説明

ブルータングウイルスのワクチン組成物および免疫原性組成物、それらの使用方法、ならびにそれらの生成方法

免疫原性組成物およびワクチン組成物、ならびにそれらの調製および使用の方法を提供し、これらの組成物は、反芻動物をブルータングウイルスによる感染から防御する、そうした感染症の重症度を最低限に留める、そうした感染症を予防する、および/またはそうした感染症を寛解させるのに有効である。本明細書に開示するアジュバントを含む2回不活性化ブルータングウイルスの組成物の少なくとも1回の動物への投与は、動物に対して免疫をもたらし、ブルータングウイルスによる感染から防御するのに有効であり、それによって、ブルータングウイルスの1つまたは複数の株または血清型によって引き起こされる疾患の重症度を低下させ、かつ/またはそうした疾患を予防する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物をブルータングウイルス(BTV)の病原性株または血清型に対して免疫化するためのワクチン組成物または免疫原性組成物、およびそうしたワクチンを作製し、これらの組成物を用いて反芻動物を免疫化するため方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブルータングは、節足動物媒介ウイルス性疾患であり、これは、ウシ、ヒツジ、ヤギおよび野生反芻動物において発症する。罹患動物において、ブルータングは、感染性ウシウイルス性下痢、水泡性口内炎ウイルス、悪性カタル熱、口腔カンジダ症、牛疫、光線過敏および口蹄疫に似た病変を呈する。ブルータングウイルス(BTV)が、ウシにおける水無脳症、ならびにウシおよびヒツジにおける不妊、流産および欠損のある仔の出産を引き起こす原因とみなされている。文献には、24種の血清型が不顕性感染から急性の電撃性感染に及ぶ問題を引き起こすとして報告されている。また、ウイルスを慢性的に持続して発散するウシも認められている。BTVによって、身体状態の著しい喪失が生じ、堵殺動物の販売が遅れることがある。BTVに感染したヒツジの場合、体毛に破損が生じることによって、体毛の成長が損なわれる恐れがある。これによって、欠損のあるまたは低収率の羊毛が生じる。BTV感染に続く著しい衰弱の結果、細菌またはクラミジアによる二次感染、およびその他の侵略要因に対する抵抗性が低下する恐れがある。また、感染動物の生殖効率も悪影響を受ける。
【0003】
感染動物では流産および欠損のある子孫が観察され、一部の動物では、1または複数回の繁殖期にわたり不妊状態を生じる場合がある。ブルータング感染がもたらす最も顕著な被害は、ウシ、ウシの精液、およびヒツジを、ブルータングが流行する地域から輸出する生産者に課される禁輸措置および厳密な試験要件の結果生じる経済的な損失である。
【0004】
自然条件下では、このウイルスの伝染は、少なくとも4つのCulicoides種、例えば、スナバエ(sand fly)、ヌカカ(midge)による虫刺されを介して生じる。同じculicoidベクターによる、ウシとヒツジとの間におけるBTVの生物学的伝染が実験的に実証されている(Luedkeら、28 AJVR 457(1967))。ウシ、ヒツジ、および野生反芻動物の多くの種が、BTVのリザーバとして作用することができ、ウイルスが越冬するための手段となる。3年もの長期にわたり続く場合がある持続性のBTVによるウイルス血症がウシにおいて同定されている(Hourrigan、51 Aust Vet J 170(1975))。BTVが国内で確立されてしまうと、事実上、このウイルスを根絶することは不可能である(Erasmus、51 Aust Vet J 209)。ブルータングの病原体は、レオウイルス(Reoviridae)科、オルビウイルス(Orbivirus)属に属する。
【0005】
ブルータングの病因がウイルスによるものであることは、1906年にTheilerによって確立された(Erasmus、51 Aust Vet J 165(1975))。それ以来、いくつかの報告が文献に登場しており、そこでは、(a)ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびいくつかの野生反芻動物からのブルータングウイルスの単離、ならびに(b)ブルータング病の臨床的および病理学的な特色が確認され、(c)異なるBTV血清型から生じる感染症が記載されている。例えば、Onderstepoort(J Vet Sci Anim Indus 7(1944);KomarovおよびGoldsmit、Refuah Vet 96(1951);PriceおよびHardy、124 J Am Med Assn 255(1954);Shopeら、111 J Exp Med 155(1960);LivingstonおよびHardy、25 AJVR 1958(1964);Luedkeら、30 AJVR 511(1969);Hourriganら、51 Aust Vet J 170(1975)を参照されたい。米国内においては、ブルータングの免疫学的制御は最初に、McKercherら、l18 AJVR 310(1975)によって、ニワトリの受精卵中で増殖させたBTV国際血清10型のワクチンを用いて試みられた。この製品は、Alexander(J Vet Sci Indus 231(1947))の製品を模したものであった。Alexanderは、ブルータングウイルスのニワトリ胚中での増殖に最初に成功した人である。
【0006】
早期のワクチン接種プロトコールは、南アフリカおよびイスラエルにおいて、いくつかのブルータング株を含有する、卵を用いて弱毒化した多価の生ウイルスワクチンを使用して日常的に実施された。Cutter Laboratoriesによって製造され、米国内において使用されていた卵馴化ワクチンは、ワクチン接種したヒツジにおける重度の反応のために回収されるに至った。それに続いて、KemenyおよびDrehle、22 AJVR 921(1961)は、BTV国際血清10型を、卵からウシ腎臓細胞培養物へ馴化させた。この改変生ウイルスワクチンは、Colorado Serum Companyによって製造され、米国内においてヒツジのために使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反芻動物、具体的には、ヒツジおよび子ヒツジを、ブルータングウイルスに対して免疫化する場合に使用するためのワクチンの開発における改良が求められている。本発明は、この必要性に応えるものである。本明細書における参照文献の引用によって、いずれの場合であっても、そのような参照文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めているとみなしてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本明細書に記載する方法を使用してブルータングウイルスを2回不活性化することができ、反芻動物をBTVの種々の株および病原性血清型に対して免疫化するためのワクチン組成物および免疫原性組成物の調製にこれらの2回不活性化ウイルスを使用することができることが見い出されるに至った。さらに、アジュバントと賦形剤との特定の組合せを本発明の組成物中に使用した場合、こうした組合せは、この組成物を投与した反芻動物中で有効な免疫応答を惹起するために有効であることも決定されている。
【0009】
したがって、本発明の1つの態様は、動物中でブルータングウイルス(BTV)に対する免疫応答を惹起するための組成物を提供し、この組成物は、少なくとも1つの株の2回不活性化したブルータングウイルスの免疫原性有効量、および生物学的に許容できるアジュバントを含む。
【0010】
1つの実施形態では、この組成物中に使用する2回不活性化BTVを、1回目は、約10mMの濃度の不活性化剤を用いて不活性化し、2回目は、約5mMの濃度の不活性化剤を用いて不活性化する。
【0011】
1つの実施形態では、BTVをこの組成物中で使用する目的で、BTVを処理するために使用する不活性化剤は、バイナリーエチレンイミン(BEI)である。
【0012】
1つの実施形態では、この組成物は、血清4型であるBTV株を含む。
【0013】
1つの実施形態では、この組成物は、ワクチン組成物または免疫原性組成物である。
【0014】
1つの実施形態では、この組成物を用いて治療すべき動物は、ヒツジ、子ヒツジ、ヤギ、ウシおよびシカからなる群から選択される反芻動物である。
【0015】
1つの実施形態では、この組成物を用いて治療すべき動物は、ヒツジまたは子ヒツジである。
【0016】
1つの実施形態では、この組成物と共に使用すべき生物学的に許容できるアジュバントは、水酸化アルミニウム、サポニン、SL−CD、CarbopolおよびSP−Oilのうちの1つまたは複数からなる群から選択される。
【0017】
1つの実施形態では、この組成物と共に使用すべき生物学的に許容できるアジュバントは、水酸化アルミニウムとサポニンとの混合物を含む。1つの実施形態では、水酸化アルミニウムは、約1%と約10%との間の濃度で存在する。1つの実施形態では、水酸化アルミニウムは、約2%と約5%との間の濃度で存在する。1つの実施形態では、水酸化アルミニウムは、約3%の濃度で存在する。
【0018】
1つの実施形態では、本発明の組成物を用いて惹起した免疫応答は、動物をブルータングウイルスの病原性株による感染から防御する、またはブルータングウイルスの病原性株による感染症に伴う少なくとも1つの症状の重症度を低下させる。
【0019】
本発明の第2の態様は、ブルータングウイルスに対する動物の免疫応答を増強するため、またはこの疾患に伴う少なくとも1つの症状を予防もしくは低減するための方法を提供し、この方法は、上記の本発明の組成物を単回または複数回投与するステップを含む。
【0020】
1つの実施形態では、ブルータングウイルスに対する動物の免疫応答を増強するため、またはこの疾患に伴う少なくとも1つの症状を予防もしくは低減するための方法は、ヒツジ、子ヒツジ、ヤギ、ウシおよびシカからなる群から選択される反芻動物において、そのような効果を達成する場合に有用である。1つの実施形態では、反芻動物は、ヒツジまたは子ヒツジである。
【0021】
1つの実施形態では、ブルータングウイルスに対する動物の免疫応答を増強するため、またはこの疾患に伴う少なくとも1つの症状を予防もしくは低減するための方法は、組成物を非経口投与によって投与するステップを提供する。非経口投与するステップは、筋肉内注射によって達成することができる。
【0022】
1つの実施形態では、ブルータングウイルスに対する動物の免疫応答を増強するため、またはこの疾患に伴う少なくとも1つの症状を予防もしくは低減するための方法は、組成物を経口投与によって投与するステップを提供し、これは、手による送達または大量適用によって達成することができる。
【0023】
