説明

ブロックポリイソシアネート組成物

【課題】90℃以下でも架橋塗膜を形成可能で、水存在下の貯蔵安定性が良好であるブロックポリイソシアネート組成物、及びそれを用いた水系塗料組成物を提供する。
【解決手段】(a)脂肪族系ポリイソシアネート組成物、脂環族系ポリイソシアネート組成物、芳香族系ポリイソシアネート組成物から選ばれるポリイソシアネート組成物から誘導されるブロックポリイソシアネート組成物であって、(b)特定なケト酸エステル化合物、c)特定なジエステル化合物及び(d)活性水素を有する親水性化合物を構成成分として有し、かつ以下の項目に該当することを特徴とするブロックポリイソシアネート組成物。(1)ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基のモル当量に対し、(b)成分と(c)成分の合計:d)成分のモル比率が50:50〜98:2、(2)(b)成分:(c)成分のモル比率が30:70〜90:10

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温硬化性と水存在下の貯蔵安定性に優れたブロックポリイソシアネート組成物、及びそれを用いた水系塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境、安全、衛生などの観点から水系塗料が注目されている。中でも、自動車塗料や建築塗料に関しては、種々の水系塗料が提案されている。水系塗料のうち、イソシアネート基により架橋されるウレタン系塗料は、得られる塗膜が非常に優れた耐磨耗性、耐薬品性及び耐汚染性を有しているという特徴を有している。
このようなウレタン系塗料では、ライン用塗料など一液性が必要とされる場合、通常、ポリイソシアネートの遊離イソシアネート基を熱解離ブロック剤で封鎖したブロックイソシアネートが使用される。このブロックイソシアネートは、常温ではポリオールと反応しないが、加熱することによりブロック剤が解離し、活性なイソシアネート基が再生されてポリオールと架橋反応する。ブロック剤としては、メチルエチルケトオキシム、カプロラクタム、アルコール、フェノール系のものが使用される。しかしこれらブロックイソシアネートにおいては、一般的に140℃以上の高い焼付け温度を必要とするため、非常に大きなエネルギーコストを必要とする。また、耐熱性の低いプラスチックへの加工には、高温焼付けが必要なブロックイソシアネートは使用することができないという制限があった。
【0003】
そのような欠点を克服するため、比較的低温で架橋塗膜を形成するブロックイソシアネートとして、ピラゾール系ブロックイソシアネートが提案されている。(特許文献1、2)
しかし、ピラゾール系ブロックイソシアネートにおいても120℃程度の焼付け温度が必要であり、更なる低温硬化が望まれていた。
さらに低い温度で架橋塗膜を形成するブロックイソシアネートとして、活性メチレン系ブロックイソシアネートが提案されている。(特許文献3〜6)
特許文献3では、マロン酸ジエステル及びアセト酢酸エステルをブロック剤とし、さらに、非イオン性親水性化合物を使用することで水分散性を改善している。
特許文献4では、マロン酸ジエステル及び/またはアセト酢酸エステルをブロック剤とし、さらに、脂肪族/脂環式ジアミンと組込み形態のホルムアルデヒドを使用することで貯蔵安定性を改善している。
【0004】
特許文献5では、マロン酸ジエステル及び/またはアセト酢酸エステルをブロック剤とし、そのエステル部を親水基となりうる基を含有するアルコール化合物とのエステル交換反応することで、水分散性を改善している。
また、特許文献6では、マロン酸ジエステル及び/またはアセト酢酸エステルをブロック剤とし、さらにスルホン酸基を有する親水性化合物とポリアミン化合物を使用し、エマルジョン化することで貯蔵安定性を改善している。
しかし、特許文献3〜6では、水が存在した場合に、分解反応が進行し、炭酸ガスを発生しうるマロン酸ジエステルブロック体、または水が存在した場合に、分解反応が進行し、貯蔵後の硬化性が低下しうるアセト酢酸エステルブロック体を基本構造中に有するため、1液水系塗料用硬化剤として使用した場合、炭酸ガスが発生し、貯蔵安定性に問題がある、あるいは貯蔵後の硬化性が低下する場合があった。
そこで、100℃以下で架橋塗膜を形成可能で、水存在下の貯蔵安定性が良好でかつ、貯蔵後の硬化性も保持できるブロックイソシアネート組成物が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特許第3970926号公報
【特許文献2】特開2000−26570号公報
【特許文献3】特許第3947260号公報
【特許文献4】特表2003−508562号公報
【特許文献5】特開2006−160936号公報
【特許文献6】特開2007−45867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、90℃以下でも架橋塗膜を形成可能で、水存在下の貯蔵安定性が良好であるブロックポリイソシアネート組成物、及びそれを用いた水系塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の構造を有する2種の活性メチレン系化合物をブロック剤とするブロックポリイソシアネート組成物は、驚くべきことに、90℃以下でも架橋塗膜を形成可能で、かつ水存在下の貯蔵安定性に優れるという知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
1.(a)脂肪族系ポリイソシアネート組成物、脂環族系ポリイソシアネート組成物、芳香族系ポリイソシアネート組成物から選ばれるポリイソシアネート組成物から誘導されるブロックポリイソシアネート組成物であって、(b)式(I)で示される活性メチレン化合物、(c)式(II)で示される活性メチレン化合物及び(d)活性水素を有する親水性化合物を構成成分として有し、かつ以下の項目に該当することを特徴とするブロックポリイソシアネート組成物。
1)ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基のモル当量に対し、(b)成分と(c)成分の合計:(d)成分のモル比率が50:50〜98:2
2)(b)成分:(c)成分のモル比率が30:70〜90:10
【0009】
【化1】

(式中Rは炭素数1〜4個のアルキル基)
【0010】
【化2】

(式中R、Rは炭素数1〜4個のアルキル基、R、Rは同一であってもいいし、異なっていてもいい)
【0011】
