲面(以下、作用面ともいう)となっている(図1参照)。安定化部材30の作用面は、図3に示されるようにY軸に平行で作用面の中心の稜線部分を通る母線L(以下、中心母線Lともいう)を有し、全体的には、曲率半径1000mmで湾曲している。そして中心母線Lから−X方向および+X方向へ距離S(ここでは17.5mmとする)隔てたY軸に平行な2本の直線と、作用面の外周とによって規定される領域、すなわち図3において着色された領域が平坦部となっている。また、ピックアップ26は、安定化部材30の作用面の中心を通り、中心母線Lに対し+10度の角度をなす直線に沿って移動する。
【0053】
【表3】

【0054】
(表3)に各ディスクの面振れの最大値と数値Mを示す。本実施例2では数値Mが0.000142以上、0.00771以下で最大面振れの値は10μm以下で安定化できていることがわかる。
【0055】
(実施例3)
安定化部材30として作用面の曲率半径が700mmのものを用いた以外は実施例2と同じである。
【0056】
【表4】

【0057】
(表4)に各ディスクの面振れの最大値と数値Mを示す。本実施例3では数値Mが0.000117以上、0.00380以下のとき面振れの最大値は10μm以下で安定化できていることがわかる。
【0058】
最後に実施例1〜3における数値Mと最大面振れの関係を図4に示す。この図4から明らかなように数値Mを0.000117以上、0.00771以下の場合、面振れの最大値は10μm以下で安定化できていることがわかる。
【0059】
また、情報の記録および再生時に、ピックアップ26が通過する安定化部材30の平坦部の幅が5mm未満の場合、記録および再生時に光ディスク20のチルトが残る可能性があり、また、逆に幅が45mmを超えた場合、光ディスク20の最内周において安定化が不十分で、面振れが生じる可能性がある。
【0060】
これは、作用面の曲率半径1000mmで、平坦部の幅を「0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,50mm」と代えた11種類の安定化部材と、ディスク基板がポリカーボネートで厚さが100μmと200μmの薄型の光ディスクを用いて、光ディスクと安定化部材の距離(以下、ギャップという)は100μm、回転数は10000rpmとして、面ぶれと反りの評価を行った。
【0061】
光ディスクの2種類と、安定化部材の11種類とを組み合わせた22回の実験を行ったところ、100μm厚みの光ディスクの場合、平坦部が0mmと5mmの安定化部材の組み合わせでは、光ディスクの半径50mmより外周側(最外周58mm)にてタンジェンシャルチルトが0.3度以上になり、これは開口数(NA)0.85の光ピックアップでの記録再生には支障となる値である。このため、平坦部が5mm未満ではチルトの面で問題があると判断した。
【0062】
同様に、100μm厚みの光ディスクの場合、平坦部が45mmと50mmの安定化部材の組み合わせでは、光ディスクの面ぶれが、10μmを超える点が光ディスクの半径25mmおよび半径58mmで発生した。このため、安定化部材の平坦部の幅は最大45mmと決定した。
【0063】
また、前述したように光ディスク20は、その円形プレート20c(図2参照)の丸孔にスピンドルシャフト24の回転軸22aが挿入され、かつ大径部24a(ターンテーブル)の上面で支持され、小径部24b(クランパー)によって挟持される。図1(a),(b)に示すように、この小径部24b(クランパー)が入り込むための孔部31が安定化部材30の中心部にあり、この孔部31の内径と小径部24b(クランパー)の外径との間に空隙を有している。光ディスク20が回転する際、この空隙が0.5mm未満の場合、異物などの混入により摺動する可能性があり、また45mmを超える場合には、光ディスク20の最内周において安定化が不十分で、面振れが生じる可能性がある。
【0064】
また、光ディスクの厚さ、材質によって、空気力学的な作用を安定化することができる光ディスクと安定化部材間の距離(ギャップ)は異なっている。ある材質(ポリエチレンテレフタレート,ポリカーボネート)の光ディスクについて、「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」の値を変化させ、空気力学的な作用を安定化可能な最大ギャップ値との関係を図5に示す。
【0065】
ここで、空気力学的な作用を安定化可能な最大ギャップ値について、図6を参照して説明する。光ディスクを安定化部材(スタビライザー)に近接して回転させることで薄い空気の層が光ディスクと安定化部材間のギャップに形成され、光ディスクの振動が抑制される。このとき、ギャップの値を大きくしていくと、あるギャップの値を境に急激に光ディスクの振動が増大する。
【0066】
図6は、材質がポリカーボネートで100μmの厚み、ヤング率252.1kg/mmの光ディスクを15000rpmで回転させ、中央の円形開口が直径32mmで外径125mmの円柱状部材で、作用面が曲率半径900mmで湾曲し、平坦部が中心母線Lの両側±15mmの安定化部材とのギャップの値を変えた例を示す図である。図6の縦軸は光ディスクの中心から40mm隔てた測定位置のギャップ方向の面振れ相対値を示す。ギャップの値が0.25mmのときの光ディスクの面振れは小さいが、ギャップの値が0.3mmとなると、大きな面振れが観察される。図6に示す例では面振れが急増する閾値を0.25mmとする。
