説明

フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法

【課題】架橋工程を必要とすることなく太陽電池を連続的に封止し、しわやカールが発生せず、太陽電池と接着層との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを高い効率で製造できる、フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】フレキシブル基材上に太陽電池素子が配置された太陽電池の少なくとも受光面上に、接着性樹脂を含有する接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を共押出して、接着層及びフッ素系樹脂層を積層する工程、並びに、上記工程で積層された太陽電池、接着層及びフッ素系樹脂層を冷却ロールにより圧着してラミネートする工程を有する、フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋工程を必要とすることなく太陽電池を連続的に封止し、しわやカールが発生せず、太陽電池と接着層との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを高い効率で製造できる、フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として、ガラスを基材とするリジットな太陽電池と、ポリイミドやポリエステル系の耐熱高分子材料やステンレス薄膜を基材とするフレキシブルな太陽電池とが知られている。近年、薄型化や軽量化による運搬、施工の容易さや、衝撃に強い点から、フレキシブルな太陽電池が注目されるようになってきている。
【0003】
このようなフレキシブルな太陽電池は、フレキシブル基材上に、光が照射されると電流を生じる機能を有するシリコン半導体や化合物半導体等からなる太陽電池素子を薄膜状に積層したフレキシブル太陽電池の上下面を、太陽電池封止シートを積層して封止したフレキシブル太陽電池モジュールを有する。
【0004】
上記太陽電池封止シートは、外部からの衝撃を防止したり、太陽電池素子の腐食を防止したりするためのものである。上記太陽電池封止シートは、透明シート上に接着層が形成されたものであり、上記太陽電池素子を封止するための上記接着層としては、従来よりエチレン−酢酸ビニル(EVA)樹脂が使用されていた(例えば、特許文献1を参照のこと)。
しかしながら、上記EVA系樹脂を使用する場合、架橋工程のために、製造時間が長くなったり、酸を発生したりするといった問題があった。このため、上記太陽電池封止シートの上記接着層として、シラン変性オレフィン樹脂等の非EVA系樹脂の使用が検討されている(例えば、特許文献2を参照のこと)。
【0005】
上記フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法としては、フレキシブル太陽電池と太陽電池封止シートとを予め所望の形状に切断した上で積層し、これらを静止状態にて真空ラミネートによって積層一体化する方法が従来より行われている。このような真空ラミネート法では、接着工程に時間がかかり、太陽電池モジュールの製造効率が低いといった問題があった。
【0006】
上記フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法として、量産化に優れる点で、ロールツーロール法が検討されている(例えば、特許文献3を参照のこと)。
ロールツーロール法は、フィルム状の太陽電池封止シートを巻回させたロールを使用し、該ロールから巻き出した太陽電池封止シートを、一対のロールを用いて狭窄することにより、太陽電池に熱圧着して封止を行い、連続的にフレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法である。
このようなロールツーロール法によれば、極めて高い効率で連続的にフレキシブル太陽電池モジュールを製造することが期待できる。
【0007】
しかしながら、従来の接着層を有する太陽電池封止シートを巻回させたロールを用いたロールツーロール法では、フレキシブル太陽電池を封止して、フレキシブル太陽電池モジュールを製造する場合、架橋工程が必要となったり、また、上記フレキシブル太陽電池と上記太陽電池封止シートとをロールで熱圧着した際に、しわやカールが発生して極端に歩留まりが低下するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−297439号公報
【特許文献2】特開2004−214641号公報
【特許文献3】特開2000−294815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みて、架橋工程を必要とすることなく太陽電池を連続的に封止し、しわやカールが発生せず、太陽電池と接着層との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを高い効率で製造できる、フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フレキシブル基材上に太陽電池素子が配置された太陽電池の少なくとも受光面上に、接着性樹脂を含有する接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を共押出して、接着層及びフッ素系樹脂層を積層する工程、並びに、上記工程で積層された太陽電池、接着層及びフッ素系樹脂層を冷却ロールにより圧着してラミネートする工程を有することを特徴とするフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法である。