本発明の第3の態様は、ブルータングウイルスの大流行を予防するまたはその状況を改善する方法を提供し、この方法は、本発明の組成物を動物に投与するステップを含む。
【0024】
1つの実施形態では、ブルータングウイルスの大流行を予防するまたはその状況を改善する方法は、ヒツジ、子ヒツジ、ヤギ、ウシおよびシカからなる群から選択される反芻動物である動物を治療することを提供する。1つの実施形態では、反芻動物は、ヒツジまたは子ヒツジである。
【0025】
1つの実施形態では、ブルータングウイルスの大流行を予防するまたはその状況を改善する方法は、本発明の組成物を非経口投与によって投与するステップを提供する。非経口投与するステップは、筋肉内注射によって達成することができる。
【0026】
1つの実施形態では、ブルータングウイルスの大流行を予防するまたはその状況を改善する方法は、本発明の組成物を経口投与によって投与するステップを提供する。経口投与するステップは、手による送達または大量適用によって達成することができる。
【0027】
本発明の第4の態様は、不活性化全ブルータングウイルス(BTV)を生成する方法を提供し、この方法は、
a)1:10の不活性化剤対BTV比を用いて、不活性化剤でBTVを処理するステップと、
b)ステップa)の不活性化剤/BTVの混合物を少なくとも15分間ホモジナイズするステップと、
c)ステップb)の混合物を無菌容器中にデカントし、混合物を約24時間撹拌するステップと、
d)2回目に、1:20の不活性化剤対BTV比を用いて、不活性化剤でBTVを処理するステップと、
e)ステップd)の不活性化剤/BTVの混合物を少なくとも15分間ホモジナイズするステップと、
f)ステップe)の混合物を無菌容器中にデカントし、混合物を約48時間撹拌するステップと、
g)不活性化剤を中和して、最終pHを約7.2に調節するステップと
を含み、
この方法によって、BTVの不活性化が生じ、BTVの免疫原性は維持される。
【0028】
1つの実施形態では、上記の2回不活性化BTVを調製するための方法は、不活性化剤としてのバイナリーエチレンイミン(BEI)の使用を提供する。1つの実施形態では、ステップa)の不活性化剤の最終濃度は、上記したように、約10mMである。1つの実施形態では、ステップd)の不活性化剤の最終濃度は、上記したように、約5mMである。
【0029】
1つの実施形態では、2回不活性化全BTVを調製するための上記の方法は、血清4型であるブルータングウイルスを利用する。
【0030】
本発明の第5の態様は、反芻動物をBTVの種々の株および血清型に対して免疫化するための医薬品を調製するために、少なくとも1つの2回不活性化BTV株を使用することを提供する。1つの実施形態では、医薬品の調製において使用するための少なくとも1つの2回不活性化BTV株は、血清4型である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の方法および治療についての方法を記載する前に、記載する特定の方法および実験条件が変化する場合があることから、本発明は、そのような方法および条件に限定されるものではないことを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明を限定する意図はないことも理解されたい。
【0032】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」および「この(the)」は、文脈上そうでないことが明確に定められない限り、複数について言及することも含む。したがって、例えば、「この方法(the method)」と言及する場合、1つもしくは複数の方法、ならびに/または本明細書に記載する型のおよび/もしくは本開示を読み取れば当業者には明らかとなるであろう、1つもしくは複数のステップ等を含む。
【0033】
したがって、本出願においては、当技術分野に属する従来の分子生物学、微生物学および組換えDNA技法を利用することができる。そのような技法は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrook、FritschおよびManiatis、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition」(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York(本明細書では「Sambrookら、1989」);「DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II」(D.N.Glover編1985);「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編1984);「Nucleic Acid Hybridization」(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編(1985));「Transcription And Translation」(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編(1984));「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編(1986));「Immobilized Cells And Enzymes」(IRL Press、(1986));B.Perbal、「A Practical Guide To Molecular Cloning」(1984);F.M.Ausubelら(編)、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley&Sons,Inc.(1994)を参照されたい。
【0034】
本明細書に記載するものに類似するまたはそれらと同等である任意の方法および材料を、本発明の実行または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料を、ここに記載する。本明細書で言及する全ての刊行物の全体が、参照により組み込まれている。
【0035】
定義
本明細書で使用する用語は、当業者であれば認識し、知っている意味を有するが、便宜のため、かつ完全を期すために、特定の用語およびそれらの意味を以下に記載する。
【0036】
「約(about)」または「およそ(approximately)」という用語は、統計学的に意味のある範囲の値に属することを意味する。そのような範囲は、所与の値または範囲の1桁以内、典型的には50%以内、より典型的には20%以内、さらにより典型的には10%以内、その上より典型的には5%以内であってよい。「約」または「およそ」という用語によって包含される許容差は、研究下の特定の系に依存し、当業者であれば、このことを容易に理解することができる。
【0037】
「アジュバント」は、組成物、典型的にはワクチン組成物中の、抗原の免疫原性を増強する1つまたは複数の物質を含む組成を意味する。アジュバントは、抗原を緩慢に放出する組織デポーとして、また、免疫応答を非特異的に増強するリンパ系活性化薬としても役立つことができる(Hoodら、Immunology、第2版、Menlo Park、CA:Benjamin/Cummings、1984、p.384)。しばしば、アジュバントの非存在下では、抗原単独を用いた一次ワクチン接種が、液性または細胞性の免疫応答を惹起できないことがあるであろう。アジュバントとして、これらに限定されないが、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム等の鉱物のゲル、リゾレシチン等の表面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油または炭化水素のエマルジョン、スカシ貝ヘモシアニン、ならびに有用である可能性があるヒトのアジュバント、例として、N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)が挙げられる。好ましくは、アジュバントは、生物学的に許容できるアジュバントである。本発明の1つの実施形態では、組成物を、2つのアジュバント、すなわち、水酸化アルミニウムとサポニンとの組合せと共に投与する。
【0038】
本明細書に記載する組成物中で利用するアジュバントは典型的には、「生物学的に許容できるアジュバント」であり、したがって、不活性化BTVと組み合わせて使用することができ、その結果、得られた組成物は、動物に対して毒性を伴うことなく、in vivoにおいて投与することができる。本明細書では、水酸化アルミニウム、サポニン、SP−Oil、SL−CDまたはCarbopolからなる群から選択される、1つまたは複数の生物学的に許容できるアジュバントと組み合わせた、2回不活性化BTVを含む組成物を例示する。特定の実施形態では、2つのアジュバントを使用して、BTVに対する好ましい免疫応答を惹起する。その他の実施形態では、代謝可能な油、例として、1つまたは複数の不飽和テルペン系炭化水素の混合物の使用を考慮することができ、例えば、スクアレンまたはスクアランと、Pluronic(登録商標)等のポリオキシエチレン−ポリプロピレンのブロックコポリマーとの混合物がある。
【0039】
不活性化BTV株またはそれに由来する分子が、免疫グロブリン(抗体)またはT細胞抗原受容体などの免疫系の抗原認識分子と特異的に相互作用することが可能である場合、そのような株または分子は、「抗原性を示す」。典型的には、抗原性を示す分子は、ポリペプチドまたはその変異体であり、これは、少なくとも約5個、典型的には少なくとも約10個のアミノ酸の「エピトープ」を含有する。ポリペプチドの抗原性を示す部分は、本明細書ではまた「エピトープ」とも呼ばれ、抗体もしくはT細胞受容体認識に対して免疫優性である部分であってもよく、または、免疫化のために、抗原性を示す部分を担体ポリペプチドにコンジュゲートすることによって、この分子に対する抗体を生成するために使用される部分であってもよい。抗原性を示す分子は、それ自体が免疫原性である、すなわち、担体なしで免疫応答を惹起することが可能である必要はない。
【0040】
