説明

ブラシ体およびこれを備えた歯ブラシ

【課題】芯鞘構造の複数のフィラメントにより構成されるブリッスル束において導電性が低下することを抑制することができるブラシ体およびこれを備えた歯ブラシを提供する。
【解決手段】歯ブラシ1が備えるブラシ体20は、複数のフィラメント40により構成されるブリッスル束30を備えている。フィラメント40は、導電性材料を含有する芯部と、この芯部の外周に設けられた絶縁性の鞘部とを備え、フィラメント40の両端において鞘部から芯部が外方へ突出する。ブリッスル束30の一方の端部である基端部31は、複数の芯部が溶融固化により一体化された部位であり、ブリッスル束30の他方の端部である先端部32は、複数の芯部が一体化されていない部位である。基端部31の導電性材料比率と、先端部32の導電性材料比率とは等しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のフィラメントにより構成されるブリッスル束を備え、フィラメントは、導電性材料を含有する芯部と、芯部の外周に設けられた絶縁性の鞘部とを備え、フィラメントの両端において鞘部から芯部が外方へ突出するブラシ体、およびこれを備えた歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、口腔内清掃目的のために、電動式の電子歯ブラシが開示されている。この電子歯ブラシは、歯とブラシ毛を含む電気回路に直流パルス電流を流すことにより、ブラッシングの刷掃効果をより向上させることを目的とするものである。
【0003】
特許文献2には、歯垢や沈着色素の分解だけでなく、歯の脱灰の直接原因となる乳酸等の有機酸の分解を行い、併せて歯垢や有機酸や毒素等を産出する虫歯や歯槽膿漏の原因となる細菌に対しても殺菌を行うための電動歯ブラシが開示されている。また、特許文献2には、植毛部または握り部もしくはこれら両者に亘って、口腔内の唾液等の水分に接触するN型半導体を設け、このN型半導体と直流電源の陽電極とを接続することが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、電動歯ブラシの一実施例において、フィラメントの表面に金属チタンを蒸着したのち、その表面を酸化して薄い膜厚のアナターゼ型の二酸化チタン層を形成して構成されたブラシ毛が開示されている。
【0005】
特許文献3には、歯磨き中に歯や義歯の表面上の歯垢を検出する装置と、その検出に使用する方法が開示されている。この装置は、外側を絶縁し且つ歯の表面上に置かれる導電性先端を有した電極を有する。同電極として、可撓性導電材製の芯を備えた弾性絶縁材製のフィラメントが開示されている。
【0006】
特許文献4および5には、ヘッド部に電極が設けられ、この電極に通電させることによって、口腔内の塩化物イオンを有効塩素に変化させて殺菌および洗浄を行うものが開示されている。特許文献4には、上記電極の配設態様として、ブラシ毛の近傍においてヘッド部に電極を設ける場合と、導電用毛であるブラシ毛に接触する電極をヘッド部の内部に設ける場合とが開示されている。特許文献5には、毛束として導電用刷毛を用いることが示唆されている。
【0007】
特許文献6には、フィラメントを束ねて形成した毛束の基端部に、1束単位で一括溶融固化させた焼玉を形成し、この焼玉を歯ブラシの植毛台内に埋設保持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−249507号公報
【特許文献2】特開平6−90824号公報
【特許文献3】特表2000−504605号公報
【特許文献4】特開2006−102095号公報
【特許文献5】特開2006−180953号公報
【特許文献6】特開2003−9947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
歯ブラシによるブラッシングでは、細かな隙間(特に、歯と歯の間の歯間や、歯周ポケットといわれる歯と歯茎の間)において歯垢の完全な除去が困難であって、このような細かな隙間においては細菌が繁殖し易い。このような細菌を殺菌するために、CPC(塩化セチルピリジニウム)等の殺菌に有効な薬効成分が含まれている歯磨き剤や洗口剤が知られている。
【0010】
