説明

プラスチックとスチールからなる搬送用複合チェーン

【課題】引張り等に対して高い強度を発揮することができ、しかも、搬送物を摺動キズを付けずに搬送することができ、加えて、耐久性に優れ、構成部品点数を少なく抑えることができて組立に手間を要さない搬送用チェーンを提供する。
【解決手段】リンクプレートの周端面部を載荷部7とする搬送用チェーン1であり、内外のリンクプレート2,3がそれぞれ、両端部にピン連結孔4,4を有するスチール製の芯板8と、該スチール製芯板8においてその両ピン連結孔4,4とその周縁部とを除く全体を射出成形により埋込み状態にして覆い、スチール製芯板8と複合一体化されたプラスチック外装部9とで構成され、リンクプレート2,3同士がスチール製芯板8のピン連結孔4に通されたスチール製のピン4で連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックとスチールからなる搬送用複合チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
リンクプレートやピン、ブッシュ、ローラー等をスチールで構成したスチール製ローラーチェーンや、それらをプラスチックで構成したプラスチック製ローラーチェーンは、従来より提供されている。
【0003】
また、外リンクプレートをスチール製とし、内リンクプレートをプラスチック製とし、これら内外のリンクプレートをスチール製のピンで連結した複合チェーンや、スチール製のローラーチェーンにおいて、例えばそれに備えられているピン等を利用して「コ」の字状をしたプラスチック製カバーを嵌め付けたプラスチックカバー付きスチールチェーンも、従来より提供されている。
【特許文献1】特開2006−307883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リンクプレートをプラスチックで構成したプラスチックチェーンや、外リンクプレートをスチール製、内リンクプレートをプラスチック製とした複合チェーンでは、チェーンに引張り等に対して高い強度をもたせることができず、また、リンクプレートをスチールで構成したチェーンでは、高い強度をもたせることはできるものの、リンクプレートの周端面部を載荷部とする搬送用チェーンとした場合は、搬送対象物に、スチール製リンクプレートとの接触による摺動キズを付けてしまいやすいという問題がある。
【0005】
その点、プラスチックカバー付きスチールチェーンは、すべてのリンクプレートとピンとがスチールで構成されていることにより高い強度を発揮することができ、また、カバーがプラスチックであることにより搬送物にキズを付けてしまうのを防ぐことができる。
【0006】
しかし、その一方で、プラスチックカバーは、スチールチェーンに対し、そのピン等を利用して嵌め付けられているものであるため、スチールチェーンから外れてしまうおそれがあったり、リンクプレートやピン等の他に、別部品としてプラスチックカバーを用意する必要があって、チェーンの構成部品点数を多くしてしまうと共に、チェーンの組立て作業において、スチール製のチェーンに対してプラスチックカバーを嵌め付ける工程が必要となり、チェーンの組立てに手間を要するという問題がある。
【0007】
特に、製鉄所において、圧延後の高温のプレートや形鋼を搬送物とするような場合には、プラスチックカバーとして耐熱性に優れたものを採用したとしても、熱によって「コ」の字状をしたプラスチックカバーの両側板部が開いて、チェーンから外れてしまい、採用は困難である。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、引張り等に対して高い強度を発揮することができ、しかも、搬送物を摺動キズを付けずに搬送することができ、加えて、耐久性に優れ、構成部品点数を少なく抑えることができて組立に手間を要さない搬送用チェーンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、複数のリンクプレートとこれらリンクプレートを連結するピンとを備え、前記リンクプレートの周端面部を載荷部とする搬送用チェーンにおいて、
前記各リンクプレートが、両端部にピン連結孔を有するスチール製の芯板と、該スチール製芯板においてその両ピン連結孔とその周縁部とを除く全体を射出成形により埋込み状態にして覆い、該スチール製芯板と複合一体化されたプラスチック外装部とで構成され、
前記リンクプレート同士がスチール製芯板のピン連結孔に通されたスチール製のピンで連結されていることを特徴とするプラスチックとスチールからなる搬送用複合チェーンによって解決される(第1発明)。
【0010】
このチェーンでは、各リンクプレートが、両端部にピン連結孔を有するスチール製の芯板を備え、リンクプレート同士がスチール製芯板のピン連結孔に通されたスチール製のピンで連結されているものであるから、引張り等に対して高い強度を発揮することができる。
【0011】
しかも、各リンクプレートにおいて、スチール製芯板は、両ピン連結孔とその周縁部とを除く全体、つまり、載荷部となるリンクプレートの周端面部がプラスチック外装部で覆われている構造となっているので、搬送物を摺動キズを付けずに搬送することができる。とりわけ、スプロケットに掛け渡されたチェーンの外周側において、リンクプレートの周端部のプラスチック外装部に、搬送物との擦れ合いによる摩耗を生じた場合は、チェーンを裏返しにし、チェーンの内周側に位置していた未だ無キズのプラスチック外装部をチェーンの外周側に配置すれば、使用を継続できて、複合チェーンの交換周期を大幅に延ばすことができる。
【0012】
