説明

ブラシ用毛材およびブラシ

【課題】吸水性が低いことから寸法安定性に優れるとともに、毛腰や触感の変化が小さく、優れた清掃性能を持続することができ、また高い耐屈曲摩耗性を有するブラシ用毛材およびブラシの提供。
【解決手段】炭素数9〜12の脂肪族ジアミンと炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸を構成単位とするポリアミド系樹脂を溶融紡糸したモノフィラメント1のカットブリッスルからなることを特徴とするブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性が低いことから寸法安定性に優れるとともに、毛腰や触感の変化が小さく、優れた清掃性能を持続することができ、また高い耐屈曲摩耗性を有するブラシ用毛材およびブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ブラシ用毛材には、安価で容易に加工できることから合成樹脂モノフィラメントが使用されており、合成樹脂としてはポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂が主に使用されてきた。
【0003】
特にポリアミド系樹脂は、引張強伸度や耐摩耗性などの物理特性や耐薬品性などの化学的特性にも優れていることから歯ブラシ、ヘアブラシ、ボディブラシ、クリーニングブラシ、化粧ブラシ、画筆、ロールブラシ、ホイールブラシ、カップブラシ、ナイブレットブラシなどの各種工業用ブラシに幅広く使用されてきた。
【0004】
しかし、一般的にポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸水性が高く、吸水によって寸法安定性が変化して物理的特性が低下するなどの問題点があり、特に歯ブラシのような水を使用するブラシ用途では吸水によって毛腰や触感性が変化して清掃性にも影響を及ぼすばかりか、口腔内菌が繁殖しやすいなど衛生面においても問題を抱えていた。
【0005】
そのため、ポリアミド系樹脂の中でもポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド11およびポリアミド12は、ポリアミド6やポリアミド6・6に比べて吸水性が低くて寸法安定性が良いことから、ブラシ用毛材の構成素材として適していると言われている。しかし、これらのポリアミド系樹脂は原料が高価なため製造コストに影響し易く、またポリアミド11や12は融点が185〜195℃と他のポリアミド系樹脂に比べて低いために耐熱性に劣り、結晶性も一般的に低いため、ブラシ用毛材の構成素材としては他のポリアミド系樹脂と比べて優位な特性を特別発揮するものであるとは言い難かった。
【0006】
そこで、30〜150℃の温度で熱処理することにより、X線回折で2θが約20°と約23°のそれぞれに結晶性を示すピークを示し、強度比I20/I23が1.38〜1.42の範囲にあるポリアミド系繊維を植毛した歯ブラシ(例えば、特許文献1参照)が知られている。これによれば50℃の恒温槽中に2週間熱処理を施すことで、使用感が良好で歯垢除去能力の維持が長い歯ブラシが得られるとのことであるが、50℃で2週間以上の熱処理を行なうことは、実際の製造工程において生産能力や作業効率の低下を招き、強いては製造コストにも影響するなど実用性の低い方法であった。
【0007】
また、キシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分から重縮合して得られるポリアミド(A)75〜100重量%、及び他のポリアミド(B)を25〜0重量%含有する延伸ポリアミド繊維を使用したブラシ(例えば、特許文献2参照)が知られている。この延伸ポリアミド繊維は湿潤時のヤング率が400kgf/mm 以上という特徴を持ち、吸水時でも物理的特性の低下が小さいという特徴があるが、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は一般に結晶化速度が遅いため、例えば歯ブラシ、ロールブラシ、ホイールブラシ、カップブラシ、ナイブレットブラシなどの屈曲と摩耗を繰り返し受けるブラシ用途に使用した場合には毛折れが発生しやすい。そのためにポリアミド6などの結晶化速度の速いポリアミド系樹脂をブレンドする方法があるが、毛折れ対策の十分な方法であるとは言い難く、さらに改善する場合はアニール処理を施して結晶化度を上げるなどの手段が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−201538号公報
