説明

プラスチックフィルム用印刷下地液およびそれを用いたインクジェット記録法

【課題】水性顔料インク組成物と共に用いて、耐擦性、耐傷性、および耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができる印刷下地液の提供。
【解決手段】本発明による印刷下地液は、被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体用であって、式(I)[式中、Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、かつXは、水素原子、または、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1〜6のアルキル基を表す]の環状アミド化合物と、熱可塑性樹脂と、主溶媒とを少なくとも含んでなるものであり、熱可塑性樹脂が下地液中で分散されてなるものである。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム用印刷下地液に関する。詳しくは、本発明は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体への印刷を行う場合に使用されるものであって、被記録面への水性インク組成物の印刷に先だって塗布して下地膜を形成できる、印刷下地液に関する。本発明はまた、そのような下地液を用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、記録媒体の被記録面に付着させて印刷を行う印刷方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度、高品質な画像を高速で印刷可能であるという特徴を有する。記録媒体としては、一般的な紙等に加えて、プラスチックフィルムなどの素材への要求が高まっている。
【0003】
プラスチックフィルム等に印刷を行うことにより得られるプラスチック記録物は、紙を使うことができないような屋外で掲示する用途が想定される。このため、プラスチック記録物には、より高度な耐水性および耐光性が要求される。また、ラベルなどの手で触れたりする物の印刷も、紙の印刷物よりもプラスチック記録物が適している。この場合も、記録物には、耐擦性などの耐久性が求められる。
【0004】
記録媒体として、塩化ビニルなどのインクジェット印刷専用の表面処理を施していないプラスチックフィルムを使用して、インクジェット記録する場合、従来、溶剤系インク、UV硬化インク、または2液式硬化インクなどが使用されていた。しかしながら、溶剤系インクは、溶剤臭があり、また溶剤揮発成分中に有害成分を含むことがある。UV硬化インクや2液式硬化インクなどでも、使用する硬化性モノマーが有害成分を含むことがある。
【0005】
また、インクジェット記録専用の表面処理を施していないプラスチックフィルムに、従来の水系インクを用いてインクジェット記録すると、記録画像の密着性、耐傷性、および耐水性が充分とは言えなかった。
【0006】
インクジェット記録専用プラスチックフィルムを使用する場合については、水系インクを使用して、インク成分である着色剤または分散樹脂を凝集硬化させる方法(特開平9−286940号公報(特許文献1))が提案されている。
【0007】
また、例えば特開2003−11486号公報(特許文献2)には、前処理液を用いるインクジェット記録方法が開示されている。しかしながら、この記録方法は、一般的な記録媒体に、高画質で耐水性のある記録を行うことを目的としたものであり、プラスチックフィルムへの印刷を目的とするものではない。さらに例えば特開平10−114140号公報(特許文献3)には、2液を用いたインクジェット記録方法において、アミドを含む反応液を使用することが記載されている。しかしながら、この反応液においてアミドは、印字品質と印字安定性を改善するために加えられるものであり、プラスチックフィルムへの印刷を目的とすることは示唆されていない。
【0008】
このため、耐水性や耐擦性に優れたプラスチック記録物を得ることができる、水性顔料インクを用いたインクジェット記録方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−286940号公報
【特許文献2】特開2003−11486号公報
【特許文献3】特開平10−114140号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは今般、プラスチックフィルム表面に、インク組成物を付着させるのに先立って、特定の環状アミド化合物を含む特定の組成の下地液を予め塗布して、プラスチックフィルム表面を処理すると同時に、そこに下地膜を形成させることによって、インク組成物を付着させて形成されるプラスチック記録物の耐擦性、耐傷性、および耐水性を大幅に改善できることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0011】
よって本発明は、付着させるインク組成物と高い密着性を有する下地膜を形成して、耐擦性、耐傷性、および耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができる、プラスチックフィルム用印刷下地液の提供をその目的とする。本発明はまた、そのような下地液を用いるインクジェット記録方法の提供もその目的とする。
【0012】
本発明による被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体用印刷下地液は、下式(I)の環状アミド化合物と、熱可塑性樹脂と、主溶媒とを少なくとも含んでなるものであって、熱可塑性樹脂が下地液中で分散されてなるものである:
【0013】
【化1】

[式中、
Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、かつ
Xは、水素原子、または、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1〜6のアルキル基を表す]。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、下地液の主溶媒は水である。
また本発明の好ましい態様によれば、下地液は、界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる。
【0015】
本発明によるインクジェット記録用セットは、本発明による下地液、および、顔料と、熱可塑性樹脂と、水とを少なくとも含んでなる水性顔料インク組成物を含んでなるものである。
【0016】