CPC等の薬効成分は電解質であるため、歯磨き時においてイオン化されて、口腔内の全体に広がることになるが、薬効成分は炎症部位や疾病部位に集中的に供給することが好ましい。従って、上記特許文献4に記載されるように、口腔内の所望の部位に直接接触するブラシ毛が導電性を有し、このブラシ毛に通電するように構成されることが好ましい。
【0011】
ブラッシングに用いられ導電性を有するものとしては、いわゆる芯鞘構造の複数のフィラメントにより構成されたブリッスル束が知られている。芯鞘構造のフィラメントは、導電性材料を含有する芯部と、この芯部の外周に設けられた絶縁性の鞘部とを備え、芯部が通電可能な構成となっている。
【0012】
しかし、芯鞘構造のフィラメントによりブリッスル束が構成される場合に、特許文献6に記載されるようにフィラメントを束ねて形成した毛束の基端部に、1束単位で一括溶融固化させた焼玉を形成すると、ブリッスル束において所望の導電性を得られないおそれがある。
【0013】
本発明の目的は、芯鞘構造の複数のフィラメントにより構成されるブリッスル束において導電性が低下することを抑制することができるブラシ体およびこれを備えた歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のブラシ体は、複数のフィラメントにより構成されるブリッスル束を備え、前記フィラメントは、導電性材料を含有する芯部と、この芯部の外周に設けられた絶縁性の鞘部とを備え、前記フィラメントの両端において前記鞘部から前記芯部が外方へ突出するブラシ体において、前記ブリッスル束の一方の端部である基端部は、複数の前記芯部が溶融固化により一体化された部位であり、前記ブリッスル束の他方の端部である先端部は、複数の前記芯部が一体化されていない部位であり、前記基端部の導電性材料比率と前記先端部の導電性材料とが等しいことを特徴とする。
【0015】
上記ブラシ体において、前記ブリッスル束の長手方向から見て、前記基端部の外径が、前記ブリッスル束において複数の前記鞘部が束ねられている部位の外径に比べて大きいことが好ましい。
【0016】
上記ブラシ体において、前記ブリッスル束を複数備え、隣り合った前記ブリッスル束が備える前記基端部の各々が、一体化されて互いに接続されていることが好ましい。
上記ブラシ体において、前記ブリッスル束を複数備え、隣り合った前記ブリッスル束が有する前記基端部の各々が、導電部材により互いに接続され、前記導電部材の体積固有抵抗が、互いに接続される前記基端部の体積固有抵抗に比べて小さいことが好ましい。
【0017】
上記ブラシ体において、複数の前記ブリッスル束が挿入される基台を備え、この基台が前記導電部材を兼ねることが好ましい。
上記ブラシ体において、前記基台に対して前記基端部が一体化されていることが好ましい。
【0018】
本発明の歯ブラシは、上記ブラシ体を備えることを特徴とする。
上記歯ブラシにおいて、前記ブラシ体を振動させる振動アクチュエータを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、芯鞘構造の複数のフィラメントにより構成されるブリッスル束において導電性が低下することを抑制することができるブラシ体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の歯ブラシについて、(a)はその全体の断面構造を示す断面図、(b)はブラシ体の拡大図。
【図2】同実施形態の歯ブラシについて、ブラシ体を分解した状態を示す斜視図。
【図3】同実施形態のブラシ体について、(a)〜(c)はブラシ体が備えるブリッスル束の製造工程を示す模式図。
【図4】同実施形態の歯ブラシについて、(a)〜(d)はその組み立て工程を示す斜視図。
【図5】本発明の第2実施形態の歯ブラシについて、(a)はその全体の断面構造を示す断面図、(b)はブラシ体の拡大図。
【図6】同実施形態の歯ブラシについて、(a)および(b)はブリッスル束を固定するための工程を示す断面図。
【図7】本発明の第3実施形態の歯ブラシについて、(a)はその全体の断面構造を示す断面図、(b)はブラシ体の拡大図。
【図8】同実施形態の歯ブラシについて、ブラシ体を分解した状態を示す斜視図。
【図9】同実施形態の歯ブラシについて、(a)〜(c)はその組み立て工程を示す斜視図。
【図10】同実施形態の歯ブラシについて、(a)および(b)はブリッスル束を固定するための工程を示す断面図。
