説明

フレキシブルフラット回路体

【課題】曲げ変形時の剛性向上と、薄型化と、導体の断線防止とを可能にしたフレキシブルフラット回路体を提供すること。
【解決手段】フレキシブルフラット回路体1の導体3と弾性導体5とは、フレキシブルフラット回路体1の長さ方向の全域に亘って絶縁被覆7によりまとめて絶縁され、導体3及び弾性導体5はフレキシブルフラット回路体1の厚さ方向の中央に配置されている。弾性導体5は座屈を起こさない所定の剛性及び弾性を有する。フレキシブルフラット回路体1を厚さ方向に曲げ変形させる際に、曲げ方向の如何に関わらず剛性及び弾性が同一になり、しかも弾性導体5により剛性が高くなる。したがって、曲げ変形する位置の曲げ半径が大きくなり、座屈が起こらず、曲げ変形位置における導体3の断線を防止できる。導体3と弾性導体5とは積層されていないので、フレキシブルフラット回路体1の薄型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器や自動車等の電気配線に使用されるFC(Flat Cable)やFFC(Flexible Flat Cable)などのフレキシブルフラット回路体に関し、更に詳しくは、車両の車体とドア等の可動部材との間に架け渡される配線材として好適なフレキシブルフラット回路体に関する。
【背景技術】
【0002】
ワンボックスカーなどの車両のサイドドアには、引き戸式の1枚のスライドドアを設けたものや、車両の前後方向に移動させる2枚のスライドドアを設け、ドアの解放時には互いに離れる方向に移動するように構成したものが提案されている。
【0003】
これらのスライドドアには、パワーウインドウ駆動モータやリミットスイッチなどが設けられ、これらの機器に給電するために車体側からスライドドアにフレキシブルフラット回路体を配索する必要がある。
【0004】
図10〜図13は、従来のフレキシブルフラット回路体の一例を示すものであり、図10はフレキシブルフラット回路体の構成を模式的に示す斜視図、図11〜図13はフレキシブルフラット回路体の曲げ変形を模式的に示す側面図である。
【0005】
フレキシブルフラット回路体101は、3本の帯状の偏平な導体103を絶縁被覆105で被覆して構成されている。フレキシブルフラット回路体101は、図示しない車体とスライドドアとの間に配索される。そして、スライドトアの開閉にともなって、図11に想像線で示す水平形状から矢印A方向に引かれて実線で示すように曲げ変形され、図12に想像線で示す湾曲状態から矢印B方向に引かれて想像線で示すように水平形状に復帰される。
【0006】
しかし、図11及び図12に示すような変形、元の形状への復帰を繰り返していると、図13に示すような座屈107が発生する。
【0007】
図14は、下記特許文献1に開示されたフラットケーブルの構成を示すものである。
フラットケーブル111は、図示しない車体とスライドトアとの間に架け渡されるものであって、帯状の偏平な導体113と帯状の補強部材115とを一体的に絶縁被覆117で被覆しており、補強部材115は導体113の長さ方向に沿って延在するとともに、補強部材115と導体113とは絶縁被覆117を介在させて厚さ方向に積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−109485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、図10〜図13に示した従来のフレキシブルフラット回路体は、回路体自体の剛性が低く、曲げ半径が小さいため、平板形状から曲げ変形、曲げ形状から平板形状への変形を繰り返していると、変形位置に屈曲が発生して導体が断線する。
【0010】
一方、図14に示した従来のフラットケーブルは、帯状の補強部材によって強度を向上させることはできるが、導体と補強部材とが積層されているので、フラットケーブルを厚さ方向に曲げる際、曲げる方向によって剛性が異なる。
【0011】
また、フラットケーブルの厚さが増加するので、配索位置が限られていた。しかも、必要に応じて複数のフラットケーブルを積層すると、全体の厚さが増加して、配索のために大きなスペースが必要になる。
【0012】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、曲げ変形に対して剛性が高く、しかも薄型に形成し得るフレキシブルフラット回路体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1)複数条の偏平な導体と、これらの複数条の偏平な導体を互いに平行に所定間隔で平面上に並べた状態で一括被覆した絶縁被覆とを備えるフレキシブルフラット回路体であって、
前記導体が当該フレキシブルフラット回路体の厚さ方向の中央に配置され、