本発明によるインクジェット記録方法は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、下地液を塗布して下地膜を形成させた後、インク組成物の液滴を吐出させ、下地膜に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、下地液が、本発明による印刷下地液であり、かつ、インク組成物が、顔料と、熱可塑性樹脂と、水とを少なくとも含んでなる、水性顔料インク組成物であるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(印刷下地液)
本発明による印刷下地液は、前記したように、被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体への印刷に用いられるものであって、式(I)の環状アミド化合物と、熱可塑性樹脂と、主溶媒とを少なくとも含んでなるものであり、かつ、熱可塑性樹脂が下地液中で分散されてなるものである。換言すると、本発明による下地液は、式(I)の環状アミド化合物と、主溶媒とを少なくとも含んでなる分散媒と、この分散媒に分散された熱可塑性樹脂とからなるものである。ここで、主溶媒は、後述するように好ましくは水である。また本発明による下地液は、好ましくは、界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤をさらに含んでなり、より好ましくは、界面活性剤をさらに含んでなるか、または、界面活性剤および低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる。また本発明による下地液は、後述する湿潤剤をさらに含んでなることができる。さらに本発明による下地液は、好ましくは、インクジェット記録方法において用いられる。
【0018】
本発明による下地液は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体への印刷に用いられる。ここで、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体には、記録媒体自体がプラスチックフィルムであるものの他に、紙等の慣用の記録媒体基材上にプラスチックコーティングされてなるものや、該基材上にプラスチックフィルムが接着されてなるもの等も包含される。また、ここで、プラスチックは、式(I)の環状アミド化合物によって溶解するかまたは湿潤状態にすることができるものであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等が挙げられる。本発明においては、プラスチックは、好ましくは塩化ビニルである。また、本発明による下地液は、インクジェット印刷専用の表面処理を施していないプラスチックフィルム、およびインクジェット印刷専用の表面処理を施しているプラスチックフィルムのいずれへの印刷にも使用することができる。
【0019】
本発明の下地液は、好ましくは、熱可塑性樹脂を含んでなるインク組成物と共に使用することによって、プラスチックフィルムの表面と、インクが乾燥して形成された樹脂被膜とが下地液により形成された下地膜を介して強固に密着することができる。この結果、耐擦性、耐傷性、および耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができる。このときインク組成物は、好ましくは、顔料と、熱可塑性樹脂と、水とを少なくとも含んでなるものである。このように、本発明によれば、顔料系の水性インク組成物を使用することができるので、プラスチックフィルムに耐光性に優れた記録物を形成することができる。
【0020】
ここで下地膜とは、下地液中の水分が全部もしくは一部が蒸発することにより、下地液に含まれる熱可塑性樹脂が硬化し、下地液全体が一体の膜状になった状態をいう。
【0021】
本発明によって所望の効果が奏される理由は下記の通りと考えられる。ただし以下は仮定であってこれによって本発明を限定的に解釈するものではない。
本発明による下地液は、プラスチックフィルムに塗布されると、その表面に均一に広がり、この状態で水分が蒸発すると、環状アミド化合物がプラスチックフィルム表面に均一かつ高濃度で残留させることができる。その結果、環状アミド化合物が、プラスチックフィルムの表面から極浅い部分を、溶解もしくは湿潤状態にすることができる。同時に、下地液に含まれる樹脂成分が硬化して被膜化が進行し、下地膜が形成される。このとき、下地膜は、溶解したプラスチックと、混合層を形成すると考えられる。このため、プラスチックフィルム表面と樹脂被膜とが一体化し、プラスチックフィルム面に強固に密着した下地膜が得られる。ここにさらに、加熱により被膜化し得る樹脂を含むインク組成物を付着させた後、そこに含まれる樹脂を硬化させて被膜化させると、このインクの硬化被膜は下地膜と強く結合する。このとき、下地液とインク組成物とに含まれる樹脂が同じ成分であると、その結合は一層強固なものとなる。下地液を使用することにより、下地膜を介してインク層とプラスチックフィルムとの密着性を飛躍的に向上させることができると考えられる。このように密着性が高まることにより、擦りなどの外力や界面への水の浸入による印刷の剥れがほとんど無くなり、耐擦性、耐傷性、および耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができる。このため、プラスチックフィルム自体の耐久性を生かした強靭な印刷物を作成することが可能となる。
【0022】
本発明による下地液は、プラスチックを溶解しうる成分である環状アミド化合物が好ましくは水によって希釈されているため、プリンタを構成する接液部材を破壊もしくは損傷させることがほとんど無い。また、本発明による好ましい下地液は水溶液であるため、下地液自体および発生する蒸気についても、安全性に優れている。
【0023】
(環状アミド化合物)
本発明による下地液は、式(I)の環状アミド化合物を必須の成分として含んでなる。
式(I)中、前記したように、Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、Xは、水素原子、または、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1〜6のアルキル基を表す。
【0024】
ここでRは、好ましくはC2〜8、より好ましくはC2〜5、さらに好ましくはC2〜4の飽和炭化水素鎖を表す。なおここで、例えば「C2〜12の飽和炭化水素鎖」という場合の「C2〜12」とは、該飽和炭化水素鎖の炭素数が2〜12個であることを意味する。
【0025】
直鎖状C2〜12の飽和炭化水素鎖とは、−(CH2)m−で示される鎖(ここでmは2〜12の整数を表す)のことを意味する。分岐鎖状のC2〜12の飽和炭化水素鎖とは、−(CH2)n−で示される鎖であって、その炭素上の水素を炭素数の合計がp個となるような1以上のアルキル基で置換した側鎖を有する鎖(ここでn+p(pは全ての側鎖の炭素の合計数)は2〜12の整数を表す)を意味する。このようなアルキル置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。また、直鎖状もしくは分岐鎖上の飽和炭化水素鎖は必要に応じて、水酸基、ヒドロキシメチレン等によりさらに置換されていてもよい。