本開示においては、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、「含んでいる(comprising)」、「含有する(contains)」、「含有している(containing)」等の用語は、米国特許法においてそれらに割り当てられた意味を有することができ、例えば、それらは、「含む(includes)」、「含んだ(included)」、「含んでいる(including)」等を意味することができることに留意されたい。「から本質的になっている(consisting essentially of)」および「から本質的になる(consists essentially of)」等の用語は、米国特許法においてそれらに割り当てられた意味を有し、例えば、それらによって、本発明の新規または基本的な特徴を損なわない追加の成分またはステップを包含することが可能になる。すなわち、それらによって、本発明の新規または基本的な特徴を損なう、追加の、列挙されていない成分またはステップが排除され、本明細書に引用する、または参照により本明細書に組み込まれている当技術分野の参照文献等の先行技術の成分またはステップが排除される。これは、特に、特許性がある、例えば、先行技術、例として、本明細書に引用する、または参照により本明細書に組み込まれている参照文献等を越えて、新規性、進歩性、独創性がある実施形態を定義することが、本文書の目的であるからである。さらに、「からなる(consists of)」および「からなっている(consisting of)」という用語も、米国特許法においてそれらに帰された意味を有し、すなわち、これらの用語によって、条件が固定されることを意味する。
【0041】
ワクチン組成物または免疫原性組成物に対する「免疫応答」は、対象において、対象とする抗原またはワクチンの組成物中に存在する分子に対して、液性および/または細胞媒介性の免疫応答が生じることである。本発明の目的では、「液性免疫応答」は、抗体媒介性免疫応答であり、これには、本発明の抗原/ワクチンに対して親和性を有する抗体の生成が関与する。一方、「細胞媒介性免疫応答」は、Tリンパ球および/またはその他の白血球によって媒介される免疫応答である。「細胞媒介性免疫応答」は、主要組織適合複合体(MHC)のクラスI分子またはクラスII分子が伴う、抗原性を示すエピトープの提示によって惹起される。これによって、抗原特異的CD4+Tヘルパー細胞またはCD8+細胞傷害性Tリンパ球細胞(「CTL」)が活性化される。CTLは、主要組織適合複合体(MHC)によってコードされ、細胞表面上で発現するタンパク質を伴って提示されるペプチド抗原に対して特異性を示す。CTLは、細胞内微生物の細胞内破壊またはそのような微生物に感染した細胞の溶解を引き起こし、促すのを助ける。細胞性免疫の別の態様では、ヘルパーT細胞による抗原特異的応答が関与する。ヘルパーT細胞が作用して、非特異的エフェクター細胞の機能を刺激し、その活性を、MHC分子を伴ってペプチド抗原を細胞表面上に提示しているそれらの細胞に対して集中させるのを助ける。また、「細胞媒介性免疫応答」は、サイトカイン、ケモカイン、ならびに活性化されたT細胞および/またはCD4+T細胞およびCD8+T細胞に由来する細胞を含めた、その他の白血球によって産生される、その他のそのような分子の産生も指す。特定の抗原または組成物の、細胞媒介性免疫学的応答を刺激する能力を、いくつかのアッセイ、例として、リンパ球増殖(リンパ球活性化)アッセイによって、CTL細胞傷害性細胞アッセイによって、感作させた対象中で抗原に対して特異的なTリンパ球についてアッセイすることによって、または抗原を用いた再刺激に対する応答において、T細胞によるサイトカイン産生を測定することによって決定することができる。そのようなアッセイは、当技術分野ではよく知られている。例えば、Ericksonら、J.Immunol(1993)151:4189−4199;Doeら、Eur.J.Immunol.(1994)24:2369−2376を参照されたい。
【0042】
「免疫原性有効量」は、動物において免疫応答を惹起する全不活性化BTVの量である。この量は、レシピエント動物の種、品種、年齢、サイズ、健康状況に依存し、その動物の、1つまたは複数のBTV株への以前の曝露によって、そのような1つまたは複数の株が毒性(virulent)株であっても非毒性(avirulent)株であっても影響を受ける。本明細書で使用する場合、1つまたは複数の適切なアジュバントと組み合わせて利用する場合、全不活性化BTVの「免疫原性有効量」は、BTVの免疫原性を増強するのに十分であり、したがって、病原性または毒性のBTVの株または血清型を用いる攻撃に対して防御免疫をもたらすBTVの量である。
【0043】
「免疫原性」という用語は、抗原またはワクチンの、液性または細胞媒介性のいずれかまたは両方の免疫応答を惹起する能力を指す。本明細書で使用する場合、「免疫原性」という用語は、BTVが、液性および/または細胞性の免疫応答を惹起することが可能であることを意味する。また、免疫原性株は抗原性も示す。免疫原性組成物は、動物に投与した場合、液性および/または細胞性の免疫応答を惹起する組成物である。
【0044】
「免疫原性組成物」という用語は、抗原、例えば、微生物を含有する任意の医薬組成物に関し、こうした組成物を使用して、哺乳動物において免疫応答を惹起することができる。この免疫応答は、T細胞応答、B細胞応答、またはT細胞応答およびB細胞応答の両方を含むことができる。この組成物は、細胞表面でのMHC分子を伴う抗原の提示によって、哺乳動物を感作させるために役立つことができる。さらに、抗原特異的Tリンパ球または抗体を産生させて、免疫化した宿主の将来の防御を可能にすることもできる。「免疫原性組成物」は、細胞媒介性(T細胞)免疫応答または抗体媒介性(B細胞)免疫応答のいずれかまたは両方を誘導する全微生物またはそれに由来する免疫原性部分を含む、生存する弱毒化したワクチンまたは死滅させた/不活性化したワクチンを含有することができ、微生物による感染症に伴う1つまたは複数の症状から動物を防御してもよく、または微生物による感染症に起因する死から動物を防御してもよい。
【0045】
「不活性化」という用語は、本発明のワクチン組成物または免疫原性組成物の中で使用しようとする微生物の性質が非感染性であることを指す。特に、当業者には、ワクチンのために、微生物、例えば、BEIを非感染性とするために使用することができる、そのような材料が分かっている。また、本発明においては、ブルータングウイルスを非感染性とするための特定の方法を開発するに至ったが、これらの方法はまた、ウイルス調製物の完全な不活性化を果たすと同時に、ワクチン調製物の免疫原性の保持にも重点を置いて開発されている。
【0046】
本明細書で使用する場合、「単離した」という用語は、言及する材料を自然の環境から取り出すことを意味する。したがって、単離した生物学的材料は、細胞構成成分、すなわち、中に自然の材料が天然に存在する細胞の構成成分(例えば、細胞質または膜の構成成分)のうちの一部または全部を含有しない状態であってよい。材料が細胞の抽出物または上清の中に存在する場合には、その材料は単離された状態にある。単離したタンパク質は、その他のタンパク質もしくは核酸、または両方と結合することができ、細胞内では、単離したタンパク質は、そうしたタンパク質または核酸と結合している。単離したタンパク質が、膜結合タンパク質である場合には、単離したタンパク質は、細胞膜と結合することができる。単離した細胞小器官、細胞または組織は、それが生物体内で見い出される解剖学的部位から取り出された状態にある。単離した材料は精製することができるが、そうである必要はない。
【0047】
本明細書で使用する場合、「非経口投与」という用語は、消化管以外の何らかの手段による投与を意味し、具体的には、物質の生物体内への静脈内、皮下、筋肉内または髄内への注射による導入を意味するが、また、その他の口以外および鼻以外の経路からの投与、例として、腹腔内注射または局所適用も意味する。
【0048】
「病原性」という用語は、細菌またはウイルス等の任意の感染物質の疾患を引き起こす能力を指す。本発明の場合には、「病原性」という用語は、ブルータングウイルス(BTV)が、反芻動物、具体的には、ヒツジまたは子ヒツジにおいて疾患を引き起こす能力を指す。「非病原性」微生物は、「病原性」BTV株について上記した特徴を欠く微生物を指す。BTVによって引き起こされた疾患はしばしば、感染動物中の病変によって特徴付けられ、これらは、感染性ウシウイルス性下痢、水泡性口内炎ウイルス、悪性カタル熱、口腔カンジダ症、牛疫、光線過敏および口蹄疫に似ている。ブルータングウイルス(BTV)は、ウシにおける水無脳症、ならびにウシおよびヒツジにおける不妊、流産および欠損のある仔の出産を引き起こす原因とみなされている。
【0049】
「薬学的に許容できる担体」という用語は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含めた動物での使用について、連邦、州政府の規制機関もしくはその他の規制機関によって承認されている、または米国薬局方もしくはその他の一般に認められている薬局方において収載されている担体を意味する。「担体」という用語は、それと共に医薬組成物が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、無菌の液体、例として、水および油であってよく、こうした油には、石油系油、動物系油、植物系油または合成した油、具体的には、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等がある。この医薬組成物を静脈内投与する場合には、水が好ましい担体である。また、食塩水溶液、ならびにデキストロースおよびグリセロールの水溶液も、液体の担体として、具体的には、注射用液剤のために利用することができる。適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等がある。また、この組成物は、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も所望により含有することができる。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、持続性放出製剤等の形態をとることができる。この組成物を、従来の結合剤および担体、例として、トリグリセリドと共に坐剤として製剤化することができる。経口製剤は、標準的な担体、例として、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等を含むことができる。適切な薬学的担体の例が、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。製剤は、投与形態に適合しなければならない。
【0050】
「防御」という用語は、例えば、哺乳動物、具体的には反芻動物、例えば、ヒツジ、子ヒツジ、ヤギまたはウシを、感染または疾患から、特定の病原体、例として、ブルータングウイルスに対する免疫応答を誘導することによって遮蔽することを指す。そのような防御は一般に、哺乳動物の、本明細書に記載するワクチン組成物を用いた治療に続いて達成される。
【0051】