以下に、本発明を詳述する。
【0011】
本発明は、太陽電池の少なくとも受光面上に、樹脂組成物を共押出して一体化された接着層及びフッ素系樹脂層を形成し、これらを冷却ロールにて圧着して太陽電池を封止することにより、しわやカールの発生がなく、太陽電池と接着層との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを、連続して製造することができたものである。
すなわち、本発明者らは、フレキシブル太陽電池モジュールを構成する樹脂組成物を溶融して各層を形成し、冷却して圧着させることにより、しわやカールの発生を防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記一体化された接着層及びフッ素系樹脂層は、上述のような、太陽電池を封止するためのいわゆる太陽電池封止シートであり、フレキシブル太陽電池モジュールの構成要素に相当し得る。
【0012】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法は、フレキシブル基材上に太陽電池素子が配置された太陽電池の少なくとも受光面上に、接着性樹脂を含有する接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を共押出して、接着層及びフッ素系樹脂層を積層する工程を有する。
【0013】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法で使用する太陽電池は、フレキシブル基材上に太陽電池素子が配置されたものである。
上記フレキシブル基材としては、可撓性があり、フレキシブル太陽電池に使用することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン等の耐熱性樹脂からなる基材を挙げることができる。
上記フレキシブル基材の厚みは、10〜80μmであることが好ましい。
【0014】
上記太陽電池素子としては、例えば、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム、多結晶シリコン、微結晶シリコン等の結晶系半導体、アモルファスシリコン等のアモルファス系半導体、GaAs、InP、AlGaAs、Cds、CdTe、CuS、CuInSe、CuInS等の化合物半導体、フタロシアニン、ポリアセチレン等の有機半導体等から形成されたものを挙げることができる。
上記太陽電池素子は、単層又は複層であってもよい。
上記太陽電池素子の厚みは、0.5〜10μmであることが好ましい。
【0015】
上記太陽電池を製造する方法としては、公知の方法であれば、特に限定されず、例えば、上記フレキシブル基材上に太陽電池素子を配置する公知の方法により形成するとよい。
上記太陽電池は、所望の形状に予め切断されたシート状のものであってもよいし、ロールツーロール法に適用できるような、ロール状に巻回されたものであってもよい。
【0016】
上記工程においては、上記太陽電池の受光面上に、接着性樹脂を含有する接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を共押出して、接着層及びフッ素系樹脂層を積層する。
上記太陽電池の受光面は、光を受けることができる面であり、上記太陽電池の上記太陽電池素子が配置された側の面であることが好ましい。
本発明では、上記太陽電池の太陽電池素子側面上に、接着層とフッ素系樹脂層とがこの順に積層されることが好ましい。
【0017】
上記接着層を形成するための接着層用組成物は、接着性樹脂を含有する。
上記接着性樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、シラン変性ポリエチレン等を挙げることができる。なかでも、瞬間接着できる点で、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が好ましい。
【0018】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂である。
上記オレフィン系樹脂は、単一のモノマーからなるホモポリマーであっても、2以上の種類のモノマーからなる共重合体であってもいい。
上記ホモポリマーとしては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。
上記共重合体としては、具体的には、エチレン−αオレフィン共重合体、ポリプロピレン−αオレフィン共重合体等があげられる。
上記オレフィン系樹脂としては、中でも、熱融着の観点からα−オレフィンとエチレンの共重合体である、α−オレフィン−エチレン共重合体が好ましい。
【0019】
上記α−オレフィンは、樹脂の非晶性向上による低融点化、柔軟化のため、炭素数が3〜10であることが好ましく、炭素数が4〜8であることがより好ましい。
上記α−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が挙げられ、なかでも、上記α−オレフィンとしては、ブテン、オクテンが好ましい。
すなわち、上記α−オレフィン−エチレン共重合体としては、ブテン−エチレン共重合体、オクテン−エチレン共重合体が好ましい。
