説明

プラスチックシート及びキャリアテープ

【課題】本発明は、特定の樹脂組成物からなる基材層の表面に導電層を積層して、帯電防止性を有し、機械的強度が高いプラスチックシート、及び、薄肉でも、そのポケットに収納した電子部品を包装し、保管でき、回路基板に実装するときに、変形等がなく搬送できるキャリアテープを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ABS樹脂100重量部に対し、AS樹脂及び/又はMS樹脂を1〜20重量部含む樹脂組成物を基材層とし、該基材層の少なくとも片面に導電層を積層した薄肉のプラスチックシートを熱成形されたキャリアテープは、そのポケットに収納した電子部品を包装し、保管でき、回路基板に実装するときに、変形等がなく搬送できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材層と、該基材層の少なくとも片面に導電層を積層した、帯電防止性を有し、機械的強度、成形加工性等に優れた電子部品包装用プラスチックシート、及び、そのプラスチックシートから圧空成形、真空成形、真空圧空成形、プレス成形等熱成形により成形されたキャリアテープに関する。
【背景技術】
【0002】
ICやコンデンサー等の電子部品の生産の合理化、少量多品種生産に対応して、その表面実装化が進んでおり、高密度、高精度実装、生産性、高速化を兼ね備えた実装設備が求められ、電子部品を包装、保管、搬送し、さらに、回路基板に実装するために整列させ、取り出しに適した包装形態としてキャリアテープが注目を集めている。
最近、コスト低減の面からキャリアテープ成形用のプラスチックシートに対して薄肉化が求められるとともに、薄肉化したプラスチックシートから成形されたキャリアテープが破断や変形等を生じることなく、そのポケット部に収納した電子部品を保護して、保管できることが要求されている。
又、電子部品を回路基板に実装する速度を高める要求に対応して、電子部品を収納したキャリアテープが装着機のテープフィーダでピッチ送りされ、移載ヘッドで収納された電子部品をピックアップして取り出す搬送工程において、該キャリアテープの詰まり、変形、折り曲げ、破断等が極力少ないことが求められている。
【0003】
電子部品の分野では、プラスチックシートは、薄肉化しても破断や割れ等が生じることなく、又、プラスチックシートから成形されたキャリアテープが変形、破断しないための機械的強度が求められる。
又、キャリアテープの包装容器であるポケットの肉厚が均一であり、そのポケットコーナー部がきちんと成形されていること、プラスチックシートをテープ状にスリット加工するときや、穴打抜き加工するときにその端面にヒゲ、バリの発生がなく、良好な成型加工性と打抜き加工性を有する必要がある。
さらに、プラスチックシートは、キャリアテープに熱成形加工するとき切断や割れがないこと、穴打抜き加工をするとき切断、クラックの発生等の事故を生じないことが必要である。すなわち、プラスチックシートは、ある一定水準の機械的強度、耐衝撃性、耐折曲強度及び、成型加工性を有する必要がある。
【0004】
従来、ABS樹脂やポリスチレン系樹脂にカーボンブラックを分散したシートから成形されるキャリアテープが使用されてきたが、このキャリアテープは、帯電防止効果は良好であるが、機械的強度が不充分であり、さらに、変形し、折曲り、破断等が発生し易いという欠点があった。
又、ABS樹脂やポリスチレン系樹脂の基材層の両面に、耐衝撃性ポリスチレン樹脂にカーボンブラックを分散した導電層を積層した、薄肉のキャリアテープにおいても同様の更なる機械的強度が求められている。
これらの問題を解決するため、例えば、特許文献1には、メタクリル酸メチル重合体若しくはエチレンとメタクリル酸メチル共重合体を含有するポリスチレン系樹脂からなるシート基材の片面若しくは両面に、カーボンブラックを含むポリスチレン系樹脂を積層した導電性複合プラスチックシートが提案されているが、そのシートより成形されるキャリアテープは、搬送において変形等が発生する場合がある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−329278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特定の樹脂組成物からなる基材層の表面に導電層を積層して、帯電防止性を有し、機械的強度に優れたプラスチックシート、及び、薄肉であっても、そのポケットに収納した電子部品を包装して保管し、回路基板に実装するときに、変形等がないキャリアテープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ABS樹脂100重量部に対し、AS樹脂及び/又はMS樹脂を1〜20重量部含む樹脂組成物を基材層とし、該基材層の少なくとも片面に導電層を積層したことを特徴とする電子部品放送用プラスチックシートである。
