説明

プッシュプル式換気システム

【課題】汚染区域から清浄区域への汚染物質の漏洩を確実に防止する。
【解決手段】
本発明は、汚染物質発生源2を含む汚染区域3と清浄区域4の境界面5上にプッシュ気流を形成させる吹出し口6とプル気流を形成させる吸込み口7とを互いに対向するように配置したプッシュプル式換気システム1であって、吹出し口6と吸込み口7の境界面5に直交する方向の幅Dが0.25m以上且つ吹出し口6と吸込み口7との間隔Lが2m以下で、前記プッシュ気流と前記プル気流の風量の比が、1:1.3〜1:4の範囲となるように境界面5に平行にプッシュプル気流を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プッシュプル式換気システムに関し、特に、汚染区域と清浄区域との間にプッシュプル気流を発生させて汚染区域から清浄区域への汚染物質の漏洩を防止するために設けられるプッシュプル式換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、汚染区域と清浄区域との間を医療従事者や患者が往来する感染症病室などにおいては、汚染物質等の伝搬を防止するための手段を講じる必要が生じる場合がある。
【0003】
従来のこの種の手段としては、例えば、病室内の汚染区域内を陰圧に保持すると共に汚染区域と清浄区域との間をドアで仕切ったり(例えば、非特許文献1参照)、或いは、冷凍冷蔵倉庫用のラックの冷凍温度帯の低温エリアと冷蔵温度帯の高温エリアとの間をエアカーテンからの気流で仕切ったり(例えば、特許文献1参照)、或いは、エアカーテンからの気流で分煙したり(例えば、特許文献2参照)、或いは、プッシュプル気流で作業環境の有害物質を局所排気したり(例えば、非特許文献2参照)、或いは、工場等において汚染区域側へ向けたプッシュプル気流によって汚染区域と清浄区域との間を仕切ったり(例えば、特許文献3参照)する各種手段が公知である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】環境感染症Vol.24 no.1,2009「数値流体力学的手法を用いた陰圧病室の飛沫核の解析」森本正一、堀賢ら著
【非特許文献2】「プッシュプル型換気装置の性能及び構造上の要件等について」労働省労働基準局 基発第0319008号,2004
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−036496号公報
【特許文献2】特開2007−275353号公報
【特許文献3】特開2003−130411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した非特許文献1に記載の手段では、医療従事者や患者が汚染区域と清浄区域とを往来する際にドアを開閉する必要があり、ドアに接触した時に病原体に感染する危険性があるといった問題や、ドアの開閉動作が面倒であるといった問題が生じていた。また、ドアを開放している間に汚染区域の病原体を含む空気が廊下等の清浄区域に漏洩するおそれがあるといった問題もあった。さらに、自動ドアの場合には、単にドアの近くを通行した人を感知して自動ドアが不必要に開閉され、汚染区域と清浄区域との間の仕切りとしてのドアの機能が損なわれるといった問題が生じるおそれもあった。
【0007】
また、特許文献1に記載の手段では、エアカーテンの気流の風速が3.5m/s以上と速いため、書類や帽子などが飛ばされるおそれがあると共に、通行者にドラフトなどの不快感を与えるため、通行に不向きであるといった問題や、騒音が大きいといった問題があった。
【0008】
さらに、特許文献2に記載の手段では、エアカーテンの気流の風速が0.3m/s以上となるため、埃を巻き上げ、周辺の気流へ影響を与え、通行者に気流を感じさせて不快感を与えるおそれがあった。また、捕捉した煙を排気しておらず、エアカーテンの気流の外側から回り込む汚染物質の対策が講じられていないため、汚染物質の遮断効果が小さいといった問題もあった。
【0009】
さらに、非特許文献2に記載の手段では、プッシュプル気流の外側にある汚染物質を対象としていないため、汚染区域から清浄区域への汚染物質の漏洩を防止することはあまり期待できないといった問題があった。また、汚染物質の捕捉面の気流が0.3m/s以上であるため、動力が大きくなり、周辺の気流へ影響を与えるおそれもあった。
【0010】