【特許文献2】特開平11−81041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、吸水性が低いことから寸法安定性に優れるとともに、毛腰や触感の変化が小さく、優れた清掃性能を持続することができ、また高い耐屈曲摩耗性を有するブラシ用毛材およびブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明によれば、炭素数9〜12の脂肪族ジアミンと炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を構成単位とするポリアミド系樹脂を溶融紡糸したモノフィラメントのカットブリッスルからなることを特徴とするブラシ用毛材が提供される。
【0011】
なお、本発明においては、
前記脂肪族ジアミンが1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであること、
前記ジカルボン酸がセバシン酸またはドデカン二酸であること、
前記ポリアミド系樹脂が1,10−デカンジアミンとセバシン酸を構成単位とするポリアミド10・10であること、
JIS L−1095−9.10.2Bの規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験において、前記モノフィラメントの破断時の屈曲摩耗回数が50000回以上であること、
前記モノフィラメントについて、20℃の水に16時間以上浸漬したモノフィラメント(B)の曲げ硬さを20℃で相対湿度65HR%の条件下で24時間放置したモノフィラメント(A)の曲げ硬さで割った乾湿曲げ硬さ比が0.8以上であること、
前記カットブリッスルの少なくとも一端にテーパー形状が形成されていること、
がさらに好ましい条件として挙げられる。
【0012】
なお、上記曲げ硬さは、モノフィラメントを長さ約4cmにカットし、水平方向に10mm間隔で2本設置された直径2mmのステンレス棒の下に接触するようにセットし、そのステンレス棒の中央部の位置でモノフィラメントに直径1mmのステンレス製フックを掛け、(株)メネベア製TCM−200型万能引張・圧縮試験機を使用して、ステンレス製フックを引取速度50mm/分で引き上げた際に生じる最大応力である。
【0013】
また、本発明のブラシは、上記いずれかのブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸水性が低いことから寸法安定性に優れるとともに、毛腰や触感の変化が小さく、優れた清掃性能を持続することができ、また高い耐屈曲摩耗性を有するブラシ用毛材およびブラシを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】モノフィラメントの曲げ硬さの測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のブラシ用毛材およびブラシについて具体的に説明する。
【0017】
本発明のブラシ用毛材は、炭素数9〜12の脂肪族ジアミンと炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を構成単位とするポリアミド系樹脂を溶融紡糸したモノフィラメントのカットブリッスルからなることを特徴とするものである。
【0018】
一般的にポリアミド系樹脂としては、テトラメチレンジアミンとアジピン酸を構成単位とするポリアミド4・6、ε−カプロラクタムを構成単位とするポリアミド6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を構成単位とするポリアミド6・6、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸を構成単位とするポリアミド6・10、ヘキサメチレンジアミンとドデカンニ酸を構成単位とするポリアミド6・12、ω−アミノウンデカン酸を構成単位とするポリアミド11、およびω−ラウロラクタムを構成単位とするポリアミド12が良く知られている。
【0019】
これらのポリアミド系樹脂の中でもポリアミド6、ポリアミド6・6は汎用合成樹脂として安価で容易に加工できることからブラシ用毛材の素材として多くの分野で既に利用されてものであるが、上述のとおり、寸法安定性、毛腰、触感および耐屈曲摩耗性などの特性も高くはないため、例えば使い捨て歯ブラシのように、安価なブラシにしか使用できなかったのがこれまでの実態である。
【0020】
これは、ポリアミド系樹脂の吸水性という特徴が大きく起因しており、ポリアミド系樹脂は吸水によって強度および弾性率の低下や寸法変化が生じる。特にポリアミド6は吸水率が高く、水分率が約3.5%に達すると引張強さは約25%低下し、曲げ硬さに至っては約70%も低下するとも言われている。そのためブラシ用毛材の構成素材として利用すると、使用し続けているうちに毛開きが生じて触感性が失われ易いばかりか、清掃性低下を招くなどの問題点が発生し易い。
【0021】