本明細書で使用する場合、「精製した」という用語は、無関係の材料、すなわち、そこから当該材料を得る自然の材料を含めて、混入物の存在を低減させるまたは排除する条件下で単離されている材料を指す。例えば、精製した細菌またはタンパク質は典型的には、組織培養物または卵タンパク質を含めて、宿主細胞または培養構成成分、非特異的病原体等を実質的に含有しない。本明細書で使用する場合、「実質的に含有しない」という用語は、材料の解析試験の文脈で、操作の観点から使用される。典型的には、混入物を実質的に含有しない精製した材料は、少なくとも50%純粋、より典型的には少なくとも90%純粋、さらにより典型的には少なくとも99%純粋である。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、イムノアッセイ、組成の解析、生物学的アッセイ、および当技術分野で知られているその他の方法によって評価することができる。精製方法は、当技術分野では周知である。「実質的に純粋」という用語は、当技術分野で知られている従来の精製技法を使用して達成することができる最も高い程度の純度を指す。
【0052】
「サポニン」は、Lacaille−Dubois,MおよびWagner H.(1996、A review of the biological and pharmacological activities of saponins、Phytomedicine、第2巻、363〜386頁)に教示されている。サポニンは、植物界および海洋動物界において広く分布するステロイドまたはトリテルペンの配糖体である。サポニンは、振とう時に泡立つ、水性のコロイド溶液を形成し、コレステロールを沈殿させることで知られている。サポニンが細胞膜付近にあると、膜内に穴様構造を生み出し、これは、膜の破裂を引き起こす。赤血球の溶血が、この現象の例であり、これは、特定のサポニンが示す特性であって、全てのサポニンが示すわけではない。サポニンは、全身性投与のためのワクチンにおけるアジュバントとして知られている。個々のサポニンのアジュバントおよび溶血の活性が、当技術分野では広範に研究されている(Lacaille−DuboisおよびWagner、上記)。例えば、「Quil A」(南米の木、キリヤ・サポナリア(Quillaja Saponaria)モリナ(Molina)の樹皮に由来する)、およびその画分が、米国特許第5,057,540号、および「Saponins as vaccine adjuvants」、Kensil,C.R.、Crit Rev Ther Drug Carrier Syst、1996、12(1〜2):1〜55、およびEP0362279B1に記載されている。Quil Aの画分を含み、免疫刺激複合体(ISCOMS)と呼ばれている粒子構造は、溶血性を示し、ワクチンの製造において使用されている(Morein,B.、EP0109942B1)。これらの構造は、アジュバント活性を示すことが報告されている(EP0109942B1;WO96/11711)。溶血性サポニンであるQS21およびQS17(Quil AのHPLCによって精製した画分)が、強力な全身性アジュバントとして記載されており、それらを生成する方法が、米国特許第5,057,540号およびEP0362279B1に開示されている。また、これらの参照文献には、全身性ワクチンの強力なアジュバントとして作用するQS7(Quil−Aの非溶血性画分)の使用も記載されている。QS21の使用は、Kensilら(1991、J.Immunology、第146巻、431〜437)にもさらに記載されている。また、QS21と、ポリソルベートまたはシクロデキストリンとの組合せも知られている(WO99/10008)。Quil Aの画分を含む粒子性のアジュバント系、例として、QS21およびQS7が、WO96/33739およびWO96/11711に記載されている。全身性ワクチン接種の研究において使用されたことがあるその他のサポニンには、その他の植物種、例として、ジプソフィラ属(Gypsophila)およびサポナリア属(Saponaria)に由来するものがある(Bomfordら、Vaccine、10(9):572〜577、1992)。また、サポニンは、粘膜適用ワクチンの研究においても使用されたことがあることが知られており、これらは、良好な免疫応答の誘導を様々な程度でかなえている。Quil−Aのサポニンは以前に、抗原を鼻腔内投与した場合には、免疫応答を誘導する効果はないことが示されている(Gizurarsonら、1994 Vaccine Research 3、23〜29)が、その他の著者は、このアジュバントを使用して成功を収めている(Maharajら、Can.J.Microbiol、1986、32(5):414−20。ChavaliおよびCampbell、Immunobiology、174(3):347−59)。Quil Aのサポニンを含むISCOMは、胃内および鼻腔内のワクチン製剤において使用されたことがあり、アジュバント活性を示した(McI Mowatら、1991、Immunology、72、317−322;McI MowatおよびDonachie、Immunology Today、12、383−385)。また、Quil Aの無毒性画分であるQS21は、経口または鼻腔内のアジュバントとしても記載されている(Suminoら、J.Virol.、1998、72(6):4931〜9、WO98/56415)。鼻腔内ワクチン接種の研究におけるその他のサポニンの使用が記載されている。例えば、キノア(Chenopodium quinoa)のサポニンが、鼻腔内および胃内の両方のワクチンにおいて使用されたことがある(Estradaら、Comp.Immunol.Microbiol.Infect.Dis.、1998、21(3):225〜36)。
【0053】
「SL−CD」という用語は、米国特許第6,610,310号および第6,165,995号に記載されているシクロデキストリンアジュバントのファミリーに属するスルホリポ−シクロデキストリン(sulpholipo−cyclodextrin)を指す。典型的には、SL−CDは、代謝可能な油、例として、1つまたは複数の不飽和テルペン系炭化水素、例えば、スクアレンとの混合物、好ましくは、非イオン性界面活性剤、例として、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタンとの混合物中に配合される。
【0054】
「SP−Oil」という用語は、1%〜3%v/vのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロックコポリマー、2%〜6%v/vのスクアレン、0.1%〜0.5%v/vのポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン、および緩衝化塩溶液を含む油性エマルジョンであるアジュバントを指す。
【0055】
「反芻動物」という用語は、ウシ、ヒツジ、キリン、ヤギおよびシカを含めた、胃が4つの区画に分割されていることを特徴とする、任意の多様な有蹄、偶蹄、および通常は有角の哺乳動物を指す。
【0056】
本明細書で使用する場合、「治療(treatment)」(その変形形態、例えば、「治療する(treat)」または「治療した(treated)」を含む)は、以下のうちの任意の1つまたは複数を指す:(i)従来のワクチンの場合と同様、感染または再感染を予防すること、(ii)症状の重症度を低下させること、または症状を排除すること、および(iii)問題とする病原体または障害を、実質的または完全に排除すること。したがって、治療は、(感染に先立って)予防的に行っても、または(感染に続いて)治療的に行ってもよい。本発明においては、予防的な治療が、好ましい様式である。本発明の特定の実施形態によれば、予防的および/または治療的な免疫化を含めて、宿主動物をウイルス感染に対して治療する組成物および方法が提供される。本発明の方法は、哺乳動物、好ましくは、反芻動物、例として、ヒツジ、子ヒツジ、ウシまたはヤギに対して、予防的および/または治療的な免疫を付与するために有用である。また、本発明の方法は、生物医学研究に適用するために、哺乳動物に対して実行することもできる。
【0057】
「2回不活性化」という用語は、本発明に記載する特定の方法を使用して、BTVを非感染性とし、かつウイルス調製物の免疫原性を保持することを指す。より具体的には、BEIとのBTVのインキュベーションを2回使用することによって、本発明のBTVを2回不活性化し、不活性化の第1のステップを、BTVを10mMの濃度のBEIと共に24時間インキュベートすることによって達成し、2回目の不活性化を、BTVを5mMの濃度のBEIと共に48時間インキュベートすることによって達成する。
【0058】
「ワクチン」または「ワクチン組成物」という用語は、互換的に使用され、動物において免疫応答を誘導する、少なくとも1つの免疫原性組成を含む医薬組成物を指す。ワクチンまたはワクチン組成物は、動物を、感染が引き起こす疾患または場合によっては死から防御することができ、この活性な構成成分の免疫学的活性を増強する、1つまたは複数の追加の構成成分を含んでも、または含まなくてもよい。ワクチンまたはワクチン組成物は、医薬組成物に典型的なさらなる構成成分を追加して含むことができる。ワクチンまたはワクチン組成物は、例えば、アジュバントまたは免疫調節物質を含めて、ワクチンまたはワクチン組成物に典型的なさらなる構成成分を追加して含むことができる。ワクチンの免疫原性的に活性な構成成分は、完全な、生存する生物体を、それらの元々の形態としてか、もしくは改変した生ワクチン中の弱毒化した生物体としてかのいずれかで、または死滅させたもしくは不活性化したワクチンとして、適切な方法によって不活性化した生物体を、またはウイルスの1つもしくは複数の免疫原性構成成分を含むサブユニットワクチンを、または当業者に既知の方法によって調製した、遺伝子操作し、突然変異させたもしくはクローニングしたワクチンを含むことができる。ワクチンまたはワクチン組成物は、上記の要素のうちの1つを、または同時に2つ以上を含むことができる。
【0059】
一般的な説明
大型動物の業界に対する潜在的な影響に起因して、ブルータングウイルスに対するワクチンの開発は、特に、ウシおよびヒツジの業界にとって極めて重要である。病原性株は、たとえ弱毒化したとしても、通常、生ウイルスにはその毒性を示す状況に復帰する傾向があることから、その価値が限られる可能性が高い。さらに、不活性化ワクチンを商業的に使用しようとするならば、ウイルスを完全に不活性化して、動物に対する適切な安全性プロファイルを保証しなければならないことも必須である。さらにまた、不活性化が、免疫応答の誘導に関与するウイルスまたはウイルスの構成成分の免疫原性に対して、有害な効果を示さないことも重要である。
【0060】
したがって、本発明は、動物、具体的には、ヒツジもしくは子ヒツジもしくはウシ等の反芻動物をブルータングウイルス(BTV)感染に対して免疫化するため、または疾患の少なくとも1つの症状の重症度を低下させるための組成物および方法に関する。この組成物は、少なくとも1つの2回不活性化BTV株および生物学的に許容できるアジュバントを含む。特定の実施形態では、少なくとも2つの生物学的に許容できるアジュバントの組合せを利用する。