直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖の具体例としては、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0026】
またここで「直鎖状もしくは分岐鎖状のC1〜6のアルキル基」における「C1〜6アルキル基」という場合の「C1〜6」とは、該アルキル基の炭素数が1〜6個であることを意味する。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
【0027】
好ましくは、「C1〜6アルキル基」は、C1〜4アルキル基であり、より好ましくはC1〜3アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基またはエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)中、Rは直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜5の飽和炭化水素基を表し、かつ、Xが水素原子またはメチル基を表す。
【0029】
環状アミド化合物の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、δ−バレロラクタム、ε−カプロラクタム等が挙げられ、好ましくは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、およびε−カプロラクタムからなる群より選択されるものが挙げられる。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)の環状アミド化合物を少なくとも2種を使用する。環状アミド化合物を2種以上使用することで、下地液の溶媒が蒸発する過程で環状アミド化合物が分離もしくは結晶化することを防止できる。また、2種以上使用することで、環状アミド化合物の下地液溶媒への溶解度を高くすることができ、プラスチック表面で環状アミド化合物がムラになってプラスチック溶解能力が部分的に変化することを防止できる。
【0031】
2種類以上の環状アミド化合物を使用する場合の好ましい具体例としては、2−ピロリドンとε−カプロラクタムの組合せ、N−メチル−2−ピロリドンとε−カプロラクタムの組合せ、または2−ピロリドンとN−メチル−2−ピロリドンの組合せ、2−ピロリドンとN−メチル−2−ピロリドンとε−カプロラクタムとの組合せ等が挙げられる。
【0032】
本発明において使用される環状アミド化合物は、必要に応じて合成してもよいが、市販品を使用してもよい。
【0033】
本発明の下地液中の環状アミド化合物の含有量は、インクジェット記録によって、記録媒体に均一に塗布できる濃度および表面張力とすることができ、かつ、プリンタを構成する接液部材を破壊もしくは損傷させることがほとんど無い程度のものであれば、特に制限はない。環状アミド化合物の含有量は、例えば、下地液全量に対して0.1〜40.0重量%、好ましくは、2.0〜25.0重量%である。このときの含有量は環状アミド化合物を2種以上使用する場合には、その合計量を意味する。
【0034】
(熱可塑性樹脂)
本発明の下地液は、熱可塑性樹脂を含んでなる。熱可塑性樹脂として、下地液の主溶媒に可溶の樹脂、または不溶の樹脂を使用することができる。下地液の主溶媒に可溶の樹脂は、後述の顔料を分散するのに使用する樹脂分散剤を好適に使用することができる。また、下地液の主溶媒に不溶の樹脂は、樹脂粒子を樹脂エマルジョンの形態で下地液に添加することが好ましい。ここで樹脂エマルジョンは、連続相である主溶媒と分散相である樹脂成分(熱可塑性樹脂成分)とからなる。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、熱可塑性樹脂は、親水性部分と、疎水性部分とを合わせもつ重合体であるのが好ましい。熱可塑性樹脂として樹脂エマルジョンを使用する場合、その粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、好ましくは150nm程度以下、より好ましくは5〜100nm程度である。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている分散剤樹脂または樹脂エマルジョンと同様の樹脂成分を使用することができる。熱可塑性樹脂として、具体的には、アクリル系重合体、例えば、ポリアクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリアクリロニトリル若しくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、またはポリメタクリル酸;ポリオレフィン系重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン若しくはそれらの共重合体、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、またはテルペン樹脂;酢酸ビニル・ビニルアルコール系重合体、例えば、ポリ酢酸ビニル若しくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、またはポリビニルエーテル;含ハロゲン系重合体、例えば、ポリ塩化ビニル若しくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、またはフッ素ゴム;含窒素ビニル系重合体、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン若しくはその共重合体、ポリビニルピリジン、またはポリビニルイミダゾール;ジエン系重合体、例えば、ポリブタジエン若しくはその共重合体、ポリクロロプレン、またはポリイソプレン(ブチルゴム);あるいはその他の開環重合型樹脂、縮合重合型樹脂、または天然高分子樹脂等を用いることができる。
【0037】
熱可塑性樹脂をエマルジョンの状態で使用する場合には、エマルジョンは、樹脂粒子を場合により界面活性剤と共に水に混合することによって調製することができる。例えば、アクリル系樹脂またはスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルの樹脂又はスチレン−(メタ)アクリル酸エステルの樹脂と、場合により(メタ)アクリル酸樹脂と、界面活性剤とを水に混合することによって得ることができる。樹脂成分と界面活性剤との混合の割合は、通常50:1〜5:1程度とするのが好
ましい。界面活性剤の使用量が前記範囲に満たない場合には、エマルジョンが形成されにくく、また前記範囲を越える場合には、下地膜およびインクの耐水性が低下したり、密着性が悪化したりする傾向があるので好ましくない。