【0020】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体は、α−オレフィン含有量が1〜25重量%であることが好ましい。
上記α−オレフィン含有量が1重量%未満であると、上記接着層の柔軟性が低下するとともに、上記接着層の融点が高くなるため、太陽電池の封止に高温加熱が必要となり、しわやカールが発生しやすくなる。上記α−オレフィン含有量が25重量%を超えると、上記接着層の結晶性又は流動性が不均一となって歪みが生じたり、上記接着層自体の融点が低くなりすぎるため、太陽電池を高温に保持した場合形状を保持することが難しくなり、その結果、上記接着層の太陽電池に対する接着性が低下したり、変形したりする。
上記α−オレフィン含有量は、下限が5重量%であることがより好ましく、上限が20重量%であることがより好ましい。
【0021】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体におけるα−オレフィンの含有量については、13C−NMRのスペクトル積分値により求めることが出来る。具体的には、例えば1−ブテンを用いた場合、重クロロホルム中で10.9ppm付近や26.1ppm付近、39.1ppm付近に得られる1−ブテン構造由来のスペクトル積分値と、26.9ppm付近、29.7ppm付近、30.2ppm付近、33.4ppm付近に得られるエチレン構造由来のスペクトル積分値を用いて算出する。スペクトルの帰属については高分子分析ハンドブック(朝倉書店)等の既知データーを利用するとよい。
【0022】
上記オレフィン系樹脂を無水マレイン酸でグラフト変性する方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、上記オレフィン系樹脂と無水マレイン酸とラジカル重合開始剤とを含有した組成物を、押出機に供給して溶融混練して上記オレフィン系樹脂に無水マレイン酸をグラフト重合させる溶融変性法や、上記オレフィン系樹脂を溶媒に溶解させて溶解液を作製し、この溶解液に無水マレイン酸及びラジカル重合開始剤を添加して上記オレフィン系樹脂に無水マレイン酸をグラフト重合させる溶液変性法等が挙げられる。なかでも、機上混合できる点で、上記溶融変性法が生産上好ましい。
【0023】
上記グラフト変性する方法において使用するラジカル重合開始剤としては、従来からラジカル重合に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0024】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、無水マレイン酸の総含有量が0.1〜3重量%であることが好ましい。
上記無水マレイン酸の総含有量が0.1重量%未満であると、接着層の太陽電池に対する接着性が低下するおそれがある。上記無水マレイン酸の総含有量が3重量%を超えると、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が架橋して、ゲルが発生したり、上記接着層の押出成形性が低下したりするおそれがある。
上記無水マレイン酸の総含有量は、下限が0.15重量%であることがより好ましく、上限が1重量%であることがより好ましい。
なお、上記無水マレイン酸の総含有量は、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂を用いて試験フィルムを作製し、上記試験フィルムの赤外吸収スペクトルを測定して、1790cm−1付近の吸収強度から算出することができる。具体的には、上記変性オレフィン系樹脂中における無水マレイン酸の総含有量は、例えば、FT−IR(フーリエ変換赤外分光装置 Nicolet 6700 FT−IR)を用いて高分子分析ハンドブック(朝倉書店)等に記載された既知の測定方法で測定することができる。
【0025】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が80〜125℃であることが好ましい。
上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が80℃より低いと、接着層の耐熱性が低下するおそれがある。上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が125℃より高いと、封止工程における接着層の加熱時間が長くなって、フレキシブル太陽電池モジュールの生産性が低下したり、又は、太陽電池の封止が不充分となったりするおそれがある。
上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、83〜110℃であることがより好ましい。
なお、上記示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、JIS K7121に規定されている測定方法に準拠して測定することができる。
【0026】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、メルトフローレイト(MFR)が0.5g/10分〜29g/10分であることが好ましい。上記メルトフローレイトが0.5g/10分未満であると、接着層の製造時に歪が残り、フレキシブル太陽電池モジュール製造後に該モジュールがカールするおそれがある。29g/10分を超えると、上記接着層形成時にドローダウンしやすくなり均一な厚みの接着層を製造することが難しく、やはり上記フレキシブル太陽電池モジュール製造後にモジュールがカールしたり、接着層にピンホール等を生じやすくなり、フレキシブル太陽電池モジュール全体の絶縁性を損なうおそれがある。
