説明

ブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体およびその製造方法

【課題】 粒子径が小さくかつ保存安定性に優れ、水分散体を乾燥して固形物としたときに着色や界面活性剤のブリードのない、優れた性能を有するブチルゴム系熱可塑性エラストマーの水性分散体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを、該ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100重量部に対して1〜15重量部の割合のアニオン系界面活性剤の存在下で乳化分散させたブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体、およびその製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の熱可塑性エラストマーは、ゴムと同じ弾性体でありながらプラスチックと同様な機械成形ができる特徴を生かして、幅広い工業分野で使用されている。これらの中でも特に、ブタジエンをソフトセグメントとして導入したSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体)のようなジエン系熱可塑性エラストマーは、他の熱可塑性エラストマーと比較した場合、柔らかく、かつ永久歪が小さいことより古くから製造されている。しかし、これらのジエン系熱可塑性エラストマーは、ポリブタジエンのブロック部分に不飽和結合をもつため耐熱性や耐候性が劣る等の問題点を有している。この改良品として、不飽和結合を水添することで耐熱性や耐候性が改良されたSEBS(ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブタジエン)−ポリスチレンブロック共重合体)タイプの熱可塑性エラストマーが製造されているが、少量の不飽和結合が残存するためにさらに改善を求められる場合がある。
【0003】
これに対して、イソブチレンをブロック部分として導入することで、製品中に不飽和結合を全く含まないSIBS(ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレン)タイプのような熱可塑性エラストマーが考案されており、これらは不飽和結合がないため、耐熱性や耐候性に非常に優れているだけでなく、ブロック部分として持つポリイソブチレンの構造に起因するガスバリア性、制振性に優れた材料として開発が進められている。これらのポリイソブチレンをブロック部分として有する熱可塑性エラストマーは、SEBSタイプの熱可塑性エラストマーと区別するため、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーとして分類される場合がある。これらのブチルゴム系熱可塑性エラストマーの多くは、押し出し成形等の機械成形により利用されるが、各種材料へのコーティング剤、粘接着剤、バインダー、エマルジョン等の改質剤、繊維の収束剤等に利用する場合、水分散体での提供が求められている。
熱可塑性エラストマーの水分散体については、ジエン系熱可塑性エラストマーを中心にこれまで多くの検討がなされており、通常、ジエン系熱可塑性エラストマーを有機溶剤に溶解した有機相と、乳化剤を溶解させた水相とを混合し、これをホモミキサーや超音波分散機等を用いて乳化した後に有機溶剤を除去して製造されている(特許文献1および2参照)。
これに対し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの水性分散体については知られておらず、優れた特性を有するブチルゴム系熱可塑性エラストマーの水性分散体およびその製造方法の確立が望まれている。
【特許文献1】特公昭55−8020号公報
【特許文献2】特開2003−253134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、粒子径が小さくかつ保存安定性に優れ、水分散体を乾燥して固形物としたときに着色や界面活性剤のブリードのない、優れた性能を有するブチルゴム系熱可塑性エラストマーの水性分散体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを、該ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100重量部に対して1〜15重量部の割合のアニオン系界面活性剤の存在下で乳化分散させたブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体、およびその製法に関する。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明に用いられるブチルゴム系熱可塑性エラストマーは、ポリイソブチレンをブロック部分として有する熱可塑性エラストマーであれば特に限定されるものではなく、例えば、(A)イソブチレンを主要なモノマーとして構成されるブロック部分、および(B)芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成されるブロック部分、からなる共重合体など、公知の各種のものを利用できる。ここで用いる芳香族ビニル化合物の具体例としては、たとえば、スチレン、o−、m−またはp−メチルスチレン、α−メチルスチレン等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0007】
イソブチレンを主要なモノマーとして構成されるブロック部分におけるイソブチレンモノマーの含有量、および芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成されるブロック部分における芳香族ビニル化合物の含有量は、各々60重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0008】
このようなブチルゴム系熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体、ポリα−メチルスチレン−ポリイソブチレン−ポリα−メチルスチレンブロック共重合体、ポリp−メチルスチレン−ポリイソブチレン−ポリp−メチルスチレンブロック共重合体、ポリスチレン−ポリイソブチレンブロック共重合体、およびこれらのハロゲン化物等を挙げることができる。このうち、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体が特に好ましく用いられる。これらのブチルゴム系熱可塑性エラストマーは、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0009】
