説明

ブラシ

【課題】基材の形状設計の自由度を確保しつつ基材と複数のブラシ糸とを容易に接合することができ、且つ使用時に基材から各ブラシ糸が脱落することを抑制することが可能なブラシを提供する。
【解決手段】ブラシ32は、複数のブラシ糸41aと、該各ブラシ糸41aを互いに並列した状態で保持する各保持糸45と、該各保持糸45を挟持する挟持部43を有した基材40とを備える。そして、各保持糸45は基材40の挟持部43に挟持された状態で溶着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気掃除機用の回転ブラシに用いられるブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気掃除機は本体部と該本体部にホースを介して接続された吸込具とを備えている。そして、この吸込具を絨毯、フローリング、畳等の床面上を移動させながら該吸込具の底面に設けられた吸込口からエアを吸引することにより、本体部内に塵埃が吸い込まれるように構成されている。ところで、近年では、例えば絨毯等のようにエアの吸引だけでは塵埃を吸い込みにくい床面に対する集塵能力を向上させるため、吸込具内に回転ブラシを設けたものが数多く見られるようになってきた。
【0003】
この回転ブラシは回転体にブラシを取着した構成になっており、従来、こうしたブラシには特許文献1に示すものが知られている。この特許文献1に記載のブラシ組品(ブラシ)は、ブラシ台(基材)の溝にブラシ(各ブラシ糸)を挿入した後、ブラシ台とブラシとを縫着することによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−125811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のブラシ組品は、ブラシによって塵埃を掻き取るとともに、ブラシ台によって毛髪や毛屑などが回転体の軸付近に絡みつくのを防止するようにしているが、ブラシ台とブラシとを縫着しなければならないため、製造に手間がかかる上、使用時に縫着部分にほつれが発生してブラシ台からブラシが脱落するおそれがあるという問題があった。さらに、縫製という加工の特性上、ブラシ台は、その形状を縫製が容易なものにしたり、その厚さを可及的に薄くしたりしなければならないため、ブラシの撓み具合の調整が困難になったり、ブラシ台の形状設計が制約されたりするという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものである。その目的とするところは、基材の形状設計の自由度を確保しつつ基材と複数のブラシ糸とを容易に接合することができ、且つ使用時に基材から各ブラシ糸が脱落することを抑制することが可能なブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、ブラシに係る請求項1に記載の発明は、複数のブラシ糸と、該各ブラシ糸を互いに並列した状態で保持する保持糸と、前記保持糸を挟持する挟持部を有した基材とを備え、前記保持糸は、前記挟持部に挟持された状態で溶着されていることを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、各ブラシ糸を保持した保持糸が基材の挟持部に挟持された状態で溶着されているので、各ブラシ糸を基材に縫いつけるような手間をかけることなく、各ブラシ糸と基材とを強固に接合することができる。したがって、基材の形状設計の自由度を確保しつつ基材と各ブラシ糸とを容易に接合することができ、且つ使用時に基材から各ブラシ糸が脱落することを抑制することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記各ブラシ糸は、複数の前記保持糸によって保持されていることを要旨とする。
上記構成によれば、各ブラシ糸同士を確実に保持することが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記基材は、熱可塑性エラストマによって構成されていることを要旨とする。
上記構成によれば、例えば、基材を螺旋状の溝にスライド挿入して装着する際に、基材を溝に対して容易に追従させることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材の形状設計の自由度を確保しつつ基材と複数のブラシ糸とを容易に接合することができ、且つ使用時に基材から各ブラシ糸が脱落することを抑制することが可能なブラシを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の電気掃除機のヘッドを示す平断面図。
【図2】実施形態の電気掃除機のヘッドの使用状態を示す側断面図。
【図3】実施形態において、(a)は電気掃除機の回転ブラシを示す斜視図、(b)は(a)の側面拡大図。