【0061】
本発明の1つの実施形態では、この方法は、反芻動物を病原性があるBTVに対して免疫化すること、およびこの動物をそのような感染から防御することを提供する。
【0062】
特に、本発明の方法は、反芻動物をBTVによる感染に対して免疫化するための、少なくとも1つの全体を2回不活性化したBTV株を含むワクチン組成物または免疫原性組成物の使用を提供する。1つの実施形態では、本発明の方法は、反芻動物をBTVによる感染に対して免疫化するための、BTVの血清4型を含むワクチン組成物または免疫原性組成物の使用を提供する。
【0063】
本発明の組成物および方法において使用すべきブルータングウイルスは、American Type Culture Collection(ATCC)等の任意の既知の受託機関から得ることができる。そうした受託機関は、種々の血清型のBTVの株を保持している。例えば、ATCCは、BTVのいくつかの異なる株を維持しており、これらは、ATCCのカタログに、以下の指定受託番号で収載されている:VR−187(血清10型)、VR−872(血清11型)、VR−873(血清13型)、VR−875(血清17型)、VR−983(血清2型)、VR−1231(血清10型)、VR−1231AF(血清10型)およびVR−1231CAF(マウス血清10型)。さらに、血清4型が、Mertensら(Mertens,PPら(Virology、161(2):438−447、(1987))、およびBreardら(Breard,E.らVirus Res.、125(2):191−197、(2007))によって記載されている。
【0064】
不活性化の方法
不活性化ウイルスワクチンまたは免疫原性組成物は、BTVの、不活性化剤、例として、ホルマリンもしくは疎水性溶媒、酸等による処理、紫外線光もしくはX線の照射、加熱等によって調製することができる。不活性化を、当技術分野で理解されている様式で実施する。例えば、化学的な不活性化の場合、適切なウイルス試料またはウイルスを含有する血清試料を、ウイルスを不活性化するのに十分な量または濃度の不活性化剤で、(不活性化剤に依存して)十分に高い(または低い)温度またはpHで、十分な長さの時間にわたり処理する。加熱による不活性化を、ウイルスを不活性化するのに十分な温度で、十分な長さの時間にわたり実施する。照射による不活性化を、ウイルスを不活性化するのに十分な波長の光またはその他のエネルギー源を使用して、十分な長さの時間にわたり実施する。ウイルスが、感染に対して感受性の細胞に感染することが不可能である場合、このウイルスは、不活性化されたとみなされる。1つの特定の実施形態では、バイナリーエチレンイミン(BEI)が、不活性化のために使用する手段である。
【0065】
本発明の特定の態様では、少なくとも1つの全BTVを2回不活性化した形態を生成するための方法を提供する。この方法は、
a)1:10の不活性化剤対BTV比を用いて、不活性化剤でBTVを処理するステップと、
b)ステップa)の不活性化剤/BTVの混合物を少なくとも15分間ホモジナイズするステップと、
c)ステップb)の混合物を無菌容器中にデカントし、混合物を約24時間撹拌するステップと、
d)2回目に、1:20の不活性化剤対BTV比を用いて、不活性化剤でBTVを処理するステップと、
e)ステップd)の不活性化剤/BTVの混合物を少なくとも15分間ホモジナイズするステップと、
f)ステップe)の混合物を無菌容器中にデカントし、混合物を約48時間撹拌するステップと、
g)不活性化剤を中和して、最終pHを約7.2に調節するステップと
を含み、
この方法によって、BTVの不活性化が生じ、BTVの免疫原性は維持される。
【0066】
1つの実施形態では、上記の2回不活性化BTVを調製するための方法は、不活性化剤としてのバイナリーエチレンイミン(BEI)の使用を提供する。1つの実施形態では、ステップa)の不活性化剤の最終濃度は、上記したように、約10mMである。1つの実施形態では、ステップd)の不活性化剤の最終濃度は、上記したように、約5mMである。
【0067】
1つの実施形態では、2回不活性化全BTVを調製するための上記の方法は、血清4型であるブルータングウイルスを利用する。
【0068】
ワクチン組成物または免疫原性組成物、および使用方法
免疫原性有効量の本発明のワクチンを、ブルータングウイルス(BTV)による感染に対する防御を必要とする反芻動物に投与する。反芻動物に接種する免疫原性有効量または免疫原性量は、日常的な試験によって容易に決定するまたは容易に増減することができる。有効量は、ワクチンに対する十分な免疫学的応答を達成して、動物を、ウイルスへの曝露に対して防御する量である。好ましくは、動物を、ウイルス性疾患の有害な生理学的症状または作用のうちの1つから全てを、顕著に低減させる、寛解させる、または完全に予防する程度まで防御する。
【0069】
ワクチン組成物または免疫原性組成物は、単回用量また反復用量で投与することができる。活性な抗原性を示す薬剤の適切な投与量を、動物の体重、抗原の濃度、およびその他の典型的な要因に基づいて決定または滴定するための方法が、当技術分野では知られている。
【0070】
望ましくは、このワクチン組成物または免疫原性組成物を、ウイルスにまだ曝露していない反芻動物に投与する。全体を2回不活性化したウイルス、またはそうしたウイルスのその他の抗原性を示す形態を含有するワクチンを、好都合に、鼻腔内投与、経皮投与(すなわち、皮膚表面上にまたは皮膚表面において適用して、全身性に吸収させる)、非経口投与等を行うことができる。非経口投与経路として、これらに限定されないが、筋肉内経路、静脈内経路、腹腔内経路、皮内経路(すなわち、皮膚の下に注射する、または別の場合には皮膚の下に置く)等が挙げられる。筋肉内経路および皮内経路からの接種が、ウイルス感染性DNAクローンを使用したその他の研究において成功を収めている(E.E.Spargerら、「Infection of cats by injection with DNA of feline immunodeficiency virus molecular clone」、Virology 238:157−160(1997);L.Willemsら、「In vivo transfection of bovine leukemia provirus into sheep」、Virology 189:775−777(1992))ことから、実用的な鼻腔内投与経路に加えて、これらの経路が、最も好ましい。
【0071】
液剤として投与する場合、本発明のワクチンは、水性の液剤、シロップ剤、エリキシル剤、チンキ剤等の形態で調製することができる。そのような製剤は、当技術分野では知られており、典型的には、抗原およびその他の典型的な添加剤を、適切な担体または溶媒の系中に溶解させることによって調製される。適切な「生理的に許容できる」担体または溶媒として、これらに限定されないが、水、食塩水、エタノール、エチレングリコール、グリセロール等が挙げられる。典型的な添加剤は、例えば、認可されている染料、香料、甘味剤、およびチメロサール(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム)等の抗菌保存剤が挙げられる。そのような液剤は、例えば、部分加水分解ゼラチン、ソルビトールまたは細胞培養培地を添加することによって安定化させることができ、従来の方法によって、当技術分野で既知の試薬、例として、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、それらの混合物等を使用して緩衝化することができる。
【0072】
また、液体製剤は、その他の標準的な共配合成分と組み合わせた懸濁化剤または乳化剤を含有する懸濁剤および乳剤も含む。これらの型の液体製剤は、従来の方法によって調製することができる。懸濁剤を、例えば、コロイドミルを使用して調製することができる。乳剤を、例えば、ホモジナイザーを使用して調製することができる。
【0073】
体液系中に注入するために設計した非経口製剤には、ブタの体液レベルに対応する適切な等張性とpH緩衝化が必要になる。等張性は、必要であれば、塩化ナトリウムおよびその他の塩を用いて適切に調節することができる。エタノールまたはプロピレングリコール等の適切な溶媒を使用して、製剤中の成分の溶解性および液体調製物の安定性を増加させることができる。本発明のワクチン中で利用することができるさらなる添加剤として、これらに限定されないが、デキストロース、従来の抗酸化剤、およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等の従来のキレート剤が挙げられる。また、非経口投与剤型は、使用前に滅菌もしなければならない。
【0074】
アジュバント
2回不活性化ブルータングウイルスを、アジュバントと共に送達することができる。1つの実施形態では、ワクチンは、全体を2回死滅させた/不活性化したBTVであり、これを、アジュバントと共に投与する。アジュバントは、動物の、ワクチンに対する免疫学的応答を向上させる物質である。アジュバントは、ワクチンと同じ時期に、同じ部位において投与してもよく、または異なる時期に、例えば、追加免疫として投与してもよい。また、アジュバントは、ワクチンを投与する様式または部位とは異なる様式または部位で反芻動物に好都合に投与することもできる。適切なアジュバントとして、これらに限定されないが、水酸化アルミニウム(ミョウバン)、Alhydorogel(登録商標)(Brenntag Biosector、Frederikssund、デンマーク)、免疫刺激複合体(ISCOMS)、非イオン性のブロックポリマーまたはコポリマー、(IL−1、IL−2、IL−7、IFN−α、IFN−β、IFN−γ等のような)サイトカイン、(Quillaia A、またはQuil A(Brenntag Biosector、Frederikssund、デンマーク)を含めた)サポニン、モノホスホリルリピドA(MLA)、ムラミルジペプチド(MDP)等が挙げられる。その他の適切なアジュバントとして、例えば、硫酸アルミニウムカリウム、大腸菌(Escherichia coli)から単離された熱不安定性または熱安定性のエンテロトキシン、コレラ毒素またはそのBサブユニット、ジフテリア毒素、破傷風毒素、百日咳毒素、フロイント不完全アジュバントまたはフロイント完全アジュバント等が挙げられる。ジフテリア毒素、破傷風毒素および百日咳毒素等の毒素に基づいたアジュバントは、使用前に、例えば、ホルムアルデヒドを用いて処理することによって不活性化することができる。1つの実施形態では、ワクチン組成物を、少なくとも2つのアジュバントの組合せと共に送達する。1つの実施形態では、ワクチン組成物を、水酸化アルミニウム(Alhydorogel(登録商標))およびサポニン(Quil A)の両方の組合せと共に送達する。
【0075】
免疫応答を測定するためのアッセイ
