説明

ブレーカプレート

【目的】 押出成形時にブレーカプレート前後における樹脂の滞留を最小限に抑え、樹脂の流動を滑らかにすることによって、樹脂の熱劣化、分解、ゲル化等を防止し、アダプター内壁等にそれらの付着を防止し、これにより、優れた表面状態、光学的特性等を有する押出成形品が得られるブレーカプレートを提供する。
【構成】 その軸直角断面における最上部および最下部の孔(2,3)がアダプター(23)の円筒状内壁面に沿って開口する円弧状の幅狭い長孔(2,3)であることを特徴とする。上記円弧状の長孔(2,3)の外側の内壁面が、アダプター(23)の円筒状内壁面となめらかに接続するよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は押出成形機用ブレーカプレートに関する。詳しくは、押出成形機を用いて樹脂を成形する際に、ブレーカプレート前後における樹脂の滞留を最小限に抑え、当該箇所における樹脂の流動を滑らかにし得るブレーカプレートであって、且つ、優れた表面状態、光学的特性等を有するフィルム、シート等の押出成形品を得るのに適したブレーカプレートに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、スクリュー式押出成形機を用いてフィルム、シート等の押出成形品を製造する場合、押出成形機のバレル内でスクリューにより樹脂を混練、溶融させた後、ダイから押出し、冷却して所定の形状に賦形する方法が採用されている。ダイは、押出成形機のバレル先端部にアダプターを介して設置されるが、通常、バレル先端部とアダプターの間にはブレーカプレートおよびスクリーンが配設される。
【0003】ブレーカプレートはスクリーンと同様、樹脂に混入している異物および未溶融物等の通過を阻止し、樹脂に背圧を与えて混練を助成するため等に使用される。フィルム、シート等の押出成形品の表面状態、機械的特性、光学的特性等は用いるダイの形状に大きく依存するが、ブレーカプレートの形状もこれらの特性に大きな影響を及ぼす。
【0004】而して、従来多用されているブレーカプレートとして、例えばプラスチック加工技術便覧(新版)(日刊工業新聞社、昭和52年12月20日4版発行)第239頁図4・26には、多数の円形の樹脂通過孔を同心円上に配設したものが記載されている。しかし、これらのブレーカプレートでは、ブレーカプレートの各孔から流出する樹脂の流れが均一にならない。具体的には、ブレーカプレートの外周部に配設された孔および中心部に配設された孔における樹脂の滞留時間が、その中間部に配設された孔における樹脂の滞留時間に比べ長くなり、樹脂の劣化、焦げなどが発生することがある。
【0005】このような問題点を解決したブレーカプレートとして、PLASTICS ENGINEERING,1982年6月号,第39〜44頁には、樹脂の滞留時間が長くなる外周部および中心部でその厚さを薄くして、孔の軸方向長さを短縮したブレーカプレートが記載されている。
【0006】また、特開平5−16207号公報には、ブレーカプレート盤に明けた一部の複数貫通孔はブレーカプレート盤の表裏面に直角に貫通し、残りの複数の貫通孔はブレーカプレート盤の表裏面に斜めに貫通している押出成形装置のブレーカプレートが開示されている。しかし、これらの公知のブレーカプレートを用いた場合でも、優れた表面状態、機械的特性等を有する押出成形品を得ることは困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記の如き従来のブレーカプレートを用いて押出成形する場合、樹脂がブレーカプレートの多数の円形の孔の部分を流れるときに高いせん断力を受けて発熱し、ブレーカプレート周辺で熱劣化、分解、またはゲル化し、器壁に付着するという欠点がある。また、ブレーカプレートの孔の明いてない部分で樹脂が滞留して劣化し、劣化樹脂がアダプター内壁に筋状に付着することがある。そのため、得られるフィルム、シートの表面に流れ方向の筋の痕跡が生じ、成形品の表面状態、外観、機械的特性、光学的特性等の品質を悪化させる原因となっている。