【図4】実施形態のブラシの簡略斜視図。
【図5】実施形態において、毛羽体の製造過程を示す要部拡大簡略図。
【図6】実施形態において、毛羽体を基材の各挟持片間に挿入するときの状態を示す側面簡略図。
【図7】実施形態において、(a)は毛羽体を基材の各挟持片間に挿入したときの状態を示す側面簡略図、(b)は毛羽体を基材の各挟持片に溶着したときの状態を示す側面簡略図。
【図8】変更例のブラシの側面簡略図。
【図9】変更例のブラシの側面簡略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のブラシを電気掃除機用の回転ブラシに用いられるブラシに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、回転ブラシが取着される電気掃除機のヘッドの構成について説明する。
【0014】
図1及び図2に示すように、電気掃除機のヘッド11は、平面視略T字状のケース12を備えている。ケース12の後端部には接続パイプ13の一端側が該ケース12に対して回動可能に接続されているとともに、接続パイプ13の他端側は電気掃除機の本体部(図示略)に接続されている。ケース12の底壁における前端側の位置には左右方向に長い矩形状の吸込口14が該底壁を貫通するように形成されている。
【0015】
ケース12の内底面上には矩形枠状をなす仕切板15が吸込口14を囲むように立設されており、該仕切板15を構成する後壁の中央部には該後壁を貫通するようにエア吸引口16が形成されている。ケース12の左内側面にはモータ軸受17が設けられ、該モータ軸受17はケース12内における仕切板15の後方に設けられたモータ18から延びるモータ軸19の先端を回転可能に支持している。
【0016】
仕切板15の左右両側壁にはそれぞれ回転支持体20が設けられ、該両回転支持体20はケース12の左右両内側面に設けられたブラシ軸受21によってそれぞれ回転可能に支持されている。仕切板15の内側には、回転軸線が左右方向に延びる回転ブラシ22が収容されており、該回転ブラシ22の両端部は両回転支持体20によってそれぞれ支持されている。
【0017】
また、左側の回転支持体20とモータ軸19に取着されたローラ19aとの間には無端状のベルト23が掛装されている。したがって、モータ18が駆動されると、該モータ18の回転駆動力が、モータ軸19、ローラ19a、ベルト23、及び左側の回転支持体20を介して回転ブラシ22に伝達されるようになっている。
【0018】
そして、電気掃除機の使用時には、仕切板15の内側のエアがエア吸引口16及び接続パイプ13を介して電気掃除機の本体部(図示略)内に吸引されるとともに、回転ブラシ22が回転されることで、被接触部としての床面F上の塵、埃、毛髪等の塵埃が掻き取られながらエアとともに吸込口14から吸い込まれるようになっている。このとき、回転ブラシ22は、電気掃除機のヘッド11の前進を妨げない方向(図2の矢印で示す方向)に回転される。
【0019】
次に、回転ブラシ22の構成について詳述する。
図3(a)、(b)に示すように、回転ブラシ22は、断面視略X字状をなす金属棒よりなる回転体31と、該回転体31に取着された4つのブラシ32とを備えている。回転体31は、4つの断面視T字状をなす突条31aの基端部同士を該各突条31aが回転体31の周方向に沿って等間隔に配置されるように一体に連結し、さらにその全体にわたって周方向に約180度捻ることで形成される。したがって、回転体31の周面には、各突条31a間に螺旋状をなす4本の凹溝33が形成されている。そして、各凹溝33の開口部33aは、各突条31aの先端部に備えられた突片31bにより狭められている。
【0020】
次に、ブラシ32の構成について詳述する。
図4に示すように、ブラシ32は、長尺状の基材40と、該基材40に接合された帯状の毛羽体41とを備えている。
【0021】
基材40は、スチレン系またはオレフィン系の熱可塑性エラストマを押出成型することによって形成されており、回転体31の凹溝33に挿入して係止するための側面視略半円状をなす係止部42と、毛羽体41を挟持するための側面視略U字状をなす挟持部43と、係止部42と挟持部43とを連結する帯状の連結部44とを備えている。
【0022】
すなわち、挟持部43は一対の帯状をなす挟持片43aと該各挟持片43aの基端同士を繋ぐ側面視略円弧状をなす湾曲部43bとを備えており、基材40の短手方向において湾曲部43bの中央部と係止部42の平坦面42aの中央部とが連結部44によって連結されている。そして、図3(b)及び図4に示すように、基材40の短手方向において、係止部42の幅は回転体31の凹溝33の開口部33aよりも大きく、連結部44の幅(厚さ)は該開口部33aよりも小さくなっている。
【0023】