また、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド11、ポリアミド12などのポリアミド系樹脂は、ポリアミド6やポリアミド6・6に比べて吸水率が低く、寸法安定性に優れているものの、原料が高価なために製造コストに影響し易く、特にポリアミド11や12は融点が185〜195℃と他のポリアミド系樹脂に比べて低いために耐熱性に劣るばかりか、結晶性も一般的に低いために、ブラシ用毛材の構成素材としては他のポリアミド系樹脂と比べて優位な特性を特別発揮するものであるとは言い難い。
【0022】
そのため、本発明者は、吸水性が低く寸法安定性に優れ、かつ安定した物理特性が長く維持できるブラシ用毛材の構成素材を鋭意検討した結果、炭素数9〜12の脂肪族ジアミンと炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を構成単位とするポリアミド系樹脂を溶融紡糸したモノフィラメントのカットブリッスルが最適であることを見出したのである。
【0023】
ポリアミド系樹脂の構成単位である脂肪族ジアミンの炭素数が上記範囲を下回ると吸水性が高くなって寸法変化が生じ易くなり、ブラシ用毛材の構成素材として使用した場合には、毛腰や触感性が失われ易く、清掃性にも影響し易い。
【0024】
吸水とはポリアミド系樹脂内の非晶部アミド基に水分子が配位する現象であるが、脂肪族ジアミンの炭素数が少ないほど分子中のアミド基濃度が高くなって水分子が配位し易くなるためと考えられる。
【0025】
逆に脂肪族ジアミンの炭素数が上記範囲を上回るとポリアミドの分子量が大きくなって融点が低くなり、耐熱性に劣るブラシ用毛材が得られ易い。これは分子中のメチレン基の数が増えると融点が低下するというポリアミド系樹脂の一般特性に起因するものと考えられる。
【0026】
一方、ポリアミド系樹脂の構成単位である脂肪族ジカルボン酸の炭素数が上記範囲を下回ると、脂肪族ジアミンの炭素数が上記範囲内であっても、アミド基濃度が高くなるために、吸水性が高くなって寸法変化が生じ易くなり、ブラシ用毛材の構成素材として使用した場合には、毛腰や触感性が変化し易く、清掃性にも影響し易い。
【0027】
逆に脂肪族ジカルボン酸の炭素数が上記範囲を上回ると、脂肪族ジアミンの炭素数が適正な範囲内であっても、ポリアミドの分子量が大きくなって融点が低くなり、耐熱性に劣るブラシ用毛材が得られ易い。
【0028】
このことから、さらに寸法安定性と耐熱性などの物理特性に優れた脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の組み合わせとしては、脂肪族ジアミンは1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであること、脂肪族ジカルボン酸はセバシン酸またはドデカン二酸であることが好ましく、具体的にはポリアミド9・10、ポリアミド9・12、ポリアミド10・10、ポリアミド10・12、ポリアミド11・6、ポリアミド11・10、ポリアミド11・11、ポリアミド11・12、ポリアミド12・6、ポリアミド12・10、ポリアミド12・12などを挙げることができる。
【0029】
特にリシノレイン酸のグリセリンエステルを主成分とするヒマシ油をメタノール分解して得られる1,11−ウンデカンジアミン、同じくヒマシ油を苛性ソーダでけん化して得られるセバシン酸は自然由来のヒマシ油を素原料としていることから、これらを構成単位としたポリアミド系樹脂は自然に優しい素材として今後注目される可能性が高い。
【0030】
なお、本発明においては、これらポリアミド系樹脂を単独で使用するだけでなく、複数混合して使用しても良く、さらにはこれらポリアミド系樹脂を主成分として、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド4・6、ポリアミド4・10、ポリアミド5・6、ポリアミドMXD6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66共重合体およびポリアミド6・12共重合体などの従来の汎用ポリアミド系樹脂を副成分として混合しても良く、さらには共重合成分として利用しても良い。
【0031】
また、本発明においては、発明の効果を阻害しない範囲であれば、その目的に応じて、各種無機粒子、各種金属粒子および架橋高分子粒子などの粒子類のほか、公知の抗酸化剤、耐光剤、耐侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを適宜添加せしめることも可能である。
【0032】
さらに、本発明のブラシ用毛材は、JIS L−1095−9.10.2Bの規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験において、その構成素材であるポリアミド系樹脂モノフィラメントの破断時の屈曲摩耗回数が50000回以上であることが好ましい。