さらに、特許文献3に記載の手段では、プッシュ気流を汚染区域側に向けているため、プッシュ気流が吸込み口の方向とは別の方向に直進して吸込み口に到達せずにプッシュプル気流を形成できないおそれがあった。また、汚染区域の気流が乱れて汚染区域から清浄区域へ向かう気流が発生し、汚染物質が漏洩しやすくなるといった問題もあった。さらに、プッシュ気流の幅が薄いことを特徴としているため、周辺の気流などの外乱の影響を受けやすいといった問題もあった。さらにまた、プッシュ気流の一部がプル気流で排気されずに清浄空間へ流れ込むようになっているため、汚染物質が清浄区域に拡散するおそれがあり、汚染物質の遮断効果が小さいといった問題や、吸込み口から排気される汚染物質を除去する装置が設けられていないため、居住空間で空調が必要な場合には気流を循環させることができず、エネルギー効率が悪いといった問題があった。
【0011】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、汚染区域から清浄区域への汚染物質の漏洩を確実に防止することのできるプッシュプル式換気システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、汚染物質発生源を含む汚染区域と清浄区域の境界面上にプッシュ気流を形成させる吹出し口とプル気流を形成させる吸込み口とを互いに対向するように配置したプッシュプル式換気システムであって、前記吹出し口と前記吸込み口の前記境界面に直交する方向の幅が0.25m以上且つ前記吹出し口と前記吸込み口との間隔が2m以下で、前記プッシュ気流と前記プル気流の風量の比が、1:1.3〜1:4の範囲となるように前記境界面に平行にプッシュプル気流を形成したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るプッシュプル式換気システムは、前記プッシュ気流の風速が0.05〜0.3m/sの範囲且つ前記プル気流の風速が0.2m/s以上となるように前記境界面に平行にプッシュプル気流を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、汚染区域から清浄区域への汚染物質の漏洩を確実に防止することができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るプッシュプル式換気システムを示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプッシュプル式換気システムの吹出し口と吸込み口の配置を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態に係るプッシュプル式換気システムを示す平面図であり、プッシュプル式換気システム1は、汚染物質発生源2を含む汚染区域3と清浄区域4の境界面5上に互いに対向するように配置される吹出し口6及び吸込み口7と、吸込み口7と吹出し口6とを接続する循環ダクト8と、循環ダクト8の途中に接続されるファン9と、ファン9の上流側の循環ダクト8の途中に接続されるフィルター10と、外部からファン9とフィルター10の間の循環ダクト8に分岐接続される外気ダクト11と、フィルター10の上流側の循環ダクト8に分岐接続される排気ダクト12と、を備えて構成されている。
【0018】
吹出し口6及び吸込み口7は、好ましくは、境界面5に直交する方向の幅D(図1参照)が0.25m以上、さらに好ましくは0.5m以上且つ吹出し口6と吸込み口7との間隔L(図1参照)が、好ましくは、2m以下となるように、床面13から垂れ壁14又は天井面まで柱状に形成され、壁面15に取り付けられている。
【0019】
そして、プッシュプル換気システム1は、吹出し口6により形成されるプッシュ気流の風速が、好ましくは、0.05〜0.3m/sの範囲に入り、且つ、吸込み口7により形成されるプル気流の風速が、好ましくは、0.2m/s以上となり、プッシュ気流とプル気流の風量の比が、好ましくは、1:1.3〜1:4の範囲となるように制御可能なように構成されている。
【0020】
次に、図面を参照しつつ、上記した構成を備えたプッシュプル式換気システム1の作用について説明する。
【0021】