図5に示すように、毛羽体41は、ポリアミド製のマルチフィラメント糸である1本のブラシ糸41aを蛇行状に編み、両側の湾曲部分を互いに平行に延びる複数本(本実施形態では2本)のポリプロピレン製の保持糸45によってそれぞれ編んだ後、中央部分を切断する(図5の矢印に沿って切断する)ことによって同時に2つ形成される。すなわち、毛羽体41は、互いに並列に配置した状態の複数のU字状をなすブラシ糸41aの基端部(湾曲部分側)を、該ブラシ糸41aの並列方向に沿って真っ直ぐ互いに平行に延びる2本の保持糸45によって一体に保持することによって形成されている。
【0024】
そして、毛羽体41と基材40とを接合する場合には、図6に示すように、まず、毛羽体41の基端側を基材40の各挟持片43a間に挿入する。すると、図7(a)に示すように、毛羽体41の各保持糸45(毛羽体41の基端部分)が各挟持片43aによって挟持された状態になる。この状態で、各挟持片43aの外側から該各挟持片43aとともに各保持糸45を超音波ホーン50とアンビル51とで挟圧しながら超音波を付与すると、該超音波による振動によって発生する摩擦熱によって各挟持片43aと各保持糸45とが溶着される。
【0025】
このようにして、各挟持片43aとともに各保持糸45を超音波ホーン50とアンビル51とで挟圧する位置を基材40の長手方向に沿って少しずつずらしながら連続的または断続的に各挟持片43aと各保持糸45とを繰り返し溶着することで、図7(b)に示すブラシ32が得られる。
【0026】
次に、回転体31へのブラシ32の取り付け方法について説明する。
図3(a)、(b)に示すように、回転体31にブラシ32を取り付ける場合、各ブラシ糸41a(毛羽体41)が凹溝33の開口部33aから外側へ突出するように、回転体31の端部から各凹溝33内に基材40の係止部42をそれぞれスライド挿入する。すると、基材40(ブラシ32)は、適度な剛性と弾性とを有しているため、各凹溝33に沿ってそれぞれ螺旋状に捻れた状態で回転体31に容易に装着される。この場合、各基材40の連結部44は各凹溝33の開口部33aにそれぞれ遊嵌される。
【0027】
次に、回転ブラシ22の作用について説明する。
さて、電気掃除機を使用するときには、図2に示すように、まず、ヘッド11を床面F上に載せる。この状態で電気掃除機を稼動させると、モータ18が駆動されるとともに、仕切板15の内側のエアがエア吸引口16を通り、接続パイプ13を介して電気掃除機の本体部(図示略)内に吸引される。このとき、モータ18の駆動に連動して回転ブラシ22が左側から見て反時計方向(図中の矢印で示す方向)に回転されるとともに、該回転ブラシ22の各ブラシ糸41a(毛羽体41)が床面Fに摺接される。
【0028】
すると、床面F上の塵埃が各ブラシ糸41aによって掃き取られてエアとともに電気掃除機の本体部(図示略)内に吸引される。このとき、各ブラシ糸41aは、各保持糸45によって互いに編まれているとともに該各保持糸45が基材40の各挟持片43aに溶着されている。すなわち、各ブラシ糸41aは基材40に対して強固に接合されている。したがって、床面F上の塵埃を各ブラシ糸41aによって掃き取る際に、基材40から各ブラシ糸41aが脱落することが抑制される。
【0029】
以上詳述した実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)各ブラシ糸41aを編むことで保持した各保持糸45が基材40の各挟持片43aに挟持された状態で溶着されるため、各ブラシ糸41aを基材40に縫いつけるような手間をかけることなく、各ブラシ糸41aと基材40とを各保持糸45を介して強固に接合することができる。したがって、基材40と各ブラシ糸41aとを容易に接合することができるとともに、床面F上の塵埃を各ブラシ糸41aによって掃き取る際に基材40から該各ブラシ糸41aが脱落することを抑制することができる。また、毛羽体41と基材40とが従来のような縫製ではなく溶着によって接合されるため、毛羽体41と基材40との接合加工を行う上で、基材40の形状設計が制約されることはほとんどない。このため、基材40の形状設計の自由度を確保できるので、基材40の形状を特殊なものに変更することが容易になる。
【0030】
(2)各ブラシ糸41aは2本の保持糸45によって編むことで保持されているため、各ブラシ糸41a同士を確実且つ容易に一体に保持することができる。
(3)基材40は熱可塑性エラストマによって構成されているため、基材40を螺旋状の凹溝33にスライド挿入して装着する際に、該基材40を該凹溝33に対して容易に追従させることができる。したがって、ブラシ32を回転体31に対して容易に装着することができる。
【0031】
(4)各保持糸45は基材40を構成するスチレン系またはオレフィン系の熱可塑性エラストマと溶着する際の相性がよいポリプロピレンによって構成されているため、各保持糸45を基材40に対して安定して溶着することができる。