反芻動物をBTVに対してワクチン接種した機能的成果を、細胞性もしくは液性の免疫またはT細胞活性の誘導をモニターする適切なアッセイによって評価することができる。これらのアッセイは、当業者には知られているが、例えば、クロム放出アッセイを使用する細胞溶解性T細胞活性の測定を含むことができる。あるいは、T細胞増殖アッセイを、免疫反応性またはその喪失の指標として使用することもできる。さらに、in vivoにおいて試験を行って、病原体に対してワクチン接種した哺乳動物における防御のレベルを、本発明の方法を使用して評価することもできる。典型的なin vivoアッセイでは、本明細書に記載するウイルス等の抗原を動物にワクチン接種することを含むことができる。抗体またはT細胞応答の発生を誘導するのに十分な時間、一般に、注射後約1〜2週間待機した後、動物を、いずれかのウイルス等の抗原を用いて攻撃し、ウイルス感染症に伴う1つもしくは複数の症状の寛解、または動物の生存をモニターする。BTVに対するワクチン接種の投与計画が成功すれば、非ワクチン接種対照と比較して、ウイルス感染症に伴う1つもしくは複数の症状の顕著な減少、またはウイルス血症の減少、またはウイルス感染症に伴う病変の数もしくは重症度の減少、または生存が認められる。また、血清を収集して、ワクチンの注射に応答して産生された抗体レベルを、当業者に既知の方法によって測定してモニターすることもできる。
【実施例】
【0076】
以下の実施例によって、本発明の特定の態様を実証する。しかし、これらの実施例は、例証のためのものに過ぎず、これらには、本発明の条件および範囲を確定する意味は全くないことを理解されたい。典型的な反応条件(例えば、温度、反応時間等)が示されている場合、また、特定された範囲を超える条件およびそれに満たない条件の両方も、一般にあまり好都合ではないが、使用することができることを理解されたい。別段の記載がない限り、本明細書で示す部分およびパーセントは全て重量に関するものであり、温度は全て摂氏で表現する。
【0077】
(実施例1)
製造プロセス
一般的な説明
製造プロセスを、無菌条件下で、以下に記載する標準的な製造方法(Standard Manufacturing Method)の指示に従って実施する。標準的な製造方法において無菌的と定義される操作を開始する前に、空気ろ過装置および層流キャビネットが正しく動作する状態にあることを確かめ、このプロセスにおいて使用する材料が、オートクレーブ中もしくはろ過によって正当に滅菌されている、または確立された方法に従って殺菌されていることを確認する。無菌的な操作を、以下の確立された無菌の取扱い技法に従って実施する。
【0078】
製造プロセスの各ステップの説明
最終抗原の製造方法(継代3回)
BHK−21細胞培養物の入手
BHK−21細胞(作業用細胞ストックまたはWCS)を液体窒素中で凍結保存する。WCS凍結保存チューブを、+37℃まで迅速に解凍することによって解凍し、次いで、これを、培地(MEM−Glasgow+照射したウシ胎仔血清)を含有する培養フラスコ中に接種する。
【0079】
この培養フラスコを、+37±1℃でインキュベートする。接種時から少なくとも5時間が経過したら、培地をフラスコから除去し、あらかじめ+37±1℃の温度とした同じ組成の新しい培地を添加する。
【0080】
培養物を、定期的に観察し、その発展(コンフルエンス)および細胞形態を記録する。
【0081】
この培養フラスコから生成のために必要なフラスコを得るために、必要とされる継代培養を3〜5日置きに実施する。
【0082】
新たに調製したトリプシン溶液を用いて、培養物をトリプシン処理することによって継代培養を実施し、細胞懸濁液の計数を、Neubauerチャンバー中で生体染色(トリパンブルー)により行う。次いで、細胞懸濁液を、タンクまたはフラスコの中に含有させた無菌の培地中で磁気撹拌により希釈し、これを、培養フラスコ中に分配する。
【0083】
培養操作開始時に、回転フラスコ中で、培地のpHを7.2±0.2に調節する。
【0084】
最後の培養物を、トリプシン処理し、遠心分離したら、細胞懸濁液を、抗原を製造するセクションに届ける。
【0085】
最終抗原の製造(継代3回)
継代2回抗原(接種材料)の生成
最終抗原(継代3回)のバッチを生成するために、接種材料(継代2回抗原)を、以下の方法に従って調製する。
【0086】
作業用播種ウイルス(WSV)を−70±10℃で凍結保存する。WSVから、接種材料を得るために2回継代を行う。1回目の継代では、効力の制御を実施し、2回目の継代では、凍結操作後に、無菌性および効力の制御を行う。
【0087】
継代1回抗原(プレ接種材料)
培養第2〜3日のBHK−21細胞を有する1つのフラスコ中から、培地を除去し、感染媒体(MEM−Glasgow中のWSV懸濁液)で置換する。
【0088】
培養物を、+37±1℃でインキュベートする。
【0089】
細胞変性効果(CPE)が60%超である場合、細胞の単層剥離を促進するために、フラスコを撹拌下に置き、次いで、−70±10℃で凍結する。
【0090】
継代2回抗原(接種材料)
継代1回抗原を、MEM−Glasgow中で希釈する。培養第2〜3日のBHK−21細胞を有する必要な増殖フラスコの培地を除去し、調製したウイルス懸濁液で置換し、次いで、+37±1℃のインキュベーター中に置く。
【0091】
CPEが60%超である場合、細胞の単層剥離を促進するために、フラスコを撹拌下に置き、次いで、−70±10℃で凍結する。
【0092】
最終抗原(継代3回)の培養物の接種、感染および収集
無菌容器中で、MEM−Glasgow、培養フラスコからのBHK−21細胞懸濁液および照射されたウシ胎仔血清を、撹拌下で混合およびホモジナイズする。
【0093】
懸濁液をホモジナイズしたら、細胞の計数を、Neubauerチャンバー中で行う。
【0094】
この懸濁液を、必要なフラスコに接種し、+37±1℃でインキュベートする。
【0095】
培養第2〜3日に、培地を、各フラスコから除去し、感染媒体、すなわち、MEM−Glasgow+継代2回抗原(接種材料)で置換する。次いで、感染フラスコを、+37±1℃、回転運動下でインキュベートする。
【0096】
CPEが60%超である場合、細胞の単層剥離を促進するために、フラスコを撹拌下に置き、培養物を収集およびホモジナイズし、pHを確かめる。必要であれば、塩酸を用いて調節して、7.2±0.2のpHを得、次いで、収集した最終抗原(継代3回)を不活性化する。
【0097】
培養プロセスの特徴
− 培養を、回転フラスコ中で行う。
− 試料を、トリパンブルーを用いて1/2に希釈した後、細胞の計数をNeubauerチャンバー中で行う。
− 培養物を、+37±1℃で1時間当たり12〜14回回転させながらインキュベートする。
− 培養物の状況および発展を定期的に観察し、細胞形態を、倒立顕微鏡を用いて観察する。
− 最終抗原(継代3回)の製造プロセス全体を通して、空気の試料を休息期間および製造期間の間に採取することによって、作業室の環境制御を実施し、また、作業設備を制御するために、提示プラーク(exposition plaque)および接触プラーク(contact plaque)も解析する。
【0098】
試料採取
継代1回抗原:継代1回抗原の試料を、品質管理部(Quality Control Department)による効力の制御のために採取する。
【0099】
継代2回抗原:継代2回抗原の試料を、品質管理部による効力および無菌性の制御のために採取する。
【0100】
継代3回抗原:継代3回抗原の試料を、品質管理部による効力、無菌性および同一性の制御のために採取する。
【0101】
不活性化抗原の製造
最終抗原の不活性化プロセスは合計72時間にわたり、使用するBEIの濃度は15mMである。
【0102】
0.1M BEIを、不活性化されつつある抗原1リットル当たり100mlの割合で添加することによって、最終抗原を不活性化する(最終濃度10mM)。
【0103】
BEIの添加後、この混合物を少なくとも15分間ホモジナイズし、pHを確かめる。ホモジナイズするプロセスの後、この混合物を無菌容器中にデカントし、これを、撹拌下、37±1℃で24時間保つ。
【0104】
24時間後、0.1M BEIを、不活性化されつつある抗原1リットル当たり50mlの割合で添加することによって、最終抗原の2回目の不活性化を実施する(最終濃度5mM)。BEIの2回目の添加後、プロセスを、1回目の添加について上記に記載した同じ条件下で繰り返すが、混合物の撹拌は48時間維持する。
【0105】
残留BEIの中和
中和
不活性化プロセスが完了したら、BEIを中和するために、1Mチオ硫酸ナトリウム溶液を、不活性化抗原1リットル当たり5mlの割合で添加する(最終濃度5mM)。
【0106】
この混合物をホモジナイズした後、pHを確かめる。必要であれば、塩酸を用いて調節を行い、7.2±0.2のpHを得る。
【0107】
不活性化および中和した抗原の理論タイターの計算
不活性化および中和した抗原の理論タイターを計算するために、不活性化前の抗原のタイター、ならびに不活性化プロセスにおけるBEIの添加および中和プロセスにおけるチオ硫酸ナトリウムの添加に相当する希釈の要因を考慮に入れる。
【0108】
抗原1リットルにつき、100mlの0.1M BEI溶液を1回目の不活性化に添加し、追加の55mlを2回目の不活性化に添加する。こうすると、最終抗原1000mlは、不活性化抗原1155mlとなる。直ちに、中和プロセスにおいて、不活性化抗原1リットル当たり5mlの1Mチオ硫酸ナトリウム溶液を添加する。こうすると、不活性化抗原1155mlは、不活性化および中和した抗原1161mlとなる。
【0109】
不活性化および中和のプロセスは、最終抗原の希釈が、合計すると1/1.16であることを意味する(最終抗原1000mlが、不活性化および中和した抗原1161mlになる)。この理由で、不活性化前に107.2TCID50/mlの標準タイターを示す抗原は、不活性化および中和の後には107.2/1.16の理論タイターを有するとみなされる。
【0110】
試料採取
無菌性および不活性化の制御のために、不活性化および中和した抗原の試料を、品質管理部のために採取する。
【0111】
(実施例2)
攻撃後のウイルス血症の低減に対する効果によるアジュバントの選択
2月齢の子ヒツジにおけるプレ免疫原性実験
動物に、皮下経路によってワクチン接種し(2mL)、3週間後に再ワクチン接種した。
【0112】
ワクチンA−3、B−3およびC−3を用いてワクチン接種した動物を、再ワクチン接種の7〜8週間後に攻撃した(攻撃用量=10TCID50の生ウイルス/動物)。攻撃した動物のうち、防御を示したものはなかった。しかし、ウイルス血症の低減が、Alhydrogel(水酸化アルミニウム)とQuil−A(サポニン)をアジュバントとして用いてワクチン接種した動物においてのみ観察された。
【0113】
【表1】