図1に示すように、ファン9から循環ダクト8を通って供給された空気は、0.05〜0.3m/sの範囲の風速で、吹出し口6からプッシュ気流として吹出される。このプッシュ気流は境界面5に沿って平行に直進し、汚染物質を捕捉し、プッシュプル気流を形成させた後、0.2m/s以上の風速のプル気流として吸込み口7に吸込まれる。
【0022】
このように境界面5に平行にプッシュプル気流が形成されることにより、汚染区域の気流を乱すことがないため、汚染区域3内の汚染物質を拡散させることがない。また、吹出し口6で形成されるプッシュ気流が0.3m/s以下の遅い風速の気流であるため、境界面5を通行する医療従事者や患者の書類や帽子などが飛ばされたり、埃を巻き上げたりするおそれがなく、通行者にドラフトなどの不快感を与えることがない。さらに、汚染物質の捕捉面のプッシュ気流を0.3m/s以下の遅い風速の気流とすることにより、動力の低減化及び省エネルギー化の促進を図ることができる。
【0023】
また、プッシュプル気流は床面13と垂れ壁14又は天井面及び壁面15によって囲まれており、空間の仕切りとして機能すると共に、プッシュ気流がすべてプル気流で排気されるようになっているため、汚染区域3から清浄区域4への汚染物質の漏洩を確実に防止することができる。さらに、吹出し口6及び吸込み口7の境界面5に直交する方向の幅Dを0.25m以上、好ましくは0.5m以上とすることにより、外乱に強くなり、汚染物質の漏洩防止効果をさらに高めることが可能となる。
【0024】
上記したように吸込み口7によって吸込まれた汚染物質を捕捉した空気は、循環ダクト8を通り、その一部分又は全部が排気ダクト12を介して外部に排出される。そして、汚染物質を捕捉した空気の一部分が排気ダクト2を介して外部に排出された場合には、その残りの部分の空気はフィルター10により汚染物質を除去されて、清浄空気となり、外気ダクト11を介して新鮮外気と合流された後、再び、ファン9によって吹出し口6に送出され、以降、空気は同様の循環を繰り返す。
【0025】
一方、汚染物質を捕捉した空気の全部が排気ダクト2を介して外部に排出された場合には、外気ダクト11を介して循環ダクト8に合流された新鮮外気が、再び、ファン9によって吹出し口6に送出され、以降、空気は同様の循環を繰り返す。
【0026】
【表1】


表1は、プル気流の風速(表1のプル風速)を0.2m/s、0.4m/s、0.8m/sと変化させたそれぞれの場合において、プッシュ気流とプル気流の風量の比(表1のプッシュプル比)を0:1、1:4、1:2、1:1.3、1:1、吹出し口6と吸込み口7との間隔(表1のプッシュプル間隔)Lを0.5m、1.0m、2.0m、吹出し口6及び吸込み口7の境界面5に直交する方向の幅D(表1のプッシュプル装置幅)を0.25m、0.5m、1.0mとそれぞれ変化させた時に、汚染区域3において汚染物質として0.5m/sの初速を有する粒子を10,000個/sで発生させた場合の清浄区域4の粒子数を測定した結果を示している。
【0027】
この表1に示す結果によれば、吹出し口6及び吸込み口7の境界面5に直交する方向の幅Dを0.5m以上、吹出し口6と吸込み口7との間隔Lを2.0m以下、プッシュ気流とプル気流の風量の比を1:1.3〜1:4の範囲、プル気流の風速を0.2m/s以上、プッシュ気流の風速を0.05〜0.3m/sの範囲とした条件では、汚染区域3から清浄区域4へ0.5m/sの初速を有する汚染物質(粒子)がまったく清浄区域4へ漏洩しないことが分かる(表1の太線内参照)。
【0028】
また、プッシュプル気流の風速が同じ場合には、プル気流の風速(表1のプル風速)を2倍にするより吹出し口6及び吸込み口7の境界面5に直交する方向の幅D(表1のプッシュプル装置幅)を2倍にした方が汚染物質の漏洩防止効果が高いことが分かる(表1の灰色部分参照)。
【0029】
表2は、プル気流の風速(表1のプル風速)を0.2m/s、0.4m/s、0.8m/sと変化させたそれぞれの場合において、プッシュ気流とプル気流の風量の比(表1のプッシュプル比)を0:1、1:4、1:2、1:1.3、1:1、吹出し口6と吸込み口7との間隔(表1のプッシュプル間隔)Lを0.5m、1.0m、2.0m、吹出し口6及び吸込み口7の境界面5に直交する方向の幅D(表1のプッシュプル装置幅)を0.25m、0.5m、1.0mとそれぞれ変化させた時に、汚染区域3において汚染物質として10,000個/sで粒子を発生させた場合の汚染区域3の粒子数を測定した結果を示している。
【0030】
【表2】

