説明

プラスチック光ファイバ用カッタ

【課題】 作業者によらずに簡単かつ安定した切断が可能であり、しかも、切断面の荒れを抑えることで伝送損失の低減を可能としたプラスチック光ファイバ用カッタを提供する。
【解決手段】 刃4に電流を流すための電圧印加手段7と、刃24の温度を制御する温度制御用IC8とを備えている。刃4に直接電流を流して刃4を加熱することにより、加熱手段を簡素化でき、しかも、効率的な加熱が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラスチック光ファイバ(POF)を切断するためのプラスチック光ファイバ用カッタに関し、特に、プラスチック光ファイバの配線を行う作業現場において、追加の設備を使用せずに、簡単にプラスチック光ファイバを切断することができるプラスチック光ファイバ用カッタに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の光ファイバ挿通孔が設けられたケース部と、ケース部に対して移動可能な刃保持部と、刃保持部に取り付けられた刃とを備えており、光ファイバ挿通孔から突出させたプラスチック光ファイバ端部を切断するプラスチック光ファイバ用カッタとして、種々のものが知られているが、大別すると、ケース部に設けられた軸部に刃保持部が回転可能に取り付けられた回転タイプ(例えば特許文献1)と、ケース部に対して刃保持部がスライド可能に取り付けられたスライドタイプ(例えば特許文献2)とに分けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−307213号公報
【特許文献2】特開2002−71967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック光ファイバについては、種々のものが実用化されているが、その切断面がきれいな面となることが伝送損失を損なわないために重要である。SI−POFと称されているプラスチック光ファイバでは、コア径が1.0mm程度であり、切断面が荒れていても、伝送損失への影響が小さいが、GI−POFと称されているプラスチック光ファイバでは、コア径が50〜300μm程度であり、伝送損失への影響を受けやすい。切断面の荒れは、コア、クラッド、被覆の材質によっても、大きなバラツキがあり、また、作業者によってもバラツキが出る。例えばコアが硬くて径が小さいプラスチック光ファイバは、切断面の荒れが生じやすいが、このような不利な形状のプラスチック光ファイバに対し、上記従来のものでは、回転タイプまたはスライドタイプいずれのものであっても、切断面の荒れを抑えることが難しかった。
【0005】
この発明の目的は、作業者によらずに簡単かつ安定した切断が可能であり、しかも、切断面の荒れを抑えることで伝送損失の低減を可能としたプラスチック光ファイバ用カッタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるプラスチック光ファイバ用カッタは、光ファイバ受け部が設けられたケース部と、ケース部に対して移動可能な刃保持部と、刃保持部に取り付けられた金属製刃とを備えており、光ファイバ受け部から突出させたプラスチック光ファイバ部分を切断するプラスチック光ファイバ用カッタにおいて、刃に電流を流すための電圧印加手段と、刃の温度を制御する温度制御用ICとをさらに備えていることを特徴とするものである。
【0007】
カッタの切断方式は、ケース部に設けられた軸部に刃保持部が回転可能に取り付けられた回転タイプであってもよく、ケース部に対して刃保持部がスライド可能に取り付けられたスライドタイプであってもよい。プラスチック光ファイバの端面には、切断による荒れが生じやすいが、刃を加熱することにより、切断面の荒れが少ない切断が可能となり、これにより、カッタの構成やプラスチック光ファイバの材質によることなく、安定したプラスチック光ファイバ端面が得られる。
【0008】
刃に直接電流を流して加熱することにより、加熱手段を簡素化でき、しかも、効率的な加熱が可能となる。刃の厚みは、切断面をきれいにするためおよび加熱効率を上げるために薄くすることが好ましく、刃の厚みを0.20mm以下(下限は、耐久性の点で0.07mm以上)とすることにより、電池を使用しても十分な加熱が可能であり、しかも、特に切断面が荒れやすい材質のプラスチック光ファイバであっても、切断面の荒れが少ない切断が可能となる。
【0009】
加熱のための電源としては、電池としてもよく、交流100Vを利用するようにしてもよい。
【0010】
例えば、電圧印加手段は、ケース部に設けられて温度制御用ICに接続されたAC電源用コネクタと、これに接続されるAC電源アダプタとを有しているものとされる。
【0011】
この発明によるプラスチック光ファイバ用カッタは、電気信号ケーブルと光ファイバケーブルとの接続を行うメディアコンバータ1対とこれの設置に必要なAC電源アダプタとを含むキットに含まれる形態として使用に供することが好ましく、この場合には、このキットに付属するAC電源アダプタを電圧印加手段の電源に流用することで、電池などの別途の電源を用意することなく、刃を加熱した状態での切断を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明のプラスチック光ファイバ用カッタによると、刃に電流を流すための電圧印加手段と、刃の温度を制御する温度制御用ICとを備えているので、刃を加熱することにより、切断面の荒れが少ない切断が可能となり、これにより、カッタの構成やプラスチック光ファイバの材質によることなく、また、作業者によることなく、プラスチック光ファイバの切断面の荒れを抑えることができ、伝送損失の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明によるプラスチック光ファイバ用カッタの1実施形態を模式的に示す図である。
【図2】図2は、刃の断熱構造を模式的に示す図である。
【図3】図3は、この発明によるプラスチック光ファイバ用カッタを使用して得られるプラスチック光ファイバの切断面を模式的に示す図である。