【図11】本発明の第4実施形態の歯ブラシについて、(a)はその全体の断面構造を示す断面図、(b)はブラシ体の拡大図。
【図12】同実施形態の歯ブラシについて、ブラシ体を分解した状態を示す斜視図。
【図13】従来の歯ブラシについて、(a)〜(c)はブリッスル束の製造工程を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
図1〜図4を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1(a)は、歯ブラシ1の全体の概略構成を示す断面図であって、図1(b)は歯ブラシ1が備えるブラシ体20を拡大した断面図である。
【0022】
図1(a)に示すように、歯ブラシ1は、使用者が把持可能な把持本体部10にブラシ体20を着脱可能に装着することができる電動歯ブラシである。ブラシ体20は、把持本体部10の内部に設けられた振動アクチュエータ14によって振動させられる。
【0023】
把持本体部10は、使用者の把持等を考慮した略円柱状に形成されている。把持本体部10の外側表面には、把持されることにより使用者の手と接触する把持電極11が設けられている。
【0024】
把持本体部10の内部には、電力を供給する電源部12と、振動アクチュエータ14への電力の供給等を制御する回路部13とが設けられている。回路部13は、歯ブラシ1が備えるスイッチ(不図示)の操作に基づいて、電源部12と振動アクチュエータ14とを電気的に接続する。
【0025】
振動アクチュエータ14は出力シャフト14aを有している。振動アクチュエータ14は、電源部12から供給される電力を駆動力として出力シャフト14aを振動させる。導電性を有する出力シャフト14aは、把持本体部10からブラシ体20に向けて突出するように設けられるとともに、電源部12と電気的に接続されている。把持本体部10にブラシ体20が装着されることにより、出力シャフト14aはブラシ体20の内部に挿入される。
【0026】
ブラシ体20は、把持本体部10に接続されるブラシ柄20aと、ブラシ柄20aと一体に形成されたヘッド部20bとを含む。ブラシ体20は、ヘッド部20bに設けられたブリッスル束30を備えている。
【0027】
ブラシ体20のブラシ柄20aの内部には、ブラシ体20が把持本体部10に接続されることによって出力シャフト14aと接続されるリード板21が設けられている。リード板21は導電性を有する金属材料からなる導電部材である。
【0028】
図1(b)に示すように、ブラシ体20のヘッド部20bの内部には、ブリッスル束30が植えつけられた植毛台22と、ブリッスル束30を植毛台22に対して弾性的に押さえる押さえ部材23とが設けられている。
【0029】
図2にブラシ体20を分解した状態を示す。
図1(b)および図2に示すように、絶縁性材料からなるヘッド部20bには、ブリッスル束30が挿入される貫通孔20cが複数形成されている。植毛台22に植え付けられたブリッスル束30は、貫通孔20cに挿入されることにより、ブラシ体20の外部へ突出する。
【0030】
植毛台22は、ブリッスル束30が挿入されて設けられる基台であって、導電性を有する金属材料等からなる導電部材である。植毛台22には、ブリッスル束30が挿入される貫通孔22a(図1(b)参照)が複数形成されている。
【0031】
押さえ部材23は、例えばスポンジ等により構成された弾性体である。ブリッスル束30が押さえ部材23により押さえつけられることにより、植毛台22にブリッスル束30は略固定される。
【0032】
ブラシ体20の内部に設けられたリード板21、植毛台22、および押さえ部材23は、ブラシ柄20aおよびヘッド部20bに設けられたカバー24により覆われる。カバー24は、ブラシ柄20aおよびヘッド部20bから取り外されないように、かつ水密的に設けられることが好ましい。
【0033】
ブリッスル束30は、複数のフィラメント40により構成されている。すなわち、ブリッスル束30は、フィラメント40がブリッスルとして複数本束ねられることにより形成されているものである。ブリッスル束30は、基台としての植毛台22に設けられる基端部31と、ブラシ体20の外部へ突出させられる先端部32とを有している。ブラシ体20において、隣り合ったブリッスル束30が有する基端部31の各々は、植毛台22により互いに電気的に接続される。