【0038】
樹脂エマルジョンの調製において使用する界面活性剤は特に限定されないが、好ましい例としては、アニオン系界面活性剤(例えば、ドデシルベンザンスルホン酸ナトリウム、ラウルリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、ノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなど)を挙げることができ、これらは二種以上を混合して用いることができる。
【0039】
また熱可塑性樹脂のエマルジョンは、上記した樹脂成分の単量体を、重合触媒および乳化剤を存在させた水中において乳化重合させることによっても得ることができる。乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、分子量調整剤は常法に準じて使用できる。
【0040】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものを用いることができ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤として用いられているもの、およびこれらの混合物が挙げられる。
これらは2種以上混合して使用することができる。
【0041】
分散相成分としての樹脂と水との割合は、樹脂100重量部に対して水を好ましくは60〜400重量部、より好ましくは100〜200重量部の範囲が適当である。
【0042】
熱可塑性樹脂として、樹脂エマルジョンを使用する場合、公知の樹脂エマルジョンを用いることも可能である。例えば特公昭62−1426号、特開平3−56573号、特開平3−79678号、特開平3−160068号、または特開平4−18462号各公報などに記載の樹脂エマルジョンをそのまま用いることができる。また、市販の樹脂エマルジョンを利用することも可能であり、例えばマイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ゼオン株式会社製)、またはサイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン;サイデン化学株式会社製)などを挙げることができる。
【0043】
本発明において、熱可塑性樹脂は、微粒子粉末として下地液中の他の成分と混合されても良いが、樹脂微粒子を水媒体に分散させて、樹脂エマルジョンの形態とした後、下地液の他の成分と混合することが好ましい。
【0044】
下地液の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、本発明に好ましい樹脂微粒子の粒径は5〜400nmの範囲であり、より好ましくは50〜200nmの範囲である。
【0045】
熱可塑性樹脂は、下地液全量に対して、固形分換算で0.1〜15.0重量%の範囲で含まれることが好ましく、1.0〜10.0重量%の範囲で含まれることがより好ましい。下地液において、樹脂成分が少なすぎると、プラスチック表面に形成される下地膜が薄くなり、インク層との密着性が不充分になることがある。樹脂成分が多すぎると、下地液の保存中に樹脂の分散が不安定になったり、わずかな水分の蒸発で樹脂成分が凝集固化して均一な下地膜が形成できなくなったりすることがある。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、下地液成分の熱可塑性樹脂は、後述するインク組成物において使用される熱可塑性樹脂と同じ成分である。同じ成分を使用することにより、下地膜と、インク組成物により形成される樹脂被膜との親和性が高まり、互いの密着性をより一層強固なものとすることができる。
【0047】
(界面活性剤)
水溶液は通常プラスチックにはじかれるが、本発明による下地液には、界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤を添加することができるため、プラスチック面に均一に環状アミド化合物を塗布することができる。均一に塗布された下地液から水分を蒸発させることで、環状アミド化合物をプラスチック表面に過不足無く定着させ、所望の領域のプラスチック表面だけを溶解することができる。また、下地液が均一に塗布されることにより、下地液に含まれる樹脂もプラスチックフィルム表面で均一に膜化することができる。
【0048】
本発明において、界面活性剤としては、陰イオン性、陽イオン性、両性、および/または非イオン性のいずれをも用いることが可能である。
【0049】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩、および、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ−4−ビニルピリジン誘導体などを挙げることができる。
【0050】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などを挙げることができる。
【0051】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、または下式(i):
【0052】
【化2】

(ここで、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表し、nおよびmはそれらの和が0〜30となる整数である)で表されるアセチレングリコール系界面活性剤、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール(登録商標)104)、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール82)、これらアセチレングリコール類の誘導体(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール465、485など)などがある。
【0053】
中でも、泡立ち、またはノズル吐出の信頼性の良好な非イオン系界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0054】
本発明の下地液における界面活性剤の含有量は、プラスチック面に均一に環状アミド化合物を塗布することができるものであれば特に制限はなく、使用する界面活性剤の種類や環状アミド化合物の種類およびその量にしたがって適宜選択することができる。界面活性剤の含有量は、例えば、下地液全量に対して0.01〜5.0重量%、好ましくは、0.1〜2.0重量%である。
【0055】
(低表面張力有機溶剤)
プラスチック面に均一に環状アミド化合物を塗布するために、本発明の下地液は、界面活性剤の代わりに、または界面活性剤に加えて、低表面張力有機溶剤を含んでなることができる。
【0056】
低表面張力有機溶剤の例としては、1価アルコール、または多価アルコール誘導体が挙げられる。
【0057】