この表2に示す結果によれば、表1で示した汚染区域3から清浄区域4へ0.5m/sの初速を有する汚染物質(粒子)がまったく清浄区域4へ漏洩しない条件では、汚染区域3の粒子数は最低でも360,000個あることが分かる(表2の太線内参照)。したがって、汚染区域3と清浄区域4との間では、汚染物質(粒子)の濃度に6桁以上の差があることになり、病原体を6桁以上減衰させる滅菌と同等の漏洩防止効果を得ることができることが分かる。
【0031】
上記したように本発明の実施の形態に係るプッシュプル式換気システム1によれば、医療従事者や患者が汚染区域3と清浄区域4との間を何も触れずに通行することできるため、通行が容易となり、病原体に接触感染するおそれがない。また、汚染区域3と清浄区域4との間が開放されることがないため、プッシュプル気流の仕切りとしての機能が維持され、汚染区域の病原体を含む空気が清浄区域に漏洩するのを確実に防止することができる。
【0032】
また、プッシュプル気流の風速が0.3m/s以下と遅いため、通行者の書類や帽子などが飛ばされたり、埃を巻き上げ、周辺の気流へ影響を与えたりするおそれがなく、通行者にドラフトなどの不快感を与えることがない。
【0033】
さらに、汚染物質の捕捉面のプッシュ気流の風速が0.3m/s以下であるため、動力の低減化や省エネルギー化を図ることができ、周辺の気流への影響も最小限に抑えることができる。
【0034】
さらにまた、プッシュ気流が吸込み口7に直進するようになっているため、プッシュプル気流を形成することができ、汚染区域3の気流が乱れたり、汚染区域3から清浄区域4へ向かう気流が発生したりするのを防止することができる。
【0035】
さらに、プッシュプル気流の幅が0.25m以上あるため、周辺の気流などの外乱の影響を受けにくい。さらにまた、居住空間で空調が必要な場合には、吸込み口7からの排気に含まれる汚染物質をフィルター10で除去して循環することもできるため、空調負荷を低減させ、エネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0036】
なお、上記した本発明の実施の形態の説明は、本発明に係るプッシュプル式換気システムにおける好適な実施の形態を説明しているため、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。さらに、上記した本発明の実施の形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能であり、上記した本発明の実施の形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0037】
1 プッシュプル式換気システム
2 汚染物質発生源
3 汚染区域
4 清浄区域
5 境界面
6 吹出し口
7 吸込み口
D 吹出し口と吸込み口の境界面に直交する方向の幅
L 吹出し口と吸込み口との間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質発生源を含む汚染区域と清浄区域の境界面上にプッシュ気流を形成させる吹出し口とプル気流を形成させる吸込み口とを互いに対向するように配置したプッシュプル式換気システムであって、
前記吹出し口と前記吸込み口の前記境界面に直交する方向の幅が0.25m以上且つ前記吹出し口と前記吸込み口との間隔が2m以下で、前記プッシュ気流と前記プル気流の風量の比が、1:1.3〜1:4の範囲となるように前記境界面に平行にプッシュプル気流を形成したことを特徴とするプッシュプル式換気システム。
【請求項2】
前記プッシュ気流の風速が0.05〜0.3m/sの範囲且つ前記プル気流の風速が0.2m/s以上となるように前記境界面に平行にプッシュプル気流を形成したことを特徴とする請求項1に記載のプッシュプル式換気システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−67941(P2012−67941A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211230(P2010−211230)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000191319)新菱冷熱工業株式会社 (78)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)