【0067】
このように定義された値を空気力学的な作用を安定化可能な最大ギャップ値とする。前述した実施例2と同様に中央に直径30mmの円形開口が形成された外径125mmの高さの低い円柱状部材で、作用面が曲率半径1000mmで湾曲したX方向に±17.5mmの平坦部を有する安定化部材を用い、光ディスクの中心から25,40,58mmの3点の測定位置で測定した。この面ぶれの最大値が20μm以上になるギャップ量を図5の「安定化可能な最大ギャップ」としている。図5に光ディスクの「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」の値に対する安定化可能な最大ギャップ値を示すが、光ディスクの「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」に対して、ある最適な「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」のときに、最も大きなギャップの値で安定化可能であることがわかる。
【0068】
したがって、光ディスクを回転起動するときなど、光ディスクの「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」がわかっていると、その最大ギャップ値に、フレキシブルディスクシステムの装置本体でギャップを設定して起動することができる。起動時は光ディスクと安定化部材(スタビライザー)の摺動が発生しやすいので、大き目のギャップの値で起動を行うことが望ましい。しかし、大きすぎると逆に光ディスクの面振れが大きく、摺動がひどくなる。
【0069】
そこで、光ディスクを収納するディスクカートリッジに小型の固体メモリを取り付け、ここにあらかじめ記録しておくデータの一つとして、光ディスクの「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」の値を記録しておく。装置本体は、ディスクカートリッジが挿入されると、ディスクカートリッジに付属の固体メモリにアクセスして、光ディスクの「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」の情報を読み取る。これに対応した最大ギャップ値にギャップを設定して、光ディスクを回転起動する。
【0070】
なお、この空気力学的な作用を安定化可能な最大ギャップ値を決める本質は、光ディスクの厚み、光ディスクの硬さ、安定化部材(スタビライザー)の形状の3要素である。
【0071】
また、安定化部材(スタビライザー)の曲率によっても、最大ギャップ値は異なる。装置本体によって安定化部材(スタビライザー)は異なることから、ディスクカートリッジの固体メモリに書き込む情報は、直接最大ギャップ値ではなく、光ディスクの「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」の値とする。この「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」の値と安定化部材(スタビライザー)の曲率からギャップ値を求めることで、装置本体は、その装置の安定化部材(スタビライザー)に対応した最大ギャップ値にギャップを設定して光ディスクを回転起動する。
【0072】
具体的には、図1(a)〜(c)に示した、装置本体10に装填されたディスクカートリッジ11内からディスク搬送機構(図示せず)により取り出された光ディスク20は、スピンドルシャフト24の大径部24a(ターンテーブル)上に載置されて小径部24b(クランパー)で挟持された後、光ディスク20が回転する。回転が開始して一定の回転数となると、モータ22を設置した昇降動作する基台(図示せず)が上昇し、先に固体メモリ12より読み込んだ情報から最大ギャップ値のギャップとなる位置へ不図示のセンサ等で位置検出しながら光ディスク20を移動する。
【0073】
このようにしておけば、将来の光ディスクの材質の進歩による光ディスクの硬さの変化や、安定化部材(スタビライザー)の設計値に関係なく、フレキシブルディスクシステムの装置本体は起動時に設定すべき最大ギャップ値を簡便に設定でき、起動時に生じる光ディスクと安定化部材との摺動を回避できる。
【0074】
本実施例では、「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」をディスクカートリッジ付属の固体メモリに記録したが、これはヤング率と光ディスクの厚さを個別の数値として記録してもおなじ機能を果たすことができる。装置本体側で読み取ったヤング率と光ディスクの厚さに対して、「(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)」なる演算を行えばよい。
【0075】