【0008】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、押出成形時にブレーカプレート前後における樹脂の滞留を最小限に抑え、該箇所における樹脂の流動を滑らかにし得るブレーカプレートを提供することにある。また、他の目的は、押出成形時の樹脂の熱劣化、分解、ゲル化等を防止し、アダプター内壁等にそれらの付着を防止し、且つ、優れた表面状態、光学的特性等を有する押出成形品が得られるブレーカプレートを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アダプターからダイに至る樹脂の流れは層流をなしており、アダプターの円筒状内面の上部および下部の壁面に接しまたはその近傍を通過する樹脂は、成形品であるフィルム、シート等の中央領域に流出することを確認した。かかる知見に基づいてさらに検討した結果、ブレーカプレートの軸直角断面において、該断面の少なくとも最上部および最下部に設ける孔をアダプターの円筒状内面に沿って円弧状に開口させることにより、アダプターの円筒状内面の上部および下部の壁面に沿って流れる樹脂の流れを乱すことがなく、且つ、樹脂の滞留を生じないブレーカプレートが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】すなわち、本発明のブレーカプレートは、その下流側に設置されるアダプター内の上部壁面および下部壁面の近傍における樹脂の流れを妨げないよう構成されるものであり、ブレーカプレートの軸直角断面における少なくとも最上部および最下部に設けられる孔の断面形状に特徴を有するものである。
【0011】具体的には、本発明は、押出成形機の樹脂押出方向に沿って上流側のバレルと下流側のアダプターとの間に装着され、樹脂押出方向(本明細書中において「軸方向」という。)に沿った複数の樹脂通過孔(本明細書中において単に「孔」という。)を有するブレーカプレートにおいて、その軸直角断面における最上部および最下部の孔がアダプターの円筒状内壁面に沿って開口する円弧状の幅狭い長孔であることを特徴とするブレーカプレートである。
【0012】本発明において、軸直角断面における最上部および最下部の孔とは、後述する図1に示す断面における中心4から上方または下方に最も離れている孔、すなわち、図1に示す長孔2および長孔3を意味する。
【0013】本発明のブレーカプレートは、押出成形機、特に好適にはスクリュー式単軸押出機に取りつけられ、熱可塑性樹脂フィルムまたはシート等を製造する際に用いられる。熱可塑性樹脂の種類には特に制限はなく、本発明は、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ニトリル系ポリマー等公知の熱可塑性樹脂の押出成形に適用できる。
【0014】
【実施例】以下、図面を参照しつつ、本発明に係るブレーカプレートについて詳細に説明する。図1は、本発明に係るブレーカープレートの一実施例の軸直角断面図(図2中B−B′線に沿った断面図)であり、図2は、その軸方向中央断面図(図1中A−A′線に沿った断面図)、図3は、図1および図2に示すブレーカプレートを使用したスクリュー式単軸押出機の一例を示す説明図である。
【0015】本発明に係るブレーカプレート1は、その軸直角断面(図1)における少なくとも最上部および最下部の孔として、断面形状が内側に円弧状に湾曲した細長い長孔2および3が設けられる。長孔2および3は、軸直角断面における中心4を中心とする一円周上に配設される。長孔2および3の諸元は、原料樹脂の種類、押出成形機のサイズ、および押出成形時にブレーカプレート1にかかる圧力(押出背圧)等により適宜選択される。樹脂の滞留防止効果、異物除去効果、スクリーンの保持効果等を考慮すると、長孔2および3の軸直角断面における幅、すなわち、図2における外側内壁面2aと内側内壁面2b、または同3aと同3b間の距離は2〜8mmであることが好ましい。さらに好ましい距離は2.5〜5mmである。又、軸直角断面において長孔2および3が張る中心角(両端の点2cと2d又は3cと3dを結ぶ円弧が張る中心角をいうものとする。)は、90〜160°程度、さらに好ましくは120〜140°とすることが推奨される。なお、この中心角は、強度が許容する限り大きくとることが望ましい。
【0016】ブレーカプレート1には、その軸直角断面(図1)における最も右側および左側にも孔5および孔6等の複数個の孔が設けられる。また、これらの長孔2、3、5、6と中心4との間にも孔7、8、9等の複数個の孔が設けられる。これらの孔5〜9の断面形状には特に制限はなく、公知の形状、例えば円形であってもよいし、また、前記長孔2、長孔3のように軸直角断面における断面形状が内側に円弧状に湾曲した長孔であってもよい。孔5、6、7、8等の断面形状は好ましくは後者であり、中心4を包含する孔9の断面形状は好ましくは前者である。これらの孔の大きさと数は、押出背圧、樹脂の滞留防止効果、異物除去効果、スクリーンの保持効果等を考慮して所望の開口率になるように適宜選定される。
【0017】ブレーカプレート1の開口率、すなわち、アダプター23の樹脂通路の軸直角断面積に対する孔の全断面積の比率は、押出背圧、樹脂の滞留防止効果、異物除去効果、スクリーンの保持効果等に影響を及ぼす。開口率が大きいと、樹脂の流れが妨げられず、樹脂の滞留を防止し得る点で利点があるが、押出背圧が低くなり樹脂の混練不足、ショートパスをきたす原因となる。かかる点を総合的に勘案すると、開口率は30〜50%程度であることが望ましい。