【0114】
ワクチン接種後の抗体の応答
【0115】
【表2】

【0116】
攻撃の結果
バッチA−3、B−3およびC−3を用いてワクチン接種した動物を、再ワクチン接種の7〜8週間後に攻撃した(各群5匹)。また、2匹の非ワクチン接種対照も攻撃した。
【0117】
ブルータングウイルス(BTV)を、血液試料中で、Laboratorio Central de Veterinaria(Algete、スペイン)において実施したリアルタイム逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)アッセイによって検出した。(Miguel Angel Jimenez−Claveroら(2006).J Vet Diagn Invest 18:7〜17)。血液試料を、感染後第4および7日に採取した(D+4p.i.およびD+7p.i.)。血液試料の処理、96ウエル核酸抽出法に続く全核酸抽出、およびリアルタイムRT−PCRを、Miguel Angel Jimenez−Claveroら、2006(J.Vet.Diagn.Invest.18:7〜17)の記載に従って実施した。PCR解析について、閾値サイクルを求めた(Ct)。36未満のCt値を示す場合には、試料をBTV陽性とみなした。36と40との間のCt値を示す試料は、不確定とみなした。
【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
【表5】

【0121】
ワクチン接種動物と非ワクチン接種動物とを、リアルタイムRT−PCRの結果を考慮に入れ比較するために、対照群の平均Ctを、異なるワクチン接種群のそれぞれの平均Ctから減じた。(Miguel Angel Jimenez−Claveroら(2006).J Vet Diagn Invest 18:7〜17)は、リアルタイムRT−PCRアッセイによって達成した検出では、対数目盛上で、シグナルと試料中に存在するウイルスRNAの分量(1ミリリットル当たり当量TCID50感染単位)との間に直線関係が示されることを実証した(0.9948の相関係数、および−3.334の傾き)。この理由により、各ワクチン接種群と対照群との間のCtの平均の差を3.334で割り、得られた数の対数を計算した。
【0122】
【表6】

【0123】
結論
計算した数[log(Ctの差/3.334)]は、対照群とワクチン接種群との間の関係を表す。攻撃後第7日において、
1.アジュバントであるAlhydrogelとQuil−Aを用いてワクチン接種した動物は、対照群と比べて、血中のウイルスが少なく、3分の1であった。(非ワクチン接種動物についてのデータは1匹のみからである)
2.SP−oilまたはSL−CDのアジュバントを用いてワクチン接種した動物は、対照群と比較して、ウイルス血症の低減を何ら示さなかった(非ワクチン接種動物についてのデータは1匹のみからである)
3.Alhydrogel(水酸化アルミニウム)とQuil−A(サポニン)は、SP−oilまたはSLCDよりも優れたアジュバントである。
【0124】
(実施例3)
抗原濃度の、ウイルス血症の低減に対する効果
2月齢の子ヒツジにおけるプレ免疫原性実験
動物に、皮下経路によってワクチン接種し(2mL)、3週間後に再ワクチン接種した。
【0125】
ワクチンA−1、A−2およびA−3を用いてワクチン接種した動物を、再ワクチン接種の5〜6週間後に攻撃した(攻撃用量=10TCID50の生ウイルス/動物)。攻撃した動物のうち、防御を示したものはなかった。しかし、ウイルス血症の抗原用量依存性の低減が観察された。
【0126】
【表7】