前記導体のうちの少なくとも一つが、座屈を起こさない所定の剛性及び弾性を有する弾性導体であることを特徴とするフレキシブルフラット回路体。
【0014】
(2)当該フレキシブルフラット回路体の幅方向の両側に前記弾性導体を配設するとともに、前記弾性導体間に前記導体を配設したことを特徴とする上記(1)に記載のフレキシブルフラット回路体。
【0015】
(3)当該フレキシブルフラット回路体の幅方向に沿って、前記導体及び前記弾性導体を交互に配設したことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のフレキシブルフラット回路体。
【0016】
(4)当該フレキシブルフラット回路体の幅方向の中央部に、前記弾性導体を配設するとともに、その両側に前記導体を配設したことを特徴とする上記(1)又は(3)に記載のフレキシブルフラット回路体。
【0017】
(5)前記導体の幅よりも、前記弾性導体の幅を大きく設定したことを特徴とする上記(4)に記載のフレキシブルフラット回路体。
【0018】
上記(1)の構成によれば、フレキシブルフラット回路体の導体が当該フレキシブルフラット回路体の厚さ方向の中央に配置され、導体のうちの少なくとも一つが、座屈を起こさない剛性及び弾性を有する弾性導体であるので、フレキシブルフラット回路体の厚さ方向の何れについても、弾性導体によって同一の剛性及び弾性が付与され、フレキシブルフラット回路体を厚さ方向に変形させる際の曲げ半径を大きくすることができる。
【0019】
上記(2)の構成によれば、幅方向の両端に配設された弾性導体によって、その厚さ方向の何れについても同一の剛性及び弾性が付与され、フレキシブルフラット回路体を厚さ方向に変形させる際の曲げ半径を大きくすることができる。
【0020】
上記(3)の構成によれば、フレキシブルフラット回路体の幅方向に沿って導体と交互に配設された弾性導体により、その厚さ方向の何れについても同一の剛性及び弾性が付与され、フレキシブルフラット回路体を厚さ方向に変形させる際の曲げ半径を大きくすることができる。
【0021】
上記(4)の構成によれば、フレキシブルフラット回路体の幅方向の中央部に配設された弾性導体によって、その厚さ方向の何れについても同一の剛性及び弾性が付与され、フレキシブルフラット回路体を厚さ方向に変形させる際の曲げ半径を大きくすることができる。
【0022】
上記(5)の構成によれば、フレキシブルフラット回路体の導体の幅よりも弾性導体の幅が大きく設定されているので、弾性導体の導電率が低い場合に断面積を大きくすることにより大電流への対応が可能となり、更に、その厚さ方向の何れについても同一の剛性及び弾性が付与され、フレキシブルフラット回路体を厚さ方向に変形させる際の曲げ半径を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるフレキシブルフラット回路体によれば、導体が当該フレキシブルフラット回路体の厚さ方向の中央に配置され、導体のうちの少なくとも一つが、他の導体よりも高い弾性及び弾性を有する弾性導体であるので、弾性導体を備えないフレキシブルフラット回路体に比べて剛性が高くなり、厚さ方向の何れについても、曲げ変形させる際の剛性及び弾性が同一になり、しかも曲げ半径が大きくなる。
【0024】
このため、フレキシブルフラット回路体を厚さ方向に繰り返し曲げ変形させても、フレキシブルフラット回路体が座屈を起こすことがなく、座屈による導体の早期断線を防止できる。
【0025】
そして、フレキシブルフラット回路体が薄くても座屈を起こさないので、複数のフレキシブルフラット回路体を積層して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るフレキシブルフラット回路体の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のフレキシブルフラット回路体の断面図である。
【図3】フレキシブルフラット回路体の曲げ変形を示す要部の模式的側面図である。
【図4】フレキシブルフラット回路体の元の形状への復帰時に座屈の無い状態を示す要部の模式的側面図である。
【図5】フレキシブルフラット回路体の更なる曲げ変形時に座屈の無い状態を示す要部の模式的側面図である。
【図6】フレキシブルフラット回路体の双方向の曲げ変形時に座屈の無い状態を示す要部の模式的側面図である。
【図7】フレキシブルフラット回路体の第2実施形態を示す断面図である。
【図8】フレキシブルフラット回路体の第3実施形態を示す断面図である。
【図9】フレキシブルフラット回路体の第4実施形態を示す断面図である。
【図10】従来のフレキシブルフラット回路体の構成を示す斜視図である。
【図11】フレキシブルフラット回路体の曲げ変形を示す要部の側面図である。
【図12】フレキシブルフラット回路体の元の形状への復帰時に座屈が生じた状態を示す要部の模式的側面図である。