【0033】
これは、ブラシ用毛材は被洗浄体と接触しながら屈曲を繰り返し受けることから、ブラシ用毛材には耐久性も要求される。そのため屈曲摩耗回数が上記範囲を下回ると摩耗や破断が生じ易く、耐久性の高いブラシが得られ難い。
【0034】
ポリアミド系樹脂は吸水すると引張強伸度や曲げ硬さの低下を招くが、その反面で構造が安定化して強靭性が得られるという特徴を持つ。そのため、特に歯ブラシ、ボディブラシ、画筆、洗浄ブラシなどの水を伴うブラシの毛材に吸水性の高いポリアミド系樹脂を使用した場合は、高い強靭性と耐屈曲摩耗特性を持ったブラシが得られ易いが、上述のとおり、吸水性の高いポリアミド系樹脂は寸法変化が生じて毛腰や触感性が失われ易くなり、清掃性にも影響し易い。
【0035】
また、耐摩耗特性の優劣の要因の一つにポリアミド系樹脂の結晶性があり、結晶性の良いポリアミド系樹脂ほど耐屈曲摩耗性は高くなる。そしてポリアミド系樹脂の結晶性の要因にポリアミド系樹脂の分子量があり、高分子量ほど結晶性は低くなる。そのためブラシ用毛材の耐摩耗特性を高める際には吸水性と結晶性のバランスを考慮する必要があるが、中でも脂肪族ジアミンの炭素数が10を構成単位とするポリアミド10・10、ポリアミド10・12は高い耐摩耗特性が得られることから、本発明のブラシ用毛材の構成素材として特に好ましい。
【0036】
さらに、本発明においては、ブラシ用毛材に使用されるモノフィラメントについて、20℃の水に16時間以上浸漬したモノフィラメント(B)の曲げ硬さを20℃で相対湿度65HR%の条件下で24時間放置したモノフィラメント(A)の曲げ硬さで割った乾湿曲げ硬さ比が0.8以上であることであることがより一層好ましい。なお、曲げ硬さは下記方法により求めた値である。
【0037】
[曲げ硬さ]
モノフィラメントを長さ約4cmにカットし、水平方向に10mm間隔で2本設置された直径2mmのステンレス棒の下に接触するようにセットし、そのステンレス棒の中央部の位置でモノフィラメントに直径1mmのステンレス製フックを掛け、(株)メネベア製TCM−200型万能引張・圧縮試験機を使用して、ステンレス製フックを引取速度50mm/分で引き上げ、この時生じる最大応力を曲げ硬さとした。
【0038】
この乾湿曲げ硬さ比が上記範囲を下回ると、得られるモノフィラメントのカットブリッスルをブラシ用毛材として使用した場合に毛腰や触感性が変化し易くなって清掃性にも影響し易くなり、歯ブラシ、ボディブラシ、画筆、洗浄ブラシなどの水を伴うブラシに使用した場合はその影響を受け易いが、特にポリアミド10・10は特に乾湿曲げ硬さ比が高く、水の影響を受け難いブラシ用毛材が得られ易い。
【0039】
さらにまた、本発明においては、モノフィラメントのカットブリッスルの少なくとも一端にテーパー形状が形成されていることが、触感性のみならず清掃性効果をより一層高められることから特に好ましい。一般にカットブリッスルの一端にテーパー形状が形成されていると、テーパー部分は糸径が細いために屈曲し易く、特にポリアミド6やポリアミド6・6などの汎用ポリアミド系樹脂は吸水性が高いため、吸水すると寸法変化しやすくなり、テーパー部分に曲がり癖が付き易くなる。
【0040】
しかし、本発明のブラシ用毛材は、その構成素材に吸水性の低いポリアミド系樹脂を使用しているのでテーパー部分に曲がり癖が付きにくく、触感性や清掃性が失われにくい有利な点がある。
【0041】
本発明のブラシ用毛材の製造方法については特に限定されないが、一般的な方法としては、公知の溶融紡糸機を使用してポリアミド系樹脂モノフィラメントを紡糸し、このモノフィラメントをカットしてカットブリッスルとする方法が挙げられる。
【0042】
例えば、モノフィラメントを製造する場合は、まず予め水分率0.2%以下、さらに好ましくは0.1%になるまでポリアミド系樹脂ペレットを真空乾燥し、このポリアミド系樹脂ペレットをポリアミド系樹脂の融点より30℃〜80℃高い温度で溶融紡糸する。そして口金から押し出された合成樹脂溶融物を冷却固化せしめた後、60〜200℃の温度で4.0〜7.0倍の加熱延伸を行い、さらに100℃以上、ポリアミド系樹脂の融点以下の温度で弛緩または定長熱処理を施すことで、十分な物理特性を持つモノフィラメントを得ることができる。
【0043】
特に、溶融紡糸前の原料の乾燥は重要であり、水分率が高いと吐出不良や延伸切れなどの操業上の不具合が生じやすく、また得られるモノフィラメントも引張強伸度、曲げ硬さ、耐屈曲摩耗性の低下を招き易い。
【0044】
なお、ブラシ用毛材の断面形状は、ブラシの用途や目的に応じて円形、扁平、正方形、半月状、三角形、5角以上の多角形などの異形断面であっても良く、または芯鞘複合構造や海島複合構造であっても良い。
【0045】