さらに、本発明は、ABS樹脂100重量部に対し、AS樹脂及び/又はMS樹脂を1〜20重量部含む樹脂組成物を基材層とし、該基材層の少なくとも片面に導電層を積層したプラスチックシートから成形されたことを特徴とするキャリアテープである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプラスチックシートは、機械的強度、耐衝撃性、成形加工性に優れ、薄肉化しても、その成形品であるキャリアテープは、剛性が大きく、そのポケットに収納したIC又は電子部品を保護して保管でき、回路基板に高速で実装するとき、高い速度でキャリアテープを変形させず搬送することができる。
さらに、穴打抜き加工においてヒゲ、バリの発生が少なく、切断、クラックの発生がなく、キャリアテープの熱成形においてシールに割れ等の発生がなく、ポケットを肉厚が均一で、そのコーナー部がきちんと成形されたキャリアテープを成形できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のプラスチックシートの基材層は、ABS樹脂100重量部に対し、AS樹脂及び/またはMS樹脂を1〜20重量部含む樹脂組成物からなる。
ABS樹脂はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンの3成分を主体とした共重合体を主成分とするものをいう。
AS樹脂は、アクリロニトリル−スチレンの2成分を主体とした共重合体を主成分とするものをいう。MS樹脂は、メタクリレート−スチレンの2成分を主体とした共重合体を主成分とするものをいう。
AS樹脂及び/又はMS樹脂が、ABS樹脂100重量部に対し1重量部未満の場合、高い機械的強度を有するプラスチックシートが得られず、薄肉化したシートから成形されたキャリアテープは、変形し、折曲り、破断等が発生しやすくなる。
AS樹脂及び/又はMS樹脂がABS樹脂100重量部に対し、20重量部を超える場合は、高い耐衝撃性を有するプラスチックシートが得られず、スリット加工や穴打抜き加工時にヒゲ、バリの発生があり、割れ等が発生し易くなる。又、シートから成形されたキャリアテープは、収納したIC又は電子部品を保管、搬送時に破断や割れ等が発生し易くなる。
【0010】
表面の導電層となる導電性組成物に添加されるカーボンブラックは、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等が好ましく用いられる。又、添加量は、表面導電層に使用される樹脂100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは5〜25重量部である。カーボンブラックの添加量が、1重量部未満では表面導電層の表面抵抗が上昇するためIC製品包装容器としての性能を損ない、30重量部を超えると樹脂との均一な分散性が低下し、導電性組成物の押出加工が困難となり、機械的強度が低下する。プラスチックシートの表面抵抗値は、10〜1010Ωであることが好ましい。
【0011】
導電層に使用される樹脂としては、ABS樹脂、ポリスチレン系樹脂等が好ましく、ポリスチレン系樹脂が、他の樹脂に比べカーボンブラックを多量に添加しても流動性に著しい低下がないこと、寸法安定性に優れる等の利点を有する。
プラスチックシートは、通常、厚みの大部分を占める基材層に機械的強度、耐衝撃性、耐折曲強等の物性を持たせることができ、導電層に基材層に要求される物性をそれほど強く要求されなくても良い場合がある。
本発明の樹脂組成物及び導電性組成物に対して、必要に応じて組成物の流動特性、及び成形品の力学特性を改善するために、滑剤、可塑剤、加工助剤、補強助剤等の各種の添加剤や他の樹脂成分を添加することができる。
【0012】
なお、本発明における、基材層となる樹脂組成物は、圧空成形、真空成形、押出成形、射出成形等の公知の方法により、電子部品の容器、例えば、マガジン、トレー等に用いることができる。
【0013】
プラスチックシートは、基材層及び導電層となる原材料を、押出機等によりシート又はフィルム状に成形した後、熱ラミネート法、ドライラミネート法、押出ラミネート法等により積層して得ることが可能であり、フィードブロック法、マルチマニホールド法等の公知の共押出法により一体成形して得ることも可能である。
得られた基材層の少なくとも片面に、導電性塗料を塗工して導電層を得ることもできる。樹脂分としては、特に制限はなく、一般的なもの、例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂等が用いられる。
【0014】
プラスチックシートの基材層の厚さは、キャリアテープに用いる場合、装填する電子部品の大きさ及び重量に応じ適宜変更可能であるが、一般に0.1〜0.5mmである。0.1mm未満ではシートを成形して得られるキャリアテープとしての剛性等の機械的強度が不足し、0.5mmを超えると機械的強度が過剰であり経済的でなく、熱成形による成形が困難となる場合がある。
導電層の厚さは、3〜50μmが好ましい。50μmを超えてもそれに相応した効果の向上が得られず、経済的でなく、3μm未満では充分な帯電防止効果が得られない。