【0034】
フィラメント40は、1本の細い糸であるモノフィラメントであって、芯鞘構造を有している。ブリッスル束30は例えば40本のフィラメント40により構成される。図3にフィラメント40の構成およびフィラメント40を用いたブリッスル束30の製造工程を示す。
【0035】
図3(a)に示すように、芯鞘構造を有するフィラメント40は、導電性材料を含有する芯部41と、芯部41の外周に設けられた絶縁性の鞘部42とを備えている。鞘部42の長手方向において、鞘部42の両端から芯部41が外方へ突出している。即ち、フィラメント40の長手方向の両端において、鞘部42から芯部41が突出している。
【0036】
フィラメント40は、絶縁性材料であるポリアミド樹脂や飽和ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート)により形成され、鞘部42には導電性材料が含まれないのに対して、芯部41には導電性材料が含有されている。
【0037】
すなわち、芯部41には、導電性材料がフィラメント40を形成する上記絶縁性材料に所定の割合で混合されている。芯部41に含まれる導電性材料は、例えば、カーボン粒子、カーボン長繊維・短繊維、銀粒子等の金属粒子である。
【0038】
本実施形態においては、フィラメント40がポリアミド樹脂であるナイロン6により形成されることにより、鞘部42の体積固有抵抗値は1×10〜1×1013(Ω・cm)である。そして、芯部41は、主材料であるナイロン6に対して導電性材料であるカーボン粒子が混練されて形成されることにより、芯部41におけるカーボン粒子の質量比が30%となっている。すなわち、芯部41の導電性材料比率が30%であって、芯部41の絶縁性材料比率は70%である。
【0039】
上述のようにして形成された芯部41の体積固有抵抗値は1×10〜1×10(Ω・cm)であって、鞘部42に比べて芯部41は高い導電性を有する。なお、体積固有抵抗値は、物体の体積固有抵抗を示す値である。体積固有抵抗とは、物体の表面における電気抵抗率ではなく、物体の内部における電気抵抗率である。
【0040】
図3(a)に示すように、ブリッスル束30を製造する際には、鞘部42の一端から芯部41が長く突出したフィラメント40を用意する。すなわち、鞘部42の一端から外方へ突出した芯部41は、鞘部42の一端から外方へ突出した芯部41に比べて長いフィラメント40を用意する。具体的には、鞘部42の一端から外方へ2mm突出するとともに鞘部42の他端から外方へ5mm突出した芯部41を有するフィラメント40を用意する。なお、円柱状の芯部41の外径は、例えば0.05mmである。円柱状の鞘部42の外径は、例えば0.18mmである。
【0041】
図3(b)に示すように、ブリッスル束30の製造工程においては、複数のフィラメント40を束ねて、鞘部42の両端から突出する芯部41において、鞘部42の一端から長く突出した芯部41を、所定の温度に加熱されている熱板9に押しつける。熱板9は、フィラメント40を形成する絶縁性材料である樹脂の溶融温度程度に加熱されている。フィラメント40がナイロン6により形成されている場合には、熱板9は260℃に加熱されている。芯部41が熱板9に押しつけられると芯部41が溶融して、複数のフィラメント40が備える芯部41が一体となる。
【0042】
図3(c)に示すように、芯部41を溶融固化させることにより、基端部31を有するブリッスル束30が得られる。すなわち、ブリッスル束30の一方の端部である基端部31は、複数の芯部41が溶融固化により一体化された部位である。また、ブリッスル束30の他方の端部である先端部32は、複数の芯部41が一体化されていない部位(芯部41全体)である。
【0043】
鞘部42の一端から突出した複数の芯部41が溶融固化されて一体化されてなる基端部31は、長手方向から見て、1つのブリッスル束30において最も大きい外径R1を有している。すなわち、ブリッスル束30の長手方向から見て、基端部31の外径R1は、複数の鞘部42が束ねられている部位30Aの外径R2に比べて大きい。
【0044】
