説明

プラスチックレンズ

【課題】煩雑な製造工程を必要とせず、光学歪が実質的になく虹模様などの外観上の不具合を生じないプラスチックレンズを提供する。
【解決手段】(I)一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物95〜5モル%と、一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物5〜95モル%とを炭酸ジエステルによりカーボネート結合してなるポリカーボネート樹脂(A)からなる透明シートと、偏光及び/又は調光機能を有する光制御体とを貼り合わせてなるシート状光制御層と、(II)レンズ用重合性樹脂層とからなるプラスチックレンズ。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御体と特定のジヒドロキシ化合物から誘導されるポリカーボネート樹脂からなる透明シートとを張り合わせてなるシート状光制御層およびレンズ用重合性樹脂層を有するプラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡用レンズにおいては、ガラス製レンズに比べて軽量であること、および割れにくさの点で安全性が高いことから、樹脂製レンズが使用されるようになってきている。そしてこれに伴い、ガラスレンズに対して従来施されている付加的機能を樹脂製レンズについても付与することの要求も大きくなってきており、特に、反射光を選択的に遮断する特性で、運転中の路面や他の自動車からの反射光、マリンスポーツで問題となる水面からの反射光、ウィンタースポーツにおける雪面からの反射光などを遮断する偏光機能や、強い光が当ったときにはその光の透過を抑制するよう呈色若しくは変色し、暗所に置かれたときには色が消失する機能、すなわち、フォトクロミック機能(「調光機能」ともいう。)を有することが強く要請され、偏光機能と調光機能を併せ持つレンズへの要望も高まってきている。
【0003】
通常、プラスチックレンズは積層体として構成される場合が多い。積層体のプラスチックレンズの代表的な製造方法として、近年ではいわゆる注型重合法がよく採用されている。例えば、偏光フィルムと透明樹脂シートを貼りあわせてなる偏光シートを重合性組成物で挟みこんで重合しレンズを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法はかなり簡便で有力な方法であり、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートを基材とする系では、ポリビニルアルコール系樹脂の偏光シートの両面にトリアセチルセルロースを貼り付けた積層体を用いる方法が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平1―232006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂は透明性、耐衝撃性などに優れるが光弾性係数および複屈折が大きいという欠点がある。
偏光性能を有する光制御体の両面にポリカーボネート樹脂からなる透明シートを接着してシート状光制御体を形成し、該シート状光制御体を曲面状に真空成形あるいは圧空成形した場合、曲面部分の応力歪みにより光学的な歪みが生ずる。このような光学的な歪みを持つ曲面状成形体を光制御層とし、レンズ用重合樹脂層を注型重合により積層して得られるプラスチックレンズは、レンズ通して反射光等の偏光を見ると虹模様が観測されたり、光の透過が不均一となるいわゆる色むらが観察されるなどの不具合がある。
一方、注型重合法に用いられるシート状光制御体は、レンズ用重合性組成物に侵食されないなど注型重合の際の様々な厳しい条件に耐えることが求められる。近年、プラスチックレンズでは、チオウレタン系重合組成物に代表されるような高屈折率レンズが開発され、レンズ基材となる重合性組成物が多様化している。このようなレンズ基材の多様化に対して、ポリカーボネートを用いるシート状光制御体に(メタ)アクリレート樹脂などの硬化性重合性組成物を塗布しておくことにより、レンズ基材の種類に限定されず、注型重合法の厳しい製造条件であっても、良好な光制御プラスチックレンズを得る方法が開示されており、非常に広い範囲のレンズ用重合性組成物と組み合わせ可能であるが、工程が煩雑になるという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、
(I)一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物95〜5モル%と、一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物5〜95モル%とを炭酸ジエステルによりカーボネート結合してなるポリカーボネート樹脂(A)からなる透明シートと、偏光及び/又は調光機能を有する光制御体とを貼り合わせてなるシート状光制御層と、(II)レンズ用重合性樹脂層とからなることを特徴とするプラスチックレンズにより上記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明により、煩雑な製造工程を必要とせず、光学歪が実質的になく虹模様などの外観上の不具合を生じないプラスチックレンズを提供することが可能となった。
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数6〜20のアリールオキシ基である。また、式中、Xは炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数5〜12のシクロアルキレン基または炭素数6〜20のアリーレン基である。)