2.式(I)のRがメチル基あるいはエチル基であり、かつ、式(II)のR、Rが同一であり、メチル基、エチル基あるいはイソプロピル基であることを特徴とする上記1.記載のブロックポリイソシアネート組成物。
3.1価アルコール系化合物を含有することを特徴とする上記1.または2.記載のブロックポリイソシアネート組成物。
4.活性水素を有する親水性化合物が、少なくとも3個連続したエチレンオキサイド基を有するポリエチレングリコール系化合物及び/またはモノヒドロキシカルボン酸あるいはジヒドロキシカルボン酸あるいはそれらの誘導体であることを特徴とする上記1.〜3.のいずれかに記載のブロックポリイソシアネート組成物。
5.活性水素を有する親水性化合物が、数平均分子量200〜2000の片末端に炭素数1〜4のモノアルコールが付加したポリエチレングリコール系化合物及び/またはモノヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする上記1.〜4.のいずれかに記載のブロックポリイソシアネート組成物。
6.上記1.〜5.のいずれかに記載のブロックポリイソシアネート組成物及びポリオールを主成分とする水系塗料組成物。
に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物は90℃以下で架橋塗膜を形成可能で、かつ水存在下の貯蔵安定性が良好なブロックポリイソシアネート組成物、及びそれを用いた水系塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、詳述する。
本発明のブロックポリイソシアネート組成物の前駆体であるポリイソシアネート組成物は、脂肪族系ポリイソシアネート組成物、脂環族系ポリイソシアネート組成物、芳香族系ポリイソシアネート組成物から選ばれるポリイソシアネート組成物である。これは、単独で用いてもいいし、2種以上を併用しても構わない。
【0014】
脂肪族系ポリイソシアネート組成物は、脂肪族ジイソシアネートから誘導されるポリイソシアネート組成物、リジントリイソシアネート(以下LTIと示す)、4−イソシアナトメチル−1,8−オクタメチレンジイソシアネート(トリマートリイソシアネート:以下TTIと示す)、ビス(2−イソシアナトエチル)2−イソシアナトグルタレート(グルタミン酸エステルトリイソシアネート:以下GTIと示す)、あるいはこれらトリイソシアネートから誘導されるポリイソシアネート組成物を例示することができる。
【0015】
本発明の脂肪族系ポリイソシアネート組成物に使用される脂肪族ジイソシアネートとし
ては、炭素数4〜30のものが好ましく、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDIと記載する)、2,2,4−トリメチル−1,6−ジイソシアナトヘキサン、リジンジイソシアネートなどがあり、中でも、工業的入手のしやすさからHDIが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、単独で使用してもいいし、2種以上を併用しても構わない。
【0016】
本発明の脂環族系ポリイソシアネート組成物は、以下に示される脂環族ジイソシアネートから誘導される。
本発明の脂環族系ポリイソシアネート組成物に使用される脂環族ジイソシアネートとしては炭素数8〜30のものが好ましく、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIと記載する)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)―シクロヘキサン、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどが例示される。中でも、耐候性、工業的入手の容易さから、IPDIが好ましい。脂環族ジイソシアネートは単独で使用してもいいし、2種以上を併用しても構わない。
【0017】
芳香族系ポリイソシアネート組成物は、以下に示される芳香族ジイソシアネートから誘導される。
本発明の芳香族系ポリイソシアネート組成物に使用される芳香族ジイソシアネートとしては2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。芳香族ジイソシアネートは、単独で使用してもいいし、2種以上を併用しても構わない。
これらのポリイソシアネート組成物の中でも、脂肪族系ポリイソシアネート組成物及び/または脂環族系ポリイソシアネート組成物が耐候性に優れるため、好ましい。さらに、脂肪族系ポリイソシアネート組成物の中では、脂肪族ジイソシアネートから誘導される脂肪族系ポリイソシアネート組成物が好ましい。
【0018】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物の前駆体であるポリイソシアネート組成物の1分子中のイソシアネート基平均数は2.0〜20である。下限値は、2.3であることが好ましく、さらに好ましくは2.5、最も好ましくは3.0である。上限値は、15であることが好ましく、さらに好ましくは10である。
2未満の場合は、架橋性が低下し、目的とする塗膜物性が得られない場合があり、一方、20を超える場合には、凝集力が高くなりすぎて、平滑な塗膜が得られない場合がある。
【0019】
イソシソシアネート基平均数は以下の式(III)による求められる。
【数1】

【0020】
本発明に用いるLTI、TTI、GTI等のトリイソシアネートあるいは、これらの誘導体以外のポリイソシアネート組成物は、ビウレット結合、尿素結合、イソシアヌレート結合、ウレトジオン結合、ウレタン結合、アロファネート結合、オキサジアジントリオン結合等を形成することにより製造されたジイソシアネートの2〜20量体のオリゴマーである。ビウレット結合を有するポリイソシアネート組成物は、水、t−ブタノール、尿素などのいわゆるビウレット化剤とジイソシアネートをビウレット化剤/ジイソシアネートのイソシアネート基のモル比が約1/2〜約1/100で反応させた後、未反応ジイソシ
アネートを除去精製し得られる。イソシアヌレート結合を有するポリイソシアネート組成物は、例えば、触媒などにより環状3量化反応を行い、転化率が約5〜約80質量%になった時に反応を停止し、未反応ジイソシアネートを除去精製して得られる。この際に、1〜6価のアルコール化合物を併用することができる。
【0021】
ウレタン結合を有するポリイソシアネート組成物は、例えば、トリメチロールプロパンなどの2〜6価のアルコール系化合物とジイソシアネートを、アルコール系化合物の水酸基/ジイソシアネートのイソシアネート基のモル比が約1/2〜約1/100で反応させた後、未反応ジイソシアネートを除去精製し得られる。