以上、本実施の形態では、可撓性を有する光ディスクを湾曲した安定化部材により空気力学的な作用を安定化させ回転駆動するフレキシブルディスクシステムにおいて、15000rpmを超える高速で光ディスクを回転駆動した場合でも、面振れが少なく、光ディスクの記録および再生が問題なく行えるディスク駆動手段、記録/再生手段を備えたフレキシブルディスクシステムを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、可撓性を有するフレキシブルディスクに対して記録および/または再生処理を行う記録/再生装置を備えたフレキシブルディスクシステム、フレキシブルディスク、ディスクカートリッジに適用され、さらにフレキシブルディスクは、相変化メモリ,光磁気メモリ,ホログラムメモリなどのディスク状の記録ディスクで活用するものすべてを対象とする。
【符号の説明】
【0077】
10 装置本体
11 ディスクカートリッジ
12 固体メモリ
13 電極板
20 光ディスク
20a シート
20b 領域
20c 円形プレート
22 モータ
22a 回転軸
24 スピンドルシャフト
24a 大径部
24b 小径部
26 ピックアップ
30 安定化部材
31 孔部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0078】
【特許文献1】特開2006−107699号公報
【特許文献2】特開2007−149311号公報
【特許文献3】特開2004−355786号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報の記録および再生の少なくとも一方を行う可撓性を有するフレキシブルディスクと、
前記フレキシブルディスクを保持して回転させるターンテーブルと、前記ターンテーブルとともに前記フレキシブルディスクを挟んで固定するためのクランパーと、前記フレキシブルディスクを前記ターンテーブルと前記クランパーとともに回転させるスピンドルモータと、前記フレキシブルディスクを空気力学的な作用により安定して回転させるための円板形状で一面が凹み鞍状に湾曲した安定化部材とを具備したフレキシブルディスク駆動手段と、前記情報の記録/再生手段とからなるフレキシブルディスクシステムであって、
前記フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率と、前記湾曲した安定化部材の曲率の関係が、
0.000117≦(ヤング率(Kg/mm))×(厚さ(mm)の3乗)/(安定化部材の曲率(mm))≦0.00771
の範囲であることを特徴とするフレキシブルディスクシステム。
【請求項2】
前記ターンテーブルに装填、保持されて回転するフレキシブルディスクを少なくとも1枚または複数枚を収納するとともに、フレキシブルディスクシステムの装置本体に着脱可能なディスクカートリッジと、
前記フレキシブルディスクの厚さおよびヤング率と、前記湾曲した安定化部材の曲率の関係を示す、少なくともフレキシブルディスクのヤング率および厚さ情報をあらかじめ記録している前記ディスクカートリッジに付属の固体メモリとを備えたことを特徴とする請求項1記載のフレキシブルディスクシステム。
【請求項3】
前記固体メモリにあらかじめ記録しているフレキシブルディスクのヤング率および厚さ情報を読み出し、前記ディスクカートリッジから取り出した前記フレキシブルディスクと前記安定化部材との距離を設定することを特徴とする請求項2記載のフレキシブルディスクシステム。
【請求項4】
前記安定化部材の直径が前記フレキシブルディスクの直径よりも大きく、前記フレキシブルディスクの全面を覆うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフレキシブルディスクシステム。
【請求項5】
前記安定化部材の中心部の稜線部分に平坦部があり、前記平坦部の幅が5〜45mmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフレキシブルディスクシステム。
【請求項6】
前記安定化部材の中心部にスピンドルモータの軸を通すための孔があり、前記孔の内径と前記軸の外径の間に0.5〜45mmの空隙があることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフレキシブルディスクシステム。
【請求項7】
前記フレキシブルディスクの基板がポリカーボネートシートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のフレキシブルディスクシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−60352(P2011−60352A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206933(P2009−206933)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100090103
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 章悟
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【Fターム(参考)】