【化2】

(式中、Yは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜20シクロアルキレン基である)
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)を製造するための原料である、一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン等が例示される。
【0008】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)を製造するための原料である、一般式(2)で示されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロペンタン−1,3−ジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、スピログリコール、イソソルビド、イソマンニド等が例示される。
【0009】
以下に本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)の製造方法について述べる。ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを塩基性化合物触媒もしくは重金属系のエステル交換触媒もしくはその双方からなる混合触媒の存在下反応させる公知の溶融重縮合法が好適に用いられる。
【0010】
炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げらる。これらの中でも特にジフェニルカーボネートが好ましい。ジフェニルカーボネートは、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して0.97〜1.20モルの比率で用いられることが好ましく、更に好ましくは0.98〜1.10モルの比率である。
【0011】
塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等があげられる。
【0012】
このような化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0013】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0014】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0015】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0016】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独又は2種以上を併用して用いることができる。
【0017】
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0018】
これらの触媒は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、10−9〜10−3モルの比率で、好ましくは10−7〜10−4モルの比率で用いられる。
【0019】
本発明にかかわる溶融重縮合法は、前記の原料、および触媒を用いて、加熱下に常圧または減圧下にエステル交換反応により副生成物を除去しながら溶融重縮合を行うものである。反応は、一般には二段以上の多段行程で実施される。
【0020】
具体的には、第一段目の反応を120〜260℃、好ましくは180〜240℃の温度で0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間反応させる。次いで反応系の減圧度を上げながら反応温度を高めてジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応を行い、最終的には1mmHg以下の減圧下、200〜350℃の温度で重縮合反応を行う。このような反応は、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。
【0021】
本発明にかかわるポリカーボネート樹脂は、重合反応終了後、熱安定性および加水分解安定性を保持するために、触媒を除去もしくは失活させる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、具体的には、安息香酸ブチル等のエステル類、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル等の芳香族スルホン酸エステル類、亜リン酸、リン酸、ホスホン酸等のリン酸類、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸モノフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジn−プロピル、亜リン酸ジn−ブチル、亜リン酸ジn−ヘキシル、亜リン酸ジオクチル、亜リン酸モノオクチル等の亜リン酸エステル類、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニル、リン酸モノフェニル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸モノオクチル等のリン酸エステル類、ジフェニルホスホン酸、ジオクチルホスホン酸、ジブチルホスホン酸等のホスホン酸類、フェニルホスホン酸ジエチル等のホスホン酸エステル類、トリフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン等のホスフィン類、ホウ酸、フェニルホウ酸等のホウ酸類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等の芳香族スルホン酸塩類、ステアリン酸クロライド、塩化ベンゾイル、p−トルエンスルホン酸クロライド等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物等が好適に用いられる。