LTI、TTI、GTIの誘導体もジイソシアネートから誘導されるポリイソシアネート組成物と同様の方法で、製造されるが、これらのトリイソシアネートの場合、未反応トリイソシアネートの除去精製は必ずしも必要ではない。
本発明のブロックポリイソシアネート組成物は、(b)式(I)で示される活性メチレン化合物、(c)式(II)で示される活性メチレン化合物及び(d)活性水素を有する親水性化合物を構成成分として特定割合で有する。
その割合は、当該ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基のモル当量に対し、 (b)成分と(c)成分の合計:(d)成分のモル比率が50:50〜98:2である。
上記比率が、60:40〜98:2であることが好ましく、より好ましくは、70:30〜98:2である。
【0022】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物の製造方法として、いくつかの方法が考えられる。
1つ目の方法は、ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基と2種の活性メチレン系ブロック剤の反応、及びイソシアネート基と活性水素を有する親水性化合物の反応を1つの反応器で実施し、製造する方法である。この方法において、イソシアネートと2種のブロック剤の反応と活性水素を有する親水性化合物の反応を同時に行うこともできるし、いずれかの反応を行った後に、2つ目、3つ目の反応を段階的に実施することもできる。その中でも、イソシアネート基と活性水素を有する親水性化合物の反応を先に実施し、その終了後、イソシアネート基と2種のブロック剤の反応を同時に行うことが好ましい。
【0023】
2つ目の方法は、別々に合成した数種のブロックポリイソシアネート組成物を、合成後、混合する方法である。例えば、ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基と活性水素を有する親水基化合物の反応、及びイソシアネート基と式(I)で示される活性メチレン化合物の反応により得られるA組成物と、ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基と式(II)で示される活性メチレン化合物の反応で得られるB組成物を、それぞれ合成後、混合する方法である。この方法において、混合前の各組成物に2種のブロック剤、及び活性水素を有する親水基化合物の各成分がすべて存在する必要はなく、混合後のブロックポリイソシアネート組成物として、2種のブロック剤、及び活性水素を有する親水基化合物由来の成分が存在すればよい。
【0024】
本発明におけるブロックポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート組成物の全てのイソシアネート基をブロック剤あるいは活性水素基を有する親水性化合物で反応させてもいいし、目的に応じて、イソシアネート基の一部を残してもいい。全てのイソシアネート基を反応させる場合、((2種のブロック剤の合計モル数)+(活性水素基を有する親水性化合物の活性水素のモル数))/(ポリイソシアネート組成物中のイソシアネート基のモル数)は、1.0〜1.5であることが好ましい。
【0025】
2種のブロック剤の合計添加量は、前駆体であるポリイソシアネート組成物におけるイソシアネート基のモル当量に対し、50〜98モル当量%である。下限値としては、60モル当量%が好ましく、より好ましくは、70モル当量%である。合計添加量が50モル
当量%未満であると、架橋密度が低下し、望まれる塗膜物性が得られない、あるいは、得られた塗膜の耐水性が低下する場合があり、合計添加率が98モル当量%を超えると、水系塗料への配合性が低下する傾向にある。
【0026】
本発明に用いるブロック剤は、式(I)、式(II)に示される2種の活性メチレン化合物である。
式(I)の活性メチレン化合物を具体的に記載する。Rは、炭素数1〜4のアルキル基である。炭素数が5以上のアルキル基であると、潜在NCO質量%が低下するとともに、塗料とした時の主剤等との相溶性が低下する場合があり、好ましくない。また、フェニル基等の芳香族化合物の場合は、合成時、貯蔵時に、黄色や赤色等に着色する場合があり、好ましくない。その中でも、メチル基、エチル基またはイソプロピル基が好ましく、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
潜在NCO質量%とは、ブロックポリイソシアネート組成物の全質量に対する潜在的に存在するイソシアネート基の質量%である。
【0027】
本発明に用いる式(I)に示されるブロック剤の具体例としては、イソブタノイル酢酸メチル、イソブタノイル酢酸エチル、イソブタノイル酢酸n−プロピル、イソブタノイル酢酸イソプロピル、イソブタノイル酢酸n−ブチル、イソブタノイル酢酸イソブチル、イソブタノイル酢酸t−ブチルが挙げられる。その中でも、イソブタノイル酢酸メチル、イソブタノイル酢酸エチル、イソブタノイル酢酸イソプロピルが好ましく、より好ましくは、イソブタノイル酢酸メチル、イソブタノイル酢酸エチルである。
本発明においては、上記に示したブロック剤を単独で用いることもできるし、2種以上を使用することもできる。
【0028】
式IIの活性メチレン化合物を具体的に記載する。
、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である。炭素数が5以上のアルキル基であると、潜在NCO質量%が低下するとともに、塗料とした時の主剤等との相溶性が低下する場合があり、好ましくない。また、フェニル基等の芳香族化合物の場合は、合成時、貯蔵時に、黄色や赤色等に着色する場合があり、好ましくない。その中でも、メチル基、エチル基、イソプロピル基であることが好ましく、より好ましくはメチル基、エチル基であり、最も好ましくは、エチル基である。また、R、Rは、同一であってもいいし、異なっていてもいい。
【0029】
本発明に用いる式(II)に示されるブロック剤の具体例としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジ(n−プロピル)、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ(nーブチル)、マロン酸ジ(t−ブチル)、マロン酸メチル(t−ブチル)が挙げられる。その中でも、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジイソプロピルが好ましく、より好ましくは、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチルであり、さらに好ましくは、マロン酸ジエチルである。本発明においては、上記に示したブロック剤を単独で用いることもできるし、2種以上も使用することができる。