以上のようにして製造されたブリッスル束30において、基端部31を形成する際に鞘部42が溶融されないため、基端部31の導電性材料比率と、鞘部42の他端から突出した芯部41が一体化されていない先端部32の導電性材料比率と等しい。すなわち、基端部31の形成工程において、芯部41のみで基端部31が形成されるように、ブリッスル束30を構成するフィラメント40の本数、芯部41の外径、および芯部41の長さが予め調整されている。
【0045】
図13に、従来のフィラメント140を用いたブリッスル束130の製造工程を示す。
図13(a)に示すように、芯鞘構造のフィラメント140において、鞘部142の両端から芯部141が短く突出していると、基端部131(図13(c)参照)を形成するために、図13(b)に示すように芯部141と鞘部142とを溶融する必要がある。このように芯部141と鞘部142とが溶融固化されて基端部131が形成されると、基端部131の導電性材料比率は、先端部132の導電性材料比率に対して低くなる。従って、基端部131の体積固有抵抗が、芯部141の体積固有抵抗に比べて大きくなる。また、鞘部142が溶融することにより基端部131における導電性材料の分布が不均一となって、フィラメント140の各々に通電される電流にばらつきが生じるおそれもある。
【0046】
図4を参照して、ブラシ体20を組み立てる工程について説明する。
図4(a)に示すように、まず、ヘッド部20bの貫通孔20cと植毛台22の貫通孔22aが連続するように、ヘッド部20bに植毛台22を設ける。
【0047】
次いで、図4(b)に示すように、ブリッスル束30を、植毛台22側から貫通孔22a,20cに挿入する。このとき、基端部31の外径R1は、貫通孔22a,20cの径よりも大きいため、上方から貫通孔22a,20cに挿入されたブリッスル束30は、貫通孔22a,20cから下方に抜け落ちない。
【0048】
次いで、図4(c)に示すように、植毛台22の端部に形成された突起22b(図4(b)参照)を、リード板21に形成された貫通孔21a(図1(b)参照)に挿入して、熱かしめにより突起22bの先端を変形させて、植毛台22にリード板21を固定する。
【0049】
そして、基端部31上に押さえ部材23を設けて、図4(d)に示すように、カバー24を、超音波溶着等によりヘッド部20bおよびブラシ柄20aと一体化させることにより、図1に示すブラシ体20が得られる。
【0050】
歯磨き時に、使用者によって歯ブラシ1が備えるスイッチ(不図示)が操作されることにより、回路部13は、電源部12を介して把持電極11とブリッスル束30とを電気的に接続する。すなわち、歯磨き時には、電源部12、把持電極11、使用者の手、使用者の歯茎等の組織、ブリッスル束30、植毛台22、リード板21、出力シャフト14aの順に接続された閉回路である電気回路が形成される。
【0051】
上記電気回路において電源部12からブリッスル束30までの通電効率を高めるために、上述のリード板21および植毛台22は、芯部41に含有される導電性材料(例えば、銀)からなる。すなわち、リード板21および植毛台22の体積固有抵抗値は、基端部31の体積固有抵抗値に比べて小さい。
【0052】
本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ブラシ体20は、複数のフィラメント40により構成されるブリッスル束30を備え、フィラメント40は、芯部41と鞘部42とを備え、フィラメント40の両端において鞘部42から芯部41が外方へ突出している。ブリッスル束30の一方の端部である基端部31は、複数の芯部41が溶融固化により一体化された部位であり、ブリッスル束30の他方の端部である先端部32は、複数の芯部41が一体化されていない部位である。そして、基端部31の導電性材料比率と、先端部32の導電性材料比率とが等しい。このため、基端部31の導電性材料比率が先端部32の導電性材料比率に比べて低い場合に比べて、基端部31から先端部32への導電効率を高めることができる。従って、芯鞘構造の複数のフィラメント40により構成されるブリッスル束30において導電性が低下することを抑制することができる。また、フィラメント40の各々に通電される電流にばらつきが生じることを抑制することもできる。
【0053】