【0015】
キャリアテープは、通常、プラスチックシートを、搬送するための送り穴を打抜き加工し、輻射ヒータ加熱、熱風加熱、又は熱板接触加熱して所定の形状、寸法のポケットを真空成形、圧空成形、真空・圧空成形、又はプレス成形した後、幅が8〜56mmのサイズの所定のテープ状にスリット加工して製造される。
【0016】
ポケットに電子部品が収納した後、蓋体であるカバーテープでシールして密閉されたキャリアテープは、リールに巻き取られた状態で保管される。
電子部品を回路基板に実装するときに、例えば、装着機のテープフィーダにキャリアテープを巻き取ったリールを設置し、テープフィーダのスプロケット部材の搬送爪をキャリアテープの送り穴に係合させ、スプロケット部材を間欠回転させることにより、キャリアテープは順々に送り出されながらカバーテープが剥離される。そして、電子部品はテープフィーダの移載ヘッドで吸着、ピックアップされ、回路基板に配置され、実装される。
キャリアテープを搬送するとき、特にキャリアテープ厚みが薄い場合、キャリアテープは真直ぐに押出されず、変形し、折曲ったり、破断等が生じ易くなる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の構成を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0018】
実施例1
基材層の原料であるABS樹脂(商品名「ET−70」、日本エイアンドエル(株)製)100重量部とAS樹脂(商品名「200PC」、日本エイアンドエル(株)製)10重量部、及び導電層の原料であるポリスチレン樹脂(商品名「H430」、日本ポリスチレン(株)製)100重量部とカーボンブラック20重量部を、Tダイを用いフィードブロック法により共押出し成形し、厚さ0.20mmの基材層の両面に、厚さが各々25μmの導電層を積層し、薄肉化された総厚さ0.25mm、幅640mmのシートを得た。
【0019】
得られたシートを、熱風温度が400℃で熱風加熱し、真空成形して、幅16mm、ポケットの形状が7.4×7.4mm、深さ1.2mm、ポケットのピッチ12mm、送り穴径1.5mm、そのピッチ4mmのキャリアテープを成形した。
【0020】
シートの送り穴打抜き加工、スリット加工時に、クラックや切断等の発生はなかった。また、スリット、打抜き面にはヒゲ、バリの発生は少なかった。
シートの曲げ弾性率は、2200MPa(測定方法はISO 178による。)であリ、表面抵抗値は2×10Ω(測定方法はJIS K6991よる。)であった。
キャリアテープに真空成形されたポケットの肉厚は均一であり、そのコーナー部がきちんと成形された状態であり、テープの成形の際にテープの割れもなくシートの成形加工性及び切削加工性は良好であった。
キャリアテープをリールに巻き取るとき、変形、折曲がり、破断等の発生は認められなかった。
【0021】
比較例1
基材層の原料がAS樹脂を用いなかった以外は、実施例1と同様にして同じ幅、厚みのシート及び同じ形状、寸法のキャリアテープを得た。
シートの曲げ弾性率は、1860MPa(測定方法はISO 178による。)であリ、表面抵抗値は2×10Ω(測定方法はJIS K6991よる。)であった。
キャリアテープに真空成形されたポケットの肉厚は均一であり、そのコーナー部がきちんと成形された状態であり、テープの成形の際にテープの割れもなくシートの成形加工性及び切削加工性は良好であった。
しかし、実施例1と同じ条件でキャリアテープをリールに巻き取るとき、変形が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のプラスチックシートは、帯電防止性を有し、機械強度、耐衝撃性、成形加工性に優れているため、このプラスチックシートから成形される薄肉のキャリアテープは、変形、折曲がり、破断等の事故は発生することがない。このキャリアテープは、そのコストが低減され、電子部品を収納して、保管し、搬送でき、回路基板に実装するときに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABS樹脂100重量部に対し、AS樹脂及び/又はMS樹脂を1〜20重量部含む樹脂組成物を基材層とし、該基材層の少なくとも片面に導電層を積層したことを特徴とする電子部品包装用プラスチックシート。
【請求項2】
ABS樹脂100重量部に対し、AS樹脂及び/又はMS樹脂を1〜20重量部含む樹脂組成物を基材層とし、該基材層の少なくとも片面に導電層を積層したプラスチックシートから成形されたことを特徴とするキャリアテープ。

【公開番号】特開2008−74408(P2008−74408A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252134(P2006−252134)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(504300103)三井化学ファイン株式会社 (7)
【Fターム(参考)】