加えて、プラスチック外装部は、スチール製芯板においてその両ピン連結孔とその周縁部とを除く全体を射出成形により埋込み状態にして覆い、該スチール製芯板と複合一体化されているので、プラスチック外装部がスチール製芯板から外れてしまうおそれはほとんどなく、また、プラスチック外装部はリンクプレートを構成する部分として備えられているので、チェーンの構成部品点数が増加することもなく、組立に特別な手間を要することもない。
【0013】
第1発明において、前記スチール製芯板の側面部の面内における両端のピン連結孔間の領域部分に貫通孔が設けられ、該スチール製芯板の一方の側面部を覆っているプラスチック部と、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部とが、該貫通孔を通じて射出プラスチックにより連結一体化されているとよい(第2発明)。
【0014】
この場合は、スチール製芯板の一方の側面部を覆っているプラスチック部や、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部が、スチール製芯板の側面部から剥離してしまうのを防ぐことができて、プラスチック外装部、ひいてはチェーンの耐久性を非常に高いものにすることができる。特に、搬送物との擦れ合いによる摩耗で、チェーンを裏返しにして使用を継続しても、上記の連結一体化により、プラスチック外装部が芯板から剥離してしまうおそれを確実になくすことができる。
【0015】
しかも、射出成形時のプラスチックで両プラスチック部を連結しているものであるから、容易に連結することができると共に、しっかりとした連結状態を形成することができる。
【0016】
第2発明において、前記貫通孔が、両端のピン連結孔を結ぶ中心線から側方に偏心して備えられているとよい(第3発明)。この場合は、貫通孔の形成によって生じる引張り等に対するリンクプレートの強度低下を小さく抑えることと、スチール製芯板とプラスチック外装部との一体化をしっかりとしたものにすることとの両立を実現することができる。
【0017】
第2,第3発明において、前記プラスチック外装部が高耐熱性プラスチックからなっているとよい(第4発明)。この場合は、例えば、製鉄所において、圧延後の高温のプレートや形鋼を搬送物とするような場合であっても、プラスチック外装部それ自体がそのような高温搬送物の熱に耐えることができるのはもちろん、スチール製芯板の一方の側面部を覆っているプラスチック部や、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部が、スチール製芯板の側面部から剥離してしまうのをそれらの貫通孔を通じた連結によって有効的に防ぐことができ、高い耐久性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上のとおりのものであるから、引張り等に対して高い強度を発揮することができ、しかも、搬送物を摺動キズを付けずに搬送することができると共に長寿命を実現でき、加えて、耐久性に優れ、構成部品点数を少なく抑えることができて組立に手間を要さない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1〜図4に示す実施形態に示すチェーン1は、ローラーチェーンで、該チェーン1において、2は外リンクプレート、3は内リンクプレート、4はスチール製のピン、5はブッシュ、6はローラーであり、内外のリンクプレート2,3は、ローラー6の外周面よりも外方に突出し、リンクプレート2,3の周端面部を載荷部7とする搬送用チェーンに構成されている。
【0021】
各リンクプレート2,3は、スチール製の芯板8とプラスチック外装部9とで構成され、スチール製芯板8は、両端部にピン連結孔10,10を有し、プラスチック外装部9は、ポリアミド樹脂等の高耐熱性プラスチックからなっていて、スチール製芯板8においてその両ピン連結孔10,10とその周縁部とを除く全体を射出成形により埋込み状態にして覆い、該スチール製芯板8と複合一体化されて備えられている。
【0022】
また、スチール製芯板8の側面部の面内における両端のピン連結孔10,10間の領域部分には、貫通孔11,11が、両端のピン連結孔10,10を結ぶ中心線から側方に偏心するようにして設けられ、スチール製芯板8の一方の側面部を覆っているプラスチック部9aと、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部9bとが、貫通孔11,11を通じて射出プラスチック9c,9cにより連結一体化されている。
【0023】
そして、内外のリンクプレート2,3は、それらに備えられているスチール製芯板8のピン連結孔10に通されたスチール製のピン4で連結されてチェーン1を構成している。
【0024】
上記のチェーン1では、内外のリンクプレート2,3が、両端部にピン連結孔10,10を有するスチール製の芯板8を備え、リンクプレート2,3同士がスチール製芯板8のピン連結孔10に通されたスチール製のピン4で連結されているものであるから、引張り等に対して高い強度を発揮することができる。
【0025】
しかも、内外の各リンクプレート2,3において、スチール製芯板8は、両ピン連結孔10,10とその周縁部とを除く全体、つまり、載荷部となるリンクプレート2,3の周端面部がプラスチック外装部9で覆われている構造となっているので、搬送物を摺動キズを付けずに搬送することができる。とりわけ、スプロケットに掛け渡されたチェーン1の外周側において、リンクプレート2,3の周端部のプラスチック外装部9に、搬送物との擦れ合いによる摩耗を生じた場合は、チェーン1を裏返しにし、チェーン1の内周側に位置していた未だ無キズのプラスチック外装部9をチェーン1の外周側に配置すれば、使用を継続できて、複合チェーン1の交換周期を大幅に延ばすことができる。
【0026】