また、カットブリッスルの一端にテーパー形状を形成させる場合は、機械的な研磨加工や化学的な薬液溶解処理法にて容易に加工することができる。
【0046】
そして、このカットブリッスルをブラシとして植毛する際には、毛材の全てに使用したり、ブラシの用途や目的に応じて一部に使用したりすることもできる。
【0047】
そのブラシの種類としては、例えば、歯ブラシ、ヘアブラシ、ボディブラシ、クリーニングブラシ、化粧ブラシ、画筆、ロールブラシ、ホイールブラシ、カップブラシ、ナイブレットブラシなどが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明のブラシ用毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
なお、毛腰および触感性変化の評価、清掃性評価、屈曲摩耗性評価には、下記仕様の歯ブラシを使用した。
基台:ABS製(9mm×22mm)
植毛孔数:34箇
植毛本数:一つの孔につき20本
毛丈:10mm
【0050】
[毛腰および触感の評価]
歯ブラシの触感性について、歯ブラシ1種類につき20名にモニターとして実際に歯ブラシを35日間(5週間)、1日朝晩2回ずつ、1回3分間使用してもらい、毛腰や触感性が変わったと感じた日数をヒアリングし、その日数を20名で割り返して平均日数を求めた。この平均日数が大きいほど寸法安定性に優れ、毛腰や触感性の変化の少ない歯ブラシであることを示す。
【0051】
[清掃性]
30mm四方のアクリル板に幅1mm×深さ1mmの溝を2mm間隔で9本並行に配した疑似歯モデルを用意し、この疑似歯モデルの表面を3分間と180分間(3分×2回/日×30日に相当)ブラッシングした歯ブラシを用意した。なおブラッシングは、37℃の水を掛けながら、荷重350g、振幅長30mm、振幅速度180往復/分の条件で行なった。
【0052】
次に、歯垢染色液(プラークチェック液)を均一に付着させた後1日間乾燥させた疑似歯モデルを用意し、3分間と180分間ブラッシング処理した歯ブラシを使用して、疑似歯モデルの表面を、荷重350gを加えながら、振幅長30mm、振幅速度180往復/分の条件で3分間ブラッシングし、除去された歯垢染色液の量を求め、下記式(I)にて歯垢除去量(%)を求めた。
歯垢除去率(%)=100×(W−w)/W (I)
【0053】
なお、式(I)のWはブラッシング前の疑似歯モデルと歯垢染色液の総質量(g)、wはブラッシング後の疑似歯モデルと歯垢染色液の総質量(g)を示す。3分間と180分間ブラッシング処理した歯ブラシの歯垢除去率を比較し、その差が小さいほど優れた清掃性を長時間持続することができる歯ブラシであることを示す。
【0054】
[耐屈曲摩耗性評価]
JIS L−1095−9.10.2B法に準じて屈曲摩耗特性試験機を用い、試験機に固定された直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させたモノフィラメントをモノフィラメントが摩擦子の左右各55°の角度で屈曲するように設けた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、モノフィラメントの一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmでモノフィラメントを摩擦子に往復接触させ、モノフィラメントが破断するまでの回数を同一試料につき10本測定し、その平均値を算出した。
【0055】
[乾湿曲げ硬さ比]
20℃で相対湿度65HR%の条件下で24時間放置したモノフィラメント(A)と20℃の水に16時間以上浸漬したモノフィラメント(B)を用意した。そしてモノフィラメント(A)および(B)をそれぞれ長さ約4cmにカットし、図1に示すように、モノフィラメント1を水平方向に10mm間隔で2本設置された直径2mmのステンレス棒2aおよび2bの下に接触するようにセットし、そのステンレス棒2aおよび2bの中央部の位置でモノフィラメント1に直径1mmのステンレス製フック3を掛け、(株)メネベア製TCM−200型万能引張・圧縮試験機を使用して、ステンレス製フック3を引取速度50mm/分で引き上げ、この時生じる最大応力を曲げ硬さとした。そして、モノフィラメント(B)の曲げ硬さをモノフィラメント(A)の曲げ硬さで割った値を乾湿曲げ硬さ比とした。この値が大きいほど吸水による曲げ硬さの変化が小さいモノフィラメントであることを示す。
【0056】
[実施例1]
炭素数10の脂肪族ジアミンと炭素数10の脂肪族ジカルボン酸を構成単位とするポリアミド10・10を原料に使用した。予め乾燥した水分率0.08%のポリアミド10・10ペレットを溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内において245℃で溶融混練した後、口金から合成樹脂溶融物を押し出した。