【0018】ブレーカプレート1に設けられた前記各孔の樹脂流入口には、通常、図2に示す如く異物除去、押出背圧調節等のためにスクリーン10が配設される。異物除去効果を良くするためには、スクリーン10の外径は、2aと3a 間の最大距離より1〜5mm程度大きくすることが望ましい。この場合、スクリーン10の取付部に段差が生じ樹脂が滞留し易くなるのでこれを防止するために、段差を解消し得る形状、寸法を有するリング11を取り付けることが望ましい。
【0019】通常、樹脂の流れ方向と直角をなす方向の断面において、アダプター内の樹脂通路の上部壁面および下部壁面に沿ってその近傍を流れる樹脂は、得られるフィルム、シート等の幅方向の中央部を形成し、当該断面におけるアダプターの中心部およびその近傍を流れる樹脂は、得られるフィルム、シート等の厚さ方向の中心部を形成し、該断面におけるアダプターの左右の壁面に沿ってその近傍を流れる樹脂は、得られるフィルム、シート等の幅方向の端部を形成する。フィルム、シート等の端部は、通常は、所謂、「みみ」として切断、廃棄されるものである。
【0020】本発明に係るブレーカプレートは、上記の如き構成であるため、ブレーカプレートからアダプターに至る樹脂の流れが妨げられず、特に、アダプターの上部および下部の壁面の近傍における樹脂の流路変化が少ないものである。そのため、本発明に係るブレーカプレートを装着した押出成形機を使用することにより、優れた表面状態、光学的特性等を有するフィルム、シート等の押出成形品が得られる。特に、Tダイを装着した押出成形機に本発明に係るブレーカプレートを適用すると、成形品の流れ方向に走る特有の筋のない高品質のフィルム、シート等が得られる。
【0021】さらに、本発明に係るブレーカプレートは、その樹脂流入口における樹脂の滞留が少なく、そのため、該箇所における樹脂の熱劣化を防止することができ、優れた色調を有する成形品を得ることができる。
【0022】図3は、上記の如く構成された本発明に係るブレーカプレートを使用したスクリュー式単軸押出機の一例を示している。図中、1は本発明に係るブレーカプレート、21はバレル、22はスクリュー、23はアダプター、24はフランジ、25,26および27はバンドヒーター、28はダイである。
【0023】ブレーカプレート1はバレル21とアダプター23の間に装着され、バレル内でスクリューにより混練、溶融された樹脂に混入している異物および未溶融物等の通過を阻止すると共に、樹脂に背圧を与えて混練を助成しつつ当該樹脂をアダプター23内へ送り込む。
【0024】而して、ブレーカプレート1の前記最上部および最下部の円弧状の長孔2および3の外側内壁面(図1および図2中の2a および3a )の曲率半径は、アダプターの内壁面の曲率半径と同一に形成されると共に、当該最上部および最下部の長孔2および3の外側内壁面2a および3a がアダプターの内壁面となめらかに接続するようにアダプターと同軸に取り付けられる(図3R>3参照)。
【0025】以下、本発明に係るブレーカプレートを装着したスクリュー式単軸押出成形機を使用した押出成形例を示す。尚、実施例に示した各特性は下記方法により測定した値である。
【0026】(1)フィルム表面の筋の観察フィルムに平行光線を透過させ、白色紙上にその映像を投写し、筋状の影の有無を観察して、フィルム表面の筋の有無を評価する。
【0027】(2)フィルムの表面の粗度(単位:μm)
表面粗さ解析装置(株式会社小坂研究所製、形式:サーフコーダーAY−31)を用いてフィルム表面の粗度を測定し、その最大値を示す。
【0028】(3)ブレーカプレートの樹脂流入口近傍から樹脂流出口近傍における樹脂の滞留時間分布ブレーカプレートを2.5次元で近似的にモデル化し、有限要素法による熱流体解析ソフト“POLYFLOW”(開発元:ベルギー王国、Polyflow.S.A.社、および、Universite Catholique deLouvain,the Untiede Mechanique)を使用し、押出成形機内における樹脂の流動解析を行い、ブレーカプレートの樹脂流入口近傍から樹脂流出口近傍における樹脂の最大滞留時間を示す。