なお、上述のブチルゴム系熱可塑性エラストマーにおける(A)イソブチレンを主要なモノマーとして構成されるブロック部分の含有割合は、特に限定されるものではないが、通常、(A)イソブチレンを主要なモノマーとするブロック部分が40〜95重量%に設定されているのが好ましく、50〜90重量%に設定されているのがより好ましい。
本発明で用いられる界面活性剤としては、アニオン系の界面活性剤であれば特に限定はなく、例えば脂肪族系ポリオキシアルキレンエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩および脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム等の脂肪酸塩等を挙げることができる。これらは適宜、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0010】
これらのアニオン系界面活性剤としては、なかでも、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪族系ポリオキシアルキレンエーテル硫酸塩、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
ジアルキルスルホコハク酸塩は、下記の一般式〔I〕
YOSCH(CHCOOR)COOR 〔I〕
(式中、Yは、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩又はアンモニア塩を表し、R、Rは、同一または異なってよく、炭素数5〜12のアルキル基又はフェニル基を示す。)で表される化合物である。
ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、例えば、ジオクチルスルホコハク酸塩、ジエチルヘキシルスルホコハク酸塩、ジアルキルフェニルスルホコハク酸塩、ジドデシルスルホコハク酸塩等を挙げることができる。それらの中でも特にジオクチルスルホコハク酸塩を使用した場合に好ましい結果が得られる。
【0012】
脂肪族系ポリオキシアルキレンエーテル硫酸塩は、一般式〔II〕
(AO)SOY 〔II〕
(式中、Yは、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩又はアンモニア塩を表し、Rは、炭素数5〜24のアルキル基または炭素数5〜24のアルケニル基を表し、nは、付加モル数を示し2〜50の整数を示す。AOは、−(−CO−)n1−(−CO−)n2−(n1=0〜50、n2=0〜50、但し、n1+n2=2〜50であり、n1≠0且つn2≠0のとき、−CO−と−CO−との順番は問わず、ブロックでもランダムでもよい。)を表す。)で表される化合物である。
脂肪族系ポリオキシアルキレンエーテル硫酸塩の具体例としては、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸塩等を挙げることができる。ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム等が挙げられる。ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸アンモニウム等を挙げることができる。それらの中でも、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸塩、特にポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムが好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを用いた場合に、とりわけ好ましい結果が得られる。
【0013】
脂肪酸塩は、一般式〔III〕
COOM 〔III〕
(式中、Rは、炭素数5〜24のアルキル基または炭素数5〜24のアルケニル基、Mは、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニア塩またはアミン塩を表す。)で表される化合物である。
脂肪酸塩の具体例としては、例えば、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、等を挙げることができるが、それらの中で、特にオレイン酸塩を使用した場合に好ましい結果が得られる。
【0014】
アルキルベンゼンスルホン酸塩は、一般式〔IV〕
SO
(式中、Rは、炭素数5〜24のアルキル基、Mは、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩またはアミン塩を表す。)で表される化合物である。
アルキルベンゼンスルホン酸塩の具体例としては、例えば直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩等を挙げることができるが、なかでも直鎖型アルキル(C10〜C14)ベンゼンスルホン酸塩が好ましく、特にドデシルベンゼンスルホン酸塩、それらの中で特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用した場合に好ましい結果が得られる。
【0015】
アニオン系界面活性剤の添加量は、通常、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100重量部に対する割合が1〜15重量部になるように設定するのが好ましく、1〜7重量部になるよう設定するのがより好ましい。アニオン系界面活性剤の割合が1重量部未満の場合は、安定な水性分散体が得られない場合がある。逆に15重量部を超えると、乳化が容易になるものの不経済であり、また、得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体の各種物性が損なわれる場合がある。
【0016】
なお、アニオン系界面活性剤に加え、上述のようなアニオン系界面活性剤以外のノニオン系界面活性剤またはアニオン系やノニオン系の高分子分散安定剤を併せて用いることもできる。
ノニオン系界面活性としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、オキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体およびポリグリセリンエステルなどを挙げることができる。