【0030】
式(I)に示されるブロック剤と式(II)に示されるブロック剤のモル比率は、30:70〜90:10である。好ましくは、40:60〜85:15であり、より好ましくは、50:50〜80:20であり、さらに好ましくは、60:40〜75:25である。式(I)に示されるブロック剤のモル比率が30未満である場合、水存在下の貯蔵安定性が低下する場合があり、式(II)に示されるブロック剤のモル比率が10未満の場合、低温硬化性が不足する場合がある。
また、本発明のブロックポリイソシアネート組成物は、上記2種以外のブロック剤、例えば、アセト酢酸エチルのような活性メチレン系、オキシム系、ピラゾール系ブロック剤等を併用して使用することもできる。併用する既存のブロック剤は、単独あるいは2種以
上使用してもよい。
【0031】
上記の2種以外の活性メチレン系ブロック剤としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンが例示される。
オキシム系ブロック剤としては、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムが例示される。
ピラゾール系ブロック剤としては、ピラゾール、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾールが例示される。
ポリイソシアネート組成物とブロック剤との反応は、溶剤の存在の有無に関わらず行うことができる。溶剤を用いる場合、イソシアネート基に対して不活性な溶剤を用いるのが好ましい。
【0032】
ブロック反応に際して、反応触媒を使用することができる。具体的な反応触媒としては、一般に塩基性を有するものが好ましく、例えば、
(1)テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや、例えば、酢酸、カプリン酸等の有機弱酸塩
(2)トリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、トリエチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリエチルヒドロキシエチルアンモニウム等のヒドロキシアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや、例えば酢酸、カプリン酸等の有機弱酸塩
(3)アルキルカルボン酸の例えば錫、亜鉛、鉛等のアルキル金属塩
(4)ナトリウム、カリウム等の金属アルコラート
(5)ヘキサメチルジシラザン等のアミノシリル基含有化合物
(6)マンニッヒ塩基類
(7)第3級アミン類とエポキシ化合物との併用
(8)トリブチルホスフィン等の燐系化合物等があり、2種以上を併用してもよい。
【0033】
用いた反応触媒が塗料または塗膜物性に悪影響を及ぼす可能性がある場合には、該触媒を酸性化合物などで中和することが好ましい。この場合の酸性化合物としては、例えば、塩酸、亜燐酸、燐酸などの無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチルエステル、p−トルエンスルホン酸エチルエステル等のスルホン酸またはその誘導体、燐酸エチル、燐酸ジエチル、燐酸イソプロピル、燐酸ジイソプロピル、燐酸ブチル、燐酸ジブチル、燐酸2−エチルヘキシル、燐酸ジ(2−エチルヘキシル)、燐酸イソデシル、燐酸ジイソデシル、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、ピロリン酸ブチル、亜燐酸ブチル等があり、2種以上を併用しても良い。
反応は、一般に−20〜150℃で行うことができるが、好ましくは0〜100℃である。150℃を越えると副反応を起こす可能性があり、他方、あまり低温になると反応速度が小さくなり不利である。
【0034】
本発明におけるブロックポリイソシアネート組成物は、水系塗料における配合性を高めるため、前駆体であるポリイソシアネート組成物のイソシアネート基と活性水素を有する親水性化合物を反応させることにより得られる。
活性水素を有する親水性化合物の添加量は、活性水素のモル数を基準として、前駆体であるポリイソシアネート組成物におけるイソシアネート基のモル当量に対し、2〜50モル当量%である。上限値としては、40モル当量%が好ましく、より好ましくは、30モル当量%である。添加量が2モル当量%未満であると、水系塗料への配合性が低下する傾向があり、また、添加量が50モル当量%を超えると、架橋密度が低下し、望まれる塗膜物性が得られないあるいは得られた塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0035】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物に使用される活性水素を有する親水性化合物は、ノニオン系親水性化合物、アニオン系親水性化合物、カチオン系親水性化合物から選ばれる。これらの親水性化合物は、単独で用いてもいいし、2種以上を併用して用いてもよい。
ノニオン系親水性化合物としては、少なくとも3個連続したエチレンオキサイド基を有するポリエチレングリコール系化合物が挙げられる。さらに、ノニオン系親水性化合物の数平均分子量は200〜2000であることが好ましい。数平均分子量の下限は、より好ましくは300、さらに好ましくは400である。上限は、より好ましくは1500、さらに好ましくは1200、最も好ましくは1000である。数平均分子量の下限が200未満の場合、水系塗料への配合性が低下する傾向があり、上限が2000を超える場合には、焼付け後の耐水性等の塗膜物性が低下する場合がある。
【0036】
例示した3個連続したエチレンオキサイド基を有するポリエチレングリコール系化合物には、エチレンオキサイド繰り返し単位に、その他のオキシアルキレン基、具体的にはオキシプロピレン基、あるいはオキシスチレン基などを含有していても良い。その場合のエチレンオキサイド基モル比率は、60モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、最も好ましくは80モル%以上である。エチレンオキサイド基モル比率が高い場合、水系塗料における配合性を効率よく向上することができ、好ましい。