上記メルトフローレイトは、2g/10分〜10g/10分であることがより好ましい。
なお、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂のメルトフローレイトは、ポリエチレン系樹脂のメルトフローレイトの測定方法であるASTM D1238に準拠して荷重2.16kg荷重にて測定された値をいう。
【0027】
上記接着層用組成物は、更に、RSi(ORで示されるシラン化合物を含有することが好ましい。上記シラン化合物を含有することにより、上記接着層用組成物により形成される接着層と太陽電池表面との接着性を向上させることができる。
上記シラン化合物中におけるRは、下記式(1)で示される3−グリシドキシプロピル基、又は、下記式(2)で示される2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基であり、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基である。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
上記Rとしては、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基が好ましい。
【0031】
上記RSi(ORで示されるシラン化合物としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン等が挙げられ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0032】
上記接着層用組成物中の上記シラン化合物の含有量は、上記接着性樹脂100重量部に対して0.4〜15重量部であることが好ましい。
上記シラン化合物の含有量が上述の範囲外であると、接着層の太陽電池に対する接着性が低下するおそれがある。
上記シラン化合物の含有量は、上記接着性樹脂100重量部に対して、下限は0.4重量部であることがより好ましく、上限は1.5重量部であることがより好ましい。
【0033】
上記接着層用組成物は、その物性を損なわない範囲内において、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の添加剤を更に含有していてもよい。
【0034】
上記フッ素系樹脂組成物は、透明性、耐熱性及び難燃性に優れるものであれば、特に限定されないが、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレン樹脂(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフロオロエチレン−パーフロオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、ポリビニルフルオライド樹脂(PVF)及びテトラフロオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群より選択される少なくとも一種のフッ素系樹脂を含有することが好ましい。
なかでも、上記フッ素系樹脂としては、耐熱性及び透明性により優れる点で、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニルフルオライド樹脂(PVF)がより好ましい。
【0035】
上記フッ素系樹脂組成物は、その物性を損なわない範囲内において、UV吸収剤、HALS等の添加剤を更に含有していてもよい。
【0036】
上記太陽電池の光受面上に、上記接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を共押出する方法としては、特に限定されず、公知の方法であればよく、例えば、上述した成分を混合した上記接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物をそれぞれ押出機に供給して、溶融、混練し、押出機からシート状に押出するとよい。
上記共押出工程における、押出設定温度は、上記フッ素系樹脂又は上記接着性樹脂の融点より30℃以上、かつ、分解温度より30℃未満であることが好ましい。
【0037】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法は、上記工程で積層された太陽電池、接着層及びフッ素系樹脂層を冷却ロールにより圧着してラミネートする工程を有する。
上記冷却ロールにより圧着してラミネートする方法としては、上記太陽電池、接着層及びフッ素系樹脂層が積層した積層体を、一対の冷却ロール間に配置し、該冷却ロールにより狭窄して圧着することによりラミネートする方法が挙げられる。
【0038】
上記冷却ロールの温度は、15〜60℃であることが好ましい。15℃未満であると、急冷却によるひずみにより、得られるフレキシブル太陽電池モジュールにしわやカールが発生するそれがある。60℃を超えると、製膜ロールへの付着により成型不良を起こすことがあるので好ましくない。上記冷却ロールの温度は、20〜50℃であることがより好ましい。
【0039】
上記冷却ロールの回転速度は、0.05〜25m/分であることが好ましい。0.05m/分未満であると、得られるフレキシブル太陽電池モジュールにしわが発生しやすくなるおそれがある。25m/分を超えると、接着不良が起こるおそれがある。