【0032】
(5)ブラシ糸41aとして摩擦耐久性及び復元性に優れたポリアミド製のマルチフィラメント糸が用いられているため、本用途での機能、すなわち床面F上の塵埃の掃き取る機能を長期間維持することができる。
【0033】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・図8に示すように、ブラシ32において、基材40の各挟持片43aのうちの一方を毛羽体41と同じ高さにしてもよい。このようにすれば、塵埃の掃き取り機能に加えて塵埃の掻き取り機能を得ることができる。さらにこの場合、毛羽体41と同じ高さにした挟持片43aを、毛羽体41よりも、若干高くしたり若干低くしたりしてもよい。
【0034】
・図9に示すように、ブラシ32において、基材40の連結部44を使用条件に合わせて適宜屈曲させてもよい。なお、図9には基材40の連結部44をほぼ直角に屈曲させた状態を示しているが、該連結部44を屈曲させる角度は任意に変更してもよい。
【0035】
・毛羽体41は、保持糸45の数を1本にしてもよいし3本以上にしてもよい。
・回転ブラシ22において、回転体31に取着するブラシ32の数や位置は任意に変更してもよい。例えば、回転体31に2つのブラシ32を該回転体31挟んだ両側に取着してもよい。
【0036】
・回転ブラシ22において、回転体31に取着される4つのブラシ32のうちの1つ〜3つをゴムブレードに変更してもよい。このようにすれば、床面Fが畳や絨毯である場合に、ゴムブレードによって畳内や絨毯内の塵埃がたたき出されながら掻き取られるため、清掃効果を高めることができる。
【0037】
・基材40の材料には、スチレン系またはオレフィン系の熱可塑性エラストマ以外に、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル樹脂及びウレタン樹脂等を用いてもよい。この場合、保持糸45の材料には、選択した基材40の材料と溶着可能なものを用いる必要がある。
【0038】
・基材40の各挟持片43aの厚みは必ずしも同じにする必要はない。例えば、各挟持片43aのうちの一方の厚さを他方よりも薄くするようにしてもよい。このようにすれば、ブラシ32の特定方向の撓み抵抗を弱めることができる。
【0039】
・保持糸45には熱溶融糸を交撚してもよい。このようにすれば、保持糸45に融点の高い材料(溶着し難い材料)を用いた場合でも、該保持糸45に低融点の熱溶融糸を交撚することで、基材40(各挟持片43a)に対する溶着性を確保することができる。
【0040】
・ブラシ32は、エアコンや換気扇などのフィルタを清掃したり、画像形成装置内の感光ドラムに付着したトナーを掻き取ったりするための用途に用いてもよい。この場合、ブラシ32は、必ずしも回転させて使用する必要はなく、被接触部に摺接させた状態で直線的に移動させて使用してもよい。
【0041】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記保持糸には、熱溶融糸が交撚されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のブラシ。
【0042】
この構成によれば、保持糸に融点の高い材料(溶着し難い材料)を用いた場合でも、該保持糸に熱溶融糸を交撚することで、溶着性を確保することができる。
(ロ)回転体と、該回転体に取着されるブラシとを備え、前記回転体を回転させながら前記ブラシを被接触部に接触させるようにして使用される回転ブラシにおいて、
前記ブラシは、請求項1〜請求項3及び前記(イ)のうちいずれか一項に記載のブラシによって構成されていることを特徴とする回転ブラシ。
【0043】
この構成によれば、回転体を回転させながらブラシを被接触部に接触させた際に、基材から各ブラシ糸が抜け落ちることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
22…回転ブラシ、31…回転体、32…ブラシ、40…基材、41a…ブラシ糸、43…挟持部、45…保持糸、F…被接触部としての床面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブラシ糸と、該各ブラシ糸を互いに並列した状態で保持する保持糸と、前記保持糸を挟持する挟持部を有した基材とを備え、
前記保持糸は、前記挟持部に挟持された状態で溶着されていることを特徴とするブラシ。
【請求項2】
前記各ブラシ糸は、複数の前記保持糸によって保持されていることを特徴とする請求項1に記載のブラシ。
【請求項3】
前記基材は、熱可塑性エラストマによって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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