【0037】
このようなポリエチレングリコール系化合物として、モノアルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールの末端にエチレンオキサイドを付加重合させた所謂プルロニックタイプのポリプロピレングリコールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックポリマージオールあるいはトリオールが挙げられる。特にモノアルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールが好ましく、さらに好ましくは、モノアルコキシポリエチレングリコールである。モノアルコキシポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコールの片末端にアルコールが付加したものであり、使用しうるモノアルコールとしては、炭素数1〜8が好ましく、より好ましくは炭素数1〜6であり、さらに好ましくは炭素数1〜4であり、最も好ましくは、メタノール、エタノールである。
【0038】
ポリエチレングリコールの具体例としては、日本油脂株式会社製PEG200、300、400、600、1000、2000が挙げられる。また、モノアルコキシポリエチレングリコールとしては、日本油脂株式会社製ユニオックスM400、550、1000、2000が挙げられる。
アニオン系親水性化合物としては、カルボン酸基含有化合物、スルホン酸基含有化合物が挙げられる。カルボン酸基含有化合物としては、モノヒドロキシカルボン酸あるいはジヒドロキシカルボン酸あるいはそれらの誘導体が挙げられる。カルボン酸基含有化合物の中では、モノヒドロキシカルボン酸あるいはジヒドロキシカルボン酸が好ましく、さらに好ましくは、モノヒドロキシカルボン酸である。
【0039】
カルボン酸含有化合物の具体例としては、ヒドロキシピパリン酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸あるいは、これらを開始剤としたポリカプロラクトンジオールやポリエーテルポリオール等の誘導体が挙げられる。
カルボン酸基含有化合物を使用する場合には、中和剤で中和することが好ましい。中和剤としては、アルカリ金属類、アルカリ土類金属類、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
スルホン酸基含有化合物としては、アミノエチルスルホン酸、エチレンジアミノ−プロピル−β−エチルスルホン酸、1,3−プロピレンジアミン−β−エチルスルホン酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸が挙げられる。
【0040】
スルホン酸基含有化合物を使用する場合には、中和剤で中和することが好ましい。中和剤としては、アルカリ金属類、アルカリ土類金属類、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
カルボン酸基含有化合物とスルホン酸基含有化合物を比較した場合、製造のしやすさ、水系塗料における配合性からカルボン酸基含有化合物が好ましい。
【0041】
カチオン系親水性化合物としては、水酸基含有アミノ化合物が挙げられる。具体的には、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ヒドロキシピリジン等が挙げられる。
水酸基含有アミノ化合物を使用する場合には、中和剤で中和することが好ましい。中和剤としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、2−エチルヘキサン酸等の有機酸が挙げられる。
【0042】
本発明において、ブロック剤として式(I)、式(II)に示される2種の活性メチレン化合物を使用したブロックポリイソシアネート組成物は、式(I)に示されるブロック剤のみを使用した場合と比較して、低温硬化性が向上し、かつ、式(II)に示されるブロック剤のみを使用した場合と比較して、水存在下の貯蔵安定性に優れる(貯蔵中の炭酸ガス発生量が少ない)結果が得られた。性質の異なる2種を共存させた場合、それぞれの短所は補えるが、それぞれの長所も低下するのが、一般的である。しかし、本発明において、式(II)に示されるブロック剤のみを使用した場合の低温硬化性を保持しつつ、式(I)に示されるブロック剤のみを使用した場合に匹敵する水存在下の貯蔵安定性を示したことは驚くべきことであった。
【0043】
更に水系塗料における配合性の向上の目的に応じて、界面活性剤、水に対し混和性の傾向を示す溶剤等を使用してもよい。界面活性剤の具体例としては、脂肪族セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、ジアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン性界面活性剤が挙げられる。水に対し混和性の傾向を示す溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、イソブタノール、ブチルグリコール、N−メチルピロリドン、ブチルジグリコールまたはブチルジグリコールアセテート等が挙げられる。
【0044】
本発明においては、ポリオールと配合した際の貯蔵安定性を向上するために1価アルコール系化合物を含むことが好ましい。該1価アルコール系化合物としては、脂肪族、脂環族、芳香族などがあり、脂肪族が好ましい。炭素数1〜20が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、2−エチル−1−プロパノール、n−アミルアルコール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール等の飽和アルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3,6−ジオキサ−1−ヘプタノール等のエーテルアルコール等がある。その添加量は、ブロックポリイソシアネート基に対して0.2〜10倍モル量が好ましい。
【0045】
このように調整されたブロックポリイソシアネート組成物は、後述するポリオールと共に配合され水系塗料組成物の主要構成成分を形成する。