1価アルコールとしては、特に炭素数1〜4の1価アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、またはn−ブタノールなどを用いることができる。
【0058】
多価アルコール誘導体としては、特には、炭素数2〜6の2価〜5価アルコールと炭素数1〜4の低級アルコールとの完全または部分エーテルを用いることができる。ここで多価アルコール誘導体とは、少なくとも1個のヒドロキシル基がエーテル化されたアルコール誘導体であり、エーテル化されたヒドロキシル基を含まない多価アルコールそれ自体を意味するものではない。前記のエーテルとして好ましい多価アルコール低級アルキルエーテルは、一般式(ii):
21O−〔CH2−CH(R23)−O〕t−R22 (ii)
[式中、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数3〜6のアルキル基(好ましくはブチル基)であり、R22は水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基、好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、tは1〜8、好ましくは1〜4の整数であるが、但し、RおよびRの少なくとも一方は炭素数3〜6のアルキル基(好ましくはブチル基)である]で表される化合物である。
【0059】
これらの多価アルコール低級アルキルエーテルの具体例としては、例えば、モノ、ジ若しくはトリエチレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテル、モノ、ジ若しくはトリプロピレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテルが挙げられ、好ましくはトリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、またはプロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。
【0060】
本発明の好ましい態様によれば、低表面張力有機溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルである。
【0061】
本発明の下地液における低表面張力有機溶剤の含有量は、プラスチック面に均一に環状アミド化合物を塗布することができるものであれば特に制限はなく、使用する環状アミド化合物および界面活性剤の種類および量にしたがって適宜選択することができる。低表面張力有機溶剤の含有量は、例えば、下地液全量に対して0 〜25.0重量%、好ましくは、2.0〜15.0重量%である。
【0062】
本発明による下地液の諸物性は適宜制御することができるが、本発明の好ましい態様によれば、下地液の粘度は、好ましくは25mPa・秒以下、より好ましくは10mPa・秒以下(25℃)である。粘度がこの範囲内にあると、下地液をインク吐出ヘッドから安定に吐出させることができる。また、本発明による下地液は適宜制御することができ、好ましくは表面張力は、20.0〜40.0mN/m(25℃)範囲程度であり、より好ましくは25.0〜35.0mN/m範囲程度である。
【0063】
(湿潤剤)
下地液の保管および塗布時の扱い易さを考慮して、本発明による下地液には、公知の湿潤剤(水溶性有機溶剤)をさらに加えることができる。湿潤剤を含むことによって、水分蒸発による樹脂成分の凝集固化を防止でき、インクジェット塗布時にインクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止し、吐出安定性を確保することができる。
【0064】
湿潤剤としては、例えば、水溶性多価アルコール類、特には、炭素数2〜10の2価〜5価アルコール類;含窒素炭化水素溶媒、例えば、ホルムアミド類、イミダゾリジノン類、ピロリドン類、あるいはアミン類;含硫黄炭化水素溶媒を挙げることができる。これらは、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0065】
水溶性多価アルコールとしては、例えば、炭素数3〜10の2価〜3価アルコール、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオールの1種またはそれ以上を組合せて用いることができる。
【0066】
湿潤剤の含有量は、例えば、下地液全量に対して0〜5.0重量%、好ましくは、1.0〜5.0重量%である。このような範囲とすることによって、目詰まり防止性、または吐出安定性を確保することができる。含有量が多すぎると乾燥不良となることがある。
【0067】
(主溶媒)
本発明による下地液は、主溶媒を含んでなる。環状アミド化合物を含む水溶性成分を薄く均一にプラスチック表面に塗布するために、本発明においては、環状アミド化合物を主溶媒で希釈して塗布する。このような主溶媒としては、水または水溶性有機溶媒などが使用可能であるが、本発明においては、安全性などの観点から、水が好ましい。
したがって、本発明における下地液において、好ましくは、主溶媒は水である。ここで使用される水としては、イオン性の不純物を極力低減することを目的として、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、下地液を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0068】
(他の成分)
本発明の下地液は、上記した各成分を含むことにより、所望の効果を実現できるものであるが、必要に応じて、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、ノズルの目詰まり防止剤などをさらに含むことができる。
【0069】
pH調整剤としては、例えばリン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などがあげれる。さらに、溶解助剤、または酸化防止剤の例としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。更にノズル乾燥防止の目的で、尿素、チオ尿素、またはエチレン尿素等を添加することができる。
【0070】
(下地液の製造)
本発明の下地液は、前記の各配合成分を任意の順序で適宜混合し、溶解(または分散)させた後、必要に応じて不純物などを濾過して除去することにより、調製することができる。
【0071】
本発明による下地液においては、環状アミド化合物をプラスチック表面に均一に塗布できること;インクジェット記録ヘッドによって吐出可能な粘度および表面張力であること;保存容器中またはインクジェットヘッドのノズルで下地液が凝集したり、固化したりしないこと;さらには、インクジェットプリンタの接液部材が溶解もしくは破壊されないこと、等の点を考慮して、前記の各成分の配合量を適宜設定することができる。このような下地液の典型的な組成としては、例えば、下記の通りのものが挙げられる:
環状アミド化合物 0.1〜40.0重量%;
熱可塑性樹脂 0.1〜15.0重量%(固形分);
界面活性剤 0.01〜5.0重量%;
低表面張力有機溶剤 0〜25.0重量%;
湿潤剤 0〜5.0重量%;および
水 残り。
【0072】
よって、本発明の一つの好ましい態様によれば、下地液において、環状アミド化合物の含有量は0.1〜40.0重量%であり、熱可塑性樹脂の含有量が固形分換算で0.1〜15.0重量%であり、かつ、界面活性剤の含有量は0.01〜5.0重量%である。
【0073】
(記録方法)
本発明によるインクジェット記録方法は、前記したように、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、下地液を塗布して下地膜を形成させた後、インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行うものである。
【0074】
下地液を塗布する工程では、本発明による下地液を、記録媒体の被記録面に塗布する。この工程では、少なくとも、インクジェット記録を行う次の工程で水性顔料インクを打ち込む箇所(印刷部分)に、下地液を予め塗布することが望ましい。塗布量は、記録媒体であるプラスチックフィルムの状態および素材の種類、およびインクの打ち込み量等に応じて適宜調整することができる。
【0075】
本発明において、下地液の塗布方法は、特に制限されず、例えば、刷毛塗り、または、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーター、スライドホッパーコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、カーテンコーター、エクストルージョンコーター、フローティングナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター、ゲートロールコーター、サイズプレス装置等の公知の塗工装置を用いて接触方式で塗布する方法や、スプレー、インクジェットヘッド、ジェットノズル等を用いて非接触方式で塗布する方法等が挙げられる。
【0076】
本発明においては、下地液の塗布方法は、液滴を吐出させて記録媒体の被記録面に付着させることによるインクジェット記録方法が好ましい。インクジェット記録方法を採用することにより、下地液の塗布位置や塗布量を適切に制御することができる。塗布位置を制御することによって、印刷する部分のみ下地液を塗布できるため下地液の使用量を節約でき、また、プラスチック記録媒体の縁の部分を印刷する場合にプラスチック記録媒体から下地液がはみ出すことを防止できる。また、プラスチック記録媒体に多量の溶剤を塗布すると、プラスチック全体が溶解または軟化してしまうが、塗布量を制御することによって、プラスチック記録媒体の表面から極浅い部分のみを選択的に溶解させることができる。
【0077】
本発明の好ましい態様によれば、本発明によるインクジェット記録方法は、インク組成物を付着させる前に、塗布した下地液の水分を蒸発させて下地膜を形成させる乾燥工程をさらに含んでなる。記録媒体への塗布後、下地液の水分は、ほとんどまたは完全に蒸発させることが望ましい。この乾燥操作によって、下地液に含まれる環状アミド化合物も蒸発させることができるので、プラスチック記録媒体と、形成される下地膜との密着性もより強固にできると考えられる。
【0078】
下地液塗布後の水分の乾燥は、慣用の加熱乾燥手段、例えば、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて、常法にしたがって行うことができる。本発明においては、乾燥工程の乾燥処理は、好ましくは、ヒーター加熱または温風乾燥により実施することができる。乾燥条件は、使用する下地液の組成、塗布量等に応じて適宜変更することができる。例えば、ヒーター加熱または温風乾燥による場合には、乾燥は、25〜90℃(好ましくは40〜70℃)で1分間〜1日間の条件で行うことができる。
【0079】
次いで、本発明のインクジェット記録方法においては、下地液を塗布した後、塗布面にインク組成物を付着させる。このとき、インクを付着させる方法は、インクジェット記録方法であることが望ましい。またここで、インク組成物は、後述する、顔料と、熱可塑性樹脂と、水とを少なくとも含んでなる水性顔料インク組成物である。
【0080】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のインクジェット記録方法は、被記録面に付着させたインク組成物を加熱して樹脂被膜を形成させる加熱工程をさらに含んでなる。ここで加熱手段は、慣用の加熱手段、例えば、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて、常法にしたがって行うことができる。本発明においては、加熱工程の加熱処理は、好ましくは、ヒーター加熱または温風乾燥により実施することができる。また、加熱条件は、インク組成物に含まれる樹脂が、加熱によって硬化して樹脂被膜を形成することができるような条件であればいずれであってもよく、樹脂粒子の種類などを考慮して適宜設定することができる。例えば、ヒーター加熱または温風乾燥による場合には、加熱は、25〜90℃(好ましくは40〜70℃)で1分間〜1日間(好ましくは2分間〜16時間)の条件で行うことができる。
【0081】
(水性顔料インク組成物)
本発明において使用し得るインク組成物は、好ましくは、顔料と、熱可塑性樹脂と、水とを少なくとも含んでなる、水性顔料インク組成物である。
【0082】
(顔料:)
本発明において、水性顔料インク組成物は、水系インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている任意の顔料を含むことができる。顔料としては、例えば、インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている有機顔料または無機顔料を用いることができる。顔料は、水溶性樹脂や界面活性剤等の分散剤とともに分散した樹脂分散顔料、または顔料表面に親水性基を導入し分散剤の使用なしで水系媒体に分散もしくは溶解可能とした表面処理顔料として、インク組成物に添加することができる。なお、顔料を樹脂分散剤で分散する場合、熱可塑性樹脂を分散剤として使用してもよい。また、顔料は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0083】
無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄や、コンタクト法、ファーネスト法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを利用することができる。
【0084】