【0022】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.1〜1mmHgの圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
【0023】
本発明のシート状光制御体に使用される透明シートは前記ポリカーボネート樹脂を、キャスト法、溶融プレス法あるいは押し出しフィルム化法等の方法により成形し製造することができる。透明シートの厚さは0.01mm〜5mmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜1mmである。透明シートの厚さが0.01mmより薄いと、シート状光制御体の強度が不充分になり加工した場合に成形体の破損が起こりやすくなるため好ましくない。また、5mmより厚いと、加工時のハンドリングが悪くなるため好ましくない。
【0024】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)は、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物100〜5モル%と、一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物0〜95モル%からなる。一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の使用量が5モル%より小さくなると、ポリカーボネート樹脂の複屈折が大きくなるため好ましくない。
【0025】
また、本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)の好ましいポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、20,000〜300,000である。Mwが20,000より小さいと、透明保護シートが脆くなるため好ましくない。Mwが300,000より大きいと、溶融粘度が高くなるため製造後の樹脂の抜き取りが困難になり、また、溶剤への溶解性が悪くなってキャスト法でのシート成形が困難になる、溶融粘度が高くなるため押し出し成形が困難になるなどの問題が生じるため好ましくない。
【0026】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)はランダム、ブロックおよび交互共重合構造を含むものである。
【0027】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)の好ましいガラス転移温度(Tg)は95〜180℃であり、より好ましくは105〜170℃である。Tgが95℃より低いと、使用温度範囲が狭くなるため好ましくない。また、180℃を越えると押し出し成形を行う際の成形条件が厳しくなるため好ましくない。
【0028】
また、本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)には、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、結晶核剤、強化剤、染料、帯電防止剤あるいは抗菌剤等を添加することが好適に実施される。
【0029】
さらに、本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)には、ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネート樹脂(B)を、(100×(A))/((A)+(B))=1〜99重量%となる比率でブレンドすることもできる。ここで、ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネート樹脂(B)の例としては、一般的に、安価で入手容易なユーピロンE2000(三菱エンジニアリングプラスチック社製)が挙げられる。
【0030】
本発明のシート状光制御体に使用される光制御体は、偏光機能あるいは調光機能を有する薄膜であれば特に制限はない。たとえば、偏光機能を有する薄膜としては偏光フィルムが使用でき、曲げ加工して防眩用用途に用いる場合の後加工を考慮すると耐熱性のフィルムが好ましい。高分子フィルムとして、例えばポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素や2色性色素を吸着させて延伸配向させたフィルム等が好適に使用される。
偏光フィルムの厚さに特に制限はないが、操作性の面から通常0.02〜0.12mmのものが好適に使用される。前記の偏光フィルムの両面に前記のポリカーボネートシートを貼り合わせることによって偏光機能を有するシート状光制御体を製造することが出来る。貼り合わせには、透明度が高く、経時的に着色しにくく、耐熱性に優れた接着剤を用いるのが好ましく、具体的にはアクリル系、エポキシ系あるいはウレタン系の接着剤が好適に使用される。