【0127】
ワクチン接種後の抗体の応答
【0128】
【表8】

【0129】
攻撃の結果
バッチA−1、A−2およびA−3を用いてワクチン接種した動物を、再ワクチン接種の5〜6週間後に攻撃した(各群5匹)。また、2匹の非ワクチン接種対照も攻撃した。
【0130】
ブルータングウイルス(BTV)を、血液試料中で、Laboratorio Central de Veterinaria(Algete、スペイン)において実施したリアルタイム逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)アッセイによって検出した。(Miguel Angel Jimenez−Claveroら(2006)、J Vet Diagn Invest 18:7〜17)。血液試料を、感染後第3および5日に採取した(D+3p.i.およびD+5p.i.)。血液試料の処理、96ウエル核酸抽出法に続く全核酸抽出、およびリアルタイムRT−PCRを、Miguel Angel Jimenez−Claveroら、2006(J.Vet.Diagn.Invest.18:7〜17)の記載に従って実施した。PCR解析について、閾値サイクルを求めた(Ct)。36未満のCt値を示す場合には、試料をBTV陽性とみなした。36と40との間のCt値を示す試料は、不確定とみなした。
【0131】
【表9】

【0132】
【表10】

【0133】
【表11】

【0134】
ワクチン接種動物と非ワクチン接種動物とを、リアルタイムRT−PCRの結果を考慮に入れ比較するために、対照群の平均Ctを、異なるワクチン接種群のそれぞれの平均Ctから減じた。Miguel Angel Jimenez−Claveroら(2006).J Vet Diagn Invest 18:7〜17)は、リアルタイムRT−PCRアッセイによって達成した検出では、対数目盛上で、シグナルと試料中に存在するウイルスRNAの分量(1ミリリットル当たり当量TCID50感染単位)との間に直線関係が示されることを実証した(0.9948の相関係数、および−3.334の傾き)。この理由により、各ワクチン接種群と対照群との間のCtの平均の差を3.334で割り、得られた数の対数を計算した。
【0135】
【表12】

【0136】
【表13】

【0137】
結論
計算した数[log(Ctの差/3.334)]は、対照群とワクチン接種群との間の関係を表す。攻撃後第5日において、
1.10TCID50/用量を用いてワクチン接種した動物は、対照群(非ワクチン接種動物)と比べて、血中のウイルスが少なく、2分の1であった。
2.106.7TCID50/用量を用いてワクチン接種した動物は、対照群(非ワクチン接種動物)と比べて、血中のウイルスが少なく、6分の1であった。
3.10TCID50/用量を用いてワクチン接種した動物は、対照群(非ワクチン接種動物)と比べて、血中のウイルスが少なく、13分の1であった。
【0138】
(実施例4)
アジュバントおよび投与組成物
1月齢の子ヒツジにおける免疫原性実験
動物に、皮下経路によってワクチン接種し(2mL)、3週間後に再ワクチン接種した。
【0139】
ワクチンK1、K2、K6およびK8を用いてワクチン接種した動物を、再ワクチン接種の3〜4週間後に攻撃した(攻撃用量=10TCID50の生ウイルス/動物)。ワクチンK1およびK2を用いてワクチン接種した動物のみが防御された。
【0140】
【表14】

【0141】
ワクチン接種後の抗体の応答
【0142】
【表15】

【0143】
【表16】

【0144】
攻撃
ELISAの結果により、SP−oilおよびDrakeolを配合したワクチンは、攻撃のためには考慮しなかった。また、以前の実験からの安全性の結果に基づいて、Montanide(商標)ISA206を配合したワクチンも切り捨てた。
【0145】
バッチK1、K2、K7およびK8を用いてワクチン接種した子ヒツジを、再ワクチン接種後第24日に攻撃した。5匹の非ワクチン接種対照群を含めた。
【0146】
【表17】

【0147】
結論
ウイルス血症を予防することが可能な唯一のワクチンは、1×10TCID50/用量、ならびにアジュバントとしてのAlhydrogelとQuil−Aを配合したバッチK2であった。同じアジュバントを配合したバッチK1を用いてワクチン接種した5匹の動物のうちのわずか1匹において、ウイルス血症が検出可能であったが、これは、より低い抗原濃度(3×10TCID50/用量)の場合であった。
【0148】
Montanide(商標)ISA206(Seppic)を配合したワクチンのバッチK7およびK8を用いて得られた結果は、満足なものではなかった。
【0149】
類似の血清学的結果を示すMontanide(商標)ISA207(Seppic)についての攻撃の結果は入手できていない。
【0150】
(実施例5)
最終的なワクチン組成物
【0151】
【表18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物中でブルータングウイルス(BTV)に対する免疫応答を惹起するための組成物であって、少なくとも1つの株の2回不活性化したブルータングウイルスの免疫原性有効量、および生物学的に許容できるアジュバントを含む組成物。
【請求項2】
2回不活性化BTVが、1回目は、約10mMの濃度の不活性化剤を用いて不活性化され、2回目は、約5mMの濃度の不活性化剤を用いて不活性化される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
不活性化剤がバイナリーエチレンイミン(BEI)である、請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
株が血清4型である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ワクチン組成物または免疫原性組成物である、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
動物が、ヒツジ、子ヒツジ、ヤギ、ウシおよびシカからなる群から選択される反芻動物である、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
反芻動物が、ヒツジまたは子ヒツジである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
生物学的に許容できるアジュバントが、水酸化アルミニウム、サポニン、SL−CD、CarbopolおよびSP−Oilのうちの1つまたは複数からなる群から選択される、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
生物学的に許容できるアジュバントが、水酸化アルミニウムとサポニンとの混合物を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
水酸化アルミニウムが、約1%と約10%との間の濃度で存在する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
水酸化アルミニウムが、約2%と約5%との間の濃度で存在する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
水酸化アルミニウムが、約3%の濃度で存在する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
惹起した免疫応答が、動物をブルータングウイルスの病原性株による感染から防御する、またはブルータングウイルスの病原性株による感染症に伴う少なくとも1つの症状の重症度を低下させる、請求項1から12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
ブルータングウイルスに対する動物の免疫応答を増強するため、または前記疾患に伴う少なくとも1つの症状を予防もしくは低減するための方法であって、請求項1から13のいずれかに記載の組成物を単回または複数回投与するステップを含む方法。
【請求項15】
動物が、ヒツジ、子ヒツジ、ヤギ、ウシおよびシカからなる群から選択される反芻動物である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
反芻動物が、ヒツジまたは子ヒツジである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
投与するステップが、非経口投与によって達成される、請求項14から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
非経口投与するステップが、筋肉内注射によって達成される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
投与するステップが、経口投与によって達成される、請求項14から16のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
経口投与するステップが、手による送達または大量適用によって達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ブルータングウイルスの大流行を予防するまたはその状況を改善する方法であって、請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物を動物に投与するステップを含む方法。
【請求項22】
動物が、ヒツジ、子ヒツジ、ヤギ、ウシおよびシカからなる群から選択される反芻動物である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
反芻動物が、ヒツジまたは子ヒツジである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
投与するステップが、非経口投与によって達成される、請求項22または23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
非経口投与するステップが、筋肉内注射によって達成される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
投与するステップが、経口投与によって達成される、請求項21から23のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
経口投与するステップが、手による送達または大量適用によって達成される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
不活性化全ブルータングウイルス(BTV)を生成する方法であって、
a)1:10の不活性化剤対BTV比を用いて、不活性化剤でBTVを処理するステップと、
b)ステップa)の不活性化剤/BTVの混合物を少なくとも15分間ホモジナイズするステップと、
c)ステップb)の混合物を無菌容器中にデカントし、混合物を約24時間撹拌するステップと、
d)2回目に、1:20の不活性化剤対BTV比を用いて、不活性化剤でBTVを処理するステップと、
e)ステップd)の不活性化剤/BTVの混合物を少なくとも15分間ホモジナイズするステップと、
f)ステップe)の混合物を無菌容器中にデカントし、混合物を約48時間撹拌するステップと、
g)不活性化剤を中和して、最終pHを約7.2に調節するステップと
を含み、
BTVの不活性化が生じ、BTVの免疫原性は維持される方法。
【請求項29】
不活性化剤がバイナリーエチレンイミン(BEI)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ステップa)の不活性化剤の最終濃度が約10mMである、請求項28または29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
ステップd)の不活性化剤の最終濃度が約5mMである、請求項28または29のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
全ブルータングウイルスが血清4型である、請求項28から31のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2011−504174(P2011−504174A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534492(P2010−534492)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065993
【国際公開番号】WO2009/065930
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510141833)ワイス ファーマ, エス.エー. (1)
【Fターム(参考)】