加えて、プラスチック外装部9は、スチール製芯板8においてその両ピン連結孔10,10とその周縁部とを除く全体を射出成形により埋込み状態にして覆い、該スチール製芯板8と複合一体化されているので、プラスチック外装部9がスチール製芯板8から外れてしまうおそれはほとんどなく、また、プラスチック外装部9はリンクプレート2,3を構成する部分として備えられているので、チェーン1の構成部品点数が増加することもなく、組立に特別な手間を要することもない。
【0027】
また、スチール製芯板8には貫通孔11,11が設けられ、スチール製芯板8の一方の側面部を覆っているプラスチック部9aと、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部9bとが、貫通孔11,11を通じて射出プラスチック9c,9cにより連結一体化されているので、スチール製芯板8の一方の側面部を覆っているプラスチック部9aや、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部9bが、スチール製芯板8の側面部から剥離してしまうのを防ぐことができて、プラスチック外装部9、ひいてはチェーン1の耐久性を非常に高いものにすることができ、しかも、射出成形時のプラスチック9c,9cで両プラスチック部9a,9bを連結しているものであるから、容易に連結することができると共に、しっかりとした連結状態を形成することができる。
【0028】
特に、本実施形態では、貫通孔11が、両端のピン連結孔10を結ぶ中心線から側方に偏心して備えられているので、貫通孔11,11の形成によって生じる引張り等に対するリンクプレート2,3の強度低下を小さく抑えることができ、しかも、スチール製芯板8とプラスチック外装部9との一体化をしっかりとしたものにすることができる。
【0029】
特に、上記のチェーン1は、プラスチック外装部9が、ポリアミド樹脂等の高耐熱性プラスチックで構成されていることにより、例えば、製鉄所において、圧延後の高温のプレートや形鋼を搬送物とするような場合であっても、プラスチック外装部9それ自体がそのような高温搬送物の熱に耐えることができるのはもちろん、スチール製芯板8の一方の側面部を覆っているプラスチック部9aや、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部9bが、スチール製芯板の側面部から剥離してしまうのをそれらの貫通孔11を通じた連結によって有効的に防ぐことができ、高い耐久性能を発揮することができる。なお、高耐熱性プラスチックとしては、例えば250°Cの温度に耐えることができるものが採用されうる。
【0030】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、本発明のチェーンをローラーチェーンに適用した場合を示したが、大型搬送用として知られているブロックチェーンなどに適用することもできるし、その他、各種形態のチェーンに適用することも可能である。
【0031】
また、上記の実施形態では、プラスチック外装部が高耐熱性プラスチックからなっている場合を示したが、高耐熱性のプラスチックに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態の複合チェーンを示すもので、図(イ)は一部断面平面図、図(ロ)は正面図、図(ハ)は断面側面図である。
【図2】同分解斜視図である。
【図3】外リンクプレートを示すもので、図(イ)は斜視図、図(ロ)はスチール製芯板の斜視図、図(ハ)は正面図、図(ニ)は側面図、図(ホ)は平面図、図(ヘ)は図(ハ)のI−I線断面矢視図、図(ト)は図(ハ)のII−II線断面矢視図である。
【図4】内リンクプレートを示すもので、図(イ)は斜視図、図(ロ)はスチール製芯板の斜視図、図(ハ)は正面図、図(ニ)は側面図、図(ホ)は平面図、図(ヘ)は図(ハ)のIII−III線断面矢視図、図(ト)は図(ハ)のIV−IV線断面矢視図である。
【符号の説明】
【0033】
1…複合チェーン
2,3…リンクプレート
4…スチール製ピン
7…載荷部
8…スチール製芯板
9…プラスチック外装部
9a…一方のプラスチック部
9b…もう一方のプラスチック部
9c,9c…射出プラスチック
10…ピン連結孔
11…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリンクプレートとこれらリンクプレートを連結するピンとを備え、前記リンクプレートの周端面部を載荷部とする搬送用チェーンにおいて、
前記各リンクプレートが、両端部にピン連結孔を有するスチール製の芯板と、該スチール製芯板においてその両ピン連結孔とその周縁部とを除く全体を射出成形により埋込み状態にして覆い、該スチール製芯板と複合一体化されたプラスチック外装部とで構成され、
前記リンクプレート同士がスチール製芯板のピン連結孔に通されたスチール製のピンで連結されていることを特徴とするプラスチックとスチールからなる搬送用複合チェーン。
【請求項2】
前記スチール製芯板の側面部の面内における両端のピン連結孔間の領域部分に貫通孔が設けられ、該スチール製芯板の一方の側面部を覆っているプラスチック部と、もう一方の側面部を覆っているプラスチック部とが、該貫通孔を通じて射出プラスチックにより連結一体化されている請求項1に記載のプラスチックとスチールからなる搬送用複合チェーン。
【請求項3】
前記貫通孔が、両端のピン連結孔を結ぶ中心線から側方に偏心して備えられている請求項2に記載のプラスチックとスチールからなる搬送用複合チェーン。
【請求項4】
前記プラスチック外装部が高耐熱性プラスチックからなる請求項2又は3に記載のプラスチックとスチールからなる搬送用複合チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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