【0029】〔実施例1〕口径50mm、L/D(スクリュー長さ/スクリュー径)28の単軸押出機のバレル先端部に、図1と同様の断面形状を有するブレーカプレート(2a2bおよび3a3b間距離:4mm、長孔が張る中心角:130°、2aおよび3aの曲率半径:16mm、孔の長さ23mm、開孔率:約50%、スクリーン:300メッシュ)を装着し、その下流側に長さ180mmのアダプター(内径:32mm)を介して、幅650mmのTダイを装着した。この押出機に、ポリスチレン(三井東圧化学株式会社製、商品名:トーポレックス575−57U)を供給し、厚さ200μm、幅550〜600mmのポリスチレンフィルムを成形した。尚、成形条件は、押出機のメータリング部およびT−ダイ温度:250℃、スクリュー回転数:35rpm、押出量:約20Kg/hr、キャスティングロールの温度:80℃とした。
【0030】フィルムの成形加工中に、ブレーカプレートの樹脂流入口近傍から樹脂流出口近傍における樹脂の最大滞留時間を上記方法により求めた結果、壁面付近で500秒間であり、該箇所において樹脂の滞留が少ないことを確認した。また、得られたフィルムの幅500mmの中央領域をサンプルとして採取し、上記方法により、フィルム表面の筋の有無と表面粗度を測定した。その結果、フィルム表面に筋の存在は認められず、又、表面粗度は最大0.3μmであった。
【0031】〔比較例1〕多孔型のブレーカプレート(孔断面形状:円形、孔径:2.5mm、孔数:52個、開孔率:32%)を押出機に装着した以外、実施例1と同様にして厚さ200μmのポリスチレンフィルムを成形した。ブレーカプレートの樹脂流入口近傍から樹脂流出口近傍における樹脂の最大滞留時間、および、得られたフィルムの表面の筋の有無、および、表面粗度を実施例1と同様にして測定した。その結果、該箇所における樹脂の最大滞留時間は3500秒間であり、得られたフィルム表面の長さ方向に微細な筋状の影がフィルムの幅方向全面にわたって明確に観察された。また、フィルムの表面粗度は最大0.6μmであった。
【0032】
【発明の効果】本発明のブレーカプレートを使用することにより、押出成形時のブレーカプレートの樹脂流入口における樹脂の滞留を抑えることができ、そのため、樹脂の熱劣化、分解等を防止することができる。また、ブレーカプレートおよびアダプター内部の樹脂の流路変化を極めて少なくし得るので、得られる成形品の表面に筋等が発生することがなく、優れた表面平滑性、光学的特性等を有する成形品を得ることができる。
【0033】なお、本発明は叙上の実施例に限定されるものでなく、例えば孔の数や配置等は使用する樹脂や押出機の種類に応じて適宜変更されるものであり、従って、本発明はその目的の範囲内において上記の説明から当業者が容易に想到し得るすべての変更実施例を包摂するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るブレーカープレートの一実施例の軸直角断面図(図2中B−B′線に沿った断面図)である。
【図2】その軸方向中央断面図(図1中A−A′線に沿った断面図)である。
【図3】図1および図2に示すブレーカプレートを使用したスクリュー式単軸押出機の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ブレーカプレート
2 最上部の長孔
3 最下部の長孔
4 中心
5〜9 孔
10 スクリーン
11 リング
21 バレル
22 スクリュー
23 アダプター
24 フランジ
25〜27 バンドヒーター
28 ダイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】押出成形機の樹脂押出方向に沿って上流側のバレル(21)と下流側のアダプター(23)との間に装着され、樹脂押出方向(以下「軸方向」という。)に沿った複数の樹脂通過孔(以下、単に「孔」という。)を有するブレーカプレート(1)において、その軸直角断面における最上部および最下部の孔(2,3)がアダプター(23)の円筒状内壁面に沿って開口する円弧状の幅狭い長孔(2,3)であることを特徴とする上記のブレーカプレート。
【請求項2】上記円弧状の長孔(2,3)の外側の内壁面(2a,3a)が、アダプター(23)の円筒状内壁面と同一の曲率半径を有し、その中心がアダプターの中心と一致するよう取り付けられる請求項1に記載のブレーカプレート。
【請求項3】上記円弧状の長孔(2,3)の幅が2mm以上8mm以下である請求項1に記載のブレーカプレート。
【請求項4】上記円弧状の長孔(2,3)が張る中心角が90°以上160°以下である請求項1に記載のブレーカプレート。
【請求項5】軸直角有効断面積に対する上記複数の孔(2,3,5〜9)の開口率が30%以上50%以下である請求項1に記載のブレーカプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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