(2)ブリッスル束30の長手方向から見て、基端部31の外径R1が、ブリッスル束30において複数の鞘部42が束ねられている部位30Aの外径R2に比べて大きい。このため、複数の鞘部42が束ねられている部位30Aを貫通孔22aに挿入すると、ブリッスル束30の一方向への移動を基端部31により規制することができる。すなわち、貫通孔22aからブリッスル束30が抜けることを確実に抑制することができる。
【0054】
(3)ブリッスル束30を複数備え、隣り合ったブリッスル束30が有する基端部31の各々が、導電部材である植毛台22により互いに接続され、植毛台22の体積固有抵抗が、互いに接続される基端部31の体積固有抵抗に比べて小さい。このため、植毛台22を介してブリッスル束30に通電する場合に、植毛台22における発熱等を抑制して通電効率を高めることができる。
【0055】
(4)複数のブリッスル束30が挿入される基台としての植毛台22を備え、この植毛台22が、基端部31の各々を互いに接続する導電部材を兼ねる。このため、植毛台22にブリッスル束30を挿入して基端部31と植毛台22とが接触することにより、植毛台22を介して複数のブリッスル束30に通電することができる。
【0056】
(5)歯ブラシ1は、上記構成のブラシ体20を備えているため、上記作用効果を得ることができる。従って、ブリッスル束30に通電するための電源部12に要求される性能が低く、小型の電源部12を構成することができる。
【0057】
(6)歯ブラシ1は、ブラシ体20を振動させる振動アクチュエータ14を備えている。このため、ブラシ体20のヘッド部20bが振動することにより擦掃性の向上、歯茎へのマッサージ効果も期待できる。
【0058】
(第2実施形態)
図5および図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその重複する説明を省略または簡略化して説明する。
【0059】
図5(a)および(b)に示すように、本実施形態においては、押さえ部材23を用いずに、植毛台22に対してブリッスル束30が固定されている。具体的には、溶融固化した基端部31が植毛台22に対して一体化されて固定されている。
【0060】
植毛台22には、貫通孔22aの周囲に周壁22cが形成されるとともに、この周壁22cよいも貫通孔22a側に設けられた突起である溶着部22d(図6(a)参照)が形成されている。溶融させたブリッスル束30の基端部31により溶着部22dを覆って、基端部31を固化させることにより、基端部31が植毛台22に一体化される。
【0061】
図6を参照して、ブラシ体20を組み立てる工程について説明する。
図6(a)に示すように、上記第1実施形態と同様にして、ブリッスル束30を、植毛台22側から貫通孔22a,20cに挿入する。
【0062】
次いで、図6(b)に示すように、治具(不図示)を用いて植毛台22にブリッスル束30を固定した状態で、溶融固化されている基端部31を熱板等(不図示)で加熱および加圧し、基端部31を再び溶融させる。溶融した基端部31は周壁22c内において流動して溶着部22dを覆って、溶融固化した基端部31が植毛台22に固定される。
【0063】
そして、カバー24を、超音波溶着等によりヘッド部20bおよびブラシ柄20aと一体化させることにより、図5に示すブラシ体20が得られる。ブリッスル束30の基端部31が植毛台22に固定されているため、ブリッスル束30を植毛台22に押さえつける押さえ部材23は不要である。さらに、カバー24の内側にブリッスル束30に当接するようにリブを形成して、固定の補助としてもよい。
【0064】
本実施形態によれば、上記(1)〜(6)に記載の効果に加えて、以下の効果を奏することができる。
(7)基台としての植毛台22に対して基端部31が一体化されている。このため、基端部31と植毛台22とを接触させて電気的に接続する工程において、植毛台22にブリッスル束30を固定することができ、基端部31と植毛台22との電気的接続を確実に行うことができる。
【0065】
(第3実施形態)
図7〜図10を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその重複する説明を省略または簡略化して説明する。
【0066】
図7(a)および(b)に示すように、本実施形態においては、押さえ部材23および植毛台22を用いずに、ブリッスル束30が固定されている。具体的には、複数の基端部31が一体化されるとともに、リード板21によって基端部31が基台として構成されたヘッド部20bに押さえつけられている。