また調光機能を有するシート状光制御体としては、例えばフォトクロミック性有機化合物と、ジイソシアネートとポリオールからなるポリウレタン前駆体および硬化剤とからなる樹脂組成物を前記ポリカーボネートシートに塗布し、該樹脂層の乾燥を行った後、更に該樹脂層の片面に前記ポリカーボネートシートを貼り合わせ、2個のシート間にフォトクロミック薄膜層を形成することにより製造することが出来る。
【0031】
本発明のシート状光制御体の曲面加工の方法に特に制限はないが、公知の真空成形、圧空成形、プレス成形等の加工方法を適宜選択して実施することができる。
【0032】
本発明のレンズ用熱硬化性樹脂を形成する液状の重合性組成物は特に制限はなく、通常の樹脂レンズの材料となるモノマーの組成物をそのまま用いることができる。その具体例としては、メチルメタアクリレート等のメタアクリレート類、アクリレート類、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリルフタレート等のアリル基を有するモノマー、臭素若しくは塩素で置換された各種のメタクリレート類、アクリレート類、アリル化合物、さらには、内部にウレタン結合をもつウレタンアクリル系重合組成物、イソシアネート化合物とチオール化合物とを組み合せたチオウレタン系重合組成物、その他を挙げることができる。
【0033】
注型重合用型としては、通常の眼鏡用レンズを製作するための一般に使用されているガ
ラス製のものをそのまま用いることができる。注型重合を実施するための具体的操作においては、例えば、型の一方に重合性組成物を充填しておいてその上にシート状光制御体を浮かべておき、ガスケットを介して型の他方を液密にセットした後、型内に重合性組成物を更に注入して重合する方法、適当な手段によりシート状光制御体を型内において支持させておいて重合性組成物を型内に注入して重合する方法、その他型の一方にシート状光制御体を密着させておき、型内に重合性組成物を注入して重合する方法を利用することができる。
【0034】
用いるシート状光制御体の大きさ及び形状は自由に選定することができる。即ち、最終的に得られるレンズの全体に亘る形状のものであってもよいし、或いはレンズの一部を覆うようなものであってもよい。そして、シート状光制御体を一旦用いるモノマーで濡らした後に型内にセットするのが好ましく、これにより、気泡の混入を防止すると共にシート状光制御体と重合性組成物を重合させて得られる該熱硬化性樹脂との密着性を確保することができる。重合性組成物中には、場合によって、重合開始剤が含有され、適当な温度に加熱されることによって重合が行われる。
【0035】
本発明のプラスチックレンズ表面上には、その用途に応じてハードコート処理、防曇処理、着色処理、赤外線反射処理、赤外線吸収処理、紫外線反射処理あるいは紫外線吸収処理等が施される。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
1)ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw):GPCを用い、クロロホルムを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。この検量線に基づいて、GPCのリテンションタイムから算出した。
2)ガラス転移温度(Tg):示差走査熱量分析計(DSC)により測定した。
【0037】
〈実施例1〉
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン1011kg(2305モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール452.4kg(2305モル)、ジフェニルカーボネート1022kg(4771モル)、および炭酸水素ナトリウム1.321g(1.572×10−2モル)を攪拌機および留出装置付きの5000リットル反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrの下1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。
その後、15分かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、150Torrで10分間保持した。その後、10分かけて120Torrに調整し、240℃、120Torrで70分間保持した。その後、10分かけて100Torrに調整し、240℃、100Torrで10分間保持した。更に40分かけて1Torr以下とし、240℃、1Torr以下の条件下で25分間撹拌下重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。得られたポリカーボネート樹脂のMw=87,000、Tg=130℃であった。このポリカーボネート樹脂1000kgを100℃で24時間真空乾燥し、亜リン酸ジエチルを樹脂中の炭酸水素ナトリウムの10倍モル、グリセリンモノステアレートを樹脂に対して300ppmを添加して押し出し機により240℃で混練してペレタイズしペレットを得た。このペレットのMw=85,800であった。
該樹脂組成物ペレットを、押し出し温度260℃でTダイより押し出し、それぞれ120℃、110℃の第一冷却ロールおよび第二冷却ロールで冷却し0.3mmの透明シートを得た。
特許第2663440号公報に記載の方法に基づき作成した偏光膜の両面にウレタン系接着剤を塗布して該透明シートを貼り付け、