本発明に使用するポリオールは、水系塗料として用いられるものであれば特に制限なく使用可能であり、最終的に少なくとも水に分散していればよく、ポリオール骨格内に親水基を有する水溶性ポリオールであってもいいし、水分散性ポリオールであってもいいし、一部水溶性、一部水分散性のポリオールであってもいいし、界面活性剤を用いた外部強制乳化型であってもよい。
【0046】
ポリオールの例としては、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール、フッ素ポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のカルボン酸の群から選ばれた二塩基酸の単独または混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの群から選ばれた多価アルコールの単独または混合物との縮合反応によって得られるポリエステルポリオール及び例えば多価アルコールを用いたε−カプロラクトンの開環重合により得られるポリカプロラクトン類等が挙げられる。
【0047】
アクリルポリオールは、ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和結合含有単量体の単独または混合物と、これと共重合可能な他のエチレン性不飽和結合含有単量体の単独または混合物を溶液重合や乳化重合により共重合させることにより得られる。
ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和結合含有単量体としては、例えば、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、これらを原料とするポリカプロラクトンあるいはポリエーテル等が挙げられる。好ましくは、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルである。
【0048】
上記単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和結合含有単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等の不飽和アミド、及びメタクリル酸グリシジル、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、フマル酸ジブチル等のビニル系単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するビニル系単量体等が挙げられる。
【0049】
ポリエーテルポリオール類としては、多価ヒドロキシ化合物の単独または混合物に、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの水酸化物、アルコラート、アルキルアミンなどの強塩基性触媒を使用して、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドの単独または混合物を付加して得られるポリエーテルポリオール類、更にエチレンジアミン類等の多官能化合物にアルキレンオキサイドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類及び、これらポリエーテル類を媒体としてアクリルアミド等を重合して得られる、
いわゆるポリマーポリオール類等が含まれる。
【0050】
前記多価ヒドロキシ化合物としては
(1)ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど
(2)エリスリトール、D−トレイトール、L−アラビニトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、ラムニトール等糖アルコール系化合物
(3)アラビノース、リボース、キシロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラムノース、フコース、リボデソース等の単糖類、
(4)トレハロース、ショ糖、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、メリビオースなどの二糖類、
(5)ラフィノース、ゲンチアノース、メレチトースなどの三糖類
(6)スタキオースなどの四糖類
等が挙げられる。
【0051】
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレンなどが挙げられる。
フッ素ポリオールは分子内にフッ素を含むポリオールであり、例えば特開昭57−34107号公報、特開昭61−275311号公報で開示されているフルオロオレフィン、シクロビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、モノカルボン酸ビニルエステル等の共重合体がある。
【0052】
ポリカーボネートポリオール類としては、ジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、エチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネート等の低分子カーボネート化合物と前述のポリエステルポリオールに用いられる低分子ポリオールとを、縮重合して得られるものが挙げられる。
ポリオールの統計的1分子が持つ水酸基数(以下水酸基平均数)は2以上であることが好ましい。水酸基平均数が2未満であると、得られた塗膜の架橋密度が低下する場合がある。
【0053】
前記ポリオールの水酸基価は10〜300mgKOH/樹脂gであることが好ましい。水酸基価10mgKOH/樹脂g未満の場合には、架橋密度が減少して、本発明の目的とする物性を必ずしも十分には達成することが出来ず、水酸基価が300mgKOH/樹脂gを超えると、逆に架橋密度が増大し、塗膜の機械的物性が低下する場合がある。
好ましいポリオールはアクリルポリオール、ポリエステルポリオールである。
ブロックポリイソシアネート組成物とポリオールの配合方法は、ポリオールにブロックポリイソシアネート組成物をそのまま混合・分散させてもいいし、一旦ブロックポリイソシアネート組成物を水と配合させた後、ポリオールと混合させてもよい。また、ブロックイソシアネート基とポリオールの水酸基の当量比は、固形分100質量%換算で通常10:1〜1:10に設定される。
【0054】
また、必要に応じて、酸化防止剤例えばヒンダードフェノール等、紫外線吸収剤例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等、顔料例えば、酸化チタン、カーボンブラック、インジゴ、キナクリドン、パールマイカ等、金属粉顔料例えばアルミ等、レオロジーコントロール剤例えばヒドロキシエチルセルロース、尿素化合物、マイクロゲル等、硬化促進剤例えば、錫化合物、亜鉛化合物、アミン化合物等を添加してもよい。