【図13】フレキシブルフラット回路体の更なる曲げ変形時に座屈が生じた状態を示す要部の模式的側面図である。
【図14】従来のフラットケーブルの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るフレキシブルフラット回路体の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
<第1実施形態>
この第1実施形態のフレキシブルフラット回路体1は、複数条の偏平な導体3と、これらの複数条の偏平な導体3を一括被覆した絶縁被覆7とを備えている。絶縁被覆7は、複数条の偏平な導体3と、座屈を起こさない所定の剛性及び弾性を有する弾性導体5とを、互いに平行に所定間隔で平面上に並べた状態で一括被覆している。
【0029】
本実施形態におけるフレキシブルフラット回路体1は、図1及び図2に示すように、5本の導体3と、2本の弾性導体5と、を備えている。5本の導体3と2本の弾性導体5とは、フレキシブルフラット回路体1の幅方向Wに略等間隔で配設されているが、本実施形態では5本の導体3の両側に弾性導体5が1本ずつ配設されている。
【0030】
導体3及び弾性導体5は、フレキシブルフラット回路体1の厚さ方向の中央に設けられている。フレキシブルフラット回路体1の厚さをtとすると、図2に示すように、5本の導体3と2本の弾性導体5とは1/2・tの位置に位置決めされ、その周囲は絶縁被覆7により覆われている。そして、5本の導体3と2本の弾性導体5とは、フレキシブルフラット回路体1の長さ方向Lの全域に亘って1/2・tの位置に位置決めされるとともに、絶縁被覆7により個別に絶縁されている。
【0031】
フレキシブルフラット回路体1は、5本の導体3と2本の弾性導体5とが押出成形されたものであり、絶縁被覆7としてはPP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニール)、PU(ポリウレタン)等が好適である。
【0032】
また、5本の導体3については、例えば銅材などが好適であり、2本の弾性導体5については、弾性と導電性を有する例えばステンレス、リン青銅などが好適である。
【0033】
フレキシブルフラット回路体1を、図示しない車体とスライドドアとの間に架け渡すワイヤハーネスとして適用した場合、スライドドアの移動にともなって、フレキシブルフラット回路体1の一端が図3に矢印Cで示すように、想像線で示す平板形状から実線で示す湾曲形状に変形することがある。
【0034】
一方、スライドドアの移動にともなって、フレキシブルフラット回路体1の一端が図4に矢印Dで示すように、想像線で示す湾曲形状から実線で示す平板形状に変形することがある。
【0035】
このように、スライドドアの移動にともなって、フレキシブルフラット回路体1は図3及び図4に示すような曲げ変形を繰り返すことになる。
【0036】
しかし、本実施形態のフレキシブルフラット回路体1にあっては、2本の弾性導体5の高い剛性及び弾性作用によって、図5に矢印Eで示す撓み変形位置に座屈が現れない。このため、2本の弾性導体5及び5本の導体3の何れについても早期断線を防止できる。
【0037】
なお、フレキシブルフラット回路体1は、図2を参照して説明したように、5本の導体3及び2本の弾性導体5の何れも、厚さtの1/2の位置に位置決めされている。したがって、フレキシブルフラット回路体1を図6に想像線で示す平板形状から矢印Cで示す方向に曲げ変形させた場合と、矢印Caで示す方向に曲げ変形させた場合の何れについても、フレキシブルフラット回路体1は同一の剛性及び弾性を有することになり、曲げ半径が大きくなる。
【0038】
この結果、図6に矢印E,Eaで示す曲げ変形位置に座屈が現れない。したがって、フレキシブルフラット回路体1は、厚さ方向の一方のみでなく、双方に曲げ変形させる用途にも適用可能になり、多目的利用を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態におけるフレキシブルフラット回路体1は、2本の弾性導体5が5本の導体3に積層されるのではなく、幅W方向に横並びに配設されている。したがって、フレキシブルフラット回路体1の薄型化が可能になり、狭い隙間等に配索することができる。更に、複数のフレキシブルフラット回路体1を積層して配索することも可能になり、ワイヤハーネスの実装密度を向上させることができる。
【0040】
<第2実施形態>
本実施形態におけるフレキシブルフラット回路体21は、図7に示すように導体として5本の弾性導体5が幅W方向に配列されている。また、5本の弾性導体5は、前記第1実施形態と同様に厚さtの1/2の位置に、幅方向一列に配列されている。
【0041】