厚さ0.65mmの偏光板を得た。この偏光板から直径80mmの円盤を切り出した。該円盤を曲率半径80mmの球面状のジグを用いて、Tgより6℃低い設定温度の下に500Paで5分間真空成形し、円形状の曲面偏光板を得た。
この曲げ加工品を直径60mmに裁断し、直径60mmのガラスモールド中にいれ、この曲げ加工品の上下にペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)39.55重量部、m−キシレリンジイソシアネート30.45重量部及びジブチルチンジラウレート0.035重量部からなるチオウレタン系重合性組成物を注入して、30℃から100℃迄を3.5℃/時間で昇温し、さらに100℃から120℃迄を20℃/時間の速度で昇温させた後、120℃を3時間保持する条件で重合させた。
偏光シートとレンズ基材であるチオウレタン系樹脂が強固に一体化した、透明性の良好なプラスチック偏光レンズが得られた。
この偏光レンズを通して反射光等の偏光を見ても虹色や、光の透過が不均一となる、いわゆる色むらは観察されなかった。更に、互いの偏光軸が直交位となる2枚の偏光板の間に入れて観察しても光は殆ど透過せず、光学歪みに基づく色抜けは全く観察されなかった。これより該プラスチックレンズは均一に低複屈折であることが確認された。
【0038】
〈実施例2〉
実施例1のポリカーボネート樹脂ペレットに替えて、該ポリカーボネート樹脂70重量部とビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂ユーピロンE−2000(商品名:三菱エンジニアプラスチックス社製)30重量部とをよく振り混ぜ、押し出し機により260℃で混練してペレタイズしたペレットを用いた以外、実施例1と同様の操作をした。
偏光シートとレンズ基材であるチオウレタン系樹脂が強固に一体化した、透明性の良好なプラスチック偏光レンズが得られた。
この偏光レンズを通して反射光等の偏光を見ても虹色や、光の透過が不均一となる、いわゆる色むらは観察されなかった。更に、互いの偏光軸が直交位となる2枚の偏光板の間に入れて観察しても光は殆ど透過せず、光学歪みに基づく色抜けは全く観察されなかった。これより該プラスチックレンズは均一に低複屈折であることが確認された。
【0039】
〈実施例3〉
実施例2のポリカーボネート樹脂ペレットに替えて、該ポリカーボネート樹脂とビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂ユーピロンE−2000(商品名:三菱エンジニアプラスチックス社製)をそれぞれ50重量部用いた以外、実施例2と同様の操作をした。
偏光シートとレンズ基材であるチオウレタン系樹脂が強固に一体化した、透明性の良好なプラスチック偏光レンズが得られた。
この偏光レンズを通して反射光等の偏光を見ても虹色や、光の透過が不均一となる、いわゆる色むらは観察されなかった。更に、互いの偏光軸が直交位となる2枚の偏光板の間に入れて観察しても光は殆ど透過せず、光学歪みに基づく色抜けは全く観察されなかった。これより該プラスチックレンズは均一に低複屈折であることが確認された。
【0040】
〈比較例1〉
実施例1において、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂ユーピロンE−2000(商品名:三菱エンジニアプラスチックス社製)からなる厚さ0.3mmの透明シートを用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。得られた偏光レンズを通して反射光等の偏光を見ると光の透過が不均一となる、いわゆる色むらが観察された。更に、互いの偏光軸が直交位となる2枚の偏光板の間に入れて観察したところ光が透過する、いわゆる色抜けが観察された。これより該曲面偏光板は均一に低複屈折ではなく光学的に劣るものであることが確認された。
【0041】
〈実施例4〉
実施例1のチオウレタン系重合性組成物に替えて、硫黄22重量部、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド69重量部、ジフェニルジスルフィド4重量部を65℃でよく混合し均一とした。次いで、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール0.45重量部を加え、60℃で約1時間、反応させた。その後、得られた反応物を30℃に冷却した。そこへ、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.03重量部、ジn−ブチルスズジクロライド0.2重量部、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド5重量部を加えよく混合し均一とした溶液を加えて均一な樹脂用組成物とした。ついでこれを脱泡、ろ過後、ガラスモールドに注入し、30℃で10時間加熱し、その後30℃から100℃まで10時間かけて100℃まで一定速度昇温させ、最後に100℃で1時間加熱し、重合硬化させた。偏光シートとレンズ基材であるチオウレタン系樹脂が強固に一体化した、透明性の良好なプラスチック偏光レンズが得られた。
この偏光レンズを通して反射光等の偏光を見ても虹色や、光の透過が不均一となる、いわゆる色むらは観察されなかった。更に、互いの偏光軸が直交位となる2枚の偏光板の間に入れて観察しても光は殆ど透過せず、光学歪みに基づく色抜けは全く観察されなかった。
【0042】
〈比較例2〉