一方、高分子分散安定剤としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステルの塩、アルギン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0017】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを、アニオン系界面活性剤を用いて乳化分散して得られるものであれば、特に限定はされない。例えばその製造方法として、(1)ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを有機溶剤に溶解した有機相と、アニオン系界面活性剤を水に溶解した水相とを混合して乳化を行い、その後有機溶剤を留去することからなる方法、(2)ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを水媒体中でアニオン系界面活性剤の存在下、加熱下で撹拌して乳化分散し、冷却することからなる方法等が挙げられる。
【0018】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体の製造方法としては、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが有機溶剤に溶解しやすい点から、(1)の方法が好ましく用いられる。
【0019】
本発明における(1)の製造方法において、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを含む有機相を調製する際に用いられる有機溶剤は、特に限定されるものではないが、通常は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの非環式脂肪族炭化水素系有機溶剤、およびシクロヘキサンなどの環式脂肪族炭化水素系有機溶剤、並びにベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶剤などである。これらの有機溶剤は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上のものが併用されてもよい。さらに、溶解助剤としてメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール等の低級アルコール類を併用してもよい。
【0020】
有機相を調製する際に、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの溶解割合は、特に限定されるものではないが、有機相中における固形分濃度が5〜50重量%になるよう設定するのが好ましい。溶解温度は、特に限定されるものではなく、通常100℃までの温度にて溶解される。
【0021】
アニオン系界面活性剤を溶解した水相を調製する際は、通常、水中に界面活性剤を添加して溶解させる。この際、界面活性剤の添加量は、特に限定されるものではないが、水相における濃度が0.1〜50重量%になるよう設定するのが好ましい。
【0022】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを含む有機相と界面活性剤とを含む水相とを混合して乳化させる工程において、有機相と水相との混合割合は、通常、有機相100重量部に対する水相の割合が20〜500重量部になるよう設定するのが好ましく、25〜200量部になるよう設定するのがより好ましい。水相の割合が20重量部未満の場合は、乳化できない場合や、得られる乳化液の粘度が非常に高くなる場合がある。逆に500重量部を超えると、乳化は可能であるが、生産性が悪く実用的ではない。
【0023】
有機相と水相とを混合して乳化させるための方法は、特に限定されるものではなく、例えば、適当な剪断力を有する乳化機、例えばホモジナイザーやコロイドミルなどを用いて攪拌混合する方法や、超音波分散機等を用いて分散・混合する方法を採用することができるが、攪拌混合する方法を採用するのが好ましい。また、乳化時の温度は、特に限定されるものではないが、5〜70℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0024】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、上述の乳化工程により得られた乳化液から有機溶剤を留去すると得られる。有機溶剤の留去は、一般に、減圧下で乳化液を加熱する通常の留去方法に従って実施することができる。このようにして得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、必要に応じて加熱濃縮、遠心分離または湿式分離等の操作により所望の固形分濃度になるまで濃縮することもできる。
【0025】
本発明において、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー粒子の平均粒子径は、0.1〜3μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満の場合は、ラテックスの静置安定性は高まるが、粘度が高くなるため取扱いが困難になる場合がある。逆に、3μmを超えると、ラテックスの静置安定性が低下する場合がある。なお、この平均粒子径は、乳化工程における攪拌混合操作を適宜調整することにより達成することができる。
【0026】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、水系の分散媒中にブチルゴム系熱可塑性エラストマー粒子が乳化分散しているものであり、上述のジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪族系ポリオキシアルキレンエーテル硫酸塩、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等に代表されるアニオン系界面活性剤を含んでいるためにアニオン性が付与されている。
【0027】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、上述のような特定のアニオン系界面活性剤を含有するために、分散しているブチルゴム系熱可塑性エラストマー粒子の粒子径が小さく、しかも保存安定性、特に静置安定性に優れている。
【0028】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体を乾燥することで、アニオン系界面活性剤とブチルゴム系熱可塑性エラストマーを含む、皮膜、フィルム、シートなどの成形品が得られる。