有機顔料としては、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ベリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、または酸性染料型キレート)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、またはアニリンブラックなどを利用することができる。これらの顔料のうち、水との親和性が良好な顔料を用いるのが好ましい。
【0085】
より具体的には、黒色インク用顔料として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、若しくはチャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、若しくは酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料を挙げることができる。
【0086】
好適なカーボンブラックの具体例としては、三菱化学株式会社製のカーボンブラックとして、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が挙げられる。デグサ社製のカーボンブラックとして、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等が挙げられる。コロンビアカーボン社製のカーボンブラックとして、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等が挙げられる。キャボット社製のカーボンブラックとして、キャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等が挙げられる。
【0087】
カラーインク用顔料としてはC.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、23、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、153、154;C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、92、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219;またはC.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63;等を使用することができる。
【0088】
顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径として、好ましくは25μm以下、より好ましくは1μm以下である。平均粒径が25μm以下の顔料を用いることにより、目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分な吐出安定性を実現することができる。
【0089】
顔料の含有量は、インク組成物全体に対して、好ましくは0.5〜25重量%、より好ましくは2〜15重量%である。
【0090】
(熱可塑性樹脂:)
本発明において、水性顔料インク組成物は熱可塑性樹脂を含んでなる。熱可塑性樹脂は、前記した下地液の「熱可塑性樹脂」の欄の記載に従って適宜選択して使用することができる。
【0091】
本発明において、熱可塑性樹脂は微粒子粉末としてインク組成物中の他の成分と混合されても良いが、樹脂微粒子を水媒体に分散させて、樹脂エマルジョンの形態とした後、インク組成物の他の成分と混合することがより好ましい。また、熱可塑性樹脂を顔料の分散剤として使用する場合は、顔料分散液の形態でインク組成物中の他の成分と混合することが好ましい。
【0092】
熱可塑性樹脂は、水性顔料インク組成物全量に対して、固形分換算で0.1〜30重量%の範囲で含まれることが好ましく、0.3〜15重量%の範囲で含まれることがより好ましい。
【0093】
(水およびその他成分:)
本発明において、水性顔料インク組成物は、水を含んでなる。ここで水は、前記した下地液の「主溶媒と」の欄の記載に従って選択することができる。また水性顔料インク組成物は、浸透剤、保湿剤等の公知の他の成分や、前記した下地液の「界面活性剤」、「低表面張力有機溶剤」、「湿潤剤」および「他の成分」等の欄の記載に従って適宜選択して使用することができる。
【0094】
本発明において、水性顔料インク組成物は、前記の各配合成分を個別に、あるいは顔料分散液や樹脂エマルジョンの形態を経て、任意の順序で適宜混合し、溶解(または分散)させた後、必要に応じて不純物などを濾過して除去することにより、調製することができる。
【0095】
本発明の別の態様によれば、本発明によるインクジェット記録方法によって印刷された、記録物が提供される。
【実施例】
【0096】
以下本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
(下地液の調製)
本発明による下地液を下記の組成にしたがって調製した。
(下地液1:)
2−ピロリドン 10.0 重量%
ε−カプロラクタム 10.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体 5.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0098】
(下地液2:)
N−メチル−2−ピロリドン 10.0 重量%
ε−カプロラクタム 10.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体 5.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0099】
(水性顔料インク組成物の調製)
水性顔料インク組成物を下記の組成にしたがってそれぞれ調製した。
(黒インク:)
カーボンブラックMA7(三菱化成株式会社製) 5.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 2.5 重量%(固形分)
グリセリン 3.0 重量%
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
2−ピロリドン 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0100】
(シアンインク:)
C.I.ピグメントブルー15:3 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
グリセリン 3.0 重量%
ジエチレングリコール 6.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
2−ピロリドン 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0101】
(マゼンタインク:)