実施例4において、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂ユーピロンE−2000(商品名:三菱エンジニアプラスチックス社製)からなる厚さ0.3mmの透明シートを用いた以外は、実施例4と同様な操作を行った。得られた偏光レンズはヘイズ55%と透明性に劣り、透明シートがレンズ基材であるCR−39に対する耐性に著しく劣ることが確認された。
【0043】
〈実施例5〉
実施例1において、チオウレタン系重合性組成物に代えてジエチレングリコールビスアリルカーボネート150重量部、ジイソプロピルパーオキシカーボネート5重量部を混合しCR−39を調整し、ガラスモールドに注入した。重合条件として、30℃を10時間保持した後、30℃から100℃迄を7℃/時間の速度で昇温し、さらに100℃で1時間保持する条件を採用する以外、同様の操作をした。
偏光シートをレンズ基材であるチオウレタン系樹脂が強固に一体化した、透明性の良好なプラスチック偏光レンズが得られた。
この偏光レンズを通して反射光等の偏光を見ても虹色や、光の透過が不均一となる、いわゆる色むらは観察されなかった。更に、互いの偏光軸が直交位となる2枚の偏光板の間に入れて観察しても光は殆ど透過せず、光学歪みに基づく色抜けは全く観察されなかった。これより該プラスチックレンズは均一に低複屈折であることが確認された。
【0044】
〈実施例6〉
実施例5のポリカーボネート樹脂に替えて、該ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂ユーピロンE−2000(商品名:三菱エンジニアプラスチックス社製)を重量で50/50に混合し押し出し混練したペレットを用いた以外、実施例5と同様の操作をした。
偏光シートをレンズ基材であるチオウレタン系樹脂が強固に一体化した、透明性の良好なプラスチック偏光レンズが得られた。
この偏光レンズを通して反射光等の偏光を見ても虹色や、光の透過が不均一となる、いわゆる色むらは観察されなかった。更に、互いの偏光軸が直交位となる2枚の偏光板の間に入れて観察しても光は殆ど透過せず、光学歪みに基づく色抜けは全く観察されなかった。これより該プラスチックレンズは均一に低複屈折であることが確認された。
【0045】
〈比較例3〉
実施例5において、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂ユーピロンE−2000(商品名:三菱エンジニアプラスチックス社製)からなる厚さ0.3mmの透明シートを用いた以外は、実施例5と同様な操作を行った。
得られた偏光レンズはヘイズ55%と透明性に劣り、透明シートがレンズ基材であるCR−39に対する耐性に著しく劣ることが確認された。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物95〜5モル%と、一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物5〜95モル%とを炭酸ジエステルによりカーボネート結合してなるポリカーボネート樹脂(A)からなる透明シートと、偏光及び/又は調光機能を有する光制御体とを貼り合わせてなるシート状光制御層と、(II)レンズ用重合性樹脂層とからなることを特徴とするプラスチックレンズ。
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数6〜20のアリールオキシ基である。また、式中、Xは炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数5〜12のシクロアルキレン基または炭素数6〜20のアリーレン基である。)
【化2】

(式中、Yは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜20シクロアルキレン基である)
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A)に、ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネート樹脂(B)を、(100×(A))/((A)+(B))=1〜99重量%となる比率でブレンドしたことを特徴とする請求項1記載のプラスチックレンズ。
【請求項3】
一般式(2)で表される化合物がトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、又はペンタシクロペンタデカンジメタノールである請求項1記載のプラスチックレンズ。
【請求項4】
一般式(1)で表される化合物において、RおよびRが水素原子、Xがエチレン基である請求項1記載のプラスチックレンズ。
【請求項5】
レンズ用重合性樹脂層が、チオウレタン系重合組成物からなることを特徴とする請求項1記載のプラスチックレンズ。
【請求項6】
チオウレタン系重合組成物が、イソシアネート化合物とチオール化合物とからなることを特徴とする請求項5記載のプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2009−271094(P2009−271094A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226917(P2006−226917)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(597003516)MGCフィルシート株式会社 (33)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)