【0067】
図8にブラシ体20を分解した状態を示す。
図7(b)および図8に示すように、ヘッド部20bは、ブリッスル束30が挿入されて設けられる基台である。
【0068】
ブラシ体20において、隣り合ったブリッスル束30が有する基端部31の各々は、溶融固化されて一体化されて接続されている。すなわち、ブリッスル束30の各々が有する先端部32は、1つの基端部31と電気的に接続されている。
【0069】
図9および図10を参照して、ブラシ体20を組み立てる工程について説明する。図10(a)は、図9(b)に示すヘッド部20bの断面図であって、図10(b)は、図9(c)に示すヘッド部20bの断面図である。
【0070】
図9(a)に示すように、植毛台22が設けられていないブラシ体20を用意して、次いで、図9(b)および図10(a)に示すように、ブリッスル束30を貫通孔20cに挿入する。
【0071】
次いで、図9(c)および図10(b)に示すように、治具(不図示)を用いてヘッド部20bにブリッスル束30を固定した状態で、溶融固化されている基端部31を熱板等(不図示)で加熱および加圧し、基端部31を再び溶融させる。溶融した複数の基端部31は互いに混じり合って一体となる。このようにして基端部31の各々は溶融固化されて一体化される。
【0072】
そして、基端部31上にリード板21を設けて、カバー24を、超音波溶着等によりヘッド部20bおよびブラシ柄20aと一体化させることにより、図7に示すブラシ体20が得られる。リード板21はカバー24によって基端部31に押さえつけられている。
【0073】
本実施形態によれば、上記(1)、(2)、(5)、(6)に記載の効果に加えて、以下の効果を奏することができる。
(8)ブリッスル束30を複数備え、隣り合ったブリッスル束30が備える基端部31の各々が、一体化されて互いに接続されている。このため、複数のブリッスル束30に通電するための構成を簡略化することができる。
【0074】
(第4実施形態)
図11および図12を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその重複する説明を省略または簡略化して説明する。
【0075】
図11(a)および(b)に示すように、本実施形態においては、植毛台22を用いずに、ブリッスル束30が固定されている。具体的には、押さえ部材23およびリード板21によって、基端部31の各々が基台として構成されたヘッド部20bに押さえつけられている。
【0076】
図12にブラシ体20を分解した状態を示す。
図11(b)および図12に示すように、リード板21は、基端部31を覆う形状を有している。リード板21には、基端部31の各々に対応して設けられた突出部21bが複数形成されている。リード板21の突出部21bが基端部31に押さえつけられることによって、リード板21とブリッスル束30とが直接接続されるとともに、基端部31とリード板21との電気的接続が確実に行われる。
【0077】
本実施形態においてブラシ体20を組み立てる際には、上記第3実施形態と同様にしてブリッスル束30を貫通孔20cに挿入する。次いで、基端部31上にリード板21を設けるとともに、リード板21上に押さえ部材23を設けて、カバー24を、超音波溶着等によりヘッド部20bおよびブラシ柄20aと一体化させることにより、図11に示すブラシ体20が得られる。
【0078】
本実施形態によれば、上記(1)、(2)、(5)、(6)に記載の効果に加えて、以下の効果を奏することができる。
(9)ブリッスル束30を複数備え、隣り合ったブリッスル束30が有する基端部31の各々が、導電部材であるリード板21により互いに接続され、リード板21の体積固有抵抗が、互いに接続される基端部31の体積固有抵抗に比べて小さい。このため、リード板21を介してブリッスル束30に通電する場合に、リード板21における発熱等を抑制して通電効率を高めることができる。
【0079】
(その他の実施形態)
・上記第3実施形態において、リード板21に対して基端部31に弾性的に押さえつける押さえ部材が設けられていてもよい。
【0080】