C.I.ピグメントレッド122 3.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.5 重量%(固形分)
グリセリン 3.0 重量%
ジエチレングリコール 5.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
2−ピロリドン 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0102】
(イエローインク:)
C.I.ピグメントイエロー74 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
グリセリン 3.0 重量%
ジエチレングリコール 6.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
2−ピロリドン 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0103】
(評価試験)
(印刷サンプルの作成(例1〜5):)
インクジェットプリンタ(TM−J8000;セイコーエプソン株式会社製)を用いてインクジェット印刷専用の表面処理を施していない軟質塩化ビニルフィルム(スコッチカルフィルム;住友スリーエム株式会社製)に、下地液1または下地液2を、50%dutyで塗布した。その後、60℃、相対湿度20%の恒温槽で1時間乾燥して下地膜を形成させた。次いで、黒インク、またはシアンインク、マゼンタインク、イエローインクを充填したインクジェットプリンタ(TM−J8000;セイコーエプソン株式会社製)を用いて、100%dutyパターンを印刷した。
印刷サンプルは60℃、相対湿度20%の恒温槽で1時間、さらに室温で1日乾燥した後、下記の評価試験を行った。
【0104】
(印刷サンプルの作成(例6〜9(比較例)):)
黒インク、またはシアンインク、マゼンタインク、イエローインクを充填したインクジェットプリンタ(TM−J8000;セイコーエプソン株式会社製)を用いて、例1と同じ軟質塩化ビニルフィルム(下地液の塗布はなし)に100%dutyパターンを印刷した。これを60℃、相対湿度20%の恒温槽で1時間、さらに室温で1日乾燥した後、下記評価試験をおこなった。
【0105】
(サンプルの評価)
(評価1: 耐擦性および耐傷性)
各硬度の鉛筆についてJIS K−5600−5−4に規定される750g荷重鉛筆引っ掻き試験器(株式会社井本製作所製)を使用して、印刷膜が取れた引っ掻き傷(凝集破壊)の有無を調べた。その結果を次の基準で評価した。
A: HB硬度鉛筆で傷つかず下地が現れない。
B: HB硬度鉛筆で傷ついて下地が現れるが、B硬度鉛筆では傷つかず下地が現れない。
C: B硬度鉛筆で傷ついて下地が現れる。
【0106】
(評価2: 密着性)
粘着テープ(セロテープ(登録商標)No.252;積水化学工業株式会社製)を印刷サンプルの印刷部に貼り、指で2ないし3回擦った後に粘着テープを引き剥がした。その部分の印刷部の状態を目視で観察した。その結果を次の基準で評価した。
A: 塩化ビニルフィルムからのインク(着色剤)の剥離が全く無い。
B: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)の一部が剥離する。
C: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)が完全に剥離している。
【0107】
(評価3: 耐水性)
印刷サンプルの印刷部に水道水を1滴付着させて1分間放置し、その後ガーゼで水滴を拭き取った。拭き取った後の印刷部およびガーゼの状態を目視で観察した。その結果を次の基準で評価した。
A: 塩化ビニルフィルムからのインク(着色剤)の剥離が全く無く、ガーゼも着色しない。
B: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)の一部が剥離し、ガーゼが着色している。
C: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)が完全に剥離し、ガーゼが着色している。
【0108】
結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0109】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)の環状アミド化合物と、熱可塑性樹脂と、水又は水溶性有機溶媒とを含有し、前記環状アミド化合物以外の成分のうち重量%換算で前記水又は水溶性有機溶媒が最も多く、前記熱可塑性樹脂が下地液中で分散されてなり、被記録面が加熱された塩化ビニルフィルムであり、前記環状アミド化合物をインク組成物全量に対して0.1〜40重量%の範囲で含有し、インク組成物の吐出に先立って塗布される印刷下地液。
【化1】

[式中、Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、かつXは、水素原子、または、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1〜6のアルキル基を表す]。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、前記下地液が乾燥して樹脂皮膜を形成する、請求項1に記載の印刷下地液。
【請求項3】
前記環状アミド化合物と前記環状アミド化合物によって溶解した前記塩化ビニルの混合層と、前記樹脂皮膜とが、密着する、請求項2に記載の印刷下地液。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、樹脂エマルジョンである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の印刷下地液。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の印刷下地液を用いる記録方法であって、
前記被記録面に前記印刷下地液を塗布して前記下地膜を形成する塗布工程と、
前記下地膜中の前記水又は前記水溶性有機溶媒を蒸発させる加熱工程と、
前記インク組成物を吐出して記録を行う記録工程含む、記録方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の記録方法によって記録が行われた、記録物。

【公開番号】特開2013−39832(P2013−39832A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183046(P2012−183046)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2011−100866(P2011−100866)の分割
【原出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】