通常は、ポリオール、硬化剤、添加剤等を混合し、水を主成分とする媒体を添加し、塗装方法に応じた塗料粘度に調整することにより水系塗料組成物となる。
【0055】
このようにして調整された水系塗料は、ロール塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装、静電塗装、ベル塗装等の方法で、鋼板、表面処理鋼板などの金属及びプラスチック、無機材料などの素材にプライマーまたは中塗り、上塗りとして有用であり、更に防錆鋼板を含むプレコートメタル、自動車塗装、プラスチック塗装などに美粧性、耐候性、耐酸性、防錆性、耐チッピング性などを付与するために有用である。また、接着剤、粘着剤、エラストマー、フォーム、表面処理剤などのウレタン原料としても有用である。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
(数平均分子量の測定)
ポリイソシアネート組成物の数平均分子量は下記の装置を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下GPCという)測定によるポリスチレン基準の数平均分子量である。
装置:東ソー(株)HLC−8120GPC(商品名)
カラム:東ソー(株)TSKgel SuperH1000(商品名)×1本
TSKgel SuperH2000(商品名)×1本
TSKgel SuperH3000(商品名)×1本
キャリアー:テトラハイドロフラン
検出方法:示差屈折計
また、ポリオールの数平均分子量は、下記のGPC測定によるポリスチレン基準の数平均分子量である。
装置:東ソー(株)HLC−8120GPC(商品名)
カラム:東ソー(株)TSKgel SuperHM−H(商品名)×2本
キャリアー:N,N−ジメチルホルムアミド
検出方法:示差屈折計
【0057】
(粘度の測定)
E型粘度計(トキメック社製VISCONIC ED型(商品名))を用いて、25℃で測定した。
(ウレタン結合、アロファネート結合、イソシアヌレート結合存在の確認)
以下の装置を用いたNMR測定から、ウレタン結合、アロファネート結合、イソシアヌレート結合の存在を確認した。
装置:日本電子社製JNM−LA400(商品名)
【0058】
(ゲル分率)
硬化塗膜を、アセトン中に23℃、24時間浸漬後、未溶解部質量の浸漬前質量に対する値を計算した。ゲル分率が80%以上の場合を○、60%以上80%未満の場合を△、60%未満の場合を×とした。
(貯蔵後ゲル分率保持率)
40℃、10日間塗料として貯蔵後のゲル分率が、貯蔵後ゲル分率/初期ゲル分率=0.9以上の場合を○、0.8以上0.9未満の場合を△、0.8未満の場合を×とした。
【0059】
(塗液の外観)
塗液配合後の状態を肉眼で観察した。乳化、分散あるいは溶解状態で分離や沈降等の異常のない状態の場合、良好と記載し、異常があった場合は、その状態を記載した。
(ブロックポリイソシアネート組成物の水溶液貯蔵安定性)
ブロックポリイソシアネート組成物を潜在NCO基が30mmolとなるように添加し、その後、全体の重量が200gとなるように、水を加えて、評価用の水溶液を調整した。この水溶液の40℃、10日間貯蔵中に発生したガス(炭酸ガス)の量を測定した。発
生したガス(炭酸ガス)の量が20cc未満の場合を○、20cc以上30cc未満の場合を△、30cc以上の場合を×とした。
【0060】
(製造例1)(イソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物の製造)
攪拌器、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管を取り付けた4つ口フラスコの内部を窒素置換し、HDI:1000gを仕込み、60℃で攪拌下、触媒としてテトラメチルアンモニウム・カプリエート:0.1gを加えた。4時間後、反応液の屈折率が1.4680(転化率が38%)になった時点でリン酸0.2gを添加して反応を停止した。
その後、反応液を濾過した後、未反応のHDIモノマーは薄膜蒸留により除去した。
得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は2700mPa・s、イソシアネート基含有量は22.2質量%、数平均分子量は650、イソシアネート基平均数は3.4であった。その後、NMR測定により、イソシアヌレート結合の存在を確認した。
【0061】
(製造例2)(ウレタン結合、アロファネート結合含有イソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物の製造)
攪拌器、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管を取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気にし、HDI 1000部、3価アルコールであるポリカプロラクトン系ポリエステルポリオール「プラクセル303」(ダイセル化学の商品名 分子量300)50部を仕込み、攪拌下反応器内温度を90℃1時間保持しウレタン化を行った。この時の屈性率は1.4530であった。その後反応液温度を60℃に保持し、イソシアヌレート化触媒テトラメチルアンモニウムカプリエートを加え、屈折率が1.4735(転化率が54%)になった時点で燐酸を添加し反応を停止した。その後、反応液を濾過した後、未反応のHDIを薄膜蒸留装置により除去した。
得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は9500mPa・s、イソシアネート基含有量は19.2質量%、数平均分子量は1100、イソシアネート基平均数は5.1であった。その後、NMR測定により、ウレタン結合、アロファネート結合、イソシアヌレート結合の存在を確認した。
【0062】
(実施例1)(ブロックポリイソシアネート組成物の製造)