【0057】
引き続き、押し出された合成樹脂溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、80℃の温水浴と140℃の乾熱槽内でトータル4.6倍の延伸を行い、引き続き190℃で0.95倍の熱セットを施して、直径0.2mmのモノフィラメントを得た。
【0058】
次に、得られたモノフィラメントをカットし、このカットブリッスルをブラシ用毛材として評価に使用した。
【0059】
[実施例2〜6、比較例1〜4]
原料を表1に示すポリアミド系樹脂に変更したこと以外は実施例1と同じ方法でブラシ用毛材を得た。
【0060】
[実施例7〜8]
使用する原料の水分率を0.17%と0.23%の調整したこと以外は実施例1と同じ方法でブラシ用毛材を得た。
【0061】
[実施例9、比較例5]
実施例1および比較例3で得られたカットブリッスルの一端を研磨加工してテーパー形状を形成させ、これをブラシ用毛材として評価に使用した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示す結果から明らかなように、本発明のブラシ用毛材(実施例1〜9)は、いずれも従来のポリアミド系樹脂からなるブラシ用毛材(比較例1〜5)に比べて、長時間使用しても毛腰、触感性、清掃性も失われにくく、耐屈曲摩耗性にも優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のブラシ用毛材は、吸水性が低いことから寸法安定性に優れるとともに、毛腰や触感の変化が小さく、優れた清掃性能を持続することができ、また高い耐屈曲摩耗性を有するものである。そのため、本発明のブラシ用毛材は歯ブラシ、ヘアブラシ、ボディブラシ、クリーニングブラシ、化粧ブラシ、画筆などの各種ブラシの他にも、ロールブラシ、ホイールブラシ、カップブラシ、ナイブレットブラシなどの各種工業用ブラシに利用でき、特に清掃性のみならず歯茎へのマッサージ性能が要求される歯ブラシに使用した場合は実用性が極めて高い。
【符号の説明】
【0065】
1 モノフィラメント
2a、2b ステンレス棒
3 ステンレス製フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数9〜12の脂肪族ジアミンと炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸を構成単位とするポリアミド系樹脂を溶融紡糸したモノフィラメントのカットブリッスルからなることを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項2】
前記脂肪族ジアミンが1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のブラシ用毛材。
【請求項3】
前記ジカルボン酸がセバシン酸またはドデカン二酸であることを特徴とする請求項1または2に記載のブラシ用毛材。
【請求項4】
前記ポリアミド系樹脂が1,10−デカンジアミンとセバシン酸を構成単位とするポリアミド10・10であることを特徴とする請求項3に記載のブラシ用毛材。
【請求項5】
JIS L−1095−9.10.2Bの規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験において、前記モノフィラメントの破断時の屈曲摩耗回数が50000回以上であることを特徴とする請求項4に記載のブラシ用毛材。
【請求項6】
前記モノフィラメントについて、20℃の水に16時間以上浸漬したモノフィラメント(B)の曲げ硬さを20℃で相対湿度65HR%の条件下で24時間放置したモノフィラメント(A)の曲げ硬さで割った乾湿曲げ硬さ比が0.8以上であることを特徴とする請求項4または5に記載のブラシ用毛材。なお、曲げ硬さは下記方法により求めた値である。
[曲げ硬さ]
モノフィラメントを長さ約4cmにカットし、水平方向に10mm間隔で2本設置された直径2mmのステンレス棒の下に接触するようにセットし、そのステンレス棒の中央部の位置でモノフィラメントに直径1mmのステンレス製フックを掛け、(株)メネベア製TCM−200型万能引張・圧縮試験機を使用して、ステンレス製フックを引取速度50mm/分で引き上げ、この時生じる最大応力を曲げ硬さとした。
【請求項7】
前記カットブリッスルの少なくとも一端にテーパー形状が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のブラシ用毛材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とするブラシ。

【図1】
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