【図4】図4は、従来のプラスチック光ファイバ用カッタを使用して得られるプラスチック光ファイバの切断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。以下の説明において、上下および左右は、図1の上下および左右をいうものとし、また、図1の紙面表側を前、裏側を後というものとする。
【0015】
この発明によるプラスチック光ファイバ用カッタ(1)の第1実施形態は、図1に示すように、上方に開口する凹所(2a)を有する直方体状の合成樹脂製ケース部(2)と、下部が凹所(2a)内に嵌め入れられてケース部(2)に対して上下移動可能な刃保持部(3)と、刃保持部(3)と一体で凹所(2a)内を上下移動するように刃保持部(3)に取り付けられており下面が刃先(4a)とされている金属製刃(4)と、刃(4)を加熱する加熱手段(5)とを備えている。
【0016】
ケース部(2)の下端部には、前後壁の下端部を前後に貫通する複数の光ファイバ挿通孔(6)が設けられている。同図に二点鎖線で示すように、刃保持部(3)が上方位置にあるときには、刃先(4a)は、光ファイバ挿通孔(6)よりも上方にあり、刃保持部(3)が下方位置(同図に実線示す位置)に移動させられると、刃先(4a)は、光ファイバ挿通孔(6)よりも下方に移動し、これにより、光ファイバ挿通孔(6)内に挿通されたプラスチック光ファイバ(図示略)が切断される。
【0017】
加熱手段(5)は、刃(4)に電流を流すための電圧印加手段(7)と、刃(4)の温度を制御する温度制御用IC(8)とを備えている。
【0018】
加熱手段(5)は、刃(4)に電流を流すことで刃(4)を加熱するものであり、これにより、ヒータのような別途の装置を使用する必要がなく、加熱手段(5)を簡素化でき、しかも、効率的な加熱が可能となる。
【0019】
電圧印加手段(7)は、AC電源用コネクタ(9)と、温度制御用IC(8)を介してAC電源用コネクタ(9)に接続された1対の加熱用電極(10)と、AC電源アダプタ(11)とを有しており、交流電源に接続されたAC電源アダプタ(11)がAC電源用コネクタ(9)に接続されることによって、刃(4)に電流が流され、刃(4)が加熱される。刃(4)の加熱温度は、温度制御用IC(8)により、70℃〜150℃に制御される。
【0020】
図示省略するが、刃(4)の温度が所要の温度になったときに、点灯するLEDがケース部(2)に設けられている。
【0021】
刃(4)は、図2に示すように、断熱材(21)(22)で挟まれた状態でケース部(2)の凹所(2a)内に収納されている。刃(4)の厚みは、従来、一般的に使用されている0.24mm〜0.30mmに対して、これより薄いもの(例えば0.1mm)が使用されている。これにより、加熱効率を上げることができ、素早く70℃〜150℃に加熱することができる。刃(4)の厚みは、切断面をきれいにする上でも薄い方が好ましく、0.07mm〜0.20mmとすることが好ましい。
【0022】
上記の加熱手段(5)により、従来のプラスチック光ファイバ用カッタでは、切断面を顕微鏡で観察すると、図4(a)(b)に示すように、コア(F1)に内部方向への亀裂(C)が生じたり、表面に雲母状の割れ(D)が生じたりするという問題があったのに対し、この発明のプラスチック光ファイバ用カッタ(1)による切断では、切断面を顕微鏡で観察すると、図3(a)(b)に示すように、亀裂や割れがないきれいな切断面となる。なお、図3(a)(b)および図4(a)(b)において、(F1)はコアを、(F2)はクラッドを、(F3)は1次被覆を、(F4)は2次被覆をそれぞれ示している。
【0023】
なお、上記において、電源としてAC電源アダプタ(11)が使用されているが、これに代えて、電池(充電池、蓄電池を含む)を使用することもできる。このプラスチック光ファイバ用カッタ(1)は、電気信号ケーブルと光ファイバケーブルとの接続を行うメディアコンバータ1対とこれの設置に必要なAC電源アダプタ(11)とを含むキットに含まれる形態として使用に供することが好ましく、この場合には、このキットに付属するAC電源アダプタ(11)を流用することで、別途の電源を用意することなく、刃(4)を加熱することができる。
【0024】
また、プラスチック光ファイバ用カッタ(1)は、ケース部(2)に対して刃保持部(3)がスライド可能に取り付けられたスライドタイプのものを示しているが、プラスチック光ファイバ用カッタは、図示省略するが、ケース部に設けられた軸部に刃保持部が回転可能に取り付けられた回転タイプであってもよい。
【符号の説明】
【0025】
(1) プラスチック光ファイバ用カッタ
(2) ケース部
(3) 刃保持部
(4) 刃
(5) 光ファイバ挿通孔
(7) 電圧印加手段
(8) 温度制御用IC
(9) AC電源用コネクタ
(11) AC電源アダプタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ受け部が設けられたケース部と、ケース部に対して移動可能な刃保持部と、刃保持部に取り付けられた金属製刃とを備えており、光ファイバ受け部から突出させたプラスチック光ファイバ部分を切断するプラスチック光ファイバ用カッタにおいて、
刃に電流を流すための電圧印加手段と、刃の温度を制御する温度制御用ICとをさらに備えていることを特徴とするプラスチック光ファイバ用カッタ。
【請求項2】
刃の厚みは、0.07mm〜0.20mmとされていることを特徴とする請求項1のプラスチック光ファイバ用カッタ。
【請求項3】
電圧印加手段は、ケース部に設けられて温度制御用ICに接続されたAC電源用コネクタと、これに接続されるAC電源アダプタとを有していることを特徴とする請求項1または2のプラスチック光ファイバ用カッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83877(P2013−83877A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224975(P2011−224975)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】