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体から得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマーの成形品もまた、本発明の一つである。
前記成形品を作成するための温度条件としては、特に限定されないが、40〜200℃の温度にて、乾燥することが好ましい。
アニオン系界面活性剤は、熱安定性に優れているので、前記ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの成形品は、アニオン系界面活性剤に起因する着色がない。
また、アニオン系界面活性剤は、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーとの相溶性に優れているので、前記ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの成形品からのアニオン系界面活性剤のブリードは、殆ど見られない。
従って、このブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、プラスチック成形体、繊維、紙、フィルム等のコーティング剤、ガスバリア剤、フォームラバー用原料、繊維やガラス繊維の収束剤、あるいはホース、チューブ、ベルト、ガスケット、パッキング成形材料の原料として広く利用可能であり、工業的価値の大きいものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、粒子径が小さく、かつ保存安定性に優れたブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体およびその製造方法が提供される。本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、アニオン系の界面活性剤とブチルゴム系熱可塑性エラストマーとの相溶性が良いため、乾燥し成形品とした際に界面活性剤のブリードがなく、着色もないため、耐熱性や耐候性、ガスバリア性、制振性に優れた材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
実施例1
内容積が500mlのセパラブルフラスコに、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体(イソブチレン含有量=77重量%)30gとトルエン170gとを加え、50℃で4時間攪拌して溶解した。得られたトルエン溶液に、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム1.5gを100gの水に溶解した水溶液を添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社の商品名“TKホモミキサー M型”)を用いて2分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ12000rpmおよび40℃に設定した。得られた乳化液を40〜90kPaの減圧下で40〜70℃に加熱し、トルエンを留去した。この結果、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体のアニオン性水性分散体が得られた。
【0031】
実施例2
内容積が500mlのセパラブルフラスコに、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体(イソブチレン含有量=77重量%)30gとシクロヘキサン153gとイソプロピルアルコール17gを加え、50℃で4時間攪拌して溶解した。得られた有機溶液に、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム1.5gを100gの水に溶解した水溶液を添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社の商品名“TKホモミキサー M型”)を用いて2分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ12000rpmおよび40℃に設定した。得られた乳化液を40〜90kPaの減圧下で40〜70℃に加熱し、シクロヘキサンおよびイソプロピルアルコールを留去した。この結果、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体のアニオン性水性分散体が得られた。
【0032】
実施例3
内容積が500mlのセパラブルフラスコに、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体(イソブチレン含有量=77重量%)30gとシクロヘキサン170gとを加え、50℃で4時間攪拌して溶解した。得られたシクロヘキサン溶液に、オレイン酸カリウム1.2gを100gの水に溶解した水溶液を添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社の商品名“TKホモミキサー M型”)を用いて2分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ12,000rpmおよび40℃に設定した。得られた乳化液を40〜90kPaの減圧下で40〜70℃に加熱し、シクロヘキサンを留去した。この結果、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体のアニオン性水性分散体が得られた。
【0033】
実施例4
内容積が500mlのセパラブルフラスコに、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体(イソブチレン含有量=77重量%)30gとヘプタン153gとイソプロピルアルコール17gを加え、50℃で4時間攪拌して溶解した。得られた有機溶液に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5gを100gの水に溶解した水溶液を添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社の商品名“TKホモミキサー M型”)を用いて2分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ12000rpmおよび40℃に設定した。得られた乳化液を40〜90kPaの減圧下で40〜70℃に加熱し、ヘプタンおよびイソプロピルアルコールを留去した。この結果、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体のアニオン性水性分散体が得られた。
【0034】
比較例1