上記冷却ロールの回転速度は、0.3〜5m/分であることがより好ましい。
【0040】
このように、本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法は、樹脂組成物を溶融し共押出して、接着層及びフッ素系樹脂層を太陽電池表面上に形成し、冷却ロールでこれらを圧着させるものである。本発明では、上記ロールによる圧着を加熱ではなく、冷却により行うことで、しわやカールを発生することなく、太陽電池と接着層とを充分に接着させることができ、ひずみの極度に少ないモジュール製造を可能とする。
更に、上述の樹脂組成物を用いると、架橋工程が必要なく、短時間での圧着が可能であるため、ロールツーロール法等の連続した方法を適用して、効率良くフレキシブル太陽電池モジュールを製造することができる。
【0041】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法について、図1を用いて、具体的に説明する。
図1に示すように、所定の組成からなる接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を、第一押出機Cと第二押出機Cにそれぞれ供給して所定の温度で溶融混練する。そして、第一押出機Cと第二押出機Cとを共に接続させている合流ダイに、上記接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を供給して合流させ、太陽電池Aの受光面(太陽電池素子)上に、接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物の順に積層されるよう、接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を合流ダイに接続したTダイからシート状に押出し、太陽電池A上に、接着層及びフッ素系樹脂層を形成する。
次いで、得られた積層体を所定の温度に保たれた一対の冷却ロールD、E間に配置し、該冷却ロールにて狭窄して圧着させることにより、太陽電池、接着層及びフッ素系樹脂層を接着一体化する。これにより、フレキシブル太陽電池モジュールを得ることができる。
【0042】
図2に、本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法において使用する太陽電池Aの一例の縦断面模式図を示す。図に示すように、太陽電池Aは、フレキシブル基材1上に太陽電池素子2が配置されたものである。
【0043】
また、本発明のフレキシブル太陽電池モジュール製造方法で得られるフレキシブル太陽電池モジュールの一例の縦断面模式図を図3に示す。
図3に示すように、上記フレキシブル太陽電池モジュールBは、太陽電池Aの太陽電池素子2側面が、接着層3及びフッ素系樹脂層4によって封止されて接着一体化されたものである。
上記接着層は、厚みが80〜700μmであることが好ましい。
80μm未満であると、フレキシブル太陽電池モジュールの絶縁性を保持できないおそれがある。700μmを超えると、フレキシブル太陽電池モジュールの難燃性に悪影響を及ぼしたり、フレキシブル太陽電池モジュールの重量が増大したり、経済的にも不利になるおそれがある。
上記接着層の厚みは、150〜400μmであることがより好ましい。
【0044】
上記フッ素系樹脂層は、厚みが10〜100μmであることが好ましい。
10μm未満であると、絶縁性が確保できなかったり、難燃性が損なわれるおそれがある。100μmを超えると、フレキシブル太陽電池モジュールの重量が増大し、経済的に不利になるおそれがある。
上記フッ素系樹脂層の厚みは、15〜80μmであることがより好ましい。
【0045】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法は、更に、上記太陽電池のフレキシブル基材側面上に、上記接着層を積層する工程を有していてもよい。
上記太陽電池のフレキシブル基材側面上に、上記接着層を積層することにより、上記太陽電池がより良好に封止され、長期間に亘って安定的に発電し得るフレキシブル太陽電池モジュールとすることができる。
【0046】
上記接着層を積層する方法としては、上記太陽電池のフレキシブル基材側面上に、上述と同様に、接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を共押出して、接着層及びフッ素系樹脂層を積層し、冷却ロールによりこれらを圧着する方法や、接着層及びフッ素系樹脂層からなる太陽電池封止シートを予め調製し、上記フレキシブル基材面と上記接着層とが接するように該シートを配置して、ロールにより圧着する方法等が挙げられる。
また、上記太陽電池のフレキシブル基材側面上を封止する場合は、光透過性は必要ではないため、上記フッ素系樹脂層の代わりに、不透明なステンレス層等を用いてもよい。
上記太陽電池のフレキシブル基材側面上に、上記接着層を積層する工程は、上述した太陽電池の受光面上に、上記接着層及びフッ素系樹脂層を圧着する工程の前に行ってもよいし、同時に行ってもよく、又は、後に行ってもよい。
【0047】
このように、本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法は、特定の成分からなる接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を用いて、接着層及びフッ素系樹脂層を共押出により形成し、これらを冷却ロールにより圧着して太陽電池を封止することを特徴とするものである。