・ブリッスル束30の基台への固定態様は上記実施形態に限定されない。例えば、上記第1および第4実施形態において、カバー24により基端部31が植毛台22に対して押さえつけられる構成であってもよい。
【0081】
・フィラメント40を形成する材料、および芯部41に含有される導電性材料は上記実施形態に記載されるものに限定されない。また、ブラシ体20を構成するヘッド部20b、リード板21、植毛台22等を形成する材料も、上記実施形態に記載されるものに限定されない。
【0082】
例えば、リード板21が、芯部41に含まれる導電性材料ではなく、金属材料であるステンレスにより形成されていてもよい。また、例えば、植毛台22が、導電性材料を含有する導電性樹脂材料により形成されていてもよい。
【0083】
・上記実施形態においては、ブラシ体20が把持本体部10に対して着脱可能であったが、ブラシ体20と把持本体部10とが一体的に設けられた歯ブラシに対して本発明を適用することもできる。
【0084】
・上記実施形態においては、ブラシ体20のヘッド部20bが振動する機能を有した歯ブラシ1であったが、ブラシ体20を振動させる機能が省かれて歯ブラシに対して本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0085】
R1,R2…外径、1…歯ブラシ、14…振動アクチュエータ、20…ブラシ体、21…リード板(導電部材)、22…植毛台(基台、導電部材)、30…ブリッスル束、30A…複数の鞘部が束ねられている部位、31…基端部、32…先端部、40…フィラメント、41…芯部、42…鞘部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィラメントにより構成されるブリッスル束を備え、前記フィラメントは、導電性材料を含有する芯部と、この芯部の外周に設けられた絶縁性の鞘部とを備え、前記フィラメントの両端において前記鞘部から前記芯部が外方へ突出するブラシ体において、
前記ブリッスル束の一方の端部である基端部は、複数の前記芯部が溶融固化により一体化された部位であり、前記ブリッスル束の他方の端部である先端部は、複数の前記芯部が一体化されていない部位であり、
前記基端部の導電性材料比率と前記先端部の導電性材料とが等しい
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項2】
請求項1に記載のブラシ体において、
前記ブリッスル束の長手方向から見て、前記基端部の外径が、前記ブリッスル束において複数の前記鞘部が束ねられている部位の外径に比べて大きい
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブラシ体において、
前記ブリッスル束を複数備え、隣り合った前記ブリッスル束が備える前記基端部の各々が、一体化されて互いに接続されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のブラシ体において、
前記ブリッスル束を複数備え、隣り合った前記ブリッスル束が有する前記基端部の各々が、導電部材により互いに接続され、
前記導電部材の体積固有抵抗が、互いに接続される前記基端部の体積固有抵抗に比べて小さい
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項5】
請求項4に記載のブラシ体において、
複数の前記ブリッスル束が挿入される基台を備え、この基台が前記導電部材を兼ねる
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項6】
請求項5に記載のブラシ体において、
前記基台に対して前記基端部が一体化されている
ことを特徴とするブラシ体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のブラシ体を備えることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項8】
請求項7に記載の歯ブラシにおいて、
前記ブラシ体を振動させる振動アクチュエータを備える
ことを特徴とする歯ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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