実施例1においてジオクチルスルホコハク酸ナトリウムのかわりにポリオキシエチレンラウリルエーテルを用いた以外は実施例1と同様に操作し、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体のノニオン性水性分散体を得た。
【0035】
比較例2
実施例1においてジオクチルスルホコハク酸ナトリウムのかわりにオクタデシルアミン酢酸塩を用いた以外は実施例1と同様に操作し、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体のカチオン性水性分散体を得た。
【0036】
比較例3
実施例1においてジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを6g用いた以外は実施例1と同様に操作し、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体のアニオン性水性分散体を得た
【0037】
比較例4
実施例1においてジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを0.15g用いた以外は実施例1と同様に操作し、ラテックス化を試みたが、トルエンの留去時に塊状物となり水性分散体は得られなかった。
【0038】
評価
各実施例および各比較例で得られたラテックスについて、平均粒子径、保存安定性および水性分散液から得られた成形品の状態を下記の方法に従って調べた。結果を表1に示す。
(平均粒子径)レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所の商品名“SALD−2000J”)を用いて測定した。
(保存安定性)水性分散液40gを50mlの容器に入れて密封し、25℃の温度環境下で放置した。そして、3ヶ月後に水性分散液の状態を目視により評価した。評価の基準は下記の通りである。
○:相分離なし
×:相分離あり
(着色性)水性分散液10gをφ120mmのシャーレに入れて、40℃で12Hr乾燥することで、水性分散液の皮膜を得た。この皮膜の状態を目視にて、下記の評価基準に従い評価した。
〇:皮膜の着色がない
×:皮膜が着色している
(界面活性剤のブリード)上記皮膜を用いて、下記の方法で評価した。
〇:皮膜の表面から界面活性剤がブリードしていない
×:皮膜の表面から界面活性剤が少しブリードしている。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から本発明により得られる水性分散体は、保存安定性に優れており、また水性分散体から得られる成形品(皮膜)は、界面活性剤のブリードや着色がないことが分かる。一方、比較例1、2の方法によれば、ノニオン系やカチオン系の水性分散体が得られるが、保存安定性や組成物の着色、界面活性剤のブリードがみられる。また比較例3の方法のようにアニオン系界面活性を多く用いても同様な水性分散体が得られるが、組成物より界面活性剤のブリードがみられることより、本発明のアニオン性水性分散体は優れた特性を有していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、粒子径が小さく、かつ保存安定性に優れたブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体およびその製造方法が提供される。本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体は、アニオン系界面活性剤とブチルゴム系熱可塑性エラストマーとの相溶性が良いため、乾燥し成形品とした際に界面活性剤のブリードがなく、着色もないため、耐熱性や耐候性、ガスバリア性、制振性に優れた材料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを、該ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100重量部に対して1〜15重量部の割合のアニオン系界面活性剤の存在下で乳化分散させたブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体。
【請求項2】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが、(A)イソブチレンを主要なモノマーとして構成されるブロックおよび(B)芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成されるブロックからなる共重合体である請求項1に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体。
【請求項3】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体である請求項1〜2に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体。
【請求項4】
アニオン系界面活性剤がジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪族系ポリオキシアルキレンエーテル硫酸塩、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1つである請求項1〜3の何れか1項に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体。
【請求項5】
前記アニオン性水性分散体中のブチルゴム系熱可塑性エラストマー粒子の平均粒子径が0.1〜3μmである請求項1〜4の何れか1項に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体から得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマーの成形品。
【請求項7】
有機溶剤に溶解させたブチルゴム系熱可塑性エラストマーと、水に溶解させたアニオン系界面活性剤とを混合し、乳化させた後、前記有機溶剤を留去することからなる請求項1〜5の何れか1項に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマーのアニオン性水性分散体の製造方法。

【公開番号】特開2006−206677(P2006−206677A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18134(P2005−18134)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】