このため、しわやカールが発生せず、太陽電池と接着層との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを連続して製造することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法は、上述の構成からなるものであるため、太陽電池モジュールの製造において、架橋工程を必要とすることなく、太陽電池素子を連続的に封止し、しわやカールが発生せず、太陽電池と接着層との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法における製造要領の一例を示した模式図である。
【図2】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法において使用する太陽電池の一例の縦断面模式図である。
【図3】本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法により得られるフレキシブル太陽電池モジュールの一例の縦断面模式図である。
【図4】比較例のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法における製造要領の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1〜実施例19、比較例1〜7)
まず、可撓性を有するポリイミドフィルムからなる基板上に、薄膜状のアモルファスシリコンからなる太陽電池素子が形成されてなり、かつ、ロール状に巻回されてなる太陽電池フィルムを用意した。
次に、表1に示した、所定量のブテン含有量及びエチレン含有量を有するブテン−エチレン共重合体を無水マレイン酸にてグラフト変性してなる変性ブテン系樹脂100重量部と、シラン化合物とを混合した接着層用組成物を、第一押出機に供給して、250℃にて溶融混練した。また一方で、表1〜3に示した所定のフッ素系樹脂を第二押出機に供給して、表1〜3に示した押出設定温度で溶融混練した。
そして、上記第一押出機と第二押出機とを共に接続させている合流ダイに、上記で調製した接着層用組成物とフッ素系樹脂とを供給して合流させ、太陽電池フィルムの太陽電池素子面上に、合流ダイに接続させているTダイから、シート状に上記接着層用組成物とフッ素系樹脂とを押出して、接着層とフッ素系樹脂層とを順に積層させた。これらの積層物を30℃に保たれた一対のロールにて狭窄し、圧着させた。これにより、太陽電池素子フィルム上に、接着層用組成物からなる厚みが0.3mmの接着層と、厚みが0.03mmのフッ素系樹脂層とが積層一体化されてなるフレキシブル太陽電池モジュールを得た。
なお、使用した無水マレイン酸変性ブテン系樹脂の無水マレイン酸の総含有量、メルトフローレイト、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)を表1〜3に示した。
また、上記シラン化合物として、3−グリドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製 商品名「Z−6040」)、及び、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 商品名「KBM−5103」)を使用した。
【0052】
(比較例8)
実施例7と同様の太陽電池フィルムと、ロール状に巻回された太陽電池保護シートとを用意した。
上記太陽電池保護シートは、表3に記載のブテン−エチレン共重合体を無水マレイン酸にてグラフト変性してなる変性ブテン系樹脂100重量部とシラン化合物とを含有する封止材組成物からなる太陽電池用封止材(厚み0.3mm)と、フッ素系樹脂層(厚み0.03mm)とからなる。
【0053】
次に、図4に示したように、太陽電池A及び太陽電池保護シートFを巻き出し、太陽電池Aの太陽電池素子上に太陽電池保護シートFをその太陽電池用封止材が太陽電池素子に対向した状態となるように積層させて積層シートHとした後、この積層シートHを95℃に加熱された一対のロールG、G間に供給して、積層シートHをその厚み方向に押圧しながら加熱することによって、太陽電池保護シートFの太陽電池用封止材を太陽電池Aの基材上に接着一体化させることにより、太陽電池素子を封止してフレキシブル太陽電池モジュールIを連続的に製造した。
【0054】
得られたフレキシブル太陽電池モジュールについて、しわの発生状況、カールの発生状況、剥離強度、及び、高温高湿耐久性を下記の要領で測定し、その結果を表1〜3に示した。
なお、比較例1〜3においては、太陽電池としての要件を満たさないため、高温高湿耐久性評価を行わなかった。
また、比較例4、5においては、剥離強度が十分得られず、太陽電池としての要件を満たさないため、高温高湿耐久性評価は行わなかった。
【0055】
<しわの発生>
上記で得られたフレキシブル太陽電池モジュールのしわの発生状況を目視で判断し、以下の評点で点数付けした。4点以上が合格である。
5点:しわ発生が全く見られない。
4点:0.5mm以内のしわが1個/m発見される。
3点:0.5mm以内のしわが2〜4個/m発見される。
2点:0.5mm以内のしわが5個/m以上発見される。
1点:0.5mm以上の大きなしわが発見される。
【0056】
<カールの発生>
500mm×500mmサイズの上記フレキシブル太陽電池モジュールを、平坦な平面上におき、端部の水平面からの浮き上がり高さを測定した。
◎:20mm未満