したがって、フレキシブルフラット回路体21を図3〜図6に示したように曲げ変形させた場合、前記同様に座屈が現れず、5本の弾性導体5の早期断線を防止できる。
【0042】
また、5本の弾性導体5に他の導体が積層されていないので、フレキシブルフラット回路体1を薄型化することができ、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0043】
<第3実施形態>
本実施形態におけるフレキシブルフラット回路体31は、図8に示すように導体3と弾性導体5とが幅W方向に交互に配列されている。また、導体3及び弾性導体5は、前記第1実施形態と同様に厚さtの1/2の位置に、幅方向一列に配列されている。
【0044】
したがって、フレキシブル回路21を図3〜図6に示したように曲げ変形させた場合、前記同様に座屈が現れず、弾性導体5はもとより導体3の早期断線を防止できる。
【0045】
また、導体3及び弾性導体5に他の導体が積層されていないので、フレキシブルフラット回路体31を薄型化することができ、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0046】
<第4実施形態>
本実施形態におけるフレキシブルフラット回路体41は、図9に示すように幅W方向の中央部に幅広に形成された弾性導体5aが位置決めされ、その両側に幅狭に形成された導体3aが配設され、各導体3aの両外側に別の導体3が配設されている。
【0047】
また、導体3,3a及び弾性導体5aは、前記第1実施形態と同様に厚さtの1/2の位置に、幅方向一列に配列されている。
【0048】
したがって、フレキシブル回路41を図3〜図6に示したように曲げ変形させた場合、前記同様に座屈が現れず、弾性導体5aはもとより導体3,3aの早期断線を防止できる。
【0049】
また、導体3,3a及び弾性導体5aに他の導体が積層されていないので、フレキシブルフラット回路体41を薄型化することができ、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0050】
更に、弾性導体5aは幅広に形成されているので、横断面積が大になり弾性導体5aの電流量を増加させることができる。
【0051】
また、弾性導体5aが幅広に形成されていることから、1本のみであるにも拘わらず剛性が高く、フレキシブルフラット回路体41の曲げ変形を安定化させることができる。
【0052】
また、導体3aが幅狭く形成されているので、幅方向の寸法を縮小でき、弾性導体5aを幅広にしても、フレキシブルフラット回路体41の幅を増加させずにすむ。
【0053】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0054】
例えば、導体3及び弾性導体5の配設本数は、前記各実施形態に示した配設数に限定されず、必要に応じて適宜変更できる。
【符号の説明】
【0055】
1,21,31,41 フレキシブルフラット回路体
3,3a 導体
5,5a 弾性導体
7 絶縁被覆
C,D 曲げ方向
E 座屈
t フラットケーブルの厚さ
L フラットケーブルの長さ
W フラットケーブルの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数条の偏平な導体と、これらの複数条の偏平な導体を互いに平行に所定間隔で平面上に並べた状態で一括被覆した絶縁被覆とを備えるフレキシブルフラット回路体であって、
前記導体が当該フレキシブルフラット回路体の厚さ方向の中央に配置され、
前記導体のうちの少なくとも一つが、座屈を起こさない所定の剛性及び弾性を有する弾性導体であることを特徴とするフレキシブルフラット回路体。
【請求項2】
当該フレキシブルフラット回路体の幅方向の両側に前記弾性導体を配設するとともに、前記弾性導体間に前記導体を配設したことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルフラット回路体。
【請求項3】
当該フレキシブルフラット回路体の幅方向に沿って、前記導体及び前記弾性導体を交互に配設したことを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブルフラット回路体。
【請求項4】
当該フレキシブルフラット回路体の幅方向の中央部に、前記弾性導体を配設するとともに、その両側に前記導体を配設したことを特徴とする請求項1又は3に記載のフレキシブルフラット回路体。
【請求項5】
前記導体の幅よりも、前記弾性導体の幅を大きく設定したことを特徴とする請求項4に記載のフレキシブルフラット回路体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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