攪拌器、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気にし、製造例1で得られたポリイソシアネート組成物100部、数平均分子量400のメトキシポリエチレングリコール(日本油脂の商品名「ユニオックスM400」)42.3部(ポリイソシアネート組成物におけるイソシアネート基の20モル当量%に相当)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート29.5部を仕込み、80℃で7時間保持した。その後反応液温度を60℃に保持し、イソブタノイル酢酸メチル35.8部(ポリイソシアネート組成物におけるイソシアネート基の47モル当量%に相当)、マロン酸ジメチル32.2部(ポリイソシアネート組成物におけるイソシアネート基の38モル当量%に相当)、ナトリウムメチラートの28%メタノール溶液0.88部を添加し、4Hr保持した。n−ブタノール58.9部を添加し、反応液温度80℃で2Hr保持し、その後、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート0.86部を添加した。反応液の赤外スペクトルを測定した結果、イソシアネート基が消失し、固形分70質量%のブロックポリイソシアネート組成物が得られた。得られたブロックポリイソシアネート組成物の物性を表1に示す。
【0063】
(実施例2−8、比較例1−6)
表1に示す以外は実施例1と同様に行った。得られたブロックポリイソシアネート組成物の物性を表1に示す。
(実施例9)
比較例2で得られたブロックポリイソシアネート組成物50部と比較例3で得られたブロックポリイソシアネート組成物50部を混合した。得られたブロックポリイソシアネー
トの物性を表2に示す。
(実施例10−12、比較例7−8)
表2に示す以外は実施例9と同様に行った。得られたブロックポリイソシアネート組成物の物性を表2に示す。
【0064】
(応用実施例1)(ブロックポリイソシアネート組成物の評価)
主剤にアクリルエマルジョン(水酸基価40mgKOH/樹脂g、Tg20℃、数平均分子量170,000、固形分42質量%)100部と実施例1で得られたブロックポリイソシアネート組成物15部(主剤とブロックポリイソシアネート組成物の固形分あたりの重量を100:25で配合)、水16部を塗料配合した。(塗料固形分40質量%になるように調整)作成した塗料溶液を乾燥後膜厚40μmになるようにアプリケーター塗装し、80℃で30分間焼付けし、初期ゲル分率を測定した。結果を表2に示した。
この塗料配合後、40℃で10日間貯蔵し、貯蔵後、上記と同様の方法で塗装し、ゲル分率を測定した。結果を表3に示した。
【0065】
(応用実施例2−12、応用比較例1−8)(ブロックポリイソシアネート組成物の評価)
表3に示す以外は応用実施例1と同様に行った。得られたブロックポリイソシアネート組成物の評価結果を表3に示す。
(応用実施例13)(ブロックポリイソシアネート組成物の水溶液貯蔵安定性)
実施例1で得られたブロックポリイソシアネート組成物21.4g(潜在NCO基として30mmolに相当)と水178.6gを配合し、ブロックポリイソシアネート組成物の水溶液を得た。この水溶液の40℃、10日間貯蔵中に発生したガス(炭酸ガス)の量を測定した。結果を表4に示した。
【0066】
(応用実施例14−24、応用比較例9−11)(ブロックポリイソシアネート組成物の水溶液安定性)
表4に示す以外は応用実施例13と同様に行った。得られたブロックポリイソシアネート組成物の水溶液の貯蔵中ガス発生量を測定した。結果を表4に示した。
本発明のブロックポリイソシアネート組成物は、実施例、比較例、応用実施例、応用比較例により、90℃以下でも架橋塗膜を形成可能で、水存在下の貯蔵安定性が良好であり、1液水系塗料用硬化剤として、好適であることが確認できた。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
【表7】

【0074】
【表8】

【0075】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物は90℃以下で架橋塗膜を形成可能で、かつ水存在下の貯蔵安定性が良好なブロックポリイソシアネート組成物であり、水系塗料組成物に好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脂肪族系ポリイソシアネート組成物、脂環族系ポリイソシアネート組成物、芳香族系ポリイソシアネート組成物から選ばれるポリイソシアネート組成物から誘導されるブロックポリイソシアネート組成物であって、(b)式(I)で示される活性メチレン化合物、(c)式(II)で示される活性メチレン化合物及び(d)活性水素を有する親水性化合物を構成成分として有し、かつ以下の項目に該当することを特徴とするブロックポリイソシアネート組成物。
1)ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基のモル当量に対し、(b)成分と(c)成分の合計:(d)成分のモル比率が50:50〜98:2
2)(b)成分:(c)成分のモル比率が30:70〜90:10
【化1】

(式中Rは炭素数1〜4個のアルキル基)
【化2】

(式中R、Rは炭素数1〜4個のアルキル基、R、Rは同一であってもいいし、異なっていてもいい)
【請求項2】
式(I)のRがメチル基あるいはエチル基であり、かつ、式(II)のR、Rが同一であり、メチル基、エチル基あるいはイソプロピル基であることを特徴とする請求項1記載のブロックポリイソシアネート組成物。
【請求項3】
1価アルコール系化合物を含有することを特徴とする請求項1または2記載のブロックポリイソシアネート組成物。
【請求項4】
活性水素を有する親水性化合物が、少なくとも3個連続したエチレンオキサイド基を有するポリエチレングリコール系化合物及び/またはモノヒドロキシカルボン酸あるいはジヒドロキシカルボン酸あるいはそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のブロックポリイソシアネート組成物。
【請求項5】
活性水素を有する親水性化合物が、数平均分子量200〜2000の片末端に炭素数1〜4のモノアルコールが付加したポリエチレングリコール系化合物及び/またはモノヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のブロックポリ
イソシアネート組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のブロックポリイソシアネート組成物及びポリオールを主成分とする水系塗料組成物。

【公開番号】特開2009−191127(P2009−191127A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31849(P2008−31849)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】