○:20mm以上25mm未満
△:25mm以上35mm未満
×:35mm以上
【0057】
<剥離強度>
得られたフレキシブル太陽電池モジュールにおいて、太陽電池のフレキシブル基材から、接着層及びフッ素系樹脂層を剥離した際の剥離強度をJIS K6854に準拠して測定した。
【0058】
<高温高湿耐久性(接着)>
得られたフレキシブル太陽電池モジュールを、JIC C8991に記載された85℃、相対湿度85%の環境下にて放置し、太陽電池封止シートの太陽電池からの剥離を、上記放置を開始してから500時間毎に観察し、剥離が確認された時間を測定した。
太陽電池モジュールの認証条件を定めたJIC C8991では発電効率で1000時間以上の耐久性を求めており、1000時間未満で剥離が確認された物は接着性が不足していると判断した。
【0059】
<高温高湿耐久性(発電特性)>
得られた太陽電池モジュールを、JIC C8990に記載された85℃、相対湿度85%の環境下にて放置し、最大出力Pmaxの変化量をニッシントーア株式会社製1116Nを用いて測定した。なお、1000時間未満で剥離が確認されたものについては実施しなかった。また、表1〜3に記載の評価結果は、下記を意味する。
>3000H:3000時間経過後に出力95%維持
2000H:2000時間経過まで出力95%維持
1000H:1000時間経過まで出力95%維持(JIS−C8991規格)
×:1000時間経過後に出力95%維持できず。
−:1000時間経過前に剥離したため測定不可。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法によれば、しわやカールが発生せず、太陽電池と接着層との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを連続して好適に製造することができる。
【符号の説明】
【0064】
A 太陽電池
B フレキシブル太陽電池モジュール
C 押出機
D ゴムロール
E チルロール
F 太陽電池保護シート
G ロール
H 積層シート
I フレキシブル太陽電池モジュール
1 フレキシブル基材
2 太陽電池素子
3 接着層
4 フッ素系樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル基材上に太陽電池素子が配置された太陽電池の少なくとも受光面上に、接着性樹脂を含有する接着層用組成物及びフッ素系樹脂組成物を共押出して、接着層及びフッ素系樹脂層を積層する工程、並びに、
前記工程で積層された太陽電池、接着層及びフッ素系樹脂層を冷却ロールにより圧着してラミネートする工程を有する
ことを特徴とするフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項2】
接着性樹脂は、α−オレフィン含有量が1〜25重量%であるα−オレフィン−エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性され、かつ、無水マレイン酸の総含有量が0.1〜3重量%である無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂である請求項1記載のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項3】
α−オレフィンは、ブテン又はオクテンである請求項2記載のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項4】
フッ素系樹脂組成物は、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、エチレンクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、テトラフロオロエチレン−パーフロオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド樹脂、及び、テトラフロオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種のフッ素系樹脂を含有する請求項1、2又は3記載のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項5】
接着層用組成物は、更に、RSi(ORで示されるシラン化合物を、接着性樹脂100重量部に対して0.4〜15重量部含有する請求項1、2、3又は4記載のフレキシブル太陽電池モジュールの製造方法。
但し、Rは、3−グリシドキシプロピル基又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示す。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−79884(P2012−79884A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223101(P2010−223101)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構、太陽エネルギー技術研究開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/ロールツーロールプロセスを可能とする封止材一体型保護シートの研究開発の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】